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54 :ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:18:26 ID:2.2JYbKA
土曜日の4時限目。俺こと池上哲也はこの時間が大好きだ。もう少しで帰れる・・・明日は遊べる・・!そんな思いが湧き出るこの感覚が好きだからだ。
この時間は日本史。先生は中年の、サングラスをかけたおっさん。
教科書を読みあげ、板書を書くだけの授業なんて聞く意味はない。
だから俺は、日本史の時間は窓の外を見ることにしている。俺の席は窓際、そして外はいい天気。
ああ・・・早くこんな時間から解放してくれ!・・・とは言ってもまだ授業は30分ほど残っているわけだが。
・・・っと、そうしていると横からブツブツと何やらただならぬ声が聞こえてくる。
声のする方を見ると、隣の席の少女が俯きながら呪詛のような言葉をぶつぶつと呟いている。
またか・・・。そう俺は思った。
隣に座っている少女の名前を米沢愛理という。米沢愛理はとても活発で爽やかなスポーツ美少女である。ソフトボールをやっていて、彼女は男女ともに人気がある。まあ、スポーツをやっているから、性格は明るい訳で。クラスのムードメーカー的な存在である。
・・・が、その彼女が最近変なのだ。彼女の様子が。いつもなら授業中にも積極的に発言して、周りを盛り上げるのだが最近はそれが少ない。そしていつも下を向いてぶつぶつと呪文のようなナニカを唱えている。
なぜなんだろうか・・・?女にまだ興味のないおこちゃまな俺が女心を知ろうとしてもそれは無理だ。だから、理由はさっぱりわからない。
その声は耳を澄まさないと聞こえないくらい小さいものなので、このことは隣の席である俺しか知らない。だから、彼女の周りの友人は彼女の異変には気付いていない。
この呪詛のようなナニカを吐く時の彼女は別人格なんじゃないのかというぐらい、彼女らしくない。
前に一度、彼女がそのセリフを吐いた時俺はついつい、彼女のほうをボーっと見てしまった時があった。その視線に気づいた彼女はハッとして、笑顔を作り、
「あ、そ、その、なんでもないよ、気にしないで!」と言ってごまかした。
その時の彼女はいつもの彼女に戻っていた。そんなことがあっても米沢は度々、俺にこの声を聞かせてくる。いったい何なんだ?このときの米沢はとても威圧的で、俺はいつも恐ろしいと思う。
こんなことになった原因はナニ?そんなことを考えていたら、彼女が俺のワイシャツの袖を引っ張っていた。
俺が米沢のほうを向くと、彼女は爽やかに笑って言った。
「この後、暇かな?」

55 :ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:19:21 ID:2.2JYbKA

・・・という訳で俺は米沢に誘われて駅ビルの喫茶店で飯を食っていた。
俺は別に腹が減っているわけじゃないから、コーヒーとサンドイッチだけをパクついていたが、米沢は特大ビーフカレーとデラックスパフェを黙々と食っていた。こんなちっちゃい体によく入るよなあ・・。こんだけ食って太らないってことは、それだけ運動しているのだろうな・・・。そんなことを考えていた。
沈黙。食事の間、今のところ俺たちの間に会話がない。
・・・何で米沢は俺を誘ったんだろう・・・?
俺は小さくため息をついた。すると、米沢は急にカレーを食う手を止め、俺を見据える。
「どうしたの?ため息なんてついてさ。」
指先をナプキンで拭いた後、米沢は髪の毛をいじりながらそう聞いてきた。
「い、いや何でも無いよ。」と冷静に取り繕って答えた俺だが、内心冷や汗をかいている。
何と言うか、今の米沢がまとっているオーラがさっき垣間見えた黒いオーラに近いような気がしたからだ。
「『どうして米沢は俺を誘ったんだろう?』って思っているでしょう。」
オーラを和らげ上目遣いで微笑みながら聞く。運動はできるけど、160あるかないかの身長の彼女は身長178の俺にとってみれば小さな女の子だ。その米沢に何をおびえているんだろうな。
「そうだな・・・。まあそんなところかな。もしかして、金欠?奢ってほしいとか?」
奢りはしないが、雰囲気を明るくするために俺は必死に冗談めかして言う。でも、雰囲気は和みなどしなかった。
「そんなんじゃないんだ・・・。もっと真剣な話だよ。」
・・・何か元気がない。声も弱弱しいし。こんな米沢は初めて見る。いつも快活に笑い、陽気に話しかけてくるいつもの米沢からは決して見られない一面。ある意味では、あの黒いオーラを纏った彼女と似た部分があるのかもしれない。意を決したように米沢は口を開く。
「私・・・さ、原先輩と付き合ってるの・・・。知ってる?」
「ああ、勿論。」
これは周知の事実だ。原先輩は野球部のキャプテンだ。チームのムードを良くするのが得意な選手だ。その辺は米沢と似ているし、やっているスポーツだってソフトボールと野球でほとんど同じだし、お似合いのカップルとして校内でも有名だった。
「それが、どうかしたのか?」まあ、なるべく地雷を踏まないように、聞いたつもりだった。
「あのね・・・、原先輩が浮気しているみたいなんだ。」

