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7 :天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:00:03 ID:jwJtygsU[2/5]  
激しく降り注ぐ雨の中では、折角乗ってきた自転車も役に立たない。
病院から学校に戻るとしても、交通機関を使わなければ、風邪を引くどころでは済まないかもしれない。
…無論、俺は自分の心配をしている訳ではない。…当の彼女は「心配なんてしなくていい」と言い張っているんだけどな。
病院の前には屋根付きのバス停がある。ベンチはびしょ濡れでとても座れたものではないので、立ってバスを待つ事にした。

「…次のバスまで、あと6分。大して待たなくても良さそうだねぇ。」

なんとなく、軽く結意ちゃんに会話を振ってみる。だけど、リアクションはいただく事はできなかった。
彼女はじっ、と暗い空を見ながら微動だにしない…と思ったのだが、かすかに肩が震えているのを、俺は見逃さなかった。
寒いのだろう。結意ちゃんはちゃんと″死ぬ事のできる″人間だ。
寒い暑いなど瑣末な問題でしかない俺とは違って、彼女は今を″生きて″いるんだ。
俺のような死に損ないとは、違うんだ。

俺は軽く息を整えて、「少し、待っててくれるか結意ちゃん。」と声をかけた。
「……どうしたの。」
「あったかいモンでも買ってきてやるよ。すぐ帰って来るから、1人でどっか行くなよ?」

外気に触れて、少しは頭も冷えているだろう。今のこの状況、単独で闇雲に探していてもまず見つかるまい。
元々、冷静な判断ができる彼女なのだから、そのことに気付いているはずだ。
けれど俺は、あえて念を押すようにそう告げた。
返事はなかったが、俺はそれを肯定と見なしてすぐ近くの病院エントランスへ戻った。
真っ直ぐに購買を目指す。そこには4つの自販機が設置されていて、種類も豊富に揃っていた。
だが、悠長に選んでいる時間はない。バスはあと数分で来るのだ。
俺はまず、結意ちゃんの分から買う事に決め、1番左端の自販機に500円玉を投入する。
1番下の列の、真ん中あたりの飲料に目をつけ、ボタンに指を伸ばした。
その瞬間、ふと1つの事を思い出してしまった。


『優衣姉、ほんとコレ好きだよねえ。』
『ふふ、だってコレおいしいじゃない。』
『うぇー…俺はそんなに…って感じだよ…だってそれ…』


それは、かつて有った幸せな記憶の断片。
成る程。俺が今指をかけているのは、ある意味思い出の品だったんだな。
…ついでだ、試してみようか。俺はそのまま、″ミルクセーキ″のボタンを押した。
ボタンを押すと商品が出てきたが、どうやらこの自販機、返却レバーを回すまで釣りが出てこないタイプのようだった。
時間もない事だし、俺はこのままここから自分の分の飲み物を買う事にした。
と言っても、ある意味ではそれは正しくはない表現なんだがね。
それを買って釣り銭を回収すると、俺は小走りでバス停まで戻った。

8 :天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:00:46 ID:jwJtygsU ★[3/5]
* * * * *


バス停に着くと、結意ちゃんはちゃんと待っていてくれた。
納得してくれた、ということだろうか。少なくとも、雨の中探し回る事はしないように決めたようだった。
そんな彼女に俺はいつも通りおどけたキャラを作って、飲み物を差し出した。

「待たせたな、結意ちゃん。コレやるよ。」

結意ちゃんは振り向いて俺の両手をを見る。俺の右手にはミルクセーキ。左手にはコーヒーの缶が握られている。
結意ちゃんは何も迷う事なく、コーヒー缶の方に手を伸ばした。
それを受け取ると結意ちゃんは訝しげに、「よく私の好きなのがわかったね。」と言ってきた。
「まあ、ね。優衣姉が好きだったんだよ、これ。」と俺は軽く答えてみせる。
「…そう、そうなんだ。」

結意ちゃんはそれ以上の関心を持とうとはしなかった。俺のついた嘘にも気付かずに、缶の蓋を開けて飲み始めた。
これで少しでも身体が暖まってくれればいいんだけどな。

…実はあの思い出には続きがあるんだ。


『隼、あんたこそよくそんなもの飲めるわね?』
『なんで? 美味いじゃんかこれ。』
『そう? …わざわざそんな苦いの、お金出してまで飲む?』
『ミルクセーキだって、ごってり甘いじゃん。よく飲めるぜ。』
『これはいいのよ、乳製品だから。』

