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「立花君、ちょっといい?」
 三井が声を掛けて来たのは、3時間目が終わった後の休み時間だった。三井とは高校に入学して、
同じクラスメートという以外は、あまり面識がない。ショートボブの髪に赤い眼鏡。クラスの中でも、
目立たない生徒だ。クラスの委員長をやらされているのも、投票でそれっぽいからという理由で三井に
なっていた。
「放課後、相談に乗って欲しいんだけど」
 俺に相談?意外な申し出だ。もっといい、適任者ならごまんといるぞ。横に座っている
秀才の石井なんかどうだ?俺が答えられるアドバイスの2倍はいい情報を持っていると思うが。
「う~ん、彼じゃちょっと駄目ね。これは立花君じゃないと解決できないことだから」
 そうなのか。俺は放課後に用事があるんだがと、やんわりと拒否反応を出す。
「直ぐに終わるわ。そうね。一時間位かしら」
 どうしても今日じゃないと駄目なのか?
「お願い。なるべく早く終わらせるから」
「……わかったよ」
 俺がそう言うと、本当にありがとうと言い残し、三井は席に戻って行った。どうせ、プリント
運びだのそういった類いの力仕事をしてくれという相談だろう。クラスで一番暇そうにしてたからなぁ。


「祐くん、優しすぎるよ」
 やっぱり。予想通りのリアクションが返ってきた。そうは言ってもな、もう引き受けたんだから
仕方ないだろ。忍はほっぺたをぷぅっと膨らませてすねている。月曜日の昼休み。普段は一週間に
一度、水曜日のみ作ってくる手作り弁当を、今日は特別に作って来てくれた。忍が特別に
弁当を作ってきた理由は、今日の午後からの予定にある。屋上で俺は忍の弁当を食べながら、
これまでの経緯を説明していた。
「クラス委員長直々のご指名だからな。ちょっと遅れる」

 はぁ……と、わざとらしく大きなため息をついて、忍がこちらを睨んだ。
「テストが終わったら、部活は1日休みになる。そうしたらカラオケに付き合ってもいいって
言ったのは、祐くんの方だよ。もしかして、サッカーのヘディングをやり過ぎたせいで、
若年性痴呆症にかかっちゃったのかなぁ?」
 いや、俺、まだ高校生なんですけど。
「午前中からウキウキして、午後のカラオケを楽しみにしていたのに台無しだよ」
 だから、悪いって言っているだろ。
「……チョコレートパフェ、3回分」
 マジ?それはきついだろ。せめて1回にしろ。
「じゃあ、間を取って4回」
 増えてる。よし、俺がいい案を思いついた。これから先、忍とは一生カラオケには行かない。
そうすれば、チョコレートパフェをおごらずにすむ。
「……ずるい。もう……1回でいいよ。その代わり早く来てね」
 忍が甘い声を出した。こうなったら、俺の負けだ。
「あぁ……わかった、終わったらダッシュで行く」
 照れ臭い。全く、女はこういう時、得に出来ている。

 忍とは小学校以来の腐れ縁だ。小学校の時は目立たない眼鏡の女の子って感じだったのに、女って
言うのは恐ろしい。いつの間にやら、美人になっちまった。腰までのサラリとした黒髪。切れ長の目。
眼鏡も外してコンタクトになった。正に、変身前、変身後という感じだ。まぁ、そこまでなら何処に
でもいる美人なんだが、問題はその体型だ。
「忍、またでかくなっただろ」
 忍はさっと胸を隠す。最近、忍をからかうのは大抵、この話題だ。
「……ううっ」
「何食ったらそこまで大きく育つんだ?」
「……くっ!」
「脳に行く栄養がそこに集まっているとしか思えん」
「……ばっ、馬鹿、エッチ!」
 忍が俺から食いかけの弁当箱を取り上げて、走り去った。やべぇ、鳥の唐揚げ、最初に食べて
おくんだった。

 放課後、掃除が終わった後、俺は三井を待っていた。クラスにいる生徒は、もう数人しかいない。
テストの結果を悲観するもの、好成績に歓喜するもの、どちらもテストという嫌なものから解き
放たれた開放感で足早に学校を後にする生徒が多かった。
「遅いな。三井……」
 教室に残っていた最後の生徒がいなくなる頃、三井は教室に入ってきた。
「ごめん。待たせてちゃった」
 これでカラオケハウスに行くのは、更に15分は遅れそうだ。こりゃ、今日のカラオケ代も折半って
訳にはいかないだろうな。
「先生がプリントの原本をなかなか用意できなくって」
 やっぱり、コピーとそれを運ぶ役目か。
「自分一人じゃちょっと無理だから。立花君、早速お願いね」
 やる事さえ分かっていれば、後は簡単だ。それを完遂するために一生懸命働けばいい。

