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233 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:15:15 ID:bxuyQO3U
***

『二月十六日 曇りのち雨 降水確率八十パーセント

 アタシと彼の同棲生活一日目。
 彼ったら、新しい家で暮らすのが嫌だって言うの。
 今まで住んでいた家の方がいいんだって。
 そんなこと言ってえ。本当はアタシがお願いしたらノーとは言えないくせに。
 彼はとっても疲れているみたいだったから、早速ベッドに寝かせてあげた。
 そうしたら、口ではなんだかんだ言いつつ、ベッドの上で大人しくなった。
 彼はずるい。そんな無防備な状態を見せるなんて、アタシを惑わすつもりかしら。
 据え膳食わぬは女の恥。
 当然体の隅から隅まで、じっくりねっとり味わわせてもらいましたとも。
 具体的に言えば、シちゃいました。合体、連結、ドッキング、フュージョン、みたいな。
 いやあ、はしたなくも学校でシたのも加えれば、一日に十回以上として、とっくに三十回は越しちゃった。
 少ないと自分でも思う。
 彼は性欲漲るぎらぎらした十代の高校生だから、もっと多くたっていいはず。
 でも、十四日は初めて一緒になれた感動で泣いちゃったからあまりできなかったし。
 十五日は授業に出て、さらにお義兄さんと談笑してたから時間がとれなかった。
 今日だって、彼を家まで連れて行くのに手間取ってしまって、家にたどり着いたのは正午をちょっとすぎたぐらい。
 ごめんね。アタシの友達、時間にルーズだから。
 まあ、車を出してくれるだけありがたいんだけど。
 明日は彼を連れて、また友達の車で移動。
 もうすぐ、彼の育ったこの町から離れられる。邪魔者は足跡を辿れなくなる。
 アタシの夢は、もうすぐ叶う。
 これからの一生、好きな人と二人っきりで暮らしていける。
 それを、誰にも邪魔なんかさせない。
 特に、あの金髪の悪魔には。    』

「今日の分は、これでよし」
 日記帳を閉じて、留め金具をはめ、誰にも見られないよう南京錠で鍵をかける。
 自分一人が読むだけの、同年代の女の子たちがよくやる日記。
 鍵がついてるから見た目は無骨だけど。
 これでも小中と学校に通ってきたから、宿題として日記を書いたことはもちろんある。
 けど高校生になってからは――――というか、あの事件の後からは、自分だけのために書いたことは一度もない。
 書くことがなかったわけじゃない。めんどくさかったわけでもない。
 彼を好きになってからは、書きたいこと、不満に思ったこと、嬉しかったことがいっぱいあった。
 ただ、それを書けなかった。
 自分のことを書こうとするたびに、あの男に犯された記憶が蘇って、気持ち悪くなってしまう。
 今、日記を書けているのは、彼の愛のおかげ。
 彼に抱かれてから、あの男の記憶が薄れた。
 きっと、彼が記憶を上書きしてくれたんだ。
 そうじゃなきゃ、こんなに体が軽くて、幸せな気持ちになんかなれないもの。
 なんだか若返ったみたい。
 いやいや、実年齢だって十分若いけど、そういう面のことじゃなくて、精神的に。
 自分が世界で一番幸せとか、自分が世界の中心にいる、みたいに思えるようになった。
 そういうこと考えてたのは、小学から中学入りたての時期だった。
 それが、高校生になった今頃そう思えるようになったのは、やっぱり。
「彼が、アタシの、アタシだけのものに………………」
 あー、もうダメ。
 叫ばずにはいられないって。歓喜しないわけないって。机だってバンバン叩いちゃう。
 アタシ、彼のお嫁さんになったんだ。彼には、アタシだけしか頼れる人居ないもんね。
 本当は彼からプロポーズされたかったけど、状況が状況だから仕方ない。
 アタシに告白されて、過程はどうあれ彼はアタシを抱いてくれたんだから、オーケーの返事をもらったようなもの。
 それに、たっぷり中に注いでもらったから、子供だってできちゃうかもね。



