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・夢オチ
・女体化


580 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:35:14 ID:jRR78z+M
*****

 弟と共に自宅の玄関前にたどり着いた。特に何も考えず、玄関のノブをひねる。
「うむ?」
 ノブを回した状態でドアを引いたのだが、固い手応えしか返ってこない。戸は開かなかった。
 何度繰り返しても同じだ。引く度に鉄製のロックが不満を漏らすように硬質の音を立てるだけ。
「中に誰も居ないみたいだな」
「おかしいね。今日は平日だから母さんが居るはずなのに」
「買い物にでも行ってるのかもな」
 いつものパターンで考えれば、母は六時を過ぎる頃には夕食を作っている。
 そのはずなのに、今日は中にいない。珍しいこともあるものだ。昼寝しすぎたのであろうか。

 しかし、予想は外れた。
 合鍵でドアを開け、鞄を自室の前に置いてからリビングのドアを開けると、テーブルの上に書き置きが残されていた。
 その内容は、『お父さんの上司のお宅に招かれたから、お母さんも行ってきます。夕ご飯は作ってあるので、
温めて食べて』というものであった。
 なるほど、上司のお宅に招かれたのであれば行かないわけにはゆかないものな。
 父の昇進を考えるなら、上司の印象を良くしておくのは必要な行動だ。テレビドラマではよくそう言う。
 母も、上司の誘いをないがしろにするのはよくないと考えたのだろう。
 よって、行きたくもない上司の家へ行き、妹でありながら妻として偽りの自己紹介をする気になった、と。

 家に帰ってくる前に母が出かけてくれていてよかった。
 もし出掛けの状態にある母に遭遇していたら、書き置きのメッセージ以上に長い愚痴をひとしきり聞かされていたはずだ。
 母は父と過ごせる時間を邪魔するものには何者であろうとも敵意を向ける。
 今日のように上司の家に招かれるなんて、母の悪癖を引き起こす典型的なものだ。
 しかし、今日ばかりは相手が悪い。
 相手が父の上司、おまけの戦力として父まで加わっている。これでは母も不機嫌にはなれまい。
 できるならば毎日大人しくしてほしい。息子として俺はそう思う。

 リビングから一旦引き上げ、自室へ向かう。
 制服を上下共にハンガーに掛け、シャツを足下に投げておく。
 シャツは風呂に入るとき、ついでに洗面所へ持って行くとしよう。
 部屋着に着替え終えたところで、ノックの音が飛び込んできた。
「兄さん、いる?」
 続いて聞こえてきたのは弟の声だった。
 返事をせずに、ドアを開けて弟と対面する。
「何だ? 晩飯なら俺の分はまだ温めなくていいぞ。風呂に入ってから食べるから」
「そうだろうと思った。僕がお風呂を洗っておいたよ」
「お? 気が利くな」
 珍しい。いつも風呂を洗っているのは妹だったから、稀なこともあるものだと思わざるをえない。
 おや――――そういえば。

「妹はどうしたんだ? いつもなら帰ってきてる時間だろ?」
 普段ならば、諸々の家事を終わらせた後で玄関の前で弟の帰りを待っているはずなのだが、それもなかったし。
「ああ、さっきメールが来てたよ。今日は文化祭の準備で遅くなるかもしれない、もしかしたら泊まりになるかも、だって」
「え、中学もこの時期文化祭だったっけ?」
「そうだよ。覚えてないの?」
 …………。思い出せん。覚えてない。忘れ去ってしまった。
 一年ちょっとでも別の環境に身を置くと忘れてしまうものなんだな。
 中学に通っていたときは世間の常識、たとえば大人でも知っていることだ、とか思ってたけど。



581 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:36:29 ID:jRR78z+M
「ま、そんなことはどうでもいい。遅くなるっていうんなら迎えに行ってやらないとな」
「え……なんで?」
「妹に一人で暗い夜道を歩かせるわけにはいかないだろ」
「あ、ああ。そうだね」
 弟の反応が優れない。どういうわけか、歯切れの悪い返事だった。
「迎えに行きたくないのか? 行きたくないっていうなら俺一人で行くからいいけど」
「いや、行きたくないわけじゃ、なくて……。ねえ、兄さん」
「おう」
「やっぱり、自分の妹は心配かな?」
 当たり前だ。これでも長男なんだから弟と妹の面倒を見る責任がある、と、普段なら言ってやるところだ。
 しかし、俺は口にしなかった。恥ずかしかったからではない。
 単純に、口にすることをためらってしまったのだ。弟の雰囲気が口を開くのを迷わせていた。
 何かを懇願しているような、切ない表情が弟の顔に浮かんでいた。

 俺は、返事の代わりに首を縦に振った。続け様に弟が問い質してくる。
「それはやっぱり、妹が女の子だから?」
 うむ、という台詞を飲み込んで頷きを返す。
「それじゃ、――――僕がもし、妹の立場だったとしたら? 兄さんはどうするの? 学校に迎えに来てくれる?」
 うむ……ん、んん?
 なんだこの質問。意図が掴めん。何が言いたいんだ、この弟は。
「お前のために、俺がわざわざ夜中に学校に行くか? と聞いているのか?」
「そうだよ。もちろん、兄さんのことだから――」
「男だろ。一人で帰ってこい」
 こればかりはきっぱりと断りを入れる。
 さっき弟と妹の面倒を見る責任が俺にはあると考えたが、それは致命的な過ちを犯さないか見守らなければならない
という種類のものである。具体例としては弟と妹が性的な意味で抱き合うのを阻止すること。
 よって、高校生のくせに夜中に迎えに来いという弟の願いは叶えない。

「そんな、兄さん……ずるいよ、妹ばっかり……」
「アホ。お前だってあいつの兄貴なんだぞ。兄が妹を羨ましがるな」
 この弟は、ちょっと甘え過ぎなのではないか?
 俺が世話を焼きすぎたせいなのかもしれない。
 ここは少しばかり、兄貴としての心構えを教えてやらねばなるまい。
「いいか。妹が居ないから言うけどな。兄貴ってのはなあ、ちっとはかっこつけなきゃいけないもんなんだ。
 虚勢でもいいから、気を張れ。いつでもそうしろ、とは言わない。妹を前にした時だけでいい。
 いつもより前向きに考えろ。たったそれだけでも違うもんだ。それが自然に出来るようになれ。
 いつのまにか、気負うことなく出来るようになるから」
 弟が伏目がちに見つめてくる。なんだその主人に褒められてもらえずに沈む犬のような目は。
 気持ち悪いからやめてくれ。
「わかったか?」
 弟は俺の目を見つめている。答えを返してこない。
「返事は?」
「……うん、わかったよ。兄さん」



582 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:38:26 ID:jRR78z+M

 弟に熱弁を振るった恥ずかしさと、弟の普段より元気のない様子からくる不気味さに気押されて、俺は脱衣所へやってきた。
 より正確に言えば逃げ込んだという感じである。
 まったく、今日の弟はどうしたというんだ?
 学校の保健室でのしおらしい態度といい、さっきの反応といい。
 あいつ、本当はどこか調子が悪いのか?
 体調不良だから気弱になっているのかもしれないな。
「ちょっときつく言い過ぎた、かな……?」
 ふー、と、肺にため込んでいた空気を、ため息にして鼻から吐き出す。
 仕方がない。妹から連絡が来たら、弟に留守番を任せて俺一人で迎えに行くとしよう。
 今日の弟を出歩かせたら、車はもちろんのこと自転車にまで跳ねられそうだ。
 妹は不満だろうが、少しばかり辛抱してもらうとしよう。

