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178 名前:ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/21(水) 09:29:29 ID:GXhdRRJA [2/4]
第6話



日曜日の朝。
俺は目覚めと共に激しい頭痛を感じ取った。体全体もだるいし、寒気もする。
立ち上がろうとするとひどい立ちくらみがして、視界もなにやらぐにゃりとしていてうまく歩けない。もしや・・・と思って体温計で熱を計ってみる。
ふらふらと定まらない視線がかろうじて体温計の数値を認識した。
「38度7分」

この表示を見た瞬間俺はぶっ倒れた。
昨日の疲れがどっと出たからなのだろうか・・・。
姉は今日、朝から大学へ行くと言っていたから恐らく家にはいない。
親父も日曜だというのに仕事へ出かけてしまったようだ。仕方なしに俺はとりあえず着替えることにした。
汗びっしょりの服を脱ぎ捨て、新たな寝間着に着替えたところでさらなる頭痛と悪寒が襲ってきた。

「うう・・・めまいがする・・・。」

ふらふらとした足取りでクローゼットからベッドに倒れこみそのまま枕まで這い進んだ。
今日は一日中寝て疲れをとろう、と思い目を閉じた矢先に手元の携帯から俺の好きなロックバンドの曲がやかましく鳴った。

「うぐぐ・・・メールか・・・?こんな時に勘弁してくれよこの着メロ・・・頭痛が悪化しちまうよ・・・。」

自分で設定したやかましい着メロに文句を言いながら携帯の画面を見ると、本条さんからのメールだった。

『From本条さん Sub映画見に行きませんか?
この前池上君が見たがっていた映画の入場券が偶然2枚手に入りました。
よければこれから一緒に映画を見に行きませんか?
午後から上映ですから11時ごろにどこかで待ち合わせしてお昼も一緒に食べに行きましょう。お返事待っています。』

179 名前:ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/21(水) 09:30:11 ID:GXhdRRJA [3/4]

いかにも本条さんらしい礼儀の正しいメールの文面だった。
是非行きたいですと返信したいところだがあいにく俺は高熱を出していて、映画を見に行く体力もない。
俺は泣く泣く断わりのメールを作成した。

****************************************

朝ご飯に姉が大学行く前に作り置きしてくれたサンドイッチを食べて薬を飲んだ後、俺はすぐにベッドに横たわった。
しかし体の芯まで病原菌は蝕んでいたのか、布団にくるまっても悪寒は収まらなかった。
それどころか耳鳴りまでしてくる始末で時計の針の音のようなかすかな物音さえもわずらわしくなっていった。
この寒気を抑えるために、温かいうどんが食べたい。
カップ麺のどんべえでもいいから温かいうどんをだれか持ってきてくれー!

しばらくの間寝たり起きたりを繰り返しているうちに時刻は11時ごろになっていた。
ぴんぽーんという間抜けなチャイムの音が鳴り響いた。
本当はこのままチャイムを無視して寝ていたいところなのだが、もし今玄関先に来ている奴が姉の頼んだ通販の品を持ってきた宅配便の人だとしたら、姉に半殺しにされかねない。
仕方なく俺は重い体をひきずって玄関のドアを開けた。
するとそこには見慣れた女の子の姿があった。

「よっ!池上!遊びに来たよ!」
「米沢、お前だったのか。」
「何、その言い方!失礼ね。」

すこしふくれっ面になって文句を言う米沢。わがまま娘の登場に頭痛が倍増したような気分だった。いつもなら相手してやるところだがあいにくこの体調である。なんとか帰れと言いたいのをこらえてやんわりと帰ってほしいと伝えることにした。

「米沢、悪いんだけど今調子が悪くてさ、風邪引いたみたいなんだよね。移しちゃ悪いから帰った方がいいよ。」
「え、そうなの!じゃあ私が看病してあげるよ。」

えっ・・・それは大丈夫なのか?素直に帰ってくれると思っていたので少し焦ってしまった。

180 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2012/11/21(水) 09:30:41 ID:GXhdRRJA [4/4]
確かに風邪ひいて一人でベッドに横たわるのは心細くて不安になるのは間違いないのだが、米沢の看病となるとまた別の意味で不安だ。