234 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:16:23 ID:bxuyQO3U
「…………そう、だったらいいな」
 でも、望みは薄い。
 あの男に犯されて、一回だけ堕ろしたことがあるから。
 考えないようにしてたけど、やっぱり子供をつくれないかも、っていう不安は堪える。
 彼に申し訳ない。そりゃ、簡単に妊娠なんてしないものだけど、いつまでも身ごもれないのはアタシが悪いんだと思われそう。
 こんな体になった原因はアタシにはないけど、その原因を彼に話していない以上、アタシの責任に思われてしまっても仕方ない。
 でも、これから打ち明ける気にはなれない。
 彼に嫌われたくないし、それに――――過去は過去だから。
 アタシが努めるべきことは、彼の心の奥の奥まで、彼の体の隅から隅まで、アタシの色に染めること。
 真心の籠もった『愛してる』を言わせること。
 絶対に、言わせてみせる。
 アタシは、彼と一緒に幸せになりたいんだ。

「う……ぁ……」
 あ、彼が起きたみたい。
「ううう…………い、やだ……こんなの」
 なんだかうなされている。
 四肢をベッドに縛り付けているのが原因かな。
 でも、この方が色々都合がいいから、許して欲しい。
 あなたの身の安全を守るためには、アタシの目が届く位置に居てもらう必要がある。
 外に出たら、怖い怖い金髪のホルスタインや、畜生みたいに血の繋がりをあっさり無視する妹さんと遭遇しちゃう。
 それに、それに…………アタシ、縛られてるあなたが好きなの!
 動けないあなたを犯してるのに、実はあなたに体を貫かれて犯されている、っていうのがいい。
 あなたの方からアタシを求めてくれれば、こうする必要なんかないんだけど、ね?
「こんな、つもりじゃ…………なかったのに、ごめ……ん」
 それにしても、どんな夢を見ているのかな?
 なんで謝ってるの? 
 その言い方は何かやらかした人間のものでしょう。 
「僕は、僕が…………本当に、好き……のは…………」
 あら。あらあら?
 寝言で告白するつもり?
 理想とはほど遠いシチュエーションだけど、好きだと言ってくれるならば甘んじて受け入れましょう。
 ふふふ――――さあ、打ち明けなさい。ドーンと!
「は、なび…………だから、ごめん」
 ……あのー、花火をドーンと打ち上げてほしいわけじゃないよ。
 違うでしょ。あなたが言わなきゃいけないのは、あたしの名前。
 忘れちゃった? なら思い出させてあげる。
「僕は、澄子ちゃんが好きだ。澄子ちゃんが最高に好きだ。澄子ちゃんが欲しい。アイウォント澄子。
 澄子ちゃんを抱きたい。澄子ちゃんのためなら死ねる。愛してる、澄子!」
 さあ、つられて言ってしまいなさい。
 アタシのことが好きだと!
「助けて、花火、にいさん…………」
 忌々しい金髪女の次は、先輩?
 先輩は助けになんか来てくれないよ。
 今頃は誰かに発見されているだろうけど、アタシの跡を追うことは不可能。
 先輩はアタシの家がどこにあるのか知らない。行き先なんかもちろん教えていない。
 理想郷? そんなもの、どこにもない。どんな場所にでも人が住んでいる限り悪意は潜んでる。
 でも、たった二人きりの場所だったら、その限りじゃない。
 彼さえいれば、アタシにとってはどこだってユートピアになる。
 そう思っているのに、あなたはアタシ以外の女にしか興味を抱かない。
 告白しても、アタシの気持ちを疑って、気のある素振りを見せない。
 たとえ夢の中でも、アタシの割り込む隙間を作らない。
 徹底的に、拒み続ける。
 そんなことされたら、いつまでもあなたを好きなままのアタシは、強引な手段をとるしかないじゃない。



