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317 :天使のような悪魔たち 第23話 ◆UDPETPayJA:2012/04/19(木) 07:44:11 ID:N5/ACr3Q 雨はさらに勢いを増していき、先程まで微かに積もっていた雪も、容赦なく溶かされ、流れていく。
そんな雨に打たれながらも、弟を探して私は街中を彷徨っていた。
…何処へ行ったのか、何の手掛かりもない。でも…あの子が何の連絡もなしに消えるはずがない。
きっと迷子になっているんでしょう。そうよ、そうに違いない。
だから私が迎えに行かなくちゃ。この雨だもの、きっと今の私みたいに、寒さで震えているに違いないわ。
私なんか、さっきから頭もぼうっとして、何度車にクラクションを鳴らされたか。
いろんな人に話しかけられたけど、この寒さじゃあ唇が動かしにくいんでしょうね。
何を言ってるのか、よくわからなかった。
何回も滑って転んで、擦りむいた膝がひりひりする。
───あの子がそんな風になってたらと思うと、可哀想で、胸の痛みが止まらない。
今にも押し潰されそうで、息が詰まってしょうがない。
ほんと、私がついていないとダメなんだから、あの子は。

…ああ、待っててね、飛鳥。今わたしが迎えに行くからね。

* * * * *


───悪寒を感じたのは、今日何度目だろうか。
嫌な予感が、なんてもんじゃない。取り返しのつかない事が起きようとしている。そんな気がする。
飛鳥ちゃんがだれと病院を出て行ったか、それは大体予想がついた。問題は、俺はその人物…穂坂 吉良の居場所がわからない事だ。
なんとか、接触しなければ。

「住所はおろか、電話番号もわからねえってのは…ちと分が悪いよなぁ…」

恐らく、今からそれらを調べるのには手間がかかるだろう。
個人情報にうるさくなった昨今では、母校に尋ねても教えてはくれない。
ならば知人を洗うしかないが…そもそも穂坂の対人関係の具合を、俺はよく知らなかった。
せめて、犬猫並みの嗅覚か、勘が俺にも備わってれば…。
1階ロビーの時計を見ると、亜朱架さんの電話があった時より、既に1時間近く経過していた。

「…行こう、斎木くん。」

突如として、結意ちゃんはロビーから出入り口に向かって歩き出した。

「行こう、って…まさか闇雲に探す訳じゃないよな?」
「それしかないでしょ? それに…お姉さんの行方だってわからないんだから。
多分、お姉さんも飛鳥くんを探しに行ったんだと思うわ。だったら…」
「道中、亜朱架さんを見つけられるかもしれない…か。」
「そう。それと………悪いけど、もう我慢できないの。止めても私は行くから。」
「…!」

静かな怒り、とでも言うのか。結意ちゃんの声は寒空なんかよりも遥かに冷たく、背筋に刺さった。
確かに、亜朱架さんの事も放ってはおけない。今の段階では、それが正しい判断なのかもしれない。
懸命、とは言えないがな。しかしお姫様はもう待てないと言うのだから。

「そうだな…行こう。」

買ってきた傘を渡し、俺たちは病院を出発することにした。
外の雨は横殴りになっており、今日一日は止む気配がない。
俺と結意ちゃんは病院前の路地で二手に別れ、それぞれ反対方向へ向かった。
辺りをよく観察しながら、小走りで住宅街の方へ入ってゆく。
果たして亜朱架さんは、この辺りの地理に詳しかっただろうか。でなくば、あらぬ所に入り進んでいるかもわからない。
明らかに冷静さを欠いていた彼女なら、それも有り得る。
似たような造りの、一軒家が立ち並ぶ路地に進んで来た。
隅までくまなく観察し、亜朱架さんの姿を、あるいはひとつひとつの表札をチェックする。
もしかしたら″穂坂″姓があるかもしれない…と踏んだが、見つからなかった。

「くそ…どこにいる!?」

手探りにも程がある。せめてもっと情報があれば。誰かアテはいなかったか?

