570 :類友1話 [sage] :2007/02/10(土) 18:15:11 ID:Hsf76qcX
私はその時、愛する人を失った悲しみに打ちひしがれていた。



今朝から彼の姿が見えず、不思議に思い彼のクラスメートに尋ねたところ

…彼が、自殺したということを、知った。


気が付くと、人気の無い後者裏に一人佇んでいた。
そして泣いた。
体中の水分が出尽くして、脱水症状を起こすんじゃないかと思う程に。

本当に悲しかった。
自殺するくらいに悩んでいたなら、何故私に相談をしてくれなかったのか。
彼がそこまで追い詰められていたことに、何故気がつけなかったのか。
私の愛は、彼の心に、届いていなかったのか。

止まらぬ涙でぼやけた視界に、ふと影が差した。

「…大丈夫か?」

いつの間にか正面に男性が立っていた。
そして、その優しげな声色に、余計に涙が流れた。


暫くして涙が収まりだした頃、私は隣に座った男性に慰めてもらっていた。
けれど泣き疲れてぼうっとした頭には、何を言われのか残らなかった。
残ったのはただ、優しい人だという印象だけ。

実際優しい人なのだろう。
そうでなければ、話しかけても返事さえしない見知らぬ女が泣き止むのを、
ましてや授業を放棄してまで付き合う筈がない。

そして、ようやく泣き止んだ私の、
手には男物のハンカチが。
視界には男性の後姿が。
記憶には、安堵した笑顔が、残った。


571 :類友2話 [sage] :2007/02/10(土) 18:16:17 ID:Hsf76qcX
まだ昼前だったが、到底授業を受ける気分になれず帰宅した。
両親共に多忙な仕事人間で、娘のことを気にかけるようなことがない。
それが今は素直に有難いと思う。

誰もいない家の中を進み、私室に入る。
…視界に入るのは彼の写真。いけないまた泣けてきた。

手に握ったままのハンカチを目頭に押し当て、波をやり過ごす。
すぐに落ち着いた。…私は冷たいのだろうか。

だが。彼も冷たかった。
何度メールを送っても碌に返事がきたことはない。
プレゼントだって使うどころか、包装をそのままに捨てられてたこともある。

手を伸ばし、写真に触れる。愛しい彼の顔を撫でる。この写真も。
何度頼んでもくれなかったから、隠し撮りしてようやく手に入れた物なのだ。
だから彼の目線はこちらを向いていないし、
その笑顔の理由を考えて、嫉妬に身を焦がしたことは一度や二度じゃない。

でも。弱気な私は直接問いただすことなどできずに。
結局、私は、何も、知らないまま、彼を失うことに―――


止めよう。今は何を思い出しても悲しいだけだから。
とはいえ、何もしてなくてもこの部屋は。
彼を愛した痕跡が至る所に見受けられて、辛い。
…片付けることにした。彼との思い出さえも。

彼の笑顔を写したカメラや、その写真や、分けてもらった彼の私物。
彼の声を聞いた携帯電話も、何も、かも、捨てた。

そして、空虚な部屋に私は、いる。
最終更新:2008年07月14日 22:54