235 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:17:52 ID:bxuyQO3U
 彼の頭の左右に手をついて、上から覆い被さる。
 まだ彼は気付かない。眉根を寄せて眉間にしわを寄せている。
 なんだかなあ。この体勢の時にそんな顔をされたら、アタシにのしかかられるのを嫌がってるみたいで、気分が悪い。
「悪い子には、おしおき……」
 右手で彼の顔を正面に。何度見ても可愛い寝顔。
 見るだけで、うずうずして抑えが効かなくなる。
 頬が熱くなって、眠りの魔法をかけられたみたいに目がトロンとして、夢中になってしまう。
 目を逸らせない。
 でも、今は逸らさなくてもいい。以前とは違うんだから。
 同じクラスで、遠目にあなたを見ている時は、あなたと目があったらすぐに目を逸らしてた。
 片思いをしているに過ぎないアタシには、そうするのが精一杯。
 それが今じゃ、あなたの命を握るまでの立場になっている。
 生殺与奪――――生かすも殺すもアタシ次第。
 たまらない。ゾクゾクする。こんな幸福感、普通じゃ絶対に味わえない。
 手を繋いでデートしたり、ムード満点の場所で愛を囁かれることに、憧れなかったわけじゃ、ないけど。
 それ以上に、あなたを独占できる今の状況は最高。
 やっぱり、アタシはどこかがおかしい。世間からズレている。
 いつからおかしくなっていたか。
 あの男に乱暴された時から、じゃない。
 あなたに出会った瞬間から、でもない。
 きっと、あなたを好きになった時からだ。
 そして、それからあなたの身は危険にさらされていた。
「自分で言うのもなんだけど…………きっと、アタシに出会ったことがあなたの不幸だったのよ」

 彼が目を開けて、アタシを見る。
 アタシは、彼の目の色が変わる前に、アタシへの拒絶を浮かべる前に、目を閉じて彼の唇を奪った。
「む……っあ、やめ…………」
 顔を逸らそうとしても無駄無駄。
 どのみち、アタシからは絶対に逃げられないよ。
「ん、ふ……ぁ……ん…………あっ……ん、ふふふ」
 舌を絡め、彼の体に抱きついて、股間を撫でる。
 縦に動かしたり、こねたり、握ったりしていると、だんだん固くなってきた。
 それはアタシの行動を許可してくれた証拠。体は嘘をつかない。
 彼は徐々に、しかし確実に、アタシの唇や匂いに反応しはじめている。
 知覚した時には、快楽を味わえる、と。
 いわゆる条件反射だ。
 そういうのも悪くない。
 数を数えれば、彼がどれくらいアタシの色の染まっているかの度合いが分かる。
 うふふ、ふふふ。
 あははは、は。……ははははは!
 すぐに、アタシに、アタシの与える快楽の奴隷に、してあげる。
 葵紋花火のことなんか、数日の間に忘れさせてあげる。
 夢にも見られないようにしてあげる。
 
 あなたは一人しかいないから。
 あなた以外に、あなたみたいな人はいないから。
 何もせずに、他の女のモノになってしまうのを見ているなんて、絶対にできない。
 このチャンスは逃さない。
 あなたは二度と放さない。死ぬまで、いいえ、死んでも放さない。
 アタシが死ぬ時が、あなたが死ぬ時。あなたが死ぬなら、アタシも死ぬ。
 あなたは同じ事を思ってくれないだろうけど。
 一方通行な、一蓮托生の誓い。
 そう思いこむぐらい、あなたが好き。
 十分の一でもいいから、あなたに伝わって欲しい。
 そうしたらきっと――――アタシのことを好きになる。



