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【眠っている時は天使が誰にでも平等に幸せをくれるって……そう思ってた】

 祐くんがこちらを見てニコニコと微笑んでいる。白いタキシードに身を包んでカッコいい。
あれ?私、両手を広げて何やってんだろ。花束?私……手に小さな花束を持ってる。
泣いているんだ……私、泣いてる。祐くんのタキシード姿を見ながら……。

≪ピピピッ……ピピピッ……ピピピッ……≫

「ん……夢?……あれ、どんな夢だったっけ」
 最悪の目覚めだった。ひょっとすると、目の下にクマが出来ているかもしれない。
ベッドから起き上がると、クラクラ目眩がする。目覚ましを止めると、時計の針は朝6時を
指していた。姿見を覗き込むと案の定、目の下にクマができ、黒髪がピョンとはねた
無残な自分の姿があった。
「洋服のまま寝ちゃったんだ。シャワー……浴びてこよう」
 ふらふらと浴室に向かうと、デニムのパンツと白い半そでのレースシャツを脱ぐ。
「うっ。ベトベトだ」
 寝汗を掻いたのか、しっとりと濡れた下着が肌にまとわり付いて気持ち悪い。ブラジャーと
ショーツを洗濯カゴに無造作に放り込むと、浴室でシャワーを浴びる。
「また、少し大きくなった……」
 自分の胸を下から支えると、ずっしりとその手に重さがかかる。形のよい乳房が片手から
溢れるほどになっていた。男の子には分からない悩みだろうが、胸が大きくなりすぎるのも
考え物だ。肩は凝るし、運動だってやりにくい。何より、昔、さりげなく祐くんに好きな女性の
タイプを聞いた時、胸の大きな子が特に好きって感じじゃ無く、普通でいいとか言ってたのが
とても気になる。

 シャワーを浴びていると昨日の記憶が蘇り、重い不安感が圧し掛かってくる。
「祐くん……」
 昨日の女の子は誰だったんだろう。遠めに見て祐くんとあの女の子はキスしているように
見えた。お下げで眼鏡の女の子。もしかしたら、見間違いかもしれない。たまたま来ていた
親戚の子かも。目にゴミが入って取ってあげていたという可能性もあるし。
「そうよ、何かの見間違い。わたし、祐くんを疑ったりして一人で落ち込んで泣いたり。
そんな事じゃ、本当に嫌われちゃうよ」
 一人で落ち込み、怒り、泣いていた自分が何だか恥ずかしくなってくる。
「私、変な女の子なのかな。直ぐ考え込んだり、妄想したり……オナニー好きでエッチだし」
 シャワーの温水を内腿に近づける。ザーという音の中に、くぐもった吐息が混じる。
「んっ……ちょっとだけ……なら」
 肉襞を激しい水圧が刺激する。水圧で押し広げられた肉襞からぷっくりとしたクリトリスが
顔を覗かせる。ビリビリとした刺激と、ゾクゾクっとした電流が体を駆け巡る。
「ふぁっ、んんっ……んっ、い……それっ……そこ、いいっ」
 右手で左乳房の乳首を摩擦し、抓る。激しく指先が上下に動き、乳首がツンと勃起してくる。
それを指先で弾き、乳輪を親指でこねくり回す。
「ごめんっ、疑ったりしてっ、んっ、だから、ふぁっっ、好き……好きぃ…してくださ……い
……祐く……っっ!」
 トロトロした愛液が水とは違った感覚で太ももに絡み付いて、気持ち悪い。
タオルでふき取るが、まだ感じているのか、膣内からまた新たな湿り気が溢れてくる。
「また、やっちゃった…………自己嫌悪……うぅっ、……反省」
 行為が終わると、いつも罪悪感が襲ってくる。こんなエッチな女の子じゃ祐くんに
相応しくないんじゃないか、という自責の念だけが心を支配する。。
「早く、用意しよう……」

 今日、早く目覚まし時計をセットにしたのには、ちょっとした理由があった。
祐くんは両親が共働きのせいか、毎日学食か購買部のパンを購入している。
だが、水曜日は4時間目が体育の授業の為、どうしても他の生徒よりも一歩出遅れてしまい、
人気のパンや限定数の定食などは食べられない。そこで、わたしはそれを理由にその日だけ
祐くんにお弁当を作っていた。そうとでも理由をつけないと、祐くんは恥ずかしいと言って
絶対お弁当は受け取って貰えないからだ。
「泣いて、落ち込んで、寝たわりにはちゃんと目覚ましセットしてるし。習慣て恐ろしい」
 エプロンを付けて腰まである髪を後ろゴムで縛り、ポニーテールにする。料理をする時の
わたしのスタイルだ。
「祐くんを疑った罪滅ぼし。うん、今日は頑張って作ろう」
 祐くんの好きなおかずをたくさん作る。ピーマンの肉詰め、卵焼き、ポテトサラダ。
「今日はお弁当に愛のメッセージでも入れて見るかなぁ」
 ご飯に海苔と桜でんぶでハートメッセージでもと考えたのだが、ここで手が止まる。

