※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

182 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:45:49 ID:XXR4FJlE 「ここが居間。飯は朝昼晩三回出すから、その時間にはここに居てくれ。廊下の奥がトイレと風呂。そっちが君の部屋で、こっちは私の部屋だ。君の部屋には、ベッドと箪笥と机しか置いていない。必要な物があれば言ってくれ。出来る限り用意する。それと、服とか、その他生活に必要な物は一通り用意してある。こっちも足りない物があったら言ってくれ」
「はい」
「それと……夜、私に手を出そうとしても無駄だぞ?私は召還者の世話を何度か行なって来ているが、男は殆ど全員襲ってきたからな。先刻も言ったが、私は『騎士』の能力者で……」
「襲いませんよ!」
思わず声を荒げると、咲はクスクスと笑った。
「すまない、冗談だ」
そういって尚笑い続ける咲。こちらとしては、結構心外だった。
確かに、俺は現在青春真っ盛りだが、見境無く女性を襲う様な男では無い。と思う。
……正直、少し自信が無い。今まで一緒に寝た事がある女性と言えば、妹(俺が小学校高学年で妹が小学校低学年の時)くらいのものである。
そんな女性経験皆無の俺が、突然こんな美人と半ば同棲紛いの事をするなんて……未知の領域なので、自分でも保障が出来ない。
……あぁ、クソっ、無駄に意識したせいで余計に気になってきちまった……。
見れば、咲は結構良いスタイルをしている。出る所は出て、締まる所は締まっているというか……。
「……おっと、急にニヤニヤし始めたな。これはやはり私の実力を見せ付けて置くべきか……」
「すいません冗談ですごめんなさい許してください申し訳御座いませんでしたッ!!」
「ふむ、分かれば宜しい」
そういってニッコリ微笑む咲。
うおッ、なんて破壊力(物理的)だッ!!
そんなこんなで、これから暮らしていく仮住まいの説明を聞き終わった。


「今日は疲れただろう。陽も暮れてきたし、風呂に入って来い。飯は用意しておくから」
「お願いします」
「ああ。服は君の部屋の箪笥に入れてある。洗い物は風呂場の前にでも出しておいてくれ。後で洗濯しておく」
「……あの、何か手伝う事ありませんか?」
流石に何から何までやって貰って申し訳なくなってきた。
「いや、いいよ。どうせ料理も出来ないだろうし、洗濯だって、碌にした事無いだろう?」
「……返す言葉もありません。でも、何で分かったんですか?」
「何、現代日本に住んでいる学生は、皆そんなものだよ」
そういって、優しく微笑む咲。
この世界に来た時、何とか生きていけそうとかほざいてたのが悔やまれる。
「ただ、いずれは出来る様にならないと駄目だからな。今だけだぞ?」
いつか恩返ししようと心に決め、俺は咲に向き直った。
「……お世話になります、姉さん」
「……その呼び方は遠慮して貰いたい」

183 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:46:41 ID:XXR4FJlE 風呂に浸かりながら、考え事をする。
地球に居た頃、風呂に入っている時間は専ら空想の世界に旅立っていた。
この世界に召還されてしまった以上、必然的に風呂に入っている時間が空く。
だから、この世界に召還されてからの事を整理しようと思い立ったのだ。
まず始めに思い浮かぶのは、人間と魔族の二項対立について。
人間と魔族の戦争については分かった。しかし、その戦争が起こった理由は何なんだろうか。
そもそも、魔族とはどういう物なのだろうか。
やはり魔族は悪なのだろうか。
もし今、人間と魔族のどちらの味方に付くかと問われれば、どちらとも言えない。
ただ単に、人間側に召還されたから、人間の側に居るとしか言えないのだ。
まぁ、善悪のみで付く方を決めるとは限らないが。
極端な話、俺にゾッコンな超絶美少女がいれば、例え悪であろうと魔族に付く可能性もある。
流石に言い過ぎだが、それぐらい適当な男なんだ、俺は。
とにかくその辺については、もっと詳しく調べ、考えるべきだと思う。

