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263 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:33:48 ID:LN7/7c/6 第8話



原先輩にお別れのメールを打った後、原先輩からすぐに返信が来た。
送信してから5分きっかり。池上もこれくらい早くメールを返信してくれればいいのに。
内容は簡潔にまとめると浮気をしたことは謝るから考えなおしてくれ、というものだった。
予想通りだな、とそのメールを見て私は少し笑ってしまった。
正直原先輩が浮気したことについてはまったくどうでもいい。怒りとかそんなものは全く感じない。
ただただ、無関心。水が高いところから低いところへ流れるようなもののように捉えていた。
そもそも浮気するように仕組んだのはほかでもない、私なんだから。
私にとって原先輩は池上の気を惹くためだけの道具にすぎないのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
でも結局原先輩は何の役にも立つことはなかった。池上の気を惹かせることはできなかった。
だから原先輩を捨てなければならない。このままじゃ邪魔になるだけだから。
その為には原先輩の浮気に相当ショックを受けたかのように見せかけなくちゃ。

『TO 原 SUB もう何も信じられない
一度裏切った貴方の言葉なんて聞く気にもなれません。
例の女と末長くお幸せに。』

我ながらしらじらしいメール内容だ。ついつい苦笑してしまう。
原先輩も突然の出来事に目を白黒させているに違いない。
可哀そうだと思う気持ちは少なからず、ある。
でも、池上を手に入れるためには仕方のないことなのだと割り切った。
それに原先輩と別れたからといってのんびり構えてもいられない。
早く次に行動を移さなければ池上を本条とかいう高慢ちきな女に取られてしまう。
早速池上の家に遊びに行って、それとなく原先輩と別れたことを伝えようと決心した。

264 :雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 07:34:16 ID:LN7/7c/6


・・・これが昨日の夜の話だ。
今私は風邪で寝込んでいる池上にうどんを作ったあげる為に材料を貝にスーパーへ行っている途中だ。
私は内心、池上の評価を上げる絶好のチャンスだと歓喜していた。

・・・風邪で弱っている池上を、私が手厚く、優しく看病してあげる。
そうすれば池上の中で私に対する見方が変わってくることは間違いない。
ただの気の置けない友人から、気になる異性へと。
池上の中で募る私への想い。でも私が彼氏持ちだと思っているから思いは伝えられない。
そこで私が原先輩に浮気されて別れたと告げる。
二人の間を邪魔するものはなくなり、そのまま私たちは結ばれる・・・。

と、ここまでうまくいかないまでも池上との関係を一歩でも進展させるチャンスだ。
足取り軽くスーパーへ向かっていると、前方に将来の姉となる池上麻衣さんの姿が見えた。
・・・古代中国に、「将を射んとせば先ず馬を射よ」という格言がある。
将(池上)を手に入れるために、まずは馬(麻衣さん)から攻めていった方がいいということだ。
ここはきちんと挨拶して、まずはお義姉さんに気に入られて外堀を埋めることから始めよう。

「麻衣さん!お久しぶりです!」
「あら、貴方は愛理ちゃんじゃない?」
「ハイ、麻衣さんはこれからどうするんです?」
「ん?ちょっと用があったから近くまで帰ってきたのよ。また大学に戻るけどね。」

ラッキーだ。麻衣さんが帰ってきたら、ふたりきりになれない。

265 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:34:48 ID:LN7/7c/6 やはりいいムードを作るにはふたりきりじゃなくちゃ。

「そういう貴方はなに?哲也に会いに行くの?」

麻衣さんがいたずらっぽい笑顔を作って茶化すように言った。
何もかもお見通しってわけか。麻衣さんにはかなわないなあ・・・。

「ええ。哲也君、いま病気で寝込んでいるので看病してあげようかなと。」
「あらそうなの?昨日はぴんぴんしてたんだけどねえ。」
「弟さんの事は私に任せてください。ちゃんと看病しますので!」
「そう、ありがとね愛理ちゃん。じゃあアホな弟だけど、世話よろしくね。」
「はい!」

上々の反応だ。今のセリフ、麻衣さんは私の事を信頼しているみたいな感じがしてとても嬉しくなってしまった。
義姉さん、弟の事はなにもかもすべて私にお任せください。彼の為ならなんだってできますから。

私は上機嫌のまま、池上邸に戻ってきた。池上は今頃ベッドで私の作るうどんを待ち遠しく思っているところだろう。
今作ってあげるから少し待っててね、池上。

「ただいま~!」

私は大きな声でただいまを言った。
買ってきた袋から、ポカリスエットのペットボトルだけを取り出して池上の部屋に向かう。
うどんを作る前に池上の様子を見ておかなければならないと思ったからだ。
ちゃんと大人しく寝ていたかな?

