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579 :ヒマ潰しネタ [sage] :2008/05/24(土) 21:44:30 ID:3mPgpwFb
 彼女の監禁から命からがら逃げ帰ってくると、妹が物騒な本を読んでいた。
 テーブルの上には濃い化粧できわどい衣装を着た女性が笑っている表紙の雑誌が置いてある。
 雑誌名は『エロビッチ』。最近巷で話題の女性向け雑誌だ。
 もう一冊は両手に包丁と鋸(血液付着)を持ち、口にナイフをくわえた暗い表情の女子高生が表紙の雑誌。
雑誌名は「ヤンデレ百選」
 女性向け雑誌らしいが、どうにも怪しい匂いがプンプンする。
 妹が読んでいるページは怪しげな凶器が所狭しと載っている。年頃の女の子が読む内容ではないだろう。

「栞よ、その雑誌はなんだね?」

「あっ、おかえりお兄ぃ。祐美さんから無事に逃げれたんだ」

 栞はソファーにうつ伏せに寝転がりながら煎餅をくわえ、振り返らずに返事をした。
 両足をパタパタと動かしながら本を読んでいるからか、スカートがめくれてパンツ見えている。
 はしたないにも程がある。おまけになんだ、そのパンツは。黒のレースなんてけしからん!
 年頃の女の子が大人になりたがるのは分かるが、栞に黒のレースはまだ早い!
 説教するべきなのだろうが、その前に聞いておかねばならないことがあるから一時保留しておこう。
「――……妹よ。どうしてお前が祐美のことを知ってるんだ? というか、『無事に逃げれたんだ』
とはどういう意味だ? お兄ちゃん、ちょっと分からないなぁ」
 できるだけ優しく、雨に濡れた捨て猫に話しかけるように妹に問う。
 常識のある優しい妹なら俺の質問に答えてくれるはずだ。お兄ちゃん思いの妹だもんな。
 嗚呼…目を閉じれば思い出す。昔からお前は俺に懐いていたもんな。
「あたし大きくなったらお兄ちゃんと結婚する」なんて言ってくれちゃったりなんかして……。
「だって、祐美さんから聞いたもん。「お兄ぃを監禁するから」って」
 ……そっかー。ああ、うん、なるほどねー。
「…いつから、知り合ってたんだ?」
「え~っと、お兄ぃが祐美さんに告白された翌日かな?」
 ほうほう、そんなに速かったのか。いや~、お兄ちゃん知らなかったなー。付き合って二ヶ月経つんだけどなー。
 紹介したのは先月なんだけどなー。ちょっとクセのある彼女だから紹介したくなかったんだけどなー。



580 :ヒマ潰しネタ [sage] :2008/05/24(土) 21:45:48 ID:3mPgpwFb
「そうか。で、俺が監禁されていたことを父さんと母さんには話したか?」

 まあ話せる内容じゃないんだがな。

「ああ、部活の合宿に行くってあたしが言っておいたよ」

 えー。

「帰ってこなかったら…どうしてたんだ?」

 妹が本を読むのを止め、上半身だけひねって振り返る。随分と体が柔らかいもんだ。

「帰ってこなかったら? そりゃ助けに行くよ。だってお兄ぃはあたしのお兄ぃだもん」

 嗚呼……嗚呼妹よ。そんなにキラキラと眩しい笑顔でそんなことを言ってくれるなんて俺は嬉しい。
なんか殴りたいけど嬉しいぞ!

「そうか。栞は本当に良い子だな。で、お兄ちゃん、もう一つ、いや二つ聞きたいんだけど良いかな?」

「ん? なに?」

 首をかしげながら妹が微笑む。スカートがめくれている事に気付いているはずなんだが、
それを直そうともしないのはちょっといただけないなー。もうちょっとこう、恥じらいってもんがなー。

「なんで祐美を止めてくれなかったのかな? お兄ちゃん、丸二日ベッドの上で手錠掛けられてたんだけどなー」

 そう言って右手からぶら下がっている手錠をぷらぷらと見せる。
 両手の手首には紫色の痣ができているし、首にも痣がくっきりとついている。まさか
首を絞められるとは思わなかった。

「うわー、痛そう。どうやって逃げられたの?」

「それは企業秘密ってことで。大変だったんだぞ、本当に」

「あちゃー、ツメが甘かったんだね、祐美さん」

 さらっととんでもない事を言ってくれた気がするが、今の俺は動じない。なんというか、
今の俺は賢者に近いものになっている。一発抜いた後のスッキリした感じだ。悟りを開き
つつあるのかもしれない。
 そりゃあ、刃物を首に突きつけられたりペンチをあんな使い方された後だからなぁ…。

