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223 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 22:57:11 ID:6jmPJ/Y5
第四話~腐れ縁の同級生~

 天野香織に出会ったのは俺が12才のころ。
 中学校に入学した日のことだった。

・ ・ ・ ・ ・ ・
 
 入学式の後、クラスメイトへの自己紹介を終えてHRが終了した。
 その後でクラスは話し声や席を移動する音でたちまち喧騒に包まれた。ここからは
クラスメイトとの友達作りが始まる。
 ここで友人を作っておくことは大事なことだ。初日は大概の人間が友人を作りたいと
思っているので、話しかけられても親しく接してくれる。
 つまり、一番友人を作りやすい状況だと言えるのだ。

 俺も誰か友人を作ろうと思い話しかける相手を探したら、左隣にいる女生徒が最初に目に入った。
 何故彼女のことが最初に気になったかと言うと、彼女が誰にも話しかけずにぼーっと下を向いていたからだ。

 その女の子はなかなか可愛かった。標準的な女子中学生の体型。肩に届くぐらいまで
伸ばした髪からは活発的な印象を受ける。顔のラインは少しだけ丸みをおびているが、
丸くて大きな瞳との組み合わせで愛らしく見える。
 一見して明るそうな女の子に思えるのだが、なぜ誰にも話しかけないのだろうか。
 不思議に思ったので、しばらく観察することにした。

 ときどき顔を上げて周囲を見渡している。
 数人でグループを作って談笑している姿を見てそれに混ざろうとして腰を浮かすが、
今度は椅子に腰を下ろす。しばらく見ていたが、結局誰にも話しかけなかった。
 どうやら、友達を作りたいが話しかけるきっかけがつかめずにいるらしい。

 そのまま見つめていると、視線に気づいたのか俺の方を振り向いた。
 初めはきょとんとしていたが、たちまち嬉しそうな顔つきになった。そのまま話しかけてくる。
「あ、あの! じゃなくて・・・・・・な、何かな?」
 落ち着いているような演技をしているが、その声は話しかけられたことによる喜び
でうわついていた。なんとなく俺まで嬉しくなってしまった。
「いや。さっきから見てたんだけど、なんで話しかけないのかなって思って」
「それはその、・・・・・・タイミングを逃したら話しにくいじゃないか。
 そんなときはなんて言って話しかければいいのかな?」
「・・・・・・・・・・・・俺もわからない」
 人に『話しかけないのか?』と言っておいてなんだが、俺にもわからなかった。
 今までの友達はいつのまにか仲良くなっていたし、
俺から話しかけて友達を作ったことはほとんど無いと思う。

 ・・・・・・あ、そうか。俺もこの女の子と一緒なのか。友達を作ろうとは思うけど、
いざ話しかけようと思っても何と言って話しかければいいのかわからない。
 だからあえて話しかけようとしない。おそらく人に話しかけられるまで待っているのでは
ないだろうか。俺も。そしてこの子も。
 そう思うとこの女の子に対して親近感が沸いてきた。

 活発そうに見えるのに実際は内気な女の子。
 その日、俺が香織について抱いた印象はそれだった。


224 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 22:58:19 ID:6jmPJ/Y5

・ ・ ・ ・ ・ ・ 

 出会ってからもう11年経つのか・・・・・・。

 緑に囲まれた山の県道で、昔を思い出しながら空を見上げた。
「内気な女の子だったんだけどなあ・・・・・・」
 ・・・・・・違うな。『内気な女の子だと思っていた』だ。
 香織と知り合って十年以上経つから初日に受けた印象が勘違いだということは既に理解している。
 親しくなった人間に対しては全く遠慮なし。それが香織の本当の性質である。

「誰のこと言ってるのかな? もしかしてボクのこと?」
 相変わらずの口調で香織が話しかけてくる。全く悪びれた様子は無い。
 今俺たちが置かれている状態を作った張本人であるにも関わらずこの調子でいられるのは何故なんだろう。
「ひょっとしてキミ、怒ってる?」
「呆れてるだけだ」
 もう何度もこういうことは経験してきているのだ。いちいち怒ってなどいられない。
 香織の誘いに乗って、途中何らかのトラブルが発生したことは一度や二度では済まない。
二回に一回の頻度で起こると言ってもいいだろう。
 その全てが天災や偶然によるものではなく、発案者のきまぐれが原因になっている。
「途中でガス欠になるということを計算に入れていないとは俺も思わなかった」
「う・・・・・・まだ大丈夫かなあ、と・・・・・・」
「そう考えているんなら途中で脇道に入らなければよかったんだ。
 あのままルート通りに走り続けていればガス欠してもなんとかなったのに」
「ぅぅぅ・・・・・・」
 なぜそういうことに気が回らないのだろうか。
 ・・・・・・まあ、黙ったまま何も言わなかった俺も馬鹿なやつだとは思うけど。

