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35 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/05/30(火) 23:54:32 ID:dUdy7Kor
 幹也が先代三月ウサギ――『12月生まれの三月ウサギ』に出会った場所は、実を言えば狂気倶楽部やグリムではない。
 そもそも、『三月ウサギ』として出会ったのではない。
 学校の図書室に残る、二つ年上の三年生の先輩。二つ名のない、普通の学生である「里村・春香」と出会ったのだ。
 出会った場所は、陽が暮れかけて、赤く染まった図書室。
 誰もいなかった。図書室は閉館時間を向かえ、図書委員である春香を除いて、誰もいなかった。
 幹也がいたのは完全に偶然である。ただ暇つぶしのために本を読んでいて、気づけば閉館時間になっていたのだ。
 気づけば、誰もいなくなっていた。
 誰もいなくなっていることにさえ、幹也は気づいていなかった。春香が声をかけなければ、永遠にそこで本を読み続けていたかもしれない。

「ねぇ」

 幹也が顔をあげると、三つ編みの髪を三つ作った、銀縁眼鏡の先輩がいた。
 叱られるかな、そう思った。
 別に叱られても構わないな、そう思った。
 どんな事態になれ、暇つぶしにはなるからだ。

「……何ですか?」

 問い返す幹也の持つ本を指差して、春香ははっきりと言った。

「その本、死ぬほど詰まんないわよ。読むくらいなら死んだ方がマシね」

 意外な言葉だった。
 そんな言葉を言われるとは、少しも思っていなかった。
 せいぜい、「閉館時間ですよ」と言われるくらいだと思っていた。
 興味がわいた。
 だから、幹也も正直に答えた。

「つまる本なんてあるんですか?」

 その言葉が、そのときはまだ名前も知らなかった里村・春香の興味を引いたのだと、
 幹也は数ヵ月後、春香の二つ名と共に知ることになる。



36 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/05/31(水) 00:09:07 ID:ju7bF4dq
 そして今――幹也は『三月ウサギ』を里村・春香から受け継ぎ、グリムの首を絞めている。
 数ヶ月の間、暇つぶしの相手になってくれた里村・春香はもういない。
 狂気倶楽部において、名前を継ぐというのはそういうことだった。
 里村・春香はどこにもいない。
 幹也は彼女から二つ名と、喫茶グリムの存在と、狂気倶楽部での椅子を受け取り。
 暇を潰す場所を、学校の図書室から、グリムの図書室へと移した。

「あ――っ、う、あ、」

 首を優しく絞められて、グリムは嬉しそうに呻いた。力を込めていないので、普通に喋れはする。
 力を込めれば死ぬということに、代わりはないけれど。
 遊びを思いついたのがグリムだったのか幹也だったのか、あるいは他の誰かだったのか、幹也はもう憶えていない。
 気づけば、こんな関係になっていた。
 幹也は思う――これくらい普通だ。自分は普通だ。みんなしたいと思っている。する相手がいないだけだ。いい暇つぶしだ。
 平然と首を絞める少女こそが狂っていると、幹也は思う。

「お兄ちゃんっ、もっと、もっとぉ、」

 甘えるようにグリムが言う。
 本人曰く、首を絞められるのは、たまらなく心地良いらしい。
 殺意を以って支配されている感覚が、死を以って繋ぎとめている感触が、相手の全てを共有している気分が、
 寂しがり屋で甘えん坊で、独占欲と依存癖の塊であるグリムにとっては、何よりも心地良いらしい。

「言われなくてもやるさ――暇だからね」

 首を絞める手に力を込める。
 グリムの細く白い首に、ゆっくりと、指先が食い込んだ。そのたびにグリムは嬉しそうに笑う。
 その気持ちは、幹也にはまったく分からない。
 首を絞められて何が楽しいのかわからない。他人を支配も共有も共存もできるはずがないとすら思う。
 こんなのは暇つぶしだ。リアルに還ってくる相手の反応が楽しいだけだ。
 冷めて冷静な心とは反対に、身体は、熱を持ったように動き始めた。