「で、祐美を止めなかった理由はどうしてかな? お兄ちゃん、そこんところ知りたいなー」

「あのね、祐美さんと勝負したの。祐美さんが勝てばお兄ぃは祐美さんのもの。
 あたしが勝てば、お兄ぃはあたしのものってことで。
 止めなかったのは、お兄ぃなら自力で逃げられると思ったから」




581 :ヒマ潰しネタ [sage] :2008/05/24(土) 21:47:49 ID:3mPgpwFb
 んん? ちょっと意味が分からないなあ。なんの勝負なんだ? どうして監禁になるのだ?
 それにどっちが勝っても俺の意思はどうなるんだろう? あ、スルーってことか。
 それでも、祐美は俺の彼女だし、栞は妹だろ。勝負する意味も理由もないじゃないか。

「……う~ん、なるほど。まあ全く理解できないけど分かった事にしよう。
 で、もう一つ質問なんだが、何の雑誌を読んでるんだ?」

 妹の胸元に置いてある雑誌を指差し、最初に聞いた質問をする。
 普段妹が好んで読む雑誌とは毛色の違う二冊の雑誌。一体どういう心境の変化があったのか。
 もしかしたら好きな男子がいるのかもしれない。もしかしたら見知らぬ男と付き合ってるのかもしれない。
 確か『エロビッチ』は恋愛のことについても書いてあったはずだ。
 祐美の部屋にも置いてあったから軽く読んだことが> 『ビッチあんよで男を悩殺』とか
『愛されボディの作り方』とか『今からできるフェラ48手』とか、
とにかくどうしようもない内容だったのを覚えている。
 いかん。いかんぞ妹よ。16歳にもなってないのにそんなハレンチ極まりない雑誌を読むなんて
お兄ちゃん許さないぞ。
 まさか……そんな雑誌を読んであんなことやそんなことを覚えて好きな男にそんな、そんな
エロティカなことを――。
「そっちがエロビッチで、今読んでるのが『YanYam』って雑誌だよ。祐美さんに借りたんだ」

 なん…だと…。

「エロビッチは分かるが、YanYamって何だ? 普通の女性向け雑誌かなにか?」

「知らないの? 最近話題になってる有名な雑誌だよ?」

 知らないぞ。そんな禍々しい凶器を持った女の子が載っている女性向け雑誌なんか、お兄ちゃん
が知っているわけないじゃないか。
 祐美め……こんな本を我が愛しい妹に見せるなんてどういうつもりだ?
 まさか妹を犯罪者に仕立て上げようという魂胆なんじゃ――いかんぞ妹よ。
 年頃の女の子はいろんなものから影響を受けやすいんだ。テレビや漫画の影響で妹が駄目になったら
どうするんだ!? 邪気眼がどうとか言いながら右手を抑えてうずくまったり、前世がどうとか
言い出したりしたらもう本当にアレな子になってしまう。



582 :ヒマ潰しネタ [sage] :2008/05/24(土) 21:49:09 ID:3mPgpwFb
「栞、ちょっとい…」

「お兄ぃ、お茶淹れるけど飲むでしょ? それとも珈琲がいい? 紅茶?」

「……ああ、それじゃ、お茶をもらおうかな」

 説教をしようとしたところで上手くはぐらかされてしまった気がする。栞はササッとキッチンに行ってしまった。
 まあいい。キッチンでお湯を沸かしているしばらくの間は帰ってこないだろう。
 今のうちに、妹が読んでいるYanYamとやらの内容をチェックしておこう。
 もし内容がとんでもないものだったら没収して叱ってやらねばならん。それが保護者として、兄としての務めだ。
 妹の今後の成長を悪くする有害雑誌ならば放っておくわけにはいかない。
 どれどれ――。

“隠れ家的監禁! 愛され上手な監禁グッズ!” “睡眠薬十選” “今月の監禁ベストアイテム”
“邪魔な泥棒ネコはこれで成敗! 熊でも一撃スタンガン!”
“ラブリー包丁” “先取り! 最新の凶器ベスト10”
“思いきって心中! 彼の心臓を独り占め!” “首狩り族から学ぶ正しい鉈の使い方!”



 ……ふぅ。

「お待たせ~。はい、どうぞ」

 栞が笑顔で戻ってきた。まるで無垢な天使のような笑顔だ。花の蕾が開きかけてきた時の美しさ
と言ったらキザなのだろうか。
 白い珈琲カップと茶色の湯呑みを乗せたトレイをテーブルに置いて、栞が俺の隣にちょこんと座る。
 詰めれば4人は座れるだろうゆったりとしたソファなのに、俺の真横にくっつくように座ったのは
どうしてなのだろうか。昔から甘えん坊だったが、最近は兄離れしてきたと思っていたのだが。
 ふむ…なにやら嫌な予感がする。嫌な予感ほど外れたことはない。
 そう、祐美の家に行った時も確か飲み物を飲んだら急に眠くなったんだよな。
 あの時も確かお茶を淹れてもらったんだっけ。なんか限りなく状況が似ている気がする。
 しかし、栞が俺に祐美のようなことをするはずがない。状況が似ているからって考えすぎだ。
 栞は湯呑みを俺の前に置いてニコニコと俺を見ている。というか顔が近い。どうして腕を組むんだ。
 嗚呼…妹がいつの間にか化粧をしているなんて……香水はまだ早いぞ、栞よ。
「……栞よ。まさか、お茶に睡眠薬なんて入れてないよな?」
「あっはは~、なに言ってんのよ、お兄ぃってば。そん