…そう、優衣姉は苦いコーヒーが苦手で、ミルクセーキが好物だったんだ。対して俺はその逆。
ミルクセーキなんて甘ったるい飲み物、匂いを嗅いだだけで頭が痛くなってくる。
けれど、試した甲斐はあった。ミルクセーキが嫌いかは知らないけれど、少なくとも結意ちゃんにとっては意外にもコーヒーの方が好みだったようだ。
…やはり、姿はよく似ていても、優衣姉と結意ちゃんは違うんだなぁ。
こんな下らない自己満足な行為で、俺はようやく踏ん切りをつけられた。
俺が結意ちゃんを助けるのは優衣姉と重ねる為じゃない。
俺の親友の為に。そして結意ちゃんの幸せの為に尽力する。
迷いなど初めからなかったが、きっと結意ちゃんとももっと真っ直ぐ向かい合えるだろう。
俺は自身への戒めも兼ねて、ミルクセーキの封を切り、喉にかっ込んだ。


…どうして優衣姉はこんなモンを愛飲していたんだろうか。

9 :天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:01:40 ID:jwJtygsU[4/5]
* * * * *


およそ30分かけて白陽高校へと戻ってきた俺と結意ちゃんは、昇降口で傘の水を払いながら考えていた。
穂坂の住所を知るためには、誰に聞くのが手っ取り早いかを。
…けれど、時計の針は既に4時を指そうとしているところだ。
体育館の方から靴底の擦れる小気味良い音と、ボールの弾む音がする以外は実に静かなものだ。
部活動のない生徒たちはほとんど帰ってしまったんだろう。
とりあえずは、クラスに戻って様子を見てみようか。もしかしたら…だが、誰かしら残っている可能性もある。
靴を脱いで上履きに履き替える、そんな些細な動作だったが、雨でぐしょ濡れの靴下を晒すのにはなかなか抵抗感があった。
特に、隣のお姫サマも同様だったようで、微かに苦い顔をしていた。
…まあ、結意ちゃんのソレならば一部のマニアには垂涎モンだろうけれど。例えば…そう、あの飛鳥ちゃんをも上回る直情型の熱血バカとかには、などと内心で冗談めいてみた。

───そのせいなのかどうかは図りかねるが…なにやらバイクの走るような音が段々と近づいてきた。
おいおい、こんな雨の中をバイクで飛ばす阿呆がいるのかよ。どんな物好きだ。
まさか俺のような″死に損ない″じゃあないだろうな…と考えているうちに音はどんどん近づき…ついに校門前にバイクが乗り付けやがった。
俺たちが靴を脱いでからここまでおよそ15秒。
ヘルメットを素早く脱いでソイツは昇降口へと走って来る。途中、俺と目が合ってしまった。
するとソイツは面食らった様なポーズをとり、さらに加速してこっちに向かい…対面した。

瀬野 遥。結意ちゃんファンクラブとかいう薄気味悪い…もとい、得体の知れない集団を構成する男。
存在自体がネタのようなこの男がこんなにも切羽詰まった表情をするのはどうも違和感があった。
肩で息をし、髪から雫が垂れるのにも構わず、瀬野は口を開いた。

「佐橋から聞いた。神坂が、病院から消えたってな。」
「まあ、ね。そうか、佐橋からねぇ…」

あいつの根回し力の高さは、本当に尊敬に値するぜ。
自分の予知だけでは状況を打開できないと踏んだ佐橋が、こいつを呼んだんだろう。
恐らく、こいつ″ら″の持つネットワークは即戦力になる。
…実際は、どの程度のネットワークなのかは全く知らないのだけれど、それでも頭数が増えるだけでも有難い。
そう期待を寄せたんだが…

