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616 :上書き第2話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/10(土) 23:16:03 ID:EZ/bc10q
今日もいつもと変わらない朝。
朝の新鮮な空気をたっぷり吸い込みながら、家の前で加奈を待つ誠人。
「誠人くん~!もうちょっと待ってぇ~!」
「はいはい待ってるよ」
開いたままのドアから加奈の叫び声が聞こえる。
ひどく慌てた様子が誠人に伝わる。
いつも寝坊する加奈を待つのは、誠人の日課だ。
家中に縦横無尽に動き回る加奈の足音が広がる、それを聞くのが楽しかった。
「ごめ~ん!すぐ行こう!」
両手を合わせ真剣な表情で謝る加奈をおかしく思う誠人。
「あっ!笑ったな!?」
「笑ってないから、さっさと行こうぜ」
「ちょっと待ってよぉ!」
早足で歩く自分に並ぶために必死についてくる加奈を見つめる誠人。
(本当可愛いな…)
あんまりにも見とれていた加奈が不審な目で誠人を見つめ返す。
「どうしたの?あたしの顔なんか付いてる?」
自分より一回り小さい少女に指摘され、ようやく自分が彼女を見続けていた事に気付く誠人。
紅潮した表情を悟られないよう前を向き、ちょっと走り出す。
「誠人くん~!」
走る誠人の背中を追う加奈。
誠人が後ろをチラ見してみると、中身の少ない鞄を振り回しながら必死に走る少女の姿が映る。
一生懸命にしているほど、誠人は意地悪な気持ちになっていく。
(相当参っているな、俺も…こんな好きなんてな…)
「もうちょっとゆっくり行こうよ!」
「早くしないと遅刻だぞ」
そう言いながらも走るペースを緩めてやり、距離差を縮めてやるようにする。
ようやく追いついた加奈が息を切らして誠人を見上げる。
「誠人くん早過ぎ…」
「お前が遅いだけだ」
「もう…!」
頬を膨らして怒っている加奈も、誠人にとっては天使の微笑みだった。
こんな関係であり続けたい、心からそう思った誠人であった。


617 :上書き第2話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/10(土) 23:17:04 ID:EZ/bc10q
「それじゃ!」
俺は加奈に手を振って教室へと入っていった。
加奈とはクラスは分かれている、といっても隣同士なんだけど。
お互い学校ではそこまで親しくはしない、加奈にも、俺にも付き合いというものはある。
学校ではなるべくそれを大事にしたい、恋にうつつを抜かして友達一人も出来ませんでしたじゃ充実した青春とは言えない。
こんな気遣いがお互いに嬉しい…んだと俺は思っている。
無理はせず、相手を思い遣っていられる、そういう関係に情熱的な恋とは違った、落ち着きを伴った感情を俺は抱いている。
きっと、加奈もそのはず…。


今は日本史の授業中な訳だが、欠伸が出ちまう…。
そんな単語の羅列を板書されてもわかんねぇよ…なんて風に愚痴を溢しながら寝ようとした時、ポケットに入っている携帯が震えた。
差出人を確認してみると、加奈からだ。

『誠人くん今日本史だよね?
あたしは数学だけど、全く意味不明…。
当てられないかビクビクしてます…』

全く…授業中はメールはよそうって言っていたのに………。
まぁ俺も今寝ようとしてたし、何よりも加奈からのメールだ、素直に嬉しい。
机の下で手馴れた感じでメールを打っていく。

『安心しろ、数学は俺の専売特許。
当てられたらすぐにメールしろ、答えてやるよ』

送信後一分もしない内に返信メールが届く。

『誠人くん中間テスト数学39点だったじゃん!
そもそもメールしてその返信を待つってどれだけ時間かかるのよ~!』

全く以ってその通り…だが、俺の数学の点数は93点だ。
どうして逆さまに脳内変換してんだよ…、ちょっとムッときたので、メールを無視してみる。
五分くらい経つと、また加奈からメールが届く。

『ごめん、怒っちゃった?
言い過ぎたのなら謝るから…』

何真に受けてんだか、その反応が見たくて無視した訳だが。
本当にコイツは俺の心を的確に射やがるな…朝天使だと思ったが前言撤回、こいつは悪魔だ。
そんな悪魔が見せる無邪気さに打ちのめされながら、メールを返信する。