もう一つ疑問がある。魔法についてだ。
地球では――あくまで作り話の中の設定だが――魔法にも色々なタイプがあった。
例えば炎、例えば水。
それに、攻撃に特化した魔法だけでは無く、回復やその他の魔法等等。
この世界での魔法とは、一体どの様なものなんだろうか。
俺を召還した召還師、エヴァンは炎を自在に操っていた。
と、言う事は、地球(の作り話)にもあった様な属性魔法の類なんだろうか。
「……謎は深まるばかりである」
「おーい、飯の用意が出来たぞー」
扉の向こうから咲が声を掛けて来る。
「お、じゃあそろそろ上がるかな」


用意されていた服に着替え、食卓へと向かう。
ちなみに服は麻布の様なもので出来た簡素なものだった。
今の所、気候は暑くも無く寒くも無くといった感じなので、これで十分だ。
そういえば、この世界にも四季はあるのだろうか。
時間があったら、今度咲にでも聞いてみよう。

食卓には、ご飯(の様なもの)と焼き魚、味噌汁(の様なもの)が並んでいた。
様なもの、がついているのは本当にそのものなのか分からないからである。
「さ、座って。食べようか」
俺が椅子に座ってご飯もどき(仮)をじっと見つめていると、咲は一瞬不思議そうな顔をして噴き出した。
「心配しなくても、そのご飯はご飯だし、味噌汁は味噌汁だよ。地球にあった物と味は殆ど同じだ」
「あ、そうですか。じゃ、いただきまーす」
ご飯を口に含み、味噌汁を啜る。
咲は俺の反応を心配そうに見つめている。
……これは。
「どう……だろうか」
「凄く美味しいです!」
「ふふっ。それは良かった」
少し笑ってから、咲も焼き魚に箸を付ける。
「私も、地球の料理が恋しくなる事があってな。何度も試行錯誤して最近、やっと出来たんだ」
咲は嬉しそうに話を続ける。
「しかし、折角作っても食べさせる相手が居ないというのはやはり寂しいものでな。今まで世話してきた召還者達は味噌汁なんて見たことも無いから、反応は芳しくなかった。もちろん、美味しいとは言ってくれたがな」
そして味噌汁を一口啜り、途端に真面目な表情になると、

「……突然だが、私の友人になってくれないか」


本当に突然だった。


「私は、こちらの世界へ来てから一人も友人と呼べるような人間を持っていない。知り合いこそいるがな。」
咲は寂しそうな笑顔で続ける。
「世界の違いは考え方の違い。話をしていても、思いが伝わっていないと感じることが度々ある」
見知らぬ土地で2年間、心から話せるような人間を持たず暮らすというのは、どんなにか辛い事だろう。
「君とは同郷な分、話も通じる。良い友になれるかもしれん。だから、頼む」

正直に言うと、少々面食らった。だが、それは嫌だからではない。
「俺なんかで良かったら、喜んで。でも……」
一呼吸置いてから、続ける。
「そんな事言われなくたって、勝手に友達になりますよ。付き合うんじゃないんですから、友達になるのにわざわざ告白なんて要りません!」
俺が元気よくそう言うと、彼女はまたやわらかく微笑んだのだった。


後になって思い返し、よくよく考えたらデリカシーの無い一言だったなと悔やんだが、その時の彼女の表情は、とても嬉しそうな笑顔だった為、そんな考えはすぐに消えた。
ただ、その笑顔があまりに輝いていたため、少し責任を感じていた。
本当に、俺なんかが唯一の友達でいいんだろうか。
咲は性格が良い。出合って数時間の俺でもそう思うのだ。例え考え方が違っても、友達の1人や2人できそうな気がするが。
そこまで考えて、考えること自体が無意味だと気付いた。様は咲と仲良くすれば良いのだ。何も悩む事はない。
その時はそう思っていた。

184 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:48:38 ID:XXR4FJlE ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





朝日が差し込んできて、目を覚ます。
時計が無いので時間は分からないが、いつも通りに起きたのだとしたら、今は七時くらいだろう。
昨日はベッドに入ると、何かを考える間もなく寝てしまった。自分では気付いていなかったが、慣れない環境に疲れていた様だ。


