18 名前:タイムマシン第3話 「邂逅」[sage] 投稿日:2015/11/07(土) 17:49:03 ID:z749cnYY [1/4]
「おはよう、優哉!」
「なんだよ、朝っぱらから」
チャイムの鳴った玄関を開けてみると、よく見知った女の子の姿があった。山口 佳奈だ。
「なんだとはなによ。昨日一緒にあのクエストやろうって約束してたのに眠いとか言って放棄したのはどこのどいつですかねぇ~」
「うっ。だって本当にめちゃくちゃ眠かったんだから仕方ないだろ」
「仕方なくないわよっ。私があのクエストをどれだけ楽しみしてかわかってないでしょう。それを謝罪も無しに約束を破るなんて。腹が立ったから文句の1つでも言ってやろうと来たのよ」
そういえばドタキャンしてんのに謝罪の一言もないのは確かに人として最低だったな…。でもでも謝罪する余裕がないほど眠かったんだ。本当だよ?
「それは本当にすまなかった。今日こそは付き合うから許してくれ」
勢いだけ自慢できそうな感じで頭を下げた。
「いいのよ。今日こそは付き合ってくれるんだし、それより…」
気が付いたら佳奈の視線が俺に焦点があってなかった。
「ねぇ…優哉、それ何…」
「それ?」
なんのこと言われてるのかわからず辺りを見渡した。んー、なんか変なところあるかな?
「後ろ」
気がつかない俺にイライラしたのかやけに怒気の含んだ声だった。
お嬢さん、イライラしたらそのせっかくの美貌が台無しでっせ。
後ろ、と言われたので後ろを振り向くとそこには自称娘こと優佳がいた。
さっきまでの天真爛漫な笑顔は何処へやら。それ扱いされたことに傷ついたのか不快な顔を浮かべていた。
お嬢さん、そんな顔してるとせっかくの美貌が(ry
というかどうしよう。いきなり「タイムマシンでやってきた俺の未来の娘なんだ!」と言っても信じてくれないしな。若干俺も信じきれてないし…
「初めまして。私はタイムマシンで未来から現代にやってきた優哉さんの娘の優佳と言います」
極めて事務的な口調で優佳はそう答えた。さっきから目が死んでるのは気のせいですかね。
て、おい。タイムマシンとか未来とか娘とかなんの躊躇もなく言っちゃうのね。
パパはそれっぽい嘘の設定とかいろいろ考えてたのに…
「タイムマシン?未来?娘?優哉まさかそんなトチ狂った嘘信じてんの?」
「えぇとまぁなんかいろいろそれっぽい証拠とか持ってたし…」
「大体、タイムマシンに乗ってきたのならタイムマシンとかあるんでしょうね?」
「タイムマシンは乗るものではなく、転送装置ですけど」
「はっ。未来から来た証拠もないんじゃただの不審者よ。優哉今から警察に連絡して連れて行って貰いましょ」
「証拠ならいくらでもありますけど」
「ふーん。じゃあ証拠とやらを出してもらいましょうか」
そう言われると優佳は予め持ってきていたのか懐から前の晩みせた、証拠品の数々を佳奈に出した。
佳奈はそれを一通り確認すると半分納得半分疑いといったような表情を浮かべた。
「そう。とりあえず今は警察につきだすのはやめてあげるわ。優哉にも迷惑がかかるしね」
「信じてもらって嬉しいです」
まさに棒読みボイスで優佳はそう言った。
「それじゃあ優哉。早く着替えて学校に行きましょ。待っててあげるから」
「分かった。すぐ準備するからしばし待たれよ。ほら優佳リビングに戻った戻った」
すでに仲の悪そうな2人をなるべく早く引き離すために優佳を押しながらリビングに向かった。
19 名前:タイムマシン第3話 「邂逅」[] 投稿日:2015/11/07(土) 17:52:42 ID:z749cnYY [2/4]
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バタン
目の前のドアが閉まり私は血が滲みそうなくらいにつよく拳を握り、自分の中の黒い感情を鎮める。
「フー、フー」
呼吸も深く吐き、先ほどまで感じていた例えようのないくらいの不快感を減らそうとする。
優哉が私じゃない女と話した。優哉が私じゃない女に触れた。優哉が…優哉が…
少し落ち着いてきた。彼が戻ってくるまでにはいつもの「山口 佳奈」に戻らないと。
こんな私は見せられない
優哉と最初に出会ったころは覚えてる。
幼稚園児ともなると大体、二分化される。それは外で遊ぶ子、中で遊ぶ子、だ。私はどちらかというと中で遊ぶ子であり、可愛げのない性格もしてたのでいつも1人だった。寂しくなかったと言えば嘘になるが、私という存在を認めないような子達に好かれるように媚び売るのも癪で意地で1人で遊んでいた。
毎日中で同じような遊びをしていると気がつくことがあった。それは自分と同じような子がいるということだ。
それが私が初めて「月島 優哉」を認識した時だった。
彼は普通じゃなかった。こう書くと何か欠陥のあるような子に見えるがそうじゃなく、才が秀でているという意味での方だ。
