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466 :ぽけもん 黒  旅立ちの朝 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/03/23(日) 02:14:26 ID:ZE6PRlQg
 ポケットには収まりきらないような怪物、縮めてポケモン――
 僕達が住んでいるこの世界には、そう呼ばれる、人間とも、その他の動物とも一線を画した独自の生物群が存在している。
 容姿は種族によって異なるのだが、人間と、植物や動物とのハイブリッドのような見た目をしているものが多い。
 ポケモンは種によっては、動物や植物、はたまた人間と交わり種を残す、という特殊な芸当が出来るものもいる。
 そしてそんな容姿どおり、彼らは、人間に使えないような特殊な能力と、植物や動物には無いような、人間に近い高等な頭脳を備えている。
 我々人間は、そんな彼らと時に協力し、時に相愛し、そして時に対立しながら生きていた。

 今日は十五の誕生日。
 僕達の国には、ポケモンと人間の相互理解のために、十五になるとパートナーとなるポケモンをつれて、国内を旅する、ということが法律で定められている
 この旅は、パートナーとの友好度や戦術、出会ったポケモンの数やパートナーとなる契約をしたポケモンの数、それらのポケモンの生態などの研究等々の個人の資質と、人間とポケモンの人格を測る、国による試験も兼ねている。
 将来ポケモンの研究をしたい僕にとっては、研究員の資格を得るために、厳しい試練をクリアしてポケモンマスターを目指すというシビアな旅なのだった。
 というわけで、夢の実現を果たすための第一歩、パートナー候補のポケモンとパートナー契約を結ぶべく、あのポケモン研究の権威である大木戸博士の助教授を勤めていたこともあった、宇津木博士の勤める上都ポケモン研究所に来ていた。


467 :ぽけもん 黒  旅立ちの朝 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/03/23(日) 02:14:49 ID:ZE6PRlQg
「はあ……」
 白を基調をした明るい色合いの研究所の前で、僕はため息をついた。
 実は落ち着かなくて、ついつい説明会の三時間も前に来てしまったのだ。我ながら、度胸がない自分が恥ずかしい。
「はあ……」
 さすがに三時間前じゃ研究所内に入ることも出来ない。もう一つため息をつくと、その辺で暇を潰そうと、研究所をあとにしようとする。
「はあ……」
 と、研究所に背を向けた僕の耳に、僕のものではないため息と思われる声が聞こえてきた。
 右を見れば、大きな赤い目を持つ、女の子がいた。
 髪は萌黄のような黄緑色をしていて、深緑の玉で縁取られた黄緑のワンピースを着ている。
 そしてこれまた黄緑のポシェットを脇に提げていた。
 ここまでなら、ちょっと変わった可愛い子だなー、で通っただろう。
 しかし、彼女の頭頂部からは、深緑のような深い緑色をした大きな葉っぱが生えていた。
 ポケモンだ。
 見た目から考えて、おそらく草タイプに分類されるであろうポケモンの美少女が、悩ましげな表情を浮かべて、研究所を見ていたのだ。
 もしかして、彼女も旅の参加者なのだろうか。
 若干幼い印象を受けなくも無いものの、十五に見えないことも無い。
 しかし参加者ならば普通まだ集まってもいないだろう。なにせ三時間も前だし。
 まあ、ここで出会ったのも何かの縁だ、どうせこれから暇だし、話しかけてみるか。
「あのー、もしかして参加者の方ですか?」
「ひゃ! あ、あの、どちらさまですか?」
 驚かれてしまった。僕はそんなに怪しい風貌をしているのだろうか。ここ数日、緊張のあまり満足に寝れなかったからかなり血色は悪いだろうけど。
「い、いやー、こんなところにいるから、もしかして参加者の仲間かなーと思ってさ。僕は参加者のゴールド。人間だよ」