「まあ、いまさら言っても仕方が無い。バイクを押して山を降りよう。
 ほら、俺に貸せ。押して行ってやるから」
「え? ほんと! ありがとう雄志君!」
 さっき落ち込んだ顔を見せたかと思ったらすぐに立ち直った。
 もしかしたら香織がこんな性格になったのは俺がこうやって甘やかしたからか?
「そうだ! 一休みしてから行こうよ。ほら、コーヒーあげる」
「・・・・・・・・・・・・」
 無言で缶コーヒーを受け取る。どこまで能天気なんだろうか。まったく・・・・・・

 まあいいや。一休みしてから山を降りるとしよう。
 コーヒーを飲みながら自然豊かな山の中、女の子と談笑しながら体を休めよう。
 ・・・・・・こういうのもいいもんだな。
(――――ん?)
 ふと思いついた。
 俺、この状況にまったくこたえていない?
 能天気なのは俺もか?

(もしかしてこいつ、俺に似たんじゃないよな・・・・・・?)
 そんなことはない、と思う。――そう信じたい。



225 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 22:59:38 ID:6jmPJ/Y5

 バイクを押しながら山を降りる。
 香織はバイクを挟んで向かい側に居て倒れないように気を使いながら歩いている。
 お互い何も喋らない。休憩中にたくさん喋ったから話題が尽きたのだ。
 喋り続けていなくても間が持つ人間関係は最高だと言う。そうすると香織と俺の
関係は最高だということになる。友人としては。しかし恋人としては――
「ちょっと考えられないな」
「何? 今度は何の話?」
「いや。なんでもない」


 香織と長く付き合っているからだろう。「二人は恋人同士なの?」と聞かれたことは何度もある。
 しかし、その度に俺が返す返事は「違う」の一言だけだ。香織を嫌っているわけではない。
 何より、俺が香織を嫌う理由は一つも見当たらない。さっきのやりとりで見せた能天気さや
少し抜けているところはこいつらしくて欠点にはならない。
 容姿も悪くない。俺が今まで交際してきた女と比べたら間違いなく香織の方が上だ。
最近はその基準もかなこさんや華の登場であやしくなってはいるが・・・・・・。
 それなのになぜ恋人にならないかというと、長く付き合いすぎたせいで恋人になる必要を
感じないからだ。わかりやすく言えば恋人以上の――親友なのだ。

 もちろんそう思っていることを香織に言ったことはない。もし言ったとしたら、
「何恥ずかしいこと言ってんのさ!」と言われながら肩を思いっきり叩かれるに決まっている。
 いや、それ以前に――それは聞く必要も無いことだ。
 そうでなければ高校を卒業してからも定期的に連絡をとりあったりなどしない。
昔友人だった人間はみな自然消滅してしまったが、香織だけは別だった。
 会社で人間関係に絶望しかけていた俺が四年間も働き続けていられたのは香織のおかげだ。

 俺にとって香織は親友であり、恩人でもある。そういう意味では本当に最高の人間
関係だと思う。

 
 今日バイクのタンデムシートに座ってまで香織が行きたいと言っていた場所――山中の温泉――
に付き合うことにしたのはそれだけ仲がいいからに他ならない。
「あ、あれ! さっき山に入るとき曲がったところだよ!
 よかったあ・・・・・・これでガソリンを入れたら、温泉に行けるよ」
「いいや。今日は温泉に行くのは無しだ」
「えー! なんでさ!」
 明らかに不服そうな顔でにらんでくる。
「もう午後五時だ。今から行ったら帰るときには真っ暗だぞ」
「大丈夫だよ。旅館も近くにあるらしいし」
「それに・・・・・・ホラ」

 手のひらを上にして香織に向ける。手のひらに小雨程度ではあるが雨粒が落ちてきた。
しばらくは大丈夫だろうがこのままではいずれ本降りになる。
「あ・・・・・・・・・・・・。ハアァ、これは大人しく帰るしかないね・・・・・・」
 さすがに雨に降られてはどうしようもないと思ったのだろう。
 落胆しながらも再びガソリンスタンドへ向けて歩き出した。