《距離を置いて付き合わないか》

 昨日の祐くんの言葉。自分でも少しは遠慮しないと。
「友達の前であからさまにそういう事するのは……やめよう。………んー。うーん。
…………そうだ!」
 ご飯の部分に隙間を空け、6本のウインナーを並べる。焼き串でそこに
《I LOVE 祐》の文字をつけた。
 その上に、ご飯とウインナーを覆うように海苔でそれを隠す。
「お弁当のノリを食べると、ウインナーからメッセージが出るようにしてみました」
 自画自賛ぽく、ガッツポーズをとる。これなら、友達にもばれないですむ。
祐くんだって、喜んでくれるだろう。これを見たときの祐くんのリアクションを
想像すると、おかしくて笑みがこぼれる。
「えっと、最後の仕上げ」
 お弁当に入れる、お箸の先をペロリと嘗める。
「えへへ……間接キス。」
 この位は許されるよね。

「ちょっと、忍。そろそろ学校に行く時間じゃない?」
「えっ。あ、もう、そんな時間!?」
 母さんの声で現実に引き戻される。多分、今のわたしを他人が見たら、完全に引くだろう。
この妄想癖、何とかしないと……。残ったウインナーと卵焼きをあわてて口にほお張り、
2分で歯磨きを終えるとわたしは陸上選手並のダッシュで家を飛び出した。


「おはよっ」
「あっ、うん……おはよう」
 学校に行く途中、わたしは祐くんの家に寄る。わたしの家の方が学校に遠い為、
登校は必ずこの順番になる。
そこから二人でバス停まで向かい、学校前までバスに乗るのがいつものコースだ。。
「はい、お弁当」
 わたしは作りたてのお弁当を祐くんに手渡した。学校で手渡しても良かったんだけど、
そこはわたしの祐くんへの配慮というやつだ。
「忍……いいのに」
「遠慮しないでいいよ。これはお昼にコッペパンしか食べられないであろう、
可哀想な祐くんに対するわたしの配給なのさ」
 ちょっとふざけた口調で祐くんに甘える。
「ほら……いつも悪いし」
「ふふん。たいした物なんか作って無いから安心したまえ。どうせ、がっついて
ろくに味わいもしない人に、手の込んだお弁当なんかもったいない」
「……そっか。じゃあ貰っておくよ」
 あれ?ノリが悪いなぁ。いつもなら、どうせ美味しくないだから味わうなんて
無意味だよ、とか返してくるのに。

 バス停までの間、さりげなく祐くんと手を繋ぐ。祐くんの手から温もりが伝わってくる。
それは、わたしと祐くんの絆の証し。そうしている時間が、わたしは一番好きだ。

 お昼になった。高校で別のクラスになっているわたしと祐くんは、校舎の端と端で
かなり距離がある。しかも、今日はグラウンドにいるはずだから、会うにはかなりの
労力が必要になる。
「屋上での一緒のお弁当。今日は来るかなぁ」
 祐くんにお弁当にを渡した時は、屋上でよく一緒に食べていた。ただ、他の生徒に
見られるのを極端に嫌がる祐くんは、誘っても2回に1回しかOKしない。まして、
昨日のあんな事言った後だから、来る可能性はほぼゼロに近いと思う。
「でも、反応みたいなぁ。どんな顔して食べているんだろう」
 わくわくしながら屋上でお弁当を食べていると、お昼休みも後10分になった。
「よし、顔だけでも見に行こう」
 自分のお弁当箱をバックに仕舞うと、祐くんクラスへと足早に向かう。
「あの、立花くんはいますか?わたし、A組の如月っていいます」
「いないよ。そういえば、今日は昼休みずっといないなぁ」
 そう言われて教室を覗くと、確かに祐くんの姿はそこにはなかった。
「……あっ、そうですか。ありがとうございます」
 軽く会釈をすると、帰ろうとする。