 脱衣所に備え付けのプラスチック製のタンスからバスタオルを取り出して、風呂場の出口、足ふきマットの近くに置く。
 寝間着兼部屋着のジャージを、上下ともに脱ぐ。こちらは洗濯かごには入れない。
 洗濯かごに入れるのは、肌着とパンツだけだ。
 肌着を脱ぎ、かごの中に投げ捨てるように入れる。
 ふと、忘れ物をしたことに気づいた。制服のシャツ、部屋の床に脱ぎ散らかしたままだった。
 弟から離れることばかり考えていて、そのことをすっかり失念していた。
 ここまで脱いでおいて、部屋に戻るのも面倒だな。着直さなきゃいけないし。
 でも、ちょっとでも頭に引っかかるものがあると入浴を存分に楽しめないのが俺の性格だ。
 今の時期の風呂というと、こう、疲れの代わりに暖かい熱が体に入り込んでいって、ぽかぽかになれるから好きなのだ。
 俺としては、憂いを一切無くした状態でゆっくり湯船に浸かりたい。
 一度戻るか。数分パンツ一丁でいても風邪はひかないだろう。

 冷たい廊下を歩く。室内用スリッパを履いていないのはめんどくさかったからであり、俺用のスリッパがないわけではない。
 いかんな。足下から冷え始めてきた。とっとと部屋に戻って、シャツを取ってこなくては。
 自室の前にたどりつき、ドアノブを回して扉を少し開けた、その時。
「は……っん、ぁ……どう、して……優しく、してくれないの……。優しくしてよぉ……」
 突然の艶めかしいエロ声を聞き、俺は固まった。反射的にドアを閉めることさえできなかった。
 なんだ、一体全体、俺の部屋で何事が起こっている?
 エロいDVDなんか借りてないし、ましてや再生してもいないぞ。だってDVDプレイヤーがないから。
 我が家でDVDビデオを再生できる機器は今のところ、リビングにあるビデオデッキと父のパソコンぐらい。
 だが俺の部屋はリビングではない。もちろん父の部屋でもない。父の部屋は隣だ。部屋を間違えているはずがない。
 この無害でありながらくらくらする匂いは愛用のエナメル塗料のそれだ。
 必然、俺がいる場所は自室の前ということになる。
 それなのに、それなのにどうして――女の声が聞こえてくるんだ?
「……のこと、ちゃんと、見て……お願いだから……」
 途切れつつ聞こえてくる声は、俺の居る位置からはいまいち聞き取りづらい。
 もっとはっきり聞いてみたかった。
 別にどきどきしているのが原因じゃないぞ。声から相手の正体を突き止めたいだけだ。
 言い訳をしつつ、音を立てないよう慎重にドアを開く。
 首を突っ込めるぐらい開いたドアから、諜報員になったつもりで覗き見る。
 しかして、人様の部屋で喘ぐ女の正体が判明した。

「にいさん……僕だって本当は、ほんとのこと、…………言いたい、のに」
「…………」
 とっさに感じたのは恐怖だった。俺は今までの人生で一番おぞましいものを目にしてしまった。
 開いた口はふさがらないまま、小刻みに痙攣を繰り返す。
 眼鏡でもかけていればエフェクトとしてずれるどころか、床に落としているような状態だ。
 だって、俺の部屋にある折りたたまれて重ねられた寝具の上に――お、おと、おとうと、弟が。
 制服で、乱れて、うつぶせに、くねくね。両手が見えない、たぶん体の前。何やってんだ、きさん(博多弁)。
「すー……はぁぁ、すぅー……はぁぁ、にいさんの、匂いがするぅ……」
 やめろ、それは俺の枕だ。お前の枕は別の部屋にあるだろう。人の物に顔を埋めるな。
 それはNASAの血のにじむような努力とスウェーデンの企業の努力とデンマークの工場が問題なく稼働している
おかげで存在している逸品なんだぞ。それを、そんなものを、そういうふうに扱うな。
 お前が、無礼にも無様にも、眠る以外の目的――自慰するために使っていいものじゃないんだ。



583 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:39:14 ID:jRR78z+M
 弟が体を少し浮かせた。そしてズボンの中から取り出したるは、くしゃくしゃになってしまった俺の制服のシャツ。
 弟は、あろうことかそれを顔に押しつけた。
「ふぅ……ぁ、あっ! ……これぇ、にいさんと、僕の匂いがするよ……」
 動け。動けよ、俺の口! 今動かなきゃどうにもならないんだ!
 やめろと言うだけでいいんだ。それだけで、こんな吐き気を伴う現状を回復できるんだから!
「はむ……んん、ぁう……ふうぅ……んん、ん」
 食うな。喰うな。シャツを食うな。
 シャツがほとんど口の中に入ってるぞ。そんなことしたら喉につまるだろ。息できないだろ。
 それは食べるものじゃないんだよ。食べるものはキッチンにあるから。
 なんならレンジでチンして持ってきてあげるから。
 だからもうやめてくれ。汚い。金輪際着られない。ナイフで脅されても着たくない。
 あー、ほら。そんなことしてるからむせたじゃないか。馬鹿なことするからそんなことになるんだぞ。
 懲りずにまた口に含むなよ。汚いから。俺の汗とか匂いが染みついている時点で汚いんだから。
 お前の唾液と汗まで混ざったら洗濯もできなくなるじゃないか。
 動くな、止まれ、フリーズ、ストップ。どれでもいいから聞いてくれよ。
「……欲しい。にいさんの――――が、欲しいよ。僕の、ここに……」
 これは悪夢か? じゃあ覚めろ。可及的速やかに覚めろ。
 レム睡眠とかどうでもいい。忘れていい。こんな夢見たくない。鳥肌がういてくる。鶏になってしまう。
「にいさん、――――にいさん。僕はにいさんのこと――」
 やめろ。俺の名前を呼び、あまつさえ何を言うつもりだ。
 僕は……? 俺のことを……? こいつ、まさか!
 やめろ――――――!
「にいさんのことが、…………だい好き、です」

 寒い。家の中にいるのに寒い。
 十一月でこんなに冷えるんなら、来月はどれぐらいの冷え込みになるんだろう。
 早く服を着ないと風邪をひいてしまう。パンツ一枚ではとうてい寒さはしのげない。
 明日は楽しい楽しい文化祭の準備なんだから、風邪をひいて潰すわけにはいかない。
 あ、駄目だ。くしゃみが……鼻をつまんで止め…………いや、間に合わない。

 爆発。
 鼻の奥から湧き起こった衝動が脳へと走り、指令を受け取った然るべき器官が応答した。
 止めようがなかった。目の前の光景に釘付けになっていた時間がどれほどか覚えていないが、俺にくしゃみをさせる
程度には長かったようである。
 くしゃみというものは仕組みからして、吸い込んだ息を一斉に吐き出すもの。
 したがって、どうしても音を吐き出してしまう。
 弟の絶対に目にしたくない痴態を隠れながら見ていた俺にとって、やってはいけない行動の最たるものであった。

「――っ! にい……さん!」
 弟は紅潮した顔で俺を見上げていた。
 布団の上に落ちたシャツと口元を繋ぐ透明な糸が、蛍光灯が放つ光を反射している。
「とうとう……見ちゃったんだ。兄さん。ずっと隠してきた、僕の秘密を」
 見ていない。俺は何も見ていない。現実逃避しているわけじゃない。これは絶対的に現実じゃないんだ。
 だって、弟がそっち系の人間のはずがない。弟はそっち系であってはならない。
 こいつだけはまともでいなければならない。俺が、まともなままでいさせなければならない。
「じゃあ、仕方ないよね。……見られちゃったんなら、もう隠す必要もないし」
「いや、ぜひとも隠してくれ。誰にも言わないから。担任にもお前を慕う女の子たちにも、一言も漏らさない」
「信じられないよ、そんなの」
「後生だから、信じてくれ。さっきは悪かった。この通りだ」
 腰から四十五度に傾ける。さらに両手まで合掌させる。
「僕は謝って欲しいわけじゃないよ。欲しいものは、別のもの」
「……金か? 例の全身完全稼働モデルのフィギュアか? カツ丼なんかどうだ? カツ丼、好きだろ?」
「うん、好きだよ」
「だったら、それで何とか手を打って――」
「でも、もっと、もっともっと好きなものがあるんだ。それはね――――兄さん自身」



