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395 名前:一朝一夕[] 投稿日:2013/03/04(月) 03:23:40 ID:MXVkDUDM [2/6]
彼女が出来た。彼氏が出来た。

高校生の多くにとって、これらはかなりのビッグイベントといえるだろう。
恋人がいるという幸せはある種の独特な優越感をもたらし、時にはいい意味で、時には悪い意味で人の価値観を大きく変え得るほどのものなのだ

だが、それをうらやましいと思う気持ちはない。

結局、そんなものは自慢するだけなら勉強ができる・運動ができるといった他の長所を自慢するのとなんら変わりはないのだ

本当に自分が幸せなら、見せつける必要などないだろうに…

そんなことを考えているうちに、放課後を知らせるチャイムが鳴り響いていることに気付く

「清戸、まだいたのか」

担任の北野原に声をかけられた
「帰宅部なんだし、やることもないならさっさと帰れ。帰宅部は帰るのが部活なんだから」

もっともだ。特に学校に残ってる理由もないし、さっさと帰ることにする

「分かりました、それじゃ」
そう一言言って鞄を持ち、1年E組の教室の入口まで歩く


「帰り道に気をつけろよ、あと寄り道するんじゃないぞ」

北野原が担任らしいことを言いながらも僕を見送った

俺がこの高校、開戸高校に入学してから早3ヶ月。
駅までの徒歩含めて家から45分、通学にも慣れた

以前は幼・小・中とエスカレーター式の学校に通っていたため、今の学校には受験して入学した

俺はあまり頭のいい方ではなかったため、学校はかなり絞ったが、幸いにもその中では一番偏差値の高いところに入れた。

ついこの間中間テストも終わったところだ。成績は真ん中より若干下と言ったところ

合格ギリギリだったのを考えると、まぁこんなものだろう

しかし今回の中間テストではちょっとした話題もあった

学年で唯一、全教科満点を取った生徒がいたのだ

中学の頃の五教科と違い、高校の十を超える科目全てで満点というのは普通じゃ考えられない

クラスは違うが、俺はその生徒を知っていた

彼女は、幼稚園から今に至るまで俺の同級生なのだ

そして、小学校入学以来ずっと学年一位に君臨し続けている。

だが、俺は彼女と話したことはない

常に学年一位を取る存在ともなれば、嫌でも少しは知ることになるというだけで

エスカレーター式だった中学までなら分かるが、彼女がうちの高校に入学したのははっきり言って驚きだった

単純に彼女の頭の良さを考えて、彼女はもっと上の高校に受かることが確実視されていたのだ

噂で聞いたところ、不運なことにそれらの試験日前にインフルエンザに感染し、受験日程が遅かったうちしか受験することができなかったのだそうだ

正直、もったいなかったと思う

とはいえ、こういう失敗も人生には起こりえるし、他人の自分がこういった個人の事情にあまりどうこう言うべきではない

それに俺が知っている彼女の情報はこれが全てで、あまり多くのことを言える立場にはそもそもない

ふいに携帯の着信音が鳴った。

「もしもし」
「もしもし洋か、今大丈夫か?」
「ああ」

電話をかけてきたのは水野雄次。小六の時に俺のクラスに転校してきて以来、ずっとつるんでいる親友だ

「明日暇か?」
「特に予定はないよ」
「そっか、なら映画見に行かねぇ?」
「いいけど」
「よし決まりな、十一時からのやつでよろしく」
「あ、おい」

切れた。相変わらず簡単な用件しか伝えないやつだ、ったく・・・

「つうか何見んだよ?」

あまりに短い電話だったので聞き忘れた。
まぁいいや、どうせあいつのことだから見当はつく。

それに、その場のお楽しみってことにしておけばそれもまた楽しみに変わる

「・・・・?」
何か違和感を感じる。
最近、ちょくちょくこの感覚を覚えるのだが、原因が分からない。

まぁいいや。
俺はまたいつもの様に気にしないことにした

「・・・・・そっか、明日は映画に行くんだね。ふふ、私も支度しなくっちゃっ」

その時帰路についていた洋の近くには一人の女子が穏やかに微笑っていた

しかしその雰囲気はどこかぞっとさせる、常軌を逸した何かを感じさせるものだった

396 名前:一朝一夕[] 投稿日:2013/03/04(月) 03:25:51 ID:MXVkDUDM [3/6]
翌日。
駅前の映画館に待ち合わせ、雄次を待つ。

