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210 :変歴伝 第五話『悪土の酸橘、良土にて甘橘となる』 ◆AW8HpW0FVA:2012/04/06(金) 00:32:04 ID:tHOCcq1Q 正連が言うには、水城も昔は温厚だったらしいのだが、
ある時を境に武術に傾倒し、今のようなどぎつい性格になってしまった、らしい。
なぜそうなったのかは、正連にも両親にも分からないというのだ。
「姉さん、美人なのにもったいないよなぁ……。
来年で二十になるから、早く婿を貰わないと、行き遅れてしまいます」
正連が婿のあたりを強調し、業盛を見つめた。
「どうでしょうか。刑兄が姉さんと……」
「俺、あいつに二回も殺されかけているんだが」
「……まぁ、姉さんはいつも、私より弱い奴の嫁になんてならない、と言ってましたしね。
刑兄の強さを知れば、きっと姉さんも……」
「勝った上で命を狙われてるんだが」
「…………………………」
「…………………………」
水城の好みに合う男は、永遠に現れない。それを感じさせる沈黙だった。
「それじゃあ、俺はそろそろ。弥太はしばらくここにいるのか?」
「……うん、暇だからもう少しここにいようと思うんだけど」
「そうか、まぁ、ゆっくり……」
突如、業盛は振り向きざまに手刀を振り下ろした。なにかが音を立てて床に落ちた。
落ちていたのは箆の折れた矢だった。
なんと、矢は戸の僅かな隙間を通して的確に業盛に飛んできたのである。
神業以外のなにものでもない。
「弥太、お前の姉、弓は得意か?」
「えっ……えぇ、前に空を飛ぶ雁の目を射抜いたのを見た事があります」
「……面倒臭いわぁ……」
そう言って、業盛は退室した。途中、水城と会った。
先ほど攻撃を躱された事もあってか、仇を見るような目で睨み付けている。
会話などしても無駄であると分かっているので、
さっさと離れようとしたが、水城に左腕を掴まれ、足を止められた。
間髪入れず、水城の口から破裂音と共に、針が飛んできた。
業盛は左腕を塞がれながらも、右手で飛んできた針を目に中る直前で掴み取ってみせた。
水城は苛立ちに顔を歪めながらも、左手に短刀を持ち、業盛の腹を抉ろうとしてきた。
業盛は慌てる事なく、水城の左肩関節に右掌を打ち込んで、可動域を制限した。
悉く攻撃を封じられ、次の手がなくなったらしく、
水城は舌打ちをすると、その場から走り去ってしまった。
「……あぁ~、面倒臭せぇ……」
これで何回目になるか分からない台詞を吐きだした。
なにせ自室には鈴鹿がいる。
無理に離れようとすると、発狂してしまうので仕方ないとはいえ、気が休まらない。
「……あぁ~、面倒臭せぇ……」
再び業盛は呟いた。

211 :変歴伝 第五話『悪土の酸橘、良土にて甘橘となる』 ◆AW8HpW0FVA:2012/04/06(金) 00:32:35 ID:tHOCcq1Q 就寝前に、髪を梳く事を業盛は日課としている。
子供の頃に、乳母に髪が綺麗だと褒められて以来、欠かさずやってきた事だ。
髪は伸びに伸び、まるで女のようになってしまったが、
これだけは止めたくない、誰にも任せたくない事だった。だというのに、
「兄様の髪、柔らかいし、光沢もあって、本当に綺麗ですね」
その大切な髪を、鈴鹿が勝手に梳いている。
「鈴鹿、これは俺の日課だから、自分でやりたいのだが」
「大丈夫ですよ。やり慣れていますから、髪の毛を抜いたりするような失敗はしません」
梳いた後で、時折鈴鹿は髪の臭いを嗅ぐ。それが業盛には、気色悪くてならない。
「そういう問題じゃないんだ。これはあまり他人に任せる事じゃないし……、
それと鈴鹿、臭いを嗅ぐのは止めろ」
「他人なんかじゃないですよ。私たち、義兄妹じゃないですか。
それに、兄様の髪、とってもいい匂いですよ」
どこかで見た光景。業盛には思い当たるものがあった。
それは以前に、景正にじゃれついていた因幡の事である。
あの時は白い目で見るだけだったが、それに近い事を今、業盛は被っている。
なんという因果であろうか。あの時、平蔵を助けていればよかったというのか。
業盛の頭の中で、これまで見た景正と因幡のいちゃつきの場面が浮かんでは消えていく。
「もっ……もしかして、余計なお世話でしたか。
私なんかが、兄様の髪に触ったのを怒っているのですか?」
想起に夢中になっている業盛の耳に、不穏な声が入ってきた。
振り返ってみると、鈴鹿の目が死んでいた。
「すっ……鈴鹿……、また……」
「あっ……あぁ……、ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「鈴鹿!」
慌てて業盛は前の時のように鈴鹿を抱き締めた。
しばらくすると、鈴鹿はそのまま眠ってしまった。
やっと静かになった鈴鹿を寝かせると、業盛も急激に眠くなった。
鈴鹿が起きた時に騒がれると面倒なので、業盛は隣に布団を敷き、目を閉じた。
それからしばらくして、部屋の戸が開いた。
また水城である。水城は音を立てずに業盛に近付き、
手に持っている刀を振り下ろしたが、直撃寸前に業盛の手によって止められた。
「寝込みを襲うとか、それでも武士の娘か?」
隣で鈴鹿が寝ているため、業盛は声を荒げる事は出来ない。
「あんたが死ねば、全て解決するのよ」
水城はそう言って立ち去った。再び部屋は静寂に包まれた。