226 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 23:00:42 ID:6jmPJ/Y5

・ ・ ・ ・ ・ ・
 
 ザァァァァァァァ

 夜七時過ぎにようやく俺の住むアパートに到着した。
 しかし、アパートまであと10分で着くというところで突然本降りになってしまった。
「ううううう。つめたいよう・・・・・・」
 しかもそれがバイクに乗って走っているときだったから、やっかいなことになった。
 二人とも合羽など用意していなかったので、バイクで走りながら10分の間雨に
打たれ続けることになってしまった。
 この季節に雨に濡れたままにしておいたら香織はすぐに風邪をこじらすだろう。
それに俺も早く着替えて暖まりたい。
「とりあえず中に入れ。そのままだと間違いなく体調崩すぞ。
 中でシャワーでも浴びていけ」
「うん。そうしようかな・・・・・・って! いきなり何を言うのかなキミは!」
 何を驚いているんだ。早く部屋に入ってシャワーでも浴びれば・・・・・・

 シャワー!?

 いかん。たぶん誤解しているぞこの女は。
「いや、そりゃあボクだって寒いから早くシャワーを浴びて暖まりたいけど、
 キミが間違いを冒さないと保障できない以上、それはちょっと・・・・・・」
「変な誤解をするな! 濡れたままでいたら風邪をひくかもしれないと思ってだな」
「もしその言葉を信じたとしてもキミがボクのお風呂上りの姿を見て
 興奮しないとも言えないよね」
 なかなか引き下がらない。
 それにさっきから俺がケダモノであるかのようなことを言っている。
 ならば、こっちはお前の身近なコンプレックスを攻めてやる!
「聞き捨てならんな。いくら俺でもお前を相手にしなければいけないほど飢えてはいない。
 店長みたいな体つきをしているならともかく、お前では俺の理性を失くすことは不可能だ!」
「ぐっ・・・・・・言ったね! ボクのナイスバディを見て後悔しないでよ!
 意地でも触らせてやんない! あと、店長にも言いつける!」
「上等だ。お前こそ俺に欲情するなよ!」
「な・・・・・・っ! そ、そ、そんなこと、あるもんか!」
 そう言うと顔を紅くして明後日の方向に顔を向ける。
 自分が攻めるときには強いのに俺から攻められたら割と簡単に引き下がる。
 早く暖まりたい今の心境ではその性格がありがたい。

 部屋の鍵を開けて中に入った。
 まずは香織にシャワーを浴びさせないと。
「香織、先に入れ。俺は後でいいから」
「え? でもキミだって濡れてるのに・・・・・・」
「俺はタオルで体を拭いておくからお前の後で入っても平気だ」
「でも・・・・・・」
 なかなか浴室に行こうとしない。こうなったら強引にでも押し込んでやる。
「いいから早く行け。・・・・・・それとも俺の身体で温めてやろうか?
 あ、それがいいな。シャワー代はかからないし二人一緒に温まるし」
「な・・・、な! こ、・・・・・・このけだものぉっ! あほーーーーー!」
 香織は大声を上げて浴室へ入っていった。



227 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 23:02:23 ID:6jmPJ/Y5

・ ・ ・ ・

 シャァァァ・・・・・・

「はあ・・・・・・」
 温かいお湯の熱が身体に沁みこんでいく。さっきまで寒い思いをしていたのが嘘のようだ。
 香織が出てくるまで待っていたからかなり身体が冷えてしまった。
「まったく、今日はこんな思いをせずに温泉にゆっくり浸かれると思っていたのに。なんでこんな・・・・・・」
 原因は分かっている。バイクがガス欠してしまったのが悪い。
 しかしガス欠させたのはガソリンの残量を把握していなかった香織とそのことを勘付きながらも
何も言わなかった俺だ。三割くらいは俺が悪いと言ってもいいかな。
 ――いや、違うだろ。俺に非は無い。あいつがガソリンの残量を把握していれば、脇道を通って
近道したりしなければ雨に濡れることなく温泉に浸かれていたのだ。香織が悪いことは明白だ。
 ・・・・・・しかし、そのことについて責めないということは。

