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601 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/10(日) 10:22:56 ID:FIWtjQkX
そうしたら兄さんは頷いてくれた。
「うん、わかってくれて嬉しいよ。ごめんな、大きな声出したりして。」
あはっ、あははっ。
兄さんの返事が嬉しくてたまりません。
やっぱり兄さんもおんなじ気持ち。私と兄さんは愛し合ってる。
「私も、ごめんなさい。わがままいって。」
あはははははっ。
嬉しさのあまり兄さんの腕に飛び付く。
兄さん兄さん兄さん兄さん。愛してます。心から。
兄さん兄さん兄さん兄さん。愛してます。一生。
卒業するまで、少し長すぎるけど我慢します。
だってその後にあるのは理想の楽園。そうでしょ、兄さん。
 
602 名前: ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/10(日) 10:24:36 ID:FIWtjQkX
短めです。すいません
でもきりがいいのでここまでです。
 
603 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/10(日) 10:47:22 ID:W8xp8WEs
GJ!!!これからのキモウトの行動に期待w
つか>>596のまとめ見てたらいきなりwikiが消滅したんだぜ。
久々にツボったのによぉ…
 
604 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/10(日) 16:16:41 ID:j4pmxuR7
>>598-602
GJ!
キモウトの病んだ内面描写いいね。
 
>>596 「新ジャンル ほのぼの純愛」
ちょw ほのぼのって・・・・ww
女「ねぇ、開けてくださいよ男くん。今日はせっかくの休日ですよ。家に籠もってないでお外に行きましょう?」
男「……」
女「いるのは知ってるんですよ。男くんは恥ずかしがり屋だから、きっと返事するのを躊躇ってるんですよね」
男「……っ」
女「ふふふ……可愛い男くん。大丈夫ですよ、私は男くんが出てくるまで、ず~~っと、ここにいますから」
男(もう嫌だ……!)
ttp://www21.atwiki.jp/honobonorennai?cmd=upload&act=open&pageid=21&file=uporg586524.png
 

605 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/10(日) 17:35:44 ID:mbQn8RgQ
兄と妹のずれっぷりがいいなw
キモウトの更なる攻勢に期待
 
606 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/10(日) 20:52:31 ID:GwGIHX7H
>>596
ほのぼのしねぇwwwww
 
607 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/11(月) 01:28:35 ID:HnJ/8tRb
独占欲が強いというか、ヤンデるとこういう発想になるんだなw
p://strawberry.noob.jp/1/src/1165745657485.jpg
 
608 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/11(月) 22:13:19 ID:mZqhccSN
もういったいどの辺りがほのぼのなのかww
 
609 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/11(月) 22:23:24 ID:SPWHscII
>>607
あれは途中でへたれるのが惜しかった
 
610 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/13(水) 19:40:49 ID:3FYAX7KC
>>607
これなんて作品?
 
611 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/14(木) 20:02:15 ID:wPrs63z7
蛸壷屋さんとこの「キング・アーサー」かな?
間違ってたら詳しい人訂正頼む。
 
612 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2006/12/16(土) 20:43:51 ID:XWv31u3E
保守
tp://www5c.biglobe.ne.jp/~nyu/COMIC/2428/20061210_2428_4_20.jpg
 
613 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/18(月) 20:39:52 ID:9+IXavYQ
>>612
これがヤンデレと認められるのなら(ry
 
614 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/19(火) 06:56:46 ID:/bgQ67zk
ideal氏の続編待望
 
615 名前:名無しさん@ピンキー[age] 投稿日:2006/12/19(火) 19:04:06 ID:lEq9wGx7
このスレも過疎ったな・・・
保守あげ・・・
 
616 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:06:30 ID:3ouRB9kS
数年後。
兄さんは中学三年に、私は五年生になった。
私と兄さんは今も元気だ。
「ただいま。」
家の中には誰も居ないけど私は挨拶をする。
生活の中の挨拶をしっかりしよう。
これは兄さんに言われたことだ。
私にとって兄さんは絶対。兄さんに言われて以来欠かしたことは無い、はず。
おかげで先生にも褒められたこともある。
兄さんじゃない人に褒められてもあんまり嬉しくないけど。
そんなことを考えながら時計を見ると、三時半。
兄さんが帰ってくるまであと1時間ほどだ。
私は机の引き出しをあけて小さな鍵を取り出した。
 
617 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:08:02 ID:3ouRB9kS
あれは半年くらい前のこと。
私は兄さんに鍵付きの日記をプレゼントした。というより押し付けた
「毎日じゃなくてもいいから日記はつけたほうがいいよ。
私もつけてるんだからさ、兄さんもやろうよ。」
そういうと、兄さんは少し笑って頷いてくれた。
鍵付きの日記なら兄さんは安心して本当のことを書くだろう。
でも、私は、買った時に付いてきた予備の鍵を、
兄さんにその存在を、伝えていない。
何故か?
そんなことは簡単だ。
これは、私の、秘密兵器。
兄さんの本当の気持ちを、文章で表してくれる素晴らしいものだからだ。
 
618 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:09:29 ID:3ouRB9kS
もちろん、毎日事細かにチェックするなんてことはしない。
兄さんは私を愛しているのだし、私はそれ以上に兄さんを愛している。
互いに信頼し合っている。
だからこれを使った記憶があるのはまだ一回だけだ。
その一回は、兄さんと父が口論をした夜の何日か後。
私はあんな奴、親とも何とも思ってないが、兄さんはどうだろう。
それが気になって仕方が無くなった時の一回だ。
その時日記には、親に裏切られた悲しみが書きなぐってあった。
それから私は父を心底憎んだ。
兄さんを悲しませるような人間は死んだほうがいい。
 
619 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:11:07 ID:3ouRB9kS
それで今回が二回目の秘密兵器の登場だ。
昨日の日曜、明らかに兄さんは変だった。
まず午前中、私を家に残して兄さんは出掛けて行った。
せっかくの、休み、なのに、だ。
…こんなこと今まで無かったのに。
帰ってきてからも兄さんはどこかおかしかった。
何か、あったに違いない。
調べなくちゃいけない、兄さんの身に何があったのか。
ふと気が付くと鍵を見つめたまま思いの外時間が経っていた。
いけない、あと30分しかない。
私は、兄さんの机から日記を取り出し、鍵を差し込んだ。
カチリと小さな音が鳴り、表紙が開く。
 
620 名前: ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:13:34 ID:3ouRB9kS
間があきました
文も短いです
年末は忙しいなぁって言い訳しときます
申し訳ないです
 
621 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:14:24 ID:JR5NhEOH
ぐっじぶ
 
622 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:21:22 ID:0vJMcGaz
早熟ヤンデレだな
 
623 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/20(水) 00:40:54 ID:1cIYmf/P
GJ!
続きが待ち遠しいが、年明けになりそうだね。
気長に待つよ。
 
624 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/20(水) 02:47:17 ID:TNwq/ZzR
これは将来有望なヤンデレですね
 
625 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/21(木) 03:51:02 ID:n8hklq6u
やばい、この先の展開を想像するとwktkがw
 
626 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/21(木) 05:14:45 ID:JBxpbnLv
鈴香被告そっくり… “鬼母” 進藤美香容疑者の素顔
://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20061114-OHT1T00028.htm
96年には、JR奥羽線の後三年駅などに火をつけて有罪判決を受けているが、
その動機は「消防隊員だった当時交際中の男性の気を引くため」というものだった。

男の気を惹く為、放火っすか・・・
 
627 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/21(木) 07:38:01 ID:a5B46cTm
>>626
江戸時代の天和の大火とかそんな感じだよ。
 
628 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/21(木) 08:32:02 ID:JBxpbnLv
八百屋の娘お七か。
江戸時代からヤンデレはいたんだな、とシミジミ。
 
629 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/21(木) 15:01:18 ID:K2YcCa1A
過疎ったと言った瞬間にSS来た!奇跡か?
 
630 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/24(日) 23:28:46 ID:LLrbHodb
5月17日(木)
今日、学校の行事の一つ、職場体験学習なるものの正式な日時が連絡された。
それは次の日曜。
あまりにも急な日程にクラスはざわついたが、
学校側のミスで連絡が遅れたらしい。
連絡の遅れはどうでもいい、休日というのが困る。
理由はただ一つ、美奈だ。
休日に出かけることを美奈が快く見送るなんて有り得ないからだ。
美奈を不機嫌にさせたら大変だ。
美奈の僕への甘えようは普段でもかなりのものだが、不機嫌状態の美奈は格別だ。
納豆なんかめじゃないくらい粘っこく絡み付いてくる。
この前なんかトイレの中まで……
 
631 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/24(日) 23:30:09 ID:LLrbHodb
本来読むべきは昨日の日付、つまり日曜日の日記なんだけど…
延々と続く5月17日の日記は凄かった。
いや、感動したと表現したほうが正しいかもしれない。
なんてったって私と兄さんの愛のスキンシップが克明に綴られているんだから。
書き出しのところでの書き方であたかも私が兄さんに甘えてるだけ、
という印象を与えられるけどそれは兄さん得意の照れ隠しだろう。
日記の中でも照れ隠しするなんて、
兄さんのそんな可愛い一面が更に私の愛を倍増させる。
あぁ、兄さん、日記だけで私をこんなにメロメロにさせるなんて…
人が悪いですよ。
 
632 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/24(日) 23:31:34 ID:LLrbHodb
とにかく私は有頂天になっていた。
だからかもしれない。
問題の日曜日の日記を見て、自分を見失わないでいられたのは。
もしも、木曜日の日記を見ないでこの忌まわしい事実を目の当たりにしたら、
私はこの場で日記をバラバラに引き裂き、
なんの躊躇いもなく灰にしていただろう。
ここはなんとか踏み止まった私に拍手だ。
しかし、気を抜けば直ぐにでも狂ってしまうんじゃないだろうか
という程に心には暴風雨が吹き荒れている。
とにかく、今わかることは、これ以上日記を見てはいけない、ということだ。
だから、私は、日記をしまう。
 
633 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/24(日) 23:33:01 ID:LLrbHodb
日記をしまい、私は脱衣所に向かう。
身体が、心が兄さんを求めている。狂おしい程に。
 

……気が付けば私は兄さんの布団の中に居た。
今の私は裸……じゃなかった。
兄さんの下着を身につけている。
頭まですっぽり布団の中に入れて深呼吸。
すぅぅっと兄さんの匂いが肺の隅々まで染み渡っていく。
何回も、何回も、何回も、何回も繰り返す。
異世界的な気持ち良さがあるがまだ足りない。
もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、
もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、兄さんが、欲しい。
 
634 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/24(日) 23:34:27 ID:LLrbHodb
もっと欲しい。
その思いで私は身につけている兄さんのシャツとパンツを、
自分で自分にこすりつけた。
兄さんの下着を身体に擦り付ける両手が股と胸にきたとき、
「っっっっ!!」
訳の解らない快感に私は動きを止めた。
もう一度、今度はゆっくりと擦り付ける。
「あぅっ…」
自然と声が出る。
「兄さん……兄さん兄さん!!」
もう、止まらない。
動かせば動かすほど、気持ち良い。
動かせば動かすほど、呼吸が乱れ、その分兄さんの匂いが身体に染み込む。
「兄っさっっんん!!」

私は最後の格段の快感に意識を持ってかれた。
 
635 名前:ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/24(日) 23:35:40 ID:LLrbHodb
5月20日(日)
今日、クラスメイトの女子に告白された。
返事は、明日にした。
どうすれば、いいんだろうか……
 
636 名前: ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2006/12/24(日) 23:39:31 ID:LLrbHodb
今回はここまでです
今回、エロといえるものじゃないですがエロは苦手です……
 
637 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/25(月) 01:57:14 ID:3GU5eN36
クリスマスプレゼント乙
キモウトかわいいよキモウト
 
638 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/25(月) 21:52:02 ID:NaFZ+zKM
聖夜に素晴らしい贈り物GJ
 
639 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/26(火) 00:10:51 ID:a5dxOddH
盛り上がってきたよぉ('A`*)
 
640 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/26(火) 01:17:25 ID:dhmYnoCn
妹が歳相応の語彙を使ってくれると、もっと物語に入っていけるかな~
 
641 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/26(火) 04:22:27 ID:nbSG+LCf
>>590
おま、てめ
 
642 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/26(火) 13:21:21 ID:ZDt/86nD
>>636
エロなんて飾りです。 それが偉い人には(ry
たっぷりのヤンデレ成分さえあれば、後10年は戦えます。
 
643 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/27(水) 07:55:37 ID:lVmjft53
249 名前: 本当にあった怖い名無し 投稿日: 2006/11/05(日) 09:31:45 ID:npSkKftkO
俺は東京在住。ある時大阪からメル友が遊びに来た。
ホテル(ラブホテルじゃないよ)に行って、話をしていたら知らないアドレスからメールが届いた。
「見てたから」
一瞬驚いたが、すぐに、ははあ、なるほどと思った。
俺には彼女はいないし、仲の良い子すらいない。
これはきっと、相手がメール時間設定であらかじめ用意しておいたんだ、本当に彼女がいないかこちらの顔色を探っているに違いない。
そのまま小一時間話して、彼女がコンビニに買い出しに行った。最初は一緒に行こうとしたが、良いからと言うので、じゃあ下着チェックでもしてやるかと、見送った。
早速あさっていると、非通知で電話がかかってきた。
「……」
「……もしもし?」
「ん……見てたから」
「えっ?」
「……プツ」
またメル友の悪ふざけかとも思ったが、夜になっても男と女の雰囲気にもならなかったし、違うようだった。
なんとなく気味が悪かったが、もう忘れていた。
昨晩、帰宅途中に妹が後ろから走ってきた。
「お兄ちゃん、コーラちょっと頂戴」
「なんで知ってるんだ?」
カバンからコーラを出して渡してやった。
「ん……見てたから」
何故かゾッとした。
 
644 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/27(水) 16:17:47 ID:qYBhrlDc
>>643
今頃そのスレの249は・・・wkwk
 
645 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/27(水) 23:04:05 ID:eqxIo6ft
転載

743 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/12/23(土) 23:32:18 ID:+HXf9s5V
9巻よんでオリンピックの後タズサを誘導したヤンデレリアが
欲しい物を全て手に入れた後に上り詰めていく物語を妄想した
タズサが壊れる様に誘導しながら愛情を注いでいくリアを誰か書いてくれ

646 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/30(土) 01:34:46 ID:DMCGvKZ3
これは別の意味で病んでないか?w
自分のウンコをタッパーに詰めて3100円で売っていた女(24)を逮捕
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/dqnplus/1166982633/
「自分のわいせつ画像と排泄物をネット販売していた24歳女」を逮捕
インターネットの掲示板で手広く、自身のわいせつ画像を販売していたとして、愛知県警保安課は
11月8日までに北海道函館市港町の函館大学職員、佐藤梢容疑者(24)を逮捕した。佐藤容疑者は、
わいせつ画像販売目的所持で逮捕されたわけだが、売っていた物は自身のわいせつ画像だけではなく、
自身の排泄物や下着類など数種類。
佐藤容疑者は取調べに対し「遊び感覚だった」と供述しているが、自身が運営するネット上のブルセラ
ショップでは、他の「売り子」の指南役としての役割も果たしており、とても遊び感覚とは言えず、
風俗店営業に近い状態だった。
ttp://adnet-news.com/syakai/news149320061208.htm
 
647 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/31(日) 11:55:41 ID:InCnAhzP
ところでみんな
もうアクアノックス2はプレイしたよな?
 
648 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/01(月) 08:30:23 ID:iXobG6Kw
サキュバスの巣ってサイトの女王様の壮大な愛ってのヤンデレかな?
 
649 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 19:52:23 ID:zw9iZ9Tb
無駄な描写多くない?
 
650 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/03(水) 20:07:39 ID:qLOV5sU8
>>648
元々携帯サイトの方に置いてあった妹に電車の中で犯されるやつのほうがこのスレ向きじゃない?
数年かけて男を落とそうと画策するあたり萌える
つか個人サイトが晒されると叩かれそうで嫌だな…
 
651 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 17:49:55 ID:zpAEyOdJ
「というわけで、貴方の身の安全は私が保証したわ」
 クラスメイトの如月更紗は、僕の眼前に長い――長い長い長い長い長い長い長い鋏をつきつけてそう言った。
 長い、なんてもんじゃない。長すぎる、でもまだ足りない。それはもう冗長としか言いようが無い長さだった。
 そんなに長くても使い道なんて一切合切ありえないだろうと、こんな状況でもなければ僕は断言していただろう。
 それくらいに、長い。
 一般的に使いやすい鋏の長さは手首から中指までの長さだと言われているが、
そんな常識など「知ったことではない」と主張するような長さだった。
 30センチものさしを二つくっつけたような――長方形の鋏。
持ち手の部分は二等辺三角形で、その鋏には所謂曲線というものが存在しなかった。
それは、丸みを帯びた「優しさ」とか、そういったものを根こそぎに否定したがっているような、
どこまでも暴力的な鋏だった。こんな鋏がモノをきっているところを想像できるはずがない。
 じゃあ、何を斬っているのか――できれば想像したくなかった。
 とくに、眼前にその鋭い切っ先が突きつけられている今は。
「ああ、これ?」
 僕の視線に(といっても、眼前に鋏がある以上、どこを見ようとソレが視界に入るのだけれど)気付いたのか、
如月更葉は視線を鋏と、僕と、交互に移ろわせて、笑った。
 照れたような、恥かしそうな、頬を赤らめて顔を背ける笑いだった。
 ほんのちょっとその仕草がかわいいと思ったけれど――そんなことを素直に口に出せる状況でもない。
 如月更紗は、そんな照れ笑いを浮かべたまま僕に告げた。
「これ私の手作りなの。似合うでしょう?」
「殺人鬼とか死神とかが持ってるならともかく、制服きた女子高生に似合うようなもんじゃないだろ」
「あら。貴方ってば、女子高生よりも殺人鬼や死神の方が好きなのね。不健全だわ」
「誰がそんなこと言った!?」
 思わず突っ込みを入れて、僕は慌てて口をつぐんだ。突っ込みを入れた反動で、身を起こしかけたからだ。
 こんな状況で身を起こせば、ズブリ、といくこと間違いない。横に逃げようにも、仰向けに寝転がった僕の上には、
如月更紗の細い体が馬乗りになっている。
 ……普通、こういうのは男女が逆なんじゃないのか?
 脳内で突っ込むに留める。そりゃ普通男が女を押し倒すものだが、生憎と押し倒してきたのは如月更紗の方だった。 
 押し倒してキスでもされるのか――なんて甘い妄想を抱いたのは一瞬のこと。次の一瞬には、問答無用の勢いで更紗はするりと背中から鋏を抜き出して――
 僕の眼前へと、突きつけた。
 ……。
 これのどこが、身の安全の保証だ。
 脅かしているのはお前じゃないか、如月更紗。
 不遜な僕の眼差しに気付いたのか、更紗はこほんとひと息入れて、
「言い直すわね」
「どうぞ」
「不健康だわ。顔色が悪いわよ」
「それはお前のせいだ!」
 僕は思わず、ではなく、意識して突っ込み、
 ――しゃきん、と。
 僕の目の前で、音を立てて開いた鋏の前に、沈黙せざるを得なかった。
 一つが、二つ。
 片目のみに押し当てられていた鋏が――開くことによって、両目に押し当てられることになった。
 危機感、二倍。
 
652 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 18:06:21 ID:zpAEyOdJ
「慌てないで。何も顔色が紫になって口から緑色の血を吐いたわけじゃないのよ」
「それは不健康を通り越して重病人だ」
 緑の血は吐かずとも。
 鋏が落ちれば――赤い血は噴き出る。
 自分の体の中を流れる血の色くらいは知っている。15年も生きてりゃ怪我の一つや二つは三つはしたことがある。
 怪我をさせられたことも――させたことも、ある。
 流石に眼球に鋏を突きつけられたことはないけれど。
「とにかく」
 如月更紗は前置いて、
「死神や殺人鬼よりは、女の子の方が好きよね?」
 ……。
 そっちを訊くのか……。鋏なんてどうでもいいと言わんばかりの、確信に満ちた、核心に触れるような問いだった。
如月更紗の中においては、鋏を他人に突きつけることは日常茶飯事なのかもしれない。そんな噂を聞いたことはないが、
それだってただの一人も証人が生き残っていないだけかもしれない。
 夜な夜な街を彷徨って眼球を抉る女子高生。
 ……殺人鬼と大差ないじゃねぇか……。
「野菜よりも果物が好きかという意味で答えるなら、イエスだ」
「野菜を食べないから不健全になるのね?」
「なるのは不健全であってそもそも僕は不健全でも不健康でもない!」
「なら――貴方は、健全で健康で身に潔白があり恥じるものなど一つもないと、そう言うのね?」
「……う――」
 言葉に、詰まる。
 妙に――迫力に満ちた言葉だった。
 先までの多少冗談の混じった言葉とは違う。『君は聖人君子というものの存在を信じるのかね』と遠回しに言われたような、
そんなものが存在するというのならば今すぐにもで殺してやると言いたげな、物騒で不穏当で危険で不均衡な――危うい、言葉だった。
 いや、
 危ういのは、言葉じゃない。
 どこか赤みがかかったような、爛々と輝いているようにさえ見える、如月更紗の瞳が――最も、危ういのだ。
 獲物を狙う、蛇のような。
 満月に狂う、狼のようだ。
 その眼で、如月更紗は――僕を、見る。
「そんなことはあるわけがない。そんなはずがあるわけもない。そんなことがあっていいはずもない。
 そうでもなければ――私がここに来ることはなかったんだから」
「ここに、来る?」
「鋏を持ってまで、ね」
 愛嬌たっぷりに如月更紗はウィンクをした。いや、決して愛嬌が必要な場面ではない。
 むしろそのナンセンスさが、この場に不釣合いで――不釣合いだからこそ、怖いとすら、思えた。

