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159 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:39:05 ID:LH4E1jJ0

「おはよう、祐人」

 聖祐人が目を覚ますと姫野真弓が制服姿で笑みを浮かべて上からのぞきこんでいた。

「今日は祐人はとりあえずお留守番ね。学校と真綾には連絡しておいたから。
 でもこれでやっと恋人同士の生活が出来るね!!」

 そうだ、真綾とこいつの家に来て紅茶こぼされて、それでココア……!
 そこまで思い出した祐人は跳ね起きた。

「ぐぇっ」

 正確には跳ね起きようとして首輪に締められて昇天しかけた。

「だめだよ祐人、危ないから。とりあえず起きられないようになってるからね。
 トイレとか行きたくなったらお姉ちゃん呼んで」

 混乱する。首輪がついていてそのおかげでベッドから起き上がることは出来ない
らしい。手足も同じように拘束されていた。

「本当にごめんね。昨日どうしても疲れちゃってさ。本当はもっと色々準備してた
 んだけど今日はとりあえずこれで我慢して」

 そう言って真弓は心底申し訳なさそうな顔をした。

「ちょっ……待てよおい!!」

 呼び戻そうとしても彼女は笑って手を振りながら去っていった。


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160 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:40:25 ID:LH4E1jJ0
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 ゆるゆると時間が過ぎていく。真弓が出て行ったあとしばらくは拘束が緩まないかと
もがいてはみたがどうやら無駄なようだった。

 見える範囲の視界から得られる情報によると普通の女の子の部屋のベッドに
寝かされているようだった。真弓の趣味なのだろうか全体的に黄色やオレンジ色の
小物が多い。特に変わったものは見当たらない。
 そう、取り立てて変な箇所など無い。普通に机があって上にはファイルや教科書が
並んでいて。床にはいくつかクッションが転がっている。チェストがあって鏡が
あってアクセサリーや香水か化粧水か何かの瓶がいくつか前に無造作に並んでいる。
淡いオレンジのカーテン越しに差し込んでくる陽の光は柔らかい。
 普通の、可愛い女の子の部屋だ。少年がベッドに拘束されていることを除けば。

 少年が……というよりは俺が、か。祐人はそこまで考えてバカバカしくなった。
他にも考えることはあるだろうと自分に言いたくなる。

 真綾については真弓が何とか言いくるめているのかもしれない。学校にだって熱を
出したと言えば二、三日はごまかせるだろう。だが両親はどうだ。友達の家に泊まった
と言ったところでもう既におかしいと思い始めるんじゃないか。何とか切り抜けても
普通の状態では二日連続の泊まりは有り得ない。電話がかかってくるなり何らかの
アプローチがあるはずだ。そうすれば聖祐人がどこにもいないことが何とか
露見するんじゃない……だろうか。
 ならこの状態は両親の行動力にもよるが三日から四日、長くて一週間程度で
終わるだろう。それまで生きれば良いだけだ。祐人はそう見当をつけた。


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161 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:42:43 ID:LH4E1jJ0
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 真弓が出て行ってから何時間たったのだろうか。残念ながら祐人の位置からでは
時計は見えなかった。もう何十時間もたったような気さえする。物音一つしないのだ。
おまけに体はほとんど動かない。体が動かないことがこんなに辛いとは知らなかった。
無理な姿勢を取らされているわけではないがそれでも体がゆっくり固まって行く
ような、体内の流れが壊死していくような感覚を覚えた。

 本当に物音一つしない………そこにもう何度目か思考がたどり着いた時、一つ
おかしいことがあると気づいた。真弓は確か姉がいるようなこと言った。
ならもう一人この家に人がいるはずだ。
 ではこの静けさはなんだ。人が生活をすれば何らかの音がするはずだ。
……もしかして本当はいないのか?
だが真弓は……確かにそう言い捨てた。

