540 名前:幼なじみの早見さん[] 投稿日:2013/05/15(水) 13:14:08 ID:8puLo2DY [2/3]
高校三年の三学期という時期は本来、受験シーズンで忙しいはずである。だがすでに、秋に県外にある私立の三流大学を合格した僕は自由登校であり、授業は受けずに図書室でひたすら暇を潰していた。こんなことなら学校に行かないという選択肢もある。しかし先日学校を休んでいたら、早見さんは「せっかくのズル休みなのに、部屋に籠るのは勿体無いわ」と買い物に付き合わされた。だから学校は休みたいが、休めないのだ。
 こうあまりに暇だと、つまらないことを考えたりしてしまう。
 今の僕は早見さんのお気に入りの玩具だ。でも早見さんだっていつかは、お人形さんごっこにも飽きてしまうかもしれない。飽きて捨てられた玩具は、どうなるだろうか?
「今日は随分と浮かない顔してるのね」
どうやら顔に出てたらしく、早見さんが勉強の手を止めて要らん心配をかけてきた。
「ちょうどいいわ、貴方の考えていることを当ててあげる」
「やめろ」
「将来のこと」
「止してくれ」
「私との初夜について」
「おい」
「安心して、貴方が早漏でも気にしないわ」
「勝手に決めるな」
「あら、じゃあもしかして遅漏なの? 」
「頼むから黙っていてくれ」
早見さんの思考に呆れてしまう。
少し気を抜いた隙をついて早見さんが優しく抱き締めた。
「大丈夫、貴方を一人になんてしないわ」
不思議と早見さんのぬくもりは僕の心に安らぎを与えた。思わず、抱き締め返しそうになるがグッと我慢し、早見さんを突き放した。
「暑苦しい」
僕は早見さんの好意には応えられない。今ここで恋人になるのは簡単だ。でもきっと早見さんの好意は、僕という獲物を手にするための狩りのようなもので、早見さんが僕を手に入れたら、もう僕を追いかけてはくれなくなるかもしれない。ふと、そんなことを考えてしまった。もしかしたら、早見さんなんかよりも、僕の方が早見さんに好意を抱いてるかもしれないな。
「何がそんなに可笑しいの? 」
早見さんに言われて自分が笑ってることに気付いた。
「何、馬鹿なこと考えてたんだろって思ってさ」
「今更何よ、馬鹿なんだから当たり前でしょ」
「でも、そんな救いようのない馬鹿に付きまとう早見さんはどうなんだよ」
「もしかしたら馬鹿かもね、馬鹿同士仲良くしましょうか? 」
「そういえば、最近は暴力に頼らないな」
「卒業する時に怪我してるのはかわいそうだと思ったのよ」
早見さんがそんな理由で暴力を辞めるなんて意外だとぼんわり考えたりしていた。
実際、冬になってから病院に行くような怪我はない。おかげで今は骨折ひとつない。でも、早見さんが何か企んでるかもしれないと思うと不安なので、聞いてみた。
「明日って何の日か知ってる? 」
「何日だっけ? 」
「二月十四日よ、思い出したかしら」
「今すぐ忘れたい」
「じゃあ、今夜は私の家で」
「バレンタインは明日だぞ」
「えぇ、だから今日は泊まりよ」
「ハァ?!」
「せっかくだし、誰よりも早くバレンタインを楽しみたいのよ」
「僕は楽しくないんだが」
「馬鹿ね、貴方じゃなくて私が楽しむのよ」
「こういうのは互いに楽しむイベントじゃないのか? 」
「どうかしら」
すると、早見さんは僕の胸板に耳をあてた。
「本心じゃ、けっこう楽しみにしてるみたいね」
「そこに心はない、心臓だ」
「もしかして、彼のハートをものにするって、心臓を鷲掴みにするってことかもね」
「恐過ぎだろ」
だんだんと話が逸れてきたので、早見さんはわざとらしく咳払いをした。
「で、私の家に行く前に買っておく物はあるかしら」
「ないよ」
行きたくないと言っても無駄なので、テキトーに答える。
「てっきり、コンドームくらい買わせて欲しいと言うかと思ったわ」
「どこまでする気だ? 」
「最後までよ、パパ」
「呼び方が段階とび過ぎだろ」
「いいじゃない、今から子ども作るんだから」
「コンドームする気ないじゃん」
「当然よ」
「帰りたい」
「いいわよ、私達の愛の巣に帰りましょ」
早見さん宅改め、愛の巣に僕は連行された。
最終更新:2013年05月15日 14:46