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477 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/02/09(金) 02:00:24 ID:76e5wCUJ
 目が醒めたら地下室にいた。
「…………」
 それが本当に地下室なのかどうか、いまいち判然としない。周りを打ちっぱなしのコンクリ
ートに無理矢理木の板を拵えたような、大雑把な壁に囲まれて、窓も扉もないからそう判断し
ただけだ。正面、部屋の奥には上へと繋がるハシゴがある。あのハシゴをあがったら屋上だっ
た――なんてことになれば、そこそこ面白そうなのだが。
 部屋は狭い。六畳一間、あるかないかといったところだろう。それだけなら狭いというほど
でもないが、部屋の両脇に詰まれた木箱が部屋を圧迫していた。低い天井には電球一つしかな
くて、余計に圧迫感が増していた。電球から伸びたむき出しのコードは、部屋の端へと繋がっ
ている。部屋にあるのは、奇妙な形のトイレと、幾つもの木箱と、簡易ベッドだけ。
 シェルターみたいだ、と思う。
 ずっと前に姉さんと二人で見た、古い外国製のモノクロ映画。その中に出てきた個人用シェ
ルターに、雰囲気がそっくりだった。台風や爆撃のために逃げ込むための地下室。一ヶ月程度
なら、ずっと暮らして行ける環境のはずだ。快適とはいえなくても、生きていくことはできる

 ただし。
 両方の手足を、鎖と手錠でつながれていなければ、だが。
「…………」
 ぴちゃぴちゃと、水音が聞こえる。粘つくような、小さな音が、耳にこびりついて離れない
。同時に下腹部からむずがゆい感覚。夢か醒める寸前から感じていたものだ。首筋がひりひり
と痛むのは、スタンロッドをあてられたからだろう。
 ――スタンロッド。
「……ッ、」
 寝惚けていた意識が、一気に覚醒した。まだ微かに頭に残っていた夢の残滓をこびり落す。
そんなことにかまけている暇はないのだ。
 そして、目を覚ました僕を見上げて、
「あ、先輩。おはようです!」
 咥えていた性器を口から離し、場違いなほどに明るい声で、神無士乃は挨拶をした。
 離れる瞬間に、ぬるりと、ナメクジが這うようなぞくぞくとした感触が走る。それだけで張
り詰めたものは限界を迎えそうになった。
 見れば、ズボンのチャックはあけられ、そこから取り出された取り出されたモノは、神無士
乃の唾液に塗れていた。暗い電球の光を浴びて、ぬらぬらとした輝きを見せている。
 神無士乃は伏せるようにして僕のモノをくわえ込んでいた。たおやかな胸が、両脚に置かれ
る感触。両脚を鎖で壁の木箱と、両手を後ろで手錠で括られている僕は、ほとんど身動きがで
きない。そそりたつ自身のものを隠すことも、触れることもできない。
 神無士乃は、見下げるように、見上げてくる。
「神無、士乃――」
「はい、士乃さんです。目、ちゃんと醒めましたか?」


478 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/02/09(金) 02:00:55 ID:76e5wCUJ

「…………」
 普通の挨拶のように、神無士乃は言う。
 いつものように。
 日常のように。
 この異常な状況で、平然と、笑っている。
 何だ。
 僕は、何に対して、突っ込めばいい? ここは何処ときくべきか? お前は誰だというべき
か? どうしてあんなことをしたのか、どうしてこんなことをしているのか、それを訊ねるべ
きなのか?
 けれど、どれもこれも、適切な質問ではない気がした。
 僕の股の間で笑う神無士乃に対して、そんな質問は、意味を為さないような気がしてたまら
なかった。
 結局僕は、まったく関係のない質問を投げた。
「……学校に遅刻するぞ、神無士乃」
「大丈夫です先輩、今日は土曜日ですからっ!」
 自身満々に神無士乃は言う。
 ――ということは、アレから、一日とたっていないのか。
 眠ったまま一週間がたっていなかったとすれば、昨日の夜から最大でも五時間くらいしかた
っていないことになる。窓が一つもないから、外の時間なんて分からないけれど――少なくと
も、そんなに時間はたっていないのだろう。
 永遠に、眠っていたような気さえしたのに。
「はっはっは、神無士乃はアホの子だな。土曜日も学校はあるに決まってるだろ」
「そういう先輩はゆとり教育の被害者ですね。最近は第二、第四土曜日だけ学校に行けばいい
んですよ?」
「ハ! ひっかかったな神無士乃、完全週休二日制が導入されたことを知らなかったようだな!」
「まじですか!」
 悪の帝王のように笑うと、神無士乃は正義のヒロインのように驚いてくれた。
 いつも通りの、馬鹿げたやりとり。
 そのやりとりを続けながら、こっそりと、神無士乃にバレないように手足を動かしてみる。
鎖が外れないかと思ったのだが、どうにも動かない。手は完全に固定されていて、前に回すこ
とも上に動かすこともできないし――足を動かせるのはせいぜい五センチ程度で、閉じること
すらできなかった。
 そんな僕に対し、神無士乃は笑ったまま、
「駄目ですよ先輩。いや、無理ですよ先輩。私、ちゃんと外れないように頑張ったですから」
「…………」



