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728 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19:53:37 ID:laI97l2T

マズイ、絶対にマズイ!
まだ女子トイレ内にいる俺を見ながら固まっている島村。
状況を理解し切れていないのか、微動だにしない体に反し目がきょろきょろとしている。
それがせめてもの救いだった、この場で悲鳴でもあげられようものならその瞬間俺の高校生活は幕を閉じる。
軽蔑の眼差しを常に受けながら無視され続け、友達も思い出もないまま俺の青春が終わる。
そんな情景を思い浮かべて思わず身震いしてしまう。
絶対にそれだけは免れなければならない、俺はその一心で島村の左腕を掴む、加奈によって上書きされた右腕で。
痛みは先程より若干増しているが、それどころではない。
「えっ!?」
一瞬周りに誰もいない事を確認すると、驚く島村と顔を合わせないように前を向き、俺は掴んだ手を引っ張る。
とにかく今はこの場を去った方がいいだろう、島村が事を理解しない内に。
「ちょっと、どこ行くんですか?」
島村の言葉を完全無視して強引に連れて行く、人気のなさそうな場所へと。



729 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19:54:52 ID:laI97l2T

早走りさせる事数十秒、俺と島村は体育館裏にいる。
人気のない場所で体育館裏というのもベタだが、ここより安全なところはそうないだろう。
とりあえずここなら誤解を解く前に叫ばれても誰にも聞こえない。
息切れしたのか、胸を押さえて俯いている島村。
表情が読み取れない事に不安を覚えつつ、その思いを振り払う。
今は一刻も早く説明をしなければならない時だ。
「島村…」
返事はない、というより出来ない様子だ。
どうやら無意識の内にかなり走らせてしまったらしい。
僅かに覗く島村の眼鏡の縁が光っているのが妙に気になりつつ、もう一度呼び掛けようとした。
しかし、俺の声は突如顔を上げた島村の言葉に遮られる。
「…変態………」
思い切り胸に突き刺さった。
まだ肩で呼吸している島村のまじまじと俺を見つめる、もとい睨む目線がかなり痛かった。
何となく驚いた、俺は島村とはほとんど面識はないが、結構おとなしめの子だろ思ってた…そりゃ昨日は突然叫び出したりしたけど、それを入れたって信じられなかった。
島村が、こんな相手への尊厳をまるでなくしたかのような視線を送れるなんて事が…。
こんな対応をされるなら、まだ泣きながら発狂された方が何倍もマシだと思った。
しかし、もっと驚いたのはこの後だ。
「なんですね、沢崎くんって」
突然島村が笑顔になったのだ。
さっきまで幻滅したと言わんばかりの表情だったのに、突然手の平を返したように明るくなった。
何が何だか分からないが、とりあえず島村の言葉は否定しなければならない。
「ち、違うんだ島村っ!」
「何の前触れもなく女子トイレから出てきた男のどこが変態じゃないんですかね?」
こいつ…昼飯前までは散々俺にペコペコ頭下げてたくせに、急に偉そうになっていやがる。
いや、俺が悪いからなんとも言えないんだけれどもさ…。
最初こそ暗かったものの、島村は今はくすくす笑っている…女子トイレから出てきた男がそんなに可笑しいのか?
「これにはなぁ、色々と訳があってだなぁ…」
「訳ってどんな訳です?相当な理由でないと私は納得しませんよ?」



730 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19:55:39 ID:laI97l2T

試すように俺の顔を見つめてくる島村…俺の考えを読み取ろうとするかのようにジッと視線を外そうとしない。
困ったな…素直にそう思った。
本当の事は口が裂けても言えないし、かと言って相当な理由なんて即興で思いつくはずがない。
女子トイレから出てきて許されるのは小学校低学年がいいところだ。
声変わりもした男臭い高校生が女子トイレから出てきて正当化される理由って………?
先生から何かしらの罰で掃除してたってのは先生に訊けばすぐバレるし、落し物したって言ったって俺は今ペンの類を持ち合わせていない。
妙な予感がしてなんてのはどうだ!………いや、変態プラス電波ってレッテルを貼られてしまう。
女子トイレのタイルを急に舐めたくなって…って落ち着け俺!
どんどんおかしい方向に行っている事にいい加減気付け、とにかく…とにかく………。
「やっぱり、理由もなく女子トイレに入ったって訳ですね」
俺が押し黙っているところを島村が追い討ちをかけてくる。
何故だか楽しそうにしているのが腹が立つ…でも、言い逃れは出来ない。
「いや…その………」
「見苦しい言い訳は結構」
ビシッと俺の事を指差す島村、完全に形勢逆転してしまったな…始めっから不利な状態だったけど…。
「私、言い訳する人は好きじゃありませんね。素直に謝ればとりあえずは誰にも言いませんよ?」
言い訳うんぬん以前に女子トイレから出てくるような男を好きになる女なんて天然記念物並の希少な存在だろ、と思ったが口には出さなかった。
”とりあえずは”というのが引っ掛かったが、今は謝罪する他ない。
「す、すまないっ!」
プライドは捨て自分より小さな少女の前に跪き、土下座をする。
頭を地面に擦り付けないのはちっぽけな意地だ。
「謝ったって事は、認めるんですね?”入りたくて女子トイレに入った”って事を」
一瞬反論しようとしたが寸でのところで思い止まった。
今は感情的になってはいけないと必死に自分に言い聞かせる。
この場はもう島村が主導権を握ったと言っても過言じゃない。
「返事は!?」
「…は、はい………」
生まれて今までで多分一番の屈辱だったと思う。
別に男尊女卑の気なんてないけど、やっぱり女に頭を下げるのは抵抗のある事だ。
それでもこれで許してもらえるなら…と思っている自分が悔しい。



