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629 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:12:44 ID:nfhigK8U [2/13]
 大学に入ってしばらくした頃だった。
 一人暮らしに慣れて、サークルやら勉強やらバイトやら中々充実した毎日を送っていたのだが……生まれて初めてだ。
 存在は知っていたが、まさか自分がストーカーの被害者になるとは思わなかった。

 ある朝、何気なく郵便受けを開けると、バサバサと中身が落ちた。
 チラシにしては厚めの紙だし、それになんとなく小さい。
 拾い上げてみると、それらは写真だった。全部、俺が写っていた。背筋も凍るとはこのことだ。

 情けないことに俺はヒッと叫び声をあげて、拾った写真をまた落としてしまった。
 全身から汗が吹き出した。キョロキョロと辺りを見回してみたが、
 誰もいなくて、安心するやらしないやら。その日は学校を休んだ。

 同じ授業を取っている後輩の女の子に電話をして、欠席の連絡を頼んだ。
 俺の様子をなんとなく感じたのか、「先輩、大丈夫ですか」と彼女は言った。
 俺は「体調が悪いんだ」とテキトーに流して、後は部屋に閉じこもっていた。

630 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:14:56 ID:nfhigK8U [3/13]
 その夜のことだった。部屋の電話が鳴った。
 何気なく電話を取って、もしもし、もしもしと何回か繰り返しても返事がないので首を傾げたが、
 すぐにサッと体中の血液が冷えたような気がした。

 無言電話だ。俺は受話器を叩きつけるように置くと、布団に潜り込んで必死に目をつむった。

 翌朝は多少寝不足気味だったが元気を取り戻して、朝食を済ませるとすぐに家を出た。
 郵便受けが視界の隅を横切ると、嫌な汗がぴりっと滲んだ。
 空の、あるいはチラシやダイレクトメールだけが入った郵便受けを見て、安心したかった。
 だが、もし、昨日と同じように写真が入っていたら、と思うと俺はその場に釘付けになってしまった。
 このまま、学校へ行って、帰ってきたらストーカーが……なんて考えると、どうしても家を空けるのが怖くなってきた。

 ままよ、と思って郵便受けを開けた。昨日のようにバサバサと落ちてはこなかったが、
 写真が一枚だけ静かに横たわっていた。

 俺は震える手でそれを拾うと、はっと息を呑んだ。
 写真には俺が写っていた。どこから撮ったのか、受話器を持って怯える俺の姿が写っている。

631 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:16:33 ID:nfhigK8U [4/13]
 俺はすぐに部屋に戻った。部屋中のカーテンを引いて、電話線を抜き、部屋の隅にうずくまった。
 しばらくすると携帯電話の方が鳴ったので、俺は飛び上がってしまった。

 電話してきたのは後輩だった。
 のんきな声で「先輩、今日もお休みですか?」なんて言いやがる。
「今日も具合が悪いんだ……」それだけ言って、俺は電話を切った

 翌日はもう学校へ行く気になんかハナからなれなかった。
 起きると、のそのそと暗い部屋の中で食事をして、それから布団に寝転んだ。
 昼を過ぎた頃、携帯電話に非通知で着信があった。取るのが不安だったが、誰かの存在を感じたい気持ちもあったので、恐る恐る電話を取った。

 もしもし、と一度言う。返事がない。もしもし。返事がない。冷や汗が出た。
 もしもし、あの……けっ、警察呼びますよ。声が震えた。電話の主はようやく返事をした。

「先輩、私です。すみません。電波が悪くって。今日も休みでしたけど、どうしたんですか」

 後輩の間抜けな声が俺の緊張を解してくれた。

「どうもこうもお前……いや、まあ、ちょっと色々あって」

「警察呼ぶだなんて言ってますけど」

「いや、ちょっとな……」

632 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:21:27 ID:nfhigK8U [5/13]
 後輩は講義で配られたプリントを渡したいと言ったが、俺は外に出たくなかった。
 そのまま伝えると、後輩は「じゃあ、先輩の家に行きますからね」と天真爛漫に言った。

 女の子なんか危険だから家に上げられないと断るのが当たり前だろうが、俺は誰かにすがりたかった。
 許してほしい。本当に怖かったんだ。その葛藤がモゴモゴとした唸りとして俺の口から出ている間に、
 彼女は電話を切ってしまった。

 家の場所がどこかも伝えていないのに、平気なんだろうか。

 後輩は夕方頃に俺の家へ来た。講義のプリントはそう多くなく、俺からすればさほど重要でもないようなもので、
 これなら後でもよかったな、と思ったが、一方やっぱり人が来て心強さというか安心感を得られたので、
 来てもらってよかったと思った。

「先輩、私、喉乾いちゃった。麦茶、飲んでもいいですか?」

 なんて、後輩は部屋へ上がってまるで自分の家のように冷蔵庫を開けた。
 二人分のコップを用意して、麦茶を注いでくれたので、やはり彼女は根のいい奴だ。
 この三日ほど心細いことこの上なく、麦茶を飲んでようやくほっとため息をつけた。