 一度気になると他に考えることも無いので俄然引っかかってきた。確かめる方法は
簡単だ。呼んで見れば良い。

「あ……あの」

 声がかすれて上手く出ない。なのにだれもいない空間にはやけに響いた。

「あの……お姉……さん?いらっしゃいますか?」

 監禁されている身で敬語を使うのも変な気がしたが会ったことも無い相手で、年上
であるという事実が何となく優先された。
 応答は無い。それどころかいまだに物音一つしない。

「あ……あの」
「なに……?」

 突然、何の前触れも無くドアが開く。黒髪の、真弓にどこか似ている暗い感じの
女性が立っていた。どこかで見たような気がするが思い出せない。

「なに……?」

 自分で呼んだのに祐人は何を言ったらいいかわからず口をパクパクさせていた。


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162 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:44:57 ID:LH4E1jJ0
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「真綾いる?」
「あ、真弓だ~ごめんね昨日は」
「全然気にしてないから大丈夫だよ」
「それとね、あの、祐人なんか今日休みなの。高校生にもなっておたふくだって」
「本当に?あれ子供じゃない人がやると大変みたいだよ。大丈夫かしら」
「ぅん、祐人にもうつるとヤバいから見舞い来るなって言われちゃった」
「行かない方がいいと思うよ。かかるとかなり酷い顔になったりするし。
 そうなると真綾の可愛い顔も台無しだよっ」
「もう、やめてよ真弓……真弓の方が可愛いよぅ」

 学校の昼休みは極めて平和に過ぎて行った。


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「じゃああの電話は偽物だったんですか!?」
「ええそうよ……そんなに驚くことかしら」

 亜弓と祐人も平和な昼を過ごしていた。取りあえず精神的には。
 祐人は今度はリビングで椅子に両手両足を拘束された状態だった。さっきまで
亜弓に実に一日ぶりの食事をさせてもらっていたのだ。妙に人に食べさせるのに
手慣れていた亜弓は手際よく食器を――物音をほとんど立てずに
片付けると祐人の向かいに座った。

「驚くことですよ……どうやってかけたんですか」
「それは言えないわ……企業秘密よ」

 そう言うと亜弓は少し笑った。
 なんだ、笑えば綺麗じゃないか。
 黒い影みたいな人だと思ったが、割と普通の人かもしれない。





163 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:46:35 ID:LH4E1jJ0
「ずいぶんと余裕そうね……真弓のものになるのに」
「そんなこと無いですよ。一応焦ってますけど今は動けないですし」
「真弓が誰かを好きになったのは初めてだから確かなことは言えないけれど……
 あなたの見通しは甘いと思うわ」

 そう言って亜弓はまた微笑んだ。さっきより綺麗に。


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「ただいまー!!」
「お帰りなさい真弓」
「祐人?祐人生きてる?ひょっとして食事してない?学校でそのこと思い出したんだけど」
「亜弓さんに食べさせてもらったから大丈夫だよ」

 椅子に拘束された状態で祐人は答えた。亜弓はいい意味でも悪い意味でも祐人に
興味が無かった。だからのほほんと話していられたがこいつは違う。出来れば穏当に
行きたいと祐人は思った。

「祐人……ただいま」

 真弓が抱きついてくる。椅子に座った人間に立っている人間が抱きついているため
首に腕を回しているだけだが。

「今動きやすくしてあげるからね!」

 真弓はかなり予想外の言葉を口にして身構えた分拍子抜けした祐人を置き去りに
自分の部屋に何かを取りに行った。


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「はい、これで一心同体かな。動く時は気をつけてね。首締まると苦しいから」

 祐人の右手は真弓の左手と手錠で繋がっている。更に左手はギリギリ体の幅程度の
長さ、両足は歩幅を狭くすればギリギリ歩ける程度の長さの鎖で祐人自身の右手と
繋がれていた。