「まだ説明会まで三時間もありますよ? 一体何を考えているんですか?」
 と、少女から冷たい口調で厳しい台詞と、アホを見るような視線を受けた。
 まったくの正論なんだけどさ……。
「は、ははは、落ち着かなくてさ。じゃあ君は個人的用事なのかな?」
 僕は苛立ちが表面にでるのをなんとか押さえ、苦笑いをしながら、彼女に尋ねた。
「いえ、私も参加者なので」
 彼女は平然とそう答えた。


468 :ぽけもん 黒  旅立ちの朝 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/03/23(日) 02:15:17 ID:ZE6PRlQg
 ……おい。
 人を馬鹿にしといて、自分も参加者かよ。
「じゃあ、どうして三時間も前に来たのさ?」
「そんなの、私の勝手です。いちいちうるさい人ですね」
 彼女は顔をしかめ、煩わしそうに答えた。
 ……あれぇ? 僕うるさかったかなあ。うーん、そんなにうるさくした覚えはないんだけれども。
「もしかして、緊張のあまり早く来すぎた、なんてことはないよね?」
「そ、そんな訳ないです! どこかのバカと一緒にしないで下さい!」
 まさかと思いつつもカマをかけて見たら、ものすごく分かりやすいリアクションをしてくれた。
「ぷ、くくく」
 僕はそんな彼女の様子がおかしくなって、思わず笑い出してしまった。
「な、そんなにおかしいですか! あなただって同じなくせに!」
「いやあ、僕のほかにこんな人がいるなんて思っても見なかったからさ」
「一緒にしないで下さい!」
 同じだと言ったり、一緒にするなと言ったり忙しい子だ。
 しかし、こうしてみると、彼女のふくれっつらも、厳しい言葉も可愛らしく思えるから不思議だ。
 彼女はしばらく僕を睨んでいたが――もしかしてこれがにらみつける? 僕の防御力を下げているのか?――、突然プイっとそっぽを向き、そのままズンズンと大股で歩き出した。
「どこに行くのさ」
「ついてこないで下さい! 警察に訴えますよ!」
 う……随分と嫌われたものだなあ。もしかして僕はポケモンが不快になるような何かを出しているのだろうか――いやいやそんなはずは無い。ポケモンの友人も結構いるし。
 となると、やはり寝不足のせいかな。
 原因をそうと決め付けた僕は――け、決して現実と向き合うことを逃げたわけじゃない――、ちょうど研究所の傍にある公園にベンチがあるのを見つけ、時間までそこで横になることにした。
 ポカポカとした朝の日差しとさわやかな春の風が気持ちいい。
 寝不足の僕がそんなコンボを喰らって無事でいられるわけがなかった。
 僕はそのまま眠りに落ちていってしまった。


「う、うーん……」
 眩い日差しに照らされて僕は眼を覚ました。
 目を開けると、太陽がかなり高く見える。
 上体を起こし、寝ぼけ眼をこすりながらポケギアを開く。
 表示されていた時間は、説明会の開始時間を三十分も過ぎていた。
 頭の中にかかっていた霞が、一瞬で蹴散らされた。
 ベンチから飛び降り、ダッシュで研究所に向かう。
 入り口には研究員と思しき、白衣を着た男が一人立っていた。
「す、すいません! 説明会って」
「ああ、もう始まってるよ。早くポケギア出して」
 研究員は参加する予定だった人数がそろってないことから、僕が遅刻していることを分かっていて立っていたのだろう、呆れたような視線を僕に向ける。研究員は態度だけでも「余計な手間増やさせやがって」という言葉が聞こえてきそうな様子だ。


469 :ぽけもん 黒  旅立ちの朝 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/03/23(日) 02:15:42 ID:ZE6PRlQg
 僕はさっきから手に握り締めっぱなしのポケギアを研究員に渡すと、男はそのポケギアを機械にかざした。
 ピッ、と電子音が鳴る。
「はい、これでOK。会場は壁に貼ってある順路図のとおりに進んでいけば分かるから、急いでね」