583 :ヒマ潰しネタ [sage] :2008/05/24(土) 21:50:44 ID:3mPgpwFb
なもの入れるはずないでしょ」

 妹よ、目が泳いでるぞ。なんでそわそわしてるんだ?

「そうだよな。可愛い優しい妹がそんなもの入れるはずがないよな」

「そうだよ~。さ、早く飲んで。お茶は熱いうちに飲むのが一番美味しいんだよ」

「……あ~、やっぱり珈琲が飲みたくなった。栞のやつをもらっていいか?」

「え…? べ、別に良いけど?」

 どうした妹よ。なぜに動揺する。

「いや~、久しぶりに妹が淹れてくれた珈琲が飲みたくなってな。いいだろ?」

「う、うん……」

 すまない妹よ。どうしても信用できない兄を許してくれ。
 だって、こんな雑誌を読んだ後だもん。彼女に監禁された直後だもん。
 お前がそんな挙動不審な態度をしなかったら俺だって安心して熱いお茶を飲んだんだぞ。
 冷めないうちにチビチビと熱い珈琲を飲む。うん、良いお手前で。やはりブラックが一番ですよ。
 栞の前にあるお茶には手がつけられていない。俺が珈琲を飲んでいるのを黙って見ている。
 うんうん、監禁された後の珈琲はまた格別な味だ。ベッドに縛られているときは全て口移しだったからなー。

「どう? 美味しい?」

「うん、美味しいぞ。これでスイーツ的なものがあればもっと嬉しいんだけどな」

「あはは、煎餅ならあるよ? ……そういえば、祐美さんどうしたの?」

「ああ、祐美ならベッドに縛っておいた。二、三日したら反省するだろうからそれくらいには解きに行くよ」

 祐美なら大丈夫だろう。書き置き残してきたし、新手のSMプレイだと言っておいたしな。
 ……あ、食事はどうするんだろ? まあ、三日くらい食べなくても死にはしないだろ。

「そっかー。じゃあ、勝負はあたしの勝ちだね」

 うん? どういう意味だ? さっきの勝負の話なら――あれ? 
 急に眠気が襲ってきた。頭が重くなって体から力が抜けていく。
 おかしいな。お茶じゃなく珈琲を飲んだのに。珈琲にはカフェインが含まれていてだな――。




584 :ヒマ潰しネタ [sage] :2008/05/24(土) 21:51:55 ID:3mPgpwFb
「お兄ぃってば単純。ちゃんと二つとも入れといたんだよ。危険だと思ったら飲んじゃダメだよ」

 そう言ってポケットから粉末の入った透明のビニール袋を取り出してぴらぴらと俺に見せる妹。
 満面の笑みが可愛らしい。母親譲りの整った顔立ちだ。さすが元美人モデル。ちなみに俺は父譲りだ。
 栞が成長と共にだんだん綺麗になっていくのは嬉しいことだ。これからもっと可愛くなっていくのだろうな。

「まあ、飲まなかったら寝込みを襲うなりスタンガンなり、いくらでも方法はあったんだけどね」

「…栞よ、どうして俺に薬を……?」

 嗚呼、いかん。意識がだんだんと薄れていく。そういえば祐美の時も気がついたら縛られていたんだっけ。

「お兄ぃ、まだ分かってなかったの? さっき言ったじゃん。祐美さんが勝てばお兄ぃは祐美さんのもの。
 あたしが勝てばお兄ぃはあたしのものって。祐美さんが勝っても奪い返しに行くつもりだったけどね。
 お兄ぃが祐美さんを縛り付けておいたって聞いて安心したよ。これで邪魔者は入らないからね。
 これからは毎日あたしがお兄ぃの世話をしてあげるからね。
 これからはあたしだけを見て、あたしだけを愛してね。
 あっ、お父さんとお母さんは昨日から入院しているから。これで二人っきりだね、お兄ぃ」

 うーん、随分と嬉しそうに喋るな。妹よ、内容がちょっと怖いぞ。
 いかん…だんだんと意識が――――。



「これからはあたしだけのお兄ぃだよ。あたしだけを見て、あたしだけを愛してね。ふふふ――」