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659 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20:15:22 ID:AcKNDcu5
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「それじゃ!」
そう言ってあたしは誠人くんと別れた。
本当はもっと一緒にいたいけど、クラスが違うから仕方がない。
普通恋人同士なら、学校でも一緒にいたいって気持ちは普通だと思う。
だけど誠人くんは違う。
”お互い学校での付き合いってのもあるだろ”と極力会わない様に仕向けてくる。
あいさつは勿論交わすし、時々は一緒に弁当食べてくれたりもしてくれるから誠人くんがあたしを好きでいていくれるのはわかるけど、
でもやっぱり足りない。
あたしにも友達だっているし、友達と話してたりしている時は楽しけど、誠人くんと一緒の時間に比べれば他愛ないものだ。
誠人くんと一緒にいられるなら他に何もいらない、そう思っているけど誠人くんは”今しかできない事”を全うしたいらしい。
本当はもっと恋人らしい事をしたい、もう付き合い始めて八年にもなるんだ。
そう思うのはおかしい事じゃないはず、誠人くんにもそう思って欲しいのにな…。



660 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20:16:28 ID:AcKNDcu5
昼休み、あたしは隣のクラスへと向かう。
四時間目の授業の時、誠人くんとメールしてお昼を一緒に食べる事になったのだ。
誠人くんとのお昼は久しぶり、承諾してくれるか不安だったけど何の問題もなく了承してくれた。
弁当箱を大事に抱えながら、軽くスキップする。
誠人くんはやっぱり優しい。
確かに微妙にすれ違っていたりはするけど、誠人くんはあたしを愛してくれている。
今はそれだけでいい、誠人くんがあたしのものだけってわかれば何でも我慢できる。
そんな事を思いながら教室へ入ると、誠人くんが誰か女子と話していた。
あたしに気付いていないみたい、ちょっと脅かしてやろう。
そんな悪戯心で足音を立てず誠人くんにそっと近づくあたし。
誠人くんの背後まで忍びよっていって、いよいよびっくりさせてやろうとした時、突然誠人くんが制服の上着を脱ぎ始めた。
「な?大した傷じゃないだろ?」
………傷?どういう事?そんなもの昨日はなかったはず…あっ、そっか。
誠人くんいつも上着着てたから、見えなかっただけか…てそんな事はどうでもいい…それ何の傷?
「…良かった………」
誠人くんと話していた女子が胸を撫で下ろして安堵の表情を浮かべている………誠人くんが傷を見せてそれでこの女が安心する理由って………
そんなの一つしかない!
瞬間あたしは誠人くんの傷のある右腕を掴む。
弁当を落とした事なんかどうでもいい。
また付けられた、また汚された、あたしだけの誠人くんが、他の人にっ!
あたしがいる事に気付いた誠人くんが見上げてくる。
心なしか、何だか怯えているように見えるけど…そんな事どうでもいい。
早くこの傷”上書き”しなきゃ!、その思いだけがあたしを支配している。
冷静でいられず手が震える…早く!早く!
「ちょっと来て」
あたしは腕を掴んだまま誠人くんを強引に椅子から引き上げる。
早くしないと、あたしだけの誠人くんが汚れていっちゃう、早く早く早く!!!



661 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20:17:34 ID:AcKNDcu5
勢いに任せ女子トイレに入って行く。
「おい!加奈ここ女子トイレ…」
誠人くんの言葉を無視して一番遠い方の個室に押し込める。
今どんな顔してるのかわからないけど…誠人くんやっぱり怯えている。
ごめんね…でもこうするしかないの!
「誠人くん…」
子供のように弱々しい目の誠人くんを一瞬だけ安心させるためにあたしは誠人くんにキスをする。
呆気にとられている誠人くんをよそに舌も入れてみる、こんなの初めてだった。
人形のように動かない誠人くんの口の中をひたすら貪る。
絡めた舌がありえないほどの熱気を帯びている、すごく興奮する…。
ありたっけの唾液を吸い尽くし、やっと口を離す。
あたしも誠人くんも息が荒い。
目を合わせるのが恥ずかしくなり俯いてしまう、誠人くん今どんな気持ちなんだろ…でも、今はそれどころではない。
「あたし…誠人くんが好き」
確認を要求してあたしは言う。
いい答えを期待して必死に笑っているけど、ちゃんと出来てるか不安…。
「俺もだよ…!」
良かった、ちゃんと笑えてた。
良かった、誠人くんはまだあたしの誠人くんだ。
「ありがとう…。でも、あたし短気なのかな…?他の人に誠人くんを触らせたくない。
その傷が…他の人が誠人くんに触れた証拠があるのが耐えられない!
そんなの見てるとあたし壊れちゃうよ!!!」
さっきまで押さえ込んでいた感情が爆発する、もう駄目だ、限界だ。
誠人くんの右腕にある傷、誠人くんを蝕もうとしている諸悪の根源!
それを見つめながら、一歩だけ後ろに下がる。
「…ハハ…こんな、こんな傷があるのがいけないんだよ…?あたしも誠人くんも悪くない…”この傷”がいけないんだよ!?」
そう、あたしは悪くない、誠人くんも悪くない、この傷なんだ!
あたしの誠人くんを”他の人が触れた”という事実で汚そうとしているこの傷がいけないんだ。
こんなものさえなければ、いつものあたしでいられるのに………この傷が!
あたしは我を忘れ、その傷を引っ掻き始める。
瘡蓋が剥がれるけどまだ駄目だ、まだ根は潰し切っていない。
もっと深く、根から摘み取ってやらなければならない!
そうしないと幾らでも再生する…二度と寄生しないように、奥の奥まで抉り取ってやる!
誠人くんが悲痛の叫びをあげている、痛そう…ごめんね。
でも、大丈夫だよ…もうすぐ終わる…。
「大丈夫大丈夫大丈夫…すぐに消えるから………傷も、痛みもすぐに消えるから!」
子供をあやすように優しく囁く、その声は誠人くんの悲鳴によってかき消されていった…。