「はい! すいませんでした!」
 僕は研究員から返してもらったポケギアを握り締め、研究所に入った。
 壁には分かりやすいように矢印の印刷された紙が貼ってある。
 僕が走ってその矢印のとおりに進むと、程なく会場の前の角についた。
 角を曲がった先、つまり会場と思われる場所から人の話し声が漏れ聞こえてくる。
 まずいな……。当然だけど完全に遅刻じゃないか……。
 立ち止まって少し呼吸を整える。
「はあ……」
 ため息を一つつき、覚悟を決める。
「はあ……」
 と、僕のものじゃないため息がどこかから聞こえてきた。
 冷静になって見てみれば、角の陰から黄緑の物体が覗いて見れる。
 そして、深緑の葉っぱがピョコンと陰から飛び出した。
 ……見、見なかったことにしよう。
 それだけで陰にいるのが誰だか分かってしまったけど、彼女と話している時間はない。それに遅刻しといて、その上廊下で話しているとかどれだけ非常識なんだ。
 ……こんな日に遅刻しただけで十分非常識であることはよく理解している。
 こんな時間にこんなところにいるってことは、やはりなんらかの事情で遅刻してしまい、そしてそのことが後ろめたくて会場に入るに入れず途方にくれている、といったところだろう。
 まるで僕みた――いや、こんなこと、知るだけで彼女は怒るだろうな。
 僕は胸を張って大股に歩き、角を曲がり彼女の前を通り過ぎた。
 横目に、目を見開き、口をポカーンと空けている彼女が見えたが、視線も向けずにスルーした。
 目を合わせれば、確実に会話か口論が始まる、という確信があったからだ。
 僕はそのまま一息に会場の扉の前まで来ると、ゆっくりと扉を引いた。
「すいません! 遅刻しました!」
 人の頭を見なくていいように、深々と頭を下げる。
 会場は一瞬間静寂に包まれ、そしてその後笑いが巻き起こった。
 見えないが、痛いほどの視線が降り注がれているのがよく分かる。
「あー、いいから空いている席に座りなさい」
 困惑したような声が僕に向けられた。
 宇津木博士のものだろう。
 顔を上げると、会場には五十人くらいの人間と、同数のポケモンがいた。
 ほとんどはもう前に向き直っているが、中に数人、ニヤニヤしならがこちらを見ている者もいる。


470 :ぽけもん 黒  旅立ちの朝 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/03/23(日) 02:16:19 ID:ZE6PRlQg
 会場内を見回すと、空いている席は前のほうにしかない。
 僕は小さくなりながら、人々の脇をとおり、その空いた席に着いた。
 と、僕に続くように席に着いた者がもう一人。
 見れば、例の彼女だった。
 僕に便乗して、目立たないようにしたわけか。
 僕は恨みがましい視線を向けてやるが、彼女は微妙に視線を正面から反らして、顔が見えないようにしている。
 心の中でまたため息をつくと、机に置かれた資料を開いた。
 宇津木博士の説明はその資料に準拠したものであり、その資料を見れば遅れてきても困るような点は無いようだった。
 しばらく続けられた説明の後、宇津木博士は机の上に置かれた封筒の中を見るように指示した。
「これが、人間とポケモンとのパートナー契約書です。先ほど説明したとおり、必ずこの会場内で一人一人がパートナー契約を結ばなくてはなりません。
ご存知のとおり、整備された街道から僅かに外れただけでも野生のポケモンが出没します。もしそれが凶暴なものであったら、無力な人間だけではどうすることもできないからです。
逆に街では人間と共にいるということが警察の保護を受けられるということになり、ポケモン自身の身を守ることになります。というわけで、これから自由時間としますので、パートナーとなる人を決めてください」
 その言葉で、静かだった会場内がワッと騒がしくなった。
 ……パートナー契約ってどうやったらいいんだ?
