166 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 21:36:16 ID:rzDVq6FD
                        第2話 再 会
【大学時代/昂四郎のマンション】

「ん・・・んん?昂四郎、もう平気か?」
「お、おう・・・ちょっとだりぃけど。・・・俺、あのまま倒れた時の事までしか覚えてないんだけど、悪かったな、運んでくれたのか?」
「ったく・・「お、おう」じゃねーよ。
お前担いで帰るのどれだけ大変だったか知ってるのかぁ?時春とキヨちゃんで4人ががりで運んだんだぜ?救急車呼べ!って叫ばれるわ、店員は騒ぐわでもう大変だったぜ。
キヨちゃんが医学部だったから、直ぐ応急手当してもらってさ。
逃げる様に皆で出て行ったんだぜ?・・・・あ~あ、暫くあのファミレスに行けねーよ。
ま、途中まで車だったけどな。けど、お前ちょっと太ったんじゃねぇの~?疲れて家に帰る気なくしちまったよ。
今日は泊めさせて貰うぜ~?後で、他の連中にも侘びいれとけよ~?」

「ああ・・・ごめんな、ビールでも飲めよ、エイジ。冷蔵庫にあるから。」
「お、サンキュー♪お、黒ビールじゃん~!昂四郎、お前俺の趣味分かってるな!」

軽く早口で話すこいつは、桜花学園出身の友人の1人、名前はエイジだ。
中学からの腐れ縁で、バスケット部に所属していた。
同じく一浪して、同じ大学の工学部にいる。
農学部の俺とは違うけれど、大学になってからもいつもつるんでいる仲間だ。
なかなか面倒見が良い男でいつも行動している周りからは信頼を置かれている。


167 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 21:39:58 ID:rzDVq6FD
エイジがビールを持って部屋の灯りをつける、暗闇に慣れていたせいて酷く眩しく感じ再び目を閉じる。
テレビをつけて、観客がわざとらしく笑う声が流れて静かだった部屋が少し騒がしくなった。

「ああ~!うめぇ!!最高だぜ、けどよ!もうそんな事忘れてさ、もうすぐ夏だし、みんなで北海道とか行こうぜ!どんどん遊びにいこ――――」
「エイジ・・俺、少し思い出したよ。・・・なんとなくだけど、月咲の事。」

エイジの相変わらずの口調を遮る様に俺の発した言葉に固まったかの様に見えた。
暫く、深夜放送の芸人の笑い声とエアコンの冷房の音だけが部屋に流れていた。
エイジはビールを飲んだ缶を持ったまま急に眉を潜め、険しい顔つきになりながら俺を見る。
けれど怒っている感じではない。
なんというか、俺を心配する様な・・・なんとも言えない表情だった。
そのまま何度が再びビールを飲み始め、飲み込むとゆっくりと顔を上げて俺に言った。
「そっか、そうだよな。思い出したのか・・・そうだな、もう4年になるんだ、忘れろって方が無理だよ。」

「俺と月咲に何があったのか知ってるのか、教えてくれよ!俺・・・・このままじゃ何かすげぇ気持ち悪いんだ。」

俺はこのもどがしい気持ちとなんとも言えないザラッとした感覚から抜け出したかった。
そして何故、月咲の事を忘れていたのか、ラグビーを大学で続けなかったのか、それには、大きな理由があるんじゃないのか。
恐らくそれを知っている高校時代のエイジ達に頼るしかないと感じた。
俺の言葉に暫く黙っていたエイジが口を開く。


168 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 21:47:36 ID:rzDVq6FD
「後悔しねーか?知らない方が良いって事もあるんだぜ?」
『・・・ああ、知らない方が逆に後悔しちまいそうなんだ。エイジ・・頼む。』

俺の言葉にエイジは「はぁ・・」と軽くため息をつくと立ち上がり床で眠るキヨちゃん達をまたがって、俺のお気に入りのソファーに深くもたれかかりながら俺を見た。

「たくっ・・・世話のかかる奴だ。デカイのは気持ちだけじゃなくて体だけにしとけっての。
いいか昂四郎、何を聞いても受け止めろよ。直ぐには無理でもお前なら大丈夫だと思ってるけどな、後全てを知ったら二度とこの事に関して関るな、お前の為だぜ。・・・じゃあ話すぜ?いいか、昂四郎お前、高校3年の時に月咲にな―――」


―――エイジがゆっくりと最後まで言うとエイジの終盤の言葉に俺は、驚きを隠せず固まる、それと同時に体中に鳥肌が上ったのを感じた。
部屋の時計の針は12時を過ぎていた。