318 :天使のような悪魔たち 第23話 ◆UDPETPayJA:2012/04/19(木) 07:45:59 ID:N5/ACr3Q おまけに、亜朱架さんの″気配″も感じられないままだ。
第一、その時点で何かがおかしい。亜朱架さんと俺はもとを辿れば非常に近しい存在だ。
さらに、亜朱架さんの持つ力の反応は、俺からしたら隠しきれるものではない。
同じ市内にいるならば、その程度の距離間ならまず間違える事はない。
だとするならば…まさか。

「力を、失ったのか…?」

その可能性は、よく考えれば有り得る話だ。
亜朱架さんの能力は、極端に言えば「消し去る」事しかできない。
即ち、「破壊する」ことと同意義だ。
かつて彼女は、その力を以て何人も苦しめてきた。飛鳥ちゃん、結意ちゃんだとてその内に含まれる。
それが、今更になって罪の意識に苛まれたとしたら?
もうひとつ…優衣姉の件だ。
優衣姉は図らずも、あの力が非常に危険であるという事を改めて示した。だったら尚更、だ。
自分で自分の力を″消去″した可能性もある。
それなら、気配が感じ取れない理由にもなる。

「それがこんな事態になるなんて…誰が思ったよ!」

こんな時、俺は無力だ。俺の力はほとんど、亜朱架さんの力に対してのカウンターにしかならない。
結意ちゃんだって、木刀を持てば並の大人でも敵わない腕っぷしがある。
飛鳥ちゃんですら、不良相手に無双した事があると聞く。
佐橋なんて、予知能力で何度も恋人の危機を救ったらしい。加えて飛鳥ちゃんの未来をも変えたじゃないか。
けれど、俺は何ができた?
妹ちゃんの件では、結局結意ちゃんが傷つくのを防げなかった。
優衣姉の時も、何の役にも立てなかった。
そして今は、このザマだ。
俺にもせめて佐橋のような力があれば…
………そうか。
どうしてもっと早く気付かなかった? 佐橋の力なら、飛鳥ちゃんの、あわよくば亜朱架さんの居場所を突き止められるのでは?
早く、連絡をとらなければ。…だけど、電話番号は入っていない。誰かいないか?
俺は電話帳から、駄目元でまず結意ちゃんの番号を呼び出した。
ピピピ、と低めの独特な電子音の後に、ほとんど間髪を空けずに繋がった。

「結意ちゃん! 佐橋の番号知らないか!?」

思えば、随分と早とちりだったかもしれない。よく考えれば、結意ちゃんが飛鳥ちゃん以外の男に興味を示すはずがない。
俺の番号だって、必要があったから交換しただけで、世間話に用いた事など一度もないのだから。

『…そっか、予知能力で…。佐橋くんの番号は知らないけれど…三神さんの番号ならわかるわ。』
「三神…そうか!」

三神といえば、確か佐橋の恋人だったはず。彼女から聞き出せるなら、あるいは…!

『すぐに佐橋の番号を聞いてくれ!」
『わかった。一度切るよ。』

なんとか、希望が繋がった。その事に俺は胸を撫で下ろす。
あとは佐橋と連絡をとり、予知してもらえば………
待ってろよ、飛鳥ちゃん、亜朱架さん。

319 :天使のような悪魔たち 第23話 ◆UDPETPayJA:2012/04/19(木) 07:47:36 ID:N5/ACr3Q * * * * *


「………うん、そう。佐橋くんならわかるんじゃないかって…。」
『…成る程、ね。なかなかどうして、君達には厄介ごとばかり降り注ぐね。
歩には、直接斎木君に電話させるよ。番号を教えてくれるかい?』
「ありがとう…番号は───」

斎木くんの向かった高級住宅街とは反対の、団地や商店街のある方面を私は探索していた。
でも、やはりそう簡単には見つからない…
穂坂 吉良。彼女との面識はそれこそ、人ごみですれ違った程度にしかないけれど、プライドの高そうな女に見えた。
もちろん、黒髪でツインテールなんて髪型、探せば他にいくらでもいると思う。
けれど、彼女は飛鳥くんと同じクラスだと斎木くんは言う。それだけで、私には十二分に疑わしかった。