236 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:18:47 ID:bxuyQO3U
「お願いだから、アタシのことを好きになって…………ね?」
 そう言っても、彼は首を振るばかり。
「ごめん」
「どうして、謝るの」
「何度も言ってるように、僕が好きなのは、花火だから。
 澄子ちゃんを選んで、花火から離れるなんてこと、僕にはできない。
 好きになってくれたのは嬉しいけど、応えられない。だから、ごめん」
 言うねー。
 とっても傷つくよ、今の言葉。
 でも、でもね。
「謝られても、アタシは諦めない。あなたの心が、折れるまで。
 また、気絶するまで気持ちよくさせてあげる」
「やめて、くれ」
「やー、よ」
 彼は下半身を唯一包んでいる下着をずらす。
 明らかに他の箇所とは違う熱を宿らせた陰茎が、存在を主張する。
 それを、可愛がるように手で包む。
 彼の顔は、それだけで何かをこらえるように固くなり、そっぽを向いた。
「我慢なんか、しなくていいのに」
「違う……澄子ちゃんにこんなことされたくないって、思ってるんだ」
「正直になりなよ。
 あなたが耐えるなら、心が折れるまでアタシは続ける。
 最初からさあ、受け入れた方が楽だと思わない?
 もう二度と、アタシから逃げることなんかできないんだし」
「そんなこと、わからない」
「無駄よ。変な希望を抱くだけ、叶わなかったときのショックが大きくなる。
 お別れしましょう。今までの環境から。
 両親のこと、お兄さんのこと、妹さんのこと、幼なじみのこと。
 そんなもの、重荷になるだけよ」
「そんなこと! そんなの……駄目だ。僕には、花火や兄さんが必要なんだ」
「へえ、そう」
 指を動かして、彼の陰茎の裏スジに這わす。
 柔らかな部分をひとさし指の腹で責める、というか弄る。
 続けていると、時々びくびく動いて、硬さも増してきた。
「う……っあ」
「じゃあ、耐えてみたら? 
 縄の腐りかけた橋を渡ってるときみたいに、いつかは落ちちゃうってびくびくしながら、アタシの責めに耐え続ければいい。
 勝てるはずのない戦いだけど――自分の信念を貫いたなら、屈服しても納得できるよ、きっと。
 僕は昔花火のことが好きだった、でも今は好きじゃない、とか言うようになる」
「……ない。絶対に、僕は負けたりなんかしない。
 曲げられるものと、曲げられないものがあるんだ」
「かっこいいね。ますます、惚れちゃいそう。
 これ以上好きにさせてもらっちゃ、本当にもう、困っちゃうよ」
 いつか折れちゃうものを、健気にも守っている彼は、アタシの想像通りの人間。
 そして、折れるまでじわじわ追い詰めるのが好きなアタシは、かなりサディスティックだ。



237 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:19:33 ID:bxuyQO3U
「覚えてる? 昨日の夜、あなたがなんて言ってたか。
 気持ちいいって。アタシの体が欲しくて、仕方なくて、動きが止まらないって言ったのよ。
 アタシがやめてって言っても、ずっとやめなかったんだよ」
「そんなの、嘘だ」
「嘘じゃ、ありませんよ?」
 ふふん、都合の良いアタシの想像に決まってるじゃない。つまり嘘よ。
 まあでも、こう言ったら彼の動揺を誘えるから、悪い手じゃない。
 それに、まるっきり嘘でもない。
 一昨日に比べて、明らかにアタシの体に慣れて、応えるようになってる。
 そういうの、受け入れる側の女からすればわかるんだよ。
「あなたはアタシに傾きかけてる。そして、諦め始めてる。
 それでいいの。怖いこととか、不安になることとか、これからは一度も起こらないよ」
「嫌だ。僕は……忘れたくなんか、ないんだ!」
「忘れましょう? あなたは一番幸せになれる道を選んだだけ。
 誰もあなたを責めないわ。みんな、笑って許してくれる」
 優しく包み込み、彼の後ろめたい気持ちを和らげる。
 彼は心配してるだけ。
 葵紋花火や、お兄さんに怒られるのを。
「アタシと二人で辛いことを分け合えばいい。
 大事な人でも、物でも、目的でも、誓いでも、支えになる何かがあるから、人は強くなれる。
 そういうの、アタシは素敵なことだと思う。
 たとえ世界中の皆があなたを責めても、アタシだけは味方。
 どんなになっても、見捨てたりなんかしないよ。
 あなたの全てに、アタシは惚れたんだから」
 彼は首を振る。
「僕が望むのは……君との未来じゃないんだ。
 花火が居ないと、僕は、僕は………………」
 はあ。
 こりゃ、まだまだ意志は折れそうにないね。
 一昨日の夜から、彼との会話はずっと平行線で、交わることがない。
 でも時間はたっぷりあるわけだし。
 ゆっくりと、気持ちを変えさせてあげましょう――――いただきます。愛しいあなた。



