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695 名前:ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 00:37:57 ID:KKK.SerE [2/8]
 あれから、どれほどの時間がたっただろうか。
 闇夜を疾走する中で僕は意識を失い、再び意識を取り戻したときには、僕は薄暗いどこかにいた。
 手に触れる岩の感触と特有の冷えた空気からして、どうやらここは洞窟らしい。
 微かな光を頼りに、光の方に歩いていってみると、程なくして洞窟は終わり、外が見えた。
 しかし外からは洞穴の出入り口に似つかわしくない強風が吹き込んでくる。
 僕は黒い予感に心臓を逸らせながら、しかしそろそろと洞窟の端まで近づくと、そこから見える光景は、やはり僕の予想通りのものだった。
 遥か眼下に広がるのは広大な森、そして海、もしくは大きな湖。
 地上にある洞窟の高さから見える景色ではない。
 洞窟の終わりはそのまま崖となっているのだ。
 いや、この洞窟自体が、崖の半ばにぽっかりと開いた穴だと言ったほうが正しい。
 断崖絶壁の中の隠れ家。
 確信する。
 やはりあれは夢ではなかったのだ。
 僕はポポに攫われ、そしてこの洞窟につれてこられたのだ。
 この脱出不可能の、天然の牢獄に。
 なんてこった。
 よろよろと数歩後ずさり、そのまま壁を背に蹲る。
 どうしてこんなことになってしまったんだ。
 一体なにがいけなかった。
 考えてもわかるはずが無い。
 分からないから、こんなことになっている。
 くそ! 僕は何を間違った!
 身を捩ると、カツリと何か固いもの同士が当たるような音が聞こえた。
 慌てて確認すれば、それはポケットに入れっぱなしになっていたポケギアのものだった。
 た、助かった!
 着の身着のままで攫われてしまったから、僕は当然のようになんの道具も持っていない。
 よって脱出する手段も、助けを呼ぶ手段も無いと絶望していたけど、まさかポケギアをポケットに入れっぱなしにしていたなんて!
 よかった。これで全ては解決だ。
 急いで電源をいれる、電源は……入った!
 電話をかけようとするが……圏外。
 そりゃそうだ。
 その表示に、はあ、とため息をつく。
 流石に電話がつながるのは期待しすぎだったな。
 ポポが僕を監禁する目的でここまで連れてきたのだとしたら、当然ここは人里離れた場所だろう。
 おまけに崖の中。繋がるはずもない。
 とはいえ、何も無いのとポケギアがあるのとでは大違いだ。
 今はまだ分からなくても、きっと何かの役に立つはずだ。
 そう考えた僕は、ポケギアの電源を切ると、電池を外した。
 壁を探ると、ちょうどおあつらえ向きの皹がある。
 そこにポケギアと電池を隠した。
 最初から何かあると知っていない限り、見つけられるはずが無い。
 鳥目のポポならなおさらだ。
 とりあえずこれで一安心、か。
 息を吐く。
 さて、これからどうしようか。
 僕を攫ったときのポポはどう見ても正気じゃなかった。
 背筋に悪寒が走る。
 あんなのと、どうやって向き合えばいいって言うんだ。
 現状を認識しても、対策を立てようが無い。
 ロケット団を相手にしたときのほうがよっぽどましだった。



 数時間が経過したころだろうか。
 羽ばたきの音が聞こえてきた。
 僕はとりあえずその場で横になり、まだ意識が戻っていないふりをする。
 相手がポポならこのまま様子見。それ以外なら、羽ばたきの音から言って相手は鳥か鳥ポケモン。
 彼らの中で昼間活動するような連中はみんな夜目が利かない。
 だからそのときは走って洞窟の奥に逃げるだけだ。
 だけど、そんな心配はおそらく無用だろう。
 ポポがそんな危険な場所に僕を放置するとは思えない。
 人を監禁するのにこんなもってこいな場所を選択できる程度には冷静なんだから。
ポポの行動は異常そのものだけど、同時に僕に対する執着も本物そのものだろうから。
 洞窟に入ってきたのは、案の定ポポだった。
「ごーるどー、ただいまですー」
 起きていることを気づかれたか、いや、そんなはずは無い。
 何か物を置く音がする。
 何か生活に必要なものでも運んできているのだろうか。
 荷物を置き終えると、そのままカツカツとこちらに歩み寄ってきた。
 耳に息を吹きかけられた。
 鳥肌が立つ。
 もしかして本当に起きてるのばれてるのか?
