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131 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/06/16(金) 15:25:13 ID:DRoLkIMx
穏やかな風が吹く、どこか涼しいその感触はどこからともなく現れる秋が来たことを告げている。もう二月もすれば、吐く息も白くなる冬が訪れるだろう。
アルバイトをこなし、疲れた風体で道を歩いている弥栄 志摩はぼんやりとした表情で陽が隠れた空を眺めた。
その表情は堅い。なにか思い詰めたそれは、選択を悩む子犬を連想させる。
歩きなれた道を進み、志摩は家にたどり着いた時にどのような態度で家族と接して良いかを悩む。
恐らく、家に帰れば多少行き過ぎた感のある過保護な姉がいるだろう。
今日、アルバイトに行く際に散々行かないでと駄々をこね、そのまま家を飛び出してしまった。志摩はその時泣いていた姉の姿が仕事中にちらつき、つまらないミスをいくつか起こしてしまった。
帰れば、姉はどういう態度で迎えて来るのか、そして自分は何と言えばいいのか。いい加減まとまらない思考が志摩の足取りを更に遅くさせる。
散らかされたゴミのように志摩の気持ちはバラバラになっていった。それが歩みを遅くさせ、最終的にジレンマとなって志摩に襲いかかる。
細いワイヤーを頭蓋に通すような痛みが心に走る。結局、その状況から逃れるために、その足は繁華街の方交へ向かっていた。


132 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/06/16(金) 15:26:38 ID:DRoLkIMx
繁華街にある少し大きめのゲームセンターで時間を潰して外に出ると、大降りの雨が志摩を出迎えた。
ゲームをしていても、一向に気晴らしにもならなかった気分は、大降りの雨を前にして更に下がり気味になる。
いつ頃から降り出したかは解らないけれど、ゲームセンターに入ったのが二時間前。コンクリートに溜まる水溜まりの量から察すると、少なく見積もっても一時間は降っているだろう。
濡れ鼠になることを覚悟しようとしたが、迎えのコンビニエンスストアの傘立てに忘れられたようにビニールの傘があった。
雨を避けるようにしてその傘立てに近付き、その傘を手に取る。柄の部分を見て、名前がないことを確認すると、志摩はそれを広げて雨の中に入る。道徳心が痛んだが、それよりも傘立てに挿さったままの傘が寂しげで、その孤独感が自分に似ている気がした。
しかし、その傘にも持ち主がいるはずで、そのことに気がついて苦笑する。元に戻そうかとも思ったけれど、あいにく濡れるのが煩わしかったのでそのまま家の方向を進んだ。
足音は雨音に遮られて聞こえなかった。


133 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/06/16(金) 15:30:05 ID:DRoLkIMx
雨の中、帰りの道を進み家がある方向の曲がり角を曲がると、家の前に一つの影が立っていた。
志摩の背中に冷たいものが伝う。
「志摩くん、おかえり」
あまりに場違いと感じるほど姉、弥栄 柚姫の面持ちは鬼気迫るものだった。長い間雨にさらされていたのだろう、髪は肌に張り付き、唇は紫に染まっている。寒さから来ているのか、身体は小刻みに震えている。何も言わずに志摩が立っていると、
「志摩くん、お疲れさま。こんな所で立ってないで、お家に入ろ?傘さしてても濡れちゃうよ?」
そう言って、志摩の手を握り家の中に引っ張って行く。何か言おうとしたけれど、手を握る柚姫の掌の冷たさに言葉は凍り、口から出ることは叶わなかった。