584 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:40:17 ID:jRR78z+M
 弟が身をかがめた。そして音もなく、跳ねた。真上ではなく、部屋の入り口にいる俺へ向けて。
 逃げるという選択肢をようやく思い浮かべたのは、弟に両腕を掴まれて笑みを向けられてからであった。
「兄さん、捕まえたよ」
「うぅ……」
「これでもう、逃げられないね。じゃあ――早速」
 言い終わると同時に、俺は足払いをかけられた。
 突然宙に浮いた俺にとって確かな感覚は弟に掴まれた腕だけ。
 なすすべもなく尻餅をついた。弟に腕を掴まれていたため、衝撃は軽い。
 がちゃり、という音が頭上から聞こえた。弟の手によって部屋に鍵をかけられた音だった。
「これなら、もう邪魔は入らないよ。それじゃ改めて……」
 改めるな。いや、己の行動を悔い改めろ。
「兄さん。やっと……こうすることが出来た。ずっと、こうしたかったんだ、僕」
 床に仰向けに倒れた俺の上に、弟が乗った。両腕を首に回して、耳をくっつけてくる。
「弟、お前……そういう種類の人間だったのか」
「そういう? ってどういう意味なの? 僕がこうやって抱きついちゃ、いけない?」
「あったりまえだろうが! まさか、お前が同性愛者だったなんて……」
 ちっとも気づけなかった。同じ家に住んで、同じ釜の飯を食って、同じ学校に通っているのに。

「同性? ……ああ、そういうことなんだ。やっぱり忘れてる。兄さんは頭の回転は速いのに。
 記憶力だってすごいのに。大事なことだけは忘れちゃうんだね」
「お前、いい加減にしておけよ。俺を馬鹿にしたのもとんでもないことだが、こんな馬鹿げたことするのはそれ以上だ。
 今やめるんなら、笑って済ませてやるぞ」
「それは無理だよ。僕、もう……火が付いちゃってるから。すぐに兄さんも、熱くさせてあげるよ。
 うん、だから、ちょっとだけ、ごめんね?」
 両腕を頭の上に持ち上げられた。弟は手近にあったヘッドホンのコードを手にとると、それを巻き付けようとしてくる。
 もちろん俺は抵抗する。縛られでもしたら、おしまいだ。俺も、弟も。
「大人しくしてよ。痛くしないから……」
「やめろ! こんなのは間違ってる!」
「ああん、もう……しょうがないなあ」
 弟は腕を支えにして、逆立ちするように自分の体を高く上げた。
 高い位置にあった弟の両膝は重力に引かれて落下。真下にいる俺の腹を直撃した。
 体に詰まったものを吹き出しそうなほどの痛みに悶える。
 その間に、無防備になった俺の両手首にコードが巻き付けられた。
 それだけでは足りないとでも思ったのか、弟はガムテープを用いて机の脚と俺の腕をびっちりと固定した。
 俺の体を防護しているのはトランクスのみ。頭部、胴体、腕の裏は弟にさらけだしている格好だ。

「痛い? ……よね。ごめん。けど、こうでもしないと兄さんは大人しくしてくれないだろうから」
「ぅぐ……謝る、ぐらぃ……なら、やるんじゃ、ねえよ……」
「……ごめん。でも、その代わりにたくさん気持ちよくさせてあげるから」
 右の腿を挟まれる感触。おそらく弟が両膝で挟んでいるのだろう。
 素足に擦りつけられる制服の感触は、俺が普段着ているものとほぼ同じ。
 決定的に違うのは、いかんともし難い生理的な嫌悪感を覚えること。
「ん……ぁ、あんっ……はぁ、はっ……! あ、ふぁ……」
 股を、腿に擦り続けられる。挟む力が強すぎて、皮膚が焼けそうになる。
 弟は荒い呼吸を吐いている。頬は真っ赤で、引き結んだ唇と合わさって羞恥に耐えているようにも見える。



585 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:41:05 ID:jRR78z+M
 内臓を冒す痛覚に苛まれながら腿の熱さに耐えていると、弟の動きが少しずつ落ち着き始め、ついには止まった。
「はっ、は、……はぁ、ぁぁぁ……。すごいよ。やっぱり本物は違う。知ってる、兄さん。
 僕、しょっちゅうこうやって兄さんの部屋で自分を慰めてるんだよ。兄さんに乱暴に犯されることを考えながら」
「気持ち悪いこと、言うんじゃねえよ。変態」
「……そうだね。実の兄に、そんなことされるのを望むなんて、変態だ。でも、僕はその考えを止められない。
 夜になると兄さんが欲しい、兄さんが欲しい、って言うんだ。……ここが」
 弟は右手で自身の股間を押さえた。そこに何があるかなど、考えるまでもない。
 弟から顔を背ける。気分が悪くて――悪すぎて、弟を直視できない。
「ふふ……兄さんが何を考えているか、手に取るようにわかるよ。僕のモノなんか見たくない、って感じでしょ?」
 わかってんじゃねえか。
「でも、ね。それは外れだよ。そもそも兄さんは根本的なところから考え方が間違っている。
 僕に対する認識が、最初からずれてる。一番大事なことに焦点を合わせていない」
「俺よりひとつ年下。男。恋人無し。特撮ヒーロー番組は欠かさず見る。同性愛者。
 ……どれかひとつでも外れているか?」
「うん、二つも間違っている。僕という存在を根本から見誤っている。ちゃんと見てくれないからそうなるんだよ。
 僕から言わせれば、兄失格、だね」
 俺が兄失格なら、お前はさしずめ人間失格――とまではいかなくても、まず弟失格だ。
 こんなこと、男どうしで、ましてや兄弟同士でやるものじゃない。 
 根っこを植える場所を間違ったのはお前の方だ、弟。

 体にかかる重みが減った。衣擦れの音が聞こえる。
 視界の隅に映るものから推測するに、弟が制服を脱いでいるようだった。
 顔の前に衣服が落ちる。黒いスラックス、シャツ、肌着。弟は今頃パンツだけしか身につけていないはずだ。
 腹の上に弟の腰が落ちた。――やる気か、くそったれ。
「さあ、兄さん。僕を見て」
「断る」
 絶対に見ない。目を固く閉じ、首まわりの筋肉を硬直させる。
 弟が首の方向を変えさせようとしてくる。俺は断固抵抗する。
「もう。仕方ないなあ。兄さん、これでもそうしていられるかな?」
 首を抱かれた。続いて胸を密着させられた。この時点で、些細な違和感を覚えた。
 胸の辺りに、柔らかい感覚がある。服やクッションなどの感触とは違うもの。肉の柔らかさだ。
 疑問が晴れないうちに、胸から下へ向けて少しずつ体を重ねられていく。最終的に、腰を弟の足で挟まれた。
 そして気づく。俺のへその下あたりに乗った弟の股に、何もついていないということを。