 頬に何か冷たいものが当たる。
 そのままその冷たいものは上の方へと上がっていく。
 ドキドキしながら無表情を装っていると、顔が離れていくのが分かった。

696 名前:ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 00:39:28 ID:KKK.SerE [3/8]
 ほっと一安心したのもつかの間、ズボンが引っ張られた。
「な、なにをしているんだ!」
 僕はズボンを慌てて掴んだ。
「もうきぜつごっこはおしまいですか、ごーるど」
 ポポは僕の股間の辺りから悪戯っぽく僕の顔を覗き込んでくる。どうやら口で僕のズボンをずり下げようとしていたようだ。
「き、気絶してる人のズボンをお口で下げようとしちゃいけません!」
「でも、おきてたです」
「ね、寝たふりしてる人のもだよ!」
 ポポはぼーっと僕の顔を見ていたが、やがておもむろに再び口で僕のズボンを下ろし始めた。
「ちょ、やめなさい! 何をそれはそうと、みたいな感じで下げようとしてるのさ!」
「でもぉ……」
「でもじゃありません!」
「わかったです……」
 彼女はそういうと、引き下がると思いきや、今度は足を使って下げようとしてくる。
「足でも駄目! …………えー? みたいな目で僕を見ない!」
 どうもシリアスになれない。
 シリアスにならなくても何とかなってるのはいいことなんだけど。
 状況から言えば僕は拉致監禁された立場だ。こんなのんきな会話交わしてる場合じゃないのに。
「それより、ここはどこなんだ?」
 僕は様子を見つつ、本題を切り出した。
 同時に、ポポが僕に襲い掛かる可能性を想定して身構える。
 身構えたからって何が出来るってわけじゃないんだけど、それでも気分的に身構えずにはいられない。
 ポポはぱあっと笑顔を見せて答える。
「ごーるどとポポの二人のあいの巣です!」
 あ、愛の巣!?
「あ、あの、ポポ、ちゃんと言葉の意味分かって使ってるんだよね」
 ポポは得意げに、少し胸を張る。
「わかってるですよぅ。ポポを馬鹿にしないでです」
 その顔に微笑みを貼り付けたまま、ポポは答える。
「ごーるどとポポの、二人だけの場所ってことですよ。誰にも邪魔されない、二人だけ、ふたりだけです」
 やたら二人だけ、という部分を強調する。
「ほ、ほら、みんなでわいわいってのも楽し……」
「ポポは、ふたりがいいです」
 ポポはすねたように答える。
 まるで子供の可愛い駄々のようだ。
 ……ここが世間と隔絶された岩壁の洞窟の中でなければ、だけれど。
「ふたりがいいですぅ……ポポは、ポポはごーるどだけいればいいのにぃ……ごーるどはそれじゃいやですかぁ?」
 ポポは涙声で僕に縋ってくる。
 その頭に手を置き、ポンポンと撫でてやる。
「……ごめん、ポポ」
「いやです! ポポ、全部、ぜんぶあげるです……だからぁ」
「……ごめん」
 しゃくりあげる彼女を優しく撫でる。
 やっぱり、僕は……



 しばらく撫でていると、泣き疲れたのか、寝てしまった。
 その寝顔は無垢な童女そのものだ。
 こんなにも、無邪気で可愛らしいのに。
 とても人一人を攫って監禁したものの顔には見えない。
 いや、その無邪気さが、こんな大胆な行動に走らせたのかな。
 とはいえ、ポポはその辺の常識や良識が分からないほどまでは子供じゃない。
 しかし話しても分かってくれない。
 どうしたものやら……
 長い時間をかけて、少しずつ説得するしかないのかな。
 でも、時間が立てばたつほど、事態は大事になってしまう。
 香草さんややどりさんは間違いなく警察に訴えに言っただろうなぁ……
