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674 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 [sage] :2008/04/04(金) 21:41:32 ID:xtqVsE/d
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田村 夏夢視点より


健二に更生…と呼べる様なものをさせてもらった私は、
その頃にもなると沢山の友達を作る事が出来ていた。
多少、小学生で苦労したが、それもが仕方ない。
一度拒絶をしておきながら、自分から歩み寄ったのだから。
しかし、健二を見習って何度も諦めないで歩み寄っていくうちに、
そういった人達とも仲良くなる事が出来た。
仲良くなる日が来るとは思っていなかったので、
そんな人達と笑い合う日常に対しては凄く驚いたりしていたが。
だが、そこらへんは慣れだった。
最初は違和感がある日々も、中学に上がる頃には自然となっていた。


私がその気持ちに気付いたのは、小学校という囲いから、
中学校という囲いに変わって、まだ日も浅い頃だ。
中学に上がってから最初に喜んだ事は、健二と同じクラスになったという事。
小学校の頃は、5年生、6年生共に同じクラスになれたけれど、
小学校より人数が多くなる中学
(ここら辺の地域には他と比べて中学校があんまりないのだ)
で一緒のクラスになるのは厳しいだろうなと思っていた。
あの日の運動会以来、健二とはよく話をするようになり、たまに一緒に遊んだりしていた。
遊びと言っても、私は一人以上でやる遊びというものをあまり知らなかったので、
新しい遊びが出る度に、健二からどうやってやるのかを聞く事が多かった。
そんな最初の、二人だけで遊んでいたのが、私がクラスに溶け込むにつれて、二
人が三人に、三人が四人に、四人が五人に…と段々と増えていく。
気がついたら私は、かなりの人数と遊ぶ様になっていた。

しかし、そんな大人数と遊ぶ様になった頃には、健二と遊ぶ事はなくなっていた。
それもそうだ。
女子ばかりの中に一人だけの男子。
そんなもの、居づらいに決まっている。
それでもなお、途中までは遊んでいてくれたのだ。
きっと、ギリギリ一杯まで居てくれたのだろう。
こんな私に付き合ってくれた健二に感謝もしていたし、
本当にギリギリまで付き合ってくれたのもちゃんと分かっている。
それでも、たまに校庭で友達とサッカー等のスポーツを楽しそうにやっている健二を見る度に沸き上がる寂しさというものを、結局私は中学に上がる頃になっても取り除く事は出来なかった。
なので、私は健二とはよく話をした。
遊ぶ事は出来なくとも会話は出来る。
私は必死になって健二と話をした。
何を必死になっていたのかはその時の私には分からなかったが、
それでも私は健二と毎日会話をした。



675 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 [sage] :2008/04/04(金) 21:42:39 ID:xtqVsE/d
そのお陰とも言うべきか、休み時間には健二と話すのが普通になっていた。
健二との会話は、いくら話そうとも飽きる事なく、とても楽しい時間だった。
そんな楽しい時間も、いつまでもいつまでも続くものではない。
健二の友達が誘いを出し、それを健二が承諾して一緒に外へ出ていく。
その背中を見る事が何回も、何回もあった。
その背中を見る度に、よく分からない感情が、胸の中で生まれた。
中学に上がって間もない頃の健二と私の関係は、そういうものだった。



小学校から中学校に上がっても、私と健二の関係は、小学時代から変わっていなかった。
やはり休み時間に話をして、健二の友達人からの誘いが、健二との会話が終わる合図。
そして私から離れる健二を見る度に生まれる、よく分からない感情。
小学校から中学生に変わり、明らかに何もかもが変わった筈だった。
だけど、私と健二の関係は全く変わっていなかった。
健二が去った後は、私も私で友達と談笑をする。
これと言って、大した話をしなかったけれど、これはこれで楽しかった。
ある日、そんな風にいつも通りの談笑をしていた時
「なっちゃんは健二君の事好きなの?」
そう、唐突に聞かれた。
ちなみになっちゃんとは私のあだ名で、友達がつけたものだ。
何でも、背が小さい私にピッタリの愛称だという。
小学生の時は普通だった私の背も、中学生に上がったとたんに、伸びなくなってしまった。

そう聞かれた私の答えは
「分からない…かな」
といったものだった。
友達の質問に、私は否定の答えを出すつもりだったのに、口から出た答えは否定ではなかった。



「一緒に帰ろうよ」
放課後、私は健二を誘った。
誘ったと言っても、一緒に帰ろうといったものだけど。
「え?…うん、まぁたまにはいいか」
最初は私の申し出に面食らったようだったけど、健二は快く承諾した。
帰り道、私と健二は沢山の話をした。
小学生の、あの時の健二の心境、私の心境。
それは出来れば掘り返したくない話だったけれど、
実際に話してみれば笑える良い思い出となっていた。
そんな流れだったからだ。
私がずっと聞こうに聞けなかった事を言ったのは。
「健二の家の両親は…健二の両親は何であの日、運動会に来てなかったの?」
私の質問で、健二の顏が曇ったのが分かる。しかし、それも一瞬で元に戻して言う。
「いや、実は両親が仕事の都合で海外に出てるんだけどさ、
その都合で結構忙しいんだよね。だから運動会もその都合で来れなかったんだよ」