 どういうことだ? 男であればついているはずのアレがない。
 横に行ったとか、後ろに行ったとかいう感じはしない。
 中に引っ込んでいる可能性もなきにしもあらずだが、それにしたってここまでまっさら、ということはないだろう。
 つまり、弟にはついていなかった。男の象徴、もしくは息子と呼ばれる体のいち器官が。
「お……」
 お前、どういうことだよこれは、と言いたかった。でも声が出ない。喉が震えない。
 混乱でつい、正面を向いてしまった。
 そこで目にしたのは、上体を起こした弟の上気した顔と――わずかに膨らみを見せる胸。
 どのような鍛え方をしようとも、こんなに柔らかそうに胸が盛り上がったりはしない。
 弟の細身の体にちょうどマッチするような大きさのそれの上には、突起したピンク色の乳首がある。
 そして、視線を下へと移動させると、どんな角度から見ても男物に見えない、フリルで縁を形取った
白のショーツが見えた。履いているのはもちろん弟である。



586 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:41:47 ID:jRR78z+M
「わかった、兄さん? 僕が、女だってことが」
 弟が――今まで弟だと思っていた奴が、女だということは確認した。
 ここまではっきりとした証拠を見せられては、否定しようもない。
 だけど、それが事実だとは認めたくなかった。
「おま……えは、男のはずだろ?」
「女だよ。お、ん、な。僕は弟じゃなくて、妹。兄さんから数えていっこ下の、妹」
「そんな……嘘だろ。だって、妹はお前が好きで」
「ああ、それ」
 弟がくすり、と笑った。
「妹は女の子だけど、女の子が好きみたいだよ。男なんか興味がないんだって。
 だから兄さんには興味がないみたい。よかったよ、妹と兄さんの取り合いなんかしたくないから」
「ふ……風呂。風呂はお前ら一緒に入ってるだろ」
「うん。妹がいろいろ触ってくるからあんまり好きじゃないんだけど。
 ちょっと悔しいのは、妹の方が僕より胸がおっきいことだね」
 知りたくもない情報は教えなくていい。
 どうなってやがる。いったいいつから弟は弟になった? 妹から弟になった?

「僕が男の格好をするようになったのは、小学三年生のころから。そのころは当然兄さんは四年生だよね。
 あの頃ってどういうわけか男の子が女の子と一緒にいるのを避けようとするでしょう? 友達にからかわれるから。
 もちろん兄さんも例外じゃなかった。僕が兄さんと一緒にいたら、兄さん、逃げるんだもん。
 そこで、僕は考えたんだ。男の子になれば、兄さんは遊んでくれるはずだって」
「なんだよ、その短絡的思考は」
「あの頃はそれが一番のアイデアだと思ったんだもん」
 もん、とか言うな。女の子みたいだからやめろ。
 お前は確かに女だが、俺にとっちゃ弟のままなんだよ。いや……確かに、体は女だけどさ。
「……男の格好をしたお前を見て、当時の俺はどうしたんだ」
「驚いてはいたよね。だけど、前みたいに露骨に避けるようなことはなくなった。
 そうやって過ごしていくうちに、兄さんは僕が女だってことを忘れていった。
 プールに行ったときには、男子更衣室に連れて行こうとまでしたんだよ。覚えてる?」
 覚えてない。が、ついさっきまで弟を男扱いしていた。
 俺は以前からそうしていたはず。つまり弟の言うとおりなんだろう。
 俺、昔はとんでもなく馬鹿だったんだなあ……。妹が弟になったらさすがに怪しむだろ。大雑把すぎだ。

「ま、そんなわけで引っ込みがつかなくなった僕としては、弟のままでいることにしたわけ。
 ……でもね、辛かったんだよ。兄さんに男として扱われるの。男だからって理由で、厳しくされるから。
 今日だってそう。保健室で冷たくあしらわれた時は泣きそうになったよ。
 さっきは兄貴の在り方、みたいなことを説かれたし」
「いや、でも……役には立っただろ?」
「ううん。全然。だって僕、兄さんの妹だから。兄さんだけのモノだから、知る必要のないことだよ」
「自分で自分をモノ扱いするな。それに、俺はお前なんか欲しくない」
 たちまちのうちに、弟の顔が悲しみに歪む。
「ひどいよ……どうして、そんなこと言うの。僕、なんでもするよ。兄さんのためだったら、何にも怖くない。
 兄さんが僕のそばに居てくれるんなら、どんな危険だってくぐり抜けてみせる」
「んなもん迷惑だ、って言ってるんだよ」
「僕が妹だから嫌なの? 妹とは付き合えないから? 父さんや母さんみたいになりたくないから?」
「それ以前の問題だ。妹なんて、恋愛対象にはならないんだよ。絶対に」
「そんなの、嫌だよ。僕、兄さんじゃなきゃ。兄さん以外の男の人なんか、絶対に好きになれない」
「そういうのな、錯覚っていうんだよ」
 目の前にいるこいつは、弟だ。たとえ性別が女であっても、俺にとっては弟そのものなんだ。
 だから、俺に好意を抱かせないように、説得しなければならない。
 同級生から慕われる人物に育った弟に対して、俺がしてやれるのはこんなことだけだ。



587 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:42:34 ID:jRR78z+M
「お前は男という存在を、俺一人だけだと思ってる。俺以外の男を見ようとしていないのがそもそもの間違いだ。
 面倒見がいいとか、勉強を教えてくれるとか、優しいだとか厳しいだとか、まともな男なら持っているものなんだ。
 そして、まともな男は探せばちゃんといる。どんな場所にでもいるとは言わない。けど、駄目な奴や悪い奴が
 いるように、まともな奴だって絶対に存在している。
 そういう奴のことを深く知れば、俺のことなんかすぐに小さく見えてくる」
「兄さんは小さい男じゃないよ。そりゃ、一番大事なことを忘れたりはするけど」
「ほれ。大事なことを忘れている兄貴、ってだけでアウトだ。デリカシーなんかあったもんじゃない。
 俺みたいな奴のことを、駄目な男って言うんだ――」
「黙って!」
 眼前で弟が叫んだ。脳全体が震える。耳の中で声が響く。
「それ以上言わないで! 兄さんが自分のことを自分で悪く言っていると、僕まで悲しくなる!
 兄さんを好きになった僕のことまで、駄目な奴って言うつもりなの?!」
「人を好きなるのは悪い事じゃない。俺だって兄貴として慕われているんなら嬉しく思う。
 だけど、お前の場合は、そういうものとは種類が違うんだろ?」
「うん。僕は兄さんが欲しい。兄さんに全てを奪って欲しい。兄さんのこと、愛してるんだ」
 愛している、か。
 そんな台詞を言われたこと、前にもあったな。
 ――そうだ。俺は、他でもない葉月さんに好きと言われているんだった。

「俺も、お前のことは好きだけど」
「好きだけど、……なに?」
「異性としては好きになれそうもない。この状況を元にして想像してみろ。押し倒されているのがお前で、
 上に乗っかっているのが妹――末っ子の妹だとして、お前はどんな気持ちになる?」
「……早く逃げたい」
「それと同じだ。俺は今、お前に押し倒されても嬉しくない。襲いかかってきた人間と同じ気分になんてなれない。
 つまり、俺のはそういうタイプの好意だってことだ」
 相手のことが好きだけど、欲しくない。抱き寄せて抱きしめて、ひとつになりたいと思わない。
 家族や兄弟とは、そういう関係にある時点ですでにひとつになっていることと同じ。
 そう考える俺にとって、これ以上深い関係になることは、心と体を重くさせるだけの結果しかもたらさない。
 簡単に言ってしまえば、一緒に暮らしているんだからそれで十分だろ、という感じだ。