653 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 18:07:05 ID:zpAEyOdJ
 相手のやりたいことが、まったくわからない。
 クラスメイトに屋上に呼び出されて、告白かと思ってのこのこついていったら、『鋏』だ。
 わけが、わからない。
「わけなんてわかるはずがない。わけなんてわかるはずがないわ」
 僕の心を読んだように、如月更紗は滔々と語った。舞台の上で台詞を読む演劇役者のように、澄んで通る声だった。
教室の隅で本を読んでいる印象しかなかった更紗が、こんな風に喋るなんて――想像もできなかった。
 それをいうなら。
 そんな相手に、鋏をつきつけられているなんて、想像どころか妄想すらできなかったわけだが。
「……どういうことだよ」
 なんとなく無駄だと思いつつも、一応訊いてみた。
 如月更紗は、口紅を塗っているかのように赤い唇をつぅぅ、と吊り上げて、
 笑った。
「貴方に原因はないわ、貴方に理由はないのよ」
 笑って――嘲って。
 おどけるように、微笑んで。
 道化るように、微笑して。
 満面の笑みを、顔面に浮かべて。
 笑いと共に、呪いのように、言葉を吐き出した。
「原因は――死んでしまった、貴方の姉にあるのだから。ねえ、里村冬継くん?」
 それは、正しく。
 言葉のような、呪いだった。

・二話に続く
 
654 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 18:28:39 ID:zpAEyOdJ
 里村春香についてのあれこれ。生きていれば19歳。生きていれば、というのは他でもない、何の身も蓋も伏線もトリックも関係なく、
れっきとした事実として、里村春香は死んでいるからだ。死んだのはもう一年も前になる。18歳の里村春香は受験のストレスに耐え切れずに
学校の図書室から飛び降り自殺した――ということで一応の決着がついている。彼女が受験生だったことは事実だし、18歳だったことも、
思春期だったことも、そして図書室から飛び降りたことも、全て事実だ。覆しようのはない。ただし、その単語群の間を=で埋めるのは残された
人間たちの創造力でしかなかった。そして、里村冬継は、創造力を持ち合わせている人間ではなかった。
 だから、事実だけで考えれば。
 姉が――死ぬ理由が、分からなかった。
 死ぬ前日まで、姉は、とても幸せそうに、笑っていたから――
「…………」
 不意に意味のある単語を投げかけられて、僕は意図的に黙り込んだ。ただの突発的な通り魔的犯行かと思っていたのに
(それはそれで厄介なことだけれど、単に『変な奴』に絡まれた程度だと思えばいい)、いきなり姉さんのことを言われるとは、思いもしなかった。
 つまり、相手は。こちらの事情を、少しは知っているということになる。
 問題は、一体どこまでを知られているのかということで……
「その顔は図星といったところね」
「…………」
 如月更紗は僕に馬乗りになったまま、得意げな顔で、僕を見下ろしていた。
 ふふん、と鼻で笑ってもいいだろうに、微笑むだけで、鼻を鳴らそうとはしない。
 馬鹿にするのも、馬鹿馬鹿しいのだろうか。
 如月更紗は僕を見下したまま話を続ける。
「貴方はやっぱり――シスコンなのね」
「何がどうなってそんな図星が導き出された!?」
「自明の理よ。姉の存在を話題に出されて押し黙るのはシスコンか、」
「か?」
「姉に対して鬱屈したコンプレックスを抱いているシスコンだと、友人が言ってたわね」
「誰だよそんな歪んだ情報をお前に教えたの!」
「貴方はさしずめ後者なのだろうね」
「それはお前の偏見だ!」
 しゃきん、と。
 再び、鋏が鳴って、僕は押し黙る。なんだか、脅迫というよりは、一方的に話を進めるためだけに鋏が存在するような気がしてきた。
 遠回しな、コミュニケーション手段。
 それにしては、物騒すぎるけれど。
「とにかく、とにかくよ――貴方がシスコンであることは知っているわ」
「否定していいか」
 一応言った僕を無視して、如月更紗は言う。
「それから、貴方の姉が、どんな人間だったのかも」
「…………」
「今度は、否定しないのだね?」
 くすり、と如月更紗は笑った。どこか見透かしたような笑みだった。
 いや、実際に、見透かしているのだろう。
 姉さんはクラスの中で目立つような、そういうタイプの人間ではなかった。端で本を読んでいるような人だった。
そんな人が、それ以外の場所では、どんな人だったのかを――僕は知っている。
 奇しくも、僕の上に座す、如月更紗のように。
 人間は、一面からだけでは、計り知れないのだ。
「だからこそ、貴方の安全は私が保証してあげる」
「お前の頭は間違いなく壊れてる。『だからこそ』と『=』の使い方をもう一度勉強しなおせ」
「使い方を間違ってはいないけれど?」
「なら使い手が気違っているんだ」
「ああ、つまり貴方はこう言いたいのね――馬鹿と鋏は使いよう」
「この状況を巧いこと言ったつもりなら正直にお前は天才だと褒め称えてやるよ!」
「つまり、貴方が馬鹿、と」
 くすり、と如月更紗は笑った。完全に馬鹿にされている。弄ばれている。
 鋏を突きつけられていなければ、相手が女だろうが構わずに突き飛ばしているところだ。
 が、圧倒的弱者であることには変わりはない。ともかく、鋏がどかないことには話にならない。
「なあ如月更紗、」
 問いかけた僕の言葉を遮るようにして。
「貴方は――命を狙われている」
 不思議なほどにきっぱりと、如月更紗は断言した。
 
655 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 18:47:31 ID:zpAEyOdJ
「……狙われてるも何も、今まさに死にそうなんだが」
「眼を抉られても、死にはしないよ」
 くすり、と更紗は笑う。
「眼を抉られても、指を切り落とされても、足をもぎられても、手を焼かれても、
爪先から順にすり潰されても、首を落とされても、頭を潰されても、心臓に杭が刺さっても、死にはしないよ」
「……いや、それは死ぬだろ」
「殺されない限りは、死にはしない」
 奇妙な――断言だった。
 この女、如月更紗の言葉は、なぜか、どれもこれも力に満ちた断言だ。世に対して一片たりとも退くところがないと主張しているような、
世界の全てを敵に回して胸を張っているような――いや、違う、そうじゃない。
 世界なんてどうでもいいと、笑っているような。
 そんな、態度だった。
「だから貴方は死に掛けているのよ。あの恐るべきチェシャの奴が殺意を持って貴方を
狙っている以上――貴方は、このままだと、殺される」
「殺される……」
 その言葉はどこか非日常で、非現実で、だからこそすんなり頭に入ってきて、疑問の浮かびようもなかった。
 それよりもむしろ、如月更紗がさりげなく口にした「チェシャの奴」という言葉に意識が向く。それは確か、
あの古くも有名な童話に出てくる、にやにや笑いの悪趣味な猫の名前で――
 意識がまとまるよりも速く。
 如月更紗は、きっぱりと、断言する。
「だから、貴方の身の安全は、私が保証するわ」
「つまり……」
 頭の中で、情報を整理する。他人事のように、無関係のように。
「姉さん関係で、誰かが僕を殺そうとしていて――そいつから守るために、お前が?」
 お前が――なんだというんだ。
 そいつから守ることが、どうして、眼球に鋏を突きつけることに繋がるんだ。
「ああ、これ?」
 僕の視線を手繰ったのだろう、如月更紗は、彼女曰くお手製の鋏をちらりと見て、
「手作りなの。似合うでしょう?」
「ボケの焼き直しをやれと誰が言った!」
「あら。繰り返しは素敵なことよ」
 繰り返し、繰り返し、繰り返す――何かの唄の歌詞なのか、リズムをつけて更紗はそう言った。
 繰り返し、繰り返す。
 日常のように。 
「突拍子もない話を信じるには、突拍子もないことをするのが一番なのよ」
 非日常を続けて、日常にするように。
 さらりと、如月更葉はそんなことを口にした。
「……ようするに」
 この十数分間のことを思い返しながら、僕は結論を口にした。
「お前の趣味なんだな?」
 僕のその言葉に、如月更紗は満面の、悪意なき笑みを浮かべた。図星をさされたのが嬉しかったのだろう。
イエス、イエス、その通り――なんて、はしゃいだように、笑っていって。
「だけど、これも私の趣味」
 文節を勉強しなおせ。『だから』の、間違いだろう――そう突っ込むよりも先に。
 鋏がすぅ、と退かれて――入れ違うように、更紗の体が前のめりになるように倒れてきて。
 誰もいない屋上に仰向けになって、雲ひとつない青空を見上げながら――僕は如月更紗に唇を奪われたのだった。

・第三話に続く
 
656 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 19:55:20 ID:zpAEyOdJ
ヤンデレ作品投下
例によって妹とか妹とか姉とか妹とかが病んだりデレたりします
全何話かはまったく未定

657 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 20:30:08 ID:nx7pzAvC
これも一つの愛の形(*´Д`)
 
658 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 20:41:37 ID:vcOInZZb
どう転ぶか先が全く読めないですね
wktkして続き待ってます
 
659 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:30:53 ID:KjfSYVID
>>656
お茶会の人ですか!?GJです!!
 
660 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/04(木) 23:22:39 ID:XHHa1pFB
>>651ナレフ!
きまさハルヒシリーズを読んだことがあるなっ!?
 
661 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 00:16:50 ID:ZRyBoQwo
谷川ちんはもちっとくどい比喩を使ってるから、それが無い分するする入っていけたかな。
何はともあれ先の展開を待つ。
 
662 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/01/05(金) 00:29:03 ID:98mIRqg3
いや、ハルヒゆらむしろ戯言を読んでるだろう。
文体が非常に酷似している
 
663 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 03:09:08 ID:ykvUuhwS
中学の頃に書いた小説がキモ姉ものでした
ただそれも西尾風味
 
664 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 03:51:01 ID:kY7XQF4J
お茶会の人かな
 
665 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/01/05(金) 03:59:28 ID:kY7XQF4J
かなって言うか完全にそうか。里村春香だもんな。
 
666 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 07:51:48 ID:7bQDaAOh
>>656
GJ! 続きが楽しみです。
      ./       ;ヽ 
      l  _,,,,,,,,_,;;;;i  <いいぞ >>654!
      l l''|~___;;、_y__ lミ;l  姉の存在を話題に出されて押し黙るのはシスコンだ!
      ゙l;| | `'",;_,i`'"|;i |  姉に対して鬱屈したコンプレックスを抱いている奴はよく訓練されたシスコンだ!
     ,r''i ヽ, '~rーj`c=/ 
   ,/  ヽ  ヽ`ー"/:: `ヽ
  /     ゙ヽ   ̄、:::::  ゙l, ホント シスコンは地獄だぜ! フゥハハハーハァー
 |;/"⌒ヽ,  \  ヽ:   _l_        ri                   ri
 l l    ヽr‐─ヽ_|_⊂////;`ゞ--―─-r| |                   / |
 ゙l゙l,     l,|`゙゙゙''―ll___l,,l,|,iノ二二二二│`""""""""""""|二;;二二;;二二二i≡二三三l
 | ヽ     ヽ   _|_  _       "l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |二;;二二;;二=''''''''''' ̄ノ
 /"ヽ     'j_/ヽヽ, ̄ ,,,/"''''''''''''⊃r‐l'二二二T ̄ ̄ ̄  [i゙''''''''''''''''"゙゙゙ ̄`"
/  ヽ    ー──''''''""(;;)   `゙,j"  |  | |

667 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 12:41:14 ID:w9uu+67R
>>664
お茶会の人です。トリップメモが見つかったらトリップつけます
普通の三姉妹とかハーレムとか書いてみたいなあと修羅場スレを見てると思う
さて三話投下します
 
668 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 13:04:35 ID:w9uu+67R
・三話
 如月更紗についてのあれこれ。当年とって15歳。ただし正確な誕生日は不明。同じクラス、同じ学年だから15だと思っているだけで、本当は16歳かもしれない。
実際のところ内情について知っているのはほとんどない。クラスメイト――それはクラスが同じというだけで、なんら共通項を得るようなものじゃない。
例えば彼女がどこの中学校の出身だとか、どこに住んでいるのだとか、野菜と果物のどちらが好きかとか――そんなことが、僕に知り得るはずもない。
分かることといえば、それこそ外見的なことと、彼女の立ち居地だけだ。
 こうしてみる限り校則違反はしていない。紺のプリーツスカートは極端に上げたり下げたりはしていないし、白の半袖シャツの下に柄物が見えることもない。
もっともこんなバカでかい鋏を持っている時点で、校則違反以前に法律違反だが――今のところ、誰も気付いた様子はない。かくいう僕もこうして突きつけられる
までは彼女がそんなものを持っていようとは夢にも思わなかった。
 長く伸びた艶のある黒髪は、こまめに手入れしてあるのか腰のあたりで綺麗に切りそろえられている。その几帳面さが、日本の古い幽霊映画に出てきそうな雰囲気を
かもし出していて、何ともいえないくらい絶妙に……似合っていた。学校にいる間中、ぼぅと窓の外を見て一言も喋らない、どこを見ているのか分からない如月更紗と
いう少女の雰囲気をひきたてるのに、それは適格だったのかもしれない。あるいは、本人が意識してそうしていたのかもしれない。
 そんなことを、つらつらと。
 口内を蹂躙されながら、思った。
「ん、ん――! んんん――!」
 口の端からだらだらと如月更紗の唾液がたれ始め、呼吸困難を憶える頃になって、僕はようやく抵抗を開始した。
 というか、この女。
 普通こういうときは触れるだけのキスをするだろうに、まるで攻撃でもしてくるかのように、無遠慮に舌を入れてきやがった。
あまりもの衝撃に突き飛ばすのも驚くのもキスに対して何かを思うのも忘れて、現実逃避してしまった。
 しかし一度現実に戻れば、当たり前のように抵抗する。なぜって、それは舌を入れられたことよりも――
「暴れないで欲しいものだね……」
 つぅ、と唾液の糸を引きながら如月更紗の唇が離れた。ぬらぬらと、放課後の光を浴びて輝く液体は扇情的で、未だ唇と唇が繋がっていたことをその身で証明していた。
 エロスティックというか、エロいというか、マロいというか、そういうのを否定するつもりはない。
どこか潤んだような瞳で僕を見てくる如月更紗の姿を見ていると、こう、ぞくぞくと背筋にくるものがある。
 が、それとこれとは別だ。僕は如月更紗の瞳をしっかりと見返して、言った。
「この――下手糞」
「………言葉遣いが悪いわよ?」
「なら言い直してやる! この下手れ!」
「それはまた別の意味よ。まったく困った同級生だわ」
 あっけらかんと、自分に非がないように髪をかきあげる如月更紗。その仕草に再びどきりとさせられるが、意識を総動員して無視する。
「いきなり何すんだって言いたいが……他に言いたいことがあるんで先に言ってやる。歯をがんがんぶつけんじゃねぇ!」
 そう――そうなのだ。てっきりいきなり舌を入れてくるくらいだから上手いかと思ったのに、この女ときたら、舌を動かすたびに頭を押し付ける
せいで歯ががんがんと当たるのだ。おまけに痛みなんて気にしないかのように続けるから、延々とがち、ガチとぶつかる音が脳内で響く。
 最悪だった。
 何が最悪かって、キスにわずかに期待してしまった自分が最悪だった。
「仕方ないのよ。慣れてないんだから」
「慣れてないならいきなりキスなんてするな!」
「勘違いしないで。キスには慣れてるのよ」
「……? じゃあ、何に慣れてないんだよ」
 僕の問いに、如月更紗はクラスでは絶対に見せないような、そのくせこの屋上では何度も見せた、にたりとした笑みを浮かべて、
「生きてる相手とするのには、慣れてないのよ」
 なんてことを、さらりと言ってのけた。
「………………」
 冗談か本気か、その妖しい笑顔からでは判別できない。
 判別したいとも――思わない。
 
669 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 13:34:09 ID:w9uu+67R
「とにかく」
 こほん、とわざとらしく如月更紗は咳払いした。上体を起こしていないせいで、口から漏れた息が直接顔にかかる。
生暖かいような、甘いような吐息だった。
「何だよ」
 問い返すと、如月更紗は、それが当然だと言わんばかりの口調で、はっきりと言った。
「慣れていないのだから、慣れさせてよ」
「なんでそうなる!?」
「あら、あら! 当然の理屈だわ、当然の理屈よ――アインシュタインもニュートンも団鬼六先生も賛同してくれるに違いないわ」
「物理学者と官能小説家を同じラインに並べるのかお前は!?」
 恐ろしい女だった。
 ある意味、人類平等を体現しているのかもしれない。
「貴方がファーストキスもまだだと言うのならば、やぶさかではないけれど」
 ため息と共に、如月更紗はそういった。なんとなくバカにされているようで癪に触る。
「貴方がファーストえっちもまだだと言うのならば、諦めるけれど」
 深い深いため息と共に、如月更紗はそんなことを付け加えた。
「いや、それは付け加えなくていい」
「そう?」
 大体キスをしたことがあっても初体験もまだだというのは世の中には一杯いるだろう、と思ったが言わないでおくことにした。
余計なことを言えば藪をつついで鬼を出す嵌めになることくらいは想像できる。
 どうも、如月更紗という相手は――未知数だ。
 何が返ってくるのかわからない。
 何を思っているのかわからない。
 何のためにここにいるのか、まだ、分からない。
「…………」
 そのことに多少の警戒はあれど。
「如月更紗」
「何かな?」
「眼、つぶれ」
 僕は――思春期なのだった。
 言われた通りに素直に子供のように、如月更紗は眼を瞑った。そのまま微塵も動かない。僕の方から、何かをするのを待っているように。
 殉教者のように、如月更紗は待つ。
「…………」
 その耳の側から、如月更紗の髪に僕はそっと右手を差し込んだ。手で触れることで、彼女の髪のきめ細やかさがよくわかる。
いつまでも触っていたいような、それだけで幸せになれるような触感だった。
「……動くなよ」
 一応、そう前置いて。
 手で、ゆっくりと、如月更紗の頭を引き寄せる。如月更紗は何も抵抗することなく、僕の手に導かれるままに顔を寄せて、
 眼を瞑り、唇を横一文字に閉じる如月更紗。
 その顔に、歯がぶつからないように――そっと、キスをした。
 血の味が、するような、気がした。
 
670 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 13:56:46 ID:w9uu+67R
 今度は歯がぶつかることはなかった。もっとも如月更紗のように舌を入れるようなことはしない。
唇をそっと触れて、相手の唇を舌でなぞるだけの、簡単なキスだ。それでも、痛みがないというだけで先よりもずっと良かった。
 痛くはない。血の味もしない。温かく、柔らかい、
 人間との、キス。
「ん……」
 小さな吐息と共に如月更紗の唇が離れていった。気付けば、自分から彼女の頭に差し込んでいた手を話していた。
人の胸板にのしかかるように身を寄せて、如月更紗は僕を覗き込む。至近距離で見る彼女の瞳は、どこか猫のように笑っていた。
「確かに――上手ね」
 良し、よし、よし、と子供をあやすように如月更紗は幾度か繰り返した。
 上手いと言われて悪い気がするはずがない。僕は思わず微笑みかけ、
「貴方のお姉さんと、練習したからかしら」
 微笑みが、固まった。
 意識してか、意識せずか、そんなことはどうでもいい。
 どうだっていい。
 問題は彼女が、如月更紗が何げなく、何事でもないように口にした、軽口のようなその一言にしかない。
僕は押し黙り、恐らくは、明確な敵意を持って――如月更紗を睨みつける。
 この距離で、睨みつけられても。
 如月更紗は――微笑んでいた。
「どうやら――姉に対して鬱屈したコンプレックスを抱いているシスコンで、正しいみたいね」
 くすくす、と笑う。僕は笑わない。僕は笑わずに、黙って、彼女を見遣る。
 如月更紗を、見る。
「とはいえ言い過ぎたわ、口が崖から落ちていったようね」
 そう言って、如月更紗は唐突に僕から身を離した。両足で立ち上がり、鋏を制服の背中に隠す。
さっきまで濃厚な彼女の匂いに包まれていたことに、僕はようやく気付いた。彼女が離れたことで
その甘い蜜のような匂いの存在に、ようやく、気付けた。
 脳が痺れるような――如月更紗の匂いだった。
「今日は色々考えてくださいな。色々と、色々と――思い起こして思い返して考えてね、冬継くん」
 それでは、また明日。
 そう言って、如月更紗は、寝そべったまま身を起こせないでいる僕をまたいでつかつかと歩き去った。
人の顔面の上を通り越していったせいでスカートの中身が見えたのにまったく気にした様子がない。
用は済んだのだとばかりに、振り返ろうともしない。
 振り返らず、何も言わず。
 がちゃん、という音と共に、如月更紗は屋上から出て行った。
「………………」
 今日一日と、昨日のことと、明日のことと、如月更紗のことを思って。
 屋上に寝転がったまま、僕は深く、深く深く――ため息を吐いて、舌で唇を舐める。
 キスの感触が残っていた。
・第三話 了
 
671 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/05(金) 19:54:46 ID:CqhSHgex
1番乗りGJ!イイヨーイイヨー
 
672 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 00:41:02 ID:fGQtsdjx
GJ!なんか素質有りそうなオトウトだな!!続きwktk
 