「結局、あいつには甘いよな・・・・・・俺は」
 何故か分からないが、香織の悲しい顔や泣き顔を見ることを俺は恐れている。
 そんな顔は誰だって好んで見たいなどとは思わないだろうが、俺の場合香織に対しては
特にそういう感情が強い。
「昔あいつと何かあったっけ・・・・・・」
 再会してからの一年では特別何も無い。遊んでばっかりいた気がする。
 会社に勤めていたときの四年間は会っていない。メールや電話で悲しませた覚えも無い。
 高校時代は・・・・・・無かったと思う。さすがに俺も分別をわきまえていたはずだ。
 となると、怪しいのは中学時代。
しかしここまで昔になると一つ一つの出来事まで思い出すことは不可能だ。

 ・・・・・・・・・・・・。
 やめよう。
 たぶん俺は香織のことを妹みたいな親友として見ている。だから悲しい顔をさせたくないだけなんだ。
 妹みたいな、と言っても華とは違うな。華は俺の助けを必要としていない。一人でなんでもできるような
しっかりした女の子に成長している。
 それに二人は体つきが全然違う。華はスレンダーだが、香織は結構スタイルがいい。
 そういえばさっき風呂上りの姿を見たがなかなか扇情的な――

「いやいやいやいやいや」
 馬鹿なことを考えるな、俺。あいつは親友だ。一時の気まぐれでそれを壊してはいけない。
 
 俺と香織は友人。その関係が一番いいんだ。



228 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 23:03:20 ID:6jmPJ/Y5
 浴室からでてきて部屋に戻ったら香織が髪を乾かしていた。
「あれ、もう出てきたの? まだ10分しか入ってないよ」
「ああ・・・・・・お湯がもったいないからな」
 というのは冗談だ。いつもは20分くらいシャワーに時間をかけている。
 考えごとをしていたら変な方向にいってしまったから早めにあがってしまったのだ。

「・・・・・・ねえ、お金がもったいないんならボクとルームシェアする?
 二人でお金出し合えばもう少し広いところに住めるよ」
「悪いがお前と同居するつもりは無い」
 即座に返答する。同性ならともかく、若い男女が同居していたら親類や世間は恋人同士だと
勘違いするだろう。
 それに従妹が隣に住んでいるだけでストレスが溜まっているというのに香織と同居でもした
ときには更なるストレスと欲求不満で俺はおかしくなるに決まっている。
「そう? 残念だな。結構いいアイデアだと思うんだけど」
「ルームシェアもいろいろ問題があるって言うしな。同居した途端仲が悪くなったりとかするらしいし」
「それは無いんじゃないかな? キミとボクなら」
 ・・・・・・なるほど。親友同士だからという理由で同居しないかと言い出したわけか。
 まさかこいつも親友だと思っていてくれたとは。嬉しいな。こういうのは。

「それに、・・・・・・ボクはキミとなら一緒に住んでもいいと思ってる」

 真剣な表情になって喋りだした。
 しかし、そこまで真剣に考えてもらっても俺は応えられない。
「・・・・・・そうか。まあ、俺もお前となら住んでも上手くやっていけそうな気はしてる」
「え!? ホント!」
 やけに反応がいいな。そこまで嬉しそうな顔をするほどでもないだろうに。
「でもな、俺とお前の関係だからこそやらないほうがいいと俺は思う」
「・・・・・・? それ、どういう意味?」
「お互いにプライベートを大事にするためには今のままのほうがいいだろ?」
「それはわかるけど・・・・・・でも、一緒に住んでてもそれはなんとかなるよ。
 どうしても避けられないときもあるけど。その・・・・・・夜、とかさ」
 夜?何を言ってるんだ?
 ・・・・・・まさか同居したら一緒に寝なきゃいけないとか考えているのか?
「いや、さすがに夜は別々に寝るだろ。恋人同士じゃあるまいし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」
 鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。
 俺の顔をアホを見るような目で見つめている。
「キミが何を言っているのかが、わからないなあ。あはははは・・・・・・」
「だから、いくら親友だからって一緒に寝る必要はないだろってことだよ」
「え? 親友? いや確かにそうだけど、え? 
 ・・・・・・もしかしたらさっき言ってたこと、全部友達としての話・・・・・・?」
「最初からそのつもりだったんだが」
 
 俺の言葉を聞いてがっくりと膝をついた。そのまま前のめりに倒れる。
「あははははは・・・・・・」
 今度は力無く笑い出した。



229 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 23:04:07 ID:6jmPJ/Y5

「あはははははは・・・・・・ははは。・・・・・・あーー、もう!
 まるでボクが馬鹿みたいじゃないか! 期待して損したよ! このニブチン!」
 いきなり立ち上がると俺に向かって怒り出した。
 一体何を期待していたんだろうか。
「はああああ・・・・・・今日はため息ついてばっかりだよ。
 ・・・・・・喉渇いたな。何か甘い飲み物ある?」
「ああ。冷蔵庫の中に入ってるぞ」
 俺の言葉を聞いて冷蔵庫の方へ歩いていった。力なくうなだれた背中が哀愁を漂わせている。
 ・・・・・・俺が悪いのか?