居間へ向かうと、食卓には既に炊き立ての白飯と、玉子焼き、サラダ、そしてコーンスープの様なものが並んでいた。
起きた時、空腹はあまり感じていなかったが、いざ食事を目の前にすると腹が鳴ってしまった。
ぎゅるるるるる~。
思わず腹を押さえる。
台所で盛り付けをしていた咲は、俺の腹の音で初めて振り向いた。
「あぁ、起きたのか。座って待っててくれ。私の分の盛り付けが終わったら食べよう」


他愛の無い話をしながら食事を終える。あ、飯は相変わらずうまかったです。
食後のティータイムとばかりに出された紅茶を啜りながら、自分の特殊能力について思いを馳せる。
咲と同じ『騎士』の能力なのだろうか。はたまた、何か別の能力なのだろうか。
「さ、腹の虫も落ち着いた事だろうし、今日の本題、特殊能力についてだ」
彼女は居間の隅に置かれていた本棚から、三冊の本を取り出してきた。
「では、早速説明を始めさせて貰うよ。まず、能力の種類についてだが、大きく分けて二種類ある」
こほん、と小さく咳をしながら話し始める。
「戦闘に長けた能力と、その他の補助的な能力だ」
持ってきた本の内の一冊を開き俺の方に向け、指で指し示す。
「戦闘に長けた能力には、私が授かった能力『騎士』、弓等の投擲武器を扱えるようになる『弓手』、特定の攻撃魔法が得意になる『属性魔術』などがある」
そのページには大きく剣の絵が描かれている。
「対して補助的な能力には、傷の治癒や体力の回復等の補助魔法を扱う『ヒーラー』、後は……村長の能力『召還師』もこの部類に入るな」
そして一息つき、紅茶を一口飲む。目で促されたので、俺も飲む。
「ここまで分かると思うが、大体、戦闘で攻撃を担当する能力と、補助を担当する能力に分かれているんだ」
「はい」
「本当はもっと細かく区分けされているんだが……今はこれだけ知っていれば十分だろう」
あまり一気に教えると混乱するしな、と彼女は付け加えた。
「さて、これから君の能力について調べるわけだが……」
彼女はそういって席を立つと、台所から何やら液体の入ったコップを持ってきた。
無色透明……一見すると水の様だが、何か特別なものに違いない。
「ちょっとこの本を見てくれ。それぞれの能力について解説が載っている図鑑の様な物なんだが、能力の横に色の付いた四角があるだろう?」
咲が差し出した本を見ると、確かに能力名の横に色の付いた四角があった。
例えば、『騎士』の能力には赤、『弓手』の能力には黄、といった具合に。
「それが能力を調べる鍵なんだ。能力は、使ってみるまで分からない。しかし、自分の能力を知りもしないのに使える訳がないだろう?」
そこでこの液体の出番さ、と彼女は言う。
「この液体は、能力を持つ者がこの液体に魔力を込めると、その能力に応じて色が変わる特殊な物なんだ」
「あ、って言う事は、その色とこの図鑑の色を比べれば、能力が分かる、って言う事ですか?」
「そういう事さ」
何か理科の実験みたいだな、とぼんやり思った。
「さ、早速やってみなよ」
と、コップを手渡される。
「…………」
「…………」
沈黙。
「……どうした?」
「……あの、魔力ってどうやって込めれば……」
「あぁ、そういえば説明してなかったな。じゃあ、私の言う通りにやってみてくれ」
そう言うと、咲はまた一つ咳をする。
「まず、自分の中にエネルギー――魔力がある事を想像するんだ」
エネルギーを想像。
すると、体の中に何かがぼんやりと渦巻くのを感じた気がした。
「心配しなくても大丈夫。さっき飲んだ紅茶には、魔力を安定させる薬を入れておいたから、幾分か魔力を扱いやすくなっている筈だよ」
何と、知らず知らずの内に一服盛られていたとは……。
そんな事を思いつつも、自分の中の魔力がよりはっきりと感じられるようになってきた。
「そうしたら次は、その魔力を手の方へと移動させる」
意識を体の中央から腕、そして手へと移動させる。
すると咲は俺の手に自分の手を添え、コップと一緒に包み込んだ。
「そして、魔力を掌からコップの中の液体へ」
すると、コップの中の液体に変化が現れ始めた。

