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603 名前:子猫の願い[sage] 投稿日:2013/06/15(土) 23:45:15 ID:zWZrfOQg [2/6]
 厄介な物事が発生したら問題点を一つ一つ順番に解決していくべきだ、と耕平は自室で少女と正座で向かい合いながら考えた。
 とは言ってもどこから手を付ければいいのやらだが。
「つまり」咳払いを一つして耕平は質問を始めた
「おまえはミー子なんだな」
 相手の少女は激しく何回もうなづく。
 確かにミー子と同じ三色の髪の毛をしているが、落ち着いて考えてみれば染めているのかもしれない。黄色い右目と青い左目にしてもカラーコンタクトかもしれない。
 しかしこれはさすがに無理だろうな、と耕平は少女の頭部に突き出ている二つの突起物、いわゆる猫耳を見て思った。試しにつまんで引っ張ってみると
「痛い痛い痛い痛い痛い! コーヘイ痛い!」
 とても取れそうにもないし、よく見れば血管があり血が通っているのが見える。
 猫耳から手を放し、今度は腰まで伸びる三色の髪の毛をかき分けて――その時触れた首の細さと白さに鼓動が一瞬高鳴ったが――本来耳があるであろう場所を探ってみると、そこには何もなくただ頭皮と同じように髪の毛が生えているだけだった。
「あっ……コーヘイ、んっ……」
 なにやら艶めかしい声を上げだしたので慌てて手を放し、離れて少女を見直す。
 白磁のような、と表現されるにふさわしい白い肌と幼さを残しながらも気高さを感じさせる整った顔立ちは万人の視線を釘付けにするであろう美しさだった。身体つきは10代前半の少女として年相応に発達しており、僅かに主張を始めていた胸のふくらみも耕平は思い出せる。今は耕平のシャツを着せているので目にすることはできないが。
 耕平は少女が猫だったのかはともかく普通の人間でないことは確かだと結論付けた。ならば次は本当にミー子かどうかという事が問題になる。
 試しに自分のことについての質問を始めてみた。
「俺の名前は?」
「コーヘイ、吉良耕平」
「歳は?」
「24歳」
「じゃあ……」
「コーヘイの事なら何でも答えられるよ。食事に好き嫌いはないけど特に好物なのは私と同じマグロのお刺身、でも私はあんまり食べちゃいけないんだよね……。趣味はもちろん私と遊ぶこと。それ以外にも将棋、休日には近くのスポーツセンターに泳ぎにも行ってる。テレビはあんまり見ないけど日曜にやってる将棋番組は欠かさず見てる。あ、それと夜中に時々ちんちんいじってるよね、その時はパソコンにある『巨乳』ってフォルダの中から……」
「やめてくれ、それ以上言うな!」
 今までミー子の前で晒してきた痴態を思い出し耕平は頭を抱えた。猫相手だから気にしてなかったが今や相手は美少女である。恥ずかしいどころの話ではなかったし、ここに至って耕平は少女がミー子であることを認めた。

「それで、なんでこんなことになったんだ」
 相手がミー子であると分かったならば、次の段階に移るべきである。耕平の問いに対してミー子は昨夜起きたことを説明した。
 耕平のつぶやきを聞いたこと、それがかなうように願ったこと、天使と悪魔が現れて自分に願いがかなうと告げたこと、それから眠りに落ちて目覚めたら人間になっていたことを。
「天使と悪魔か……」
 俄かには信じがたい話である。とは言っても猫が突然擬人化するという奇病が流行っているという話を聞いたこともないし、他に納得できる説明があるわけでもない。
 信じるしかないだろう、そう思った耕平だったがそれにしても放っておけないことがあった。
「なんでそんな勝手なことを!」
 怒気をはらんで言う
「ふえっ!?」
 耕平が珍しく本気で怒っているということに気付くとミー子は涙目になり
「ごめんなさあい……」
 と頭を下げて謝った。
 しかし耕平がさらに「魂を渡すなんて約束をしたらどうなるか分かってたのか!」と続けたので、
「え?」
 ミー子は顔を上げて一瞬呆けた。どうも自分が思っていたのとは違う理由で耕平は怒っているらしい。
「あの……私が魂を悪魔にあげるなんて言っちゃったから怒ってるの?」
「ん?」
 今度は耕平が呆ける番だった。
「それ以外に怒る理由なんかないだろ?」
「私が勝手に耕平の願いをかなえようとしたから……」
「ミー子が俺のことを思ってしてくれたんだから、怒るわけないだろ、とても嬉しいよ」
「コーヘイ!」
 自分のことを心配して怒ってくれていた、という事に気付いたミー子は喜びのあまり満面の笑みを浮かべて耕平に飛びついた。
 そのまま抱きつかれた耕平は鼻腔に広がる猫だったころのミー子の匂いを僅かに思い出させる、少女の特有の甘い香りに酩酊しそうになり、慌ててミー子を引き離す。
「とにかく魂を渡したりしたら、とんでもないことになるんだぞ」
「どうなるの?」