【高校時代2学年/桜花学園にて】
月咲を階段から助けてからかれこれ4日になろうとしている。
エイジ達からは、「へぇ~良い事したじゃん。もしかして御礼貰えるかもしれないぜ!昂四郎君やるぅ~」と言われたけれど、そんな気配は全く無い。
というか、月咲は特別進学クラスで校舎は別に別れている。会う確立すら低い。
どこかのインターネットのサイトでは、電車で女の人を救って凄い事になっているらしい。

もしかしたら月咲が御礼を言いに俺のところに高いティーカップを持ってくるのかもしれない・・・そんな空想をしつつボーッとしながらラグビーをしていたら、案の定顧問に怒られて、学園の周りを3週ランニングしてこい!と言い渡された。

その一部始終を見ていた陸上部とテニス部、更にサッカー部の連中にも笑われる始末だ。
・・ったくバカだ、空想なんて家でするもんだ、やれやれ、もう月咲の事は忘れてラグビーに集中しよう。


169 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 21:54:11 ID:rzDVq6FD
―――そう汗だくて走りながらの時だった、誰かが俺を見ている気配を感じた。
どこの部活の奴だ?いや、制服に・・金髪・・・月咲?
大きな木の日陰に隠れた人気のある校庭のベンチに座り月咲が走る俺を見ていた。

まるで棚に置かれたフランス人形の様に、澄んだ瞳で俺に視線を向ける。大きな熊の様な俺が走るのがおかしいのか、こんな暑いのに何をしているんだと笑っているのかは知る余地は無いが、とにかく月咲は、ひたすら間違いなく俺を見続けていた。
階段の件が頭を過ぎり、不思議に思い気になりながらも3週走りきり、ラグビー部のメンバーにボーッとしていた事を茶化されながら練習に戻った。

―――部活が終わり、シャワーを浴びた後エイジ達と別れて家に急ぐ。

今日は、俺の好きなロックバンドがテレビで新曲を発表するんだ。部活の疲れなんかどこかにぶっ飛び軽い足取りで家に急ぐ。
携帯を手に電車を待つ、後10分後ぐらいか、早く帰りたいんだ急いでくれよ。
―――ふと、誰かに見られている気配がする。
またか、エイジ達やラグビー部の奴かな?後ろを振り返る、・・・・・月咲だ・・・今日学校で見たけどよく見るよな、今度は遠くからじゃなく、俺に用がある様な感じだった。
何か言えよ。近い、近いって。
真後ろに居た月咲は俺を見ていた。俺は少しキョトンとしながら月咲に視線を向け見下ろす。


170 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 21:56:18 ID:rzDVq6FD
「・・・片桐昂四郎君・・ですよね・・?」
『あ・・そう・・だけど・・・?』
「あの、階段の時、助けてくれてありがとうございました。」
『あ・・ああ!いやいや!とんでもない!無事で良かったよ、ってか・・俺の名前どうして?』
「もう平気です。あ・・保健室の先生に聞きました。同級生って聞いたから御礼言いたくて・・」
『そ、そうだったんだ。ってか俺の名前・・・どうして』
「探したの!・・・あ、ごめんなさい。勝手な真似をしてしまって・・」
『い・・いやいや。とにかくさ、怪我とかなくて良かったよ。体調はどう?』
「・・・もう大丈夫ですよ。本当にありがとうございました。」
『おお~・・良かったなぁ~』

正直嬉しかった。
話す機会なんか無いとばかり思っていたし、御礼を言いにわざわざ来てくれるなんてあの時の階段から落ちた痛みは、報われたってものだ。
それから同じ方面の電車だった為電車に揺られながら、話をする。

「私、あの時睡眠不足で・・遅刻しそうになって朝ごはんを食べれなかったんです。」
『あ~そりゃあ体調悪くなるよな~朝飯は食わないと駄目だぜ!俺なんて朝どんぶり2杯ぐらいは食べるんだぜ?』
「そ・・そんなには無理です・・・昂四郎君すごいんですね」
『凄い・・ってかまぁ只の食いすぎなだけなんだけどさ』
「うふふ」


171 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 22:00:08 ID:rzDVq6FD
・・・・おいおい、誰だよ。月咲を冷酷みたいに言ったのは。本当に良い子だった。俺は笑う月咲との会話でそんな噂は絶対に嘘だと確信し始めていた。
きっと振られた奴が月咲に逆恨みしてやったんだ、そう思い疑う事はなかった。

「昂四郎君、良かったら・・・その・・・携帯の番号を交換してくれませんか?」
『ん?携帯の?お、俺なんかで良いのか?』
「・・・昂四郎君のがいいんです」
『お、お、おう!勿論いいぜ!』