「忍……」
 振り向くとそこには祐くんの姿があった。手にはわたしのお弁当箱を持っている。
「今日、外で食べたんだ。屋上には……来なかったね」
 誰にも聞かれないように小声で話す。
「……あぁ」
「で、感想は?」
「え、うん。美味かったよ。俺の好きなものばかりで。ピーマンの肉詰め、卵焼き、
ポテトサラダ。どれも忍にしては上出来だった」
「……それだけ?」
「……ん?なっ、何だよ、それだけって」
「……いい……何でもない」
 わたしは軽くなったお弁当箱を手に取ると、とぼとぼと肩を落としてクラスに向かった。
途中でトイレに寄って便座に腰かけると、深いため息をつく。
「……馬鹿……鈍感……ちょっと位、感動してくれてもいいじゃない」
 リアクションを期待していたわたしは、あまりのリアクションの薄さにがっかりしていた。

《ねぇ、今日、見た?立花君》
 トイレの外で女子の声がする。立花君って、言っていたような。
《A組の如月っていう人と付き合っているんじゃなかったの?》
《中庭で三井さんとお弁当食べてたでしょ》
「!?」
《あんな子とお弁当箱食べるんなら、私も誘えば良かった。A組の如月と付き合って
いるって聞いてたから諦めてたのに》
《如月って、結構男子に告白されているっていう美人でしょ》
《そうそう、今日もさっき来てたわよ》
《それより、立花君。その如月から貰ったお弁当平気で返してたけど、あれの中身、
ごみ箱に捨ててたわよ》
《えっ、それマジ?》
《私、見ちゃった。中庭のごみ箱にお弁当捨てて、そこにお弁当箱隠してた》
《それ、本当ならちょっと幻滅。酷いことするのね》
《本当も本当。だってその後、その子のもって来たお弁当食べてたもん》
《あっ、午後のチャイム鳴っちゃった。早く行こ》

「…………」
 嘘だ。
「…………」
 何言ってるの。そんな事ある訳無い。
「…………」
 祐くんが、祐くんが、そんな事するわけないじゃない。
「…………」
 だって、今日も手を繋いで来たんだよ。お弁当渡して。

「そんなのっ、嘘に決まっているじゃないっっ!!」

 トイレのドアを力一杯殴る。ガンッという音がトイレに響き渡った。その拍子に
空のお弁当箱がタイルの床に転がる。そして、お弁当箱の蓋が開いた。全く何も入っていない
空のお弁当箱。
「何も……入ってない……?」
 わたしはそれに違和感を感じる。おかずを分けていた仕切り紙、中に入っていた楊枝。

【全部入ってない】

 私は誰もいない廊下を全速力で走った。中庭のごみ箱を見るために。例え1%でもいい、
あの女の子達の話を、わたしの不安を裏切ってと祈りながら。誰もいない中庭に置いてある
ゴミ箱の中を確認するために。

他のゴミと一緒に。

《それは……あった……》

 蟻が群がっている。ぐちゃぐちゃになったそれは入っていた。慌ててご飯をかき分けると、
6本のウインナーが現れる。
「……駄目」
 そのウインナーを拾い上げる。
「食べちゃ駄目……」
 群がっていた蟻を払い落とす。
「食べちゃ駄目って言ってるでしょっ!これはっ、祐くんのなんだからっ!」
 両手ですくい上げた6本のウインナー。それを大事に抱え上げる。
「汚れちゃった。奇麗にしなきゃ。祐くんにこのままじゃ食べて貰えない」
 口元に汚れたウインナーをもって行く。
「奇麗にしなきゃ……ね」

《…………ぴちゃっ》


「……忍、先に帰ったんじゃなかったのか」
 わたしに祐くんが話しかける。そう、わたしの祐くんが来た。
「今日は委員会で遅くなったから、祐くんを待ってたんだ」
「手、どうしたんだ?」
 包帯の巻かれたわたしの手を見ながら、祐くんが心配してくれる。
「ぶつけて怪我したの。心配しないで。たいした事ないから」
「そっか……悪いな……あの、忍……実は、俺さ……」
「気にしないで。ねぇ、何を謝っているの?それより、今日は部活でお腹減ってない?」
「そりゃ、サッカーやってりゃお腹は減るけど……」
 私は包みに大事にしまっておいた≪それ≫を差し出す。
「残りで悪いけど、祐くんウインナー好きでしょ?」
「……あぁ、好きだけど」
「あげるね。もったいないから食べて」
 楊枝に刺した一本のウインナーを祐くんに差し出す。
「これ、何で焦げ跡で数字が書かれているんだ?1とか0とか」
「何でかな。気にしないで食べて。美味しいよ」
 わたしは、1本のウインナーを口に頬張る。
「……サンキュ。もらうよ。折角だしな」

 わたしはウインナーを飲み込んだ。祐と書かれたウインナー……美味しいよ。




【眠っている時は天使が誰にでも平等に幸せをくれる】

 ……全く……本当に当てにならないね……早く起きなきゃ。



【おしまい】