185 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:49:57 ID:XXR4FJlE 机の上に置かれたコップをまじまじと覗き込む。
「凄ぇ綺麗だ……」
あの後、俺の魔力を込められた液体は、一瞬淡く輝いたかと思うと、渦巻くようにしながら色を変えていった。
変化が落ち着いた後、咲は先ほど見た本とは違う3冊目の本と睨み合っていた。
「こんな色は見たことが無い……」
等と、ずっとブツブツ呟いている。
一見何の変哲も無い水の様に見えた液体は、今やその姿を個性的な物へと大きく変化させていた。
上辺は鈍い銀色に輝いており、下辺へ行くに従って眩しい金色へと、グラデーションをかけながら変わっている。
「咲さん、これは何の能力なんですか?凄い綺麗に見えるんですけど」
「うーん、ちょっと待ってくれ。こんな色は見た事も聞いた事も無い……」
咲はペラペラとページを捲りながら、あーでもないこーでもないと呟いている。
何分そうしていただろうか、彼女はようやく「これだ」と一声上げた。
「これは凄い能力だ……どうやら君は、『鍛冶師』という能力を授かった様だ」
「『鍛冶師』?……それって、あの武器とかを作る……?」
正確には武器に限定されたものではないのだろうが、俺が誇るファンタジー脳みそは勝手にそういう解釈を下した。
「そうだ。これは非常に珍しく、しかも強力な能力で、もしこの能力を持つ者が現れた場合、王宮に報告しなければならないと言うほどだ」
「お、王宮?また大層な能力を貰ってしまったんですね、俺。で、それはどんな能力なんですか?」
「あぁ、ちょっとこのページを見てくれ」
そこには、こう書かれていた。



・この能力は戦闘能力の上位及び、戦闘補助能力の上位に位置する。
以下、能力の概要
・この能力を授かった者は、剣、槍、弓といった戦闘に於いて戦士が手にする物(原則として武器)を、己の魔力を基に生産する事ができる。
・この能力を授かった者は、個人に見合った最適の武器を見抜き、個人専用の武器を生産する事ができる。(個人の潜在的な武器を振るう素質を見抜く)但し、この能力の行使には莫大な魔力を必要とする。
・この能力を授かった者は、各専門戦闘能力には及ばないが、自分で産み出した武器を振るう素質を持つ。
この能力を持つ者が召還された場合、以下の原則に従う事
・この能力を持つ者が召還された場合、2週間以内に、誰にも知らせる事無く王宮へ申し出る事。
                ・
                ・
                ・



長々と書かれていたが、能力に関する記述はこの辺だろうか。
「……要するに、想像した武器を作れて、且つそれをある程度使えるって事ですか?」
「そして、個人が得意とする武器を見抜き、個人に合った特別な武器を作れる、といった所だろう」
「へぇ……俺、こういう能力に憧れたんですよ。何か主人公って感じじゃないけど、主人公を助ける脇役、みたいな……」
「う、うむ。わ、脇役か……こんなに強力な能力だったら、十分主人公でイケると思うぞ?」
「いや、主人公といったら剣士ですよ!」
「そ、そうか……」
力強く持論を展開する俺に、若干飽きれ気味な視線をぶつける咲。
……自分で言っておきながら、古い考えだな、と思ったのは内緒だ。
「まぁ、何はともあれ、これが君の能力だ。王宮に報告しなければならない程だからな。戦の要となる能力だという事だろう」
少し残念そうな顔をしていたのは、自分より強力な能力を持つ者が現れてしまったからだろうか。
「私はこれから王宮へと出向いてくる。君はどうする?」
「俺、付いていかなくていいんですか?」
「多分要らないだろう。召還者は召還されてから1ヶ月過ぎるまで、村から出てはいけない事になっているしな」
「そうなんですか。初めて知りました」
「そりゃあ、言ってないからな。当たり前だ」
咲は一拍間をおいてから、
「では、私が帰ってくるまでの間、村長の所に行ってみてはどうだ?魔法の事について聞きたいんだろう?」
「あ、そうですね。じゃあそうします」
「ああ。私は明日の夕暮れまで帰れないと思う。飯はそこら辺にあるパンを……いや、近所の人に頼んでおこう」
「そんな、悪いですよ。大丈夫です、適当に食っておきますから」
「いや、これを機にこの村の住人と顔見知りになっておくといい。皆優しいから、喜んで引き受けてくれると思う」
「でも……」
「仮にも、この村で1ヶ月過ごすんだ。仲良くなっておいて損はないと思うぞ?」
「……分かりました、仲良くなっておきます」
彼女は子供に言い聞かせるように優しく微笑み、
「良し。それじゃ、その人に挨拶しに行こうか」
立ち上がって、そう言ったのだった。