 もしかしたら、いやもしかしなくても最初の方に説明があったのかもしれない。
 資料の目次を見て、それと思しきページを見る。
 えーと、役所が発行している人間とポケモンで契約書を交換して、その後その契約書を役所に届け出るらしい。……ここ研究所だよな。
 と当惑していたら、早くも契約を結んだと思しきペアが宇津木博士に契約書を渡していた。なるほど、今回に限り、博士のほうで手続きしてくれるのか。
 そうこうしているうちに、もう半分近い人たちが契約を済ませたか契約に入ったかしている。これはまずい。
 とりあえず、序盤のジムの都合上、炎タイプか電気タイプ等の属性のポケモンと契約したい。一番まずいのが草だな。飛行にも虫にも弱点とかいいとこなしだ。序盤はまだ慣れないのに弱点続きは避けたい。それに草タイプは全体的に弱い、という研究報告もある。
 となればうかうかしれられない。一人でいるポケモンを見つけると、早速話しかけてみる。
「あのー、契約まだですよね? 僕とけいや……」
「ごめん、こんな大事な日に遅刻してくるような非常識な奴とは契約できない」
 冷ややかな視線を向けられ、一蹴されてしまった。
 う……やはりかなり悪印象のようだ。
 しかし気にしてもいられない。すぐに別のポケモンに声をかける。
「あのー」
「すいません……」
 声をかけただけなのに、頭を下げられ、そしてそのまま歩き去られてしまった。
 そりゃあポケモンにとってもパートナー選びは大切だ。人によって長さは異なるが、しばらく旅を共にすることになる相手だ。もし僕がポケモンだったとしても、こんな日に遅刻してくるような常識の欠如した奴とは契約したいだなんて思わない。
 そうと分かっていてもこれは凹む。どうして寝過ごしてなんかしまったんだ、と悔やまずにはいられない。


471 :ぽけもん 黒  旅立ちの朝 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/03/23(日) 02:17:01 ID:ZE6PRlQg
 そうこうしているうちに、ほとんどの人が宇津木博士の前に出来た列に加わっているか、契約を終えて会場から出てるかしてしまっていた。
 残っているのは……
 と、会場内を見回したところで、あの彼女と目が会った。
 彼女もコッソリ入ったとはいえ、大体の人が遅刻してきたことに気づいているだろうし、それに見るからに草ポケモンだから倦厭されているのだろう。
 ジムリーダーは定期的に入れ替わるっていうけど、草にとって相性の悪いタイプが最初に二つ続くなんて、今年旅立つことになる草ポケモンはかなり理不尽な思いをしているに違いない。
 しかし同情はしても彼女と組む気にはなれない。
 彼女も考えていることは同じらしく、すぐに視線を逸らした。
 しかし妙なことに、彼女は自分から人に声をかけている様子がない。
 おかしいとは思ったものの、僕も視線を逸らして人を探す。が、もう全員が契約を結んでしまったようだ。
 なんてこった……。じゃあ彼女と契約を結ぶほかないじゃないか。
 しかし僕はそんなことはおくびにも出さず、彼女に歩み寄る。
「あ、あのさ、もうみんな契約しちゃったみたいだし、僕と契約しない?」
 だが、僕の言葉を聞いた彼女は露骨に嫌そうな顔をして、会場内を見渡した後、多分誰も他に残りがいないことを確認したのだろう、大きくため息をついて、契約書を差し出してきた。
「早く出しなさいよ……」
 彼女は苛立たしげに僕を睨む。
 それで僕は慌ててその契約書を受け取ると、急いで契約書を取り出した。
「あ、朝も言ったけど、僕はゴールド。ポケモンマスターを目指してるんだ。よろしくね」
 僕はなるべく明るい口調で言いながら契約書を差し出した。
 彼女はそれをぞんざいに奪い取ると、ボソボソと話し出した。
「私はチコ……何その手?」
「あ、握手でもしようかと思って」
「止めてよ」
 厳しい口調で言うと、彼女は僕の手をはらった。
 さ、さすがの僕でもこれだけやられたら平常心ではいられない。……でも、ポケモンマスターを目指す旅となれば、かなり長い旅になることは必至。ならば旅に出る前から関係を悪化させるようなことは出来ない。
 しかしこんなに失礼な態度をとり続けているってことは、彼女――チコは必須課題の“おつかい”だけで旅を終える気なのだろうか。
確かに、必修の課題はこれだけだ。これを終えれば、一応旅を終えることは出来る。……その代わり、ポケモンと人間の双方が関わるような仕事には絶対に就けないが。
彼女はもしかしてかなりの差別主義者で、最初から自分の出身のポケモンコミュニティー内で、人間とは関わらずに生きていくつもりなのかもしれない。となると、早々に野生のポケモンとパートナー契約しなくてはな。
 僕は陰鬱な気持ちに包まれたが、だからといって仏頂面を向けてるなんて無礼だと思い――もっとも、チコはずっと無表情なのだが――、一応の笑みを作っておく。
 チコは僕の顔を一瞥すると、目を伏せた。
 か、顔も見たくないってことか!?