あいつはいつも遅れてくることが多いので、適当に携帯をいじりながら待つ

休日だけあって、うちの学校の生徒もちらほら見える

少しして雄次がやってくる

「よう。今回は時間遅れなかったな」

「遅れたら映画始まっちまうしな。じゃあ入るか…おっ?」


雄次が何かに気付いたように足を止めた。


「どうした?」
「あれ見ろよ」

雄次があるグループを目配せで指していた


彼女たちはうちのクラス女子グループ三人で、中でも一人は特に際立った容姿をしており男子の注目を集めている

彼女は旭光莉。名前通りというか、とても活発な元気な少女で、明るめの茶髪と髪の左側にとめてあるヘアピンが特徴の少女だ

背は身長170cmの俺よりけっこう低いが、年の割に体付きには恵まれているのか服の上からでも起伏がよく分かる


彼女が俺達に気付いた

「あれ、水野君達じゃん。君達も映画?」


「じゃなきゃここにいないっしょ」
「はは、それもそうか」

だよねーと言いつつ軽く舌打ちする。

「同じ回か。よかったら一緒に見ない?」

「ん~嬉しいんけど、悪い、今回は遠慮しとくよ。これアクション映画だし、俺アクション映画にはけっこううるさいんだ」

「そっかー、分かった」

雄次が自然な感じで断りを入れると、彼女はあっさりした様子で他の二人とシアターの中に入って行った


「さて、やっぱ入る前になんか買って入るか。ポップコーンでも割り勘して食おうぜ」

「ああ、いいなそれ」
笑って頷くと二人で購買の方に歩き出す


その途中、雄次に友情を感じると同時にちょっと申し訳ない気持ちになった

雄次は女子に人気がある。背も高いし、頭だっていい方だ。 そのくせ気取ったりせずいつも自然体で、女子の間で噂になることも少なくない


だが俺には特に女子をひきつけるものはなく、むしろ雄次といることで差が目立つのかなんとなく否好意的な印象を持たれているような気がする


以前に雄次と二人で遊んでいる時にさっきみたいな感じで女子グループに声をかけられ一緒に行動したものの、女子の注目は常に雄次に注がれていて、俺にはあまり話題をふってこなかった

そんな俺に気を遣ったのか、それ以来俺と遊んでいる時にはさっきみたいに女子に誘われても何かしら理由をつけて断り続けている


本当に、友達想いのやつだと思う

だから、俺もそんな雄次の気遣いを無駄にしない為に、出来るだけ気にかけないようにしている

それが、俺からあいつへの友情の証だ

397 名前:一朝一夕[] 投稿日:2013/03/04(月) 03:27:53 ID:MXVkDUDM [4/6]
「けっこう面白かったな洋」
「うん普通に楽しめたよ」

