※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

576 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2013/06/02(日) 23:04:13 ID:23KWtG.. [2/6]
…はあ……。

…そんなところで立ってないでいるならいるって言ってくださいよ、びっくりするじゃないですか。
珍しく元気がない?
失礼な、私にだって機嫌がいい日があれば、悪い日だってあります。
…ちょっとこの間の二人を見て少し私の思い人のことを思い出しまして。
なんですか、その顔。
私に好きな人がいるのが不思議ですか?
そうですね、ちょうどいい機会ですし皆さんに私の生い立ちをお話ししますね。
大丈夫ですよ、そんなに時間は取りませんから。

あれは20年前のことでしょうか、私が幼稚園に通っていた頃のことです。
その時にはまだ幽霊も見えなければ、彼らの存在すら知らなかった俗に言う『普通』の女の子でした。
父がいて、母がいて、自分の家がある何一つ不自由のない生活を営むごく普通の少女。
そう、あの事故が起こるまでは…

「せんせい、さようならー!」

いつものように帰りのバスに送られて帰宅した私。
その日はずっと楽しみにしていた私の誕生日で、そのため父も仕事を早く切り上げて、部屋の飾りつけをしていました。
子供ながらに母の手伝いをしようとしたんでしょうね。
キッチンで夕食の準備に取りかかっていた母が少し目を離したすきに、何も知らない私は火をつけようとコンロに手をだし…

「駄目よ、恵美!いますぐそこから離れなさい!」

まさに一瞬の出来事でした…。
目の前が火の海になり、爆発に巻き込まれて自分の存在が消えていくのを体が覚えています。
痛みも恐怖も感じることなく、最後に見たのは私を助けようとする両親の必死な姿で、そのまま意識を手放しました。

次に目が覚めたのは病院のベッドの上。
にわかには信じられませんでしたよ、自分が生きていることを、しかも五体満足で…。
周りを見渡し、違和感を感じてそばにいた看護婦さんに尋ねました。

「お父さんとお母さんは別のお部屋なの?それともお仕事?」
「……。」

私の質問に対して目をそらす看護婦
幼い自分にはその行動がどういうことを意味するのかを理解することができませんでした。
本当に馬鹿ですよね、あなたを助けようとしたせいで二人とも死んでしまった、なんて言えるわけないのに…。

577 名前:最終話 前編[sage] 投稿日:2013/06/02(日) 23:05:38 ID:23KWtG.. [3/6]
それからの私の人生はさんざんで辛かったけれども、同時に自分への戒めでもありましたね…。
親戚の家をまわり、誰からもすげなく扱われて、彼らの機嫌を損なわないようにふるまい、いつも何かにおびえる毎日。
思えばその頃からぼんやりとですが、幽霊の姿が見えていたのかもしれません。

そしてとうとうやってきた、二度と思い出したくないあの孤児院での生活。
すでにあの事故のことは世間に新聞で広がりつつありました。

『一家心中か!?一夜にして一軒が焼失!』
『両親は死亡…。生き残った娘の運命やいかに』

マスコミたちによる過剰でいい加減な見出しは、孤児院に住む他の子供たちが私を遠ざけるだけでなく、先生たちまでもが必要以上に私と接しようとしなくなるには十分でした。
それで済めば、まだ皆とも触れ合うことはできたでしょう…。
しかし、皆さんもご存じのように私には事故のショックで幽霊が見えるようになっており、

『どうして…、どうしてあなたは振り向いてくれないの?』

『憎い、アタシからあの人を奪ったあの女が憎い!』

『お願いだから、私を一人にしないで!ずっとそばにいてよ!!』

彼女たちの怨念…、いや、心の叫びが常に幼い私に降りかかりました。
多感な時期に悪意に触れ続けると、人間がどうなるか想像できますか?
以前出会ったあの自転車の霊のように人を疑い、誰かを信じる気持ちをなくし、人と触れ合うことに恐怖を感じるようになってしまったんです…。
そしてとうとう、院で生きることに耐えきれなくなった私は決心しました。

(ここを出て行こう。お父さんとお母さんの待つあの家に帰ろう…。)

子供の行動力とは恐ろしい物です。
いるはずもない両親に会うために、院の先生たちの目を盗み、
普段使われていない裏口から脱走しようとしましたもん。
もっと他に方法はあったはずなのに…今の自分では考えられませんね。

翌日の深夜、子供たちや先生たちが寝静まったところを見計らって、布団を抜け出した私。
もうすぐ、もうすぐで二人に会える!
そう思って裏門に手をかけた時、

「…っぱり、……のこ…り…たけの…おいし……」

ふいに聞こえてきた幼い声。
最初は幽霊かと思ったけれど、能力上それまで男性の霊を見たことはなかったので、疑問に思いました。

578 名前:最終話 前編[sage] 投稿日:2013/06/02(日) 23:06:51 ID:23KWtG.. [4/6]
こんな時間にいったい…。
自分も人のことを言えないくせに、目的もすっかり忘れて声のする方へ向かうとそこには『一人』の少年がおり、

「だからー、きのこなんかよりもたけのこのほうがおいしいにきまってんだろ!センスないなあ。」

…正直、最初は彼の様子よりも、その内容におどろきを隠せませんでしたよ…。
見たところ私と同い年くらいの子で、何の変哲もないように覚えましたが、世間一般では夜中に独り言をいう子を普通とは呼びません。
逃げなきゃ、あの子に関わっちゃダメだ…!
その場を離れようと、踵を返した途端、