「じゃ、じゃあ宇津木博士のところ行こうよ」
 僕はそれでもくじけず、顔に笑みを貼り付けたまま努めて明るい声で言った。
「……はい」
 それに対して彼女は、もはやダウナーとも言える空気を出している。
 く、くじけないぞ! くじけるもんか!
 僕は心の中で自分を励ましながら、宇津木博士の前の列に並んだ。当然最後尾だ。
 他のコンビはぎこちないながらも、互いに自己紹介をしたり、談笑したりしている。
 それなのに、僕達ときたら……。
 まったくの無言だ。しかも彼女はうつむいていて、表情すら伺えない。
 ……なんだか、少し泣きたくなってきた。
 そんな地味な罰ゲームのような一時を耐え、ようやく僕達の番が回ってきた。


472 :ぽけもん 黒  旅立ちの朝 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/03/23(日) 02:17:24 ID:ZE6PRlQg
 僕達は博士に契約書を差し出す。
「君達で最後か……えーっと、若葉町在住の若葉ゴールド君と、若葉町在住の香草(かくさ)チコさんだね」
「はい」
「……はい」
 宇津木博士は僕達の名前を読み上げると――香草さんっていうのか。しかしこの町に住んでいるのに一度も会ったこと無いなんて――契約書をスキャナーで取り込んだ。
「はい、これで登録されたよ。後はお互いに契約証明書にあるバーコードをポケギアで読み込んでね。後、これがおつかいで届けるものだから。それと、入り口にいる助手から傷薬を受け取ってね」
 そう言って博士は二通の契約証明書とポケギアくらいの大きさの、茶色い紙で包装された小さな小包を差し出した。
 僕はそれを受け取ると、僕のものだった契約書を香草さんに差し出した。道具類の管理は人間の仕事だから、この小包は当然僕が持つことになる。
 彼女はポシェットからポケギアを取り出すと、契約証明書のバーコードをリードしていた。
 僕もそれにならって、ポケットからポケギアを取り出すと、バーコードをリードした。
 するとポケギアがピピッっと電子音を発し、写真を含む彼女のデータを表示した。
 へー、タイプはやはり草、それも単色だ。特性は深緑。使える技は蔓の鞭に宿木の種、それに体当たりの三つか。……睨みつけるは使えないんだな。確かに僕の防御力が低下したように思ったんだけれども。
「じゃあ行こうか」
 僕はまだポケギアを覗き込んでいる香草さんに声をかける。……人間のデータなんてほとんど見るところ無いんだけれどな。
 彼女は答えることも無かったが、ポケギアをしまって歩き出した。
 やれやれ、とため息をつきたいのをなんとかこらえながら彼女の後に続く。
 そしてそのまま無言で研究所の入り口まで来た。
「はい、傷薬ね。これで仕事終わりだー」
 入り口に立っていた白衣のお兄さんから傷薬を渡された。お兄さんは大きく伸びをしている。
「まだ日も高いし、早く行きましょ」
 見れば彼女はもう研究所から数十メートル進んでいる。
「もう、遅いわね。何もたもたしてるのよ」
 僕が走って追いつくと、彼女は苛立たしげに言ってきた。
「な、なんかさっきとテンション違わない?」
 彼女の声質は先ほどのボソボソした陰気ものとはまったく異なり、大きく明るいものになっている。それに表情もどこか晴れやかだ。
「ああ、室内の蛍光灯の明かりじゃほとんど光合成出来ないんだもん。まあ鈍感な人間には十分みたいだけど」
 なるほど、やはり草ポケモン、日差しが強いと活発になるらしい。
 しかし、なんだか遠まわしに悪口を言われたような。
 まあそんな些細なこと気にしていたら、これからのしばらくの彼女との二人旅を生きていけそうも無い。
「何ぼーっとしてるのよ、急いでよ」
「あ、歩くの早いよ」
 僕は、短時間でかなり減少してしまった僅かな期待と、これからの莫大な不安を胸に、ポケモントレーナーとしての一歩を踏み出した。