 俺の言葉にショックを受けたのか、いや、受けたんだろう、弟は首を振っていた。
 認めたくない、とでも言うように。
「僕のどこが駄目なの? 言ってよ。どこでも直すから。口調も、女の子らしく戻しても構わないし」
「そういうんじゃない。お前自身の容姿や行動に原因があるんじゃなくて、生まれた時から駄目なんだよ。
 同じ家族の一員という時点で、深いところで繋がっているんだ。兄妹ってのは、そういうふうにできてるんだよ」
「じゃあ……家族じゃなければいいの? 家族以外の他人なら、誰でもいいってこと?」
「誤解を招く言い方だが、おおむねそんな感じだ。もちろん誰でもいいって訳じゃないけど」
「――葉月先輩」
 弟が、ぽつりと声を漏らした。
「葉月先輩なら、兄さんはいいの?」
「……ああ。理想的だな。ベストな選択肢だ。男としては、葉月さん以外の選択肢を選びたくない」
「つまり、それは葉月先輩がのしかかってきたら流されるままに抱くっていうことだね」
「そんなの当たり前だろう」
 俺は、据え膳食わぬは男の恥、という言葉が嫌いだ。来るもの拒まず、という姿勢が好かん。
 だが、葉月さんは据え膳ではない。彼女の味を知ってしまったらそれ以外が劣って見えてしまう、
相手をする気も失せてしまう、というタイプの中毒性の薬物だ。
 もちろん味わったことなんかないけど、葉月さんはそれぐらい言っても大げさではない、素晴らしい女性だ。



588 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:43:48 ID:jRR78z+M
「……ふっ、あは、はははっ……ははははは! 兄さん、嘘はいけないよ」
「何だと? 嘘なんか吐いていないぞ」
「また、嘘の言葉を言った。知っているんだよ、僕は」
 弟はポーカーでジョーカーを使用するときのように微笑むと、悠々と口を開く。

「兄さんが、本当は葉月先輩を好きじゃないってことを、さ」

 言葉を聞いて、カチンと来た。知ったような口を利く弟に対して、怒りが沸いてきた。
「あれ? 怖い顔だね、兄さん。もしかして図星だったりした?」
「お前のその態度がむかつくんだよ。挑発なんかしてきて、そこまでしても俺を怒らせたいのか?」
「ふうん。……その怒りは、何に因るものなの? 単純に、僕の態度に対して起こっているだけ、じゃないの?
 ――葉月先輩に対する想いを侮辱されたのが原因、ではないんでしょ?」
「ふざけんな! お前に何がわかるってんだよ!」
「なんでもわかるんだよ、僕には。さっき兄さんが自分で言っていたでしょう? 僕と兄さんは繋がっているって。
 今日、葉月先輩と話しているときの兄さんを見て確信したよ。兄さんは葉月先輩の外面しか見ていない。
 綺麗な黒髪や造りのいい顔立ちや女性として理想的に育った体に欲情して、それが恋だ、愛だと勘違いしてる。
 葉月先輩の心のうちや、考えてること、知ろうとしていない。理解しようとしていない。そうでしょう?」
「うるっ……さい。黙ってろ!」

 腹が立つ。とにかく腹が立つ。
 ここまで怒りに我を忘れそうになったのは、いつ以来だろうか。
 覚えていない。こんなやり場のない怒りは初めてだ。
 もしも俺の腕が自由だったら――俺は弟の顔面ではなく、自分のこめかみを殴りつけただろう。
 どうしてそうしたいのかは、わからない。ただ殴るべきは俺自身だった。そのことが直感でわかる。
 忘れろよ。弟はあてずっぽうに言っているだけなんだから。
 俺は、葉月さんのことが好き。何度心の中で繰り返しても、その気持ちは変らない。

「ねえ、兄さん」
 喋るな。今の俺は耳をふさげないんだからお前の戯れ言を断てないんだ。
「僕は兄さんのことが好き。この言葉を、僕は兄さんに向けて言える。自分に言い聞かせるために口にしたりしない。
 だって、もったいないもん。相当昔から心に刻んでいるから、自分に言ったって今更なんだ。
 いつどんなときだって兄さんのことが好きってことなんだよ。僕の言ってること、わかるよね?」
「わかるかよ。そんなこと聞かされたって、俺は」
「つまりね、兄さんは自分に向けて、葉月さんが好きだって言い聞かせているんだよ。自分を納得させるために。
 そしてそれは、まだ本当の意味で好きになっていないってことだよ、って僕は言いたいんだ」
「…………」 

 弟の、俺の感情に対する洞察は、実に鋭かった。
 弟の言葉に流されてしまいそうなほど、心に思い当たることがあった。
 葉月さんが告白してきたとき、彼女が俺にどんな想いを抱いているか、どんな種類の想いなのか考えようともせず、
昔経験した出来事と照らし合わせて葉月さんを振った。
 あの時は、屋上にたどり着く前から、相手が誰であっても振るつもりでいた。
 それから色々と、痛みを覚えるようなことをして、ようやく葉月さんの本当の想いを知った。
 だけど知っただけで、俺が想いに応えようとしていたかというと、否だった。
 俺は、葉月さんが俺にアプローチしてくるみたいに積極的になっていない。
 ただ俺は、葉月さんに好意を向けられていることに浮かれているだけだったのだ。
 本当に葉月さんのことを好きだったら――屋上での告白だって、真実だと思って疑わなかったはずだ。

「兄さんが女の人から告白されるのを嫌っているのは知ってたよ。
 中学時代に兄さんを振って、僕に告白してきたあの女の子が、兄さんにトラウマを植え付けたんだもんね。
 それを知っていたから、葉月先輩が兄さんのことを聞いてきたときだって、怒りを抑えられた。
 告白は失敗に終わるだろう、って確信があったから。
 その後、葉月先輩が家に来て妹と兄さんを投げたとき、僕は喜んだ。これで、兄さんは葉月先輩を嫌うだろうと思って。
 けど、そうはならなかった。兄さんは葉月先輩を許してしまった。葉月先輩は、毎朝家に来るほど積極的になった」



589 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:45:08 ID:jRR78z+M
 弟は俺の頭を横から挟むように、両手をついた。その体勢のまま、口を開く。
「あそこで、兄さんが僕を助けてくれたのは嬉しかったけど、ああならなかったほうがよかった。
 兄さんと葉月先輩がもっと仲良くなってしまうなんて。
 葉月先輩に、嘘を言っておけば――兄さんには彼女がいるんだって伝えていれば、こんなことにはならなかったのに」
 そういえば、葉月さんは俺に内緒で、弟に俺のことを聞いていたんだったな。
 もし、弟が嘘をついていたら葉月さんはどうしただろう。
 屋上で告白する決心をつけられなかったか、それさえ無視して告白したか。
 いや、葉月さんだったらそれでも告白していたかもしれない。あの人の積極的な性格なら、きっと。
 たぶん、俺だったら好きな人に彼氏がいたら断念するだろう。

 ――なるほど、この違いか。
 上手くいかないとわかっていて、告白しない俺と、告白する葉月さん。
 相手のことを本気で好きかどうか。
 俺は、葉月さんの純粋な強い想いに対して、本気で応えていない。
 本当に葉月さんに恋していて、欲しいと思っているなら、今みたいに中途半端な関係を続けているわけがない。
 まったくもって、弟の言うとおりだ。後輩の女子生徒たちの視線が語る思いは外れていない。
 真剣な想いをはぐらかし続ける俺は、誠実さという点で、葉月さんと釣り合いがとれていない。
 もちろん、その他諸々もだけど。