212 :変歴伝 第五話『悪土の酸橘、良土にて甘橘となる』 ◆AW8HpW0FVA:2012/04/06(金) 00:33:04 ID:tHOCcq1Q 雨が多く、涼しさを感じられる季節にはなった。
相変わらず水城は屋敷に居着き、業盛の命を狙い続け、
鈴鹿も政務の時以外は殆ど業盛のそばを離れようとしなかった。
水城のやり口は非道なものばかりで、まったくもって武士の娘とは思えないが、
家中から歓迎されたのだから、こんな人でなしと付き合おうと思う者の価値観は理解出来ない。
鈴鹿も鈴鹿で、なにが面白くてそばから離れないのか、業盛にはまったく分からない。
分からない事だらけながら、業盛は向かってくる凶刃と、纏わり付く狂人を捌き続けた。
正景のそれとは違う、非常に充実した日々を過ごしながら、
少しくらいはまともな日が欲しい、そんなささやかな事を業盛は願っていた。
だが、平穏は訪れる事なく、さらに事態は悪化した。
発端は、水城が鈴鹿の作った料理の中に毒を混入した事だった。
それに気付いた業盛は、迷う事なく料理を庭に捨てた。これが騒動の原因となった。
捨てられる、もしくはそれに近い言葉を嫌う鈴鹿の前では、
自分の作った料理を捨てられるというのもそれに該当したらしく、
雨降る地面にぶちまけられた料理を見て、これまでにないほど発狂した。
理由を説明しても、抱き締めても一向に効果がなく、鈴鹿はひたすら謝り、泣き叫び続けた。
仕方なく、業盛は手刀を打ち込み、鈴鹿を気絶させた。
そんな業盛のもとに、嫌味な笑みを浮かべた水城がやってきた。
「そいつ、あんたの愛人なの?」
「違う」
業盛は即答した。
「そうなの。じゃあ、なんでそいつはいつもあんたにべったりなの?
愛人でもなんでもないのに世話をするなんて、私には理解出来ないわ」
「お前に理解されなくたっていい。それよりも、二度と鈴鹿を巻き込むような事はするな。
お前のせいで、俺は鈴鹿を傷付ける事になってしまったんだ」
「はぁ、なんで私のせいになる訳?あんたが料理を食べてれば、
こんな事にはならなかったのよ。人のせいにするのは止めてほしいわね」
「……目障りだ、さっさと消えろ……」
「その内、私があんたを消してあげるわよ」
嘲笑を残して、水城は立ち去った。程なくして、鈴鹿は目を覚ました。
元に戻ったか、狂ったままか、業盛は息を呑んで見守った。
「兄様、どうかしましたか?」
その声は、至って平穏なものだった。業盛は小さくため息を吐き、
「なんでもない」
と、言って、鈴鹿の頭を撫でてやった。
愛らしい声を上げる様を見て、とにかくこれで一安心と、業盛が思ったのもつかの間、
「兄様、お願いしたい事があるのですが」
「なんだ、言ってみろ」
「胸を揉んでほしいのです」
鈴鹿はとんでもない事を言い出した。