673 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 20:11:38 ID:yoIymAIa
「先輩先輩! 遅くなりました!」
 神無士乃はいつものように校門前の坂道を降りたところで待っていた。下校ラッシュの時間からは少しずれているせいでにしか人がいない。
部活動をやっている生徒が帰るにはまだ時間がかかるから、もうしばらくは校門前も混雑しないだろう。わずかに通りかかる帰宅組がちらりと
横目で神無士乃を見ていくだけだ。さすがに中学校の制服を着ている神無士乃は目立つ――とはいえ、もう見慣れているのかあまり気にしていない。
 神無士乃は、いつだってそこにいるのだから。
「あれ、今来たの?」
「いえ、先輩が遅くなりました。遅いです」
「そうだよお前はそういうやつだったな……」
 頬を膨らませて言う神無士乃の髪をくしゃくしゃとかき回して、僕は彼女の横に並んだ。何を言うでもなく一緒に歩き出す。
高校に進学してからほぼ毎日こうなので随分と慣れたものだった。
 ん、と嬉しそうな顔をした後、神無士乃は僕の左手をとって歩く。教科書は学校にでも置いているのか、左手に持っている鞄は
やけに薄っぺらかった。まあ、僕も同じことをしていたので何も言うまい。
「あー……待たせた?」
「いえ、今来た所です!」
「さっきと言ってることが違うじゃねぇか」
「いえ、先輩が今来たところです」
「前後の文が繋がらない返答をするなよ!?」
 ひひひひひ、と神無士乃は悪人のように笑った。こいつ、顔はかわいい系のくせに、こういう小悪人的な仕草が妙に似合うんだよな……。
小学校の頃はそうでもなかったんだが、いったい誰の影響を受けたんだ。
「とにかく、行くぞ」
「らじゃーっす!」
 びし、と鞄を持った手を振りかぶって神無士乃は答えた。危うくぶつかりそうになった鞄をすんでのところで避けて、僕も彼女の手を引くよう
にして歩き出す。やけに急な坂を下り終えて、ゆるやかに曲がる道を行く。先の曲がり角が、中学校と高校の分かれ道なので、帰る姿は中高様々だ。
手を繋いで歩いているが、そんなもの学生町では珍しいことではないので気にしない。たまに道行くオバちゃんに指をさされてくすくすと笑われるだけだ。無視。
「でもどうして遅くなったんですか?」
 神無士乃が僕を見上げて問うてくる。視線は少しも外さずに、瞳を、真正面から覗きこむようにして。
「あー……」
 呟きながら考える。嘘をついたらバレるだろうなあ、と思うが、正直に本当のことを話すわけにもいかない。学校の屋上に呼び出されて刃物突きつけられた
あとキスしてましたなんて言ったら正気を疑われるか狂気を疑われるかのどっちかだ。実際僕だって、先あったことが現実だとは思えない――嘘を言うのはやめよう、
現実だと思いたくない。かなり。切実に。出来れば夢であって欲しかった。
 唇に残る感触だけが、夢ではないと主張している。
「あー――」
 さらに呟きながら考え、視線をさまよわせる。僕を真っ直ぐに見てくる神無士乃を逆に見返す。身長が20センチは低いせいでかなり見下ろす形になっていた。
いくら中学生、二歳後輩とはいえ小さすぎないかと思う。昔からまったく変わっていない気がする。
「神無士乃、前にならえをやってみるんだ」
「こうですか?」
 唐突な言葉にも堪えず、神無士乃はきちんと前へならえをやった。ただし、両手を腰にあてて胸を張るポーズだ。
「はっ、やっぱりな」
「何ですかその勝ち誇ったかのような笑みは! 意図不明かつ意味不明ですよ!」
「いや、特に意図も意味もないんだ」
「じゃあ話を逸らしただけですね」
 あっさりと真相をつく神無士乃。さすがに鋭い。鋭いが、自分がクラスで一番身長が低いことを吐露してしまったことには
気付いていないらしい。これが人間経験の差か……ちなみに僕は一度クラスで一番背が低い時代があった、そのとき間違えて
両手を前に伸ばして以来、前へならえというものを憎んでいる。
 そう、神無士乃は小さいのだ。ただし小さいのは背だけで、その分の栄養が胸と尻にいったと見える。それを指摘すると叱られる
ので言わないが、クラスではさぞかしセクハラの的になっているに違いない。
「神無士乃、牛乳は出るか?」
「? うちの学校給食ですから出ますですよ」
「ああそうだったな、自分の出身校なのに忘れてたよ」
 バカなことを言ってみるが肝心の質問の答は見つからない。
 
674 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 20:21:55 ID:yoIymAIa
 現実逃避にさらに神無士乃の姿を上から下までなめるように見てみる。
小さな背と大きな胸。ツインテールが兔の耳みたいに直立している。太くも細くも無い手足と、丸い瞳。小動物系というの
だろう。最近の流行はよく知らないので断言はできないが、案外こういう安産型が人気なのかもしれない。守ってあげたく
なるような――といえば聞こえはいいが、それはようするに独占したいだけなのか? 正直よくわからない。
 モスグリーンのチェックの制服は――男女差こそあれ――去年まで着ていた奴だ。懐かしい、と思ってしまうのは、高校に慣れてきたからだろう。Y
シャツのボタンが弾けるところを一度でいいから見てみたい、そんな体型だった。さっきから僕体型についてしか考えてないな。
「何見てるんですか?」
 どことなく恥かしそうに神無士乃が言うので、正直に答えることにした。
「ニュートンの法則が横方向にも適用されてるか考えてたんだよ」
「しってます。林檎から木から落ちて砕けた例のヤツですね?」
「砕けるのはピザの斜塔から落としたヤツだろ?」
「ピザの斜塔ってとうとう崩壊したんですか?」
「…………」
 いまいち話が通じてない気がするが、問題はない。問題の箇所から話がどんどんずれていくからだ。
「それで――」
 神無士乃は前置いて、僕の腕を強くつかみ、見上げて笑った。
「どうして遅くなったんですか? 解答時間は残り三十秒をきりましたよ」
「数えていたのか!?」
「ちなみに制限時間三分です」
「余計なことばっかり考えて時間無駄にしてた!」
 まあ、でも。
 そろそろ誤魔化すのも限界なので、答えることにした。
「学校の屋上に呼び出されて青春してきたところだ」
「校舎裏がラブレターだから、屋上は決闘ですね?」
「そうだ決闘だ。命をかけた戦いだった」
 嘘は言っていない。ある意味命はかけている。一方的な上にかけたのは僕だけだが。
 ……そもそも告白するなら――あれが一応でも告白というのならば――如月更紗のヤツ、校舎裏に呼び出せばよかったのに。
そしたら一発で何が目的かわかる……ああ、駄目なのか。校舎裏で告白なんてしたら、他人に見られるかもしれないからな。
そういう意味では扉が閉まる屋上が一番あいつの目的にかなっていたわけだ。
 鋏を突きつけ、
 危機が迫ってるとつげ、
 キスをする、目的に。
「………………」
「ちなみに敵はどんなヤツです?」
「シザーメンだ」
「複数人ですか!」
「ああ、恐ろしい男だちだったよ。両手に鋏と糊を持って襲い掛かってくるんだ」
「なんだか図画工作の先生みたいですね」
「僕の母校の先生はそんな奇妙なヤツなのか……? おい、木頭先生はどうなったんだ」
「木頭先生は……いえ、ここから先は言うのはよしましょう先輩」
「何だその『あいつはもういないんだ』みたいな台詞は!? 不謹慎だぞおい」
「木頭先生は生徒と駆け落ちしていなくなりました」
「…………」
 不謹慎だった。
 というか、生徒って、よく考えるまでもなく中学生だろ……? 知らなきゃ良かったことが世界にはたくさんあることを
今改めて再確認してしまった。あの楽しい図画工作の時間の思い出が薄汚れた感じに染まってしまう。
「とにかく」
「強引な話題転換ですね。そうそう、木頭先生といえばですね、」
「いいから話題を変えさせろよ! いつまでも木頭先生を引っ張ってるんじゃねえ!」
 両手が塞がっているので兔耳のような頭目掛けて頭突きをする。高低差のおかげで楽にできた。痛いですよう、と呻く
神無士乃を無視して話を戻す。
「ようするにホームルームが長引いて遅れたんだよ」
「面白味のない答えですね」
「お前はいちいち返答に面白さを求めなきゃ気がすまないのか……?」
「面白味のない人生ですね」
「言うな! 悲しくなるようなことは言うな!」
 先輩に対してまったく尊敬とか、それに類するものがない奴だった。
 まあ……結果的にきちんと話は逸らせたからよしとしよう。
 
675 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 20:35:56 ID:yoIymAIa
「しかし神無士乃、先に帰ってても別にいいんだぞ。お前の方が終わるの早いんだし」
「そんな先輩、気にしないで下さい。それに迷子になったらどうするんですか」
「そりゃ結構歩くけどさ、電車使うわけじゃないんだから迷いはしないだろ、地元だし」
「いえ、先輩の方向音痴さを鑑みるに有りえ無い話ではないかと」
「勝手に人の設定をつけくわえんな! いつから僕が方向音痴になったんだ!」
「運動音痴よりはマシじゃないでしょうか?」
「どっちもどっちって気がするけどな……そういや知ってるか、運動神経っていう神経はないんだぜ」
「マジですか! ということは反射神経とか末端神経とかもないわけですね!」
「あーないない。間違ってテストに書かないようにしろよ」
 なんて話しながら歩きつづける。学校から家まで大体歩いて三十分くらいだ。ぎりぎり中学校の校区――自転車通学許可が出ない場所――
に済んでいるので、神無士乃は自転車を使うわけにはいかない。それにあわせて、僕もこうして歩いている。
 小学校以前からの幼馴染だ。それくらいはしてやってもいいだろう。
 可愛いし。懐いてるし。
 何気ないやり取りは面白いし。
 ちょっとバカだけど。
 それでも――いきなり、刃物を突きつけられることは、ないしな。
「先輩先輩、明日の予定はありますか?」
「学校いって帰る」
「勉強はしないのですか!」
「僕くらいになると勉強しなくても大丈夫なんだよ」
「さすが先輩です! でもそれって学校行く意味あるんですか?」
「…………」
 こいつ……世の中の学生の大半に喧嘩売りやがった。そんなことを言ってただですむと思っているのか。
意味がなくてもとりあえずで進学するやつが大勢いることをしらないのか。
 しかしここで現実の厳しさを教えてもむなしいだけなので、「あるよ」とだけ答えた。
「つまり、放課後の予定はないんですね?」
「一緒に帰るくらいだな」
「じゃあそのまま一緒に遊びに行きましょう」
 前後の関係もなく言われるが、いつものことだ。僕はさらりと答える。
「門限を守るならな」
「らじゃーっす」
 びし、と手をあげて神無士乃は返事をした。
 いつものような口約束を終えて、いつものように適当にお喋りしながら三十分を歩き続けた。他の学生たちがまったく
見えなくなったところで神無士乃は「それじゃあまた明日です、冬継さん」と言って駆けて行った。
 自分の家へと。
 神無士乃の姿が見えなくなるまで見送ってから、僕は、深く、溺れてしまいそうなほどに深くため息をついた。
 やりとりは、楽しい。
 楽しいが――疲れる。
 安らぎなどない。
 安らぎを与えてくれる人は、一人しかいない。
「まったく……今日は疲れることだらけだ」
 世界を憎むようにそう言って、僕は自分の家の門をくぐる。胸ポケットから鍵を取り出して開けて家の中へ。
 そして。
 いつものように玄関で僕の帰りを待ってくれていた人に、親愛と友愛と愛情を込めて、ただいまの挨拶をする。
「今帰ったよ、姉さん」
 姉さんは。
 一年前に死んだ里村春香姉さんは、にっこりと微笑んで、「お帰りなさい」と言った。
・第四話(了)
 
676 名前:いない君といる誰か[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 20:37:18 ID:yoIymAIa
というわけでヒロインは
・死んだ姉
・奇妙なクラスメイト
・明るい妹
です。誰エンドにいくかは未定。
あと一人くらい出そうかと思うけれどまったく思いつきません
 
677 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/01/06(土) 21:17:25 ID:JH2fa6u9
乙!
読めば読むほど妹、あや取り上手そうだ
 
678 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/06(土) 23:37:31 ID:oCwLvBbv
訂正。妹じゃなくて幼馴染だ……
そして>>652の誤字修正
「なるのは不健全であってそもそも僕は不健全でも不健康でもない!」

「なるのは不健康であってそもそも僕は不健全でも不健康でもない!」
でした
 
679 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/07(日) 00:56:56 ID:Jnnzv0LW
GJ!!死んだ姉!
 
680 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/07(日) 04:15:48 ID:384o1NQ9
死んだ姉が出てきた!?
 
681 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/08(月) 00:53:03 ID:nxdo25K6
・第五話
 里村春香姉さんは弱い人だった。他人を傷つける強さも、他人から傷つけられる強さも持っていなかった。
誰かと深く関わって傷つくのが怖くて、誰かと深く関わって傷つけるのが怖くて、いっそのこと誰とも関わらない
ことを選ぶような、そんな人だった。けれど姉さんはどこまでも弱くて、独りぼっちでいることに堪えられなくて、
それどころが他人を傷つけないことにも、他人から傷つけられないことにも堪えられないほどに――弱かった。
 圧倒的に弱かった。
 致命的に弱かった。
 弱い、か弱い、女性だった。
 自分自身の腕に傷を刻み込んで安堵するような人だった。生きることが怖くて、生き続けることも怖くて、
死にたがっていた。そのくせ死ぬのが怖くて、自分では死ねなくて、誰かに殺されるのを願っていた。
『冬継。姉さんを殺してくれないかしら』
 時折何の前触れもなく呟いていたその言葉は、間違いなく姉さんの本音だったのだろう。
 けれど――殺せるはずもなかった。
 姉さんが、生きることに堪えられないほど弱い人なら。
 僕もまた――姉さんが死ぬことに堪えられない人間なのだから。
 姉さんを殺すことなどできるはずもなかった。僕が首を横に振ると、姉さんは『そう』とだけ応えて、どこか遠くを見るような眼をした。
あれは、今にして思えば……姉さんは待っていたのだろう。
 いつか、自分を殺してくれる人を。
 腕に傷を刻みながら――ずっと、待ち続けていたのだろう。
 そして姉さんは一年前に、学校で飛び降り自殺をした。最後に、今まで一度も見たことないような、穏やかな微笑みを見せて。
 今、僕の前にいる姉さんは、そのアルカイック・スマイルを浮かべている。
 生きている間は一度しか見せてくれなかった幸せな笑みを、惜しみなく見せてくれる。その笑顔を見るたびに、僕は不思議な感覚
に襲われる――姉さんの笑顔を見れて嬉しいという気持ちと、その笑顔を浮かべさせる原因となった《誰か》に対する嫉妬が入り混
じった、胸の奥がざわめきながらも安堵するような、奇妙な心地だ。
 それでも、此処に姉さんがいること以上に、望むことがあるはずがない。
 たとえ――死んでいても。
 姉さんは、今、ここに居るのだ。
「姉さん、今日は疲れたよ。色んなことがあったんだ」
 靴を脱いで玄関にあがる。横に立って並ぶと、姉さんの方が少しだけ背が低い。
三つ編みを三つ作った髪型に銀縁メガネ。図書室にいるのがよく似合いそうだった。もっとも、
年代の関係で僕は姉さんと同じ学校に通ったことはないけれど。
 進路を同じにしたのは――せめて、同じ学校を卒業したかったからだ。
「お疲れさま。今日はゆっくり休みなさい」
 姉さんは淡々と抑揚なく言う。それでも、その声は優しさに満ちていた。
 優しさに満ちているような気がした。
「うん、そうするよ」
 僕は答えて、姉さんにキスをした。
 いつものように。
 姉さんはとくに抵抗しなかった。初めからそれを待っていたのか、眼を瞑り、くいと顎をあげて待っていたほどだ。
唇をそっとつけて、それから姉さんの後頭部を手で支える。初めは弱く。それから、唇で唇を押しつぶすように強く。
舌でその間をかきわけ、姉さんの中へと先を侵入させる。歯をなぞりながら舌を伸ばすと、姉さんの舌が僕のそれを
待ち構えていた。唾液をまとって、絡み付いてくる。
「っん――」
 姉さんの吐息が漏れるのを聞きながらも舌を動かすのをやめない。挨拶にしては長すぎるキス。
 それでも、それはいつも通りだ。
 いつもの、挨拶のキスだ。
 ちゅぱ、と唇の隙間から空気が漏れる。唾液が下に垂れたかもしれない。毒のように甘い、姉さんの唾液が。
 ああ――キスをしながら思う。如月更紗。お前が言っていたことは正しい。僕は確かに、キスの練習を姉さんとしている。
もっとも僕は練習だとは思っていなかった。ようするにそれは、姉さんが練習に僕を選んだのだろう。
 僕は練習ではなく――本気だったのだから。
 初めて姉さんとキスをしたのも。
 初めての相手が姉さんだったのも。
 全ては――単純に、好きだったからだ。
 
682 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/08(月) 01:06:57 ID:nxdo25K6
 それは死んでしまった今でも変わらない。たとえ逸脱していようと、相手が僕にしか見えない幽霊だろうと――構わない。
 独占できることを、喜ぶだけだ。
「んぁ……」
 唇を離すと、姉さんと僕の間を唾液で糸がひいた。粘質があるものの、重力があるのですぐに垂れる。それを拭うようにして
もう一度軽くキスをした。
 血の味が、するような気がした。
 それはもちろん幻味だ。姉さんが死んでいるから、そんな気がするだけに過ぎない。死人とキスをする背徳感が、キスに血の味を
付加させているに過ぎないのだ。
 キスをやめる理由にはならない。
 いつもよりも短くキスを終えたのは、そんな理由ではなかった。
 唇に、まだ、感触が残っているような気がしたからだ。
 姉さんのものではない――あの女の感触が。
「……冬継?」
 あっさりとキスをやめた僕を、姉さんが気遣うように見てきた。不審げに、ではない。姉さんが僕を疑うはずもない。
姉さんと僕の間に疑いが入るはずもない。姉さんは、純粋に僕を気遣ってくれているだけだ。
「ん、なんでもない」
 姉さんの唇を指の先で拭って答える。ついでとばかりに、そこに軽く唇をあてて、後頭部にあてた手を離した。
 名残惜しいと思ったけれど、思うだけだ。
 キスはいつでもできる。
 いつまでもできる。
「それとも、姉さんがもっとしていたかった?」
「バカなことを言わない。弟を心配しただけだ」
 笑顔でそう言って、姉さんは僕の手を握った。家に居る間はずっと触れていたいという僕の願いを叶えていてくれるのだ。
それは嬉しいが――姉さんも、多分、それを望んでいるのだろう。
 今の姉さんは、学校にも、どこにも、行けないのだから。
 そう。
 今の姉さんは家の中にしかいない。
 どこにもいけない。

『狂気倶楽部』なんてところに、行けるはずもない。

「今日は少しだけ遅かった」
「ごめん姉さん。……姉さんが望むなら、学校なんていかなくてずっと家に居ようか?」
「いや、それは駄目だ。弟がしゃんとしているのを見るのは私も嬉しいよ」
「寂しくない?」
「寂しいさ。でも、今は違う」
 姉さんはちょっとだけ背伸びをして僕にキスをする。僕もキスをしかえす。
 いつものように。
 そう、何が起ころうと、いつものように過ごすだけだ。如月更紗のことも、神無士乃のことも、家族のことも今は考えたくない。
姉さんとご飯を食べて姉さんとお風呂に入って姉さんと寝るだけだ。いつものように、いつものごとく。ただそれだけだ。
 それだけでいい。
 だから僕は、今日も姉さんとご飯を食べて姉さんと風呂に入って姉さんと寝た。
 そして翌日。
 僕は鋏の音と共に目を覚ますことになる。
・第五話(了)

683 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/08(月) 18:25:53 ID:968/Bzj7
>「いや、それは駄目だ。弟がしゃんとしているのを見るのは私も嬉しいよ」
>「寂しいさ。でも、今は違う」
こ、この口調は……。
 
684 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/09(火) 16:46:12 ID:xKdAERBY
今女王の教室見てたが真矢先生ってヤンデレだよな?
 
