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220 :『歪ンダ家』 [sage] :2008/07/25(金) 22:49:32 ID:L9vvQbsP
 数年前、母は父に見捨てられた。
家に残された母と別れる主旨がつづられた一枚の紙切れと共に父は家から出て行ってしまった。

中学一年だったその頃の俺はサッカー部に入っていて、いつも夜の八時まで練習に明け暮れていた。
そんなある日いつものように腹を空かせて家に帰ると俺は家の雰囲気がおかしいことにすぐに気がついた。
夜の八時という辺りが暗闇に包まれる時間にも関わらず全く電気のついていない我が家。
そして暗い玄関の入り口で体育座りで泣きじゃくる小学一年生の妹の姿。
「桜っ!?」
「・・・・お兄ちゃん?うわぁああああお兄ちゃぁぁああんん!!」
俺は泣き叫びながら抱きついてきた妹に一体どうしてしまったんだと聞いた。
嗚咽でなかなか声を聞き取れなかったが、何とか母親に何かが起きたという事だけは理解できた。
妹の頭を撫でながら俺は玄関を開ける。しんとした廊下が現れ、下には母の靴だけが綺麗に置かれていた。
「母さん、どこ?」
「えぐっ、う、うぅ、だ、台、どころぉ。」
「そうか。ありがとう」
妹の頭をくしゃりと撫で、俺は母がいる台所へ向かった。
「母さん?」
自分の呼びかけに返ってきたのはやはり静寂。照明スイッチを手で探し当てスイッチを押す。
辺りが明るくなり全体が見えてきた。
「っ!!」
母は冷蔵庫にもたれかかる様に座っていた。
「母さんなんで台所を暗くしてこんなところで座ってるんだよ!桜が怖がって泣いちゃってるじゃない・・・・うっ」
思わず言葉を止めてしまったのは母が異常な状態だったからだ。
「か、母さん?」
「ママ・・・・・・、さ、桜が帰ってから・・・・・・・ずっと・・・・・ひっく、このままなの・・・・・・」
背中にしがみついた状態で妹は説明した。
「ずっとこのまま!?」
思わず大きな声で聞き返してしまったせいで妹はびくりと身体を震わせた。
俺は後ろを振り向きごめんと謝罪し、再び母を見据えた。



221 :『歪ンダ家』 [sage] :2008/07/25(金) 22:50:32 ID:L9vvQbsP
明らかにおかしかった。
まるで何時間も泣いていたかのように充血し、どこを見ているかわからない焦点の合わない瞳。
いつもにこにこと微笑み、自分や妹を暖かくさせた顔は人形のように固まっている。
ウェーブのかかったセミロングの綺麗な髪はぼさぼさ状態でまるで化け物みたいだった。
「うぅ・・・・・・」
知らない、自分の知らない誰かがそこにいた。
「かあさん、なあ母さんどうしちゃったんだよ!母さんってばあ!!」
数度、肩を揺らし続けやっと母に動く気配が感じられた。
「どうしたの?」
「・・・・・・・・・・」
まだ焦点の定まってない目で俺を見つめ母は一人ごとのように語った。
「あのね、お母さんね、パパに捨てられちゃったの。パパは他のオンナと一緒に家から出ていっちゃったの・・・・・・」
乾いた笑い声を上げて母はくしゃくしゃにした紙くずを俺に投げてきた。それがあの紙切れだった。
「うふ、捨てられたぁ。優治さんに・・・・・・、あはははは」
母が壊れていく。
多分その頃の俺は直感的にそれを感じたのだろう。きっとここで自分が何かをしなければ母は二度と帰ってこれなくなると。
そう感じてからは俺の身体は迅速に行動した。
母の両手を握り締め、こういった言った。
「大丈夫、だよ。僕が、僕がずっと母さんの側にいるから。ずっと、すっと側にいるから!
 だから・・・・・・、安心してよ。ね?母さん」
「かずみ・・・・・・・」
その後母は桜よりも大きな声で泣くし、痛いくらいの力で抱きしめてくるし、次の朝まで離れてくれなかったしでそれは大変だった。
けど俺はきっとこれで母は元に戻ってくれると安心した。
母を捨てた父、優治が母を捨てる直前まで見せていた笑顔は嘘だったのかと思うと殺してやりたい位にむかついたが、
きっと母なら立ち直ってくれるとその頃の俺は信じていた。
信じていたんだ・・・・・・・。