「ねえ。どれ飲んでもいいの?」
「ああ、別にどれでもいいぞ・・・・・・っ!?」
 しまった!もしや・・・・・・!
「じゃあこのコーヒー牛乳をもらおうかな」
「待て! それは駄目だ!」
 すぐに駆け寄って香織の手からコーヒー牛乳の瓶を奪い取る。
 これはこの家にある最後のコーヒー牛乳なんだ!渡すわけにはいかない!
「あ、返してよ! どれでもいいって言ったじゃないか!」
「程度の問題だ! 風呂上りのコーヒー牛乳は渡さん!」
「ボクだってお風呂上りだよ!」
「知らん!」
 俺の手から瓶を奪い取ろうとして飛び掛ってくる。
「おい! 体当たりするな!」
「おとなしく渡しなよ! 今なら半分こにしてあげるから!」
「ふざけるな! 全部俺のもんだ!」
 香織の顔を左手で押しのける。右手でコーヒー牛乳を飲もうとして――
「チェストおぉっ!」
「ぼがっ?!」
 しゃがみこんだ香織が腰に向かって体当たりしてきた。
 勢いそのままに反転して倒れこむ。

 どたどたん! ゴト!

「いたた・・・・・・あ! 瓶が・・・・・・」
 さっきの体当たりでコーヒー牛乳の瓶を落としてしまった。
 中身は無残にもぶちまけられている。
「ああ、なんてもったいない・・・・・・。
 香織! お前なあ! いきなり体当たりするなんて・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・」
「おい? どうかしたのか・・・・・・、!?」
 
 さっき香織は俺の腰に向かって体当たりしてきた。
 その拍子に俺は反転して倒れた。
 そしてその結果――――

「雄志君・・・・・・」
 
 俺が香織を押し倒す格好になってしまった。



230 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/02/16(金) 23:05:59 ID:6jmPJ/Y5

「あ・・・・・・その・・・・・・」
 この体勢はまずい。ものすごく顔が近い。体なんか密着している状態だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 香織は何も言わない。・・・・・・何か喋ってくれよ。なんでもいいから。
「すまん! 調子に乗りすぎた。すぐにどくから・・・・・・」
 
 ・・・・・・・・・・・・ん?あれ?起き上がれない?なんでだ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・」
 香織が俺の背中に手を回してしがみついている。
 目の前には紅い顔。俺の目を見つめたまま瞬き一つしない。
「・・・・・・・・・・・・・・・なあ」
「・・・・・・雄志君・・・・・・」
 色っぽい声で俺の名前を呼ぶ。こんな近くでそんな声出さないでくれ。
 湯上り独特のシャンプーの匂いがする。まずい。体が熱くなってきた。
「そろそろ離してくれないか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・うん。でも、その前にボクの話を聞いて」
 雰囲気が変わった。真剣な眼差しを俺に向けてくる。

「・・・・・・あ、あのね・・・・・・ボク、こういうの嫌じゃないんだ」
「え?」
「さっきキミがボクと一緒に住んでもいいって言ってくれたとき、すごく嬉しかった。
 まさかそれが友達としての言葉だとは思わなかったけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「さっき同居の話をしてたとき、本当は、キミと・・・・・・」
 ・・・・・・何を言うつもりだ?

「ボクはキミとずっと――」
 おい、ちょっと待――――――――――


 バァン!


「いいっ!?」「へっ!?」
 いきなり玄関のドアが開いた。続いて聞きなれた声が響いた。

「おにいさん! 大丈夫ですか?! 
 人が倒れる音が聞こえてきたからつい心配になってきたんですけど――――けど――けど、
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにしてるんですか?」
 ドアを開けて飛び込んできたのは隣に住む従妹の華だった。
「おにいさん? 何をやってるんですか・・・・・・?」
「雄志君。この人・・・・・・誰?」

 一人暮らしの男の部屋で女の子が押し倒されているこの状況。
 なんと言って説明すれば血を見ずに済むだろうか。
 
 香織に抱きつかれながらそんなことを考えていた。