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887 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:17:54 ID:bkK3AqX2 [1/5]
「GO! GO! GO!」
「これで全室か?」
「おい、この扉がまだだっ! 外鍵がかかっていて開かない!」
「蹴り破るぞ!」
「男がいる!」
「両手を頭の上で組んで床に伏せろっ!」
「タイラップを! 連行しろ!」
「まて、何か言ってる」
「I...A...ican.」
「なんだって?」
「おい、ソイツ何を言ってるんだ?」
「黙れ、聞こえない! おい、もう一度はっきり発音してくれ!」
「僕は……アメリカ人だ」

あれは確か、2007年の10月の初めだった……

「Shit……」
「2等軍曹?」
 確かあの時は運転席に座るパットはハイスクール時代に抱いたチアの話題で盛り上がっていた。
 そして、僕の呟きを聞きつけたらしい、お調子者のウォルトが体を捻りながら、似合わないサングラス越しに僕の顔を覗き込んできたのだ。
「見ろ、故障車だ」
 僕が指をさした先には、先に出発した車列のものだろうハンヴィーが道路の真ん中で煙を吹いて止まっている。

888 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:22:15 ID:bkK3AqX2 [2/5]
「おい、嘘だろ。 まさか、止まりゃしませんよね?」
 ウォルトが大げさな動作でため息をつくのと同時に、ウェストポイント(陸軍士官学校)直産であられる隊長殿のありがたい御命令により先頭車両が故障車のすぐ横で止まり、後ろに車列を成していた僕らも当然だが、その場で停車するしかない。
「……ああ、畜生。 降りろ、周辺警戒」
 投げ出すように置かれていたM4A1を掴み、長時間座っていたことで悲鳴を上げる足腰に鞭を打ち、鉄板付の重い扉を押し開けた。
 直後にまるで身を焼くように照りつける日差しは、砲弾の後だらけの道を、ミキサーのように揺れるハンヴィーの荷台で揺られていたほうが幾分かマシではないかと思われるものだった。
「暑いな、畜生」
「軍曹、タバコはどうです?」
「勝手に吸ってろ。 おい、下がって」
 物珍しげに集まってくる民衆に、身振りと大声で下がるように警告しながら、ここ、アフガニスタンの焼けた砂の匂いや、ガソリンに排ガス、その他が入り混じりになった何ともいえない匂いを吸い込む。
 不朽の自由作戦が始まってすでに6年が過ぎようとしているのに、ここはまるで世界から取り残されたかのように変わらない。
「下がってろ!」
「《煩い! それ以上近づくと発砲する!》」
 車の反対側に立つパットの鋭い静止と、先ほどまで隣に座っていたベイカーのパシュトー語に振り返ると、ターバンを巻いた現地の男達が何か怒りを訴えかけるように声を張り上げていた。

889 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:25:43 ID:bkK3AqX2 [3/5]
「どうした? あいつらはなんと言ってる?」
「自分の車が移動できないから、我々に移動しろと!」
「移動はできない、しばらく待って欲しいと伝えてくれ」
「《黙れ! できない! 待て!》」
 こういった口論も珍しいことではない。
 他の連中も、慣れた事だというように、我関せずと周囲に視線を走らせている。
 と……
「《きゃっ》」
 人ごみに押されて、道路に飛び出すように転がった一つの影が視界に入った。
 スカーフですっぽりと顔を隠していて詳しくは分からないが、恐らく若い女性だろう。
「軍曹?」
 ため息をついた僕に向けられたウォルトの怪訝そうな顔を無視して、倒れたときにどこか怪我でもしたのか、なかなか立ち上がらない女性に歩み寄る。
「大丈夫かい?」
「《え……?》 あ、はい。 少し足を捻ってしまったみたいで」
 アメリカの軍人から差し出された手に一瞬、状況を理解できていなかったようだが、すぐに流暢な英語で返事が返ってきて、逆に僕が面食らった。
「言葉がわかるのかい?」
 この国では、つい最近までタリバーン政権の下で、女性の教育や自由というものが厳しく制限されていた。
 英語が喋れる女性など、めったにお目にかかれず、僕自身、通じなくて当たり前という感覚で声をかけたのだ。
「お父さんの都合で、一家で帰ってくるまではサンタクララバレーに住んでいました」
「カリフォルニアの? なんてこった、僕もシリコンバレーに実家があるんだ! サンマテオさ、行った事は?」
「あります。 でも驚きました……」
「《通してくれ! 通してくれ!》」
 その時、中年の男性が人垣を掻き分けて、先ほどの女性と同じように飛び出してきた。

890 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:25:43 ID:bkK3AqX2 [4/5]
「どうした? あいつらはなんと言ってる?」
「自分の車が移動できないから、我々に移動しろと!」
「移動はできない、しばらく待って欲しいと伝えてくれ」
「《黙れ! できない! 待て!》」
 こういった口論も珍しいことではない。
 他の連中も、慣れた事だというように、我関せずと周囲に視線を走らせている。
 と……
「《きゃっ》」
 人ごみに押されて、道路に飛び出すように転がった一つの影が視界に入った。
 スカーフですっぽりと顔を隠していて詳しくは分からないが、恐らく若い女性だろう。
「軍曹?」
 ため息をついた僕に向けられたウォルトの怪訝そうな顔を無視して、倒れたときにどこか怪我でもしたのか、なかなか立ち上がらない女性に歩み寄る。
「大丈夫かい?」
「《え……?》 あ、はい。 少し足を捻ってしまったみたいで」
 アメリカの軍人から差し出された手に一瞬、状況を理解できていなかったようだが、すぐに流暢な英語で返事が返ってきて、逆に僕が面食らった。
「言葉がわかるのかい?」
 この国では、つい最近までタリバーン政権の下で、女性の教育や自由というものが厳しく制限されていた。
 英語が喋れる女性など、めったにお目にかかれず、僕自身、通じなくて当たり前という感覚で声をかけたのだ。
「お父さんの都合で、一家で帰ってくるまではサンタクララバレーに住んでいました」
「カリフォルニアの? なんてこった、僕もシリコンバレーに実家があるんだ! サンマテオさ、行った事は?」
「あります。 でも驚きました……」
「《通してくれ! 通してくれ!》」
 その時、中年の男性が人垣を掻き分けて、先ほどの女性と同じように飛び出してきた。

891 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:28:52 ID:bkK3AqX2 [5/5]
「危ない軍曹っ! 撃つぞ、下がれっ!」
「その子は私の娘だっ! 撃たないでくれっ!」
「ウォルト! 銃を降ろせ!」
 ウォルトが怪訝な顔のまま銃口を動かしたのを確認してから、女性の父親に、彼女が怪我をしていることと、危害を加えるつもりがないことを説明している間に車列の他の車へ、次々と隊員達が乗車しているのが見えた。
「軍曹! あのポンコツ野郎のエンジンが直ったそうです、このクソ暑い往来からはサヨナラですよ!」
 しきりに、ありがとうございますと告げる女性の父親を宥めながら、僕はベイカーが中から押し開けて、手招きしている車に軽く手を振ってから、二人に向き直った。
「それでは失礼します、お話できて光栄でした」
「あの……」
 女性の父親と軽く握手を交わしてから、背を向けて小走りになったところで、今度は女性から声がかかる。
「あの……お名前は?」
「デュケスン、ジョージ・デュケスン2等軍曹です」
 軽く振り返って、手を振って見せてからハンヴィーに乗り込み、重たい扉を閉めた。
 去り際に女性が「ジョージ……」と何事か呟いたような気がするが、もう会うこともないだろうと思っていた。
 そう、このときは……