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430 名前:不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo[sage] 投稿日:2013/04/10(水) 02:16:36 ID:a8LbLrKc [3/10]
神様って不平等が好きなかな?
私はよくそんなことを考えてしまいます。
もしも神様が平等ならこの世に幸福な人と不幸な人なんて出来ず、幸福な人だけで世界が回っていてもおかしくはありません。
そして私は後者です。
自分が貧困な国に生まれて、何も知らずに死んでいくほど不幸者とまでは思いませんがそれでも比較的に不幸だと感じます。
小さな頃は白馬の王子様が私の前に現れて、私をさらってくれると思っていた時期もありました。
けど現実は白馬の王子様は現れなくて、目の前に現れるのは不幸ばかりでした。
いつかは私を助けてくれる人が現れると今まで生きてきたけど、もう疲れました。

「死のう」

未練がましく生きることに執着していましたが、この世は辛すぎます。
私は生きることに向いてないんだ。
結局私は幸せ何かにはなれいんだってことは生まれた時から神様が決めていたんだ。
死ぬしかないんだ。
そう思いながら夜の街をフラフラ歩いているといつの間にかビルの屋上に立っていました。
どのようにしてここに来たのかは記憶にないのですが、今は好都合でした。
まるで飛び降りろと言っているかのように屋上を囲うフェンスの一部が抜けていました。
屋上はとても風が強く、着ている学校の制服はバタバタと音を立てています。
一歩一歩歩いていきます。
ネオン街の光は相変わらず厭らしいほど綺麗でなんだか自分が生きている世界と違う気がしてきました。
下を見てみると、死ぬのには十分な高さでした。

子供を連れて歩く親子。
ギターを片手に歌を歌うストリートミュージシャン。
仕事帰りのサラリーマン。
寄り添って幸せそうに歩くカップル。

人なんて落ちてこないと思ってる人々が下の道を歩いていました。
私が飛び降りると彼らの目は私に釘付けになり、記憶には一生私が残るだろう。
そんなことを考えると少しだけ私の人生が不幸じゃなくなるような気がして、嬉しくなりました。
ローファーを脱いできれいに並べました。
遺書なんて陳腐なものは用意する気にはなれませんでした。
上を向いて目を閉じ、息をフッーと吐き出しました。
上半身を少しずつ倒していきます。

「さようならこの世、初めましてあの世。」

431 名前:不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo[sage] 投稿日:2013/04/10(水) 02:17:44 ID:a8LbLrKc [4/10]
俺は仕事の帰り道を歩いていた。
時刻は22時を少し過ぎていて、夕飯を食べていないので早く帰って夕飯を食べたかった。
今日の夕飯は何にしようかな?と考えていると、人とぶつかってしまった。
「すいません。」
そう言って相手を見ると制服を着た女の子だった。
おそらく高校生だろう。
この時間帯に女子高校生が一人で歩いているのは別に珍しいことではない。
でも俺は彼女の顔を見て驚いてしまった。
彼女の顔には生気がなくて、青白くまるでおばけのようだったからだ。
「大丈夫ですか?」
と声をかけても返事がなくて、頭の中で「ただの屍の様だ。」と言うフレーズが流れてしまった。
彼女と目が合った。
でもその目は俺を写しているだけで、俺を認識していなかった。
まるで鏡だった。
直ぐに異常だと思った。
彼女は俺に気づかずにフラフラと歩いていき、横道に入っていった。
俺は心配に思い、彼女のあとをつけるとビルの非常階段をカツカツと登っているところだった。
俺はそのあとをついていくことにした。

彼女は屋上まで来ると止まり、フェンスが壊れている一部まで歩いていって止まった。
下をのぞき込んでいるようだ。
「おい!!」
大声を出して見るが彼女は全然聞こえてないようだった。
彼女は靴を脱いできれいに並べ始めた。
これはヤバイと思うと同時に、俺は走り始めていた。
フェンスにしがみついて手を伸ばし、彼女の手を掴む。
掴むと同時に思いっきり引いた。
余りにも力を加えて手を離してしまったので、慣性で女の子はゴロゴロと転がってしまった。
彼女は寝たまま動かなくなってしまった。
俺は驚いて
「大丈夫?」
と声をかけても反応が無い。
彼女に近づくと彼女は気絶していた