633 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:23:04 ID:nfhigK8U [6/13]
「先輩、ここのところ何かあったんですか? 様子が変でしたよ」

 後輩が気を使ってくれたので、俺はついついストーカーのことについて話してしまった。
 話しているうちに目頭が熱くなってきて、終いには泣いて、彼女に背中をさすられる始末だ。
 それくらいすり減ってたということだから、まあ、かんべんしてほしい。

「先輩、私に名案があるんですけど」

 俺が話し終えると、後輩は頼もしい笑みを見せた。

「ストーカーも恋人が居ると分かれば、やめると思うんですよね」

 そんな上手くいくもんか。第一、余計な刺激を与えてそれこそ、ナイフだの突きつけられたらどうすんだ。
 そう、俺がそのまま言うと彼女はトンと自分の胸を拳で叩いた。

「大丈夫です。絶対。それに、先輩はそんなモテませんよ」

 意味は掴みきれなかったが、俺はその言葉を聞いてとても安心した。情けない。

 後輩の作戦はこうだった。一晩、俺の部屋に泊まる。それだけ。
 あくまで恋人っぽくとのことで、本当に大丈夫なんだろうかと首を傾げた。

 でも、後輩に郵便受けを確認に行ってもらうと何も入ってなかったらしいし、
 無言電話も来ないまま夜を迎えた。

634 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:29:35 ID:nfhigK8U [7/13]
 これは思ったよりも効果があるぞ、と俺は安心しきってしまった。

 お互いに夕飯と風呂(風呂は当然別々。久々にのびのびと入浴できた)を済ませて、
 後は寝るだけだなんて安心すると、今まで意識しなかった邪な考えが頭に浮かんできた。

 家に布団は一人分しかない。俺らは男女で、しかも今は恋人っぽく振舞っている。
 後輩の方をちらりと見た。彼女は肩の上の辺りで黒髪を切りそろえ、
 上等なカーテンのような前髪の向こうには目鼻立ちの整った白い顔が覗いている。

 正直に告白すれば、俺はそれまで後輩を女として見ていなかったつもりだ。
 なんというか、綺麗すぎてダメだった。それなのに、
 今は自分のためにここまでしてくれている彼女を、ほとんど好きになりかけていた。

 あのさ、と世間話を切り出しかけたところで、後輩はトイレに立った。
 ふとため息を漏らしたところで、部屋の電話が鳴った。さっと、血の気が引いた。

 いいや、どうせ間違い電話さ。そうでなければ……いや、なんでもいい。
 返事さえしてくれるんだったら、なんでも。俺は受話器を取った。

 もしもし。返事はなかった。嫌でも動悸は激しくなる。息が荒い。過呼吸みたいだ。くそっ。
 いや、すぐに受話器を戻してやれ。そうすればこの無音を聞かなくて済むんだ。

 手が震えて、受話器を落とした。もう俺はパニックになってしまって、受話器を放って部屋の隅にうずくまった。

635 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:32:24 ID:nfhigK8U [8/13]
 後輩はトイレから戻ってくると、まず俺の方へ駆け寄ってきてくれた。
 思わず彼女の胸に飛び込んで、冷たい涙を彼女の服に染み込ませた。
 彼女は静かに俺の背中をさすってくれた。
 そして、俺が落ち着くのを見計らって、受話器を拾うと元の場所へ置いた。

「今日は、一緒に寝ましょうか」

 後輩の提案に俺は頷くしかなかった。その夜は彼女と抱き合って寝たが、
 もう邪な考えは浮かんでこなかった。
 ただ子供のように震えていた。

 翌朝、後輩が朝ごはんを作ってくれた。俺は食欲がなかった。
 それを察したのか、後輩は食べなくてもいいと言ったが、
 俺はせっかく作ってくれたんだからと全部食べた。
 後輩がそれを見て嬉しそうに笑ったので、ようやく俺は気分が明るくなった。

 その日は一日、後輩と一緒に部屋に居た。夜も一緒に寝た。
 その日も、翌日の朝も郵便受けに写真は入っていなかった。電話も鳴らなかった。

「やっぱり、効果あったでしょ?」と後輩は得意気に言った。
 俺はその表情がたまらなく愛おしくなって、唇にキスをした。
 彼女は受け入れてくれた。

 その日から俺たちは付き合い始めた。
 不思議なことに、彼女の言った通りストーカー被害はそれからなくなった。
 まるで嘘みたいに。うーむ。
 あ、でも携帯に無言の留守録が数件入ってたのが気になるが……まあ、間違い電話さ。

636 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:33:30 ID:nfhigK8U [9/13]
――――

 うふふ、うふふふふ。やりました。ついに。ええ、やってやりましたよ。
 あのですねぇ、先輩はそんなモテないはずですよ。
 私、知ってるんですよ。はい。でも、この間相談されちゃったんですよね。
 もう、つらいです。つらすぎです。あの子、あなたのこと好きなんだって。
 私の方が先輩のこと好きだし、ずっと前から好きだった!
 なのに、私を差し置いて先輩に告白するだなんて、ちょっと許せません。
 ええ、そうでしょう。そうなんですよ。

