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113 名前:ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 17:54:55 ID:jjDJLj0E [1/2]
第4話



俺は、米沢と共に本屋を出た。
絵里ちゃんはまだバイトがあるらしく、また今度、としばしの別れの挨拶をしてきた。
米沢は・・・なぜか機嫌が悪そうだ。
「あ・・・あのさぁ、米沢・・・。」
「え、何?」

え、何?じゃないだろ!
いきなり笑顔になる。さっきまでの不機嫌オーラはどこへやら。
俺は少し拍子抜けしてしまった。
彼女はまるで憑きものが落ちたかのような屈託のない笑顔を浮かべてゴキゲンだ。
俺はそんな米沢を見て少しドキッと来てしまった。他人の彼女なのに・・・。

「この後暇なら、買い物の荷物持ちやってよ。」

出た!米沢のわがまま!
でも、ここまですがすがしく頼まれると断りづらいなあ・・・。
しかし、何で原先輩に頼まないんだろ。俺よりも彼氏と買い物したほうが楽しいだろうし、それとなく原先輩の浮気について聞けるだろうし・・・。

まあ、でも今は気まずいということなんだろうなと結論付けておこう。
断る理由もないし引き受けることにしよう。

「いいよ。どうせやることも無いし。」
「え?本当?ありがとう!」
「どこで買い物するんだ?」
「隣町のショッピングモールに行こう!」

114 名前:ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 17:55:40 ID:jjDJLj0E [2/2]

明るくほほ笑む米沢は本当に無邪気で可愛い。こんなかわいい子ほっといて浮気するとは、原先輩って改めて贅沢ものだなと思う。

米沢が指定したのは最寄駅から電車で10分ほどの所にあるこの辺で一番大きなショッピングモールだ。
雑貨から洋服、家具家電やおもちゃなど様々な店が混在している。
米沢とここへ買い物に来るのは久しぶりである。
俺たち二人はその後、特にあてもなくショッピングモール内をぶらぶらしながらウィンドウショッピングを楽しんだ。
米沢は俺に荷物持ちを頼んだんだけど、何かを買おうという素振りは見せない。
俺に気を使ってくれているんだろうか・・・。
女のする買い物だから俺の興味を引くようなものは見なかったけど、米沢と喋りながらの買い物だったから退屈はしなかった。

「ふーウィンドウショッピングを堪能した!」
「結局何も買わなかったな。」
「うん、私もそんなにお金持ってるわけじゃないからね~。それに、池上の電車賃も私が出したし。」
「うっ!」

そう。漫画を買う金も持ち合わせていなかった俺はここへ来るために必要な、往復の電車賃すら持っていなかったのである。
仕方なく恥をしのんで米沢に貸してもらったのだ。
今日一日とことん情けないな・・・。

「まあまあ。楽しかったから別にいいよ。電車賃くらいどうってことないって。」
「どうってことないような金額すら払えない俺って一体・・・。」
「あっ、はは・・・。あっ、クレープ屋がある!おごってあげるから一緒に食べようよ。」

米沢が指さした先にはなんだかオシャレな雰囲気のクレープ屋が。なんだか男女のカップルが目立つ店だな。
金額は500円!高い!

「いいよ、米沢に悪いよ。米沢だけ食べればいいって。」
「何言ってるの。私だけクレープ食べて池上だけ手持無沙汰ってわけにもいかないでしょ!」

115 名前:ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 17:56:36 ID:TzcMM4fg
「え、別にそれでも気にしないけど。」
「私が気にするのよ!それに、今日お昼に喫茶店でおごってくれたでしょ?そのお礼よ。それならいいでしょう?」
「う、うん分かったよ。」

米沢に押し切られる形でクレープをおごってもらうことになった。
米沢もすごく友情に厚い女の子なんだな。と妙に感心してしまった。

「池上、あんたはどれ食べたい?」
「じゃあチョコバナナクレープで」

やっぱりなんだか米沢に悪くて一番安い奴を選んだ。
米沢はデラックスストロベリークレープとかいうのを頼んでいた。
写真で見たけどかなりでかかった。
こんな小さな体の女の子がこんなにたくさん食べられるのか?ってさっきも同じ疑問を抱いた気がする。
注文してからしばらく経つとチョコバナナクレープとデラックスストロベリークレープが同時に手渡された。
ふんわりとした生地にバナナとクリームがサンドされており、その上からチョコレートがたっぷりとかかっていた。
一口食べると口の中に甘ったるい香りが充満した。味はとてもよかった。