 弟は俺と目を合わせたまま、引き結んだ視線のラインをずらすことなく顔を近づけてきた。
 視界一杯に、泣く一歩手前の弟の紅潮した顔が広がった。
「もう、あんな失敗は犯さない。いつ兄さんを奪われるかわからない不安に苛まれるなんて、もう嫌だ。
 兄さん。僕は我慢するのを、やめるから」
 弟のまぶたが微妙に、しかしはっきりと閉じていく。同時に、その顔がだんだん近づいてくる。
 逃げようにも、頭は左右から動きを抑えられている。仰向けに倒れた状態では首を反ることもできない。
 必然の結果として、俺と弟は唇を重ねた。
 最初に感じたのは、弟の唇のふにっとした柔らかさだった。
 唇同士が重なり合うことで、相手の体に宿る熱を感じさせられる。
 弟は一度唇を離し、また口づける。俺の上唇、下唇を啄むように自身の唇で甘噛みする。
「んん、ん……ふ……ん、はぁ、ぅん……兄さんと、キス……兄さんの唇……」
 柔らかい、と弟が言った。俺も、不覚にもそう思っていた。
 俺の記憶には、今まで誰かとキスをし合ったというものがない。
 つまり、俺は弟によって人生で初めての唇を奪われたのだ。
 相手は女ではあるが弟。キスの相手が女であるというのは変じゃない。
 妹とするのが初めてというのは、兄妹の仲によっては起こりうるかもしれないがやはりおかしい。
 しかも俺の場合、弟的存在の妹である弟が相手だ。
 道理に反している。兄妹の仲が破綻している。恋愛のキスなんて家族とやるものじゃない。

 体の上で切なげに身をよじりながら、弟は唇をむさぼり続ける。
 ついには、舌までが上下の唇の間を割って入り込んできた。
 気づいたときには遅かった。歯を食いしばる反応をする前に、弟の舌は俺の舌に絡みついていた。
 荒い吐息と、唇が離れたときに漏れる水音と、口腔を舐めとられる音を聴覚と触覚が拾う。
 俺の頭は、弟の唇で床に強く押しつけられていた。
 逃れようにも、弟の舌は目隠しをした獲物を弄ぶかのように俺の舌を捉えるばかり。



590 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:46:16 ID:jRR78z+M
 舌を動かすことに集中していた俺の背中に、弟の左手が回った。
 背中から強く押され、弟の体とより密着する。胸の上に不快でない違和感。
 それは、人のものにしては奇妙なまでに弾力があった。
 この目にしたときに覚えた慎ましさからは想像できないほどの、極上の感触を味わわされた。
 その刺激に、股間が反応する。むくむくと欲望がもたげてくる。
 女を知らない俺にとって、弟の持つ女性の体は、未知のものだった。
 自分の体とは全然違う。この柔らかさはまったくの異質なものだ。

 下腹部に冷たい手の感触があらわれた。だんだん足の方へ下っていくもどかしさに肌が粟立つ。
 自然と、弟の手は唯一身につけていた下着へとたどり着いた。
 唇をむさぼっていた弟の動きが止まる。代わりに手探りで下着をずらされていく。
 固くなり出した性器がむき出しになったところで、冷たくて小さい指先の感触に撫でられる。
 弟の顔が離れる。ただし、すぐにでもキスできそうな間を空けて。
「あ……本当に、熱くなるんだ。僕のキスとおっぱいで、兄さんが興奮してくれた……」
「……もう、やめろ。こんなことしたって、なんにもならない」
「意味はあるよ。もちろん。兄さんが興奮したら、その分僕だけを見てくれるようになるから。
 最中だけは他の女の人を忘れてくれるでしょう? それは、男扱いされてきた僕にとって一番嬉しいことなんだ。
 女として見られてこなかった反動だよ。……兄さんには、責任をとってもらわなきゃ」

 弟の指が、一物を根本から先端へとなで上げていく。
 先へ行くにしたがって切なくなり、物足りなくなる。
 端へ着いたところで最も気持ちよくなる――が、そこで指が離れて、不満を覚える。
 弟は俺を焦らしていた。指の動きに合わせて小さな反応を返す俺の体の上で、満足げに微笑んでいた。
「気持ちいい? 気持ちいいよね。ほら、さっきよりも固くなって、大きくなってるもん、ね。
 それに、暖かいよ。ここから、兄さんの子種がいっぱい出てくるんだね」
「いい加減にどけよ……重いんだよ、お前の体は」
 俺にはこれが今できる最大の暴言だった。言葉が見つからない。
 案の定、弟は止めるはずもなく、とうとう俺のものを手で包み込んだ。
 身をゆだねてしまいたくなる快感を、痛みの残る腹と肛門に力を入れて抑え込む。
 ここで達するわけにはいかない。一度でも達してしまったら、そこから終わっていってしまう。
 兄としてのプライドも、弟のリミッターも。そんなことぐらい、経験がなくたってわかる。

 弟にも経験がなかったのか、幸いにも擦りあげる動きは稚拙そのものだった。
 強めの力加減、手を触れさせる箇所、ゆっくりな上下の運動。頭は冷静さを取り戻し始めていた。
 弟の顔色に疑いの色があらわれた。
「さっきより、柔らかくなってる……? なんで?」
「そんなやり方で、俺を達せさせるなんてできるわけがないだろ」
「じゃあ、いいよ。やり方を変えるまでだから」
 そう言うと、急に手の動きを止めた。
 代わりに、体を浮かせて体位を入れ替えた。
 頭は俺の下半身へ。下半身は俺の頭部へ。
「お前、何を……? まさか……」
「ふふふ、ふふ。兄さんの、だ……。僕の兄さんの、兄さんのもの……」



591 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:47:06 ID:jRR78z+M
 先を、舐めあげられた。
 続けて鈴口を割り、舌が尿道の入り口から入ろうとする。
 見ていなくても、弟が肉棒を舐めているのがわかる。
 ペニス全体をまんべんなく刺激する舌は、弱点を探そうとしているようだった。
「やめっ、ろ……きもち、わ、る…………くぁ……」
 ぴちゃぴちゃ、という卑猥な音が止まり、弟の声が聞こえてくる。
「嘘ばっかりだ、兄さんは……口ではそう言ってるのに、下半身は正直……んん、おいしい……」
 間断なく、舌が動く。敏感な部分が反応して、びくびくと震える。
「わ、動いた……すご。もっと、もっと……」
 弟は舌を動かしながら、腰もせつなげに捩っていた。
 白くてしみのない太ももと尻、水気によりわずかににじみを見せるショーツ、全てが目の前にある。
 一度も目にしたことのない、女の部分が息のかかりそうなところにまで来ている。
 その自覚が、容赦なく肉欲を盛らせ、下半身を疼かせる。
「先っぽから……ねばねばしたのが出てるよ、兄さん。これが精液……じゃないよね。精液なら白いはずだもん。
 まだ、もっともっと……いっぱい、いっぱい……」

 肉棒を舐める舌の動きがさらに活発になる。それに合わせて、腰まで激しく揺れる。
 はずみで、顎の先が弟のショーツに触れた。
「! ……っは、あ……?! な、何したの、兄さん……今、僕のあそこを……」
 途切れ途切れだった弟の声がさらに小さくなる。
 感じているのか……? 軽く触れただけで?
「もっと……して」
 ねだるような、女の声。
「触って……いいよ。僕は今の……気持ち良かった」
「いや、今のは」
 お前の方からぶつかったんだ、と言おうとしたら、口を塞がれた。弟の手によって、ではない。
 口の上に、濡れたショーツが乗ってきたのだ。弟が自ら腰を下ろしてきた。
「ふぁ……あぁ、ああ……これ、だめ…………駄目になっちゃう……でも、いい、よ。
 僕の恥ずかしい部分、兄さんの好きにして……」
 俺は何もする気はない。そう思っても、口は開けない。
 首を振っても弟には見えないだろうし、何よりそんなことをしたら弟の思う壺だ。