56 :ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:21:12 ID:2.2JYbKA
チュドーン!!!!
いきなり地雷かよ!地雷原かよ!ああ、彼女少し泣きそうになってるぞ!フォローを!彼女にフォローを入れるんだ!
「あ、あ、そのごめん。」
フォローになってねえええ!謝ってどうするよ!?
でも、俺はこんなときどんな接し方をすればいいのか分からない。映画に出てくるカッコいい男とかなら、黙って彼女の話を聞いて最後に深い言葉を残すのだろうが、俺には無理だ。女心をつかむような素敵発言は俺には無理なんだ!!
「いいんだ。そんなに謝らなくても。最近知ったわけじゃないし。結構前から知っていたよ。」
なんか逆に俺がフォローされてる気がするぞ・・。何故か無性にのどが渇く。ああくそ、アイスコーヒーにしておけばがぶ飲みできたのに。俺は少し間をおいてからしゃべりかけた。
「その・・・結構前って、いつから?」
彼女は少し考えているそぶりを見せた。はて・・?何で考えるんだろう。いつから知っていたかなんてすぐに分かるはずなのに。意外とそういうことにはルーズなのかな?
「大体、2カ月ぐらい前かな・・・。」
2カ月?・・・おかしいな。じゃあ彼女の様子がおかしかったのって、先輩の浮気のことについてじゃないのか?彼女の様子がおかしくなったのは3カ月以上前。いや、もしかするともっと長いこと前かもしれない。時期が一致しないな・・・。なんでだろう?
「私、どうすればいい?原先輩にどうしたらいいと思う?」
すがるような眼で俺に尋ねてくる。どうしよう・・・。下手なこと言えないぞ・・・。もし適当なこと言ったら、彼女も原先輩も傷つけることになってしまうかもしれないんだよなあ・・・。どうする俺!?
なけなしの恋愛知識や俺の偏見に満ちた恋愛観から絞り出した答えがこれだった。
「一回、原先輩と直接向かい合って話せばいいと思うよ。嘘偽りなく本音トークをすれば、米沢の誤解ならそれを解くこともできるじゃん。何も原先輩が浮気してると決まったわけじゃないんだろ?それならば、本音トークをするべきだ。」
・・・なんとも無難な、悪く言えば責任丸投げの発言。要は、この話に関しては2人の問題だから俺を巻き込まないでくれ!と言ってるようなものだ。けど、俺にはそれでいい。原先輩は仮にも野球部のキャプテンだ。ここで「別れるべきだよ。」って言って、本当に2人が別れて、その原因が俺だとばれたら報復行動を起こすかもしれない・・・。そうなれば非力な俺は十中八九負ける。・・・面倒事はごめんだ。

57 :ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:22:28 ID:2.2JYbKA 「ねえ、池上。あんたはそれで・・・いいの?」
と米沢は顔を下に向け、髪をしきりにいじりながら聞く。



・・・はて?この質問の意図は何だろう?別に米沢が原先輩の浮気について本当かどうか話し合うことによって俺に不都合が生じるわけじゃない。いや、むしろ其れによって米沢が原先輩と仲直りしたら、それはそれで俺は祝福すべきことだし、友人が元気を出してくれたら俺としては嬉しい。
・・・ほら、何にもおかしくない。何を言ってるんだろう、米沢ってやつは。
「いいに決まってるじゃないか。今からでも遅くないさ。原先輩だって、本当に浮気をしているんなら罪悪感を少しは持っているはずだよ。もし持っていなかったら別れればいい。とにかく、米沢の幸せは(友人である)俺にとっては嬉しいことだよ。」
彼女は驚いたような顔で俺を見ている。顔真っ赤だよ。

・・・なんか、いつもの爽やかなボーイッシュ美少女の彼女を見すぎているせいか、米沢が女の子らしい顔をするとそのギャップが俺の心をピンポイントについてくる。要は可愛い。原先輩も、こんなに可愛い彼女がいるのに浮気をするとは贅沢な人だなあ。
そんなことを思っていると、何か恐ろしいノイズが耳に入ってくる。恐る恐る彼女のほうを見ると、彼女は俯いたまま、やはり呪詛のような独り言をつぶやいている。

・・・ああ、なんでそうなるんだ?俺は単に原先輩と米沢の恋愛事情にアドバイスを入れただけだぞ。決して邪魔したわけでもない。なのに、何故彼女は怒りをにじませ、呪詛のような独り言をつぶやくのだろうか。
だんだんと恐ろしくなってきた俺はさっさと帰ることにした。
「ごめん。何か俺が立ち入っちゃいけない領域に入ったから、怒ってるのかな?ごめん。ここの代金払っとくから。俺先帰るよ。」
彼女は何も言わなかった。ただ下を向き、放心しているような錯覚を受ける。

俺も何も言うまい。あとは原先輩と彼女の問題。俺は臆面もなく立ち入っちゃいけないのだ。所詮俺は部外者。さっさと帰ろう。ただ、彼女には幸せになってほしい。それだけは俺の嘘偽りのない気持ちである。