がちゃりとドアを開けると、私の眼球に理解できない物体が写りこんだ。

なんでなんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ!!!!
なんであの女がこの部屋にいる?
家を間違えたのかな?いやそんなことはない。ベッドには見間違えるはずもない、大好きな池上が横になっていた。
不謹慎だが病気で苦しんでいる池上はとても色っぽく見えて胸がキュンとなってしまう。

266 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:37:39 ID:LN7/7c/6
だが胸に走るその甘い疼きも本条とかいう女を見た瞬間はらわたが煮えくりかえるような激しい怒りに塗りつぶされてしまう。
その怒りの大半はもちろん本条に向けられたものだ。でも池上も池上だ。
私というものがありながら本条なんかを家にあげるなんておかしいじゃない。
このことについて池上に言及してもらわなければいけない。

「なんで・・・本条さんが池上の家にいるの?ねえ、なんで池上?」

私は精いっぱい怒りを抑えて静かに聞いたつもりだった。
でも私の怒りはそれでも隠しきれなかったのか、池上は委縮して答えない。

「察しが悪いんですね、米沢さん。病気の人がいたら看病しに来るのは当然のことですよ?」

代わりに本条の声が私の鼓膜を響かせる。
私は池上の声を聞きたかったのに、横から不愉快なノイズが聞こえてくる。
うるさい、ムカムカする。本条のその減らず口をへし折ってやりたい。

「あんたには聞いてない!池上、答えてよ!」

つい怒気のこもった声が私の口から飛び出る。
池上は少しおびえたような表情になる。
池上のその表情を見て私は我に返った。

・・・私は池上を脅す為にここに来たんじゃない。
池上を優しく看病してあげるために来た。それなのに池上に向けて怒りをぶつけてどうする。
私は一瞬でも池上に怒りを覚えたことを反省した。
本条の出現で怒りのタガが外れて、すこし冷静さを失ってしまった。
つまりなにもかも悪いのは本条とかいう女だ。
ごめんね、池上。この女を追っ払った後、たくさん優しくしてあげるから。甘えさせてあげるから。
だからちょっと待っててね。

「まあいいわ、私が買い物行ってて留守中だった間の看病、ご苦労だったわね。もう帰っていいわよ、本条さん?」

267 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:38:21 ID:LN7/7c/6 「あら、あなたこそ!私が池上君を看病するために必要なものを買ってきてくれて御苦労さまでした。もう帰っていいですよ?」

嫌みたっぷりに言ってやったのに本条も負けじときつい応酬をしてくる。
そのきつい発言とは裏腹に本条は笑っている。
さっきから本条は表情を全く変えていない。余裕たっぷりといった感じの笑顔だ。
・・・気に入らない。私だけがムキになっているみたいで。

「・・・さっきから池上君が私に帰ってほしがっていたのは貴方みたいなやかましい女がいるから気を使ってくれていたからだったんですね。」
「違う。あんたなんかお呼びでないということよ。」

相変わらずニコニコニコニコ。本当にこの女、気に入らない。殴り倒したい。
そう思った時、池上がベッドから起き上がった。

なんで?どうしたの?

思考が定まらないうちに池上はふらふらとした足取りで私と本条が対峙する場所に近づこうとしている。


そうか、池上は喧嘩の仲裁をしようとしているんだ。
そう私が理解した時、池上はドサリと床に倒れこんで気を失っていた。

「池上君!しっかりして!」
「池上!」

いくら呼びかけても返事がない。池上の病状は思った以上に酷かったらしい。
池上の額に手を当てるとまるで沸騰したやかんのように熱かった。
その額には脂汗がにじんでいる。

「本条さん、ここは一時停戦。協力して池上を看病してあげるの!」
「え、ええ。分かりました。」

こんな状況に陥っては、お互いいがみ合っている場合ではない。
今一番やるべきことは病気に苦しむ池上を救ってあげることだ。

268 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:39:04 ID:LN7/7c/6 そう思っていたのは本条も同じだったようで、あっさりと私の提案を飲んだ。
その表情はさっきまでのニヤケ顔から不安を隠せない表情に変わっていた。
今日初めて本条があの薄気味悪い笑顔以外の表情をしたのだった。

私はとりあえず倒れている池上の肩をとって立ち上げさせて、ベッドまで運んだ。
肩を組むような形になったから、私の首筋に池上の熱い息がふきかけられる。
いけないいけない。看病しているのに気持ちよくなってきちゃった。
幸い今本条は私の買ってきた冷えピタを取りに行ってるから、その事を悟られることはなかった。
池上の吐息で気持ち良くなったなんて本条に知れたらどうなるか分かったもんじゃないしね。
池上をベッドに寝かせ、布団を掛けてあげる。
それと同時に本条が部屋に入ってきて、冷えピタを池上に張り付けた。
額の上に乗っていた水タオルはもうすでに温くなっていた。
こうして看病もひと段落つくと、さっきまでの苦しそうな表情が少しやわらいだ。
それをみてほっと一息をつく。本条も胸をなでおろしている。

