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100 :ヒキコモリと幼馴染 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/05/01(木) 13:18:45 ID:i6U3Ixs2
「お、7777だ」
 僕がよく行く、全員が固定ハンドルネームをつける馴れ合い掲示板がある。
 今日もいつものようにいったら、アクセスカウンターが7777という、縁起のよさそうなキリ番になっていた。
「七誌さん、おめでとう~」
「ちくしょー、俺が踏むつもりだったのに!」
「七誌オメ」
 すぐに掲示板にそんなカキコミがならんだ。
 ちなみに七誌とは、僕のハンドルネームである。
 7777、いかにもいいことがありそうな数字じゃないか……といっても、ヒキコモリの分際でにいいこともなにもないか。
 僕は、そのキリ番を踏んだことを少しうれしく思いながらも、その喜びはすぐにこの“ヒキコモリ"という、負け組としかいいようのない、自分の境遇に対する絶望に上書きされてしまった。
 僕は一つため息を吐くと、掲示板にキリ番を踏んだことの報告をし、そのまま別のサイトを開いた。
 ちょうどそんな時だ。俺の部屋の窓ガラスがコツコツ、と鳴ったのは。
 カーテンがしてあり、外の様子は窺い知れないが、その音の原因ははっきりと分かってる。
だから、僕はそれを無視して、またサイトを眺める。
「信也くん、起きてるよね」
 うるさい。
 その声自体は、大して大きくもなく、いや、むしろ遠慮がちで、うるさいという形容詞からは程遠い声だ。
 だが、僕にとっては、うるさくて、不快でしかたがなかった。
 ヒキコモリ続けて早半年。
 教師なんて言うまでもない。心配し、そして叱責してきた父、媚び諂ったかと思えば、何をどう考えたのか知らないが、自殺未遂までしてみせた母。
 彼らですら、とうの昔に僕に干渉し、社会復帰させることを諦めてしまっている。
 それなのに。
 そんな中、この糞女――古閑風香、僕の幼馴染だ――だけは、未だに僕に対して接触を謀ってくる。
 いい加減にして欲しかった。
 彼女が知っている昔の僕とは違って、もはや現実世界をまともに生きていく気なんて微塵もなく、
パソコンの中のささやかな幸せや楽しみが世界の全てとなっている僕にとっては、現実世界をまともに生きている彼女は、それだけで、存在するだけで、僕にとっては猛毒にも等しい。
 その猛毒が、積極的に自分にアプローチをはかってくるのだ。
 小鳥のさえずりの様な可愛らしい声も、小動物のような、キョトキョトとせわしなく動く仕草も、僕にとっては、聴覚や視覚に訴えかけてくる毒に他ならない。
 それなのに、彼女は僕の気持ちなどまったく顧みず、どんな罵声を浴びせようと彼女は毎朝毎晩僕にいちいち接触を試みてくる。
 うんざりだった。
 もう僕は経験から、どんな誹謗中傷も意味を成さないことを知っている。
 だから僕が取る選択はたった一つ。
 無視だ。
 息を殺し、じっと彼女が立ち去るのを待つ。
 しかし、いつもはしばらく無視すれば立ち去るというのに、今日はいつになっても立ち去らず、それどころか、起きてるのは分かってるだの、出てきてくれだの、僕に声をかけてきやがる。
 時計を見ればもう九時、とっくに学校は始まってるはずだ。
 と、そこで気づいた。今日は土曜日、休日だ。
 最悪だ。もう寝た振りしていてもしょうがない。僕はパソコンをカチカチを弄り始めた。
「あ、やっぱり信也くん起きてたー。ねえ、今日はいいことあったんだから、久々に外に出てみようよ」
 なんてヤツだ。僕がこれだけ無視しているのに、まったく意に介した様子も無く、明るい口調で話しかけてきやがった。
 最悪だ。
 僕はヘッドホンをつけると、大音量で音楽を流し始めた。そろそろ寝ようと思っていたのに、とんだ災難だ。
 しかも、こんな生活をしている僕に、いいことなんてあるわけないだろ。しいて言えばあの掲示板のキリ番を踏んだくらいだ。