676 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 [sage] :2008/04/04(金) 21:43:32 ID:xtqVsE/d
そう答えた目の前に居る人の、いつも通りの調子で話すのを見て、
簡単に分かってしまった。
何かを…隠していると。
「本当にそれだけなの?」
当たり前だ。
そんな単純な事なら何で…何であの時
「…何でそんな事を訊くの?」
あの運動会の、教室ので
「じゃあ、何であの時教室で、健二は泣いていたの?」
何で、健二は泣いていたのか。
「………そうか。あの時、その場面も見ていたのか」
健二は少しの沈黙の後、そう独り言を言って、直ぐに隠していた事を話始めた。
「僕にはね…妹が居たんだよ」
「えっ?」
私が声を上げてしまったのも無理はない。
決して長いとは言えないが、2年位の付き合いになる。
その間に、少ないとはいえ、健二の家に何回か行った事もある。
それでも、妹に会った事もないし、妹が居る等といった話を聞いた記憶もない。
いや……、妹が「いた」?
「両親は妹を溺愛していてね…親ばかここに極めたり、といってもいい位だった。
でもだからといって、妹を溺愛しているから、
僕が疎外されていた、なんて事はなかった。
ただ、妹の方をよく可愛がっていただけで、僕も親の愛情をもらったよ。
それでも小さい頃は、妹ばかり構われている事に対してたまに羨ましいなと思ってた。
でも、ある程度の年齢になると、慣れだったのかもしれないけど、
そんな家の風景も悪くないなと思える様になっていたけどね」
昔を懐かしむ様に、昔を羨む様に、健二は続けた。
「だけど、そんな家の日常も、妹が事故にあって…死んでからは壊れた。
妹が死んだのは…小学4年生の時だった。
車が妹に直撃。
よくあるような交通事故…。
妹が死んでから両親は、その事を忘れる様に仕事に入れ込む様になってね。
海外ばかりに行って、家に帰ってくる事なんてほとんどなくなった」
「健二…」
その時の私が発した彼の名前は、果たしてちゃんと届いていたのだろうか。
喋れば喋る程に、健二の顏からは懐かしむという感情が薄れ、
悲しみという感情が表に出てきている。
それでも私は、そんな健二を止める事は出来なかった。
喋るのも辛い事、それでも私に話してくれている。
「親が居ない間は、近所の優しいおばあちゃんに面倒を見てもらってくれていたんだ。
おばあちゃんは本当に僕に優しくしてくれてね、運動会なんかにもちゃんと来てくれた。
年甲斐もなく行事が好きな人でね、僕が徒競走なんかで一位を取ると、凄く褒めてくれた。
あんまりこういう事は言いたくないけれど、いつもいない家にいない両親なんかよりもずっと、
家族らしかった。
だけど、それでも両親も運動会に来て欲しかった。
用事があっておばあちゃんが来る事が出来なかった小学5年の運動会、
あの場所で、その事に気付いた」



677 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 [sage] :2008/04/04(金) 21:44:27 ID:xtqVsE/d
小学5年生の時の運動会。
昼休み。
独りで教室に居た、あの日、あの時間。
「昼食時になると、皆が皆、親の所に向かう。
そんな中で一人だけ、どこにも行けないやつ。
それが僕だった。
校庭には、どこにも僕の居場所がなかった。
だから、誰も居なさそうな場所…立ち入り禁止の教室で、僕は昼休みを過ごした。
夏夢が言う様に、確かに僕はあの時教室で泣いていたよ。
だってそうだろう?
確かに両親は、僕にも愛情を注いでくれた。
だけど、結局は妹とどちらか選べと言われたら妹をとる。
そんな両親だったんだよ。
それは妹が死んでも変わらない。
今生きている僕を見向きもしないで、死んだ妹の事ばかり気にして…
その事に気付いて、どうして堪えられる。
強い人なら、それでも堪えられるかもしれないけど、僕には堪える事なんて無理だった。
弱い人間だからね」
まるであたかも、堪える事が出来なかった自分を悔いている様な表情。
あぁ…自分は、聞かなければ良かった話を聞いているんだな、と思う。
別に、私がそれで悲しくなるとか、そんな理由からではない。
健二にそんな顔をさせてしまった事に、私はそう思った。
「だけど、あの時は夏「健二はさ…」……何?」
それでも、一つだけ、どうしても聞きたい事があった。
その問いに対する健二の答えも分かるし、その答えに対して私が思う事についても、分かっている。
それでも、聞いてみたかった。
「健二は……その事で誰かが憎かったりする?」
「ないよ」
やっぱり。
しかも即答だったではないか。
「確かに、妹が死んでから家に帰ってくる事がなくなった両親や、
車で妹をはねた運転手を最初は憎んでいた。
だけどね、それは仕方がない事だ。
両親は結局僕より妹を優先しただけ。
運転手については、妹が自ら当たりにいった様なものだったからね。
だから、今の家庭状況は、どうしようもない事だ。
誰も悪くない…誰もね」
これで話は終わりとばかりに口を閉ざす。


気がつけば、もう別れ道だ。
「じゃあね、夏夢。また明日」
「うん、また明日」
つい先ほどまでの空気を取り繕う様に別れの言葉を言う健二に、
私も同じ様にして別れの言葉を言った。



678 :溶けない雪 ◆g8PxigjYm6 [sage] :2008/04/04(金) 21:45:25 ID:xtqVsE/d
そして別れ道で、私と健二は別れた。

帰路につく途中で考えていたのは、先ほどの話。
いや、正確に言うと、あの話で私が分かった事だ。
健二の話を聞いて、今まで分からなかった秘密を知って、
ようやく分かったのは、私は健二が好きだという事。
きっと、この気持ちは、あの時の教室で健二を見た時から続いていたのだろう。
その事の認識については、ある意味予定調和ともいえた。


それとは別に、さっきの話で抱いた気持ちがあった。
それは………………………自分でも戸惑ってしまうほどの、
健二の両親と妹に対する憎しみだった。