「これでひと段落だね。本条さん?」
「ええ。池上君もこうして暖かくしていれば大丈夫のはずです。」
「じゃあもう本条さんの出番は終わりね。」
「何言ってるんですか?私はこれから池上君になにか食べるものを作ってあげなくちゃいけないんですよ?こんな中途半端のまま帰るわけにはいかないです。」
「安心してよ。私が池上にうどん作ってあげるんだから。」
「うふふ、冗談でしょう?貴方の作る料理なんてすべてお雑炊になってしまいます。私の方が料理はうまいのですから貴方は引っ込んでください。」

くっ・・・消し去りたい過去をネチネチと・・・。
確かにあのときはちょっとだけ水加減を間違えてしまったから失敗した。
だけど今はあの時よりも私の料理の腕は格段に上がっているのよ。
うどんくらいなら間違いなく完璧に調理できる。

「・・・それなら、ふたりで料理の腕を競い合ってみるってのはどう?本条さん?」
「いいですよ。ふたりともうどんを作って、池上君に食べ比べしてもらいましょう。」

不敵に笑う本条。どうやらこの女も多少は料理の腕に覚えがあるみたいだ。
だが私とてだてに料理の練習をしてきたわけではない。

269 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:39:50 ID:LN7/7c/6 勝算は十分にある。私は意気揚々と台所に向かった。



30分後、池上の横のテーブルに二つのうどんを入れたなべが並んだ。
片方はきれいに澄んだスープにちょうどいい大きさの鶏肉と小松菜が入っている模範的なうどん。
もう片方はしょうゆをきかせすぎてどす黒くなってしまったスープに大きさがバラバラでいびつな鶏肉が入っている、見るも無残なうどん。
前者を完成させた本条は「うどんのような何か」を完成させた米沢を鼻で笑ったという・・・。



うどん勝負に負けた私はショックを受けてしまった。
まさか本条がこんなに料理の腕を持っていたとは思わなかったからだ。
本条のあの勝ち誇った顔と言ったら、あれほど腹が立つものはない。
さらにあろうことか本条は私の作ったうどんを一口食べて、犬の餌と形容したのだ。
・・・確かにすこし味が濃かった気がするけど。

完全に勝敗は決したとは思うが、しかし肝心の判定者である池上は一向に気がつかない。
見た目はそんなに苦しそうではないのに、池上は目を閉じたままピクリとも動かない。

「池上くん、大丈夫かしら・・・。」

本条は自分の作ったうどんを食べさせたいのかそわそわしていたが、池上を起こそうとはしなかった。
かれこれ1時間ほど経ち、時刻は2時を回った。

「・・・もう潮時ね。私はもう帰るわ。」
「えっ、帰るの?」
「ええ。池上君もこの様子だと夜まで目を覚まさないでしょうし、静かに寝かせてあげるのが一番ですから。」

案外あっさりと帰ると言いだした本条に私は拍子抜けしてしまった。
なんだ、所詮こんなものか、と。
私は何があっても池上が目を覚ますまでは帰らないと決めていた。池上への想いは私の方が上だったか。

270 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:40:46 ID:LN7/7c/6 ひとまず安心したが油断はできない。本条が本当に帰るのを見届けるために私は玄関まで本条を監視することにした。
それを見透かしたのか本条は、

「安心してください。心配しなくても私は帰りますよ。」

と言い放つ。やはり気に入らない女だ。こちらの思惑を全て分かっているとでも言いたげだ。
本条は玄関にある女物の小奇麗な靴を履いて、帽子をかぶった。
そのいでたちはどこぞの上品なお嬢様のようなものだ。
本条という女は悔しいけど、美人だと思う。この女の前だと私も少し見劣りしてしまうかもしれない。
でも、池上を思う気持ちなら私の方が上だ。前向きにいこう。

「米沢さん。最後に少しだけお話があります。」

私が決意を新たにしたとき、本条が口を開く。
その表情は本条が少しうつむいているために帽子に隠れて垣間見ることはできない。
だが何やらただならぬ雰囲気であることはビビッと感じる。

「な、なによ。さっさと言って帰りなさいよ。」
「貴方は池上君の事本当に好きなんですか?」

今更当然のことをきくなんて相変わらずいらいらさせる女だ。

「好きに決まってるじゃない。」
「何に変えても池上君を手に入れたいと思っているんですか?」
「当然。アンタも分かっていて聞いてるでしょ」

全部言いきった後一瞬原先輩の事が頭をよぎった。
一応原先輩と付き合っている身なのに池上が好きだとカミングアウトしてしまったからだ。
でももう別れているから問題ないと割り切ることにした。