238 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:20:26 ID:bxuyQO3U
 
 
「うぅん、そこ、イイ……気持ちいいよぅ………………う、ん?」
 閉じていた目を開けたら、いきなり快楽から解放された。
 というか、単に夢から目が覚めただけか。
 …………ちえ。すっごいもったいないことした気分。
 寝る前にもいっぱい中に精液を出してもらったけど、そんなものじゃ足りない。
 夢でも妄想でもいいから、もっと彼のことを考えていたいのに。
 目の前には彼の横顔。彼もアタシとシている最中に眠ってしまったみたいだ。
 今すぐ夢の続きをしてやろうかと考えたけど……安眠を妨げるのも気が引けるし、体力が回復しなかったら困る。
 体を起こして、両腕を伸ばして伸びをする。
 あくびをすると頭に血が巡り、眠気のもやを追い払った。
「…………ふう、今は夕方、かな?」
 窓の外を見る。空に浮かぶ雲は灰色で、夕日まで沈んでいる。
 時計の短針は六を指しているから、今日はまだ十六日だ。
 一日眠りこけていれば十七日だけど、たぶんそれはないだろう。
 携帯電話の画面に映る日付は二月十六日だ。
 それに、メールも届いてないし、電話も掛かってきてない。
 十七日になったら友達から連絡が来るはずだ。……忘れていない限りは。
「不安になってきたわね…………」
 もし向こうが忘れてたら、ここから移動するのが遅れちゃう。
 ここに留まっていたら、先輩や葵紋花火、その他のイレギュラーに発見される危険が高まる。
 そもそも、アタシの頼んだ通り、明日の朝の五時に迎えに来るかが怪しい。
 あの子、朝に弱そうだし。
「……連絡して、確認しよ」
 彼を起こさないよう、 ベッドからゆっくりと下りる。
 安らかに眠る彼。今はうなされた顔をしていない。
 眠りを妨げないよう、額と右頬、最後に左頬にキスをして、部屋を後にした。



239 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:22:21 ID:bxuyQO3U
「お断りだ」 
 なぜか知らないけど、初っ端からお断りされた。友達に。
 電話をかけ、相手から開口一番にそう言われては、こっちとしても言葉を選ばなければならない。
 どうして友達との電話で気兼ねしなきゃならないんだろう。
「あの、まだ何も言ってないんだけど」
「言葉を交わさずとも、伝わるものがある」
「テレパシー?」
「いいや、お前をよく知る人間としての勘だ」
 伝わってないじゃん。頼み事する気なんかなかったのに。
 それにいきなり断られるってどうなの? 友達って、そういうものかな?
「で、何の用だったんだ、澄子」
「ああ、あのさ、明日何時に迎えに来ればいいか、覚えてる?」
「もちろん。五時だろう」
 ……まあ、さすがに覚えてるよね。
「あと、約一日もあるわけだから、昼寝しても大丈夫だな」
「わかってない! 覚えてないよ! 夕方の五時じゃなく、朝の五時!」
「なに! よりによって日曜の朝に早起きして、しかもヒーロータイムを見逃せと!?」
「約束したじゃん! この間一本三万円するタイヤおごる代わりに協力してくれるって!
 しかも四本だよ!? 高校生に十二万円も払わせといて契約破棄するつもり?」
「そん、な……そうと分かっていれば、断ったものを。ああ、私のライドピンクの活躍が……」
「しかも断るんだ……時間ずらすよう頼むとか、しないんだ……」
 彼もそうだけど、高校生以上の年齢層が夢中になれるほど面白いものなのかな。
 アタシなんか小学生の頃でも戦隊ものに興味なかったのに。
「録画しておけば後で見られるじゃない」
「わかってない! リアルタイムで見る興奮をお前はわかっていない!
 いいか、録画じゃ、興奮が三割減少するんだ!」
「いや、そんなことを主張されても」
「早起きしてテレビの前に座り、CMが明けるまでの待ち遠しさ。
 前回のラストシーンから始まり、続けて流れるオープニングテーマを聞いたときの、童心に帰る心地。
 番組関連の玩具やソーセージのCMを挟んで見る、流れるような本編の展開。
 次回予告を見る時の、もの悲しさと期待。来週もまた元気に生きようって、そう、思えるのに……」
 うわあ……結構深刻そう。
 そっか。この子にとって、きっとヒーロータイムは、アタシにとっての彼みたいな存在なんだ。
 しょうがないなあ、もう。
「わかったわよ。何時からだっけ? 八時?」
「……七時、三十分」
「その時間になったら、途中のサービスエリアに寄って見ていいから」
「…………本当に?」
「本当、本気、真剣、マジ、嘘じゃない。だから落ち込まないの。事故ってもらっちゃ困るし」
「澄子」
「なによ?」
「愛してる」
「あっそう。アタシはあんたじゃなくて、他の男が好きなの。ごめん」
「なるほど、ツンデレか」
「アタシはツンデレじゃないんだけどね……」
 あえて言うなら、彼に対してのみデレデレって感じ。
 それに、どのへんがツンだってのよ。デレてもいないし。



