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193 :『首吊りラプソディア』Take3 [sage] :2007/02/16(金) 13:51:15 ID:baXMLX+H
「また、か」
 管理局からの報告書を読んで、舌打ちをした。くわえていた煙草に火を点け、煙を深く
吸い込み吐き出す。メンソールの刺激が粘膜の弱い喉を痛めつけてくるが、このくらいで
ないと吸った気にならなかった。局長の影響だろうか、俺の考え事をするときの悪い癖で、
どうしても煙草を吸ってしまう。殆んど無意識の行動だが、喉の軽い痛みのお陰で仕事を
している、と実感出来るからだ。気のせいかもしれないが、喉の痛みを自覚すると思考が
上手く回転し、考えがまとまりやすくなる気がしてくるのだ。
「これで八百人目、随分と頑張っているもんだな」
「全くです」
 コピーを指輪で読んでいたサキが、溜息を吐いて頭を掻いた。こいつはもっとクールな
女だと思っていたのだが、それを保てない程に参っているらしい。最初の無表情で無口と
いう印象が強く、また会っていたときもそれを崩さなかったのでこいつはクールな女だと
思っていたのだが、どうやら根っこの部分はそうでもないらしい。サキに対する印象が、
ほんの少し変わった。悪い意味ではなく、人間らしいと思ったからだ。機械人形も感情を
持つこのご時世に随分と無感動な人間も居たものだと認識していたが、それは仕事をする
為に被っていた仮面だったのかもしれない。
「それ、一本貰えますか?」
 黙って煙草を渡すとサキは口に挟み、指輪を起動させた。続くのは野球ボールサイズの
小爆発、それで煙草に点火をして煙を吐き出した。一瞬遅れて、熱量の風で舞い上がった
前髪が降りてくる。煙草などにこんな大きな火を作る必要などないのに、本当に微調整が
苦手らしい。昨日の茶も、この調子で冷ましたならば氷浸けになっていたことだろう。



194 :『首吊りラプソディア』Take3 [sage] :2007/02/16(金) 13:52:49 ID:baXMLX+H
 横にずれかけた思考を戻し、犯人像を考える。
 今回の被害者の数は二人、そのどちらも残虐な殺され方だ。片方は両手両足を折られた
上で窒息死をさせられているし、もう片方も全身を火達磨にされての焼死となっている。
過去の殺し方も今回のものと同様に惨いものばかり、軽くても全身骨折だ。
 いつの間にか普段の無表情に戻っていたサキを見て、吐息する。
「どんな奴だと思う?」
「そうですね。まず殺し方ですが、可能性は大きく分けて二つあります。一つは微調整が
苦手な、私のようなタイプの人間。これは厄介です、いざというときには大破壊が起きる
かもしれませんし、暴れなくても全身が重火器のようなものですから」
「もう一つは、カオリのようなタイプか」
 自分で例に出して、少し嫌な気分になってしまった。立場的にはカオリの調査をする為
にここに入ってきた訳だが、心情的には無罪だと示す為に来ているのだ。それなのに背を
押すような例えを出してしまうのは、何だか具合いが悪い。この場に居ないカオリに心の
中で謝り、サキに説明の続きを促した。今俺に出来ることは、地道な捜査だけだ。
「先程先輩が言ったカオリさんの例えですが、まさにその通りなんです。上の方では寧ろ、
こちらの線を推しています。例外もありますが、様々な殺し方をしている以上、必然的に
確率システムを使うのが上手い人だという考えになります。前者では、火力が高いけれど
それだけの人間だという考えの方が強くなりますから」