 民事不介入とはいえ、流石にこれは無視できる範囲を超えている……よなあ。
 子供のおふざけで済めばいいんだけど。……済まないだろうな。
 何はともあれ、ここから脱出しないと話が始まらない。
 とりあえず、腹ごしらえだな。
 僕は抱きかかえているポポを横にしようとする。
「う、ごーるど……?」
 すると、当然といえば当然だけど、ポポは起きてしまった。
 く、熟睡しているように見えたんだけどな。
 野生の勘という奴か、油断しているように見えても、相当に抜け目ない。
「ごめん、起こしちゃった? 大丈夫、寝てていいよ」
「や、ですぅ……ゴールドといっしょにいるですぅ……」
 寝ぼけ眼をこすって、僕についてこようとする。
「ただご飯を食べようと思っただけだよ。どこにも行かないよ」
 行けない、と言ったほうが正しい。

697 名前:ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 00:40:04 ID:KKK.SerE [4/8]
 いや、一箇所だけ、行けるところがある。
 天国とか、そういうことじゃなしに。
「ポポ、この洞窟の奥ってどうなってるの?」
 そういって僕は洞窟の奥の闇に視線を向ける。
 明かりが何もないから進みたくは無いけど、奥行きがかなりあるように思える。
 特にこの奥に何も無いとしても、やはり何があるか分からない場所にいるというのは気分がいいものではない。
「危ないものは何も無いですよ?」
 ポポは素早く僕の意図を察したようだ。
 僕の顔色を伺うようにして、そう答えた。
「ただの壁になってるだけです。ここは、そこ以外では外とつながってないです」
 ポポはそう言って翼で洞窟の出入り口を指し示す。
 まるで、逃げられないと言っているようだ。
「そう、なら安心だね」
 僕がそう言うと、ポポは安心した気に表情を緩ませた。
 本当に親の機嫌を伺っている子供みたいだ。
 いちいち僕の様子にびくびくしちゃうほど繊細なのに、僕を誘拐監禁するなんて大胆さも持ち合わせている。
 本当に、ポポは変わってる。
 いや、僕の教育が悪かったのかなあ。
 また困ったような顔になったポポを前に、僕は頭を?いた。



 さて、僕は現代っ子である。
 幼少期はランやシルバーと一緒に山の中を探検したりもしたけども、五歳の子供がいかに山で遊ぼうが、サバイバルの知識などつくはずもない。
 シルバーは別だったけど。
 そして僕はシルバーの隠れ家が火事になり、ランがシルバーに攫われた(現実には逆だったわけだけれど)あの事件以来、まったく山なんかには踏み入らなくなってしまった。
 今までの旅の道程では、シルフカンパニーが販売する便利な道具にすっかり頼りきりで、つまり野宿も多い旅を今まで送ってこれたのは、僕の実力とかそんなんじゃなくて、全て道具の力なわけだ。
 そんな文明の利器にすっかり甘やかされきった現代っ子が、着の身着のままで断崖絶壁の洞窟に放り込まれても、できることなんて何にもない。
 それでも、現代っ子には肥大した脳みそがついてるんだから、何か解決策を考えないわけにはいかない。
 ポポを傍らに、ポポが取ってきた木の実を食べながら、僕は思索を巡らせる。
 しかし馬鹿の考え休むに似たりと言うとおり。
 屈辱的だけど、まったくいいアイディアが浮かばない。
 考え付いたのは、今、僕が口の中で転がしている木の実の種を外に向かって投げることくらいだ。
 わー、なんかこのへんたくさん木の実の種が転がっているぞー。
上を見たら洞穴があるー。
あ、人がいるぞー!