「いや、そんなの米沢に悪いって。俺なら大丈夫だから!」
「こんなに辛そうにしてるのに何言ってんの。病人は大人しく私の言うこと聞きなさい!それとも私の看病は嫌って言うわけ?」

ぶっちゃけそうです、とは口が裂けても言えないので口ごもってしまう俺。情けないなあ。
言い返せないでいると米沢は突然にぃ~っと口元を綻ばせた。

「ふふん、決まりだね。じゃあ病人は寝室に直行ー!」
「やれやれ」

にやりと笑う米沢に背中を押され、そのまま寝室のベッドに倒れこむ俺。
米沢は倒れこんだ俺の体に布団をかけた。どうせならもう米沢に甘えてしまおうと俺は開き直ることにした。俺の願いはただひとつ、温かいうどんを食うことだ。

「なあ米沢、俺温かいうどんが食べたいんだけど・・・。」
「あら、ようやく私を頼る気になったの?いいよ、うどんくらい楽勝!私特製の手作りうどんを食べさせてあげる!」
「えっ、それは・・・。あの、冷蔵庫にインスタントの鍋焼きうどんがあるからそれを手順通りに作ってくれれば・・・。」
「なあ~に言ってんの!病気には人の真心がこもった温かい手作りうどんが一番なんだから。」
「いやだって、米沢は料理が・・・。」
「だ、大丈夫!うどんくらいなら全然、平気!」
「その言葉、信じていいんだな。」
「もう、池上ったら失礼なんだから。池上をうならせるようなうどんを作ってやるんだから!」

えへんと胸を張りながら堂々と宣言する米沢。
その言葉に少しほっとしたが、完全に安心するのは実際に料理を見てからにしよう、と油断は捨てない方針でいくことにした。

181 名前:ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/21(水) 09:32:09 ID:MYjeBAd.
その後米沢は我が家の冷蔵庫を調べ、足りない材料をリストアップし始めた。

「あんたんちの冷蔵庫どうなってんの?まともな食材がないじゃない。」

と米沢は我が家の冷蔵庫の中身に関して少々おかんむりのご様子。
おかげで姉が昨日の買い物係のはずなのに職務怠慢をしていることが発覚した。

「それじゃあ私、スーパーで少し買い物してくるから大人しく寝ていてね」
「この体調じゃおとなしく寝る以外にないから安心してくれ。」
「ふふっ、それもそうだね。」

そう言って米沢は寝室から出て行った。
米沢がいなくなった瞬間寝室には再び静寂が訪れた。部屋の中の時計の秒針が時を刻むコチコチという音が鮮明に聞こえてくる。
こうしているとやはり一人っていうのは寂しいしつまらないものだな。礼儀知らずのようだが、その時初めて米沢が看病に来てくれてよかったと思った。

「しかし、米沢はああ言ったが本当にまともなうどんが出てくるのかな?うどんじゃないナニカが出てきたらどうしよう・・・」

米沢の料理の腕は詳しくは俺の知るところではない。
しかし、調理実習でピラフを作ることになった時、米沢がリーダーの班だけはピラフではなくなぜか雑炊を完成させたという逸話がある。米沢曰く「すこし水加減を間違えた」とのこと。
なんですこし水加減を間違えたくらいでピラフが雑炊になるんだよ・・・。逆にすごいぞ。
この話から判断すると米沢の料理の腕は壊滅的なのではないかと身震いしてしまう。
でもそれは去年のことだから、もしかしたら今は料理の腕も上達しているかもしれない。本当にそうであればいいんだけどなあ・・・。
そんなことを考えているときに再びあの音が響き渡った。

ぴんぽーん

「誰だろう?わざわざもう一度チャイムを鳴らす必要もないし、米沢ではないだろうから今度こそ宅配便の人かな。やれやれ俺は病人だってのに・・・。」

ベッドから起き上がった途端に体中きしむような筋肉痛が走るがなんとか玄関までたどり着く。

182 名前:ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/21(水) 09:33:05 ID:cWet0pPM
がちゃりとドアを開けるとそこにはやはり見慣れた女の子の姿があった。