604 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2013/06/15(土) 23:47:06 ID:zWZrfOQg [3/6]
 聞かれて耕平は言葉に詰まった。はて、悪魔に魂を取られるとどうなるのだろうか。ろくでもないことになるのは予想できたが、具体的にどうなる、と言われるとどう答えればいいのか分からない。地獄に落ちる、とでも言えばいいのだろうか。しかしそんなことを言うのはミー子が可哀想だ。と、そう考える耕平はこの期に及んでもミー子に甘かった。
「タバコとかレモンとか唐辛子が敷き詰められた部屋に閉じ込められるんだぞ」
 結局そう返答した。発想の貧困さに泣けてくるが、ミー子が嫌がりそうなものというとそれぐらいしか浮かばない。
 聞いたミー子は一瞬泣きそうな顔をしたが
「……が、我慢する」
 と、両手の人差し指を突き合わせて言った。
「え?」
「私がそうなればコーヘイは『カノジョ』を手に入れられるんでしょう? それでコーヘイが幸せになれるんなら、我慢する」
 かわいい。
 耕平はミー子を抱きしめたい衝動に駆られたが、全身の力を振り絞って何とか自制すると、「いいかい、ミー子」とわざとらしく厳粛な顔付きをして告げる
「俺の幸せはミー子が幸せになることだ。ミー子がそんな可哀想なことになったら、その時点で俺は不幸だ。だから自分を大事に……」
「コーヘイ!」
 自制する気などさらさらないミー子は再度耕平に抱き着いていた。

「ところでコーヘイ、『カノジョ』のことだけど……」
「ん?」
「『カノジョ』ってなんなの?」
 耕平はその説明をしていないことに今更ながらに気が付いた
「それはまあ、恋人のことだ」
「コイビト?」
「だからまあ、猫っぽく言うと俺とつがいになる女性のことかな」
「ああ、交尾の相手か」
 単刀直入な表現に耕平はよろけそうになったが
「それもあるけどそれだけじゃないぞ、一緒に出掛けたり、遊んだり、食事したり。将来は結婚もして、そうなると一緒に生活して、子供を作って、育てて、成長を見守って、共に老いていき、最後まで傍にいて、死後は同じ墓に入る人だ」
 ミー子は耕平の説明を黙って聞いていたが、聞き終えると何やら考え込んだ表情となった。さらにしばらくすると数回得心するようにうなずいた後、
「分かった! コーヘイ、それだニャ!」
 と、人差し指を突き出して耕平に叫んだ
「にゃ?」
 耕平の間抜け極まりない反応が返ってきたがミー子は気にせず続ける
「ミー子が人間になった理由ニャ! ミー子はコーヘイと遊んだり一緒に生活したりすることはできる、でも残念ながら交尾したり子供を作ったりすることは出来なかったニャ! しかし今人間になったことでミー子の弱点は克服されたニャ! これでミー子はコーヘイの彼女になれるのだニャン!」

 ああ、やっぱりそうなのか。と、耕平は思った。薄々そうではないかと気づいてはいたのだが、やはり当人からしても今回のミー子の擬人化はそれが理由だったのか、と。
「ところでミー子、その『にゃ』ってのはなんだ、『にゃ』って」
 ミー子は小さな胸を張り
「古今東西、猫娘というものはすべからく語尾に『ニャ』を付けるものだニャ。それを思い出したのだニャン」
 と答えた。
 なんでそういう余計な知識はあるんだろうか、彼女の意味は知らなかったくせに。よく考えたら一人称まで私からミー子に代わっているような気がする。
 これもやはり調べておく必要がありそうだ。そう考えた耕平はミー子の知識について調べるために一般常識から専門的な事項まで自分で把握している範囲で質問してみた。