213 :変歴伝 第五話『悪土の酸橘、良土にて甘橘となる』 ◆AW8HpW0FVA:2012/04/06(金) 00:33:36 ID:tHOCcq1Q ついに実力行使に来たらしい。
業盛は鈴鹿がまた発狂してしまわないように、なんと言って断ろうか考えようとしたが、
鈴鹿は真剣そのものであり、事実、話の内容は真面目だった。
「実は私、胸に水が溜まりやすい体質らしくて、たまに締め付けるように痛むのです。
これまでは一人で対処してきたのですが、自分だと手加減して揉んでしまって……。
こんな事を頼めるのは、兄様しかいないのです!お願いします、胸を揉んでください!」
出産すると胸に母乳が胸に溜まり、痛みを発する事がある、と聞いた事はあるが、
胸に水が溜まるなどというものがあるのだろうか。
ないとは言い切れない病状のため、業盛は少し迷ってしまった。
「しかし、俺のような素人がそんな事をして大丈夫なのか。
下手にやって悪化したら元も子もないぞ。ここは医者に頼んだ方が……」
「嫌です!」
「えっ……」
「他の人に、身体を見られるのも触られるのは嫌なのです。
あのような汚い目で、手で触られたら、身体が腐ってしまいます。
それだけは嫌、絶対……絶対絶対絶対絶対絶対絶対ッ!
……でも、兄様はもう私の裸を見て、触っていますから大丈夫だと……」
「……………………」
やっぱり嘘かよ、と業盛は心中断定した。
そこまでして一緒になりたい理由が、業盛には分からない。
ただ分かるのは、ここで断ったら、鈴鹿が狂ってしまうという事である。
気絶させるという手段もあるが、正直使いたくない。業盛は覚悟を決めた。
「……分かった。揉んでやるから、帯を緩めて前を肌蹴てくれ」
「うん!」
嬉しそうに答えるなよ。業盛はそう思いながら、露出した鈴鹿の大きな胸に手をやった。
相変わらず柔らかく、大きな胸ではあるが、
一度見ている事もあってか、業盛の理性は軋まない。
「痛いか?」
「へっ……平気です。続けてください……」
言われるまでもなく、業盛は手の力を強めた。指が胸にめり込んでいく。
胸の根元を掴んで揺らしてみたり、寄せて谷間を作ったりした。
鈴鹿の切ない吐息が漏れ始め、乳首は硬く、胸は紅潮していった。
すると、とろんとした表情の鈴鹿が、業盛の股間に手を伸ばしてきた。
この時を待っていたとばかりに、業盛は胸から手を離し、
髪を結っている布を解くと、それで鈴鹿の両腕を縛り上げてしまった。
「えっ……、あっ……兄様、なにを……」
「勝手に動かれて手元が狂うと大変だからな。縛らせてもらった」
「でも兄様、私だけ……、ひゃあ!」
有無を言わさず、業盛の指が鈴鹿の膣内に挿入された。どろりとした液が、業盛の指を伝う。
「さぁ、体内の悪い水、全て吐き出させてやろう」
言うなり、業盛は乳首に吸い付き、膣内の指も忙しなく蠢いた。