「池上君!看病しに来たわよ!」

そこに立っていたのはロングヘアーをたなびかせ、陽気に笑う本条さんだった。
いつもなら見ているだけでほっこりするような笑顔なのだが、今の俺はその笑顔を見ると脂汗がだらだらと流れてくる。
米沢愛理と、本条絵里さん。
つい昨日喧嘩が勃発しかけた犬猿の仲のふたりがこの家にそろった。
そう考えると俺の頭痛はさらに4倍増ししたような気がした。

「本条さん・・・どうして俺の家に。」
「どうしてって、看病しに来たって言ったじゃないの。」

驚きながら発言する俺に構うことなく本条さんは靴を脱いで玄関に上がりこんできた。
いやにニコニコしている。本条さんはニコニコでも俺はゲッソリだ。
本条さんはキョロキョロと家の中を見回している。

「池上君、もしかして家の人今日いないんじゃない?」
「ああ、親父もねえちゃんも今はいない。(でも米沢がさっきまでここにいてこれから帰ってくるんだよ!)」
「あ、そうなんだ。じゃあやっぱり看病しに来て正解だったかな!」

やけに嬉しそうにしゃべる本条さん。米沢に看病されているから帰れ、だなんて言えない雰囲気である。
ちょっとまずいんだけどなあ・・・もう少しで米沢が買い物から帰ってきてしまう。
もしばったりと仲の悪い2人が鉢合わせになったら・・・。
俺の家で喧嘩が勃発してしまうかもしれない。
ただでさえ避けたい事態なのに、ましてや今俺は重度の熱に苦しんでいる体だ。しんどさ100倍である。やっぱりなんとかして帰ってもらわなきゃ・・・。

「その、本条さん?」
「ん?どうしたの?早く横にならないと体に毒だよ?早く私の肩につかまって。」
「え、ああうん。ありがとう。」

183 名前:ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw[sage] 投稿日:2012/11/21(水) 09:34:04 ID:rbd/Wg8w
そう言われると断るのもなんか変だ。実際立っているのも辛いし、肩を借りるくらいなら・・・。
俺は本条さんの肩を借りてなんとか自室に戻ることができた。ぜーひゅー、ぜーひゅーという嫌な音が喉から響く。
なんだか看病をしに来たという女の子ふたりが来てから病状がさらに悪化している気がする。これじゃ本末転倒だよ。
本条さんは俺の熱で温くなってしまった水タオルを交換して、再びつめたい水タオルを頭に乗せてくれた。ひんやりとしていて心地がよい。
ありがたいんだけどこうしてはいられない。水タオルを替えてくれたのに帰れとは言いにくいがふたりが鉢合わせになると病状が最悪になる可能性がある。
なんとか帰ってもらおうと口を開く。

「その、本条さん?看病してくれるのはありがたいんだけど俺一人でも大丈夫だから帰ってい・・・ゲホッゴホッ!ゴボッ!」
「え、ちょ、ちょっと池上君大丈夫?・・・やっぱり心配で帰れないわよ。うちの人が帰ってくるまで看病してあげるからね。」

全て言いきる前に悪性の咳が出てしまった。そのせいで本条さんはますます看病する気マンマンだ。
やばいなあ・・・。
耳鳴りもさっきよりひどくなってきて本条さんの声もなんだか遠巻きに聞こえてくる感覚がする。それでも俺は再度言葉をひねり出そうとした。

「本条さん、あの病気移すと悪いし帰ってくれていいよ。」
「なに言ってるのよ。そんなに辛そうにしてるのに放っておいて帰れるわけないわよ。」

そうこう会話しているうちに耳鳴りが激しい俺の耳にも分かるような大音声が玄関から聞こえてきた。
「ただいまー!」

聞き間違えるはずもない、この声は米沢だ。
そして階段を上る音がだんだんと大きくなってくる。そしてついに俺の部屋のドアが開かれた。

「池上!安静にし・・て・・た・・?」
「米沢さん?」

ついに恐れていたことが現実になってしまった。
くらりと視界が一回転する。目眩が起きたのだ。・・・それも今日一番の目眩だ。