 40分程で全ての作業は終わった。こんなに一生懸命動いたのは、サッカー部でもそうはない。
「凄い。もう終わった……」
 そりゃそうだ。今月の俺の小遣いが大ピンチだ。カラオケハウスには、こういう時だけ小悪魔になる
忍が手ぐすね引いて待っている。
「本当にお疲れ様。これ、食堂で買ってきたジュース。先生のおごりだから、遠慮しないで」
 サンキュ。でも、俺には落ち着いてそれを飲んでいる時間は無いんだ。じゃあな、アディオス、
ごきげんよう。

「では、本題の立花君への相談をするわね」
 一瞬、教室の空気が凍りついたように感じた。おい、今、何とおっしゃいました?冗談にしても
笑えないんですけど。
「立花君じゃなきゃ解決出来ない相談をしたいって、言ったはずだけど」
 いや、確かにそうだけどさ、これ、普通の流れだと、今までのプリント作業だって思うだろ。
「こんなの勉強だけが取り得の、石井君にだってできるじゃない」
 にっこりと微笑んだ三井は、俺の顔を覗き込んでそう言った。それ、ひでえよ……三井。
石井、泣くぞ。
「それで相談って何だ?手っ取り早く頼む。忙しいんだ」
「ねぇ……立花君ってA組の如月さんと付き合っているの?」
 はぁ?なんだそりゃ。それの何処が相談だよ。俺に対する質問じゃねえか。
「それはお前に関係ないことだろ」
「大いに関係する事なんだけど。単刀直入に言うわ。私と付き合わない?」
「悪いな。俺、帰るわ」
「如月さんが美人だから?眼鏡ブスには興味が無いって事かな」
 三井、女だからって言っていい事と悪い事がある。俺が忍と付き合っているのは、顔とか関係ない。
告白は嬉しいけど、お前とは付き合えない。
「そう。でも、女は変わるの。それが好きな人の為なら」
「……えっ」

 目の前にいる少女に、俺は一瞬、息を呑んだ。眼鏡を取り、ボブショートの髪を掻き揚げた三井。
間違いなく、美少女だった。それも、並大抵のレベルじゃねぇ。モデルって言ったって、普通に
納得するレベルだ。
「中学時代からうっとおしい男子を追い払うために、こうやってカモフラージュしてる。わざわざ
ソバカスとか描いてるの。さっきはごめん。立花君が女の子を顔で選ぶような人ではないって
知ってて、ワザと言ったの」
 なら、俺がその美人の素顔を晒したって、関係ないって知ってるだろ。
「知ってる。立花君には隠し事の無いようにしておきたかっただけ」
 その顔なら、俺よりもずっとマシな男が幾らでも見つかるぜ。じゃあな。
「……そう。やっぱりね。どうしても駄目か……」
 ちょっと可哀想な気もするが、俺は二股かけられるほど器用じゃない。急いで教室を出ようと
すると、三井がまた声を掛けてきた。
「ここで立花君が帰ると、如月さん、学校を辞める事になるわよ」
 おい、今、なんて言った?
「この学校のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のコミュニティに、今日如月さんの
あるファイルが流れる。そのファイルが流れたら、如月さんは終わり」
 いい加減な事言うなよ、忍が学校を辞める事になる?冗談はよせ。
「嘘だと思うのなら、これを聞いてごらんなさい」
 三井がイヤホンを差し出した。渋々、そのイヤホンを耳に差し込む。
「!?」


≪祐くん、テスト勉強って言ったって、真面目にやりすぎじゃないのかなぁ。仮にも彼女が自分の
部屋に来ているっていうのに、3日間手を出さずに終わりって信じられないよ≫
 これは……。耳から聞こえてきたのは、確かに忍の声だ。
≪今日で祐くんとの勉強も終わり……。はぁ……寂しいよ。う~ん、買出しってどの位かかるんだろうね≫
 明瞭に聞こえる音声が断続的に流れている。
≪これ、祐くんのシャツかな。……ん~いい匂い。祐くんの匂いがする≫
 やめろよ。何でこんなのがあるんだよ。
≪…………んっ≫
 そこから暫く、忍の声は聞こえ無くなった。微妙な衣擦れの音だけが微かに聞こえる。
≪んっ……あっ、祐くぅん……これ、祐くんが……ぁんっ……使ってたシャーペン……≫
「消せよ……」
 静まり返る音の中に、淫音が聞こえてくる。
≪ちゅくっ……ぬちゅ……駄目ぇ……祐くんの部屋で……くちゅっ……こんな事……あっ、ぁっ、んっ≫
「消せって!」