214 :変歴伝 第五話『悪土の酸橘、良土にて甘橘となる』 ◆AW8HpW0FVA:2012/04/06(金) 00:34:04 ID:tHOCcq1Q 指が膣内で蠢き、乳首を強く吸い、甘噛むだけで、
鈴鹿の身体は激しく痙攣し、膣口からは液が泉のように湧いて出た。
乳首を吸いながら、業盛は鈴鹿の顔を覗いた。
鈴鹿は上気した顔で、こちらを見つめていた。
欲望で異様にきらきら光っている目は、まだ足りないと言っている。
「あっ……あにしゃまぁ~、みぎのぉ……みぎのおっぱいもぉ~」
放っていた乳首は、ガチガチに勃起している。乳首を抓り上げると、艶やかな声を上げた
「しゅ……しゅごいよぉ、これぇ~。こんらの……わらひぃ……ばかになっちゃうよぉ~」
だらしない表情で、陶酔の言葉を漏らす鈴鹿であるが、構わず業盛は愛撫を続けた。
膣内を抉る指は、乳首同様に充血し、勃起している肉芽も、焦らすように擦り続け、
「ひゃっ……ひゃだよ、あにしゃまぁ~。
わらひぃ……、あにしゃまのま……ひぐっ!」
不意を突くように、爪で肉芽を押し潰した。膣内が収縮し小水が迸った。
それでも、業盛の指は止まらない。
「あっ……あにしゃ……だめ……はげ……あひゃう!」
もうなにを言っているのか分からないほど、鈴鹿は乱れに乱れていた。
その乱れ声が聞こえなくなる頃に再び顔を覗いてみると、
見開かれた目は、瞳が在らぬ方向を向き、口からは舌がだらしなく飛び出す、
という人間がしてはいけないような表情をしていた。
ようやく業盛は指を止め、色々な体液で汚れた鈴鹿の身体を清め始めた。
「よく耐えられたな、俺」
気絶するまで鈴鹿を攻める。それしか鈴鹿を狂わせずに黙らせる方法がなかった。
これのおかげで、業盛は大切なものを失ってしまった。また同じような事態になった時、
なんの恥じらいもなくこの行為を行う事が出来るだろう。
正直なところ、まぐわいよりもこちらの方が恥ずかしいのではないか。
それを考えると、業盛は泣きたくなった。
鈴鹿の清めが終わった。業盛は鈴鹿の腕の布を解いて、髪を結うと、
自分の身体に付いた体液を拭い始めた。自分の身体を拭くのに夢中になったのか、
この時、後ろの戸がほんの少し空いているのに、業盛は気付く事が出来なかった。
「ふ~ん……、やっぱりあの二人はそういう関係だったんだぁ……」
覗き見ていたのは水城だった。水城は邪悪な笑みを浮かべ、その場を去った。


翌日の昼、部屋に戻った業盛は、異変に気付いた。
いつもだったら抱き着いてくる鈴鹿がいないのである。
ふと、机の上を見やると、書置きがあった。それは、誘拐文だった。



『あんたの愛人は預かったわ。
こいつを殺されたくなければ、六波羅への道中にある断崖に来なさい。
ただし、武器はなに一つ持たずに来る事。
もし寸鉄でも帯びているのを見たら、容赦なく殺すから、そのつもりで』



読み終えた業盛は、書置きを握り潰した。

215 :変歴伝 第五話『悪土の酸橘、良土にて甘橘となる』 ◆AW8HpW0FVA:2012/04/06(金) 00:34:43 ID:tHOCcq1Q 断崖には、弓を持った水城が待ち構えていた。
「やっぱり来たわね」
「水城、お前って奴は……」
「おっと、動いたらこいつの首が飛ぶわよ」
水城が短刀を鈴鹿の首に突き付けた。
鈴鹿は短刀を突き付けられたというのに、悲鳴一つ上げようとしない。
「水城、鈴鹿になにをした!」
「死んではいないわよ。気絶しているだけ。
本当だったら、あんたの死ぬところをこいつに見せてやるつもりだったけど、
ピーピーうるさいもんだから……、残念極まりないわ」
「…………」
「おしゃべりはここまでね。書置き通り、武器は持ってきてないみたいね」
そう言うなり、水城は矢を放った。放たれた矢は、業盛の胸に突き立った。
突如、業盛の身体が震え始め、その場に倒れた。
「なっ……なん……だ、これ……は……」
「鏃には我が家に伝わる猛毒が塗ってあるの。直に楽になるわ」
「ひっ……きょう……もの……。ひと……で……なし……」
「最高の褒め言葉として受け取っておくわ」
程なく、業盛はピクリとも動かなくなった。
それを見て、水城は大笑いした。
「意外とあっけなかったわね。これからはこの方法を使ってみようかしら。
……さてと、私の事を散々虚仮にした馬鹿の首を、斬り落としておこうかしら」
業盛の身体に片足を乗せ、いざその首を斬り落そうとした瞬間、水城は違和感に気付いた。
しかし、気付いた時には、業盛によって地面に倒されていた。
「あんた、服の下に鎧を着込んでいたのね!さっきの悶えも演技だったというの!」
「これでも一度は経験してるんでね、ちょっとやってみただけだ」
「じゃあなんで、矢が身体に届いていないなら、鏃に毒が塗ってある事に……」
「なんとなく、お前みたいな人でなしだったら、そうするだろうと思っただけだ」
水城になにをするでもなく通り過ぎ、いまだに眠っている鈴鹿に気付けをしていた。
水城の顔が、みるみる赤くなっていった。
「ふざけるな……、ふざけるなふざけるなふざけるなぁああ!」
水城は短刀を握ると、業盛に向かって突進した。
怒りの篭った刃は、業盛に叩き落とされてしまった。
またしても、水城は業盛を殺し損ねたのである。
「どうして……どうして勝てないの……」
悔しがる水城をよそに、業盛は鈴鹿に抱き着かれながらも帰ろうとしていた。
それがますます水城の癪に障ったらしい。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!」
ついには見栄も外聞もなく地団太を踏み始めた。それを見た業盛は、
「おい、この辺りは地盤がかなり緩い。昨日は雨だったから、そんなに暴れると……」
言い掛けて、駈け出した。崖が崩れ、水城が落ちたのである。
業盛の伸ばした手は、なんとか水城に届いた。