685 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/09(火) 20:25:15 ID:Tsc9Oxpq
>>684
いや、あれは生徒に対する確固とした新年と愛情だろ。
 
686 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/10(水) 23:09:32 ID:B28hlr6U
六話投下します
 
687 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/10(水) 23:26:38 ID:B28hlr6U
 しゃきん、という音で目覚めたら、全裸の如月更紗が隣で寝ていた。
「――姉、」
 さん、といつものように言いかけた言葉が途中で止まる。口から出かけていた言葉が、衝撃のあまりに無理矢理停まらされたのだ。言葉
と一緒に思考まで固まってしまいそうになる。
 眠気なんて、わずかも残りはしなかった。どんな目覚まし時計で叩き起こされるよりも、それは効果的な起こし方だったらだろう。眠気
をさますためのあくびさえ必要なかった。目を見開いて、もう一度閉じることすらできない。開きっぱなしの瞳は、意識から放れて目の前
の非現実を凝視していた。
 如月更紗が寝ている。
 全裸の如月更紗が寝ている。
 目をこすって、もう一度見た。
 全裸の如月更紗が寝ていた。
「……嘘だろ?」
 思わず呟いてみるが、目の前の現実は生憎と嘘でも幻でもないようだった。三十センチと離れていない如月更紗からは
確かな息遣いが聞こえてくるし、人の身体状に膨らんだタオルケットは幻覚にしては生々しすぎた。
 先のしゃきん、という音は、夢の中で聞いた音だったらしい。
 朝起きて蜘蛛になった男の気分が、少しだけ理解した。
 理解したくなかったものを理解してしまったが、グレゴリーなんとか君は間違いなくこんな気分だったに違いない。奴
には可愛らしい妹がいて彼女だけが理解者になってくれたが、僕に妹はいない。
 いるのは――姉さんだけだ。
「…………」
 視線を部屋の中へと彷徨わせてみるが、姉さんの姿はどこにもなかった。勉強机とベッドしかない、殺風景すぎる部屋。
隣の姉さんの部屋には本棚が三つもあるが、比例するかのように僕の部屋には何もない。無趣味もいいところだ。
 如月更紗はまだ寝ている。目を瞑り、規則的に薄く息を吐いている。そのたびに、わずかな膨らみのある胸が上下して――
ああ、これ以上直視していると自分が犯罪者にでもなった気分だ。それでも視線は止まらない。夏が近いということもあって、
僕はタオルケット一枚しか使っていなかったが、その半分以上を如月更紗に奪われている。もっとも、それで隠せているのは
下半分だけで――くっきりと形の見える鎖骨から緩やかな胸丘を通って、小さなヘソ下から腰の下あたりまで、何も隠すもの
なく見えている。
 こいつ……寝間着どころか、下着すらつけてねぇ。
「悪夢だ……」
 思わず呟くが、現実が現実でしかないからこそ、悪夢より悪夢的なのだろう。朝起きたら隣に全裸で女子が寝てるなんざ、一昔前の
漫画でしかありえない光景だ。
 現実で起こると、欲情よりも、呆れが先にくる。
 何も着てない如月更紗を見るのはこれが始めてだが――何度もあってたまるか――確かにこいつの姿は良いと思う。それは認めよう。
女性的な膨らみとは彼方の関係だが、その代わりに絵画的な綺麗さがある。美術の教科書にのってる非人間的なプロポーションをした
少女肖像画からそのまま抜け出してきたような格好だった。そう考えれば、裸婦画を見ているようなものだ。欲情なんてするはずがな
い――いや、待て。
 そもそも。
 ようやく僕は原初的な、まず最初にたどり着かなければならないはずの疑問に辿り着く。あまりの光景に脳が停止していたのは事実
だったらしい。普通ならば、まず大声で叫ぶと同時に警察に電話しなければいけないはずだ。
 事象だけ捉えてみれば――寝ている間に不審者が家屋侵入して同衾していたのだから。
 追い出すか叫ぶか逃げるか頭の中でサイコロを転がし、
「おはよう、冬継くん」
 なんて、目を瞑ったまま、如月更紗が挨拶をした。
 

688 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/10(水) 23:50:26 ID:B28hlr6U
 …………寝てたんじゃなかったのか。
 僕の目の前で、全裸の如月更紗は細く目を伸ばしながら、そのしなやかな腕を伸ばした。制服を着ているときでもその
腕は“生”で見ているはずなのに、こうして他の部分まで見えていると、妙に艶やかに見える。指の一本一本までそう見
えてしまうのは、健全な学生としては無理もないことだろう。
 僕が健全な学生なのかは、ひとまず置いておく。
 如月更紗はその腕を僕の枕の下へと差し込み、何をするのかと問うよりも早く再び腕を引き抜いた。
 手には、長い長い、三十センチもありそうな長方形の鋏が握られていた。
「…………」
「しゃきん」
 自分で言いながら、如月更紗は鋏を開け、閉じた。しゃきん、という金属のすれる良い音がする。どうみても
違法改造の異常な鋏なのに、音だけは耳に心地良い。
「しゃきん、しゃきん、しゃきん」
「繰り返すなよ! 一度で満足しろ! 何がやりたいんだお前は!」
「朝から元気ね冬継くん」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
 平然と言う如月更紗に突っ込んでしまう。こいつ、平常心とか平静とか、そういう言葉がやたらとよく似合うな……
普通『寝てる間にベッドに忍び込んでいる』なんてホラー映画の一シーンにしか過ぎないだろうに、こいつがやたらと
堂々としているせいで、恋人同士が行為のあとに惰眠を貪ったようにしか見えない。
 いや――恋人、なのか?
 そんなことを承知した憶えは一切ないが、あるいは、如月更紗は勝手にそう思い込んでいるのかもしれない。昨日の
言動を思い返せばありえそうなことだった。
 だとすれば……訂正しなければ。
 そのことを言おうとした僕の機先を制するように、如月更紗はくすりと笑い、
「下の方が元気ねと言ったのよ」
「朝から下ネタをふるなよ!? ただの生理現象だ!」
「朝以外なら生理現象じゃなくて欲情になるわね」
 さらりと言って、如月更紗はくすくすと笑う。その視線は、僕の下半身へとそそがれていて……
「……ッ!!」
 自分で言った通りに、朝の生理現象が起きているのを確認してしまった。迂闊だった……不健全かもしれないが、
別に不能というわけでもないのだ。起こりえて当然だろう。
 慌てたまま、深く考えずにただただ隠したい一心でタオルケットを腰に寄せる。が、一枚しかないタオルケットで
そんなことをすれば当然――
「あら」
 不思議そうな、如月更紗の声と同時に。
 彼女の下半身を隠していた布切れが、すべて剥ぎ取られた。
「…………ッ! ……!?」
 完全に――本当に一糸纏わぬ姿になってしまった如月更紗を真正面から見てしまい、何も言えなくなってしまう。
隠したり恥かしがったりしてくれればやりやすいものの、如月更紗は横になったまま、身じろぎすらしようともしない。
普通手で隠したり叫んだりするものじゃないのか。
 むしろ僕が叫びたい。
 全裸でベッドに寝る如月更紗は、タオルケットを剥ぎ取った僕を見て、笑顔のまま言った。
「――見たかったの?」
「断じて違う!」
「じゃあ脱がせたかったのね」
「更に違う! そんなことがあってたまるか」
「じゃあ……」如月更紗はさらに考え込み、これは間違いないぞとばかりにいい笑顔を見せて、「襲いたいのね?」
「お前が僕のことをどう思ってるか、なんとなく分かった気がしたよ……」
「シスコンの駄目人間?」
「あってるけどさ……」
 合ってるけど。
 言うなよ、そういうこと。
 後者はともかく――前者は、簡単に口にするな。
 
689 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 00:02:43 ID:VQEobuYl
 僕の気配が変わったのに気付いたのか、如月更紗は神妙な顔をして視線をそらした。最も全裸なのでまったく様にならない。
一瞬で気まずくなった空気の中、如月更紗がぽつりと、
「舌が滑ったわね」
「口が滑るんじゃないのか……?」
「キスをしたせいだわ」
「昨日のことだろう、それ」
「いいえ、いいえ」
 如月更紗は器用にも、寝たまま首を横に振った。彼女の裸体を隠すように伸びている髪が蠢く――ああ、その光景を艶かしいと
思ってしまっても、罪はないのだろう。白い肌に黒い髪は良く映える。
「つい一時間ほど前にも」
「不法侵入した挙句に寝てる人間にキスをしたのか!?」
「冬継くん、無用心よ」
「寝るたびに警戒するなんて非日常的なことできるか!」
「いえ、いいえ。そうでなくて戸締りがよ」
「戸締り……?」
 つまり、どこか窓なり扉が開いていたのか……? そりゃ今のこの家には盗まれるものも襲われるものもない。両親もいないし、何よりも
大切な姉さんは――僕以外には見られない。姉さんの部屋には誰も入ることができない以上、放火でもされない限り、どんな泥棒が入ったと
しても大した被害は受けない。
 そういった事実もあり、戸締りがおざなりになっていたのも事実だ。ひょっとしたら、鍵をかけわすれていたのかもしれない。
 まあ……それでも夜中に人の家にまで来て忍び込む理由の正当化にはならないが。
 如月更紗はしゃきん、と鋏を鳴らし、確信的に断言した。
「シリンダーは新しいのに交換するべきね」
「ピッキングだな!? ピッキングしたんだなお前!」
「窓を割られなかったことは僥倖というべきね」
「そう言うってことはお前割る気だったんだな!?」
 確かに如月更紗が持っている鋏をつかえば、窓の一つは二つ破壊は容易いだろう。しっかりとしたつくりをしているから、長い
だけでなく破壊力も十分にあるだろう。それを片手で振り回せるということは、如月更紗は意外と力があるのかもしれない。見た
限りでは、箸しかもてないような細腕なのに。
「しかし、シュールだな……」
 思わず口から出た僕の言葉に、如月更紗は目だけで《何が?》と問いかけてくる。
「でかい鋏持った全裸の同級生と添い寝してる事実がだ」
 言って、未だおきようとしない如月更紗を置いてベッドから身を起こした。身体にまとわりついていた
タオルケットを如月更紗の身体に投げつけてやる。いくら“裸婦画のような”裸身だとはいえ、クラスメイト
の素肌をじっと眺め続けているとおかしくなりそうだ。
 ただでさえおかしな頭が、さらに壊れてしまいそうだ。
 ベッドから離れ、部屋を横断して勉強机に座る。着替えようかと思ったが、今こいつの前で着替えなんて隙を
見せたくないのはやめた。ぼろぼろのGパンにシャツのみという姿だが、全裸やパジャマよりはましだろう。
 如月更紗は、僕と同じように身を起こし――けれどベッドから離れず、立ち上がることもせずに御姫様座りを
した。タオルケットを被ってはいるものの、前を閉じていないせいでほとんど見えている。胸と鎖骨の一部が髪の毛
で隠れているのがやっぱり艶かしい。
 というか……今更気付いたが、こいつ生えてないのな……
 脇と股間に流れかけた眼をむりやり如月更紗の顔に固定する。
 阿呆なことは、抜きだ。
 そろそろ――真面目になろう。
 全裸の衝撃からようやく抜け出し、僕は如月更紗を睨みつけるようにして、問うた。
「それで――納得のいく説明をしてもらおうか」
 自分でもきついと感じるような声を前にしても、如月更紗は少しもひるまなかった。
 妙に印象に残る、嘲うような、笑うような、微笑むような、楽しむような――曖昧な笑みを浮かべて、如月更紗は言う。
「私がその気になれば――冬継くんは死んでいたよ」

・六話(前)了
 
690 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 00:04:43 ID:VQEobuYl
一時中断です
>>677
他で指摘されてるよう、わざと作風を変えて「コミカルさ」の練習も兼ねてます
が、どうもいまいちな気がして、元の深く沈む感じの文章に変えるかどうか悩み中
とりあえずそろそろ病みはじめたり、エロが入ったりします
 
691 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 00:09:10 ID:aA8tVlPY
最高っすわ。続き、楽しみに待ってます。
 
692 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 04:47:47 ID:zAx+jDpc
因みにグレゴリーではなくグレゴールだったと思います。
 
693 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 12:26:19 ID:MhCwlwlb
蜘蛛ではなく毒虫(原典の表記からすると芋虫もしくはムカデ系)だったと思います。
 
694 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 12:27:31 ID:MhCwlwlb
面白いから別にかまいはしないと思いますが、一応。
 
695 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 17:09:56 ID:RYdu6W/M
>>694
ご指摘ありがとうございます
前者は作中の人物の勘違いとして、後者は小さな伏線としての意図的な間違いです
分かりにくくて申し訳ありません
 
696 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 17:39:38 ID:RYdu6W/M
 ――死んでいた。
 それは言われるまでもないことだ。寝ている間は誰だって無警戒だ。寝首をかく、という言葉があるくらいだ、『その気』さえあれば、
子供にだって殺すことことは容易い。そうした危険性を普段意識しないのは、《その気》になるような人間が周りに存在しないからだ。も
しもそういう人間が大多数を占めていたら、僕らは眠ることすらできなくなるだろう。
 けれども現実は違う。そもそも家とは、そういった外敵から身を守り、安眠するために存在するのだから。
「そういった言葉は、危険性の低い人間が言うことだ」
「私はその気にならなかった。私は冬継くんを殺さなかった。それでは不満?」
「ああ、不満だね」
 吐き捨てるように僕は言う。朝起きて隣に鋏があるのに、不満を覚えない奴は聖人君子か狂人だけだ。
「そんな忠告をするだけなら――わざわざ忍び込むことはないだろう」
 おや、という顔を如月更紗はする。馬鹿にされたような気がしたが、無視した。
 そう――言われずとも、それくらいは気付いている。如月更紗はようするにこう言いたいのだ。
『私がこうして入ってこられた以上、他の悪意を持っている誰かが同じように忍び込むことも可能なのだ』、と。
 けれど。
「お前以外の誰がそんなことをするっていうんだ」
 確かに夜寝ている間に忍び込まれたら身の危険は危ういだろう。それは理論だけのことで、実際に忍び込まれたのは、
十何年と生きていて今日が始めてた。比較的無茶苦茶な性格をしている神無士乃だって、夜訪れるときはインターホンを
鳴らす。窓を割ったりピッキングして侵入した挙句、全裸で添い寝をされたことなど一度もない。
 もっとも、ピッキングも窓を割ることもせず、隣に寝ていた姉さんが夜部屋に来ることは――多かったけれど。
 そのことは顔に出さないように努め、僕は如月更紗を睨む。睨むが、相手が全裸なのでいまいち睨みづらい。
 如月更紗はその身体を隠そうともせずに、言った。
「――チェシャ」
 その言葉に、思考が一瞬だけ止まる。
 チェシャ。
 不思議の国のアリスに出てくる、にやにや笑いだけが残った透明猫。
 物語の中の、登場人物。
 けれど、今如月更紗が口にしたのは、間違いなく――物語の外の登場人物のはずだ。
《チェシャ》と呼ばれる、誰かの話。
 固まってしまった僕に対し、如月更紗は愉悦の笑みを浮かべて言葉を吐いた。
「言ったでしょう? チェシャの奴が貴方を狙っていると。そして、私は貴方の安全を保証すると」
「……なあ、昨日もその名前が出てきたんだが、誰なんだそれ」
 チェシャ。ソレが、殺意を持って僕を狙っていると――如月更紗は言った。
 つまりは、敵だ。
 敵がいること自体に問題はない。生きていれば敵は勝手に増える。問題は、どうして敵なのかということだ。
 如月更紗は、朗々と、唄うように話を続けた。
「チェシャ猫は探索係。姿を消して、《敵》がひっかかるのを待っている。アリスと森の中で出会ったように――異邦人に対する、警戒役。
 向こう側に入ってしまえば、向こう側に接触しようとすれば、必ずチェシャの縄張りに触れることになる」
「……マークとセンサーとトラップが一緒になったような奴か」
「無粋な言い方だけれど、そういうことね」
 索敵と、警戒と、罠。
 道を行こうとすれば触れてしまい、姿も見えぬままに後を尾けられる、か。
 だから、チェシャ猫。
 成る程――と、僕は如月更紗に気付かれないように、心中で納得した。チェシャが誰かは分からないが、
どうして狙われているのかは何となく分かった。
 ようするに、調べ物の最中に僕はチェシャのセンサーに引っかかったのだ。『立ち入り禁止』と書かれた向こう側
に入ってしまった人間を、中にいる番犬が食い殺すように。
「つまり……そいつが僕を殺しにくる、と?」
「少し違うわね」
 如月更紗は指をぴんと僕に突きつけた。その際にタオルケットが肩から落ちて再び裸体がはっきりと見えてしまうが、
今はそんなことを言っている場合ではない。如月更紗も、タオルケットを被りなおそうとはしなかった。
 僕を指差したまま、如月更紗は――笑うことなく、言う。
「チェシャは探索係。チェシャは呼び水。貴方が奴に見つかれば、きっと彼女がやってくるわ」
「彼女?」
「そう――」
 如月更紗は、僕の問いに。
 笑うことなく、最後まで笑わないままに、どこか憂いを帯びた瞳で、告げた。
 
「――裁罪のアリスが、やってくる」
 
697 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/01/11(木) 17:46:30 ID:ZrXA2zGW
>>690
コミカルなら、もう少し地の文を抑えた方が良いかも。会話メインで進めていくと少しテンポがよくなる希ガス。書いたことないけど。
なにはともあれGJ
 
698 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 17:53:18 ID:RYdu6W/M
 その名を聞いたとき、僕の背を走ったのは――まごうことなき怖気だった。
 名前を聞いただけで、心が揺さぶられる。
 名前を言われただけで、恐怖を覚える。
《裁罪のアリス》のアリスとはそういう存在だったのだ。その名前を、僕は知っている。調べ物の最中に、
幾度か突き当たった、幾度となくめぐり合った、忌避すべき噂話。
 噂。
 そう、噂だ。噂の中にのみ、『裁罪者』は存在する。その名を口にする少女たちは、あるいは誇らしげに、あるいは
忌避すべき者として、あるいは恐怖と共に――その名を告げる。そのくせまるで実体のない、色鮮やかに心に浮かんでは
消えていく、亡霊のような噂話だった。
 それでも、彼女たちは確信していた。『裁罪者』がこの町のどこかにいることを。
 ――『裁罪のアリス』は殺人鬼だ。
 噂では、そういうことになっていた。
 裁罪のアリスは殺人鬼であり、救世主であり、唾棄すべき敵であり、敬愛する仲間であると。人を守ることも
人を襲うことも人を救うことも人を哂うこともない。願いを聞かなければ導きもしない。
 愛しもしなければ――憎みもしない。
 年齢も名前も分からない。顔も姿も知られていない。黒い傘を持った少女で、黒い猫を連れているということ
くらいしか、話の中では正体が伝わっていない。
 はっきりと分かっていることは、ただの一つだけだった。
『裁罪のアリス』は――亡霊のように現れ、名前の通りに、罪を裁くのだと。
《ソレ》に関わるものの罪を、容赦も微塵もなく裁く。その基準も意味も彼女しか知らない。
『貴方は有罪』と告げて、何の容赦も何の慈悲もなく、相手を殺す。
『貴方は無罪』と告げて、何の躊躇も何の嫌悪もなく、相手を殺す。
 何の指針もない、滅茶苦茶な裁判が行われるだけだ。それはさながら、不思議の国のアリスの終盤で出てきた、
あのおかしで理不尽な『裁判』のように。
《ソレ》に関わるモノ全ての上に平等に訪れる、都市伝説の殺人鬼のような――そういう、噂だった。
 だからこそ、僕は思う。 
 ――上等だ、と。 
「アリスが――僕を?」
「その様子だと、知っているみたいね」
 如月更紗がくすくすと笑う。僕の態度から、僕が《裁罪のアリス》のことを知っていると読み取ったのだろう。
それはあまり歓迎すべき事態ではなかった。その噂は、普通の人の間で噂にあがるようなものではないのだ。学校
で誰とも話さずに一人片隅で本を読んでいるような、そういう無口で《噂話》とは縁遠い孤独な少年少女の間に密
やかに広まる噂話なのだから。
 例えばそれは、姉さんのように。
 例えばそれは、如月更紗のように。
 周りと会合できないような人間の中で広がる噂なのだから。それを知っているということは――知ろうと努力
したのだと認めることに他ならない。
「けれど里村冬継くん? 狙われるのは、貴方が悪いのよ」
 けれど、如月更紗は。
 そんな僕の心配を全て吹き飛ばすかのように、決定的な一言を。
《ソレ》の名前を、告げた。

「貴方が狂気倶楽部について調べようとするから――チェシャの縄張りに引っかかったのよ?」
 
 

699 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 18:08:32 ID:RYdu6W/M
「………………」
 その言葉を聞いて――もう、ふざける気はなくなった。
 不法侵入も全裸も明日のことも昨日のことも、全ては後回しだ。
 どこまで知っているかは分からないが……そこまでを知っている相手が目の前にいるのだ。
他の全てを差し置いてでも、向かい合わなくてはならない。
 話を聞かなければならないし、
 場合によっては――殺さなくてはならない。
「如月更紗」
 僕は彼女の名前を呼びながら、座った机の引き出しを開けた。そこに入っているのは、鈍く銀色に光るナイフだ。刃の長さは二十センチほどで、
如月更紗の持つ鋏よりも短いが、使い勝手なら彼女のソレよりも良いだろう。
 魔術単剣だ、と姉さんは誇らしげに言っていた。
 これは儀式に使うのよ、と言いながら、姉さんはこのナイフで自分の手首を切っていた。
 今では、ただの遺品だ。それでもこれが、他人を殺すことのできる道具であることには違いない。
「――どこまで知っている?」
「貴方が狂気倶楽部について、こっそりと調べたこととか?」
 如月更紗は笑っている。突然ナイフを取り出した僕に対して惑うこともなく、常と変わらない笑顔を浮かべている。
 ああ――そうか。
 全裸とか、不法侵入とか、そういったレベルの話ではなく。
 この女も、向こう側に居るのだと、今更ながらに僕は実感していた。恐れるべきは突然鋏を取り出したことでも、鋏を振り回すこと
でもない。それこそを日常としている点だ。
 如月更紗にとって、誰かが突然ナイフを取り出したり、誰かが突然鋏を取り出したり――その挙句に刺したり刺されたり殺されたり
殺したりするのは、何ら特別なことではないのだ。
 だからこそ、彼女は《いつものように》笑っている。
「貴方の姉さん――里村春香の死について調べるべく、あちこちを探りまわっていたこととか?」
 笑ったまま如月更紗は続ける。
 その言葉には迷いはないし――その内容に、間違いはない。
 春香姉さん。
 僕の愛していた姉さん。
 一年前に学校から飛び降りた姉さん。
 狂気倶楽部というわけのわからない団体に身を置き――12月生まれの三月ウサギと呼ばれていた、姉さん。
 他人と触れ合うことを怖がっていた姉さんは、僕の知る限りいつでも一人だったはずだ。僕以外の人間と触れ合う
こともなく、《集団》に所属することもなく、一人で生きていた姉さん。
 そんな姉さんが、狂気倶楽部というものに属していたことを、僕は姉さんが死んでから初めて知った。それ自体は
別にかまわなかった。姉さんの社交性がほんの少しだけ広がろうが、姉さんが僕の姉さんであることに変わりはなかっ
たからだ。
 問題は、死んでしまったことだ。
 死ぬなんておかしい、とは思わなかった。姉さんはいつだって死にたがっていたから。
 自殺なんておかしい、とは確信していた。姉さんはいつだって死を怖がっていたから。
 なら。
 姉さんを殺した奴が――狂気倶楽部の中に、いるに決まっているのだ。
 だからこそ僕は、それについて調べ出したのだから。
「よく知ってるな」
「貴方は、隠そうとしなかったから」
 くすくすと如月更紗は笑う。その笑いが疎ましく、同時に心地良い。
 彼女は、知っている。
 僕の知らない何かを知っている。それが嬉しくてたまらない。
 姉さんを殺した犯人を知っているなら――殺してでも、教えてもらう。
「一応隠してはいたんだけどな。それでも、動いていれば《向こう側》から何らかのリアクションがあると思った。
こんなにも早いとは思わなかったがな」
「あら、あら、あら。つまり私は、」
 如月更紗は意外そうに、そして楽しそうに笑う。
「貴方がチェシャにひっかかったように――私は貴方に引っかかったのね?」
「そういうことだ」
 言って――僕は、机を離れた。ベッドまでは五歩もない。
 ナイフを持ったまま、如月更紗との距離を詰める。
700 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 18:50:56 ID:OS6AtQFQ
連投規制にかかっているのか?
701 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 18:57:21 ID:bfGI7nrl
日本語がおかしいおかしい
702 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 19:25:26 ID:RYdu6W/M
 五歩は近いようで、遠い。間を詰め切ってしまえば、足ではなく腕を動かす必要がある。振うのか、振わないのか。
それを決めなくてはいけない。五歩を歩くという、短い時間の間に。
 一歩前へ出て、如月更紗に問う。
           ・・・
「如月更紗。お前は――誰だ?」
 確信を込めて、核心を問う。
 里村春香姉さんが、12月生まれの三月ウサギだったように。
 如月更紗は《誰》なのかと、僕は問う。今ここに至ってまで、彼女が無関係な人間だとは思わない。
そこまで知っているからには、彼女は関係者のはずだ。そうでなくとも、向こう側の存在であるのは間違いない。
 敵なのか、味方なのか――そんなことはどうでもいい。
 問題はただの一点。姉さんを殺したか否かということだけだ。
 如月更紗は、近づいてくる僕にも、僕の持つナイフにも構わずに、笑いを浮かべた。
 楽しそうな――笑いだった。
 笑みを浮かべて、如月更紗は言う。
 
