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437 名前:フェイクファー 一 ◆4Id2d7jq2k [sage] 投稿日:2012/04/30(月) 22:46:51.94 ID:3LTwNORQ [2/6]

放課後の教室。
教室の壁、机、カーテン、床、そして、俺の正面に立つ少女を、夕日の赤い灯りが濡らす。

「この間から言ってるよね?
 私、何て言ったか、覚えてる?ちゃんと聴いてたの」

少女は、そう、声を尖らせ、彼女の少し短めの黒髪を不機嫌そうに触る。
控えめの胸が普段より大きく上下する。
彼女なりに平静を装っているつもり、だがひどく興奮しているらしい――、ことは今までの付き合いの長さから、容易に分かった。

「……楓以外と話さない」

辟易としていることを悟られないように、なるべく無感情に答える。

「そう。そうだったよね!」
そう言って、目の前の少女、木幡 楓(こわた かえで)は彼女の胸の前で手を合わせ、にっこりと笑った。
可愛らしい笑顔だが、今の俺には畏怖の対象でしかない。

「でも、ちょっと違うなー……」
楓は、一歩、俺との距離をつめ、そして、俺の左頬を引っ叩いた。

「私以外の女の子と、が抜けてるよ?
 やっぱり、秋くん、私の話覚えてなかったね」

左頬が、じりじりと痛む。火傷のように。
熱い。

「……ごめん」

俺がうなだれ、謝ると、楓は途端に眼からぼろぼろと涙をこぼした。

「……うぅっ……ぐすっ……秋くん……、
 約束破ったぁ……私……私……うぇぇ……」

今日は、『泣く』か。
怒っていて、それでひどく興奮しているのだ、と思った。
また外が暗くなるまで平手打ちをされるのかと、少し気を張っていた。
興奮しているように見えたのは、泣きそう、だったかららしい。

438 名前:フェイクファー 一 ◆4Id2d7jq2k [sage] 投稿日:2012/04/30(月) 22:50:11.47 ID:3LTwNORQ [3/6]

「ごめん……ごめん……なるべく話さないようにするから」

泣きじゃくる彼女を、抱きしめる。
子どもをあやすように。
頭を撫でる。

少しすると落ち着いてきたのか、嗚咽はやがて、甘い吐息に変わる。

楓は高校二年生であるものの、背が低く、外見は女子高生というより中学生のそれに近い。
高校に入ってすぐ、長かった髪を短く切ったので、近ごろは小学生にも間違えられることもあるらしい。
顔の造作は整っていて、可愛らしい。
形の良い、細く長い眉は彼女のうちに潜む、一途で頑なな意志を表しているようにも見える。

「もう、大丈夫か? 落ち着いた?」

楓の頭を撫でながら、耳元で囁く。
彼女がこうされるのを好きだと、俺は知っている。

「んぅ……、うん。
 ……ごめんね、私……秋くんを……」

また、泣きそうな顔になるので、すかさずフォローする。

「良いって。もとより、俺が悪いんだ」

そう言っても、何が良い事か、悪い事か、俺には判断がつかない。
ただ、楓が喜べば、俺は嬉しい。
楓が悲しむと、俺も悲しくなる。

だから、判断がつかなくても、こう言って楓を喜ばせる。

「……じゃあ、もう、他の女の子と話さない?」

頬を俺の胸にすりつけて、楓が言う。
彼女から香る、甘い体臭に頭がくらくらする。

「なるべく」

「それじゃだめ」
楓は頑固だ。

「そうは言っても、絶対は無理だ」

「んぅ……じゃあ、私が仲介する。
 ほら、秋くんと他の女の子が話す必要なくなるよ?」

「あのねぇ……」

439 名前:フェイクファー 一 ◆4Id2d7jq2k [sage] 投稿日:2012/04/30(月) 22:52:57.31 ID:3LTwNORQ [4/6]
楓は嫉妬深い。
今まで、他の女子と交際をしたことがないから、
基準はどの程度なのか分からない。だけど、楓は嫉妬深いと思う。

高校一年生の付き合い始めの時は、他の女の子としゃべったくらいじゃどうこう言われることもなかった。
「私、秋くんを信じてるから」なんて、今じゃ到底聞けない台詞を言っていた覚えがある。

きっかけは、まぁ、俺が悪かった。
一度、委員会活動の帰りに、たまたま、女の先輩と帰っているところを、たまたま見られた。
別にやましいことはなかった。浮気なんて大それたことじゃない。
先輩とは仲が良かったから、その時、たまたま一緒に帰っただけだ。
いつも、一緒に帰っているわけじゃない。
俺が弁解しても、楓は受け入れなかった。

それを境に、楓は俺を束縛するようになった。
俺は悪くない。と、憤慨したこともあった。
けど、『ごめんね……秋くん……ごめんね』なんて、楓に泣かれると、昂った気持ちが急激に冷え、
『やっぱり、俺が悪かったかな』という気持ちに変わってしまう。

楓は、ルールを決めよう。と提案してきた。俺はそれを了承した。
最初に、『必ず二人で一緒に帰ること』というルールができた。

そして徐々に、ルールが増えていく。
『寝る前に電話』。『他の女の子との電話禁止』。
『二人でいるときは手をつなぐ』。他にも、色々とあった気がする。
ルールが増えていくのは、楓の嫉妬が深まっていくようで、怖かった。

で、ついにこの間、『楓以外との女の子と会話禁止』とのおふれが出た。
さすがに無茶だ、と思って、俺は半ば本気にしていなかったが、彼女は本気だった。

今までのルールを集約すれば、『楓以外の女の子と関わりを持たないこと』、とできる気がする。
楓に提案したら、本当に採用されそうな……。


俺は、赤星 秋(あかぼし あき)は、
胸に抱いた可愛らしい少女の頭を撫で、
これからのことを想い、小さく溜息をついた。