432 名前:不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo[sage] 投稿日:2013/04/10(水) 02:18:55 ID:a8LbLrKc [5/10]
私が目を覚ますとあの世は案外明るいものでした。
起き上がってみると、隣で男の人がスパゲティーをかき込んでいるのが見えました。
その人は私に気づいたみたいで
「起きた?」と聞いてきました。
私がコクりと頷くと、ビニール袋をガサガサと弄り缶コーヒーを差し出してきました。
酷く喉の乾いていた私は無言で受け取ると、一気に飲み干してしまいました。
苦い・・・。
何でブラックコーヒーなんですか!
女子高校生は甘いものが好きって相場が決まってるんですよ。

コーヒーを飲み終えたのを見ると彼は私に質問してきました。
「何で自殺なんてしようとしたの?」
沈黙
私の選んだ選択肢はそれでした。
「悩みがあるんなら、俺でよければ相談に乗るよ?口に出したら少しくらい気分が良くなるんじゃない?」
黙止権を行使させていただきます。
「だんまりか・・・」
遂に向こうは折れました。
私の勝ちです。やりました私。
「分かった。もう何も聞かないし自殺するなとは言わない。その代わりこれだけ言わせて。」
急に場の雰囲気が変わりました。
男の人の顔は真剣そのものでした。
「もし君が自殺したら周りの人がどう思うかをよく考えて。残された人は悲しむんじゃないかな?それをよく考えて。
それでも、もし君が自殺するんならその時は見つけても俺は止めないよ。」
そう言うと彼はゴミを片付けて帰ろうとしました。
私はその言葉に恥ずかしながらカチンと来てしまいました。
いつもはこんな事では頭に来たりしないが、この人の言葉は何故か私の心を届く言葉でした。
私は帰ろうとする彼の後ろ姿に怒声を浴びせ始めました。

「あなたに私の何が分かるって言うんですか!!どうせ私には私が死んでも悲しんでくれる人なんて居ないです。」

私は気づいているけど、気づいてないふりをしました。
なぜ彼の言葉が私の心に届いたのかを。
なぜこんなにも心がピリピリするのかを。

「初対面であるあなたが、私の気持ちなんてわからないです!!
いーえ、理解してもらおうとも思いませんし、理解して欲しくないです!!」

止めて、お願いだからもうこれ以上何も言わないで下さい。私の口!!
多分、彼だって・・・

「勝手に知ってるような口ぶりで話して、綺麗事を並べて!!
最悪です。何で死なせてくれなかったんですか?
どーしてこんな不幸しかない世界に戻したんですか?どーして!!」

矛盾しているのなんて分かってます。
自分が意地を張っている小さな子どものように思えます。

「あなたなんか嫌いです。最低です。私の目の前から消えてください。」

ハァハァと肩で息をします。
こんなに感情的になったのは生まれて初めてでした。
彼は私に近づいて来ました。
私はビックとなって身構えました。
「大丈夫だよ。俺は君の味方だから。」
彼はそう言うと宝物を扱うかのように優しく、優しく私を抱きしめました。
もう限界でした。
私は彼にしがみつき、涙をボロボロと流しながら大きな声で泣いてしまいました。
そう、彼は私と同じで不幸だったのです。

433 名前:不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo[sage] 投稿日:2013/04/10(水) 02:20:03 ID:a8LbLrKc [6/10]
泣き出した彼女が泣き止むまで俺はずっと彼女を抱きしめていた。
彼女が泣き止むと家に帰ることになった。
住所を聞くと家がかなり近かったので送って行くことにした。
帰り道は終始無言で何も話さなかった彼女だけど、俺と繋いだ手は離してくれなかった。