「君の姉さんと、君の姉さんが、君の姉さんに、最も仲が良かった人を知っている」
 それは――まるで別人のような、皮肉に満ちた言葉だった。冗談を言っているときとも違う。
さながら、《そんなことはどうでもいいのだ》と言いたげな、投げやりすぎる言葉だった。
 如月更紗ではなく。
 如月更紗の姿を借りた、誰かが言っているような、そんな口調だった。
 だが今はそれを気にしている暇はない。彼女の言った内容こそに、注意するべきだ。
「何――?」
 最も仲が良かった。
 それは――僕よりもか。
 僕よりも、姉さんと仲が良かった存在が、いるというのか。
 二歩目を踏み出し、僕は如月更紗に問う。
「そいつが、姉さんを殺したのか?」
「さあ」
 如月更紗は肩を竦めた。むき出しの肩が上へと上がり、鎖骨が蠢く。
「私は知らない。貴方も知らない。でも、《彼》なら少なくとも知っているでしょうね」
 くすりと、笑い。
「何せ、《彼》は『12月生まれの三月ウサギ』の最後を看取ったのだから、ね」
 ――それは、つまり。
 ソイツは姉さんの死に、直接的にも間接的にも関わっているということじゃないか。
「そこで何があったのか、あるいは何もなかったのか、私は知らないわ。知っているのは《彼》だけ。
だから貴方がそれを知りたいというのなら――《彼》に聞くしかないよ」
 その言葉に、僕は三歩目を踏み出した。
 ベッドまではあと一歩。ベッドの上にいる如月更紗までは、あと二歩。
 二歩で、手が届く。
「その《彼》は、《誰》だ?」
 もっとも重要な問いに、如月更紗はあっさりと答えた。
「『5月生まれの三月ウサギ』」

703 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 19:30:48 ID:RYdu6W/M
「…………」
「里村春香さんの、《次》」
 ――次。
 その意味を僕は知っている。狂気倶楽部の代替制度。いなくなった穴を誰かが埋めて延々とお茶会を続ける遊び。
 姉さんを殺したかもしれない奴が、姉さんの居場所を奪って、今もなおそこにいる。
「もっとも、もう更に《次》になったけれど」
「……どういうことだ?」
「ウサギの寿命は短い、ということよ」
 如月更紗は意味ありげに笑った。ウサギの寿命は短い――その言葉を心中で咀嚼する。
 12月生まれが、五月生まれに引き継がれて。さらに、別の人になったということだろうか。
 入れ替わり、入れ替わる。そうしてお茶会は続く。なら、ソイツもまた、姉さんと同じように死んだというのだろうか?  姉さんの後を、追うように?
 四歩目を踏み出すと、如月更紗は何を訊くよりも早くしゃべり出した。
「彼に会わせることはできるけれど、今はまだ難しいわ。彼もまた、貴方と同じようにゲームの途中だから」
 そろそろ、終わりそうだけれど――そう付け加えて、如月更紗は笑った。
 ゲームの途中。
 そいつもまた、僕と同じように、チェシャに追われているのだろうか。代替わりしたということは、狂気倶楽部
から抜け出したということだ。そこで何があったのか、少しだけ気になった。疑問だけはいくらでも浮かんでくる。
 が、それは、僕には関係のない話だ。僕と姉さんには、関係のない話だ。
「お前が殺したんじゃないんだな?」
「私は誰も殺せはしないわよ」
 笑いながら如月更紗は言う。殺人者ではないことを誇らしげに。
 人殺しの道具にしか見えない鋏を持ったまま、誇らしげに如月更紗は言う。
「貴方こそ――今、私を殺すのかしら?」
 足が止まる。
 如月更紗までは、あと一歩だ。
 あと一歩で、手が届く。
 あと一歩で――ナイフが届く。
 夜中に家に忍び込んできた不審者を返り討ちにした。それは、果たして正当防衛になるのだろうか。
 殺すことにためらいがあるはずもない。
 けれど――殺したことで、目的が達せないのは、困る。
 僕は人殺しになりたいのではない。
 人を殺したいのではない。
 姉さんの死について、知りたいだけなのだから。
 そのことに如月更紗もまた気付いているのだろう。鋏を向けることもなく、逃げること
もせずに、悠々と僕を見たまま彼女は言う。
「自殺ということになっているけれど、真相は彼しか知らない。それを知りたいのは私も一緒よ。
なにせ――彼女は、オトモダチだったのだから」
 オトモダチ。
 その言葉ほどうそ臭いものはなかったが、とりあえず聞き流すことにした。
「《五月》を紹介するのは吝かではないわ。ただし、そのためには貴方は乗り越えなくてはならない」
 何を、と問いかけて気付いた。
 ここで、話が元に戻るのだ。
「真に知りたければ、チェシャの手を逃れないといけない。だから言ったでしょう、里村冬継くん。
 貴方は命を狙われていると。そして、貴方の安全を私が保証すると」
 しゃきん、と鋏を一度鳴らし、如月更紗は笑みを浮かべたのだった。
 
704 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 19:30:53 ID:gm7y/I3X
(´,_ゝ`)プッ
 
705 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 19:46:41 ID:RYdu6W/M
 その笑みを見ては、何も言えない。
 如月更紗はいつだって、僕に向かって親愛の笑みを向けている。時にその笑みが変貌することがあっても、
殺意に変わることはない。敵対する意志を見せようともしない。
 彼女もまた、狂気倶楽部の一員であるはずなのに。
 その確信があったからこそ、屋上であんなことをされても、拒否することも逃げることもしなかったのだ。異常
な相手が近づいてくることは避けるべきことではない。僕はまさにそれを待っていたのだ。
 もっとも、それがクラスメイトだとは思わなかったが。 
 世界は狭くて近いものだ――それとも、狂気倶楽部は山のように存在して、その中でクラスメイトだという
理由で近づいて来たのだろうか?
「出来すぎていると思わないか、状況が」
 その疑問を、如月更紗に向けてみる。特に意味もない。考える時間を埋めるためのような質問だ。
 それでも如月更紗は律儀に答えてくれた。僕を指差していた手をすっと降ろし、
「そうでもないわ、そうでもないの。貴方が自分の姉がいるという理由で高校を選んだように、私
も似たような理由で進学したのだから。遭遇率は、遅かれ早かれあったのよ」
 同じクラスだったのは、奇遇だったけれどね。
 そう言葉を結んで、如月更紗はしゃきんと鋏を鳴らした。
 姉さんの友達だと、如月更紗は言った。
 なら、こいつはきっと――
「……チェシャは」
「え?」
「チェシャは、もう僕のことを知っているのか?」
 僕は、ナイフを下ろして、彼女に問うた。向けられたナイフが外されても、彼女は笑い続けている。
ただ、その笑みが――少しだけ嬉しそうだったのは、きっと僕の気のせいなのだろう。
「さあ?」
「…………」
「本当よ。チェシャに会うなんて私にだって出来ないわ。けど――動いている以上、すぐに現れると思う」
「だから、か」
「…………?」
「だからお前は、夜中に侵入なんてまでしてまで襲撃を警戒していたのか。
 律儀に学校帰りに尾行までして」
「あら」如月更紗は目を丸くして「気付いてたの?」
「いや、ひっかけてみただけだ」
 本当に気付いていなかった。
 ただ、昼にあんなことを言って、夜にまで訪れたのに、その《下校時間の空白》は不自然だと思っただけだ。
家を知られていることも説明がつく。恐らく、正直に訊ねても教えてくれないだろうと思ったから、そういう手段
をとったのだろう。あるいは離れてチェシャを警戒していたのかもしれない。
 僕の身の安全を保証すると、如月更紗は言った。
「……どうしてだ?」
「何が?」
 目を丸くしたままの如月更紗に、僕は問う。それはこの状況で、たった一つだけ残った疑問だった。
「お前が僕を殺しにくるならまだ分かる。けど――お前に守られる理由がわからない」

706 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 20:01:31 ID:RYdu6W/M
 そうだ。狂気倶楽部の一員であるはずの如月更紗が、狂気倶楽部と敵対する行動をとる僕を
始末しにきたのなら納得できる。彼女が持っている鋏でさえ、その説の補強になるだろう。こ
いつが僕を殺すために送り込まれてきた人間だとしても、僕は驚かない。
 それを返り討ちにして真実に辿り着こうとすら思っていたのだから。
 けれど訪れたのは、キスの下手くそなクラスメイトだった。その上、自分の所属している狂
気倶楽部を裏切って僕を守ると、そう言っているのだ。
 わけがわからない。理由がわからない。
 納得が――いかない。
「それだけ説明してくれたら――僕はお前を信用するよ、如月更紗」
 信用して、仲間になってやる。信用して、守られてやる。
 僕と、姉さんのために。
「ああ、なんだそんなこと……」
 如月更紗は、僕の問いを《そんなこと》と切り捨てて笑った。言葉と一致しない
ちぐはぐな嬉しそうな笑み。その問いを待っていたのかもしれない。
「言ったでしょう? 里村春香とは、オトモダチだったのよ」
「……それで?」
「貴方の話も聞いている。姉に狂った素敵な弟がいると」
「…………」
 言われたくないが、聞き流す。それは、如月更紗の評価ではない。姉さんが、僕に下した評価だ。
 そしてそれは――その通りだ。
「そんな愉快な弟に、私は興味を持っていたのよ。一度会いたいと。
 だからこそ進学したし――貴方と同じクラスになれたとき私は悦んだわ」
「…………つまり?」
 要領を得ない発言に、僕は先を、結末を促す。
 如月更紗は僕を見たままに、鋏をニ度しゃきんしゃきんと鳴らして、彼女の理由を口にした。
「――惚れたら悪い?」
「…………」
「好きな人を守りたいと、思ったらおかしいかしら?」
 それが。
 それが――お前の理由か、如月更紗。
 屋上でのやり取りも、ここでのやり取りも。行動も、理念も。それが理由なのか。
 好きだからそうするという、単純な答え。
 そんな馬鹿げたことが、お前の行動理念か。
 なら――お前は、僕と一緒だ。
 死んだ人間に恋し続ける馬鹿な僕と、お前は同じだ、如月更紗。
「まったく……どいつもこいつも」
 僕はナイフを床に放り投げ、部屋の片隅を見た。如月更紗もつられたように見るが、彼女には何も見えないだろう。
 部屋の隅には、姉さんが立っている。
 目を覚ましてからずっと……いや、如月更紗がきてからずっと、姉さんはそこで僕らを見ていた。僕にしか見えない姉さんは、
いつだって側に居る。僕が姉さんのことを想っている限り。
 姉さんは、僕と、裸の如月更紗を見て怒っていない。笑っている。
 なら――もう少しだけ、僕はやり続けられるだろう。姉さんが微笑んでくれている限り。
「如月更紗」
 名前を呼んで、僕はさらに一歩を踏み出し、ベッドの上にあがる。
 如月更紗に手が届く距離だ。けれど、もう手にナイフは持っていない。如月更紗が鋏を持っているだけだ。
「なぁに、冬継くん?」
 楽しそうに如月更紗が答える。ああ畜生、こいつはきっと、僕の答を知っている。僕の取りえる道はそれし
かないのだから。知っているからこそこんなにも楽しそうに笑っているのだ。
 いいだろう、如月更紗。
 僕はお前の提案に乗ってやる。
「目ぇ潰れ」
 昨日そうしたように、僕は如月更紗に言う。彼女は順々に目を瞑った。
 全裸のクラスメイトが、ベッドの上で少しだけ顔を上げて、目を瞑っている光景。
 ぞくぞくるのは、これからのことを考えているせいか、それともこの状況のせいか。
 分からぬままに、僕は如月更紗へと手を伸ばし、
 ぴんぽーんと、間の抜けた音をインターホンが吐き出した。
 
707 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/11(木) 20:04:33 ID:RYdu6W/M
以上で少し長めの六話が終了です。
読んでくれてる人ありがとうございます
《終わらないお茶会》と繋がっていますので、先にそっちを読んでいただけたら幸い。
>>597
あーそうか、地の文が多いからか……
今度試してみます

次は、幼馴染襲来。

708 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/11(木) 20:31:15 ID:fI/Ij39B
化物語にそっくりというのが残念。
 
709 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/12(金) 12:09:44 ID:+LATI9LY
age房にかまうことないと思うが
 
710 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/12(金) 22:49:39 ID:J8cR6X3g
>>709
ごめん>>697でした
 
711 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/12(金) 23:10:40 ID:924GIdja
>>707
如月さんも「誰か」なんだろうか…?
とにかくGJです!でも確かにコミカルさではマッドハンターの時とあまり変わらないw
 
712 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/12(金) 23:34:25 ID:J8cR6X3g
七話投下します
 
713 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/13(土) 00:04:41 ID:+bXpdwYt
 神無士乃についてのあれこれ。カンナシノ、とカタカナで書くとどこまでが苗字でどこまでが名前なのか
分からないな、とからかうと怒られたことがある――なんてささやかなエピソードはここでは置いておく。
神無士乃がクラスで神無ちゃんと呼ばれていようが士乃ちゃんと呼ばれていようが僕にはまったく関係ない
からだ。二歳も違うと世代が一つは違うと考えていい。神無士乃と同じ学校に通うのは僕が三年生で士乃が
一年生、という形にしかならないので、彼女が中学校でどんな扱いを受けていたのか知らない。高校に入っ
たとしても知らないままだろう。もっともそれは、神無士乃が僕と同じ高校に進学すればの話だけれど。
 20センチは低い身長。小さな背と大きな胸。兔の耳みたいなツインテール。丸い瞳と、女性らしい体つ
き。如月更紗が人間味のない彫刻だとすれば、神無士乃は人間味に溢れる少女だった。行き帰りに着ている
モスグリーンのチェックの制服が印象深いけれど、結構な数の私服も持っている――それを知っているのは、
休日に共にどこかに遊びにいくからだ。姉さんと予定がないときは、神無士乃と遊ぶ。それが僕の日曜だっ
た。
 何せ、神無士乃は幼馴染なのだから。
 仲がよくも悪くもない。ただ神無士乃は僕から逃げないし、僕も神無士乃から逃げることはない。余計な
気をつかう必要もないし、疲れるけれど気を遣う必要もない。他の人間というよりは居心地がいい。それが、
僕にとっての神無士乃だった。こっちに引っ越してきた小学校の頃からその関係はずっと変わっていない。
 毎朝一緒に登下校をするのも――昔から変わっていないのだ。
「チャイムが鳴ったわ」
 裸のままの如月更紗が言う。こいつ、一向に隠そうとも服を着ようともしない。お陰で同級生の裸に見慣れてしまった。
この歳でそれはさすがにマズい。それ以上に、今この状況がまずい。
 朝から部屋に裸の同級生がいるという状況は、とてもマズい。
「鳴ったな」
「そろそろ始業開始かしら」
「学校からうちまでどれだけ離れてると思ってる! インターホンに決まってるだろうが!?」
「案外下校開始かもしれないわね」
「一日!? こんなやり取りで一日が終わったのか!」
 最悪な一日だった。
 というか、こんな馬鹿なやりとりをしている暇はない。まったくない。インターホンが鳴ったということは、
玄関前に人が来ているということで、それはつまり――
「先輩ー! いないんですかー!」
 玄関の外から、そんな神無士乃の声が聞こえてきた。
「…………」
 まずい。この状況を神無士乃に見られるのは非常にまずい。いくらなんでも不名誉すぎる噂をたて
られるのは確実だった。嫌われるのは別に構わないが、侮蔑されるのは僕のみみっちい尊厳が許さな
い。最悪学校にバラされて、同級生と朝から同衾した男という不名誉な名称を戴いてしまう。
「……如月更紗」
「何?」
「今すぐ服を着てここからいなくなれ。話の続きは昼休みにでも聞いてやるからどこでもドアでもワープでも
『あっちからこっち』でも何でもいいからとにかくここからいなくなれ」
「切羽詰まってるわね」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
 お前のせいだ。
 如月更紗を今すぐ蹴り出したい衝動を必死でこられる。狂気倶楽部とか三月兔とか姉さんを殺した奴とか
チェシャとかアリスとかそういった様々なことを全て後回しにしたくなる。思想がなくても生きていけるが
パンがなければ生きていけないというやつだ。
 食うだけなら動物以下だ、とも言うが。
「とにかく、この状況を見られるわけにはいかないんだ」
「この状況?」
 小首を傾げて、唇に人差し指をあてる如月更紗。くそ、お前なんで今この瞬間に至ってそんな可愛げのある仕草をするんだ。
「この状況、だ」
 念には念を入れて言う。この状況――いうまでもない。ベッドの上で裸のクラスメイトとキスをしようとしていた状況だ。
もし神無士乃がこなければ、そのまま行為に及んでいたかどうかは……神のみぞ知る、ということだ。
「とにかく僕は神無士乃をごまかしてくるから、お前はとにかく服を着ろ。まずはそれからだ」
 問題はドウ誤魔化すかだが――最悪ぱっと着替えるだけ着替えてこいつを家に置いていけばいい。遅刻をして
困るのは如月更紗だけだ。留守を預ける、というのには非常に抵抗があるが、ピッキングをするような奴に言っても
仕方がない。
 神無士乃を誤魔化す算段を頭の中でまとめていると、
 ――がちゃん、と。
 玄関の方で、扉の開く音がした。
714 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/13(土) 00:21:21 ID:+bXpdwYt
 次いで、
「先輩ー! いないんですかー!」
 なんて、神無士乃の声が、家の中から聞こえてくる。
「…………」
「…………」
 如月更紗の顔を間近で見つめる。というか、睨む。如月更紗は飄々と、
「ピッキングしてそのままにしていたようね」
「無用心なのはお前の方だ!」
 この女……人の家にピッキングして入った挙句、そのまま扉を開けて放置していたのか。侵入者相手に言うのも変だが
せめて夜の戸締りくらいはやってくれ。不審者や暴漢魔が入ってきたらどうする気あったんだ。お前の目的はチェシャ猫
から僕の身の安全を保証することじゃなかったのか。それともあれか、社会的地位を抹殺するために送り込まれた刺客か。
 そう、突っ込みたいのは山々だったが――全て我慢した。今この状況でそんなことをしている余裕はない。状況は先よ
りも切迫している。なぜなら――
「先輩ー! もしかしてもしかするとまだ寝てますかー! 永眠ですかー!」
 そんなことを怒鳴りながら、二階への階段を昇ろうとしている神無士乃がいるからだ。
 いっそ、今すぐ部屋から飛び出て神無士乃をぐるぐる巻きにして浴槽にでも叩きこんで
しまおうか――そんな物騒なことを、半ば本気で考えてしまう。
「冬継くん」
 そんな僕とは対照的に、如月更紗は落ち着き払っていた。この鉄の度胸は少し羨ましい
ものがある。
「何か起死回生のアイデアでも思いついたのか?」
「ちゅー」
 口で言ってから、キスした。
 目を瞑る暇もなかった。
 さっき寸止めされたのが不満だったのだろうか――如月更紗は両手を僕の後頭部にあてて、無理矢理
頭を引き寄せてキスをした。また歯がぶつかるのか、と心配したが、衝突の寸前で減速したらしく痛み
はなかった。その代わりに、柔らかい唇の感触があった。
 目を瞑る暇も余裕もなかった――だから、はっきりと目を開けたままキスをしてくる如月更紗と、目
があってしまった。キスの最中に目があうことほど気まずいことはない。如月更紗の瞳は、はっきりと
僕にも分かるくらいに、笑っていたのだから。
 トン、トン、トン、と二階へと昇ってくる足音が聞こえてくる。それでも如月更紗は手も唇も離さな
い。初めてのキスでもないのに、頭の中が真っ白になってしまう。くるくると回り進む現状に思考がつ
いていかない。
 如月更紗は、唇を離そうとすらしなかった。押し入るように、分け入るように。昨日教わったことを
忠実に実行し、歯をぶつけないように――そのぬるりと長い舌を、僕の口内へと差し入れてきた。
 
715 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/13(土) 00:31:37 ID:+bXpdwYt
 抵抗ができるはずもなく。
 今まで出来なかった分の鬱憤を晴らすかのように、如月更紗の舌はどんよくに蠢いた。一回目のキスが失敗で、
二回目のキスは僕からで。三回目のキスは寸止めで――四回目のキスは、如月更紗からのディープキスだった。
 トン、トン、トン、と足音が聞こえてくる。その音に会わせるようにして、如月更紗の舌が上へ下へ奥へと動
く。唇からちゅぱ、ちゅぱと水音が漏れるのが聞こえた。
 シーツに、雫が落ちる。
 とん、とん、とん――
 ぺちゃり、ちゅぱ、べちゃりと――
 頭がくらくらしてくる。キスをしている相手はクラスメイトで、何一つ身にまとっていないのだ。その上
今にも部屋に幼馴染が乱入しかけていて、それでも目の前の相手はキスをやめない。間近ではっきりと如月
更紗の甘い匂いを感じる。こうして裸だとよく分かる――それは彼女の体臭だ。汗臭い自分の身体とは違う、
まるでお菓子か香水で身体ができているかのような、理性をとかしていく匂いだ。
 すぐ真下に、如月更紗の白い裸体がある。手を伸ばせば届く。
 僕は。
 僕は、更紗に手を――
 伸ばそうとしたところで、部屋の隅に佇む姉さんと、目があった。
「…………ッ!」
 力ずくで――如月更紗の身体を引き剥がした。
 