何の才能かというと、常識囚われない、という才能だった。いつも彼なりのルールを作り、彼オリジナルの遊びを作っていた。
まぁオリジナル遊びなら他の子供もやっていただろう。
しかし彼は違う。センスが良いのだ。まるで地球の反対側から覗いたような視点で物事を捉えたりするようなその考えは他の幼稚園児には合わなかったのだろう。だから彼はいつも1人だった。
だけどは私は違った。彼の突出したセンスに惚れたのだ。
「ねぇ、一緒に遊ぼ」
一般の子供なら1度は言ったことのあるセリフ。私は初めてこの言葉を口にした。
彼は目をまん丸にして驚いた表情を浮かべながらも、すぐに歓喜の顔に変化した。
それからーー
彼と遊ぶ日々は常に新鮮で今まで色あせていた私の世界に色をつけていった。
気がついたら彼無しの生活も考えられないほどだった。
彼とやることはなんでも楽しかった。だから彼の趣味が、私の趣味になるのも必然なっだ。
小学生の頃、やはり彼が周りからすれば浮いてたからか友達が少なかった。それは私にとっては都合の良いもので、随分と充実した日々だった。「夫婦」だなんて囃し立てられたときは喜びで顔を赤くしていた。
周りが変わり始めたのは中学からだった。各々に個性が出始め、彼も1つの個性として扱われるようになった。
すると彼の周りに人が関わり始めたのだ。
いつも通りに彼を遊びに誘うと
「ごめん、佳奈ちゃん。今日はこいつらと遊ぶからまた今度ね」
と断られた。初めてだった、彼に断られたのは。例え、遊ぶ相手が男友達でも今までに感じたことのない黒い感情が溢れた。
皮肉にも私の彼への想いに気付いたのは嫉妬という感情を知るのと同時だった。
それからというもの、自分を磨き、他者を排除することに日々労力を尽くした。
そう、他者を排除する。彼に近づく女は片っ端から排除してきた。本当は男も排除したいのだが、さすがに優哉のことを考えるとそこは我慢した。だけど女は許さないよ。
私以外の女と彼が隣に立つだけで全身から火を噴きそうになる。
さっきもそうだ。優佳と言ったかあの女は。ユルサナイ。我が物顔で彼の側にいることは絶対に許さない。
それに明らかに私のことを敵対していた。
あの感情は知っている。私が4年前から手を煩わせてる感情だ。
アレは優哉に惚れている。もしも、本当にもしもアレが娘だとしたら何て気持ち悪いのだろう。肉親に欲情するなんて生命として欠陥しているに違いない。
そんな欠陥品が彼という完成品の側にいるなんて図々しい。
あぁ…殺したい
「ダメよダメよ。こんなことを考えては」
落ち着け。再度、己の中にある黒いものを深い呼吸で吐き出す。
(こんな感情、彼の隣には相応しくないわ)
どうせなら楽しいことを考えないと。
(そうよ、約束破ったことを口実に週末デートに誘いましょ)
頭の中で予定を組み立て、気分が明るくになるにつれて、黒い感情は徐々に消えていった。
そして黒い感情が完全に消えるまで妄想を膨らませたところで目の前のドアノブが捻られた。
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20 名前:タイムマシン第3話 「邂逅」[sage] 投稿日:2015/11/07(土) 17:53:53 ID:z749cnYY [3/4]
「悪い待たせたか?」
「ううん、大丈夫!」
先ほどの険悪な雰囲気はどこへやら。すっかりご機嫌になっていた。
「それじゃ、行こ?」
「そうだな」
他愛のない話をしながら最寄り駅まで歩き、電車に乗る。
「そうだ、ねぇ優哉」
「ん?」
「昨日約束破ったよね?」
「うっ、本当ごめん」
「ううん、謝罪はもういいの。だけどね、約束破ったならそれなりに償うべきだと思わない?」
目の前のお姫様は意地の悪い笑みを浮かべた。
女の子なんだからそんな悪い顔をしちゃうと魅力半減だぞ
「私めはなにをすればよいでしょうか女王様」
「ふふん、下僕の自覚がついてきたようね。そうねー。週末に買い物とかどうかしら?」
お、女王様と言ったらノリノリになったぞ
この子はSや!間違いない!
「それは荷物持ちということでよろしいですか?」
「荷物持ち兼サイフね」
訂正する!この子はSじゃない!ドSや!
「あのーお金、ないんですけど…」
「うるさい!約束破った罪を思い知るがいい~」
「ご勘弁を~女王様~」
なんだこの茶番。
「そうね。じゃあ週末まで、つまり今週中ね。私に対して償いの精神を誠心誠意アピールすればサイフていうのはやめてあげるわよ」
ウィンクしながらそう言ってきた
よく見ると周りの野郎共の何人かは見惚れていた。
しかしな!周りが見惚れるような仕草だろうが俺には悪魔のような仕草にしか見えないぞ!
「うぅ、かしこまりました女王様」
これを機に佳奈のご機嫌をひたすら取る下僕ウィークを過ごしたのであった…
最終更新:2015年12月04日 16:36