 鼻で呼吸しながら、舌でペニスを舐められ、濡れた秘所を顔に押しつけられる状況に耐える。
 だが、バランスが崩れた。俺の忍耐力に限界が見え始めた。
 裏筋に舌が這うだけで、カリをなめ回されるだけで、体の奥から波が寄せてくる。
「兄さん、また……大きくなったよ? ねえ、どうしたの? もしかして、出そう?」
 その通りだ。だから、早くこの状態を抜け出さなくてはならない。
 足でもがく。しかし、弟の手が邪魔でどうにもならない。体をひっくり返すことも不可能。
 頭は弟の太ももに挟まれたままで、動かせない。
 それでも抜け出せるかもしれないと考え、首を捻る。
「あっ、やっ……兄さん、な……にするのぉ……やあ、ぁ……」
 無駄な動きだった。ただ弟に切ない声をあげさせるだけ。
「や、や……きてる……あ、だめ! だめだってば! 我慢、してっ……」
 弟の声が大きくなった。太ももの力が、一層強まる。限界が近づいているように、見て取れた。
 それでも、弟は口に含んだ肉棒を放さない。それどころか、でたらめに舌が動き出した。
 滅茶苦茶なその動きは、今の俺の気分をあらわしているよう。
 出したい、楽になりたい、という思い。絶対に何があっても我慢しろ、という考え。
 両者のせめぎあいは、本能の勝利に終わってしまった。
 もはや俺のペニスの律動は、抑えられるような状態ではなかった。



592 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:47:49 ID:jRR78z+M
 先端から、勢いよく精液が迸る。
 弟の口内に入り込んでいたため、白濁した液体の全てが中へと吐き出された。
「ん、んん、んーーーーーーーーーっ!」
 遅れて、弟も達した。
 ただでさえ初めから濡れていたショーツが、さらに湿り気を増す。
 俺の顔は弟の愛液ですっかり濡らされていた。
 精液を吐き出したことで少しだけ冷静になると、部屋が静まりかえっていたことに気づいた。
 静寂に、水を吸い上げる音と、喉を鳴らす音が響く。すぐに消えて、頭に音の輪郭だけが残った。

 弟はしばらく脱力して動かなかった。俺も、疲労とは別の理由で動かなかった。
 兄妹で卑猥なことをしてしまったという、取り返しの付かない罪悪感と慚愧が沸いてくる。
 体が軽くなった。弟が体を浮かせて、また向きを入れ替えたのだ。
 腰の上に乗った弟は、唇の端を右手の指で撫でていた。

「兄さんの精液、飲んじゃった。口の中のも、こぼしそうになったのも、全部」
「……そうかよ」
「気持ちよかったかな? ……気持ちよかったよね。僕も一緒にイって、とっても気持ちよかった」
「射精に快感が伴うのは当然だろ。生理現象だ。別にお前が相手じゃなくても、あんなことをされたら、ああなる」
「つまり、僕にされたから射精した、ってことだよね」
「……」
 口惜しいが、そういうことになる。
「じゃあ、兄さん。もっと、気持ちいいことしよう? 二人で、繋がろうよ。本当の意味で」

 弟はその場で立ち上がると、ショーツをおそるおそる脱ぎ始めた。
 露わになった弟の秘所には、当然のように男性器などついておらず、ただ少なめな毛があるだけだった。
 最初に左足から、次に右足から。下着をまで脱いだ弟は、まさに生まれたままの姿だった。
 細い肩と腕、膨らんだ胸、くびれたウエスト、弱そうな腰まわり、すらりとした脚。
 不覚にも見とれていた自分に気づいた俺は、右に視線を向けた。
「今の兄さんの顔。すっごく良かった。女の子を見る目で僕を見つめてた。
 ずっと、そんな目で見て欲しかったんだ……小学生の頃から、今まで。五年以上の間、ずっと」
「……悪かったとは思ってるよ」
「今さら謝られても遅いよ。もう謝っても許してあげない。――僕を抱いてくれるまで、絶対に許さない」
 そう言うと、弟は俺の体の上にまた乗ってきた。
 膝を床につき、俺の胸に右手をつき、体を起こす。
 左手が、肉棒を掴んだ。
 未だに衰えていなかった肉棒の先端が、濡れそぼった弟の――淫裂に触れた。
「お前……それは駄目だ! 絶対に!」
「ふふふ、ふふふふふ……っはは。遅いよ。兄さんは何もかも遅い。
 僕の正体に気づくのも、僕の思いに気づくのも。無防備すぎるよ……兄さんは」
「頼む! それ以外ならなんでもしてやる! だから、やめろっ!」
「だからぁ……もう手遅れなんだよ。兄さんが今まで僕にしてきたことの、罰さ。
 それじゃあ…………挿れるよ。兄さん」
 
 秘所に肉棒が飲み込まれていく。
 きつい入り口をペニスがこじ開けて、緩やかに弟の体を貫いていく。
「あ、あ、あ、あ……僕の中に、兄さんがあ……はぅ……、刺さっていってる……」
 途中、先端部分に何かが当たる感触がした。
 それがいったい何であるのか、女性にとってどれほど大切なものであるのか、俺は触りだけであるが、知っていた。
 なのに、弟はそんなことはなんでもない、というふうに微笑むと、急に腰を沈めた。



593 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:49:07 ID:jRR78z+M
「う、ぅああああああああ、ああ、あああっ!」
 女の体をした弟は、背中を仰け反らせながら、絶叫した。
 首を持ち上げて下半身へ目を向けると、俺と弟の体は隙間も無くぴったりとくっついていた。
 俺のペニスは、弟の体を貫いていた。真っ赤な血が、俺の腰と弟の腿を濡らしていた。
 超えてはならないラインを、俺と弟はあっさり踏み越えていた。
「……ああ、気持ちいい……頭がヘンになりそうだよ。こんなに、兄さんに犯されるのが気持ちいい、なんて」
「お前、自分が何したか……」
「知っているよ、もちろん……兄さんに処女を奪ってもらった。抱いてもらってるんだ……今の、僕、は。
 は、ああぁぁぁぁぁ……もう、痛くないから。動くね。兄さんも、好きなだけ突いていいから」
 
 水音と共に、弟の腰が浮く。離れるとき以上に大きな音を立て、腰が落ちる。
 弟から動くその行為は、言うなれば逆レイプのようなものだった。
 押し倒され、唇を奪われ、性器を舐められ――貞操を失った。
 初めてする相手が誰、とは決めていなかったけれど、まさか弟、しかももとは妹だった人間とするなんて。
 もうめちゃくちゃだ。思考も、欲望もぐちゃぐちゃで、体までぐちゃぐちゃで。

 ――いいや。なにもかも。
 俺が悪いんだ。今まで妹のことを弟だと思いこんでいたのが悪いんだ。
 弟を、いや、妹を気持ちよくさせてやろう。
 俺の腰の上で卑猥な笑みを浮かべている女は、俺が欲しいんだ。
 望むものをあげてやりたい。
 腰は動く。ほら、こんなに簡単に。
「ふっ!? あ、ひゃあっ! に、さん……急に、しちゃだめ……だめぇ……僕、感じやすいの……に。
 は、やぁ、ひぃん、あぅんっ、ひっ……い、やぁぁぁぁぁ…………」
 ああ、この女は、気持ちがいい。
 どうして今まで放っておいたんだろう。こんなにいい体を持った女を。もったいない。
 俺は馬鹿だ。妹だと知っていたら、もっと早くに手をつけていたのに。