 いや、あの子が他の人を好きになっていたなら私、全力で応援してましたよ。
 でもね、先輩だけはダメですよ。はい。

 私の愛しい先輩、よもや、私の愛に全然気づかないでいるなんてことあるんでしょうか。
 ないですよね。でも、万が一、ほら先輩モテてないですから、万が一、
 あの子に好きですなんて言われて気の迷いからオッケーしちゃうなんてあるかもしれませんよね。
 万が一。ええ、そうでしょう。

 だからね、私は策を弄しましたよ。愛の力でチョチョイのパーです。

637 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:35:32 ID:nfhigK8U [10/13]
 シナリオはこう。ストーカーから先輩を守る。
 そして、私の愛、もとい私への愛を自覚してもらおうというものですよ。
 完璧でしょう。完璧です。
 先輩はあんまり頭がよろしくないですし(まあ、そこもかわいいところなんですが)
 そこまで周到な計画は必要ありません。

 まず、写真を用意して……ええ、お宝ですよ。
 愛の計画に必要とは言え、手放すのはつらいです。できたら回収したいところですが。

 私は学校へ行ってアリバイらしきものを作らなきゃいけなかったので現場は見られませんでしたが、
 先輩が私のところに電話してきた時は本当興奮しましたよ。
 ええ、あんなに声を震わせて、強がって……うう、録音しておけばよかったと後悔しているくらいです。
 ついつい、学校のトイレで先輩の声を思い出しながらシちゃいました。そのくらい興奮しましたね。

 その夜にもう、私我慢できなくって先輩の家までおじゃましました。
 正確に言うとベランダですけど。

 こっそり中を伺いながら携帯で電話をかけて……先輩の怯えた表情、サイコーでした。
 あ、写真もちゃんと取りましたよ。宝物です。

 ついでに郵便受けに入れておいた写真を回収して、
 家に帰って、急いで現像して、郵便受けにさっきの写真を入れておきました。
 これが中々大変でしたよ。

638 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:37:19 ID:nfhigK8U [11/13]
 次の日は先輩、本当ショックだったみたいですね。家に閉じこもっちゃって。
 我慢できずに私から電話しちゃいました。
 家の電話にまず無言電話でもしようかと思ったんですが、電話線、抜いてたんですね。
 携帯の方はつながるのでほっとしましたよ。
 まあ、つながらない場合はアポ無しで家に行ってましたけど。

 先輩の家には何度か行ったことがありますけど、こうやってちゃんと上がるのは初めてでしたね。
 また違った興奮がありましたよ。しかも、恋人っぽく振る舞うんだなんて、
 我ながらなんて、なんて、ナイスアイデア!
 これ、もしかして、もしかしたら、今日のうちに一線超えちゃうんじゃないかとか考えちゃって……、
 勝負下着履いてきて良かったです。ホントに。

 それでまあ、私の悪い癖なんですが、ついつい意地悪しちゃいましたね。
 先輩がお風呂入ってる間に部屋の電話線を繋ぎ直して、
 後でトイレからこっそり電話かけた時はもう、なんていうか、至福の時間でした。マジで。

 部屋の方から先輩の声とか生で聞こえてきたし、ガタガタ震えてるのまでわかっちゃって、
 そのままトイレでシちゃいました。サイコーでした。ホントに。

639 名前:雌豚のにおい@774人目[sage] 投稿日:2014/09/20(土) 14:39:37 ID:nfhigK8U [12/13]
 でも、ちょっと怖がらせすぎちゃったみたいで、先輩はえっちな気分になんかなれないみたいでしたね。
 私にしがみついてブルブル震えちゃって。

 いや、これはこれでいいなーなんて思いながら寝顔を写真に撮りまくりましたけどね。
 貴重ですから、寝顔は。

 翌朝、先輩は私の作った料理を頑張って食べてくれて、
 もう先輩は優しいなぁ、ちくしょうかわいすぎんだよバカヤローなんて思いながら、お皿を洗いました。

 その日一日、先輩と一緒に部屋でくつろいでたんだけど、
 私がトイレに立ったりすると不安そうな目で見てきて、
 もうやめてくださいかわいすぎますよ、先輩。

 この人にストーカーの正体をばらしたらどんな顔をするんだろうなんて、
 気になったけど、計画に穴があってはいけないから、黙ってました。

 夜になるとようやく落ち着いてきたみたいで、布団の中で私にキスをしてくれましたね。

 いやーもー、計画通り行き過ぎて逆に怖いくらい。
 それから私と先輩が付き合い始めて、あの子は結構ショックだったみたい。

 私から言い寄ったんじゃなくて、先輩から告白してくれたって分かるとあんまり強くは言わなかったけど。

 ……でもさ、だからって、先輩の家の郵便受けに変な写真とか入れないでほしいな。
 全部回収してるけど、まさか無言電話なんかしてないよね。まあ、先輩は絶対私が守るから、心配ないよね。