240 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/06/15(日) 18:24:10 ID:bxuyQO3U
「で、電話をかけてきたのは確認のためだけか?」
「え? えーっと、ね」
 初めはそのつもりだったけど、今はなんだかお腹が減ってる。
「迎えに来てくれない? 今から」
「お断りだ」
「振り出しに戻らないでよ……」
 またさっきの会話をリフレインさせる気はない。
 向こうには、試しに会話を振ったらノってきそうな気配がある。
「どーーしても、迎えに来る気はないわけ?」
「最初から約束していたならともかく、澄子の腹の虫の面倒まで見る気はない。
 歩いていけばいいだろう。コンビニが近くにあったはずだぞ」
「その距離を歩いているうちに襲われる可能性もあると、思わない?」
「それなら、また去年の文化祭の時みたく、忍者の格好でもして行けばいい」
「……ヤなこと思い出させるわね、こんな時に」
「なんの話だ?」
「いいえ、なんでも」
 この子、去年の文化祭でアタシのコスプレ見てるのよね。
 その日の晩に衣装ボロボロ、体をボコボコにされたことまでは知らないでしょうけど。
 今回先輩を拉致監禁したのはアタシだけど、先輩がばらさない限り葉月さんが襲ってくることはないはず。
 先輩の性格からして、アタシをかばって口を割らないのは予想がつく。
 ああいう人って優しいから、利用しやすい。
「……ま、いいわ。自転車で行ってくるわよ」
「ああ、気をつけて行ってくるんだぞ」
「そう思うなら迎えに来なさいよ」
 この子は、いちいち心にもないことを。
「気をつけて帰ってくるんだぞ。家に帰ってくるまでがお遣いだ」
「あんたは、いちいち心にもないことを!」
 叫び、電話を切る。

「あ、やば」
 今ので彼、起きちゃったかな?
 部屋のドアを開けて見る。……よかった、まだ寝てる。
「ごめんね。ちょっとだけ一人にしちゃうけど、すぐに帰ってくるから。
 寂しがらないでね? 帰ったら晩ご飯、食べさせてあげるから」
 もちろん、全部あーん、で。
 それとも、口移しがいいかなあ?
 うーん……よし決めた!
 出血大サービス。両方やろう。
 澄子ちゃんの愛、文字通りお腹いっぱいに味わっていただきましょう。
「うっふふふ。くっちうっつし。くっちうっつし」
 足取りも軽く玄関へ。
 新婚の旦那さんって、こんな気持ちなのかもなあ。アタシの場合は奥さんだけど。
 二月の夜の肌寒さもなんのその。平気、へっちゃらです。
「じゃ、行ってきまーす!」
 元気よく言い残し、鍵を掛けて家を出た。