「い、く……いくいく、い、ひぃぃぃぃいん……」
「出すぞ。いいな」
 こんな台詞、妹に言うべきものじゃないだろ。
 ああ、でももう、遅いな。
 こいつの言うとおり、俺はなにもかもが――遅い。
「うん、うん! 赤ちゃん、産むから! っふ、ああっ! 兄さんの、子供、欲しいからあっ!
 だめっ! も……ぅ、あああああ! イク、イクっ! ああ、ああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
 自分がなにをしているのかわからなくなるほどに、絶頂した。同時に、妹も。
 迸る精液が、肉棒がたどり着けないその奥までも犯していく。
 俺は、妹を抱いてしまった。
 近親相姦を認めないという考えを持っていたのに、そんなもの、いざというときには何の役にもたたなかった。
 もう俺は、兄貴失格どころか人間として失格だ。
 このまま、堕ちていってしまえばいい――――――――。







594 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:51:56 ID:jRR78z+M
*****

「兄さん! 兄さん! 起きて!」
「む……?」
 後頭部に感じるのは固い床の感触。腰から背中へ向けて流れ込むのは室内の空気。
 そして目の前にいるのは、同級生の女子に大人気のプレイボーイである弟であった。
「大丈夫? うなされたりごめんなさいって謝ったり嬉しそうに笑ったりしてたけど」
「ん……ああ。平気だ」
「本当に? どこか体が悪いんじゃ」
「心配するな。寝てただけだ……っと、ここ、どこだ?」

 床にあぐらをかいて周囲を観る。
 洗濯機、洗濯かご、タオル専用の小型タンス、足ふきマット、バスルームへ続くドア、などがある。
 ふむ。ここは我が家の脱衣所らしい。
 俺は、どうしてこんなところで倒れていたんだ? これじゃあまるで弟みたいじゃないか。
 いや、弟は誰かに眠らされたんだったな。
「いつまで経っても来ないと思ってたら、兄さんが床に頭をぶつけて気絶してるんだもん。びっくりしたよ」
「そうか……。いやなに、気にするな。どうせなにかで転んだだけだ」
「なら、いいけど。気をつけてね」
 弟が困ったような顔で笑う。
 相変わらず中性的な顔をした野郎だ。まるで女の子――――だ、って。

「う、ああ! うわあああああ!」
「ちょ……兄さん?」
「おま、近づ、何が目的、だっ!」
「……大丈夫じゃなさそうだね。今日は寝た方がいいよ。風邪ひいたら面倒だっていつも兄さん言ってるでしょ?」
「そ、その思いやりの心! 誠かっ! 何か隠しているのでは?!」
「隠すことなんか、特にないよ。僕にはね」
「嘘を吐け! お前が! 本当は――」
 女だって事を俺は知っているんだぞ!
「言え! 白状しろ! お前は一体誰が好きなんだ! 正直に言わねば、殴る!」
「え? えー……っと」
 弟が俺から目を逸らして、頬を掻いた。
 この、はっきりとしない態度。もしかして……正夢?

「妹じゃ、ない」
「……おう」
 それは知っている。
「葉月先輩や、同級生の子たちでもない」
 おいおい。それ以外で、お前が好きになりそうなやつなんていないだろ?
「まさかお前……男が」
「それはない。絶対にないよ」
 毅然とした態度で言う弟だった。
 もしこの台詞が嘘だったら、こいつの文化祭での衣装は悪の組織側のやおい大好き副官にしてやる。

「うん、ヒントをあげるよ。ひとつめ、年上の人。ふたつめ、同じ学校の女の人。みっつめ、兄さんも知っている人」
 なんだそれ。ひとつめとふたつめなら二年女子、三年女子、女教師、ということになる。
 けど、その中で俺が知っている人間となると……俺のクラスの担任になるじゃないか。
 こいつ、文学オタで年増で博識な失言家が好きなのか。
 妹以外の女なら誰でもいい、って昔の俺が言ったかもしれないけど、あの担任だけはやめとけ。
「ま、ともかくお前は男が好きなわけじゃないんだな」
「当たり前でしょ」
「そうか。……よかった。その言葉を、俺はずっと待っていた……!」



595 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:53:42 ID:jRR78z+M
 心の中で感涙にむせぶ俺の横で、弟は首を傾げていた。 
「変なの。あ、そうだ。もう妹は帰ってきてるよ」
「早いな。遅くなるんじゃなかったのか?」
「うん。僕も気になったから聞いてみたら、途中で抜け出してきたって言ってたよ。
 帰り道で冷えたから、ご飯より先にお風呂に入りたいとも言ってた。いいかな? 先に入って」
「ああ。いいぞ。俺は先に飯を食べておくから」
「ん、わかった」

 弟はきびすを返して脱衣所から出て行こうとする。
 ふと、思いついたことがあったので、弟を呼び止める。
「なあ、一言、言っていいか?」
「いいけど。何? 改まって」
「ああ。あのな……」
 お前は本当に男なのか? と、聞いていいものだろうか。
 あんな夢を見てしまった今の心境では、是非とも確認しておきたい。
 しかし、どんな手段で弟の股間にアレがついているということを確認すればいいのだろう。
 もし直接触って、真っ平らだったりしたら……俺は立ち直れないかもしれない。
 何か、弟の体に触れることなく、それでいて最悪の場合だった時に受けるダメージが少ない、そんな方法はないか?
 風呂に入っている弟の体を覗き見るなんて冗談でもやりたくない。家族にばれたら冗談という言い訳じゃ済まない。
 弟に軽蔑され、両親に見放され、とどめに妹に凶器を向けられてジ・エンドだ。
 一言でいい。一発で男であると確認できる一言があれば。

「後でもいいかな。妹を呼びに行かなきゃ」
「ああ、ちょっと待ってろ」
 腕を組み、首を前に倒し、床を見つめながら眉をひそめて考える。
 アレのことを考えていたので、ついつい自分の股間へと目がいく。
 そうか――これがあったか。
「おい、チャックが空いてるぞ」
 どうだ。これなら、さすがに男なら反応せざるをえまい。
「あはは、やだなあ、兄さん。僕をはめようっていうんなら、もっと上手いこと言わなくちゃ。
 僕はチャックだけは閉じ忘れないよう、確認を怠らないんだから」
「え……おい、あれ、れ?」
 この反応は、どうとればいいのだ?
 慌ててチャックが閉じているか確認しないから、アウト?
 それともチャックを必ず閉じる、つまり人並み以上に意識しているからセーフ?
「終わりなら、僕は妹を呼びにいくよ? いい?」
「あ、ああ。悪かったな、変なこと言って」
「いいって。じゃね」
 弟は脱衣所の扉を開けて廊下へと出て行った。今度は、俺は呼びとめなかった。

 あれは、夢……だよな?
 でも、やけに弟の言葉には説得力があった。
 俺が葉月さんに抱いている気持ち。
 告白しないのは、勇気がないからではなく、本当に好きになっていないから。
 本当に好きになるって、どういうことなんだ?
 自分で自分に対して、俺は葉月さんが好きだ、と言い聞かせるのとは違うんだろう。
 俺だって、それは違うと思う。

 葉月さんの想いに応える方法。俺はそれを見つけられるんだろうか?
 見つけられるまで、実践できるまで、葉月さんは俺のことを好きでいてくれるのだろうか?
 あ――違うか。相手がどう思っていても、自分の好意を伝えるのが好きだってことなんだもんな。

「葉月さんのこと、好きになりてえなあ」

 もう二度とあんな夢を見ないために。なにより、葉月さんのために。
 今日は、ご飯を食べて風呂に入って、早めに眠ろう。