「それじゃあ米沢さん、私のことどう思ってます?」

271 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:41:45 ID:LN7/7c/6 突然何を言っているの、この女は。
あんたなんかうざくて高慢ちきでうっとうしくて嫌みったらしくてそのくせ弱点がなくてだからうざいとしか感じたことない。

「まあはっきり言えばうざいね、貴方。いっつもニコニコ笑ってさ、男に媚びてる感じだよね。」
「確かに私はいつも笑うようにしています。その笑顔をうっとうしいと感じる人はたまにいるようですね。でも、私が聞きたいのはそういうことじゃありませんよ。」
「どういうことなの?はやくしてよね。」
「じゃあ質問を変えましょう。『私の事殺したいほどうっとうしいと思っていますか?』」

突然常軌を逸した質問を繰り出されたので、私はたじろいでしまった。
その声はさっきまでの高くて鳥の歌うような声ではない。地獄の底から響いてくるような底冷えのするような声色だ。
本条は依然としてすこしうつむいている。表情をうかがい知ることはできない。
それも相まって不気味な感じがする。

「・・・答えられないんですか?間抜けな顔してますよ?」
「・・・くっ!確かに殺したいほどうっとうしいよ!」

呆気にとられていた私は挑発してきた本条に何か言い返さないと負けたような感じがすると思って、そう言い返した。
でも実際本条はいなくなってほしいくらいうっとうしいっていうのは本当のことだ。

「ああ、それを聞いて安心しました。これで遠慮はいりませんよね。」
「な、何言ってんの。」

本条はすうと息を吸い込むと落ち着いた口調で話し始めた。

「・・・米沢さん。私ね、中途半端な気持ちで池上君にアプローチをかけているわけではないんですよ。私にとってはね、池上君が全てなんです。
池上君がいるから私は生きているんです。嫌なことがあっても池上君がいるから生きているんです。分かりますか?分かりますよね。
だって貴方もそうなんですから。そうでしょう?貴方を一目見たときから、ああ、この人は私と同類だってすぐに分かりましたよ。
でも貴方はどうも私の池上君に対する思いの深さを理解していないみたいですね。」

272 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:42:20 ID:LN7/7c/6
これだけの言葉を一息で一気にまくしたててくる本条。
私はその迫力に押されっぱなしになって、何かを発言する気すら起きなかった。
間違いない、私は今本条に恐怖を抱いている。
さっきまでこの女の事を見くびっていた。所詮はいつか他の男に目移りしてしまう女だと。
でも違った。本条が池上に抱いている感情は私と同じ。
『池上を手に入れるためなら何を失おうと構わない。』

「米沢さん、さっき私がいつもニコニコしているって言いましたよね。」
「え・・・あ・・・」
「あれね、本当に笑っているわけじゃないんです。貴方に対する殺意を抑えるために、悟られないために笑っていただけなんです。言ったでしょう?私とあなたは同じだって。」

依然として静かな口調で語る本条。でもその言葉の節々に怒気が込められている。
その言葉の数々はまるで日本刀のような切れ味。
それなら私はさしずめ日本刀を眼前に突き付けられて心拍数が跳ね上がっている状態か。

「今だってね、貴方を殺してやりたいくらいなんですよ。病気になった池上君を看病して、あわよくばそのまま告白してしまおうとまで思っていたんですから。
それなのに、それなのに邪魔者の貴方のせいで池上君は気絶してしまった。私の告白の計画もパアです。」

本条のその言葉は嘘ではないと私はすぐに理解した。
本条はにぎりこぶしを作っている。その握りこぶしを作った指の隙間から血がぽたりぽたりと垂れている。
怒りにまかせて相当強く握りこぶしを作っている証拠だ。その拳骨で殴られたらひとたまりもない、と思った。

「でも安心してください。貴方を殺すようなことはしません。だって、貴方を今ここで殺しちゃったら警察につかまって池上君と離れ離れになっちゃうじゃないですか。
そんなのはイヤですからね。」

本条が顔を上げる。その顔は満面の笑顔だった。
この笑顔を見て誰がこの女に潜む狂気を感じることができようか。
それほど完璧な作り笑顔だ。わたしはぞわりとした嫌な感覚を味わった。
太陽光が当たって暑いはずなのに鳥肌が立っている。

273 :ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:43:02 ID:LN7/7c/6
「今私は、貴方を殺すことなく池上君から引き離してしまう方法を模索しているところです。大体の計画はできてるんですけどまだ詰めが甘いので見直している途中です。」

私はもはや何かを言い返す気力も残っていなかった。
ただ心の中を支配していたのは、こんな狂気に満ちた女が池上に惚れさせてしまった、運命のいたずらを呪う心だけだった。

「それではごきげんよう。米沢さん。」

そう言って本条は池上邸から出て行った。
当初家の外まで出て本条が見えなくなるまで監視するつもりだったが、そんなことはすっかり忘れ、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。