「───、だよ。」
『了解。…ところで、貴女は大分斎木君と仲が良いようだね。』
「…どうしてそう思うの?」
『電話番号さ。貴女は今、携帯を離さずに、すらすらと番号を教えてくれた。
普通、友達の番号なんてものはそう頭に入るものじゃないのかな?』

…なるほど、そういうこと。

「私、一度見たものは絶対に忘れないから。」
『それは…羨ましい限りだね。』

これ以上用件はない。どちらともなく、通話を終了した。
羨ましい、か…本当にそう思うなら、あなたも私のように、絶望を何度も味わってみればいいのに。
愛する人に捨てられる怖さを。愛する人を失ってしまう怖さを。
それでもなお、同じ事が言えるのかな…?

………いつだってそうだった。

私は飛鳥くんを愛している。自分の命と引き換えにしても惜しくないほどに。
私だって、最初は自分の事しか考えていなかっただろう。
彼と結ばれたくて。彼に尽くしたくて。たとえ何度拒否されても、私は何度でも彼の為に尽くすつもりだった。
自惚れだけれど、自信があった。
自分の容姿は、少なくとも一般女子の平均以上には恵まれていると。
体当たりで接し続ければ、必ず飛鳥くんは私を受け入れてくれるという、自信が。
そして飛鳥くんは、とうとう私を選んでくれた。本当に、心から嬉しかった…!
犯された痛みなんて、一瞬しか感じなかった。それよりも、嬉しくて嬉しくて、どうにかなってしまいそうだった。
けれどそれを皮切りに、私たちを取り巻く環境が狂い出した。

同じように飛鳥くんを愛していた妹さん。
彼女によって飛鳥くんは記憶を奪われ、私を拒絶するように仕向けられた。
あの時の言葉は、今も私の心に深く刻まれている。もしも、もう一度同じ事を言われでもしたら…
私はきっと狂ってしまうだろう。
でも、結局妹さんは亡くなってしまった。
飛鳥くんが妹さんの事をどれだけ大事に思っていたかは、よくわかる。だからこそ…今でも私は彼女を100%憎みきれないでいる。

320 :天使のような悪魔たち 第23話 ◆UDPETPayJA:2012/04/19(木) 07:51:07 ID:N5/ACr3Q 白陽祭に侵入し、斎木くんを取り戻す為に私達に牙を向けた斎木 優衣。
飛鳥くんは彼女の攻撃から私を守るために、瀕死の重傷を負った。
その彼女も、お姉さんによってなんとか倒すことができた。
けれど、同時に斎木くんは最も大切なものを再び失うこととなった…

そして今、飛鳥くんは行方を眩ませている。

…どうして? 私達は、幸せになってはいけないというの…?


商店街を隅々までチェックし、さらにその先へ足を進める。
閑静で、間に木々が立つ住宅街へとやってきた。
ただし、高級という言葉は似つかわしくない、団地も立ち並んだ住宅街だけれど。
あのお姉さんなら、ここまで来てひとつひとつ表札を調べて回っている可能性もある。
私もそれに倣い、視線を移らせてゆきながら歩く。
雨風は強く、傘も風圧でいつめくり上がるかもわからない。
視界の先は、もやがかかったようになり、あまり遠くまでは見渡せない。

───それでも、少し歩いた先にある、その刺々しい気配を感じる事はできた。

目前の、少し遠くから誰かが、傘も差さずに歩いてくる。
背は低いけれど、髪は大分長い。怪我をしているのか、片足を引きずりぎみにしている。
だんだんと近づく。100メートル…50メートル…20………
そこまで来て、ようやく私はその人が誰なのかに気付いた。

「お姉…さん……?」

言うや″彼女″は、ロケットのように飛び出してきた。
手には、何か鋭利なものが握られている。…私に、危害を加えるつもり…!