731 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19:56:26 ID:laI97l2T

「はぁ…まさか沢崎くんがそんな事する人だったとは…」
わざとらしく溜息をつく島村、頭は下げたままの状態だからはっきりと表情は読み取れない。
「いつまで土下座してるつもりですか?」
許しの印かと思い頭を上げようとすると、後頭部に衝撃が奔った。
思い切りのある力に今度は地面に擦り付けられてしまう。
何事かと思って視線だけを見上げると…一瞬信じられなかった。
あんなに謙虚な態度の…まぁ俺がそう思っていただけかもしれないが、その島村が俺の頭を靴で踏みつけているのだ。
「誰がやめていいと言ったんです?」
もう俺は島村の事が分からなくなっていた…それは確かに島村の事は昨日の事があるまでは名前しか知らなかった。
特に関わりがあった訳でもないから何とも言えないのだが、土下座した人間を踏みつけられるような女が同じクラスにいた事が信じられない。
「ま、それは冗談として…」
呆気に取られている俺をよそに、島村の足の力が緩む。
何となく未だに不安で島村の顔を伺っていると、手を微妙に上げる動作をしてきた。
どうやら、これで本当に許してもらえたようだ…と思ったのは俺だけだった。
「じゃあ、俺はこれで」
「待って下さい」
立ち上がって即座にこの場を立ち去りたかった俺の動きを言葉で制す島村。
丁寧語だが俺には明らかに命令口調に聞こえる、勝手にそう脳内変換されてしまう。
俺のこいつに対しての印象はどうやら180度変わってしまったらしい。
「本当に謝罪の意があるなら、態度で示すべきだと思いませんか?」
「だから土下座したんじゃ…」
「別に沢崎くんが土下座したからといって私が得をした訳ではありません」
「そりゃそうだけど…」
物凄く嫌な予感がした。
こういう時、大抵パターンは決まっている…でも、まさか島村に限って…有り得るな。
心の中を絶望感が支配する中、予想通りの事を島村は口にした。
「これからしばらくは私はご主人様、沢崎くんは奴隷ね」
笑顔で肩を叩きながらまた試すような視線を送る島崎。
逆らったら皆にバラすとか言うんだろうな…ある意味もう終わったと言っていいな…。
「”しばらくは”って、いつまでだよ?」
「私が満足するまでです」
当然といえば当然の返答…まぁ島村が満足すれば俺の高校生活はとりあえずは安泰になるんだ…安く思おう…。
こんな事考えるなんて、きっともう感覚が麻痺してしまったんだろうな。



732 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19:57:08 ID:laI97l2T

「分かったよ…」
「それじゃ早速、一つ目の注文」
「もうかよ…」
意気消沈する俺…でも覚悟は出来ている、どんな理不尽な要望でも了承する覚悟はある!…女子トイレ入る以外ならな。
「一歩こっちに来て下さい」
腕組をしながら命令する島村に、情けないほどげっそりとした俺は渋々一歩前進する。
ぶたれるのかな…なんて暗い想像をしていた。
「まずは”首輪”を付けないといけませんね…」
そう言った瞬間、島崎は俺の首を掴んで思い切り引き寄せてきた。
あまりの勢いに、倒れそうになる俺を島村が支えたかと思うと、首元にひんやりとした感覚が奔った。
変態と言われた時よりも…軽蔑の眼差しを送られた時よりも…踏みつけられた時よりも…多分一番驚いた。
島崎が俺の首元に自分の唇をつけてきていたのだから。
抵抗する気力も起きない…というかどこから抵抗したらいいのか分からなかった。
俺が想定していた光景とはあまりにもかけ離れている、何の脈絡もないこの行動に俺は何も言えずにいた。
茫然自失の俺を置いてきぼりにしひたすら首元を蹂躙している島村。
永遠にも感じられた何十秒の後、ようやく島村は唇を離した。
「これで良しっ!」
満足そうにさっきまで繋がっていた部位を見つめてくる島村。
心なしか、濡れているその部位から唾液の香りまで漂ってきそうだ。
ようやく意識を取り戻した俺は、同時に恐怖を覚えた。
「おまっ、まさかつけたのか!?」
頼むから否定して欲しかった…そんな俺の期待虚しく、島村は笑顔で言い放つ。
「勿論、くっきりとキスマークついてますよ」
その言葉を聞いた瞬間、最悪の未来像が俺の頭の中を駆け巡った。
「さ、これで第一の命令はお終い。第二の命令は一緒に保健室にくる事です」
そう言って島村は最初とは逆に俺の腕を掴み引っ張った。
しかし、そんな事は今の俺にはどうでもいい事だった…頭の中にはもう最悪の想像しか浮かばない。
(もしこいつが、加奈に見つかったら………俺は…)