 その思考に至った瞬間、背筋に寒気が走った。
 いや、まさかそんなはずはない。僕がいつもアクセスしている掲示板でキリ番を踏んだことなんて知っているはずもない。ただの偶然。ただ僕の気を引くためのでまかせがちょうど当たったってだけだ。


101 :ヒキコモリと幼馴染 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/05/01(木) 13:19:42 ID:i6U3Ixs2
 音楽で彼女が何を言っているかは分からないが、まだ彼女がいて、何かを言っていることも分かる。
 彼女は何を言っているのだろうか。まさかとは思うが、僕を監視していたりするのではないか。
 僕は、ヘッドホンを外した。
 馬鹿馬鹿しい。ただの偶然なのに。
 自分で自分に嘆息する。ヒキコモリ生活のせいだろうか、こんなくだらない妄想に囚われるなんて。これは彼女の言に従うわけではないが、少し外に出たほうがいいのかもしれない。
「ね? 一緒に神社まで散歩しようよ、ほら、いい天気だよ」
 外にでるっていっても、てめえと一緒に出る気なんてさらさらねえよ。
「ほら、紅葉でも見たいって言ってたよね? 神社なら綺麗だよー」
 僕はガタンと跳ねた。
 当然、僕が彼女にそんなこと言ったわけじゃない。家族とだってもう随分会話してないんだ、まして他人なんかとそんな会話をしているわけが無い。
 しかし僕は思い当たる節があった。
 あの掲示板に、紅葉の写真が添付されたときに、見に行きたいと書いていたのだ。
 いいことがあったとか、紅葉を見に行きたがってるとか、どうして知ってるか。
 誰でもすぐにこの思考に至るだろう。
『アイツはこの掲示板を知っていて、俺の固定ハンドルも知っている』
 糞っ! 胸糞悪い。一体どこから洩れたんだ! つまり今までずっと僕のカキコミは彼女に駄々漏れだったってことか。
 思わずキーボードを机に叩きつけて破壊しそうになった。しかし破壊してしまえば、外界と接触を取らざるをえなくなるため、すんでのところでそれを堪えた。
「死ねこのストーカー女! 気持ち悪いんだよ! 警察に通報するぞ!!」
 意味が無いと分かっていながらも、窓の向こうのアイツに向けて悪態を吐く。
 返事は、無い。
 糞っ!
 再び悪態を吐いた後、僕はこの掲示板のブックマークを削除するために、ブラウザのブックマーク一覧を開いた。
 ブックマークにマウスの矢印を重ねて左クリック。
 それを実行しようとした瞬間、窓ガラスがコツン、と鳴った。
 誰もいないものと思っていた僕は驚いて、その拍子に右クリックしてしまった。
 そのことによって掲示板は更新され、現在の書き込みが表示された。
 その更新されていた内容。それを見て、僕は愕然とした。
「どうして分かってくれないの?」
「私はあなたのことを思っているだけなのに」
「誰がなんと言っても、私だけは信也くんの味方だから」
 僅か数分の間に書き込まれていた書き込み。
 そして、その書き込みを行っているハンドルネームは一つだけではない。
 この掲示板の、主に書き込みをしている住人全員のものだった。
 愕然とし、咄嗟に窓ガラスのほうを向く。
 窓ガラスにはカーテンがかかっていて、外の様子は窺い知れない。
 でも……。
 僕はゴクリと唾の飲み込み、深呼吸をすると、意を決してカーテンの前まで歩く。
 目を瞑り、開き、勢いよくカーテンを開けた。
 朝の眩しい陽光が注がれる。
 反射的に目を覆い、そしてその手を序々にずらす。
 そこにあったのは、ただの何の変哲も無い庭だった。
 はあ……と安堵のため息を漏らす。
 まあ特にあの女がいなかったからいなかったからといって、何の問題の解決になる訳でもないのだが。
 それでも安心して、カーテンを閉じると、もう一つため息を吐いて、天井を仰いだ。
 そして、風香と目が合った。
 思考は停止し、目のピントは固まってしまったかのように、彼女の目から逸らす事ができない。
 天井板の一部を外し、天井から風香が僕を見ていた。
「信也くんのこと、ずっと見ているよ」