186 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:51:33 ID:XXR4FJlE 家の外に出てから1分も掛からずに、その家についた。
咲の家よりも少し大きいそこは、築10年といった所だろうか。古くもなく新しくもなくといった感じである。
扉を2度ノックする。
すると、「はいーただいまー」と、応答が返ってくる。
少し間をおいて妙齢の女性が出てきた。
「まぁ、サキではないですか。どうしたんです?」
「突然申し訳ありません、アルフォンシーナさん。お願いがあるのですが」
「まぁまぁ、お願いだなんて。何でも気楽に相談してと言ったではないですか。あなたの頼みなら何でも聞きますよ」
女性は優しげに微笑み、華奢な体をこちらに向けると「あら、見ない顔ですね。どちら様?」と話しかけてきた。
「あ、日鏃 龍って言います」
「彼は今回の召還者です。これから1ヶ月この村で暮らす事になります」
「あらあら、宜しくね、リュウさん。私はアルフォンシーナ・オルテンシア・ヴァンニという者ですわ。これから、宜しくお願いしますね」
「はい。宜しくお願いします」
「それで、お願いというのはなんですか?」
「はい。実は……」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「まぁ。そういう事でしたら私にお任せ下さい。私、料理大好きなんです」
口元に手をあて、上品に微笑むアルフォンシーナは、快く了承してくれた。
「すみません。俺の為に食事を用意してもらうなんて……」
「いえ、いいんですよ。毎日、旦那と息子を食べさせているんですから。一人分増えるくらい大した事ではないですわ」
アルフォンシーナは結婚しており、5歳になる息子が居るらしい。
何だか一家団欒を邪魔してしまうようで、尚更申し訳ない。
そう思いつつ、やはりパンだけではひもじいので、甘んじさせて貰う。
俺とて、まったく料理が出来ない訳ではない。
やろうと思えば、目玉焼き等の簡単な料理は出来る。
しかし、この世界にはガスコンロ等という便利な道具はない。
もし料理をするとなれば火を起こすところから始めなければならないのだ。
無論、俺にはサバイバル経験などないので、そんな事できない。
だから、結局誰かに食事を用意して貰わなければならないのだ。
「食事は朝昼晩と用意しておきますから。適当な時間に来てください。私の家族と一緒に食べましょう」
「いえ、流石にそれは悪いので、用意しておいて下されば、取りに来ます」
「いーえ、皆で食べれば食事は一層美味しくなります。是非一緒に食べましょう」
「でも……」
咲は長くなりそうな気配を悟ったのだろうか。「あー」と俺達の会話を遮ると、
「彼はこれから出かける所もあるので、決まった時間に来るというのは難しいでしょう。やはり、食事は彼に持たせてやるのがいいのではないでしょうか」
アルフォンシーナは残念そうな顔をしたが、やがて頷くと、
「分かりました。美味しいものを用意しておきますから、帰ってきたら取りに来てくださいね」
と言った。
俺はもう一度「有難う御座います」と頭を下げる。
「では、彼の事を宜しくお願いします」
「ええ、任せておいて下さい」
咲は軽く頭を下げ、俺もそれに続く。
「では、一度家に帰ろうか」

187 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:52:55 ID:XXR4FJlE 「……じゃあ、行って来るからな。食器洗いくらいはしておけよ」
「はい」
「それじゃ」
家の前で咲を見送る。
「俺もぼちぼち出発するかな」
家の中に戻り、森の奥の祠へ向かう準備をする。
特に持っていく物もなかったので、テーブルの上に出しっぱなしだった本を片付けておいた。
その際、本棚にあった他の本の題名を何気なく見る。
〈基本剣術〉〈実録!戦場での動き方〉〈初心者にも出来る、簡単料理レシピ百選〉等等……
何となくツッコミたい気もするが、一人では空しいだけなので、スルーした。