 結論としては今まで耕平の部屋の中で見たこと、聞いたことに関してはちゃんと覚えていて、それらについては年齢並みかそれ以上の知識があるらしい、という事だった。それ以外のことに関しては全くの無知といってよく、極端な話地球が太陽の周りを回っているということすら知らなかった。
 わざわざ子猫の記憶を人間用に変換して与えてくれたのだろうか、神だか悪魔だか知らないが手が込んだことをしてくれる。と、耕平は冷蔵庫からビールを取り出してグラスに注ぎつつ考えた。
 しかし、神と悪魔、どちらによってミー子は人間になったのだろうか。
 猫を擬人化するというような悪趣味なことを神がやるとも思えないが、悪魔にそんな力があると考えるのも空恐ろしい。どちらにしてもできるならばもう一回悪魔なり天使なりを呼び出して話を聞きたいところだ。
 そう考え込む耕平の前で、耕平の彼女になれる喜びに浸り、涎すら垂らしていたミー子が思い出したように耕平に話しかけた
「そういえば約束通りだとすると、彼女がもう一人」
 そこまで話したところで耕平の携帯電話が鳴る。
 ミー子に待つように伝え、画面を確認する。相手の名前を確認し、まずい、と耕平は思った。が、今切る訳にもいかない。恐る恐る出てみると

605 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2013/06/15(土) 23:48:08 ID:zWZrfOQg [4/6]
「吉良さん? ごめんなさい、何度かメールしたんだけど返信がなかったものだから気になってしまって……」
 静音の鈴を転がすような声が流れてくる。
 メール着信音は確かに何度も聞いていたのだが今の今まで後回しにしていたのを耕平は思い出した。直感で危険な状況にいることに気付き、慌ててミー子に背を向けて、距離をとって小声で話し出す。
「こちらこそすみません、ちょっと帰宅直後から立て込んでしまって……」
「何かあったんですか?」
「いや、たいしたことは」
「コーヘイ、誰と話してるんだニャ?」
 そう言って横からミー子が顔を出してきたので、耕平は動揺した。
「あら? どなたかいらっしゃるんですか?」
 さらに静音からもそういわれてその動揺も頂点に達した。
「いやいやいやいや! ちょっと親戚の子が遊びに来てまして!」
「親戚?」
 静音の訝しげな声を聴き耕平はしまった、と思った。静音は耕平が親戚一同から疎遠になっていることも知っていた。
「いや、今更和解したくなったらしいんですよ! それでこの子を使いに出したらしくて! でも子供を使いにするなんて何考えてるんでしょうね! おかしいですよね! それじゃまだ話し合わなきゃいけないんで! 詳しいことはまた明日!」
 苦しいどころではない言い訳を終えると強引に電源を切って会話を終えた。
「コーヘイ、相手、誰ニャ?」
「俺の会社の同じ社員だよ」
 静音には明日謝るとして今度はこちらの問題を片付けなくてはならない、それも早急に。耕平はひきつった笑みを浮かべながらミー子に答える。
「それで、そいつはメスなんだニャ?」
「男だよ」
「嘘」
 嘘じゃない、と言いかけた耕平はミー子雰囲気が変わっていることに気付いた。目の焦点が合っていない。

「コーヘイが嘘をついた、私に嘘をついた。コーヘイが嘘をついた、私に嘘をついた。コーヘイが私に嘘をついた……」

 繰り返すミー子の周囲から冷気が漂い、耕平は部屋の温度が2度ほど下がったように感じた。急激に寒気がする。
 そう、寒いのだ。それなのに目の前のグラスに入ったビールが泡立っているのはなぜなのだろうと考えた。いや、ビールが泡立つのは当たり前だ、だがこの泡の沸き方は……沸騰している!?
 そう気付くと同時に後ろのキッチンから高い金属音が響く。振り返ってみると棚から食器が飛び出して散乱していた。そしてその中で僅かに振動するものがあった。
 それが包丁であることに気付いたとき耕平は戦慄した。振動はだんだん大きくなりついには跳ねるように飛び上がり、そのまま宙に浮かぶ。そしてそれは狙いを定めたように耕平達の部屋のいる方向に向きを変えると、凄まじい速度で飛び込んできた。
「殺される」
 耕平は自分にそれが突き刺さるのだろうと覚悟したのだが、そうはならなかった
「コーヘイに嘘をつかせたのは誰だ!」
 ミー子がそう叫ぶと同時に包丁は耕平の脇をすり抜け、窓に激突すると跳ね返り床に転がった。だが再度振動をはじめ、浮き上がっては窓に激突し、落ちてはまた浮き上がろうとする。
 窓を突き破って外に飛び出そうとしている、それに気づいた耕平はそれを操っているであろうミー子を抱きしめて耳元で話し出した。
「ごめん、ミー子。嘘なんか言ったりして悪かった。確かに相手は女だよ。でも、もう今日は話さないから」
「……」
 宙に浮かんでいた包丁が乾いた音を立てて落下し、ミー子の体から力が抜けていくのを感じた。
 やがてミー子は口の中から息を吐きだすと耕平の腕の中で崩れ落ちた。
 耕平はそれを支えてミー子の顔を覗く。やや顔色が青白いが、それ以外は変わりなさそうなことに安心し、腕の中で支え続けた。