222 :『歪ンダ家』 [sage] :2008/07/25(金) 22:51:17 ID:L9vvQbsP
月日は流れ、俺は高校三年生、妹の桜は小学六年生になった。

「ただいま」
「お帰りなさい和実」
そう言って玄関を開けるといつものように母が廊下で俺の帰りを待っていた。
「今日も時間通りに帰ってきたわね。偉いわ和実」
うふふふと微笑みながら彼女は靴さえも脱いでない和実の胸に抱きついて背中をゆっくりと撫でた。
「今日の晩飯何?腹減った」
「今日はすき焼きよ」
「そうなんだ」
そんな他愛の無い会話をして和実は母の抱擁から抜け出て靴を脱ぐ。
そして台所に向かおうとすると母に手首を掴まれた。
「何母さん。俺腹減ってんだけど」
「もう、和実ったら何度言わせたら解るの?」
「・・・・・・わかったよ」
和実は無言で母の両肩を掴み、
キスをした。
「ん、くちゅ、んふ、んん!!」
強く唇を押し付け舌を口内に侵入させる。唾液を流し込む。
「んぐ、ごく、んちゅ、んん・・・・。ぁふぅ・・・・・。じゃあ・・・・、晩御飯に、・・・・しましょうか」
はぁはぁと息を切らす母は満足げに言った。
和実は恍惚としている母に見えないように口を拭った。
そう、母はあれから立ち直れなかったのだ。
あの時母の心はすでに壊れていて修復不可能の状態になっていたのだ。
あの日から母を何とかしようと少しずつ努力はしたがそれは空しい結果に終わった。
あの日から母は異常なまでに俺という存在を求めてきた。
先程のキスもそうだ。学校に行っている間の埋め合わせのように毎日家に帰れば同じことを求めて来る。
うんざりするが俺は断ったりはしない。断ればまたああなるのは目に見えるからだ。
「ご馳走さま。うまかったよすき焼き」
「よかった。母さん頑張ったかいがあったわ」
「夜食頂戴」
「はい。和実は中学生から勉強頑張るようになったわねぇ」
「みんなやってることだよ。じゃあ勉強してくるね」
「頑張ってね」
和実は母に作り笑いを見せ、手にしたおにぎり三個と少し残ったすき焼きを入れたタッパーと箸を持って二階の自室へ向かった。