479 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/02/09(金) 02:02:05 ID:76e5wCUJ

「どこにも、逃げられません」
 その言葉に。
 僕の顔から、笑みが消える。神無士乃は確信して、これをやっているのだ。
 スタンロッドで意識を奪ったのも。
 地下室に繋いだのも――全て、神無士乃の、仕業なのだと、目の前の少女は言っている。
 笑う瞳が、告げている。
「でも、先輩は逃げたりしないですよね。ずっと私と一緒でしたもんねー」
 笑う、笑う、楽しそうに、おかしそうに。
 神無士乃は、笑っている。
「……確かに、ずっと一緒だったな」
 姉さんを除けば、だが。
 姉さんを除けば、僕からは何も残らないことを除けば、だが。
「そうですねっ!」
 僕の心中を知り得ることのない神無士乃は、笑ったまま、続ける。
「そして、これからも一緒です。先輩と私、二人仲良く、二人三脚です」
「三面六臂の方がまだマシ、といった感じだな」
「四身の拳とならどっちを選びます?」
「狼牙風風拳とならそっちを選ぶよ」
 ヘタレは駄目だ。間抜けならまだいいが、ヘタレだけはいけない。
「それで――この状況、どう説明する気だ?」
 僕の言葉に、神無士乃はひひひひひ、とオヤジ臭く笑って、
「この状況って、こんな状況のことですか?」
 くい、と。
 そそりたった僕のモノを、その指先で、いきなり握りしめた。
「――ッ!!」
 細い指が肉に食い込む。こすれる爪が、微かな痛みと、痛みを越える快楽をもたらしてくる
。触れられただけで、意識の全てがそこに集まってしまう。
 玩具のように、僕のモノを、神無士乃は上下に揺らした。空気を掻き混ぜるように。唾液が
重力に従って下へと落ち、その微かな感覚を、鋭敏になってしまった性器が全てかき集めてし
まう。
 もどかしく、嬲るような手つきだった。



480 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/02/09(金) 02:03:13 ID:76e5wCUJ

「目の前に無防備な先輩がいちゃいましたから。ちょっと、やりたくなったんです」
「無防備って……こんな強制無防備宣言みたいなことしといて、お前、」
 反論する僕を、完全に無視するように、神無士乃は手に力を込める。
 一瞬、握りつぶされるかと思った。
 けれど、そんなことはなかった。ニ本の指では挟むように、少しだけ強く僕のモノを神無士
乃は握る。指先から、神無士乃の体温が伝わってくる。そのまま上下にこすって欲しいと、頭
の片隅で誰かが考えている。命の危機も、異常な状況も、全て無視して快楽をむさぼりたいと
、すぐそこにある神無士乃の顔に出してしまいたいと、頭の中で誰かが言っている。
 その誰かを、精神力で、どうにか押さえ込む。
 それは、神無士乃から見れば丸分かりだったのだろう。意地の悪い笑みを浮かべて、神無士
乃は言う。
「だって、もう先輩は――私だけのものじゃないですか」
「お前だけの、もの?」
「そうですよう。先輩は私だけのものですし、私も、先輩だけのものです」
 当たり前でしょう?
 そう言って、神無士乃は、笑う。 
 笑って、彼女は言う。
「だから、安心してください。

 他の誰にも――先輩は、傷つけさせません。

 安心して、ください」
「他の――誰にも」
 その言葉。
 その言葉で、僕は思い出す。スタンロッドで気を失う前のことを。本当ならば、最初に思い
出さなくてはいけなかったことを。
 そうだ。
 あの時、あの夜。
 如月更紗が、マッド・ハンターだとわかって。
 そして、そのマッド・ハンターが――僕を庇って、アリスと激突したのだ。
 あまりにも目まぐるしく進む事態に、あの時は驚いている暇すらなかったけれど……こうし
て考えてみれば、それはとんでもない内容のはずだ。



481 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/02/09(金) 02:04:09 ID:76e5wCUJ