祠へ向かう道すがら、自分が授かったという能力、『鍛冶師』について考える。
強力な能力らしいが、実際の所どうなんだろう。
「やっぱり、使ってみないと分かんないよな……」
足を止め、一度試しに能力を使ってみる事にした。
まずは……。
「えと、確かその人にあった武器が見抜けるんだっけ……」
もし本当なら、俺に合った武器も分かるんじゃないのか?
でも、どうやって調べるんだろう。
目を閉じて考える。その者に合った武器とはどういう事か。
やっぱり、その人にとって扱い易いって事なんだろうか。
じゃあ、扱い易いっていうのはどういう事だ。
…………。
頭に思い浮かべる。自分の姿を。
例えば、自分の得意なものっていうのは、それについて自然に動作が出来るってことじゃないだろうか。
運動が得意な者とそうでない者の最大の違い……それは、どれだけ動きに無駄が無いか、という事だ。
もしこの法則が当てはまるとしたら、その人物が武器を振っている所を想像して、一番自然な動きを想像できるものが得意な武器、って事になるのではないだろうか。
この方法が正解かどうかは分からない。分からないが、多分正解だろうという、自信を伴った確信を持つことが出来た。
まぁ、ものは試しだ。早速、思い浮かべる。先ずは剣を振るう自分の姿。
……駄目だ。動きがガッチガチに堅い。
では、ナイフはどうだろう。
……これも駄目。振り回そうとして自分を傷つけてしまう。
次に槍を持つ。
……これだ。
自分は槍術など欠片も知らないが、何故かこの動作を想像した時、自由自在に振舞わす事が出来た。
剣やナイフにあった違和感が槍にはなかったのだ。
と、いう事は、俺の得意な武器は槍だろう。
そうと決まれば、早速簡単な槍を作ってみよう。


ええっと、確か説明には、自身の魔力で武器を作り出す……って書いてあったな。
先程、咲に教えてもらった事を思い返す。
イメージ。
自分の魔力を凝縮させ、体外へ、槍という形で押し出す。
イメージ。
体内の魔力を指先へ。そして、指先から空間へ。
実体化させるイメージを伴わせて。目の前に槍を形作る。
すると、突然、目前の空中に棒状の光が輝き始めた。
除々にはっきりとした形になっていくそれは、突然輝くのを止めて、重力に従い地面に突き刺さる。
俺はそれを手に取り、両手で振り回す。
やはり体は、勝手に隙の無い動きで動いてくれる。
俺の得意な武器は、自らの間合いに敵を寄せ付けずに戦う、槍だったんだ。

188 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:53:57 ID:XXR4FJlE ◇◆◇◆◇◆◇◆




俺は少なからず感動していた。
なにせ、今まで夢見てきた魔法(に近しき物)に初めて触れたのだから。
確かに、魔法は一度見ていた。
しかし、見るのと実際に使うのでは、その意味合いは大きく違う。
ここでやっと、俺は異世界に来たのだという実感を持った。


能力を使ってみて、新しく分かった事がある。
それは、自身の魔力の容量だ。
今手に持っている槍は、俺の魔力を使って作った物だが、この槍を作った時、体に疲労を感じた。
体が重くなる、と言えば伝わるだろうか。
能力を発揮する度に同程度の疲労が溜まるのなら、これと同じものを後3本作れば体を動かせなくなるだろう。
と、言う事は、俺の魔力はこの槍4本分だという事である。
それともう一つ、魔力の残量は体に影響する、という事だ。
先程の考えから行くと、槍を4本作ったら体を動かせなくなる。早い話が気絶するだろう。
槍を4本作ると言う事は、魔力を全て使い切る、と言う事なので、結果的に、魔力が無くなる=気絶という等式が出来る。
体力を使えば魔力が減る、のかどうかは分からないが、魔力を使えば体力が減る、というのは確実だろう。