716 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/13(土) 00:51:06 ID:+bXpdwYt
 今――僕は何をしようとしていた。
 如月更紗を抱こうとしていたのか?
 彼女を、名前で呼んで。
 姉さんの前で――抱こうとしていたのか。
 姉さんを抱いたベッドと同じベッドで、同じように如月更紗を抱こうとしていたのか。
 それは――許されるのか。
 それを、許していいのか。
 僕は思う。
 抱き終わった後――果たして。
 部屋の隅に、姉さんの亡霊は見えるのだろうか?
「…………」
 如月更紗から身を離し、姉さんと視線を絡めたまま僕は後ろへと下がる。何も見なくても、部屋の位置くらい
は把握している。たとえ後ろ向きでも、扉に辿り着くことは容易い。
 背中で、部屋の扉を、押さえつける。
 トン、トン、トン――背後で神無士乃が階段を昇ってくる音がする。寝ているであろう僕を脅かすつもりなの
か、もう呼びかけてくることはしない。それでも一段おきに音は近づいてくる。あと13段もあれば二階へ辿り
着くだろう。
 今すぐ部屋から出て、彼女を誤魔化すべきだろうに。
 僕はそれができない。振り向くことができない。扉から出ることができない。
 姉さんから、視線を逸らすことができない。 
 視界の端で如月更紗が僕と、僕の視線の先を見比べている。彼女にはただの部屋の隅があるようにしか見えな
いだろう。姉さんの姿は、僕にしか見えない。
 もう僕の心の中にしか――姉さんはいない。
 僕が忘れてしまえば。
 姉さんは、今度こそ本当に、居なくなってしまう。
「……姉さん」
 僕が呼ぶまでもなく、姉さんは、笑っていた。微笑んでいた。
 姉さんはずっと微笑んでいる。
 死んでからは、ずっと。
 死んだことで幸せそうに微笑んでいる。
 死ぬ前日、僕に初めて見せた、あの寂しくも嬉しそうな笑みを、ずっと浮かべている。
 ――ああ。
 今にして分かる。あのアルカイックスマイルは、きっと――自分を殺してくれる誰かを見つけた喜びの笑みだ
ったんだろう。
 死にたがっていた姉さんは。
 自分で死ねない姉さんは。
 自分を殺してくれる誰かを見つけて――自身の死を確信して、あの笑みを浮かべたのだ。
 姉さんは微笑んでいる。
 姉さんは、僕に向けて微笑んでいる。
 でも、その笑みは――――僕に向けられたものではないのだ。
「今すぐ出て行け、如月更紗」
 小声でそう言って、僕は逆に大声で廊下の向こうへと「神無士乃!」と呼びかけた。
 トン、トン、トン、という足音が止まり、
「はいはい何でしょう~♪」
 という声が聞こえる。お気楽そうなその声に、僕はできるだけ感情を押さえつけて叫ぶ。
 いかにも焦っているように、叫ぶ。
「いいか、絶対に入ってくるなよ! 今着替えてるんだから入ってくるなよ! 扉開けるなよ!」
「ははあ、朝の処理中でしたか」
「どうしてお前はそういうことを平気で言うんだ!」 
 いつもの――いつも通りの、やりとりだ。
 これでとりあえず問題はない。
 
717 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/13(土) 01:09:04 ID:+bXpdwYt
 ちらりと部屋の中へと視線を戻すと、如月更紗は既に動き出していた。部屋の隅にきちんとハンガーにかけて
あった――いつのまにそんなことをしていたんだ――制服に袖を通し、身嗜みを簡単に整える。その間にもトン、
トン、トン、と近づいてくるが、如月更紗の着替えは早い。早着替えになれているのかもしれない。
 そして如月更紗は着終えると、部屋の片隅にあったトランクケースを手に取った。
 ……トランクケース?
 トランプの、トランクケースだった。赤のクイーンと白のクイーンを両面に模した、そこそこ重量のありそうな
トランクケース。キャリーケース、と呼ぶのかもしれない。長方形のでかい箱に車輪がついた例のアレだ。
 勿論、僕の物ではない。姉さんのものでも、家族のものでもない。つい昨日まで、部屋の片隅にそんなものは置
かれてはいなかった。
 となると、アレは如月更紗の私物ということになる。形はどうあれ、《泊まり》に来たので荷物が多く、全てを
詰めるために必要だったのかもしれない。
 普段からあんな鋏を持ち歩いていることを考えれば――他にもろくでもないものが入っていそうだが。
 最後に如月更紗は、その物騒な鋏を制服の後ろへと隠し仕舞った。後ろの席に座ってる奴でさえ、彼女がそんな
ものを制服の下に隠しているとは思わないだろう。体育の時とかどうしているんだろう。
「それじゃあ、冬継くん」
 如月更紗は別れを惜しむように、寂しさの入り混じった微笑みを浮かべた。その笑みの意味が、今ここを去るせ
いなのか、キスを無理矢理に中断してしまったせいかは――僕には判別がつかない。
 僕はまだ、如月更紗を完全に信用しているわけではないのだから。
 如月更紗が僕に一目惚れしたというのを――信じているわけでは、ないのだから。
 トン、トン、トン、という音がようやく途切れる。それはつまり、神無士乃が二階へと辿り着いたということだ。
ともかく今は神無士乃を引き下がらせ、部屋に入れないようにしなければならない。
 そう思う僕に対し、如月更紗は笑んだまま、
「また学校で会いましょう」
 と言って――二階の窓から、平気で飛び降りた。
 スカートが風でめくれあがるのだけが見えた……というか、あいつ最後まで下履いてないのか。履く時間がおし
かったのかもしれない。そういえば、上も下も下着をつけているようには見えなかったから。
 なんてことを考えたのは、勿論現実逃避だ。目の前で、飛び降り自殺をされたら誰だってそうなる。
「如月更紗!?」
 思わず彼女の名を呼びながら、慌てて窓まで駆け寄ると、芝生に着地し、さらにキャリーケースをうまく使って
塀を乗り越える如月更紗の姿が見えた。平然と、平気で、そのまま立ち去っていく。制服の後ろ姿が、家の影に隠
れて――見えなくなる。
 影も形もなく、如月更紗はいなくなっていた。
 窓から入ってこようと言ったのは、冗談でもなんでもなかったのかもしれない。
「先輩、先輩――!」
 扉の向こうから神無士乃の嬉しそうな声。この声は間違いなく部屋に入ってくる声だ。
 僕は慌ててズボンを脱ぎながら、
「待て着替えてるって言っただろ――!」
 そんな抵抗の振りもむなしく、予想通りに神無士乃は扉を開け放った。躊躇が微塵もない。その顔は喜色満面と
いう言葉に相応しかった。
「あらあら先輩は着替え中でしたか――!」
 トランクス姿の僕を見て、神無士乃は嬉しそうに笑い、その予想通り過ぎる反応に僕は内心で安堵しながらも慌
てたように脱ごうとしたズボンをはいて、
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あれ、この匂い?」
 予想外に……神無士乃の、笑みが固まった。
 
718 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/13(土) 01:09:46 ID:+bXpdwYt
以上で七話終了です
 
719 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 01:14:16 ID:VOdhezk2
GJ!!
しかし、すごい気になるところで終わってしまうとは!!
あなたは鬼畜ですか!?
 
720 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 01:18:06 ID:xJRYJdjc
カチンコチンコ
 
721 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 10:41:59 ID:4FkeZULk
>>718
じ…GJ…!
明らかにただ者じゃなくなった神無志乃にわくてか
 
722 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 11:40:44 ID:bRr60mXu
突然だが「涼宮ハルヒ」のヤンデレ漫画やSSを最近見かけたが・・・
原作そういう話なの?
 
723 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 14:10:39 ID:p5HwsCfx
ある意味狂ってるが、流血沙汰を期待すると凹むぞ
 
724 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 14:31:46 ID:aDaq/Pwy
ヤンデレではないよ、ハルヒは。
 
725 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 20:19:24 ID:/pnX+o7g
>>722
DQN女のワガママを叶える為に登場人物全員が頑張るお話。
 
726 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 20:21:28 ID:6A/JoJrU
ところで>>634のキモウトの続きはまだかね
 
727 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 22:47:25 ID:bRr60mXu
黒楓事件依頼、ヤンデレ自体がはやったんだな、うん、そうにちがいない、そう決めた
俺がそうだし
 
728 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/13(土) 23:25:53 ID:cKX5fbQ6
そういやSHUFFLE地上波でやってるな。黒楓ソフトになっちゃうんだろうか?
 
729 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/14(日) 18:46:25 ID:XLR1Rr1S
GJす。続き楽しみにしてますわ。
 
730 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/14(日) 20:40:48 ID:/HFMWtP9
書き込みテスト
 
731 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:37:20 ID:7hTAJdsA
http://yandere.web.fc2.com/
ヤンデレスレの繁栄を願って、保管庫を作ってみました。
これを機に、職人さんが増えたら良いなぁ……。
 
732 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/15(月) 04:10:38 ID:+cYN0q5s
>>731
おぉ!!GJ!!
ヤンデレはまだまだ成長していくジャンルだと俺は思ってる!!
 
733 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/15(月) 09:55:12 ID:NOOh+xVz
>>731
激しくGJ!
 
734 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 19:08:07 ID:2lppWWhM
>>731
乙です
八話投下します。これで全体の三分の1は終わるはず……
 
735 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 19:22:18 ID:2lppWWhM
 僕の動きは固まった。そして、神無士乃の笑みもまた固まっていた。
 いや――正鵠をきすなら、それは固まったとはいえないのだろう。神無士乃の笑みは、彼女の張り付いたような笑みは
全て抜け落ちていたのだから。仮面を無理矢理に剥がして素顔をさらけ出したような、そんな印象があった。いつも浮か
べている、あの楽しそうな小悪魔の如き笑みは、今の神無士乃の顔にはない。
 笑っていない。
 怒っても、いない。
 泣いてもいなければ喜んでもいない。一切の感情が抜け落ちてしまった顔で、その虚ろな瞳で、じっと僕を見ている。
 僕から――眼を逸らそうとしない。
 大きな丸い瞳が、じっと、じっと、僕を見ている。
 瞳の中には僕が映っている。ズボンに手をかけ、寝起き姿の僕自身が。その顔は、苦笑いのままで固まっている。
 ――固まっていては、いけないのに。 
 着替え中に突如として部屋の扉を開けられたのだから、大騒ぎして追い出さなければならないというのに。
 それが、出来ない。
 ナメクジに見据えられた蛇のように、動くことすら、できはしない。
 じっと、一心不乱に見つめてくる神無士乃の瞳から、逃れることができない。
 それでも、どうにか。
 口だけを動かして、どうにか、取り繕う。
「神無士乃! いつまで見てるんだ――」
「何の、匂いでしょうね?」
 にべもなかった。
 神無士乃は僕の言葉を聞いていなかったし――聞こうとすらしていなかった。彼女はきっと、僕を見てすらいない。
彼女の瞳が見ているのは、僕の周りを漂う、誰かさんの残り香なのだ。
 ――あの女。
 最後まで厄介事を持ち込んでくれた……と思うが、それが筋違いの恨みであることは十分に承知していた。普通なら
ばいるはずがないのだ。わざわざ部屋に乗り込んでくる幼馴染なんてそういないだろうし、その幼馴染が、匂いにここ
まで反応するだなんて、誰も考えはしないだろう。
 いや――シャンプーを変えたことを気付いたり、香水の匂いで人間を判別したりもできるのだ。それくらいはやって
も当然なのか……? しかし、着の身着のままだった如月更紗は、何の香水もしていなかったし、風呂に入ったわけで
もない。
 なら、やっぱり体臭だ。
 如月更紗の匂いを、神無士乃は嗅ぎ付けたのだ。
 それは――どうなんだ?
 異常だと、一言で切り捨てるべきなのか? それとも、これくらいの芸当は僕にできないだけで、
他の皆は誰だって出来るのだろうか? いつもと違う何かを感じ取る力は、獣だろうが人間だろうが
十分に備わっているはずだ。
 いや、違う。
 そうじゃない。
 そうじゃないんだ。問題はそんなところにはない。匂いをかぎつけたこと云々を今問題にしている暇
はない。
 そんなことでは説明がつかない。
 神無士乃の豹変に、説明がつかない。
「先輩、この匂いは、一体何の匂いなんですか? 私、かいだことないですよ」
 くすくすと、神無士乃は声だけで笑う。瞳どころか、口元すら笑っていない。
 真顔で、笑う。
 可笑しいそうに。
 犯しそうに。
 神無士乃は、声だけで、笑う。
「――――」
 僕は何も答えない。答えられるはずもない。
 神無士乃は――こんな奴だったか。僕は必死で記憶を探る。神無士乃。ずっと昔からの幼馴染。いつだって楽しそうに
笑っていて、僕をからかうように、僕にからかわれるように、笑って過ごしていた。
 神無士乃は、いつだって笑っていた。
 なら、それは。
 笑っていないのと、そう違いはないんじゃないのか……?

736 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 19:35:41 ID:2lppWWhM
 僕はこの時になって初めて――狂気倶楽部でも、鋏を持ったクラスメイトでも、家族の幽霊にでもなく――ただの
幼馴染でしかなかった神無士乃の裏側をかいま見たような気がした。
 そして――その原因は、僕にもあるのかもしれない。
 朱も交われば赤くなる、どころの話ではない。
 子が親を見て育つように、昔からずっと側にいる幼馴染に、影響を受けたとしても、ありえない話ではないだろう。
 きっと僕はまともな人間ではない。それは認めよう。
 なら。
 その僕の側にずっと居た神無士乃がまともであると――一体どこの誰が保証してくれるのだろう?
 異常。
 異常とは――なんだ?
 狂っていることだろうか。
 里村春香は、狂っていた。
 如月更紗は、狂っている。 
 里村冬継も、狂っていて。
 神無士乃も――狂っているのかもしれない。姉さんを殺した奴だって、姉さんと共にいた奴だって、
名前だけしか知らないチェシャやアリスだって、狂気倶楽部だろうが誰だろうが、皆狂っている。
 なら。
 なら――それは。
 異常も正常も意味もなく、狂っている人間など、一人もいないのではないのだろうか。
 ここが極点なのではなく。
 普遍的な、ただの出来事。
 世界のどこかで、毎日のように行われている、ただの日常なのではないだろうか。
 笑わない幼馴染を目の当たりにして、僕はそんな、子供じみた――いや、思春期じみたことを
考えてしまった。考える必要などまるでないというのに、頭の中にするりと入り込んでくる。
 足をすくわれた気分だった。
 足元が、揺らぐ気分だった。
 今までの日常が、まったく別のものであったと、再認識させられたかのような――明確な、恐怖だったのかもしれない。

737 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 21:01:14 ID:2lppWWhM
「いったい、何の臭いなんでしょうね――」
 言いながら、神無士乃は一歩、部屋の中へと踏み込んでくる。
 こちら側へと、踏み込んでくる。
 いけない。
 それは――いけない。
 それは、駄目だ。
 日常と非日常が入り混じってはいけない。異常と正常の垣根をなくしてはいけない。
 そんなことになれば。
 そんなことになれば――意味がなくなってしまう。
 異常だからという理由で死んでしまった姉さんの、死の意味が、なくなってしまう。
 だから。
 日常は、正常で。
 非日常は、異常で。
 そうでなければ、いけないのだ。
「見るなぁ神無士乃ォォ!」
 そう叫びながら、僕は思いっきり、腰まであげかけていたズボンを――そのままトランクスと一緒に、一気に引き下ろした。
先の如月更紗とのアレコレで大きくなっていた股間が、あられもなく神無士乃の目前にさらされる。もう、これしか手段がない
とはいえ、発作的な行動とはいえ……大切な何かを捨てた気分だ。
 神無士乃は。
 突然叫びながらトランクスを降ろした僕を見て、それから丸出しになった股間を見て、丸い瞳をさらに大きく見開いた。
 沈黙が一秒ほど。
 そして神無士乃は、トマトよりもなお赤く顔を染めて、「うひょわぇ!」と叫んだ。
 ……うひょわぇ?
 その叫び声はどうかと思う。
 だが――無表情は、消えた。真っ赤になった神無士乃は、恥かしそうに眼を逸らし、前ではなく
後ろに一歩下がった。
「着替え中だから入ってくるなって言っただろうが!」
「ただの露出狂じゃないですか!」
「自分の部屋で脱いで何が悪い!」
 言いながらさらに上着まで脱ぐ。こうなったらやけだ。
「他人の前で露出してるから露出狂なんですよ!」
「もっとこう気品のある名前で呼べよ! ストリッパーとか!」
「大して変わりません! 破廉恥先輩のバカァ!」
 叫んで、神無士乃は後ろに飛び退り扉を思い切り閉めた。いっそ全裸でリンボーダンスでもやってみせるか
とすら覚悟していたので、その行為には非常に助かるものがあった。
 人として大事なものを、捨てきらずにすんだ。
 半分くらい、捨てたような気もするけど。
「破廉恥先輩って名前みたいでいやだな……」
 僕はぶつくさと言いながら、換気のために窓を全開まであけ、制服に着替えなおした。部屋の外ではとんとんとん
と神無士乃が下まで降りる音がした。扉の前で待っている、ということはないだろう。
 とりあえず、誤魔化せた。
 その場しのぎとも言うが。
 

738 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 21:35:56 ID:2lppWWhM
 誰もいなくなった部屋で、深呼吸をした。制服を適当に着終え、カバンをひったくるようにして持つ。
そのまま部屋の外へと駆け出ようとノブをつかみ、
 足を止めて、振り返った。
 部屋の隅で、姉さんは笑っていた。笑って、学校へ行こうとする僕を送っていた。
 姉さんが笑っていることに、僕は安堵する。
 姉さんが笑っていてくれる限り――僕は、大丈夫だ。
 姉さんのために、がんばる。
「行ってきます、姉さん」
 僕がそう言うと、姉さんは笑ったまま、ひらひらと手を振って送り出してくれた。
 さあ――今日も一日、頑張ろう。
 意気込んで玄関に下りると、神無士乃が体操座りをして床にのの字を書いていた。すねているらしい。
「楽しそうだな」
「嫌味ですよ!」
「なんだ。てっきり神無士乃のことだから、うきうき気分でやってるものだとばかり」
「先輩、それ死後です。そして楽しくないです」
「それを楽しんでやる奴とは、ちょっとお知り合いになりたくないな……」
 言いながら僕は座ったままの神無士乃の横を通り過ぎ、革靴を履いて、玄関の扉に手をかける。
「じゃ、そういうことで」
「何がそういうことでですか!?」
「いや、ほら。遅刻するし」
「遅刻ぎりぎりまで待ってたわたしの立場があまりにないと思うんですが」
「僕は全速力で行けば間に合うけど、お前は遅刻決定してるからなあ」
「外道! 町内の皆さん、ここに外道がいますよう!」
 立ち上がり、街宣カーのように宣言する神無士乃。うん、いつもの神無士乃だ。
 これでいい。
 いつもの、朝だ。
「冗談は置いといて、本気で遅刻するから急ごうか」
「朝ごはんはどうします?」
「明日の朝に食べる」
「意味ないです!」
「じゃあ神無士乃が代わりに食べといてくれ」
「私はもうハンバーグ食べてきましたっす!」
「何ィ!?」
 こいつ……朝からハンバーグなんて高価なものを! ひき肉をこねるのが面倒で僕でさえ滅多に
造らないというのに……ブルジョワジーにとっては朝から肉でも構わないというのか。そんなこと
だから乳ばっかりでかくなるんだ。
「先輩。今セクハラいことを、」
「考えてないよ」
「その身で実行しようとしましたね。セクハラーのように」
「してねぇよ! そして誰だよそいつ!」
 アホなやりとりだった。
「まあ、しいて言えば朝の爽やかな運動ってところかな」
「乳を揉むのが?」
「いいや、ゴミ箱に貴重な栄養を与えるのがだよ」
「先輩……部屋のにおいってもしかして……」
「あー爽やかな朝だなー!」
 叫びながら扉を開け、一気に駆け出す。学校まで走れば十五分ほどでつくだろう。一人遊びのどこが
爽やかなんですか! と後ろから叫び声が聞こえるがとりあえず無視。
 もうしばらく走ったら立ち止まって、それから、いつものように一緒に学校にいこう。たまには手をつない
でもいい。平和なんだから、それくらいしたってバチはあたらないだろう。
 楽しい一日の、始まりだ。
 楽しい楽しい――最後の日なのだと、この時の僕はまだ知らなかった。
 
739 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 21:36:55 ID:2lppWWhM
八話終了です。
間があいてすいません
 
740 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/15(月) 21:43:16 ID:Q+tATxcI
 
741 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/15(月) 22:30:43 ID:D+ZPxaOc
>>738
GJ!!!

742 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/15(月) 23:44:19 ID:Q+tATxcI
サキュバス、まとめサイトのリンクに入ってるw
 
743 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/16(火) 02:47:04 ID:lWwVlqPG
GJ!!
神無士乃がどういう感情を持っているのか読めない……。
普通に狂っているのか、はたまた主人公への異常な好意で病んできているのか。
これから大きく化けそうな予感がします。
 
744 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/16(火) 02:48:20 ID:lWwVlqPG
ふと思ったけれど、「冬柴さんの話」に出てくる
冬柴さんを崇拝してる男ってヤンデレかなぁ?
 
745 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/16(火) 18:11:14 ID:O0RXD3+g
>>742
誰だよあそこをリンクに入れたのw
全く、けしからんけしからん
 
746 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/16(火) 20:45:45 ID:WkNs/s6s
冬柴さんってヤンデレじゃないだろ、病んでるだけだよ
 
747 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/16(火) 23:11:12 ID:r0kO9ThB
ヤンデレって難しいな…NHKにようこその岬も病んでるよな?
あれもヤンデレなのかな~と漫画読みながら考えてた
 
748 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/17(水) 18:47:17 ID:CxiCrdiD
>>745-746
「サキュバスの巣」「冬柴さんの話」を削除しました。
 
749 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/19(金) 19:15:18 ID:KY2u9QCt
ttp://news21.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1169186471/l50
何かヤンデレのにほいがしないか?
 
