※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

104 名前:触媒[] 投稿日:2016/04/20(水) 12:50:47 ID:7KBTgRO6 [2/3]
 ダークエルフの帝都、アン・デア・ルールはリンドランドから遥かに西、モンドロック山脈の地下に広がる広大な洞窟に建設されている。
 本来であれば完全な暗闇に閉ざされているその地で、ランタンを灯し、蛍光植物を育て、揺らめく光彩の下永劫にも思える長い時を彼らは過ごしてきたのだ。その街道は迷路のようにうねり、多数の影を形作っている。
 住人でない者が迷い込めば決して抜け出せないこの地では、要衝には必ず固く閉ざされた扉や門が設置されており、そこには常に同じ一族のダークエルフの精鋭が配置されている。
 それこそがアン・デア・ルールとダークエルフという種族を守護しそして監視する、恐怖の名門貴族、カムチャッカリリー一族である。

 カムチャッカリリー一族の居城はアン・デア・ルールの中央からやや南に位置しており、その一角に当主であるリアの執務室がある。
 その部屋には壁全面に悪魔と魔神の像が彫られているが、それらは常人が一目見れば発狂してもおかしくない程に捻じれ・歪み・狂気に満ちている。
 同じく悪魔の彫刻が刻まれた椅子に鎮座したまま、リアは一門の斥候からの報告をつまらなそうに聞いていた。
 リアの前に跪くダークエルフはリアの表情に気付いているのかいないのか、言葉を止めることは無い。
「……既にリンドランド軍はオークの大王国を滅ぼし、今またゴブリン共の首都も陥落寸前にまで追いつめているわけです。リア様、このままでは……」
「好きにさせておけばよかろう」
「はっ!?」
「馬鹿な女だ」
 エーレンにリアが魔法を施し、アン・デア・ルールに連れ去ると、当然のごとく激怒したエーデルワイスはダークエルフに宣戦布告して進軍を開始した。
 だが、相手がジ・スではなくダークエルフとなると、邪悪と混沌の勢力はエーデルワイスに協力することを拒む。
 それでも中立を保つ所が多かったのだが、リンドランドとアン・デア・ルールの間にはいくつもの邪悪と混沌の勢力の国家があったのだ。
 自分の領内を善の勢力の軍隊が通過するのを黙って許す程寛大、あるいは甘い種族は多くはない。当然のごとく阻止する行動に出る。
 すると、エーデルワイスはそれらの国々を鎧袖一触、次々と滅ぼす行動に出た。そうして最短距離でアン・デア・ルールを目指しているのだが。
「そんな事をすれば善と邪悪の対立を深めるだけだろうに。それは即ち、あの女と、今は邪悪と混沌の勢力に与しているエーレンの間の溝を深めることになる。それに気づかぬとは完全に頭に血が上っているな」
 リアは心底楽しそうに笑ってみせた。
 だが、斥候のダークエルフは慎重な意見を申し出る。
「しかし、ミュンヒハウゼン様はいまだ目覚めておりません。リンドランド軍がこのまま破竹の勢いで進軍しますと、近い将来アン・デア・ルールに到達いたします」
「心配するな」
 リアは立ち上がると斥候に対し告げる。
「近い将来というなら、エーレンは間違いなく近日中に目覚める。あの女がアン・デア・ルールに来るというのなら、見せつけてやろう。私と、エーレンの力をな」
 それを聞いた斥候は黙って引き下がり、恭しく退室していった。
 部屋の扉が閉じたのを見届けると、リアは独り言ちる。
「精々暴れるがいい、どうせ寿命で死ぬのだ」
 薄く笑うと今日も愛する人の容態を見るべく、リアはエーレンの居室に向かうのだった。