37 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/05/31(水) 00:30:10 ID:ju7bF4dq
 首を絞めながら、幹也は身を近づける。グリムの小さな身体を押しつぶすように。
 顔を近づけ、グリムの小さな耳を優しく噛む。こりこりと硬い感触があった。
 そのまま噛み千切ったら、この少女はどんな反応を示すだろうか。そんなことをふと思う。

「あ――、あっ、あは、あはっ」

 首を絞められ、身体を端から食べられかけながら、グリムは嬌声と笑い声が混ざり合った声を漏らす。
 心の底から楽しそうだった。虚ろな瞳は妖しく笑っている。
 独占と依存を背負うグリムにとって、食尽というのはある意味究極のあこがれなのかもしれない。
 そして、幹也にとっては。
 そんな憧れなど、知ったことではなかった。

「楽しいね。楽しいと思いたいものだよ、本当に」

 口から漏れる言葉に意味はない。まったく意味のない、ため息のような発言だ。
 けれども、グリムはその言葉を聞いて、さらに嬉しそうに笑う。

「お兄ちゃんっ、楽しい、たのし、いのっ! やったっ」

 首を絞められ、途切れ途切れの声で、それでもグリムは嬉しそうに言う。
 幹也は片手で首を絞めたまま、右手をゆっくりと下へと這わせた。
 むき出しになった鎖骨をなぞり、さらに下へ、下へ。
 フリルのついた裾まで辿りつくと、手は服の下へともぐりこみ、今度は上へと上がった。
 ふくらみのない胸――ではなく。はっきりと形の分かるアバラを、一本一本幹也はなぞっていく。

「あ、あは、あはっ、あはははっ、あははははははははははははっ!」

 くすぐったいのか。楽しいのか。気持ちいいのか。嬉しいのか。
 首を絞められ、鎖骨をなぞられながら、グリムは笑い続ける。
 その笑いを塞ぐかのように、幹也は耳をかんでいた唇を、グリムの唇へと移した。



38 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/05/31(水) 00:43:03 ID:ju7bF4dq
 重ねた唇から舌を伸ばしてきたのは、グリムの方だった。
 八本、九本とあばらを数えながら、倒錯した行為を続けながら、幹也も舌を絡ませる。
 意志を持った触手のように、二対の舌は勝手に蠢き、口の端から唾液が漏れた。
 倒錯した行為に没頭しながらも――幹也の頭は冷えていた。
 どうしてこんなことをしているのだろう、と自問して。
 暇だからだ。時間つぶしにはなるからだ、と自答できるほどには。

「ん、っん、んぁ――、う、あ、」

 少しだけ、手に力を込める。首を絞める手に。
 繋げた唇の向こうで、グリムが苦しげに息を履いたのが分かった。
 唾液と下に混ざって、吐息が口の中に入り込み、幹也の肺腑を侵食していく。
 首を絞め。細い身体を好き勝手に弄びながら、幹也はキスをしたままグリムを見た。
 目をつぶるなどという、殊勝な行為はしていなかった。
 グリムは瞳をしっかりと開け、身体をすき放題にする幹也を、じっと見ていた。
 その瞳は笑っている。その瞳は物語っている。
 獲物を絡め取った蜘蛛のように笑うグリムの瞳は、こう言っている。

――楽しい、お兄ちゃんっ? もっと楽しんでいいの。でも――その代わり。

 篭絡する瞳で、歳にあわない妖艶な、狂った瞳で、グリムはこう言うのだ。

 ――ずっと愛してねっ。ずっと、ずっとグリムのお兄ちゃんでいてねっ。

 幹也は唇を離す。ぬるりと舌が滑りながら、グリムの唇から抜け出る。
 顔を離すことなく、間近で幹也は言う。

「楽しいよ――ありがとうグリム」

 手を離すことなく、心中で幹也は思う。

 ――楽しくはない。退屈だ。ああ、暇が此処にある。

 倒錯した二人は、そのまま、倒錯した行為に溺れていく。お互いを食い合うような行為に。
 その行為を、口を挟むことなく、マッド・ハンターは見ていた。
 異常な二人を、にやにやと、にやにやにやと笑いながら、異常な笑みを浮かべながら、ずっと見ていた。
 倒錯した行為は終わらない。
 倒錯したお茶会は、どこまでも続く。


(続)