 そして僕は救出される!
 ……ホントに、休んでいた方がマシと思えるようなしょうもないアイディアだ。
 イライラしながら種を吐き出すと、ポポの視線がその種の方を向いた。
 ためしに転がった種を拾い上げてみる。
 ポポの視線はその持ち上げられた種を追う。
 下げる。視線も下がる。上げる。再び視線が上がる。
 ポポは物欲しそうに、僕が吐き出した種を見つめている。
 ポポ、いくら君が幼いとは言っても、親鳥から口移しで餌を貰うような小鳥じゃないだろう?
 そんな感想が一瞬頭を過ぎり、そして打ち消す。
 いや、ポポは僕に、親以上のものを求めている。
 その由来が親を求める感情だとしても、現在ポポが僕に向ける感情は間違いなく恋愛対象に向けるそれ、いや、並みの恋愛対象に向けるそれの比ではない。
 僕が種を外に向かって放り投げると、ポポの視線も種を追って谷底に落ちていった。
 そのまま取りに行きかねない勢いだ。
 はあ、とため息を一つ。
「何か欲しいものあるです?」
 僕のため息を不満の表れと考えたのだろう、ポポは僕に媚びるように僕の顔を覗き込む。
「みんなのもとに戻りたい」
 叶えられるわけが無いと分かっていて、意地悪を言った。
「それはだめです。……他には?」
 ポポは一転、冷たい目をして即答した。
 普段は素直なのに、これに関しては非常に強情だ。
「ねえポポ。このままじゃ、本当に取り返しのつかないことになるんだぞ」
 何回目だろうか、僕はポポを諭そうと、真剣な顔をしてポポに語りかける。
「取り返し、ってなんです?」

698 名前:ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 00:41:00 ID:KKK.SerE [5/8]
 ポポはわけが分からない、といった風に言う。
「取り返しがつかなくなるってのは、そのときを逃してしまうと、後からどんなに後悔しても、もうどうしようも無くなることをいうんだよ。ポポにとっては、今だ」
 もちろん、ポポのその言葉が、取り返しがつかなくなるという言葉の意味を問うたものじゃないことくらい分かっている。
 だけど、あえて僕はその言葉で返した。
 嫌味っぽくなっている。
 それこそ、取り返しのつかなくなるという焦燥感から、僕の心がささくれ立っているのかな。
 取り返しがつかなくなることを何よりも恐れているのは、間違いなく、僕だ。
 ポポはそんなこと一つも気にしちゃあいない。
 ポポの焦燥は、僕の焦燥とはまったく違うところにある。
 だから、ポポの答えも、僕の思いとはまったく異なるところからよこされる。
「ポポにとって、そのときを逃してしまうと、後からどんなに後悔しても、もうどうしようも無くなることは、ゴールドのことです。他のなんでもないです」
 ポポは瞳から涙を零れさせながら、僕に縋り付いた。
 僕はほとんど機械的にポポを受け止め、その背を撫でる。
 彼女が僕に保護者以上のものを求めていることが分かっているのに、保護者以上のものがない心で僕は彼女を受け止めてしまう。
 ああ、僕のこの残酷な心根が、この事態を招いてしまったのだろうか。
「ぽぽはごーるどをぽぽだけのものにしたんですぅ……どうしてわかってくれないです……」
 子供染みた駄々をこねるこの子に、僕はどれだけの残酷な仕打ちを、今もしているんだろうか。