彼女の家の前についた頃には日が変わっていた。
死んでも誰も悲しまないって言っていた様に、簡素な住宅街にある普通の一軒家には明かりがついていなかった。
それは日が変わる時間に帰ってくる娘を心配している親の感じではなかった。
ここまで来たらもう大丈夫だろう。
手を離そうとしたが、彼女は手を離してくれなかった。
彼女は俯いて黙っている。何か言いたいことがあるようだ。
俺は自分から話しかけずに、彼女から話すのを待つことにした。
待つこと数分、彼女は顔を上げて何かをボソリと話し始めた。
「今日は・・・その~・・・えっと・・・あの~」
それだけ言うとまた俯いてしまった。
俺の手を握っている彼女の手に力が入り、少し汗ばんだような気がした。
そしてもう一度、顔を上げると目があった。
「あぁっ、ありがとう・・・ございますぅ。」
お礼を言うと彼女は視線を横にずらした。
俺はそんな彼女の頭を空いている方の手でクシャクシャと撫でてやった。
ビクリと彼女の体が跳ねて、後ろに飛び退いて俺を睨んだ。
警戒している小動物のようだ。
「いきなり何するんですか!」
顔をトマトのように真っ赤かにしながら言った。
さっきの声よりも10倍くらい大きい。
「ごめんごめん冗談のつもりだったんだけど、嫌だった?」
「あっ、べっべつに、いっ嫌ってわけじゃないですけど・・・その~・・・」
「何?」
「いきなりあんなことされるからおっ、驚いただけです。けっ、けっしていっ、嫌とかじゃなく・・・」
テンパる彼女は可愛くてもう少し見たかったけど時間が時間だったので御暇することにした。
帰り際に連絡先を交換した。後日に改めてお礼をしたいそうだ。
別にお礼なんてよかったのだが、彼女は強く食い下がってきた。
改咲 涼子(かいざき すずこ)それが彼女の名前だった。
アドレスを交換してから彼女の名前を初めて知った。
そういや碌に自己紹介もしてなかったなと思いながら、俺は帰路に着いた。

434 名前:不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo[sage] 投稿日:2013/04/10(水) 02:21:44 ID:a8LbLrKc [7/10]
俺が一人暮らしをしているワンルームのマンションは改咲が住んでいる住宅街の少し外れたところにあって、歩いて10分ぐらいの所に位置している。
高校を卒業して、社会人になってはや2年。
よくよく考えてみると大学には行きたかったが、これはこれでよかったと今では納得している。
家に着くと家の鍵が空いていた。
今日の朝はちゃんと鍵を占めたのを確認してから出てきたはず・・・
まさか空き巣!?
いや、ないない。こんな盗るものがない家に空き巣が入るはずがない。
もし俺が空き巣ならもっとお金持ちの家を狙うだろう。
俺は家に普通に入った。

中にいたのは幼馴染の南風 眞優(みなみかぜ まゆう)だった。
こいつは家の中でも着物を着ている。彼女の両親どちらも華道家で家でも外でも着物なのだ。
髪の毛は黒色で腰まである髪はつやつやしていていつも綺麗だと思う。
こいつとは幼稚園の頃からの仲でもう15年来の付き合いだ。
小中高とずっと一緒なのだが不思議と一緒のクラスになったことが一度もなかった。
まゆは高校卒業後俺と違い大学に進学した。
偶然俺の職場とまゆの大学が近いせいで下宿先も近い。
なのでよく俺の家に勝手に来るのだ。迷惑じゃないので合鍵を渡して放ったらかしにしている。
まゆは家の玄関で正座をして待っていた。