「おいしいな、このクレープ。バナナとチョコレートの相性抜群だ」
「私のもおいしいよ、いちごのクリームが甘くて。」

米沢はクレープの味に満足しているのかやたら上機嫌な様子だった。
俺はというとそんな米沢に少し見とれていた。米沢の笑顔はやはり可愛い・・・。
米沢の顔をボーっと見つめていたら突然俺の鼻先に食いかけのクレープが差し出された。

「ね、クレープの取り換えっこしようよ。私のクレープ食べていいからさ、池上のクレープも食べさせてよ。」
「えっ、でもそれは」

間接キスじゃないか!いや、嬉しいんだけどやっぱ原先輩がいるのにこういうのはまずいだろ。

116 名前:ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 17:57:16 ID:IF7Pd7wo

「なに赤くなってんの!いまどき関節キスくらいで恥ずかしがるなんて初心よ初心!」
「う、初心で悪かったな!」

今日び女子高生は間接キスなんて何とも思っちゃいないのだろうか。
う~ん、小学校中学校の時なんか女子は間接キスでキャーキャー騒いでいるモノだったが。
やはり男と付き合い始めた女の子からすれば間接キスで動揺するのはおこちゃまなのだろうか・・・。

「じゃ、じゃあ米沢がそう言うんなら食べ比べしてみるか。」
「ん、じゃあ口あけて?」
「・・・えっ!?あーんすんの?」

さすがにあーんは彼氏でもない男にするのはおかしいんじゃない!?

「当然じゃない!ス、スキンシップだよ!スキンシップ!」
「わ、分かったよ」

観念して俺は餌を待つ金魚のようにパクパクと口をあける。
きっとはたから見れば俺の顔は間抜け面だっただろう。
大きく開かれた口に米沢の食べかけのクレープが押し込まれる。
ふんわりとしたいちごの味が広がって、まさに「舌が幸せ」だ。

「そ、それじゃあ今度は私が食べさせてもらおうかな!」
「え、米沢もやるの?」
「当然!池上も食べさせてもらったんだからちゃんと私にも食べさせなくちゃダメ。」

米沢はそう言うと、顔を上げて、目をつぶり、口を上に突き出した。
米沢のその様子が誰かとキスをする体勢みたいでドキドキしてしまう。
俺は早く終わらせてしまおうとクレープを米沢の口先に持って行った。
すると米沢は俺のクレープをぱくりぱくりとちょっとずつかじっていくように食べ始めた。
思い切って一口で食べるのかと思っていたから驚いてしまった。
まるでリスが木の実をかじっているような、そんな感じだった。
なんというか可愛さの権化だね。それを今この瞬間とくと見た。

117 名前:ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 17:57:54 ID:g3kMIPa6
クレープを食べ終わった後俺たちはショッピングモールを出た。
「まだ3時半だよ。池上、もう少し遊ぼうよ。」
「そうだな。でも次に行きたいところあるのか?」
「じゃあ次は池上の行きたい所に行こうよ。」
「え、そうだな・・・行きたい所か・・・。」
「この町のお勧めスポットとか知らないの?」

お勧めスポットって言われてもなあ・・・。近くにこの町の名所のでっかい神社があるが正直つまんないだろうし・・・。
その時ピーンとひらめいた。
「お勧めスポットが思いついた、俺についてこい!」
「え、どこ?どこ?」
「それは着いてからのお楽しみだ!」

俺は冴えてる。あそこなら誰でもウケがいいはずだ。
ショッピングモールから東にいくと閑静な住宅街に出る。
その小さな住宅街の坂道を10分ほど上がっていった所がそれだ。