 彼女の期待に答えられないのに、だからといって見放すことも出来ない。
 今の僕は悪なのだろうか。ならば見放すことこそが正義なのだろうか。
 堂々巡りで、答えなど出るはずもない。
 今更答えが出たところで、どうにもならない。
 それが分かっていても、今の僕は、彼女に欺瞞を吐くことしか出来ない。 もう、取り返しなんてつかない。
 僕は、世界が、僕の想像ほど残酷でないことを祈った。




 水と食料が尽きると、またポポはそれらを得るために飛んでいった。
 きっと彼女は僕がいなくならないか不安で仕方がないのだろう。
 こんな生活を続けていたら、僕もだが、まず彼女の心が壊れてしまう。
 不安は人を壊す。
 彼女をこうさせたように、不安という魔物は次はもっと取り返しのつかない方向に彼女を壊すだろう。
 僕はどうすればいい。
 クソ、分かりきっている。
 彼女の気持ちに答える気が無い以上、話はそれで終わりだ。どうしようもない。
たとえ嘘で答えたところで、聡い彼女にはそれが分からないわけがない。
心情的にしたくはないし、仮にしたところで彼女を壊すことに拍車をかけるだけだろう。
 どうしようもない。だけど、どうにかして答えを出さないわけにはいかない。
 なんて辛い状況だ。
 隠していたポケギアを取り出し、再び洞窟の入り口まで出る。
 電波は相変わらず圏外。
 天気やなにやらの関係で、もしかしたら電波が届くこともあるかもしれないと思ったけど、やはりそんなことは無いようだ。
 やっぱり、無理か。
 本気で期待してたわけじゃなかったとはいえ、落ち込む。
 これさえ繋がれば何の苦労もないんだけれど。
 はあ、とため息をつき、上を見上げる。
 黒い、影。
 気づいたときには手遅れだった。
 迂闊、いや、どうしようもなかった。
 だって彼女がその気になれば、僕にはどうすることもできないのだから。
 ――僕のことを、見張っていたんだ!
「……かなしいです。ぽぽは、とっても、とっても、かなしいのです」
 囁くような、しかし僕の耳朶に突き刺さるその声とともに。
 ポポは僕の眼前に舞い降りた。
 大方、張り出した岩場か何か、とにかく、この洞窟の入り口から死角となる位置に身を隠していたのだろう。
 ポケギアを使うに当たって、周囲に不審な影が無いかくらいは確認したのだから。
「そうだね、僕も悲しいよ」
 暴れる心臓を必死で押さえながら、僕は努めて平坦な声を出す。

699 名前:ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 00:41:30 ID:KKK.SerE [6/8]
「ここにいれば、なにも、かなしいことなんかないのですよ? どうしてわかってくれないですか?」
「いいや悲しいことだらけだよ。ここにいても、いなくても!」
 僕の叫びに、ポポは眉を顰めるばかりだ。
 ポポには僕の言っていることが分からないのだろう。
「どうして分かってくれないんだ、ポポ!! こんなことはもう終わりにしよう。こんなことしても、なんにもならないんだよ!」
 結局、こんなことをしても救われることはないんだ、絶対に! シルバーを攫ったランが救われなかったように。あのロケット団の男が救われなかったように。物事の道理から外れれば、待つのは悲惨な結末だけだというのに!