祠までの道のりも中腹か、という辺りで、道を遮る人影を見た。
ちなみにこの森の中の小道は、地球の自家用車が一台、ギリギリ通れるかという具合なので、人が2人もいれば簡単に道は塞がれてしまう。
このままでは通れないので、声を掛けようと近寄ると、明らかに穏やかではない雰囲気だった。
……これは明らかに、アレだ。
「よう、お嬢ちゃん、可愛いじゃん。俺らと一緒に楽しい事しない?」
男が3人――その内真ん中の1人は剣を持っている――1人の少女を囲んで何やら妖しい言葉を投げかけている。
異世界にもチンピラっているんだなぁ、と感心(?)していると、囲まれていた少女が声を発した。
「や、やめて下さい!私のお父様は偉大なる魔お――」
少女の言葉は途中から聞いていなかった。
その少女の容姿に驚いたからだ。
方の辺りで切り揃えられた髪は、一点の曇りも無い、落ち着いた白銀に染まっており、瞳は大きく、眩いばかりの金色に輝いている。
身長は160cmに届くか届かないか。そして、白い肌。全体的に幼い印象を受けるが、それがむしろ、人形のような愛らしさを助長させている。
真っ黒いワンピースに身を包んだ彼女は、輝く髪と瞳も相まって、夜空に浮かぶ恒星を思い浮かべさせた。
と、そこで先程の少女の言葉を受けてか、チンピラ三人衆(仮)の笑い声が上がる。
「だはははは!冗談も大概にしろよ!?そんな事言って俺らから逃げようだなんて無駄――」
「ちょっと、やめなよ」
俺は元より非情な性格ではない。
もし街で今のようにチンピラに絡まれている人が居れば、止めに入るだろうし、敵わないと分かっていればせめて警察を呼ぶくらいの事はする。
「あぁん!?何だテメェは!!やんのかコラ!!」
剣を持ったチンピラリーダー(仮)が俺に詰め寄る。怖い。
こんなにガタイの良い男、地球じゃそうそう見かけない。
俺は額がくっ付く程に接近して眼つけてくるそいつに見えないように、槍を持ってない方の手にも、同じ槍を創造する。
「オイオイ!セイムさんに戦いを挑むなんて無謀だぜ!!」
取り巻きその1(仮)がそれに合わせて合いの手を入れる。
どうやらこの男はセイムと呼ばれているらしい。
「そうだぜそうだぜ!セイムさんは『騎士』の能力者で、お前みたいなヒョロイ奴には勝ち目は無いんだぜ!!」
取り巻きその2(仮)もやたら説明くさい合いの手を入れてくる。
「そういう事だ。分かったら有り金全部置いて――」
「断る」
……ああ、こんな感じの、正義の味方を夢見た事もあったなぁ……
あの頃は確か、戦隊モノヒーロー特撮にはまってて……
「ああん!?」
あ、いかんいかん。夢想している場合じゃなかった。
「おいおい兄ちゃん。この剣が見えねぇのかい?俺は本気だぜぇ?」
男はニヤリと、下品に笑う。
…………。
……勝算は、ある。
但しこの策は、相手が『騎士』の能力に感けた、碌に訓練もしていない人間だった場合に限る。
確かに、能力の説明にあった通りだったら、『鍛冶師』の能力では『騎士』の能力に勝てない。
しかし、相手は俺の能力を知らない。
これを活かさない手は無い。
「……気に入らねぇな。テメェみてぇな、ヒーロー気取りの奴はよぉぉぉぉ!!」
セイムは剣を振り上げ、真っ直ぐに剣を振り下ろす。
バキィィィン!
右手に持った槍で辛うじて剣筋を逸らすが、その槍は手から弾き出されてしまった。
物凄い力だ。
即座に左手の槍を持ち直し、首筋を狙う。
セイムは俺の槍を弾いた予備動作から立ち直れず、この一撃は決まった。
――筈だった。