750 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/19(金) 19:53:52 ID:GzcrSwBv
>>749
萌えたが向こうのスレでは散々な評価だなあw
 
751 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 00:31:21 ID:klXI5mvv
                  /: : : : : :      \  、\
                 -=彡:    , {:   .       ヽ  \丶
                /:/:  . ノ !l、\ : .     、_,ヽi
                  lイ: : . / ノ'、丶ニ=‐ .  ヽ‐ ´ `.ニ=‐
     ,   ̄ 丶、       l: /_ イ/l'!ハ: l: .ヽ: ! !: .  !:l   ヽヽ
   /ニニ. 、    > ._  -≠: :l : l|:l r|=l∧ : },| | ト、: | l l: .  lヽi
.   /   彡'  /l   ヽニ.lム: :l | llリ 、 (;)ヘ l//ソ:l|/=l: l//:l ゝ ',
  ∧, ,. ´  . イ  l    | |   トトトl`  三´彡'ノノt;¬!//: :l  ハ`\
. ハ/. -‐  ィ  |    | |   |ヽヽ〉      ̄「{ ミ、彡': :/:l l/
 {、/ 三三イ: ¬ l   | |   |レ 〉ス ,. 、_ ノ  ムルl/:/lム     どっちもうざいんだよおおおおおお
 三三 / / : /人  //   |/ヘ.ヽ`__一'_ 、< ′ ̄ ´  ヽ
 ___l: :/: :└  _ //   / 〉 /`>ヽ< /       __   ハ
   , / /: : : : : ``''‐-、/ /_//:::::l レ/,. ニニニニ ¬ | {ム
    l/ /: : : : : : : : : ∧i´::::::::::f <//:::::::::::::::::::::::::| l  ヽ}
  r/ /: :/ ̄: : : : l: / l::::::::::::::\/::::::::::::::/:::::::::::ゝ\_ム
  l' /: :/: : : : : : : ̄ l  、:::::::::::::::::::::::::::::::∠ニニニ二::`ー、__}_
  | /: : l: : : : : : : : :l  ゝ二.\__/ ̄\――――---:L._
  └―‐ |: : : : : : : : |::...   , 7ーァ'´     丶、::::::::;;;:::::::::::::::::\
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752 名前:彼が望むなら死んでもいい1[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 02:49:24 ID:RkuWxsmM
>>749
彼と知り合うきっかけは幼馴染であるリンからの紹介だった。
リンは私と違いかなりもてる。
その理由はおそらく性格にあるのだろう。
男女分け隔てなく明るく接し、辛いことがあっても
それを周りに悟らせない彼女を嫌う人間はいないと思う。
それに対して私は男性恐怖症で男と全く縁が無い。
自分ではすでに恋人を作ることはあきらめていたが、
そんな私を世話好きの彼女が放っておくはずが無かった。

「レイ!紹介するわ。同じサークルのフェイ君よ。」
大学の中庭で一人食事をとっていたらリンがやってきた。
いきなりそんなことを言われてもどうしたらいいのだろう。
しかも連れてきた相手は男だった。当然固まる私。
「それじゃああとは若い二人で仲良く・・・ね?」
そう言ってリンは去っていった。

753 名前:彼が望むなら死んでもいい2[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 02:52:28 ID:RkuWxsmM
私は地面を見ながらこれからどうしたらいいのか必死で考えていた。
何か話しかける?
却下。男の人を前にするとロレツが回らなくなる。
何も言わずに立ち去る?
却下。そんなことをしたら後で男の人に何をされるかわからない。
そうだ。とりあえず挨拶してみよう。
こんにちはと言うくらいならなんとかなるはず。
このままずっと固まったままいるほうが辛い。
そのあとは適当な返事をしておけばこの状況を切り抜けられる。
(こんにちは。こんにちは。こんにちは。)
よし、言うぞ・・・
「こっ、こ。こんにゃっちは。」
恥ずかしい。噛んでしまった。
どうしよう。笑われる。からかわれる。いじめられる。
いやだ。嫌だ。こわい。怖い・・・
だけどしばらく待っても反応がなかった。
おそるおそる顔を上げると男性の顔が目の前にあった。
恐怖で体がこわばった。
しかし男性の表情を見ているうちに恐怖は少しずつ消えていった。
なにを言おうか迷っているような表情と
なにかを決意した眼差しが私に向けられている。
一分ほど待ってから彼の口が開いた。
「僕と付き合ってください!」
至近距離であげられた大声と、
その言葉の内容に驚いて、
手に持ったままの弁当箱を落としてしまった。

754 名前:彼が望むなら死んでもいい3[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 02:53:36 ID:RkuWxsmM
その場での返事は保留ということにした。
生まれて初めての告白で、嬉しい気持ちと男性に対する潜在的な恐怖心が混ざり合い
まともな返事ができなかったからだ。
自宅で告白されたときのことを思いかえしてみる。
あの時、男性とあれだけ近くで話したというのに恐怖心が少しずつ消えていった。
別れ際の時点ではほとんど無くなっていたと言ってもいいかもしれない。
あれだけ怖かった男という生き物なのに。
暴力の象徴だと思っていた存在なのに。
それからは大学で毎日話すようになった。
彼と話しているときだけは恐怖心は全くなくなってしまう。
今日の講義の内容、今日のニュース、好きな本の話題。
私のする楽しくない話を彼は真剣に聞いてくれる。
いつしか彼と話すことだけを楽しみに大学に行っていることや、
自宅で一人になると彼のことを思って寂しくて泣いてしまうことを自覚したとき、
私はこれが恋なのだと知った。
翌日、彼に交際したいと伝えた。
告白から二ヶ月以上経っていたが彼は満面の笑顔で私を受け入れてくれた。
その笑顔がこれからも私だけに向けられると思うと
喉が締め付けられるかと思うほどの幸福感が私を襲った。
私とフェイが付き合いだしたことを知ったリンは
「よし!二人が付き合いだした記念のコンパしよ!コンパ!
 あ、大丈夫。私の知り合いの女の子だけ連れてくるから。男は連れてこない!」
と言い出した。
断る理由もなかったので参加することにした。

今思うと参加しなければよかったのかもしれない。
あのコンパから少しずつ歯車が狂いだしたのだから。

755 名前:彼が望むなら死んでもいい4[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 02:54:30 ID:RkuWxsmM
コンパには本当に女の子だけが参加していた。男はフェイ一人だけだった。
私達二人が主役なのだから当然質問攻めにあった。
私のどこに惚れたのかという質問にフェイは
「はっきり言っちゃうと一目惚れなんですけど・・・
 理知的なところに惚れたって言うのかな?」
いますぐ押し倒してやろうかと思った。
色々な質問がされていくうちにフェイの好きなものを聞くことができた。
どうやら彼は自動車が好きらしい。
しかし欲しい車は手が届かない金額らしく、夢のまた夢と言っていた。
そのときのフェイの顔はまるで幼い子供のようでまた押し倒したい気分にさせた。

コンパが始まって二時間ほど経つとすでに私も含め皆できあがっていた。
不愉快なことに彼の右に座っていた女が肩にもたれかかっていた。
私がじっと見ていることに気づいたフェイは女を引き剥がすが、
数秒もするとまたもたれかかってくる。
何度も繰り返すものだからいい加減に頭にきた。
その首をへし折ってやりたいがフェイの手前そうするわけにもいかない。
なるべく感情を抑えて注意したところ、挑発するように
「あら、私のほうが彼にふさわしいと思うんだけど?
 だって私のパパは○×商会の社長だからお金には困ってないもの。
 今すぐ彼を養うことだってできるわ。」
安い挑発だ。素面の状態なら軽く流せるのだが、このときの私は
酒で判断力が欠けていたのだろう。
大手不動産会社の社長の娘であると大嘘をついてしまったのだ。
女はすぐに嘘を見抜き私を鼻で笑った。もう我慢の限界だった。
手元にあるアイスピックをその女の顔に振り下ろ――

振り下ろせなかった。リンが私の腕をつかんでいた。
暴れようとする私と女をいさめたリンはコンパを解散させた。

756 名前:彼が望むなら死んでもいい5[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 02:55:11 ID:RkuWxsmM
翌日、これ以上ないほど後悔した。
二日酔いになるほど飲んだこともそうだが、フェイの前で凶暴な一面を見せてしまったからだ。
あのときリンが止めてくれなければ、間違いなくあの女の左目を貫いていた。
恋人の凶暴な一面を見てもフェイは私のことを好きでいてくれるだろうか?
フェイは私のことを好きだと言ってくれた。それは事実だ。
しかし酒の席で前後不覚になっていたとはいえ人を殺しそうになった恋人を
好きでいてくれる保証などどこにもない。
どうしたらいい?
彼の思いを繋ぎとめることができて、同時に私のこの愛を余すことなく伝えるためには
何をしたらいい?
考えろ。考えろ。考えろ。
そうだ。フェイが欲しいと言っていた自動車だ。
あれを贈ればフェイの愛も受けることができるし、私がどれだけ愛しているのかということも
わかってくれる。
幸い彼は私の家族がどのような生活を送っているかということは知らないはずだ。
少なくとも私は喋っていない。
コンパで言った嘘を信じてくれていればきっと受け取ってくれるはず。
彼を騙すのは気が引けるが仕方がない。
私達の未来のためには仕方がないのだ。

757 名前:彼が望むなら死んでもいい6[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 02:56:08 ID:RkuWxsmM
その後、大学の陸上部の知り合いから元オリンピックメダリスト二人を紹介してもらった。
偽造した名刺を使い、嘘の説明で二人から合わせて180万元を手に入れた。
その金で車を買い、フェイの自宅に納車するよう手続きをとった。
納車日当日、フェイから「すぐに来てくれ」と連絡があった。
ああ、すぐにでも私に会いたいなんて・・・やはり車を贈ったのは正解だったようだ。
部屋に入った途端襲い掛かられるかもしれないから覚悟していかないと。
しかし、フェイの自宅の玄関を開けたときに目に飛び込んできたのは怒りの表情だった。
「?どうしたの?なんで怒ってるの?」
「どうしてじゃないだろ!なんで僕のところに君の買った車が届いたんだよ!」
どうしておこってるのかな。
「だって、このあいだ欲しいものだって、夢だって言ってたでしょ。だから、プレゼント。」
「どうやって買ったんだ!とても手が届くものじゃないのに!」
そんなことどうでもいいじゃない。
「それはお父さんに頼んで・・・」
「リンからもう聞いてるよ!君の父親は社長じゃないってことくらい!」
なーんだ。ばれてたんだ。
「えっとね。友達の友達に『お買い得の物件がありますよ』って言ったらくれたのよ。
 ちょっとお話しするだけでお金くれるなんてお金持ちよねぇ。」
「物件?お話?くれた?・・・まさか、詐欺で!?」
そういえばそうともとれるわね。
「いいじゃない。騙されるほうが悪いんだし。」
「騙されるほうが、悪い・・・?」
ねえ、なんでさっきよりおこっているの?

758 名前:彼が望むなら死んでもいい7[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 02:56:56 ID:RkuWxsmM
「君には言ったことなかったね。実は僕の家はあまり裕福じゃないんだ。
 大学に通っているのだって両親の仕送りと僕のバイト代を合わせてギリギリなんだ。
 なんでこうなったかって言うとね。」
フェイは一拍置いて叫んだ。
「君みたいな人間のせいだよ!君みたいな考えの人に騙されて父さんも母さんも
 辛い思いをすることになったんだ!
 何が騙されるほうが悪いだ!騙す人間が悪いに決まってるだろ!」
その目には明らかな敵意の色。
「もう君とは一緒に居られない。二度と僕の前に姿を現さないでくれ。」
「え?なに言ってるの?好きだってこの間言ったばかりじゃない。」
「そんなのは昔の話だ!」
私は、
「僕はお前が、」
   何かが壊れるのを、
「大嫌いだ!」

            聞いた。
 
あは、あはっははは、アハハハハハハハ!アハハハハハハ、はははははははは!!
ねえ馬鹿言わないであなたはそんなこと言っちゃいけないのよあなたが言っていい言葉は『愛してる』だけよ
真剣な顔で熱い視線で私を見つめて『愛してる』って言わないとダメよだめ駄目打目打め駄目
早朝も朝も朝ごはんのときも昼も昼ごはんのときも夕方も夕ごはんのときも夜も深夜も寝ているときでも
私のことを愛して壊れるほど愛して普通の人の三倍三十倍三百倍三千倍三万倍いいえもっと
だから嫌いなんて言っちゃ駄目なのようん絶対に言っちゃだめ拷問にかけられようが死にそうだろうが
あなた私のこと好きだっていったじゃない好きだっていったじゃない好きだっていったじゃない
一度言ったことは消せないのよよく言うじゃない男に二言は無いって男なら守らなきゃ
もし守ってくれたらなんだってしてあげるええなんでもよどんなものだって手に入れるわ
死ねって言われたら死ぬし殺してくれって言われたら残念だけど殺してあげるし
うふふ好きよ大好きよ超好きよ愛してる超愛してる世界一愛してる宇宙一愛してる
あ な た の こ と 愛 し て る

759 名前:彼が望むなら死んでもいい8[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 03:00:18 ID:RkuWxsmM
そのあと、僕の家に踏み込んだ警察によって彼女は取り押さえられました。
彼女はとり抑えられながらもまだ壊れたように僕に向かって叫び続けていました。
僕の前から姿を消す最後のときまで。
カレンダーを見ると1月19日。
僕が彼女に告白した日から三ヶ月経っていた。

勢いに任せて書いた
正直、反省していない
設定なんかは適当です。
中国の大学とかはわからないので日本と同じようにしてみました。
 
760 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 03:03:17 ID:fOVtuk0s
やばい、ここに本物の職人技を見たっ……
 
761 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 06:06:03 ID:5BvuamDw
>>759
GJ
むしろ、彼女がコンパのときの女に彼を取られて
発狂するんじゃないかと予想してた俺は鬼畜だなww
 
762 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 06:48:04 ID:TIkPs9C9
>>759
神あらわる
GJ!
 
763 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 10:27:49 ID:ZIt8iqO9
半日(8時間)足らずで構想浮かんで1時間で書いただと!?
天才か!
 
764 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 12:53:28 ID:O0LrP3k8
>>759
GJで御座います
 
765 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 13:13:45 ID:xOsayo99
いいねぇ。実際に起こった事件を元に、また何か書いてほしいなぁ。
 
766 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/20(土) 19:30:44 ID:AJBlDoDk
やったッ!
さすがID:RkuWxsmMッ!
あれだけの大作を平然と書いてのけるッ!
そこに痺れる憧れるゥッ!
 
767 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/21(日) 01:42:13 ID:YBByPdQk
やったッ!
さすがID:RkuWxsmMッ!
あれだけの大作を平然と書いてのけるッ!
そこに痺れる憧れるゥッ!
 

768 名前:トリップテスト ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:13:48 ID:Kcf6rTXR
トリップテストです。
スルーしてください・・・
769 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:16:32 ID:Kcf6rTXR
テストしてすまない。
お礼にSSを投下する。
季節は冬。
道場には剣道部員の掛け声と踏み込みの音、面を打つ音が響いている。
その音が一旦止まり、
「籠手打ち、始め!」
部長の掛け声をきっかけに、再び音が道場に響く。
夕方7時、ここ練心館で始まる校外練習は二時間続く。

770 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:17:22 ID:Kcf6rTXR
練習が終わり着替えを終えて、外で部員全員が出てくるまで待つ。
早く帰りたいが、道場に施錠をして鍵を返すまでは帰るわけにもいかない。
いや、本来はそれすらもしなくていいのだが。
何せ道場の持ち主の娘がここに来ているのだから。
一人を除き部員全員が帰ったことを確認した俺は、鍵を閉めることにした。
「ちょ、海原先輩すとっぷすとっぷ!」
「あーなんか幻聴が聞こえるな。まるで女の子の声みたいだ。」
「ばっちり聞こえてるじゃないですか!幻聴じゃないですよ!
 すぐに出ますから待ってくださ~い!」
声の持ち主が出てから再び施錠する。うん。確認OK。
「さて、帰ろうか大河内。」
「先輩。いつも言ってますけど、私が出てないのに鍵閉めないでくださいよ。
 いやがらせですか?それともいじめですか?」
「不器用な部長なりのスキンシップだ。」
「へー、そんなこと言うんですか。じゃあ今日お父さんに言っておきます。
 『海原先輩がお父さんとスキンシップしたいって言ってた』って。」
まずい。いつもより怒っている。
しかも彼女の父親との『剣道でのスキンシップ』は『死合い』と同義になる。
本人は遊んでいるのだろうが警察で剣道の指導をしている人間と高校生とでは実力差がありすぎる。
ライオンがウサギにじゃれついているようなものだ。

771 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:18:09 ID:Kcf6rTXR
「すまん。それは勘弁してくれ。もうむちうちになるのは御免だ。
 今度学食でカツ丼特盛か牛丼特盛をご馳走するから。」
「両方です。」
「両方かよ!・・・いや、わかった。わかりました。
 ご馳走させていただきます。大河内桜嬢。」
「わかればよろしい。ようやく身分をわきまえたようね海原。」
腰に手を当てて高笑いしている。しかし竹刀袋を持ったままだから全然似合わない。 
「さて!じゃあ帰りましょうか先輩!」
やれやれ。
このお嬢様の機嫌を損ねるたびに奢らされているというのに
俺も学習能力が低いものだ。
しかし、それがわかっていても何故かこいつにちょっかいをかけてしまうのだ。
それはこの少女の性格がそうさせてしまうのだろうか。
それとも単純に俺がいたずら好きだからだろうか。
それとも、俺がこいつに対して異性としての好意を持っているからか。
――たぶん全部だな。
左で歩くたびに左右に揺れるポニーテールを見ながらそう思った。

772 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:19:02 ID:Kcf6rTXR
すっかり暗くなった夜道を先輩と歩く。
四月に剣道部に入部してから毎日のように繰り返されていることだ。
でも一度も飽きたとか一人で帰りたいとか思ったことはない。
なぜか?理由は簡単。
私が先輩のことを好きだから。


剣道馬鹿の両親と兄を持つ私は物心つくころにはすでに竹刀を握っていた。
別に強制をされたわけじゃない。
両親の期待を受けた兄が小学六年生のときには全国大会に出場し、
中学に入ってからは高校生も打ち負かすほどの実力者になっていたからだ。
そのため私は両親に稽古をつけてもらったことがない。
見よう見まねでただなんとなく竹刀を振るようになっていたのだ。
そのことが影響したのか、中学校では全国大会にも出場し、部員の推薦で部長に任命された。
だからだろう。私は調子に乗っていた。
家が近いという理由で入学した県立高校の剣道部は
過去に大きな成績を残すほどでもなく、弱小と言ってもいいところだった。
入部一日目の感想はそんなものでしかなかった。
しかし入部二日目。この感想は変わることになる。

773 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:19:51 ID:Kcf6rTXR
経験者ということで早速その日から練習に参加することになった。
基本練習を終え、次に実力を見るために練習試合が行われた。
私の試合は最後に行われた。その相手が海原先輩だった。
海原先輩は昨日は練習に来ていなかったらしい。
(練習をさぼる人が私の相手をできるの?早く終わらしちゃお。)
そう思い『はじめ』の合図とともに繰り出した突きは、
先輩の喉ではなく空を突いた。
(うそ!突きがくることがわかってたの?)
予想外だった。どうやら本気でやる必要があるようだ。
先輩に向かって再度構える。
しっかり向かい合って分かる先輩の威圧感。
兄ほどではないが油断できない相手であることが感じ取れる。
そして自分の持てる最高の速度で突きを繰り出した――



774 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:22:22 ID:Kcf6rTXR
「引き分け!」
両者一本ずつの引き分けの結果に終わった。
私の突きを先輩が避けて胴を打ち、先輩に一本。
先輩の面打ちに対して籠手を打ち、私に一本。
その後はお互い決定打を打てずに引き分けに終わった。
終わってから私が感じたのは高揚感だった。ものすごく楽しかった。
ジョギング中にいつまでも走り続けていられるような、
プールでずっと泳いでいられるような感覚と似ていた。
今まで竹刀を握っていてこんな気分になったことはなかった。

練習後、対戦した先輩に興味を持った私は先輩が一人で帰っているところを見計らって話しかけた。
「海原先輩!」
「へ?あ、おー、こー・・・皇王池さんだっけ?」
「大河内です!お、お、こ、う、ち!」
最初の会話がこんなだった。まさか名前を間違われるとは。
なんだかとぼけた先輩だと思った。

妄想が浮かんだので書いた。
正直、反省していない。
とりあえずここまで。
次の投下は脳がスパークしたら今日中に。
遅くても・・・今週中には。
 
775 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:28:09 ID:tzOD2uWN
>>774
GJ!
今はまだ普通の女の子に見える大河内さんが
どんな風に病んでいくのか楽しみにしてます
776 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/21(日) 21:39:33 ID:IlYYgP25
ちょw
高校の初稽古でいきなり突きとか、なかなか外道なヒロインですね。
戦闘に躊躇いの無いヤンデレに期待させていただきます!!
777 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 00:52:56 ID:sVWolwVr
その帰り道でいろいろと聞いた。
名前は海原英一郎(うなばらえいいちろう)。
剣道を始めたのは小学三年生。段位は二段。
意外なことに今まで大会で優勝したことはないらしい。
気になったので突っ込んで聞いてみたところ、
「・・・笑わないって約束してくれる?」
「笑いませんよ。でも、まさか『大会に出るのが馬鹿馬鹿しい』とかじゃないですよね?」
「違うって、逆。出たくても出られなかったんだよ。
 ほら、大会前って練習に力が入るでしょ。
 俺の場合はやりすぎて体調崩して寝込んで、ってパターンが多いんだ。」
「でもさすがに七年間続けてっていうのは変じゃないですか。」
「大会前日に練習しなかったりしたら今度は体がうずうずして
 寝られなくなったりとか、風邪とか怪我もあってね。結局出場したことがないんだよ。
 嘘みたいだけど本当。」
「・・・ご愁傷様です。」
「いいえ、亡くなった私のために悲しんでくださって本当に・・・って違う!
 ノリ突っ込みさせないでくれ。」
「いやいや、今私ボケてないです。」
「そういやそうだった。ごめん。」
そんなことを話しているうちに私の家に着いてしまった。
残念。もっと長く話していたかったのに。通学路の短さを恨んだのは始めてだ。
先輩と別れの挨拶をして、その背中を見送っていると急に寒気を感じた。
寒さからではなく、これが寂しさから来るものだとこのときの私は理解していなかった。
 