164 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:47:30 ID:LH4E1jJ0

 そして、首輪。祐人の首にも真弓の首にもお揃いで。普通のベルトの形状をした
ものなのだが、金具に通しただけできちんと留められていない状態だった。つまり
端を引けば首が絞まる。鎖が端に繋がっていて、必要以上に首輪が緩まないように
一カ所大きな金属製の球がついていた。一メートル半程度の鎖が祐人と真弓の首の
間に渡っている。鎖の長さ以上離れれば真弓の首も祐人の首も絞まるだろう。

「はい、お互い動く時は気をつけようね」

 至極楽しそうに全ての拘束具を付け終わると真弓は祐人をで椅子から解放した。

「……何がやりたいんだ」
「え?祐人と一心同体。恋人だしね!新しい生活にはイベントが必要かなと思って」

祐人の中に怒りがわいて来る。

「いつ俺らが恋人になった?」

眠らされて拘束されて。

「やだな祐人。いつ、とかそんなんじゃなくて必然じゃない」

一体なにをされるのかと思えば笑って恋人同士だと言う。

「それは一方的な思い込みだろう」

何度も言ったはずだ。真綾が、彼女がいると。

「もう。ツンデレもいい加減にしないと怒っちゃうよ?」

上目遣いで軽くにらんで来る。





165 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:49:03 ID:LH4E1jJ0

「いい加減にしろよっ」
「……っ」

 怒鳴ると同時に思い切り鎖を引いた。真弓の首が絞まる。

「祐……人、くるし……」
「お前いったいなんなんだよ!笑わせんなよ。恋人同士じゃねえよふざけんな!!」

 真弓は涙目で顔を赤くして鎖を引いている方の手を掴んで離そうともがく。

「人の話聞いてるか!?そもそもお前のやってるこれはただの誘拐だろうが!
こんな恋人いねえよ!!意味わか」
「……祐人くん。鎖から手を離しなさい」

 そこまでまくし立てたところで祐人はそれ以上言葉を継げなくなった。
 亜弓がいつの間にか背後に移動して、祐人の首を絞めていた。

「祐人くん」

 亜弓は淡々と絞める力を強めていく。祐人はあっさりと鎖を手放した。真弓が解放
されて膝をつくのが目の端に映った。
 だが亜弓は力を緩めない。

「ねぇ祐人くん……真弓に危害加えたらダメよ……恋人なんでしょう?
 真弓のものなんでしょう……?」

 無理やり亜弓の方を向かされて目を真っ直ぐ見られる。いや、亜弓の目は祐人など
見ていない。祐人のいる空間を見ている。同じことなのだが何かが決定的に違う。
冷たい目、ゴミを見るような目などですら無い。怒りも蔑みも害意も敵意も一切の
感情が無く、こちらを認識していないような暗い目。
 祐人はもう意識が飛びそうだった。





166 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/15(木) 23:49:58 ID:LH4E1jJ0

「仲良くしなきゃだめよ……」

 亜弓が更に言葉を継ごうとした時。彼女を酸欠から復活した真弓が蹴り飛ばした。

「お姉ちゃん。いくらお姉ちゃんでもやっていいことと悪いことがあるよ」

 その割に真弓の声音は怒りを含んでいなかった。むしろ困惑したような。

「もう。恋人同士の邪魔するなんて最低だよ?そりゃお姉ちゃんは保護者なんだから
 心配なんだろうけど。でも邪魔は禁止!」
「そうね……悪かったわ。ごめんなさい」
「ごめんね祐人。お姉ちゃんが邪魔するとは思わなくて……」

 真弓は困ったような少し照れたような笑顔を浮かべた。普通の女の子が浮かべる
照れ隠しの表情だ。少なくとも手錠で誰かを拘束したりするような人間の
それには見えなかった。
 この2人は違う。住んでいる世界がそもそも違う。酸欠で飛びかけた祐人の頭でも
とにかくそれはだけは理解することが出来た。


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