「っ、は!」

昔取った杵柄、とでも言おうか。部活動で鍛えられた動体視力が役に立った。
傘を捨て、半歩引いて彼女の攻撃を見切り、手首を強く叩いて刃物を落とす。
かちゃり、と軽い音を立てたそれは、どうやら硝子の破片らしかった。握っていた彼女自身の手からは、紅い雫が見て取れる。
…しかし、怯む様子はない。そのまま力任せに私にぶつかってくる。
その双眸は暗く淀み、まるで底が見えない。歯を食いしばり、全力を込めてくる。

「………殺してやる……!」

その言葉には、ありったけの憎しみが込められていた。
何故…? 殺してやるというのなら、何を今更…?
私には彼女の思考回路が読めなかった。
硝子片で血に濡れた小さな手は、私の首でも絞めようとしているのか。必死に上へ伸ばしてくる。
けれど、背丈に差がある。恐らく150センチにも満たない彼女の身体では、160センチほどある私の首を絞めるのは困難だ。
彼女はさらに、低く濁った声で叫ぶ。

「兄貴を………どこへやったぁぁぁぁ!!」

───えっ。
今、なんて言ったの…?

「いつもそうだ! お前が、お前さえいなければ!
返せッ! 私の兄貴を返せぇ───!!」

…そんな。
兄貴、だなんて。これじゃあまるで…

「死ね! 今ここで死ね! 兄貴を傷つけるやつは! みんな殺してやるッ!」

妹さん………なの……?

321 :天使のような悪魔たち 第23話 ◆UDPETPayJA:2012/04/19(木) 07:52:56 ID:N5/ACr3Q
「お前さえ現れなければ! 私達は幸せに! 誰も傷付かなくて!
あのお前にそっくりなキチガイ女も現れなかった!
だから殺してやる! お前が死ねば兄貴は幸せになれるんだ!」
「…っ!」

彼女の言葉に、一瞬戸惑った。その一瞬で、彼女の両手は、私の首にかけられた。

「あ…っ、く、は…!」

…なんて力なの。こんな、幼い身体のどこに、こんな、力が…? だけど…させない…!
私は膝を使い、彼女の腹部を狙って蹴り上げた。

「ぐっ、あ、ごほっ…!」

力が緩む。その隙に私は彼女の腕を掴み、首から引き剥がして、素早く後ろ手に極(き)めた。

「く、離せっ! お前、お前がぁ───!!」

それでもなお、信じられない力でもがく。本気で、私に殺意を抱いているようだ。
…? ならば、なぜ彼女は、″あの力″を使わないのだろう?
あの力なら、私などすぐさま殺せるはず。まさか、使えないとでも言うの?
…それなら、斎木くんが居場所を特定できなかった説明もつくかもしれない。
能力を、消失したのなら。
考えれば、彼女の特性はあらゆる怪我をも瞬時に修復できる。
なのに、膝には擦りむいたような傷が。手のひらの裂傷も、塞がる気配がない。
…ほぼ確定だ。原因はわからないけれど、彼女は″不死″でなくなっている。

「…私の言葉なんて今のあなたには届かないでしょうけど。」
錯乱しているようにしか見えない彼女に、私はただ一言、告げた。
「飛鳥くんをどこかへやったのは、私じゃないよ。」

今の彼女の姿は、もしかしたら私も同じように辿っていたかもしれないのだ。
それだけは、否定できなかった。

「私だって…飛鳥くんに幸せになってほしいよ…! 私はただ、その時隣にいられれば、それだけで満足なのに…
どうして…私は、私が……私のせい、なの…?」

頬を伝うのは雨か、それとも…自分でも、よくわからない。
だけど、ひたすらに胸が痛い。
私のせいで、飛鳥くんが幸せになれないのなら。
…嫌だ。それでも、彼のそばに居たい……!

「…助けてよ………飛鳥くん………」

…私は、どうしようもない女だ。