189 :星屑ディペンデンス 第2話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/01(日) 21:55:43 ID:XXR4FJlE 結果、セイムの首筋を狙った一撃は、ありえない速度で振り上げられた彼の剣によって弾かれた。
もう、俺の手元には武器が残っていない。
「残念だったなぁ。俺が『騎士』の能力者じゃなかったら、勝ってたのになぁ」
セイムはそう皮肉る。
取り巻き達は大笑いしている。
しかし、関係ない。
次の一手を冷静に、冷静に吟味する。
セイムの一撃は力強いが、俺でも辛うじてその剣裁を逸らす事ができた。
ならば、次の彼と、そして俺の動き次第では、勝てる。
「だが、情けはかけねぇぜ。お前はここで死ぬんだ」
剣を頭上に掲げる。
その剣を見つめながら、イメージを研ぎ澄ませる。
体内で練った魔力を、両の掌へ。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!」
そして……解放するッ!





◇◆◇◆◇◆◇◆





「油断したな」
セイムの首筋にぴたりと槍を当てる。
「な、何で……どっから出したんだよ!その武器は!」
彼は、怯えきった表情で、言葉を搾り出した。
簡単な事だ。
セイムが剣を振り下ろす瞬間、俺は残りの魔力を全て使い、2本の槍を創造した。
今セイムの首筋に当てられている1本は、先程までのものと同じ形状だが、彼の剣を地面に縛り付けているもう1本の槍は、矛の様な、刃が2本に分かれている物だった。
この特殊な形状をした槍で彼の剣を地面に押さえつけ、その隙にもう一方の槍を彼の首筋に当てた。
全ては、彼が油断したから成功した事だ。
「あんたがべらべら喋ってないで、一思いに殺っとけばこんな事にはならなかったのにな」
取り巻きは、とっくの昔に逃げ出していた。
ある意味、懸命な判断だろう。
俺は大きく息を吸うと、腹の底から声を出した。
「失せろッ!!!」
「ヒ、ヒィィィ!!」
セイムは転びそうになりながらも、脱兎の如く逃げ出した。
「……つくづく、小物臭のする奴だったな」
と呟きながらも、俺は地面に崩れ落ちる様に座り込んだ。
「……怖かった」
そりゃそうだ。こんな事初めてだったから。
本当は、失せろって言う時も声が震えていないか心配だった。

今回の作戦は、止めに入る時から考えていた事だった。
もし何も考えずに止めに入っていたら死んでいただろうし、この作戦自体、アイツが余裕をかまさなかったら成功しなかった。
だから正直、いつどこで失敗するか気が気でなかったのだが、何とか成功してよかった。
これで少女の貞操も守られ……あれ、そういえばあの子は?
そう思って振り向くと、心配そうな表情をした少女が立っていた。
良かった良かった、と溜息を付くと、少女の方から声をかけて来た。
「……何で、助けたんですか……?」
正直、訳が分からない。
お礼くらいは甘んじて受けようと思っていたのだが。
「……さっきも言いましたが、私、魔王の娘なんですよ……?人間の、敵ですよ?」

……へ?
魔王の、娘?

「魔王って、あの、魔族の頂点の……?」
「そうです。さっきも言いました」
確かにそんな事を言っていた様な気もするが、如何せん、彼女の衝撃的なまでに美しい容姿を、画面の前の皆(?)に説明する為に時間を割いていたし……。
そんな意味不明な事を考えつつ、まぁいいか、と思ってしまう自分が居た。
何せ、魔力が空っぽになった所為で、今にも倒れそうなのだ。
考える事に集中できない。
「私……私、あなた達の敵、なんですよ……?今こうしている間にも、あなたに危害を加えるかも……」
「君は……そんな事……しないと思うよ?」
散り散りになりそうな思考で言葉を発する。
「な……何故ですか?私が魔王の娘だって事、信じて無いんですか!?」
「ち……がう」
気絶する前に、言っておきたい。
「だって……君は……見るから……に……優し……そ……う……」
駄目だ……意識が……。
遂に自分の重さに耐え切れず、その場にどさりと倒れこむ。
「!!!」
少し距離を置いて話していた彼女が、驚いて駆け寄ってくるのを最後に見て、俺の意識は途絶えた。
意識が無くなる寸前、何か声が聞こえた様な気がした。


おお ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない。


…………。

……俺は勇者でも無いし、死んでもいない……多分。