 数分語、ミー子の口元が動きだす
「許さないから……」
 そうつぶやいたのを聞いて耕平は背筋に氷柱が立つのを感じたが
「コーヘイに嘘を言わせるような人間は私は絶対に許さないから……」
 という言葉を聞いてやや安心した。どうも自分に対して怒っていた訳ではないらしい。とは言え、放置していたらあの包丁はどこに向かっていたのかと考えるとやはり寒気がしたが。
 それにしても、今のこのミー子の能力はなんなのか。把握しておかなくてはいつまた同じような目に合うか分からない。
 そう考えた耕平は一度息を吸うとミー子に話し出した

606 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2013/06/15(土) 23:48:37 ID:zWZrfOQg [5/6]
「ところでミー子」
「なに?」
「よく嘘だってわかったな」
「そりゃ声が聞こえたからニャ」
 なるほど、と耕平はミー子の猫耳を見つつ納得した。
 もう一つ言わなきゃいけないことがあるんだが、と耕平は前置きすると
「悪魔に魂を渡したら、タバコとかレモンとか唐辛子が敷き詰められた部屋に閉じ込められると言ったな、あれは嘘だ」と言った。
「ニャ!?」
 一応身構えてはいたが先ほどとは違い、ミー子の様子も変わりなく、冷気その他の異変も発生しなかった。
「怒らないのか?」
 と、ミー子に尋ねてみる
「うー……ちょっと怒ったけどコーヘイが嘘を言うなんて、ミー子のことを心配してくれてなんでしょ? だったら大丈夫ニャ」
「さっきの嘘にはなんであんなに怒った? それにどうやって包丁を操ったんだ?」
「女のせいでコーヘイが嘘をついたと思ったら腹が立って、頭に血が急激に上ったニャ。そうしたら勝手に動かせるようになって……」
「なるほど、今でも動かせそうかな?」
「やってみるニャ」
 そう言ってミー子は「う~」と何やら唸りながら食器やその他家具に至るまで睨んで念力を込めてみせる。だがどれもピクリとも動かなかった。
「ダメだニャア」
「いや、ありがとう。なんとなく分かった」
 つまるところ耕平が誰かのせいで自分に嘘をついたという事にミー子は激怒し、それが先程の能力の発動につながったのだろう。それも相手が女だという事に意味があるのかもしれない。
 考えてみればミー子の願いは耕平に彼女を作るという事だった。それを自分自身が耕平と結ばれることで成し遂げようとしている。
「それを妨げる要素は排除するための力だろうか、先程のは」
 暫定的にこう結論付けてみたがそれほど大きく外れていないようにも思える。なんにしてもミー子を擬人化するだけでなくやっかいな能力まで与えてくれたものだ。神だか悪魔だか知らないが、やはりもう一度呼び出して話をしてみなければならないだろう。その方法を見つけ出すことを最優先にすべきだろうか、と耕平は考えていた。

 ――――――

「彼が私に嘘をついた……」
 繋がらない電話をかけ続けながら河原崎静音は呟いた。もう何時間こうしているだろうか。
 親戚の子が彼のもとに尋ねてくるなどありえない、それは分かっている。ならばあの時聞こえてきた女の声は誰のものなのだろうか。
 自分が調査していた限りでは彼の周りには自宅に上り込めるほど親しい女はいないはずだった。そもそも女の影すら見えなかったのに。調べ方が甘かったのだろうか。
 いずれにせよ嘘をついてまで傍にいさせようとする女なのだ、危険極まりないと言える。今すぐにでも乗り込んで始末すべきだろうか……まだ早いか。
 彼とは今日きっかけを作ったばかりだ。強硬手段に出て彼の心が離れてしまっては元も子もない。
「しょうがないわね」
 彼は明日会ってくれると言っていた。まずは話をしてみてからでも遅くはない……と、いいのだが。

 静音は手に持っていたスマートフォンを床に叩きつけかけてやめると、耕平の周辺調査を依頼すべく興信所の連絡先を探しはじめた。