「お帰りなさいませ。今日のおかえりはいつもより遅かったですね?何かあったんですか?」
「まあいろいろあったんだよ。」
俺は言葉を濁す。昔からまゆは俺が女の子と話したり、遊んだり、俺がまゆ以外の女の子と接点をもつのを酷く嫌がった。
まゆいわく「女とは打算的で醜い生き物です。ですから慶ちゃんにはそのような醜さで傷ついて欲しくないのです。」といつも言っている。
因みに慶ちゃんとはまゆが俺を呼ぶときの呼称で、俺の本当の名前は近衛 慶悟(このえ けいご)だ。
「いろいろとは?」
「仕事の帰りに同僚とご飯に行ってたんだ。ご飯作ってくれてたのか?」
しれっと嘘を付く。まゆは仕事以外の話は根ほり葉ほり聞いてくるからだ。
「はい、ですけど連絡していなかったわたくしが悪いんです。気にしないでください。」
まゆは少し悲しそうな顔をした。まゆはあまり表情に変化が無い。でも15年も一緒にいるのだ。
微妙だがまゆの考えていることぐらい少し分かる。他人からしたら表情に変化がないそうだ。
今はせっかく作ったご飯を食べてもらえないのが残念なようだ。
「朝ごはんにするよ。」
と脱いだスーツをまゆに渡して、ネクタイを緩めながら言った。
まゆはスーツをハンガーにかけようとしていたが、急に動きが止まった。
スーツをじっと見つめてからクンクンとスーツの臭いを嗅ぎ始めた。
少し臭いを嗅いだあと、俺のとことまで来て俺の臭いもクンクンと嗅ぎ始めた。
「そんなに臭う?」
「はい。とても嫌な臭いがします。慶ちゃんはお風呂に入ってきてください。」
自分で自分の臭いを嗅ぐが臭いはしない。
まぁ自分の体臭についてはわからないものだが。
「わかった。じゃあ入ってくるよ。」
俺はパジャマとバスタオルを取り出してお風呂場に向かった。

435 名前:不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo[sage] 投稿日:2013/04/10(水) 02:22:42 ID:a8LbLrKc [8/10]
わたくしの名前は南風眞優、親し方にはまゆと呼ばれます。
好きなものは慶ちゃん。
わたくし達は何をするのもずっと一緒でした。
学校も高校まではずっと一緒でしたけど一度も同じクラスになれませんでした。
慶ちゃんは家庭の事情により大学進学することはしませんでした。
一緒にキャンパスライフを楽しもうと思っていたのに・・・

わたくしは今までずっと慶ちゃんのそばにいました。
慶ちゃんのそばにいて周りの泥棒猫から慶ちゃんを守っていました。
慶ちゃんは素晴らしい人です。
カッコイイし、優しくて、頭もいい。更に運動神経も抜群です。
慶ちゃんを好きになる女はたくさんいました。
気持ちは分かります。でも理解は出来ても納得は出来ないと言うものです。
なのでわたくしは慶ちゃんに恋心を抱くメスを人には言えない方法で排除し続けました。
人間に恋すること自体が愚かしいことです。
そのかいあってか、慶ちゃんに悪い虫がつかずにここまでくることができました。
高校を卒業してから大学で愛を育み、卒業後に結婚、一姫二太郎を授かって幸せに暮らすのがわたくしの夢でした。
けど慶ちゃんは大学に進学せず就職してしまいました。初めは事情があるので仕方がないと思いました。
でも直ぐにわたくしの監視が届かなくなったということに気づきました。
帰ってくるとたまにだがスーツに付いてくるメス猫の臭い。
ひどく不快で気が狂いそうになります。
なのでクリーニングと称してメス猫のこびり付いたスーツは全部破棄して、新しのを新調しています。