223 :『歪ンダ家』 [sage] :2008/07/25(金) 22:51:45 ID:L9vvQbsP
「ごめん、遅くなって。お腹減ったろ?」
部屋には妹、桜がベットに仰向けに寝転がっていた。
「ううん、全然大丈夫。気にしないで兄さん」
むくりと起き上がり瞼をこする桜。
「寝てたのか?まぁいい、今日はすき焼きだったんだ。うまかったぞ、ほら」
和実は妹の隣に座り、タッパーの中身を見せた。
「わぁ本当だ、美味しそう。ふふ、何だかこれ見てたらお腹減ってきちゃった」
「だろうな」
「 ね、だから早く食べさせてよ 」
「・・・・・わかった」
すき焼きの肉を二、三枚箸で摘み和実はそれを咀嚼する。その光景をみて桜はごくりと喉を鳴らした。
もぐもぐと噛む事十秒、和実は自分の口の中にあるどろどろになった肉を妹の口の中にキスをする形で流しこんだ。
「ん、んぐぅ、むぐむぐ・・・・・。ぷはぁ、美味しぃ。ねぇ、もっと頂戴?」
「わかった」
ぺろりと唇を舐める桜に和実は心が痛んだ。
あの日以降母が変わったのは俺を求めるようになっただけではない。
妹を完全に無視するようになったのだ。何故だかは知らない、ただその事実は小学校一年生の桜の心に深い傷を負わせた。
母は妹の世話を全くしなくなくなり代わりに俺がしなければならなくなった。
とにかく妹に食事をさせなければならないので俺はコンビニで買ってきたパンを妹に与えたが、一向に妹は食べようとしない。
最初は腹が空いてないのかと思っていた。しかし二日もそういうのが続くと流石に俺もおかしいと気づき始めた。
何度食べてくれと願っても自ら食べようとしない桜に俺は意を決してパンを自らの口に入れた。
そしてペースト状になるまで噛んだ後、妹の口の中に無理矢理ねじ込んだ。
桜の驚きに満ちた目が俺を見る。何て言われても構いはしない。
食べてくれなければ妹は、桜は死んでしまう。
そんな俺の思いに応えてくれたのか、桜はやっと食事を取ってくれるようになった。この方法でならばだ。
「んぷ、ちゅっちゅ、あはぁ、んぐぅ」
最近はやっと学校の給食を一人で食べれるようになったらしいが、家にいる間は断固して食べてくれなかった。
「えへへ、うんん」
頬を蒸気させた妹を見て、目的が自分の口にある食物を絡め取る以外のために舌を積極的に絡め、
そして淫らに長い髪を揺らす桜を見て、和実はしきりに痛む胸に俺は間違っちゃあいないと何度も言い聞かせた。



224 :『歪ンダ家』 [sage] :2008/07/25(金) 22:52:19 ID:L9vvQbsP
母だってそうだ。
母は美しい、綺麗だ、美人だ。そんな母が昔のように微笑んでくれるのはとても嬉しいのだ。ほんの少し目を瞑っていれば母は昔の母でいてくれる。
自分は母を精神の崩壊から守っているのだ。
妹だって同じだ。
自分があのまま桜を放置していたら絶対桜は衰弱していく一方で死んでいたに違いない。純粋で俺の心を癒してくれる桜がいない生活なんて想像もしたくない。
自分は桜を生かしているのだ。
そうだ、俺は俺の世界を守ってるだけなんだ。
「んふぁあ・・・・・。美味しかったよ兄さん、ご馳走様」
「ああ・・・・・」
妹の食事が終わった。あとは妹は自分でやってくれる。
俺は妹に風呂に入ると告げ一階に降りた。
脱衣所につき、扉を開けると下には母の下着と曇りガラス越しに見える母の姿とシャワーの音が奥から聞こえた。
俺は素早く撤退しようと後ろを向いたが母は見逃さなかった。すでに、母の手がバスルームのドアを開けて俺の肩を捉えていた。
「どこ行くの和実、お風呂に入りに来たんでしょ?」
「いや、母さんが先に入ってたから俺は後で・・・・」
言い終わる前に母が肩を引っ張り、俺と母が正面を向かわせる形にした。
「そんなつれないこと言わないでよ。
        嫌なの?       」
そこには母の顔が な か っ た 。
「あ、あぁ・・・・・・」
即座に和実の頭が警報を鳴らす。
まずい、やばい、いけない、と。母を守らなければ、己の世界を守らねければ・・・・・・、と。
「・・・・ち、違うよ、ちょっとした冗談だよ」
「なぁんだ、母さんびっくりしたじゃない。じゃあ早く入ってきてね?待ってるから」
「うん」
ニタリと昔とは違う、異質な微笑みを見せた母はとても四十を超えたものとは思えない一糸纏わぬ身体で和実を抱きしめてからバスルームに戻っていった。



和実は思った。



俺は間違っちゃぁいない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。