港が見える展望台というそのものズバリなネーミングの展望台である。
ここからなら俺達が住む街も全部見渡せる上、名前の通り港に船が出入りするのも見ることができる。本当は夜景がきれいなんだけど、夕焼けに染まる景色もなかなかオツなものだ。

「どうだ、きれいだろ!」

自信たっぷりに米沢のほうを振り返ると、なぜか米沢は俯いて立っていた。
俺は、さっきまで機嫌がよかったのに突如暗くなった米沢に戸惑ってしまった。

「よ、米沢?どうしたんだ・・・。」

俺はその時、確かに見た。米沢は泣いていた。
ポロリと涙が頬を伝っているのがはっきり見えた。

「え、泣いてるじゃないか・・・いったいどうしたんだよ。」
「ご・・ごめん。心配させちゃって。ここではあんまりいい思い出がないから・・・。」

118 名前:ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 17:58:31 ID:yFIPINRA
もしかして、俺はまた地雷を踏んでしまったのか?
原先輩がここで浮気していたとかなのか、それともまた別の理由なんだろうか・・・。
いずれにしても俺は米沢に嫌なことを思い出させてしまったことに変わりはない。
俺は「なんとかしなくちゃ」という一心で泣きそうになっている米沢を元気づけようとした。しかしなんで泣いているのかすら分からないから慰めの言葉が見つからない

「お、おい米沢!俺、新しい隠し芸を身につけたんだ!よかったら見てくれないか!」

だからといって、苦し紛れに口から出まかせを言うのはやはり間違っていると思う。
そんなもん身につけてねーよ!

「え?」

米沢は驚いたように俺を見ている。
今更、隠し芸なんてなかった。だなんて言えない・・・。
腹を据えるしかない。なんでもいいからやらなければ。

「え、えーエアギターやります!」

隠し芸なぞ持ち合わせていなかった俺はまたも苦し紛れにエアギターを披露することにした。昔すこしだけギターをやっていた杵柄だ。
でも米沢はクスリとも笑ってくれない。場の空気が凍りついてるのだが、このまま中途半端なまま終わらせると余計に恥ずかしい。
やばい、羞恥心で死んでしまいそうだ・・・。
エアギターをたっぷり3分もやると、俺は恥ずかしさのあまりその場にうずくまってしまった。死にたいような気持さえしてくる。

「く・・・くくっ・・・!あははははははは!」

突然の笑い声に俺はびっくりした。
米沢は腹を抱えて笑っていた。エアギターじゃなくて、エアギターを終えた後の俺の行動が笑えてしまったのだろうか?
少し悲しいけど米沢が泣きやんでくれて助かったと胸をなでおろした。

「もしかして、今の私を励ましてくれたの?」

119 名前:ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 17:59:16 ID:/3RBQZQg
笑いをこらえながら米沢は聞く。
その顔にはもう涙は流れていない。

「お・・おう。そうともよ。なんか、ここに着いた途端泣きそうになってたからさ。米沢を励ますためなら喜んでピエロになってやろうと思ったのよ!」

そう。米沢には泣き顔なんて似合わない。女の子には笑顔が一番似合う。
その証拠に、今米沢はすごくいい顔をしている。

「ありがとうね。うん。中学生の時、ここでちょっと嫌なことがあったから。だから今までここに来るのを避けてたんだ。でも、池上のおかげでここってこんなにきれいな景色が見えたんだってこと思い出せたよ。」
「どういたしまして。俺、ここの景色が子供のころから大好きでさ。米沢にも見てほしかったんだよ。でも、米沢は知ってたんだな。ここの景色。」



「・・・うん。」
小さくうなずくと米沢は夕日が沈む水平線に目を向ける。
俺も米沢にならって同じ方向に目を向ける。
港に大きな船が入ってくる。高速道路にせわしなく行き来する車が豆粒みたいに見える。遥か向こうに摩天楼も見える。そして何より美しい夕陽がそれらをすべて幻想的な茜色に染めていた。
人工物と自然が融合した見事な景色だって雑誌には書いてあった。対照的なものが融和した時、こんなにも美しくなるものだ。
俺も米沢もこの景色に見入った。