662 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20:18:19 ID:AcKNDcu5
あたしの爪から指にかけては血だらけだ。
それはあたしが傷を上書きしてあげた証、これで良かったんだ。
誠人くんは確かに痛い思いをしたけど、そうしなければあたしだけの誠人くんじゃなくなってた。
あたしたちの仲を取り持つにはこれしかなかったんだ…。
「痛い?誠人くん…ごめん………こんなあたしでごめん…」
それでも罪悪感は感じる、他に方法がないとはいえ、こんなに誠人くんは血だらけになっている…。
呆然としている誠人くんを見つめながら、何度も許しを乞う。
「あたしが弱くてごめん…。ホントごめんなさい!あたし誠人くんが好きなの!好きで好きで…ごめんなさい…」
嫌われたくない!
伝わって欲しい、流れる血はあたしの誠人くんへの想いだって…。
さっきまで無言だった誠人くんがようやく口を開く。
「き、気にすんな。俺も怪我しないように気をつけるから」
分かってくれた、あたしの想いを分かってくれた!
自然に笑顔がこぼれてしまう。
許してきれてありがとう…誠人くんも同じ気持ちなんだ、きっと!
朝はちょっと不安だったけど、やっぱり誠人くんはあたしのもの。
何者にも汚させはしない、絶対に。
その為なら、何だってするから、安心してね…誠人くん。



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663 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20:18:57 ID:AcKNDcu5

「動ける?」
加奈は誠人に手を差し伸べる。
「あぁ…ちょっと保健室行って来くるから、先食べててよ…」
「あ、そっか!弁当食べるんだ…って弁当!?」
加奈はようやく誠人と一緒に食べるはずだった弁当の事を思い出す。
「あたしどこに置いてきちゃったっけ?」
焦って問い詰めてくる加奈を笑いながら誠人は頭を左手で掻く。
「教室の俺の机んとこに落としてたよ」
それを聞きホッとする加奈。
そんな加奈に一安心した誠人は、右手の傷口をハンカチで押さえながら立ち上がった。
痛みはさほど感じていない、もう慣れたようだ。
「あっ、あたしも一緒に保健室行くよ!」
「何言ってんだよ、俺の事より弁当を保守しときな」
誠人の事に気をとられ、またしても弁当の存在を忘れていた加奈が口に手を当てる。
数秒心の中で葛藤して、頭を下げる。
「ごめんね、待ってるから」
そう言い残して加奈は去っていった。
取り残された誠人も出て行こうとした時、かなり重大な事に気がついた。
「おい…嘘だろ…?」
認めたくない事実に、もう一度座り込みたくなってしまった。
「ここ女子トイレじゃねぇか…」
そう、誠人が今いるのは女子トイレ、男子禁制の場所だ。
それを理解して急に押し黙ってしまう誠人。
(物音一つだって立てられない…)
さっきまで大声で喚いていた人間が考えるとは思えない事を考えている。
(万が一出て行こうとした時に誰か入ってきたら…俺は卒業まで変態として避けられちまう…)
沈み込む誠人、こんなんなら加奈と一緒に出ればよかったと後の祭り尚且つ筋違いな事を思う。
(で、でも、慎重に行けば多分…どの道次の授業までには出なきゃならないんだ!)
誠人は意を決した。
強い決心の割りにはゆっくりと扉を開ける。
誰もいない事を二回も三回も確認する、青信号の状態で三回確認してから渡る子供のように。
(よしっ!)
誠人は一気に女子トイレを出ようとする、焦る気持ちを何とか押さえ込む。
(もうちょいもうちょい!)
本当にもうすぐのところだった、しかし不運な事に誠人は遭遇してしまう。
「さ、沢崎くん…?」
「なっ!島村…」
二人の間に重苦しい沈黙が舞い降りた。