778 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 00:53:36 ID:sVWolwVr
風呂に入り、遅めの夕食をとる。明日は弁当を持っていって練心館に行く前に食べるようにしないと。
歯磨きをして、布団に入る。
今日一日のことを思い返してみる。そして真っ先に思い浮かぶのは、海原先輩のこと。
私と互角の実力者。いや、私は全力だったが先輩は本気だったとは限らない。とすると互角以上と考えるのがいい。
しかし今まで私と張り合えるような人間はみんながみんな両親や兄のような遠い存在か、
年が近くても威張り散らしているような人ばかりだった。
しかし先輩は違った。とぼけているような感じがするけど実際は剣道好きでまじめな人。
初めて会う後輩に対しても親しく接することが出来る人。
短い髪。私より頭一つ分高い身長・・・。
「ん・・・」
なんだろう。むずむずする。もどかしい。パジャマの上から下半身に手を当てる。
「ひぁっ・・・!」
秘部のあたりに手を当てた途端、腰がくだけた。
「なに、これ・・・」
いままで経験したことのないものだった。
物足りないようで満たされないような感じ。でも、
「きもち、いい・・・ふぅ、ん・・・あっ!」
さっきより強く手を当てるとさらに強い刺激が襲ってきた。
甘い。手を出してはいけないとわかっていても手を出してしまうほどに。
そういえば中学生のころに聞いたことがある。
自分で性器に触って快感を得ようとする自慰行為。
今まで一度もしたことがなかったけど、
「これが、そうなんだ・・・」
でもどうして?今まで一度もこんなことしようなんて思わなかったのに。
なにが違うの?なにか悪いものでも食べた?なにか考えて・・・あ。

779 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 00:54:16 ID:sVWolwVr
「海原、せんぱぁい・・・」
そうだ。あのとき先輩のことを考えていたらこうなったんだった。
でも、たしかこういうのは好きな異性のことを思い浮かべるものだって聞いた。
と、いうことは。
「ふぅ、ん・・・あ、あんっ!わたし、せんぱいのこ、と・・・ふぁっ!好き、なの・・・?」
本当にそうなんだろうか。今日会ったばかりの人に?
でもなにもしなくても先輩の姿を思い出すだけで甘い痺れが襲ってくる。
「だめぇ、こんなの・・・せんぱいにしつ、れぇ・・・はぁん!」
そう思っても指は止まらない。妄想は止まらない。
先輩の指が私の秘部をいじっているところを想像した瞬間、
「あ!ひ、・・・なにこれ、とまらないよぉ・・・ふあ、あ、ああああああンっ!」
止めようのない大きな波が全身を駆け巡る。その波は私の体をしばらくの間痺れさせたあと、引いていった。
そして今度は脱力感に襲われた。なんだか芯に力を入れられないような感じ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・せんぱい、先輩、センパイ、私・・・」
初めて想い込めてこの言葉を口にします。
「好きです・・・海原先輩。」

これが先輩と初めて会った日の記憶。
それまでの人生で一番楽しかった日。

780 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 00:54:49 ID:sVWolwVr
翌日、私は一本の鍵を持って学校に行った。
実家とは少し離れた位置にある道場の鍵だ。
この道場はかなり昔、祖父か曽祖父が師範をしていたころに建てられた道場で、名前を練心館という。
現在では剣道の大会などで時々使用するだけで、ほとんど使われていなかった。
そこで父に部活の校外練習に使うという理由で頼み、許可を得た。
だが校外練習というのは理由の一つに過ぎない。
本当の理由は海原先輩と少しでも一緒にいたいと思ったからだ。
正直に言うと、先輩だけ来てくれればいい。
顧問と部長に校外練習をする提案をした。
顧問は道場の持ち主が近くに住んでいるということを話すと許可してくれた。
部長もはじめは渋い顔をしていたが、最後にはOKの返事をしてくれた。
部員には希望者のみ参加してくれればいい、と説明した。
先輩にはその日の校外練習が終わった日に頼みごとをしてみた。
「海原先輩。お話があります。」
「ん?なに?まさかこくはk」
「もう夜九時です。遅い時間ですよね? 外は真っ暗ですよね?
 女の子が一人で帰ったら危ないですよね?
 だから先輩。練習の後に私の家まで付き合ってくれませんか?」
「ああ、もう九時だ。たしかに遅い時間だ。夏でも九時には真っ暗になっているな。
 女の子が一人で帰ったら暴漢にあうかもしれない。
 だが大河内。練習の後は俺もすぐに家に帰って寝たい。だから断る。」
「なんでですか!私が暴漢に襲われてあんな目やこんな目にあってもいいと言うんですか?」
「むしろお前があんな目やこんな目にあわせてしまっ・・・
 いや、すまん。前言撤回する。だからそんな目で見るな。」
全く失礼な先輩だ。会って二日目だというのにこのやりとり。まるで昔からの友人みたいだ。
でも――嬉しい。こんなに早く先輩と仲良くなれるなんて。
これからは毎日先輩と二人っきりで話すことができる。
もっと先輩のことを知ることができる。先輩のことをすべて知りたい。 
ただ先輩がものすごく怯えているように見えるのはなぜだろう。

781 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 00:55:36 ID:sVWolwVr
それからは学校での部活動が終わった後に練心館での稽古が行われるようになった。
参加する部員は十人前後ではあったが、海原先輩は毎日来てくれた。
狙い通り。昨日の話で先輩が練習大好き人間だということが分かっていたから来ると思っていた。

校外練習の成果だろうか。剣道部は地区で行われた春の新人戦で団体戦で準優勝を飾った。
同時に行われた二・三年の先輩達の試合も第三位という快挙を成し遂げた。
このときに海原先輩も参加しており、初めて手にする銅メダルを感慨深い眼差しで見つめていた。
第三位という成績をおさめ、練心館はさらに活気付いた。
部員の八割が校外練習に参加するようになり、大会でも好成績を記録していった。
それには――海原先輩の参加が影響していると思う。
私が入部して以来、先輩は『大会の日に必ず体調を崩す』というジンクスが嘘のように消え去った。
参加する大会ではほぼ負け無し。夏の県大会で全国大会の優勝校のエースと対戦したときだけが例外。
その戦績で部員達の信頼を得た先輩は夏に三年生が引退するときに部長を務めることになった。
剣道部も先輩の調子も順風満帆。ただひとつだけそうは行かないのが――



782 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 00:56:19 ID:sVWolwVr
「俺はいまだに脱皮する必要があるのかわからない。
 最初からあの状態で高速戦闘したほうがいい。
 あれは設定ミスだろう。」
「最終回が終わったっていうのにいまさら何言ってるんですか。
 だいたい先輩は分かってません。脱皮したら敵を吹き飛ばせるんですよ?
 それにいきなり高速戦闘するだなんて情緒がありません。
 あれが美学というものです。」
これだ。私と先輩の関係。未だに『部活動の先輩・後輩』のままだということだ。
半年以上一緒に帰っているというのに先輩は全く私に色気のある話を切り出さない。
まあ、そういう話を振らない私も悪いのだけど。
だけど、いつまでもこの状態でいるわけにはいかない。私の恋には敵が多い。
剣道部の女子の数人も時々先輩を潤んだ瞳で見ていたりするし、
先輩の下駄箱には毎週ラブレターが入れられている。
今までは女子部員の籠手の手首を狙って打ったり、
ラブレターを別の生徒の下駄箱に入れたりしてきたが、
直接言われたらもう止める術はない。
「よし、決めました。決戦は月曜日です。」
「それを言うなら金曜日だろ。あれもいい歌だよな。たしか・・・」
「あ、着きました。じゃあ先輩。送ってくれてどうもありがとうございました。」
「あ、ああ。じゃあまた来週部活でな。」
「はい!」
この戦い、必ず勝利して、そして・・・今までの先輩との関係の壁を壊します。
 
コーヒーで脳がスパークしたので書いた。
正直、エロシーンがこれでよかったのか反省している。
PS.私の属性は『後輩』。

783 名前:あなたと握手を訂正 ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 01:02:15 ID:sVWolwVr
>>780
>先輩にはその日の校外練習が終わった日に頼みごとをしてみた。
先輩にはその日の校外練習が終わった後に頼みごとをしてみた。
でした。ごめんなさい。
 
784 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/22(月) 01:10:19 ID:x5FIbsvX
日本語がおかしいぞ
きちんと文章を書いてくれないか?
 
785 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/22(月) 01:10:33 ID:i4qMGm2H
大河内さんエロいよ大河内さん(*´Д`)ハァハァ
裸で待っててよかったw
GJ!
 
786 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/22(月) 01:36:08 ID:+Sn+XoUr
GJです!
続きの病みの描写に期待
 
787 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/22(月) 02:35:42 ID:sXcPKANe
高校から許される突きを初っ端からぶっ放したり、
籠手の手と手首の間の布地だけの部分を狙って打ったり……。
非道いw
非道過ぎるよ、大河内さん!! (* ´Д` *)ハァハァ
 
788 名前:あなたと握手を訂正2 ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 06:46:58 ID:sVWolwVr
うわぁぁぁぁぁ!
また誤字発見!
>>779
>初めて想い込めてこの言葉を口にします。
初めて想いを込めてこの言葉を口にします。
『を』が抜けてました。ごめんなさい。
 
789 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/22(月) 14:04:12 ID:fF6rd5LU
>今までは女子部員の籠手の手首を狙って打ったり、
>ラブレターを別の生徒の下駄箱に入れたりしてきたが、
既にかなり黒いよ大河内さん(*´д`*)ハァハァ 
そろそろ次スレじゃないかな?
テンプレ案とかある?
 
790 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/22(月) 14:13:10 ID:PXbJp60O
http://www.4koma.com/yohsuke/lll/index.html
どうこれ
 
791 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/01/22(月) 15:42:33 ID:or+YVF78
>>790
百合だが確かにヤンデレだ
ep9の4コマ目の表情が秀逸w

>>789
とりあえずまとめサイトのURLは必須だろう。

792 名前:テンプレ案 ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 20:46:21 ID:sVWolwVr
>>789
>>1やスレの頭で語られた内容を自分なりに整理しました。
気に入らなかったらスルーしてください。

・このスレッドはヤンデレの小説を書くスレッドです。
・既存のキャラの使用アリ。
・プロット投下やニュースなどのヤンデレ系のネタ大歓迎。
・ぶつ切りでの作品投下もアリ。
・作者のみなさんはできるだけ作品を完結させるようにしてください。

ヤンデレとは
・主人公が好きだが(デレ)その過程で心を病んでしまう(ヤン)状態の事をさします。
 (別名:黒化、黒姫化など)
・ヒロインはライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつ確実に病んでいく。
・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することがある。
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
http://yandere.web.fc2.com/
 
793 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:48:40 ID:sVWolwVr
続けてレスしてすまない。投下する。
大河内の自宅の周りには塀が建てられている。
自宅の敷地内にも道場が建てられているらしく、次の曲がり角までその塀は続いている。
塀に沿って歩きながら、別れ際に大河内の言った言葉を思い出す。
「決戦は月曜日ね・・・」
その言葉はおそらく、『交際の申し込みを月曜日にする』ということだろう。
確信は持てないが、なんとなくそんな気がする。
大河内が俺に対して好意を持っていることは薄々感づいていた。
『練習のあとに一緒に帰ってほしい』と頼み込んできただけだったら、自分の勘違いだと思っていただろう。
しかし大河内はいろいろな面で俺に関わろうとしてきた。
ときどきではあるが俺に弁当を作ってきてくれたこと。
メールアドレスを交換してから毎朝おはようのメールを送ってくること。
休日に大河内家の道場で家族と一緒に剣道の練習をしようと頼んできたこと。
あのときは大河内兄に防具をつけたまま便所まで追い込まれた挙句閉じ込められたり、
絵に描いた様な巨漢である大河内父から、高速の突きを受けてむちうちになったりと散々だった。
あの日、唯一嬉しかったことは大河内母の作る昼食の豚汁が言葉にできないほど美味だったことだけだ。
まさにアメとムチ。豚汁とむちうち。
一回行ったきりだが、また今度行ってみるとしよう。今度は医者同伴で。
それは置いておいて。

そんな大河内の姿勢に俺も段々惹かれていき、気づいたら異性として好きになっていた。
なぜ今まで告白しなかったかというと、一緒に練習をして談笑しながら帰るという関係が心地良かったからだ。
だがそれも月曜日で終わらせる。こっちから先に告白して、あいつの驚いた顔を拝むことにしよう。
もし俺の勘違いだったとしても構わない。
俺は大河内のことが好きだから告白するのだ。

794 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:49:40 ID:sVWolwVr
俺の家は大河内の家から国道を挟んで向こう側にある。
国道とはいえ俺の住む町は都市部とは違い九時ごろになるとほとんど車が通らない。
だからいつもは横断歩道が赤でも車が来なければ渡っていた。
その日は右側百メートルくらい向こうから車が来ているだけだったのでいつものように渡った。
『ドサッ』
向かい側の歩道に着いたときに後ろから物音がした。
振り向くと、同じ高校の女生徒が手提げバッグの中身を落としてそれを拾っているのが見えた。

右からは車が迫っている。止まる様子は、ない。

(ズクン。)
心臓が締め付けられるのを感じた。
引き返すな。間に合わない。このまま止まっていろ。そう言っていた。
それでも恐怖で上手く動かない足を動かし、引き返した。
もしかしたら助けられるかもという小さな望みが体を動かした。
女生徒の左側で急停止。
腰を落として、しゃがんでいる女生徒の腰に右手を回し、引き寄せる。
この時点で車は二メートル前に迫っていた。視界が光で埋め尽くされる。
考える時間はなかった。
反射的に道路についた左手を軸にして両足で地面を蹴り、
体を移動させることができたのはまぐれ、もしくは運が良かったと言うべきだろう。
車が一瞬前に自分たちのいた空間を通り過ぎる。と同時に俺は衝撃を受けた。

最初にゴォンという音と一緒に頭に激痛が走り、
次に鉄の匂いときつい香水の匂いがして、
最後に左手から、骨を伝って嫌な音が脳に届いた。

『ぐきゃ』

その音を最後に、
俺は意識を手放した。

795 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:50:37 ID:sVWolwVr
月曜日。
大河内桜は早起きして台所で料理しながら変な歌を歌っていた。
「うっなばら♪ うっなばら♪ うっなばらせ~んぱい♪
 きょうのおかずはハンバーグ~♪ 
 ポテトサラダもたっくさんいれて~♪
 ニ~ンジンもいっぱいいれました~♪
 ぜ~んぶ た~べてくださ~いね~♪
 さ~いごはわたしをたべちゃって~♪」
歌の内容のとおり、憧れの海原英一郎の心を射止めるための弁当を作っているのだ。
メインのおかずは一番得意なハンバーグ。
以前手作り弁当を食べてもらったときに一番の好評を得ていた。
食卓では定番のメニューだが時間がかかるため、朝作ることはほとんどない。
だが今日だけは別である。愛の告白という最重要イベント。
少しでも勝率をあげるためにはどんな労力も厭わないのだ。

「じゃあ、行ってきます!」
母に見送られ大河内桜は勇み足で歩き出した。
憧れの人が待つ学び舎という名の決戦場へ向かって。

796 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:52:49 ID:sVWolwVr
今私は屋上で先輩を待っている。
学校の屋上と言えば昼食をとる学生たちで賑わうものだというイメージがあるが、
この高校は安くて美味しい料理を出す学食や、テーブルが設置されている中庭もあるので人が滅多にこない。
告白するには絶好の場所だ。
朝、先輩の下駄箱に
『屋上で待ってます。一緒にお弁当を食べましょう。 桜』
と書いた手紙を入れておいたから先輩はきっと来てくれる。
でも、さすがに先輩も今日この場で告白されるとは思わないはずだ。
もし、告白したら・・・
 
「先輩。私は、先輩のことが好きです。初めて会った日から好きでした!
 私を先輩の恋人にしてください!」
「えぇっ!え、あ、いやなんでていうかそういうのはもっとこう
 長くお知り合いになってからのほうがいいのではないかと思うのだが。」
「もう私たちが知り合ってから10ヶ月目です。十分にお知り合いですよ。」
「し、しかしだな今月号の保健便りにも思春期の恋愛ではキスを許してしまうと
 男が発狂してその先へ行ってしまうということが書いてあってだな
 つまり何が言いたいかというとだな俺とお前がそういう関係になった場合
 俺が狂人にならないとは言えないわけでだな。」
「いい、ですよ。」
「ぇ?」
「私のファーストキスも、初めても、全部先輩にあげます。
 ・・・先輩。私、本気ですよ。」
「・・・・・・・・・。
 ・・・大河内。実は、俺もお前のことが――――――

797 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:53:20 ID:sVWolwVr
「大河内?来てるのか?」
「『そして私たちは顔を寄せ合い』って、へぁっ!?」
先輩の声が後ろから聞こえた。振り向くと左肩を壁に当ててもたれかかっている先輩がいた。
心臓が高鳴る。顔が紅くなるのがわかる。
まずい。いざとなると頭が回らない。えーと、『私のファーストキスも、』じゃなくて!
そう!まず一緒にご飯を食べるんだった。告白はそのあと。
「手紙、呼んでくれたんですね。じゃあ、一緒にお弁当食べましょう。」
「待ってくれ。その前に言っておきたいことがあるんだ。」
「ぇ?」
まさかさっきの妄想が本当に?
嘘、え。やだ、嬉しい。どうしよどうしよ。
いや、落ち着け私。先輩の告白の言葉を脳に永久保存するために耳を澄ますんだ。
「大河内。実は俺な・・・」
くるっ!
「この間の夜、事故った。」

・・・じこった?
なんですかそれ。どこの国の言葉ですか?もし日本語だとしたらどの地方で流行っている告白の言葉ですか?
しかし次の瞬間私は凍りついた。
先輩が体の後ろに回していた左手を私に見せる。
 
左手が、包帯でぐるぐる巻きにされていた。

798 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:54:22 ID:sVWolwVr
あの夜にあった出来事を大河内に話すことにした。
こいつには話しておいたほうがいいだろう。
「国道でうちの高校の女生徒が車に轢かれそうになってて、俺が助けようとしたんだ。
 どうにか女生徒は無事だったけど、俺は左手をタイヤに踏まれて、この通りさ。」
明るい口調で喋ったつもりだったが、大河内の表情はさらに険しくなった。
「女をかばって、先輩が怪我をした、ってことですか」
「まあ、そういうことだ。」

事故のあとに目を覚ました俺は病院のベッドに寝ていた。
目を覚ました俺を見て両親は緊張の糸が切れたように座り込んだ。
聞くところによると、ガードレールの柱に頭を打って倒れていた俺を見て救急車を呼んでくれたのは
俺がかばった女生徒ではなく、散歩途中のおばさんだったらしい。
横断歩道に潰れた携帯電話や化粧品が転がっていただけで
女生徒らしき人影は見当たらなかったそうだ。
車はそのまま走り去ってしまったらしく、警察が調べてはいるが
人を直接轢いたわけではないので特定は難しいとのこと。
怪我の具合を聞いてみたところ、脳波や頭蓋骨・脊椎などに異常は無かったらしい。
「ただ・・・」と言葉を切った母の視線が俺の左手に向けられていた。
それにつられて見た自分の左手は、包帯に包まれて楕円形になっていた。
それを見て嫌な予感がよぎる。
軽く人差し指を動かしてみようとするが、動かない。ああ、やっぱりか。
 
左手が、まったく動かなくなっていた。

799 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:55:15 ID:sVWolwVr
ここまでの話を聞いた大河内の表情は、絶望の色に染まっていた。
「右手は動くし、左手は薬を飲んでおけば日常生活に問題はないから学校には通うことにしたんだ。
 ちょっと不便だけどな。」
「・・・・・・・・・そうですか。」
いつもの明るい声も暗く沈んでいる。
何を言っても元気を出してくれないのではないだろうか。
「・・・完治は、するんですか?」
「医者の話では骨は元通りになるそうだ。
 ただ以前のように動くかは経過を見ないとわからないってさ。」
「・・・・・・・・・そうですか。」
声を聞くたびに俺の気分まで落ち込んでいく。
こいつのこんな顔は見たくなかった。
(今告白したら元気、出してくれるかな。)
馬鹿か俺は。
ここまで落ち込んでいる人間にそんな話をしたら嫌われるに決まっている。
「あー、とりあえず弁当食べないか?作ってきてくれたんだろ?」
「・・・はい。すいません先輩。
 私、急用を思い出しました。・・・失礼させていただきます。」
そう言って大河内は俺に弁当の包みを渡すと屋上から去っていった。
あとには俺一人が残された。

その弁当は確かに美味かった。
ハンバーグまで入っているということは相当に力を入れて作ったんだろう。
でも。
「二人で食べたらもっと美味しいんだろうな。」
誰もいない屋上でそんなひとり言をつぶやいた。

800 名前:あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/01/22(月) 22:56:06 ID:sVWolwVr
先輩を屋上に残し、ゆっくり屋上のドアを閉めて、・・・そしたらもう我慢の限界だった。
(なんで!なんでなんでなんで!どうしてこんなことになってるのよ!)
声には出さないけど心の中では絶叫が響きわたっている。
いま自分がどんな表情をしているのかわからない。でも、きっと子供が見たら泣くのは間違いない。
絶望と、怒りと、悲しみが混沌を生み出している。なにがなんだかわからない。
くらくらする。眩暈がする。足がもつれて、階段を踏み外してしまった。
「いっっつう・・・うく、くぅ・・・うっうぅぅ・・・」
泣き出してしまった。痛みからではない。悲しみが堰をきって押し寄せてきたからだ。
先輩の左手が動かなくなった。そのうえ、元通りになるかはわからない。
直る可能性もある。でも、もし直らなかったら。
「そんな・・・そんなこと、考えちゃ、だめ・・・うぅぅ、く、ふ・・・
 いや、そんなの・・・いや。だ、って、もしそんなぁ、ふぁ・・・ことに、なったら・・・」
先輩は剣道部をやめてしまう。
つまり、先輩とのつながりが無くなってしまうということ。
今まで私は先輩と『剣道部の後輩』としてしか付き合ってこなかった。
お弁当を作ることができたのも『後輩』だったから。メールでの話題も『剣道』のことばかり。
家に呼べたのも一緒に『剣道の練習』をすることができたから。
それは先輩が剣道部員だから成り立っている関係だった。
先輩に対して学校の上級生として接することもできるのかもしれない。普通の女の子なら。
でも私には無理。今までの人生で男の子とは『剣道』を通してしか関わらなかった。

そう。『剣道』が無ければ何もできないような臆病者なんだ。私は。