13 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:36:42 ID:wwXkGvCg
「ごめんね、渚。その、私はもうご主人様がいないとダメなの・・・・・・本当に、ごめんなさい」
その一言でどれほど私は傷つき、悲しんだだろう。生まれてから十五年間、ずっと一緒だった幼馴染は、所詮強い雄を求める雌にしか過ぎなかった。
中学二年辺りの時、付き合っているのが周囲にばれて囃し立てられた。見た目が女性にしか見えず、声も体躯も顔も女性のようである為、周囲の学生達からは話のネタに度々されていたのをよく知っている。幼馴染であり、彼女でもある少女はよく分かれた方がいい、もっといい男がいる、だのと友達に言われているのも知っていた。
それでもずっと一緒だった。私も彼女も両親が遠いところで働いているからずっと二人で住んでいた。
朝も、昼も、夜も。
ずっとずっと幼馴染と一緒だった。互いに依存し合っていると思っていた。
それ故にこんなにもあっさり、他の男の元へ行ってしまった事が、とても悲しくて、ショックだった。でも、幼馴染が幸せそうだったから、取り戻そうとは思わなかった。どんな理由であれ、幼馴染を傷つけたり、悲しませたくなかったから――
それでもやりようのない、やり場のない、この悲しい気持ちは心を深く傷つけ、思わず自分が世界で一番不幸ではないのだろうかと思ってしまいそうなほど、悲しみ、嘆き、泣いた。
14 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:37:30 ID:wwXkGvCg
公園のジャングルジム。その一番上で背骨が痛いのにも関わらず寝転がっていた。
降り積もる雪、このジャングルジムに来るときについていた雪は既に新たな雪で塗りつぶされていた。
「そういえば、今日はヴァレンタインだったか」
綺麗なよく通る声。誰がどう聞いても女性の声だった。コンプレックスの一つであり、幼馴染から好きだといわれたものでもある。
流れた涙が氷つき、頬が少しぱりぱりしている。最近は学校から帰った後、毎日の様にこの公園へ来ていた。特に意味はないが、全くといっていいほど人が来ないというのが唯一の理由かもしれない。
そんな人気のない小さな公園に、今日は来客があった。
流れるような黒髪、雪と同じぐらいに白い不健康で病的な肌、よく造り込まれた冷たい印象を与える端整な美しい顔立ち。好みのタイプだろうが何だろうが、十人通り過ぎれば十人が振り返ってしまいそうな、神がかった美しさだった。自分に表現力があれば彼女の魅力を原稿用紙一枚は書けてしまいそうな、それくらい凄い。
彼女は無表情だったか、少しだけ喜びが滲み出ているのを感じられた。今日はヴァレンタインだから、告白して成功した帰りなのかもしれない。
もっとも、彼女はいつ誰に告白しようとほぼ確実に成功しそうではあるが。
美しさに気を取られてよく見ていなかったが、どうやら彼女は私と同じ学校で同じ学年らしい。ネクタイの色と制服で判断できた。
そして、何故だか、真っ直ぐ私の方へ歩いて来ているというのも分かった。私の後ろに公園の出口はないから近道という訳ではなさそうだった。というより自ら足を運ばないと来れないという位置にある公園だから、目的を持って来ていると思ったほうが正しい気がする。
15 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:38:32 ID:wwXkGvCg
そんなことを考えている内に彼女はとうとう私の前まで来ていた。ばっちりと、目が合う。近くで見れば見るほど恐怖を抱く美しさだった。街を歩けば何回もスカウトされそうな、ナンパされそうな。多くの男性はその美しさの前に告白を躊躇い、それでも告白してしまうほど手に入れたいような。そんな感じの女性だった。今まで幼馴染しか見てなかった私は、同じ学年にこんなに綺麗な人がいるとは思わなかった。
「降りてきてくれないかしら?」
綺麗な、聞き惚れてしまいそうな音色の声が彼女から発せられる。本気で芸能人になれそうだ。とりあえず、降りろとの事なので降りる。
何故、話しかけられた、とか浮かび上がる疑問は全て無視した。私は細かいことに拘らない主義なのだ。
「何か、用?」
私も制服だから同学年だと気づく筈だ。彼女は何も言わず、じりっ、と無表情で一歩近づいてきた。何かぞっとするものを感じ、私は半歩下がろうとする。
だが、突然彼女が私に勢いよく抱きついてきた為、半歩どころか数歩下がることとなった。
16 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:39:50 ID:wwXkGvCg
「な、何を・・・・・・ッ?!」
私の右耳に異物が入り込む。いや、気が動転しただけで数秒間は気づけなかったが、よくよく考えなくてもこれは耳掻きだと分かる。
何故私は美少女に突然抱きつかれ、耳に耳掻きを差し込まれているのだろう。
少しの間、お互いに身動きをとらず、何も喋らず、静寂が公園を満たした。しんしんと雪が二人に積もっていく。
「ん、んっ・・・・・・」
いきなりかりっ、かりっと耳掻きを動かされ、変な声が出そうになってしまう。ただでさえコンプレックスの女声で喘ぎ声を発してしまったら色々終わりそう。耳掻きを抜こうにも、首には少女の腕が回されている為、叶わない。
「いきなり、なに?」
「あんまり動かないで・・・・・・鼓膜破れちゃうわよ?」
これは、動くなって言う脅しなのだろうか。どちらにせよ耳掻きが入っている状態であまり動きたくない。彼女は小さく笑みを浮かべた。
「今日が何の日かご存知?」
かりっ、かりっと絶妙なポイントを掻かれる。正直喘ぎ声を押し殺すので精一杯だった。というか何で私はこんなに感じやすい・・・・・・二次元じゃあるまいし。
「ヴァレンタインデーよ。私のチョコ受け取ってくれるわよね?」
かりっ、かりっと相変わらず私の耳の中の性感帯を刺激しているが、更に奥深くへ差し込んできた。別に痛くはないが、怖い。
17 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:41:10 ID:wwXkGvCg
私は彼女が耳掻きを動かすせいで何も返事できないので、仕方なく小さく頷く。よく分からない、何故こうなって、何故彼女がわざわざ私にチョコを上げようとするのかが。自慢じゃないが、私が学校で深く関わっているのは幼馴染だけだ。本当に自慢じゃないな。
彼女は私に回していた腕を外すと、ポケットに指を忍ばせた。今のうちになら抜け出せるが、万が一耳が傷ついたら嫌なので素直に待つ。
じっとしている内に、また首に腕が回される。あれ、じゃぁチョコは?