216 :変歴伝 第五話『悪土の酸橘、良土にて甘橘となる』 ◆AW8HpW0FVA:2012/04/06(金) 00:35:24 ID:tHOCcq1Q 「なんのつもりよ……」
冷静ではあるが、悔しさが溢れる声音だった。
「見て分からないか。助けてやってんだよ。さっさと上がって来い」
「離しなさいよ!なにが悲しくてあんたなんかに助けられなきゃなんないのよ!」
再び水城は激高し、激しく暴れた。空いている手で、業盛の腕を殴った。
「あんた、私の事馬鹿にしてるの!散々命を狙ってきた相手を助けるなんて……。
聖人君主でも気取るつもり!」
「知るか!そんな下らない話をする暇があるなら、さっさと上がって来いと言ってるだろ!
早くしろ、馬鹿!」
「どうせ私なんて、あんたみたいな馬鹿も殺せない、ただの役立たずなのよ!
このまま死んでしまった方が、清々するわ!」
突如、水城の手を握る業盛の力が強くなった。刹那、水城の身体が引き上げられ、宙を舞った。
そのまま水城は地面に叩き付けられた。
「なにすん……」
水城が文句を言おうとした瞬間、業盛の平手が顔を打った。
「いい加減にしろ!なに勝手な事を言っている。
あんな訳の分からない理由で死んでいい命などある訳がないだろ!
両親や弥太にすまないと思わないのか!」
「ふん!……私は両親どころか皆から嫌われているよ!
せっかく頑張って強くなっても、褒めるどころか逃げていく!私なんて……」
「ふざけるな!」
業盛の怒鳴り声が響いた。
「どこの世界に自分の子が嫌いな親がいるか!
本当に嫌いだったら、お前をその歳まで育てる訳ないだろう!
お前はな、勝手に拗ねて、勝手に暴走して、勝手に捻くれただけだ!」
これ以上もないほどの痛烈な言葉だった。水城は声も出せず、業盛を見つめている。
「……もしも、本当にすまないと思うなら、さっさと家に帰って全員に謝罪する事だ。
そして、さっさと婿を貰う事だな。それが一番の孝行になる。
お前は顔だけなら天下一品なんだ。相手だったら掃いて捨てるほどいるだろうよ」
言いたい事はすべて言った、と業盛はため息を吐くと、驚いている鈴鹿と共に歩きだした。
「ねぇ、一つ教えてほしいんだけど、どうして、あんたは私の事を殺さなかったの?
あんたの腕だったら、いくらでも機会はあったはずなのに」
「まったく、まだ分からないのか」
振り返った業盛の答えは明瞭だった。
「お前が、俺よりも馬鹿だからだよ」
にっこりと笑う業盛の顔を、水城は真っ赤な顔で見つめていた。


ようやく業盛の屋敷に平和が訪れた、かと思えばそうでもなかった。
水城は屋敷に居着き、帰ろうとしないのだ。
相変わらず仇を見るような目で業盛を睨み付け、
事あるごとに毒舌を吐くなど、不穏な空気を醸し出してはいるが、
これまでのように不意討ちや、毒殺などの非道な事は一切しなくなった。
家中の者達は、そんな事はまったく知らないだろう。
しかし、業盛はそれが嫌というほど分かる。なぜなら、
「兄様ぁ~」
「ご主人様ぁ~」
部屋に帰ると、頭の壊れたのが、一人増えているからである。