 マッド・ハンター。
 狂ったお茶会の一人。
 ヤマネ、マッドハンター、三月ウサギからなる、狂ったお茶会と呼ばれるチームの一人。狂
気倶楽部の中での小集団。物語別の、御伽噺。
 姉さんは、里村春香は、三月ウサギだった。
 ――里村春香と、友達だったのよ。
 そう、如月更紗は言っていた。
 それは、つまり。
 姉さんは――僕が如月更紗と知り合うよりも早く、ずっと昔から、付き合いがあったという
ことになる。
 高校生になった、狂気倶楽部に足を踏み入れた、あの日から。
 それが一体何を意味するのか、僕には分からない。分かるのは、その如月更紗が、僕を守る
ように、本当ならば身内であるはずのアリスと衝突したということだけだ。
 マッド・ティーパーティーに、アリスは訪れ。
 アリスが去ることで、狂ったお茶会は終わる。
 出番が、終わる。
「…………」
 あいつは。
 僕を庇ったあいつは、無事なんだろうか。『あの恐るべき』と形容していたアリスから、生
き延びることが、できたんだろうか。
 分からない。
 地下に監禁されていたは――何も、分からない。

 出なければならない、と思った。

 誰でもない、他の誰でもない、如月更紗のために。
「あ。先輩、他の人のこと、考えてます。駄目ですよ、それ」
 言いながら、神無士乃は、手に握ったソレを、舌でべろりとなめ上げた。下から唾液をすく
うように、ざらざらとした舌の感触が、竿を這っていく。カリ首を握る指まで辿り着いたとこ
ろで、今度は根元へと降りていく。
「う、うぁ、」
 一回で終わらなかった。二回、三回と、神無士乃は丹念に舐める。愛しそうに、嬉しそうに
。綺麗に、綺麗に、舐め取っていく。そのたびに快楽が電流のように走る。



482 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/02/09(金) 02:04:52 ID:76e5wCUJ

 けれど、足りない。
 決定的に、足りていない。神無士乃はつかんだ手の方は動かさない。絶頂へと導かないよう
に、加減して愛撫しているのが、はっきりと分かる。
 笑う彼女の瞳が、告げている。
 ――まだ、いっちゃ駄目ですよ。
 そう、神無士乃は笑っている。
「私のことだけ、考えてください。だからこれは――お仕置きです」
 ――お仕置き?
 その言葉に、疑問を思う暇もなく。

 かり、と。

 むき出しになった頭頂部を、神無士乃は甘噛みした。
「――――――っあ、あ、」
 今までの優しい触れ方とは違う、敏感なところへのいきなりの衝撃に、心のそなえもなかっ
た僕の口からあられもない声があがる。びくりと、股間が脈打つのが分かる。すぐそこにある
、神無士乃の顔に、
 出ると思った瞬間――神無士乃が、すっと、離れた。
「え、」
 足り、ない。
 足りて、いない。
 あと一ミリ、届いていない。噛んだ後、少しでも舌が触れれば、それだけで絶頂へと辿り着
いただろうに、神無士乃はそれをしなかった。極限まで敏感になった瞬間に、絶対に触れない
ように気をつけて、口を離したのだ。
 そして、立ち上がる。
 立ち上がって、見上げるように、見下ろして。
「これで、おしまいです」
 ぺろりと、唾液に濡れる唇を、自身の舌で拭い取った。



483 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/02/09(金) 02:05:47 ID:76e5wCUJ


「終わ、り……?」
「はい。あとで、ご飯持ってきてあげますね。じゃんじゃじゃーんと楽しみしててください、
私の手料理ですよっ」
 明るくそう言って、僕の返事も待たずに、神無士乃は踵を返す。
 踵を返して、ハシゴへと、歩く。
 股間をむき出しにして、恐らくは情けない顔をしているだろう、情けない僕を置いて。
「神無士乃――」
 何を言おうと思ったのでもない。
 気付けば、口からは、名前が出ていた。
 名前を呼ばれて、神無士乃は振り返り。
「早く、私のことだけを考えてくださいね――冬継さん」
 最後に、僕を、名前で呼んで。
 神無士乃は、ハシゴの側にあったスイッチを切って、部屋の中の電気を消した。そしてハシ
ゴを昇り、明るい世界へと出て行く。
 天井の扉が閉まる。
 明かりが途絶える。
 地下室に、闇が訪れる。


 何も見えない地下室で、動くこともできないままに――僕は大きく、ため息を吐いた。


 如月更紗が、無事でいるといいと思った。
 無事でいて欲しいと――願った。