昔からわたくし以外の女がどれだけ醜いかを言い聞かせてはいるのですが、慶ちゃんは優しいので涙を見せられたらコロっといってしまうかもしれません。
さらに不愉快なのが、今日は嗅いだことのない臭いがスーツについていました。
いつもは同じ臭いで慶ちゃんの仕事の関係者でしたが、今日はそいつの臭いではなく違う臭いがしました。
慶ちゃんの交友関係は狭く、人脈を広げるようなことはしませんし、コミュニケーション力があるとは思いません。
わたくしは慶ちゃんと関わりのある女を全部知っていますが、こんな臭いは嗅いだことがないです。
はっきり言ってもの凄く不快です。誰だろう?
もうこの臭いは記憶しました。
一刻もはやくこの臭いの持ち主を見つけなくてはいけません。
情報がないと対策が後手に回ってしまい、のちのち面倒になるからです。
過去に一回だけ対策が遅れてしまい大変な思いをしたことが有りました。
それ以降、相手の先手先手を行くようにしてきました。
今回の相手も未数値なのでまずは情報から集めることにしましょう。
わたくしは慶ちゃんの携帯電話に手を伸ばしました。


朝の7時半に起きると既にまゆは居なくなっていて、昨日の晩ご飯が今日の朝ごはんとしてテーブルの上に乗っていた。
昨日の晩ご飯は肉じゃがだったらしく、ラップがかかっていた。
まゆはもう授業に行ったのかな?
そんなことを思いながらおかずを温めて茶碗にご飯を盛る。
やっぱり大学に行けてる人たちが羨ましく感じてしまう。
今日も朝ごはんを食べたら仕事にいかなければならないと思うと溜息が出てしまった。

436 名前:不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo[sage] 投稿日:2013/04/10(水) 02:24:01 ID:a8LbLrKc [9/10]
ピンポーン
呼び鈴を鳴らしても一向に出る気配が無い。
どうせいつもの様に居留守を使っているのだろうけど、今日は問屋が卸さない。
向こうも必死なのだろうけどこっちも必死なのだ。
ドンドンとドアを叩く。
「先生。いるのはわかってるんですよ!居留守を使わないで出てきてください。」
ここはマンションの一角なのだが、わざと近隣に迷惑になるようにする。
そうしないと出てきてくれないからだ。
何回目かのドアを叩くと、カチャリと音がしてドアが開いた。
「近所迷惑。」
中から出てきたのは大きな黒ぶちのメガネをかけた眠たそうな女性が出てきた。
彼女の名前は碧 伊瀬乃(あおい いせの)さんだ。
伊勢野 葵(いせの あおい)と言うペンネームで小説家をやっており、売れているわけでもなく売れていないわけでもない作家さんだ。
俺の唯つの担当で某週刊誌で小説を連載していたりする。
一応俺よりも二つ年上である。
「居留守を使わないでくださいよ。締切はもう過ぎているんですから。」
「・・・・・」
俺の言葉を無視して家の中に入っていく。
こんなとこにつっ立っていても仕方がないので
「お邪魔します。」
と小さな声で言って後に続く。
リビングに通されて、テーブルを挟んで先生の向かい側に座る。
ここに来るといつも思うのだが、シックな家具に統一された部屋にある大きな二つの鳩時計が気になって仕方ない。
しかもそれぞれの鳩時計で時間が違っていて、片方の時計の時刻がずれている。
疑問に思いながらも一回もこの話題を口にはしたことがなかった。
「先生、あのー、原稿の方はどうでしょうか?」
そう言うと眉間に皺を寄せて
「伊瀬乃」と不機嫌そうに言った。
彼女は先生とか、碧さんと呼ばれるのが好きじゃないらしく、いつも呼び方を訂正してくる。
「伊瀬乃さん原稿は仕上がりましたか?」
「まだ。」
「もう期限はすぎてるんですよ。早くしてもらわないとこっちも困ります。今日は貰えるまで帰りませんよ。」
実は上司に今日中に原稿を挙げろと言われていて、手ぶらで帰る訳にはいかないのだ。
「伊瀬乃さんはいつもいつも原稿をきちんと期日までに挙げてくれませんよね?毎回どれだけこっちが・・・」
今日こそはガツンと言ってやるつもりだった。
でも目の前の伊瀬乃さんを見ると
「zzzzz・・・」
寝ていた。
このやろ。
人が説教してる間に寝るなんていい度胸だ。
結局伊瀬乃さんを起こして、説教してから、原稿を貰ったころには21時を過ぎていた。