――チョコは、彼女のその綺麗な赤い唇に挟まっていた。
ゆっくりと彼女の顔が近づいてくる。頬を真っ赤に染め、目尻には涙が浮かんでいた。
「その小さな可愛らしいお口で受け取らないと、鼓膜が破れちゃうわよ?」
チョコを唇で挟みながら、少し震えた声でそんなことを彼女は言った。どうしよう、彼女――精神的に病んでる気がする。
それでも傷心効果だろうか、私の傷ついた心はぽっかり空いた部分を埋めようとしているのだろうか。私は彼女の括れた細い腰に手を回し、脇の下から背中に手を回し、彼女を抱き寄せた。
ようやく、初めて彼女は驚いたような表情をした。それでも、そのまま瞳を閉じずに私へと顔を近づけてくる。
「ぁむっ・・・・・・」
彼女のどんな想いが篭ってるんだかよく分からないチョコレートを唇で受け取る。傍から見たら恐らく女二人のヴァレンタインレズハッピーにしか見えないだろう。
18 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:43:03 ID:wwXkGvCg
彼女から貰ったチョコは少し変な味がしたが、市販されてもおかしくないレベルの味だった。恐らく五百円以上千円以下ぐらいの値段で売っていそうなレベルである。
「ぁんっ、んんんっ ちゅ」
彼女からチョコを受け取ったのはいいが、そのまま舌を差し込まれた。幼馴染に上げるはずだった初めてのキスが彼女の舌で蹂躙されていく。その幼馴染も今頃他の男に蹂躙されているのかと思うと、涙が零れた。
「ちゅっ、ちゅ、ん、んく」
口の中にあったチョコは当に蕩け、私の食堂を伝って奥へと流れ込んでいく。更に彼女の唾液までもがお口の中一杯に広がって、チョコを追って流れ込んでいった。
ひゅっ、と彼女が私の耳に差し込んでいた耳掻きを横に投げ捨てたかと思うと、私を深く抱きしめてきた。より奥まで舌が入り込み、絡みあう。
もはや彼女は、蕩けた表情で私とのキスに夢中になっていた。
「ちゅぅ、んっ、ぁ、んん! きもひぃ、ぃぃょぉ、ちゅっ」
頭の中がぼうっとして、思考がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
19 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:46:24 ID:wwXkGvCg
もうこれ以上くっつかないのに、ぐいぐいと私を引き寄せて奥深くまで舌を差し込む彼女。
私を抱いているその手がこぎざみに震えているのが伝わってくる。寒いのだろうか、私はこんなに熱いのに。あぁ、彼女も熱くすればいいのか。
「んぅ?! ちゅ、はぁ、んん! ちゅぅ」
激しく舌を出し入れし、先端を絡ませたり、唇と舌で挟んだりする。彼女の震えがより一層大きくなり、慌てて深く抱き込み、より熱く激しく舌を絡ませる。
体はとても熱いのに、脳は逆に冷えてくる。なぜか意識が薄れてきた。目の前で溶けたような笑みを浮かべて喘ぐ彼女がぼやけて見える。
「やっ、もぉだめっ、ちゅっちゅ、ぁぁ、くぅんっ」
彼女はもはや震えているというより痙攣していた。そのことに気づくのが遅れ、焦って唇を離す。二人を繋ぐ銀色の糸がぷつりと切れ、ついでに私の意識が切れたのも、同時だった。
こうして二人の美少女(片方男)の絡み合いは終わりを迎えた。
20 :雌豚のにおい@774人目:2012/02/19(日) 20:48:55 ID:wwXkGvCg
「はぁ、はぁ――運んでちょうだい」
地面にへたり込んでいる私は、近くの男に命令する。ぐったりとしている一見美少女に見えるこの少女は実は男である。男性ホルモンはちゃんと仕事をしているの? と言いたくなってしまいそうな長くて綺麗な黒髪に、女性にしか見えない上、女性が羨む様な可愛らしい綺麗に整った顔立ち、そして少女のような華奢な体躯。身長は百七十センチ以上あるが、男らしいというよりは長身のかっこいい女性という風にしか見えない。
その彼は大きなボディガードに連れ去られていく。私の屋敷に運ぶのだ。
それよりもまさかキスだけで、こんなになっちゃうなんて・・・・・・。
下を見ると、今もぽたぽたと愛液が零れ落ちている。
未茶 渚。彼とのこれからを考えるだけで背筋がゾクゾクする。あの女をどう始末しようか考えていたけれど、まさか自分からフってくれるとは思わなかった。
一応情報が正しければ、童貞の筈、流石にキスはあの女が持って行っただろうケド。
でも、許してあげる。私に彼を譲ってくれたから。本当だったら殺してるけれど、特別に許してあげる。
――私に彼を譲ってくれたから!
「渚、これからよろしくね・・・・・・ふふっ」
最終更新:2012年04月14日 01:56