 ポポが僕に飛び掛る。僕の手から、ポケギアが落ちて硬い石の上を跳ねる。
「じゃあ、じゃあポポはどうすればよかったです! 大事な、ポポの一番大事なものが、ポポからどんどん遠くに行くのを、ただ見てるのが正しかったっていうですか!」
「違う! そうじゃない! そうじゃないけど、でも、君はここで知るべきだったんだよ! 世の中はどうしようもないことだらけだってことを! どんなに欲しくても、失いたくなくても、どうにもならないことがあるってことを! 絶対に無理なことがあるってことを!」
 そう、世の中には変えられないことがあるんだ。どんなに願ったって、どんなに望んだって、そうはならないことがあるんだ。
「だから、せめてそうなっていたときの思い出を頼りに、またきっとそうなることを願って生きる。生きるって、そういうことなんだよ!」
「誰も、だぁれもポポのことを知らない世界でですか!」
「知らないなんてことはない! たとえ今は誰もポポのことを知らなくても、いつかきっと知る人が現れる! これは無責任な憶測なんかじゃない! 現われるんだよポポ!」
「それはあの女も同じです! あの女だって、ゴールドじゃない人間がいつか現われますよ! ポポだけ、ポポだけ我慢する理由にはならないです!」
 言葉に詰まる。
 そうだ、これは理屈じゃない。だから正論に正しく反論することはできない。
 僕だって間違ってる。ただ、ポポが僕以上に間違っているだけの話だ。
「ゴールドは間違ってる。間違ってるですよ。ポポは生きなくていいんです。ゴールドが一緒じゃなきゃ、生きなくていいですよ」
 悲惨な死。それすら、彼女を恐れさせはしない。
「ポポ……」
 彼女が恐れるのは唯一つ。僕を失うこと。ただ、それだけ。
「さあ、選んでです。ポポと生きるか、ポポと死ぬか」
 その目には、本物の覚悟が宿っていた。
 僕は無性に腹が立つ。その目を受け入れられない。
 くそ、どうして皆そんなすぐ死にたがるんだよ! どうして生きようとしてくれないんだよ!
 僕は逃げてきた。逃げて、逃げて、逃げてここまで来た。その結末が、これだ。
 それなのに彼女達は絶対に逃げたりはしない。どこまでもまっすく、前を向いている。破滅に向かって、まっすぐと、恐れることなく、揺らぐことなく。
 ここが僕の手でどうにかなる最後のラインだ。ここで僕の伸ばした手が彼女に届かなければ、後はまっすぐ落ちていくだけだ。
 無数の言葉が頭を巡る。どれも話にならない。ポポを説得できる言葉なんて一つも持ち合わせていない。
 沈黙が怖くて、僕はつまらない言葉を吐く。
「ポポ、もし僕と生きることになっても、警察に見つかれば逮捕だし、香草さんたちに見つかれば間違いなく戦うことになる。きっとただじゃすまない」
「逃げればいいですよ」
「ポポ、最後まで逃げ続けるなんてことは出来ないんだよ! 追ってくるものから逃げ続けるなんて、そんなことは不可能なんだ! そうなったらもう僕達に平穏なんて二度と訪れない!」
「分からないですよ。チコは案外すぐ諦めるかもしれないです」
 しかしその目には、確かに殺意が燃えている。

700 名前:ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 00:42:02 ID:KKK.SerE [7/8]
 分かっていたことだけど、説得は不可能だ。
 僕がポポを愛すると言おうと言うまいと、間違いなくポポは香草さんを殺そうとするだろう。
 香草さんがいる限り、僕はポポのものにはならない。そう考えるはずだ。
 かといってその争いの原因である僕が死ねば、ポポも自ら死ぬだろう。今のポポは、そのくらいあっさりやってのける。
 駄目だ。皆が死んだり殺しあったりしない。そんな方法がどうしても考え付かない。
 完全に詰みだ。ゲームなら、ここで手仕舞い、終わり、ゲームオーバー。
 でも、そうするわけにもいかない。
「やめろポポ! そんなことをしたら、僕はポポを嫌いになるぞ! 僕の娘で、それで満足だったんじゃないのか!」
「いやです! そんなのいやです! でも、でも! ここままじゃゴールドは絶対にポポと一緒にはいてくれないです! ……だから、取り返しがつかなくなってもらうです」
 涙で幼い顔を顔をグシャグシャにして言っていい台詞じゃないぞ、それは!
「ポポ、お願いだ、やめてくれ! もし取り返しのつかないことになったら……」
「そのときは、ごーるど、ぽぽといっしょにいてくれますよね」
 事態は、もうどうしようもなく取り返しがつかなくなっていた。






 その日、ポポは処女を喪った。