 俺は耳からイヤホンを外した。そして、三井を睨みつける。
「お前、俺の部屋に盗聴器仕掛けたのか?」
「知らないわ。ただ、サッカー部のある人が私に面白いファイルがあるって、持ってきてくれたの」
「聞いたらビックリ。オナニー大好き少女の声が延々と続いているじゃない」
 俺の家に遊びに来たサッカー部員……何人もいるな……。
「お前、サッカー部員を……誰だそいつは」
「妙な言いがかりだけはやめてね。さて、ここで立花君だけにしか出来ない相談。このファイルを私が
何とかするから、立花君も私のお願い聞いてくれない?」
 脅迫するのか?忍の痴態を収めた音声ファイルをチラつかせて。
「何もそんな酷い事言うわけじゃないわ。3日だけ。そう、3日だけ立花君の彼女にしてよ」
 そんな気持ちになれる訳無いだろ。お前が女じゃなければ、とっくに殴っているところだ。

「なら、ここで相談は終わり。でも、もっと凄いファイルがあるかも……映像ファイルなんてあったら、
私なら恥ずかしくて死んじゃうかもね」
 おい、まさかそんなものまで、あるんじゃないだろうな。
「立花君が3日我慢してくれれば、私が全部何とかする。そうね、でも、立花君も可哀想だから
彼女って言ったって限定でいいわ。3つだけお願いを聞くだけでいい」
 そこまで俺だって馬鹿じゃない。そんなやばい事、承諾できるか。
「疑り深いのね。じゃあ、動詞限定ならどう?拾ってとか、そういうのだけ」
「本当にそれだけなのか」
「勿論、私と居ない時は如月さんと会ってもいいわ。私とは1日1時間だけでいいから」
「本当にファイルは何とかするんだな」
「約束は守るわ。私だって立花君が好きなんだし。そこまで嫌われたくない」
「それなら……3日だけなら。お前の要求を飲んでやる。その代わり、3日経ったら、もう2度と
俺に話しかけるな」
「はぁー。私だって大変なのに。ちょっと位は役得が欲しいなぁ」
「用事はそれだけでいいんだろ。俺はもう行く。明日からでいいんだろ」
「今日からでもいいわ。しかも、今日だったら10分だけでいい」
 10分だけか?1時間じゃなくて。嘘じゃないのかと、もう一度聞きなおす。
「そう、10分だけ。立花君、とっても忙しそうだし、手伝ってくれたし。でも、約束は守ってね」
「俺はどうすればいいんだ?」
「そうねぇ。じゃあ、そこに立ってて」
「立ってればいいのか?それだけ?」
「そう。その代わり、絶対に動かないでね」
 10分立っているだけ。簡単じゃないか。何なんだ。こいつ。
「いいぜ。そのかわり10分きっかりだ」

 俺は指定された場所に立った。何だか変な感じだ。悪い事をして教室に立たされているみたいな。
そして、三井が俺の前に立つ。
「立たされているんだから、直立不動でお願いね」
「ああ、わかっている。今ならどんな地震が来ても10分間は動かない自信がある」
「……立花君。私、今日如月さんと一緒の香水つけているって知ってた?」
 そう言うと、三井が目の前に立ち、顔を近づける。思わず顔を背けるが、三井の唇が頬に触れた。
「もう、雰囲気も何も無いのね。まぁ、唇は如月さんのものなんだろうから、許してあげる。でも、
今度動いたら、もう本当にこの話は終わりだからね」
 くっ、俺としたことが。でも、不幸中の幸いだ。もし、三井にもう一度立っててという要求を
されたら絶対拒否だ。
「唇はあげるわ。でも、こっちは……動いちゃ駄目だからね」