「すまねぇっ!」

瀬野はいきなりその場で土下座をした。その突拍子もない行動に俺たちは驚く。

「吉良は………穂坂 吉良は俺の妹なんだ。俺がしっかりしていれば…吉良のことを見ててやれば…
こんな事にはならなかったのに…! 本当に、すまねぇ!」

───衝撃は、2段階で喰らわせられた。
まさか、穂坂と瀬野が兄妹だったなんて。だって…どう見ても似ていない。

「それは…事実なのか?」俺は慎重に、瀬野に尋ねてみる。
「本当だ。俺たちの両親は3年前に離婚してな…俺はお袋に、吉良は親父に引き取られたんだ。」

…なんてことだ。状況は、意外な形で好転したようだ。
こいつならまず確実に、穂坂の住まいを知っているだろう。佐橋の判断は、まさに英断だったわけだ。
…けれどもその前に、結意ちゃんが何かを言いたそうに、唇を噛み締めている。
なにを言うつもりなんだろう、と軽く様子を伺うが…次にお姫サマがとった行動は予想だにしないものだった。

10 :天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:03:02 ID:jwJtygsU[5/5]
「───舐めてんの…!?」

一閃。左足を横に降り抜く。瀬野の顔面を刺すように蹴り飛ばしたのだ。

「がは、っ!」

瀬野は身体ごと右に吹っ飛び、下駄箱に身体を打ち付けられた。
ガシャン! と激しい音がする。金属製の下駄箱から放たれた音だ。
瀬野は痛みに右頬を手で押さえ、のたまう。そこにさらに結意ちゃんは歩み寄り、瀬野の背中を思い切り───打撃を加えるべく踏み付けた。

「ご、は…っ、ゆ…結意…ちゃん…?」
「…誰が、″名前で呼んでいいって言ったの″?」

瀬野はどうやら、結意ちゃんの逆鱗に触れてしまったようだ。
しかし、名前で呼ぶことすら許さない今の発言からして…俺はどうやら一応の信頼は得ているようだった。
ただし瀬野、てめえはダメ…だったようだ。

「…飛鳥くんに何かあったら、兄妹そろって殺すよ。
わかってるのかな? 私、すごく怒ってるの。余計なおしゃべりは許さないよ。…黙って、あの女のところに案内しなさい。」

何より戦慄すべきは、結意ちゃんはここまでの仕打ちを瀬野にしておいて、一貫して無表情でいる、ということだ。それが逆に恐ろしい。
穂坂に対して怒っているとはいえ…結意ちゃんがここまで残虐さを露わにするとは思わなかった。

「───とっとと起きなさいよ!!!」

結意ちゃんはとどめとばかりに、踏んでいた足で再度踏み付け、打撃を与えた。

「~~~~ッ!!」瀬野は最早声にならない声を上げる。…見てられないぜ。
「やめてやれよ、結意ちゃん。」俺は瀬野に助け舟を出してやる事にした。
「今瀬野を蹴っても、事態は変わらないだろ?穂坂の場所がわかるなら、早く向かおうぜ。」

これで怒りを収めるお姫サマではないだろうが、目的は別にあるんだから。
少しは冷静さを取り戻してくれよ、と願う。

「…わかってるよ、そんな事……自分で、自分を抑えなきゃいけないことも。
でも………私達を引き裂こうとする奴は、絶対に赦せない。」

少し弱めの声で結意ちゃんは語り、足を瀬野から退ける。そのまま黙々と靴へと再び履き替え、外へと歩いて行ってしまった。
俺は瀬野に手を差し伸べ、起こしてやる。
その右頬は赤く腫れかかっている。あの蹴りは中々の威力があったようだ。

「瀬野、お前が悪いわけじゃないと俺は思ってる。でも、ここは堪えてやってくれないか?
…知っての通り、結意ちゃんには飛鳥ちゃんがいないとダメなんだよ。
…ご覧の通り、不安定になる。」
「わかってる、んなコトは。だからこうして、頭下げに来てんだからよ…
殴られる覚悟も、とっくにできてる。…手じゃなくて、足が飛んできたけどよ。」

へえ…こいつ、こんな穏やかな表情ができたのか。
顔を蹴られた事に対しても腹を立てないばかりか、こいつから″覚悟″という言葉が聞けるとは思っていなかった。

「吉良の家に案内するよ…兄貴として、あいつを止めてやらなきゃな。」
「…オーケー、頼んだぜ。」

俺からの信頼の証として、その言葉を瀬野に送る。
今は、こいつの覚悟とやらを見せてもらうとしよう。