「腹減ったし飯でも食うか~」

映画が終わり、いい感じに空腹になってきた俺らは近くのファミレスに行くことにした。

休日の昼飯時ということでけっこう混んでいるが、幸い空いていたテーブルがあったのですぐに座れた

二人で店に入ると腰を下ろして一息つく

「さて何食うかな~。予算も限られてるし、ガッツリ食うか悩むぜ」

ボリュームのあるメニューは同時にそこそこ値も張る。小遣いの限られている俺らにとってはこのメシ代の決断は困難を極める。


「おし、今日はやっぱガッツリ食うぜ。洋は?」
「俺は無難にミートソース。値段も手頃だし」
「そっか、じゃあ頼むか…」

「あー、水野君達もここでお昼だったんだ」

声のした方を振り返ると、旭とその連れの女子二人が立っていた


「ここでも一緒なんてすごい偶然だね」

「たしかに」
「一緒に座ってい?せっかくだししゃべろうよ」
「そうそう、せっかくだしさ」

笑いながら明るく聞いてくる。

「ん~、ああ、そうだな…」
雄次がちらりと俺の方を見る。十中八九さっきの映画館の時と同じようなことを感じているのだろう。

しかしこの状況で断るのはさすがにちょっと露骨な気がするし、何よりたとえ雄次目当てでも実際俺はそんなに女子に空気のように扱われるのは気にしていない

「そうだねいいんじゃない。お店込んでるし、旭さんたちも一緒に座ればその分テーブル空くから」

「ホントに?ありがとう!あ、私ちょっと化粧室行ってくるね。鞄ちょっと置いていい?」

「うんいいよ」

そう言うと旭さんは俺の隣に鞄を置き、奥の方へと歩いて行った

「ねぇ水野君、私窓際好きなんだ。窓際座っていい?」
「ああ、いいよ」
「ありがと~」

「あは、あなた窓際好きよね~」

そう行って一人は雄次側の窓際へ、もう一人は雄次側の通路側に座った


やはりこの二人も雄次が気になるようで、自然な流れで雄次の隣を確保してみせた


相変わらずモテる男だなぁと感心する。

そこに旭さんが戻ってきた
「お待たせ、じゃあ頼もっか」
そう言って席の状況を一瞥すると俺の隣に座る。
そっか、もう雄次の両隣は他の女子が座ってるもんな


彼女達は自分達の分の注文をすると、すぐに会話を始めた

さっきみた映画のこと、学校のこと、最近流行りの歌のことなどだ


旭さんはとにかく大人数で話すのが好きらしく、俺も含めてみんなに話すように話題を展開していたが、他の女子は以前のように雄次を常に見ながら話していた


しかし女子というのはおしゃべりなものだ、気が付けばあっという間に二時間が経過していた


長時間しゃべったことに満足したのか、自然な流れでレストランを出て解散かと思ったが

「ねぇ最後にプリクラ撮らない~?」

旭さんがそう提案してきた

「いいんじゃない~?私はいいよ」
「うん私も」

女子二人も賛同のようだ

「プリクラか~あんま好きじゃないんだけどな…」
「まぁまぁそう言わずに」

旭さんが明るい口調で促すと、渋々といった感じだったが雄次も同意し

「俺も普通にいいよ」
最後に俺も同意してレストランの向かいにあったゲーセンに入ってプリクラを撮った


ここでも女子二人が雄次の隣を確保し、旭さんはそれを特に気にした様子もなく俺の隣に来ると満面の笑顔を作った

苗字の通り、朝日のように眩しい笑顔というか、ほとんどの男が魅力を感じざるを得ないような笑顔だ

しかしなぜだろう、俺にはその笑顔が一瞬底知れぬ恐怖を感じさせるものに思えたのは…

398 名前:一朝一夕[] 投稿日:2013/03/04(月) 03:29:58 ID:MXVkDUDM [5/6]
「……ふふ、ふふふ。あは。洋君とのプリクラだぁ~……」

その夜、旭光莉は自室で解散前に撮ったプリクラを眺めて笑っていた。

水野雄次と他の友達二人とも一緒に撮ったプリクラだが、彼らの部分はすでに切り抜かれて捨てられている。


ツーショットのように写った彼とのプリクラ。そこにいるはち切れんばかりに輝いている笑顔の自分。

そして、この世において何物にも代えがたい彼……。


「うふふ、必ず、必ずものにしてみせるね。ううん、私が生まれる前から決まっていた私だけの彼を私のものにするだけなの。」


そう、最初から。

彼は、清戸洋は私だけのものになると決まっていたのだ。そして、私も彼だけのもの。

私のこの小さな体も、それとは反比例して発育したこの身体も、この心・魂までも髪の毛一本から血の一滴まで…
私は、私のすべては彼だけのもの。

そして、彼のすべても私のもの…


朝の光はとても爽やかで、その光を浴びる花や木々に栄養を与える尊いものだ。

だが、彼女という光が清戸洋という男子を照らすさまは、それとはまるで程遠い。

それはまるで、光なのにどす黒く濁った、限りなく闇に近い真っ暗な光…