195 :『首吊りラプソディア』Take3 [sage] :2007/02/16(金) 13:53:31 ID:baXMLX+H
 成程、だからカオリがマークされたのか。最初にそれを知らされたときは怒りが沸いて
きたのだが、今の説明で理解が出来た。納得は出来ていないが、理屈だけは分かる。
 要は、化物並に確率システムの制御が上手いからなのだ。
 普通の人間ならば打ち出すことが出来ないどころか、空気を固めるのも不可能な空気弾。
それを平然と行うことが出来る程に確率システムの扱いが上達したのを見たら、容疑者と
なってしまうのも無理はないのかもしれない。刃物などの道具を使った物理的な殺し方を
しているのならば殺害方法や傷の深さ、角度などで大体の身長や体格を測ることも出来る。
だが全てにおいて確率システムを使われている以上、人種や身体的特徴などは分からない。
ならば扱いが上手い奴が候補者に上がるのは、道理というものだろう。俺だって幼馴染み
でなければカオリを容疑者に選ぶだろうし、そこを探ろうと思う。まぁ、その幼馴染みを
幼い頃から見てきて、性格を熟知しているからこそ俺は違うと思ったのだが。
 だが現実は非情なもので、更に不味い状況にさせているものがあった。両親の死に方だ。
 カオリの両親は、『首吊り』をして死んでいた。形式的には自殺と発表されているが、
本当のところは不審死となっている。カオリに容疑がかかったものの、決定的な証拠が無かったので有罪判決は出されて
おらず、仮入獄という形でここに入れられているのだ。



196 :『首吊りラプソディア』Take3 [sage] :2007/02/16(金) 13:56:39 ID:baXMLX+H
 『首吊り』の根本的な部分にその死に方が関係があるのかは分からないが、『首吊り』
という単語と確率システムの組み合わせで考えれば該当する者は殆んど居ない。だから、
カオリの方に容疑の矛先が向かってしまったのだろう。
 嫌な話だ、と思って報告書を読み進めていると、手が止まった。
「読みましたか」
「さっきの話、犯人は後者だったみたいたな」
 立ち入り禁止のテープと一緒に起動させていた侵入者排除の為のブログラムが、綺麗に
消されていたというものだ。本当に『首吊り』がやったのか証拠は無いが、被害者の片方
が殺された現場はテープが貼ってあった場所のすぐ近くだったので間違いは無いだろう。
何の痕跡も残さずにプログラムが消されていたことから、確率システムの扱いが下手では
ないことが分かる。これで、只でさえ小さくなっていた前者の可能性が殆んどなくなった
ことになる。全く、厄介な話だ。
「カオリさんのことですか?」
 感情が顔に出ていたらしい。
「違う、カオリは絶対に『首吊り』じゃないが」
 捕まえるのが、厄介になった。
 正体がカオリじゃないにしても、面倒なことになるだろう。今回も例によって、証拠は
何一つ残していないらしい。それだけでも頭が回る奴だということは分かるが、それだけ
ではなく、奴には確率システムという武器がある。仮に正体を突き止めて逮捕するという
ことになっても、強大な武力が立ち塞がるのだ。


197 :『首吊りラプソディア』Take3 [sage] :2007/02/16(金) 13:57:56 ID:baXMLX+H
 可能性のもう片方だった、火力だけの素人ならまだ良いだろう。もっと強い火力で抑え
込むなり、プログラムに割り込むなりをして、幾らでも被害を食い止めることが出来る。
だが扱いが上手い玄人だった場合、それが出来ないからだ。『首吊り』は様々な殺し方を
しているが、それは出来ることの幅が広いということでもある。こちらが何かを仕掛けた
ときには上手くいなされ、逆に相手の攻撃に対応出来ないというケースも発生する可能性
があるからだ。どこまで考えても救いがない、そのことに肩が落ちる。
 軽音。
 気が付けばカオリが訪ねてくる時間だった。俺は慌ててベッドの下に報告書を蹴り込み、
立ち上がる。髭はきちんと剃っていたので問題ない、煙草の煙が充満していたので急いで
窓を開けて換気をした。副流煙は主流煙よりも遥かに有毒だ、これでカオリが肺癌にでも
なられたら困る。カオリには、いつでも健康でいてほしい。
 他におかしいところは無いか、部屋の中を見渡した。
「先輩、さっきよりも真面目ですね」
「黙れ」
 一通りチェックを済ませて、漸くドアを開いた。
「おはよ、虎吉ちゃ……」
 何故かカオリの笑みが固まった。
「何で手錠してるの?」
 いかん、管理局に行ったとき偽装用に付けていたのを外し忘れていた。
「先輩の変態的な趣味の一つだそうです。私も見たくなかったのですが、変態には逆らう
ことが怖くて何も言い返せませんでした。全く、厄介ですね」
「そうなんですか」
 何だそのフォローにならないフォローは、と思った直後、
「虎吉ちゃんの馬鹿ぁァッ!!」
 壁まで吹き飛ばされた。