「ん、なんでにげるんだよ、そこのおまえ?こっちきていっしょにあそぼうぜ!!」

「!!」

な、なんで…?
確かにあっちからは見えないように隠れていたはずなのに、どうして…。
「なんでみつかったの、ってかおしてんなあ。
 へへっ、おしえてやるからはやくきなって!」

「…う、うん。」

仕方なく、言われた通り彼に近づき、遠くからじゃ見えなかった月に照らされた彼の顔を見ます。
それは、少年のあどけなさと好奇心旺盛さをあわせ持ったもので…

「…?なんだ、なんかおいらのかおについてるか?」

「え!?いや、そんなことないよ!ただちょっと…。」

「ふーん、へんなやつだなあ、おまえ。
 まあ、いいや。そんなことより、ほら!」

彼はそう言って、私に手をさしのばす。
変なやつって…一番言われたくない人から言われるとなんだか…。

「…え、えっとどうすればいいの?」

「なんだよおまえ、はくしゅもしらないのか?
 てをつなげばいいんだよ!」

「それをいうなら、”握手”じゃあ…。」

「う、うるさいなあ!そんくらいしってるにきまってんだろ!?
 いいから、はやくしろって!」

彼の羞恥で赤く染まった顔を眺めて、くすっと笑う私。
大丈夫、この子は危ない子なんかじゃない。
そう思った私は、彼の掌に自分のそれを置きました。
すると…

「え、これって…。」

彼の手を握った瞬間、今まで何もいなかったはずの院の裏庭には、あふれんばかりの人…
いや、幽霊たちが宙を漂っていました。

579 名前:最終話 前編[sage] 投稿日:2013/06/02(日) 23:07:39 ID:23KWtG.. [5/6]
『おっ、やっと俺らが見えるようになったのか。いやあ、それにしても可愛いねえ…。
手ぇ、出してもいいか?』

『ちょっと、このスケベ。あんたついにロリコンにまでランクアップしちゃったの?
 まあ、アタシも同感だけどさ。ふふっ、将来が楽しみね。』

『二人ともいい加減にしとけ。すまない、こいつら礼儀というものを知らんから…。』

ワイワイガヤガヤドンドンパフパフ

…その光景に私は声も出ませんでした、もちろんいい意味でですけど。
それまで、霊に対して悪印象しか持っていなかったからか、彼らの姿はとても新鮮で今までのイメージを覆すものでしたよ。

「ふふん、おどろいたか?こいつらのおかげでおまえがいるのもバレバレだったってわけだ。
 おっと、なきたいきもちはわかるけどがまんしろよ。
 なんせ、こいつらゆうれいのくせに「すごい、すごいよ!私こんな霊たち見たことないよ!」……え、ちょっ…。」

自慢げに話す彼にあまりの嬉しさに飛びついてしまいました。

「ねえ、どうやったらこんなふうにできるの?
 私もっと、もーっとこんな霊たちとお話ししたい!お願い、教えて!?」

『へー、お嬢ちゃん。あんた霊はいけるくちかい?
 うらやましいぜこの野郎!』

『本当よ、こんな可愛い子に気に入られるなんて高志(たかし)ったら妬けちゃうわ。』

「わわわ、わかったから、い、いったんはなれろって!!
 おまえらものんきなこといってねえではやくたすけろーーっ!」

――――数分後――――

「なるほどな、じこにあってから、あくりょうたちになやまされつづけていると…。
 それで、こいつらをみてもおどろかなかったのか。」

落ち着いたところで、彼に自分の悩みを打ち明けました。
自分のせいで両親が死んだこと、それから誰も優しくしてくれなかったこと、怨念が降り注ぐ毎日のことをまるで懺悔をするかのように…。

『可哀想に…、辛い目にあってきただろうな。
 心配しなくても私たちは君に危害を加えようなどとは思わないよ。』

『おうよ、まったくひでえ奴らだぜ。
 寄ってたかって、女の子を泣かせようとするなんざあ、霊の風上にもおけねえ!』

「それ、おまえがいえたことじゃないだろ…。
 でもこのままだとまずいな、あいつらようしゃないしなあ…。」

幽霊さんたちもこの子も私のために悲しんだり怒ったりどうするか考えてくれている。
それだけで十分幸せでした。

「…よっし、きめた!
 おいらがおまえにれいとのつきあいかたってのおしえてやるよ。
 きょうからおれのことはせっしょうとよべ!」

「ほ、本当!?ありがとう、…えーっと」

「ああ、いいわすれてた。おいらのなまえはたかしっていうんだ、よろしくな。」

「私は恵美、よろしくね。あと、せっしょうじゃなくて、”師匠”じゃないの…?」

『ああ、気にしないで恵美ちゃん。高志ったら頭悪い癖にすぐ難しい言葉使おうとするんだから。』

「よけいなこというな、わざとまちがえたんだよ!」

あははははははは!!
…何年振りだろうか、心の底から誰かと笑うことができたのは。
もう、院から抜け出そうという気持ちはすっかり消えていました。
高志君という、生きる希望が見つかったから…。