 三井が両膝をついた。髪の毛の匂いが鼻腔をくすぐった。そういえば、忍と同じ匂いがする。
「後、7分」
 突然、三井が俺のチャックを降ろした。馬鹿野朗、何しやがる。
「結構、大きいんだ。立花君……彼氏で、立花君も変か。祐って呼び捨てにしよ」
「くっ、何してる……」
≪ちゅぷ、ちゅっ、……レロレロ……祐……おっきい≫
「お前、ふざけるなっ、よ」
≪後、5分……ちゅっぱ、ちゅっく、……ぴちゃ、ぴちゃぴちゃ≫
 三井がその小さな唇を俺の咽頭に這わす。陰茎と亀頭と尿道に唾液が溢れ、舌先が上下に往復した。
「うっ、っく」
 先ほどの忍の声がまだ耳に残っている。それに、三井の香水。まるで忍にやられているような錯覚
に陥りそうだ。
≪後、3分……んっく、んっく、ちゅっちゅ、んんっ、んく……祐、すっごく大きくなってきた≫
 自分で呼吸を整えようとするが、それが無意味だって悟る。こいつ、凄く上手い。
≪後、1分……んっんっ、んっんっんっ……ぷはっ、もう、我慢しないでいっちゃっていいのに≫
 後30秒、後15秒、俺は頭で数を連呼して、その刺激に耐える。くそ、絶対、思い通りには
させない。
≪んっんっ……ちゅっ。時間切れか。凄いね、祐≫
 大きくなったそれを名残惜しそうにズボンにしまうと、三井は立ち上がった。
「もう、10分か。早いなぁ」
 もう、直立不動は無しだ。いいな。三井。
「祐がそう言うなら、もう無しにしてあげる。じゃあね」
 俺はその言葉を聞き終わる前に、その場から全速力で走り出し学校を出た。


「あっ、祐くん。来た来た。もう、始めちゃってるよ」
 忍がカラオケハウスでニコニコしながら話しかける。さっきの事は幻だったのか?俺は、生返事を
繰り返していた。
「もう、さっきからわたしばかり歌わせて。喉がカラカラだよ」
 とりあえず後2日。俺が我慢すれば、この話は終わる。でも、忍にその事を悟らせては駄目だ。
忍は見た目しっかりとし、強いようだが実は心が脆い部分もある。だから、三井との事は絶対に
悟られないようにしないと。
「なぁ、忍。ちょっと話があるんだ」
「何?チョコパフェおごるの無しっていうのは、駄目だからね。約束なんだから」

≪あのさ、俺たち少し距離を置いて付き合わないか≫

 そうだ。後2日は距離を置こう。なるべく悟られないようにするには、一番いい。
「えっ?あ……うん」
「俺さ、ずっと忍の事大切な友達だと思っているから。それに、忍は美人だし頭もいいしさ。俺も
羨むくらいの女の子だから、大丈夫」
 忍は少しショックを受けたようだ。すまん、2日経ったら元に戻る。それまで、我慢してくれ。
俺はその後、悪いと言ってカラオケハウスを出た。忍の笑顔を見ているのが、何より辛かった。

 次の日。三井の要求は夕方の1時間だけのデート。携帯電話の電源を切ってくれというもの。
その翌日は昼の1時間、手作り弁当を一緒に食べて欲しいというものだった。ただ、三井は
最終日のこの日、俺が持ってきた忍の弁当を捨ててという願いをした。最後の思い出に弁当を
食べるのに、忍の弁当だけは目の前で見たくないという理由だった。俺は断固抗議をしたが、
最後だからと涙目で訴えられて、渋々要求を呑む事になった。
「今日で終わりだ。例のものはどうなんだ」
「そっか、残念。もう、最終日かぁ。早いね。もうちょっとだけ延長する?」
 冗談は顔だけにしろよ。俺は三井を睨みつけた。
「酷いなぁ。祐の盗聴器はもう使えないし、ファイルも全消しして貰った。もし、そのファイルが
出てくるようなら、その人訴えてもいいよ。私も証言してあげる」
 そうか。なら、お前とはもう終わりだ。二度と話しかけるな。
「了解……。じゃあね」
 俺は何も言わず、足早に校舎に戻る。隠しておいた弁当を抱え、忍に返そうと誓う。そして、たくさん
遊ぼう。友達宣言を撤回して。


「…………恋人ゴッコも終わりね」
 中庭に三井が立っている。眼鏡を外し、髪を掻き揚げた。
「ねぇ、いる?」
 そう言うと、二人の少女が三井の横に現れた。
「私は祐との約束で何も言えない。でも、あなた達は違うわよね」
「……あの、例の件は……」
「あぁ、貴方達の事?勿論、内緒にしてあげる。私を裏切らない限りはね。そうそう、最後の命令。
如月に弁当の事さりげなく伝えてくれない?あのゴミ箱にあるってね」
「……わかりました」
 二人の少女が慌てて、校舎に戻っていく。

「祐。確かに如月のファイルは処分してあげた。約束だからね。でも、あの時、鞄から撮影していた
ビデオ。そっちは約束の対象外。有意義に使わしてもらうわ。あの時、気がつかなかった?
中学生の時、祐に告白して無残に振られたあたしの事。折角、本当の顔を出してあげたのにね。
気がついてくれれば、祐のおもちゃを壊すまではしなかったのに……残念ね。本当の地獄は
これからよ」
 クスクスと笑いながら、三井は嬉しそうに校舎に戻っていった。


【おしまい】