俺は慌てて携帯を取り出し赤外線機能を使って月咲の携帯に自分の番号とアドレスを送る。
そして、月咲は俺にアドレスと番号を送る。


月咲 美代子 をアドレスに登録しました。
090-XXXX-XXXX
Angrcom.k.rfk@XXXXX


嘘の様だった、俺の携帯アドレスに月咲のアドレスが・・俺は自然と笑みがこぼれて仕方がなかった。
同じく携帯の受信を完了する携帯の電子音が鳴ると淡い笑みを浮かべる月咲を見て胸が鼓動する音を聞きながら携帯を仕舞う。
「それじゃあ、私はここなので。本当にありがとうございました、昂四郎君」
『こっちこそ、ありがとう。またメールするよ!じゃあ学校で』
「はい・・学校で。お休みなさい」


172 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 22:03:26 ID:rzDVq6FD
軽く手を振った月咲は電車を降りると電車が見えなくなるまで、手を振り続けていた。
何か嬉しくてたまらない俺は、携帯のアドレスに記載されている月咲美代子という名前を何をするわけでもなく見始めていた。

すると電車が、月咲を降ろした駅から3分もたっていないのに俺のメールのバイブが響く。
・・・月咲だ。早いな、もうメールをくれたのか。俺は少し興奮を覚えながら、なんら違和感を持つ事なく未開封のメールを開く。


From:月咲美代子
件名:今日はありがとう。

昂四郎君、今日はありがとう。
携帯アドレスを交換出来て本当に嬉しいです。本当ですよ。ラグビー頑張ってましたね。
今日は暑かったけど、応援しようと思って見ていました。水分を欠かさないでね。あ、私もですね。
また明日学校で待ってます。あ、それと、お弁当を作りたいんです。体力をつける様にスタミナのお弁当です。
迷惑じゃなかったら良いですか?


173 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 22:07:53 ID:rzDVq6FD
携帯には画像の未開封のデータも添付されていた。
見てみると、駅近くにある24thのスーパーと思われる画像とスーパーの商品を手に持つ月咲の手が写っており2枚載せてあった。
女の子からのお弁当、まるで漫画みたいな話だ。俺は子どもの様に喜びながらOKの返事を返信する。

From:月咲美代子
件名;嬉しいです!

昂四郎君、ありがとう。
私頑張って作るね。楽しみにしてて下さい。
昂四郎君は、いっぱい食べるって言ってたから、工夫して作りますね。
頑張ります、楽しみにしていてねq(^^)p


174 :名無しさん@ピンキー [sage] :2008/07/24(木) 22:12:08 ID:gQu5Vf6K
一回の投稿で60行・4096Bytes(全角で2048文字)までおkなんだぜ?


175 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/24(木) 22:20:11 ID:rzDVq6FD
その返事が届いた時には、自分の駅に到着し電車から降り立つ。

返信を忘れ、携帯をカバンに入れ自宅に戻ると、風呂に入って汗を流し、母親の飯を食いながらテレビのロックバンドの新曲を聞いていた。
ああ・・・今日はなんて良い日なんだろう。月咲の番号を聞かれたし、好きな音楽を聴きながら飯を食う。とても良い気持ちで音楽を聴いて新曲の鑑賞は大成功だった。

そうだ、明日エイジ達にこの話しよう。きっと羨ましがるだろうな。
そんな事を考えながら浮かれたまま、部屋に戻り学校の課題をしていると携帯の事を思い出した。
エイジやクラスの音楽が好きな友達からの新曲の感想が届いているに違いない。シャープペンシルを机に置き、カバンの携帯取出しを見ると、それまでの浮かれていた気持ちが一気に飛んで思わず呟いてしまった。

『・・・なんだこれ・・・・』
―――目を疑う様な事が起きていた。
メール件数が30件を超えていたのだ。
確かにエイジやクラスの友達からのメールは届いていたが、エイジ達からのメールは5件。残りの25件は月咲からだった。
こんなに大量のメールはなんなんだろう。
内容は、弁当の材料や、学校の話。ラグビー部の俺の事を細かく書かれていた。
風呂に入ったばかりなのに汗が軽く滲む、恐怖と不安が入り混じった感覚が全身を巡る。

『いや・・・何かのミスだろう。・・そうだ、何か間違えて送っちゃたんじゃねーかな。・・まぁ、明日は弁当作ってくれるみたいだし・・月咲は個性的なんだよ、きっとそうだ。・・・もう寝よ寝よ・・』

エイジ達に新曲の感想の返信するのを忘れて俺は、携帯の電源を切り充電器に差し込みそのままベット倒れこんだ。

―――今、思えばこの時もっと別の方法やエイジ達に相談していれば、考えていれば、これから先俺が経験をする事は、起きなかったのかもしれない。
けれど、当時の俺はそんな事など気にもせず明日の希望を抱きつつ深い眠りについていた。

                          第2話 完 つづく
最終更新:2008年07月24日 22:33