『冗談だよ、怒ってないから気にすんな』

送信ボタンを押しながら、時刻を確認する。
後もうちょいで授業終わるな…。
重苦しい空気から開放されると思うと、嬉しくなる。
そんな中、やや遅れて返信がくる。

『良かったぁ~!
ねぇ?もうすぐお昼ご飯だし、今日は一緒に食べよ?』

そうか、この授業四時間目だった…と確認した。
いつも友達と食ってるしな、たまにはそれもいいか。
久しぶりの加奈との昼飯に何となく新鮮さを覚えながら、携帯を弄る。

『いいよ、終わったら俺んとこきて』


618 :上書き第2話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/10(土) 23:18:45 ID:EZ/bc10q
チャイムが拷問のような時間の終わりを告げる。
今日は加奈とメールしてたからそこまで苦じゃなかったけど。
席で弁当を用意して加奈を待っていると、近づいてくる奴が見えた。
「沢崎くん………」
「島村…またか?」
俺が呆れた顔で邪魔臭そうに言ってみるも、表情は変わらない。
「本当にごめんなさい、何か私こういう事妙に気にするタイプで…」
「気にすんなって、てかそんな常に相手に気使ってたら疲れるぞ?」
俺の目の前で申し訳なさそうに頭を深々と下げているのは、クラスメイトの島村由紀だ。
何でこんな風にいるかというと…昨日の授業中に俺の前の席にいる島村が突然奇声を発しながら立ち上がったのだ。
そこで椅子が俺の机に当たって、俺は転がり落ち、右腕を床に擦ってしまったのだ。
その事に関して島村は昨日から何度も謝っている。
友達からわざわざ親しくない俺のメルアドを聞き出してまで謝ってきた時にはさすがに驚いた。
「別に掠り傷なんだから気にすんなって」
「でも…」
心配そうに俺の右腕を見つめている島村を確認した俺は、やれやれと思いながら制服の上着を脱いでワイシャツを捲くった。
「な?大した傷じゃないだろ?」
怪我した時は血がやけに出たが、止血が終われば大したもんではなかった。
「…良かった………」
ホッと胸を撫で下ろす島村の様子が見て取れる。
ずれた眼鏡を直しながら、やっとの事で笑顔を俺に向ける。
「ま、そういう事だから」
俺がワイシャツを再び着ようとした時、腕に痛みが奔った。
一瞬顔をしかめるほどの痛みに、何事かと思ってみてみると、そこには………

小刻みに震えながら俺の腕を片手で掴んでいる加奈の姿があった。
反射的に傷を隠そうとするが、細い腕からは到底想像のつかない力に振り払う事が出来ない。
目が静かに俺を見下ろす…そのあまりの怒りの視線に、俺は恐怖を覚えた。
昼休み教室にこいと言ったのは俺だ………迂闊だった、自ら俺は…。
「ちょっと来て」
有無を言わさず加奈が俺の腕を引っ張る、落ちた弁当に目もくれない加奈。
加奈の腕を媒介にして俺に恐怖が伝わる…ヤバイ!


619 :上書き第2話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/10(土) 23:19:16 ID:EZ/bc10q
「おい!加奈ここ女子トイレ…」
俺の声なんか無視して加奈は強引に女子トイレの個室に押し込める。
独特の異臭が鼻をつく中、只ならぬ雰囲気の加奈に寒気を感じる。
「誠人くん…」
名前を呼んだかと思うと加奈は俺の唇をいきなり奪った。
壁に押し付けられながら、普段の様子からは到底想像のつかない情熱的なキスを交わす。
舌まで入れてきて、口の中で厭らしい痺れが広がる。
俺の唾液を掻っ攫って満足したのか、加奈は口を離した。
「か、加奈…?」
無言で俯く加奈、不安になってくる…嵐の前の静けさとはこんな事を言うのかな…?
「あたし…誠人くんが好き」
顔を上げ分かりきっている事を口にしてくる。
笑顔だが目に色がない。
「俺もだよ…!」
「ありがとう…。でも、あたし短気なのかな…?他の人に誠人くんを触らせたくない。
その傷が…他の人が誠人くんに触れた証拠があるのが耐えられない!
そんなの見てるとあたし壊れちゃうよ!!!」
押し付ける力が弱くなったと思った瞬間、加奈が掴んでいた右腕を見つめてきた。
嫌な予感がした…。
「…ハハ…こんな、こんな傷があるのがいけないんだよ…?あたしも誠人くんも悪くない…”この傷”がいけないんだよ!?」
すると加奈が俺の傷を引っ掻き始めた。
瘡蓋が剥がれピンク色の皮膚が覗く。
その皮膚の周りを上から下へと懇親の力で引っ掻いてくる。
「いぇが!痛ぇ!やめてくれ加奈!!!」
皮膚が破れる鈍い音が聞こえる。
加奈は相変わらず笑いながら俺の皮膚から血が出る様子を楽しんでいるように見える。
俺の声など無視して一人笑っている。
「あああ!!!か、加奈ぁ~~~!!!」
「大丈夫大丈夫大丈夫…すぐに消えるから………傷も、痛みもすぐに消えるから!」
昼飯時でトイレには誰も来ない、俺の悲鳴だけが虚しく響き渡った…。


「はぁはぁ…終わった………あはっ」
加奈は俺の血まみれの腕を見て満足そうに笑っている。
止め処なく溢れる血に俺は呆然としていた。
「痛い?誠人くん…ごめん………こんなあたしでごめん…」
突然態度を翻してくる加奈、いや、これが本当の加奈なんだ!
そう思いたかった…。
心配そうに下から覗き込むように見上げる加奈、さっきまでの鬼神の如き表情じゃない…いつもの加奈だ。
「あたしが弱くてごめん…。ホントごめんなさい!あたし誠人くんが好きなの!好きで好きで…ごめんなさい…」
ずるいよ…加奈、そんな風に謝られたら………。
「き、気にすんな。俺も怪我しないように気をつけるから」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
ただ今加奈が一番喜ぶであろう言葉を本能的に選択しただけだ。
案の定、涙目だった顔に光が差し込む。
この笑顔の為なら、許してしまう…どうしようもないな…俺。