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265 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15:39:09 ID:/Q0pBnTr

『誠人くん…あたしがちゃんと”上書き”してあげるから…大丈夫だよ…?あはははは!!!』
『あぁあああ!!!』

 容易に想像のつく悲惨な末路、自分で想像しておきながらそのあまりに生々しく現実味溢れ、何より起きても納得してしまう光景に身震いする。
加奈ならやりかねない…。
 きっと加奈にとっての問題は”傷”なんかではなく、自分以外の人間が俺に触れた”証”の有無なのだろう…傷でなくても加奈がそれを”傷”と捉えるかは置いておいて。
だから、たとえ俺の首元に付けられたのが”直接的外傷のない”キスマークであったとしても、それは加奈にとって十分”上書き”すべき対象なのだろう。
万が一にでもこのキスマークが見付かれば、加奈は容赦しない…首は少し傷付けるだけで簡単に命を落としてしまう事にも気付かず。
そうなったら、俺は間違いなく死ぬ…確かにそれはかなりの重要事項だ。
 まだまだ俺にだってやりたい事は山ほどある。
 だけど、それと同じくらい…いや、それ以上に俺が恐れているのは…加奈の弱さだ。
加奈は俺にあんな事をしてくるけど、それは加奈が我慢というものを知らないからだ…加奈は純粋過ぎる。
もし加奈が俺に”上書き”した後、自分のした事の過ちに気付いたりしたら…きっと加奈は壊れる。
一生立ち直れない程に壊れる、それこそが一番危惧すべき事なのだ。
何度も何度も俺を傷付ける…そんな加奈が好きなんだ。
勿論いつもの加奈も好きだ、誰よりもと断言してもいい。
低い背丈に童顔な顔つき、それと相反するように大人の魅力を釀しだす長い黒髪、いつも何か懇願するように見上げてくる真っ直ぐな瞳…幼馴染みながらも、ここまで自分の理想に担う相手は他にいない。
そんな加奈を愛しているのだが…時折見せる狂気的に色を失った瞳に見つめられるのも好きだったりする…その時加奈が俺を見ているのかは分からないが。
 その瞳の奥にあるのが純粋に俺を好きでいる気持ちだって何となくわかるから。
 どんな加奈でも好きだから、幸せになって欲しい。
もし、俺以上に加奈を幸せに出来るって奴が現れたなら、俺は喜んで加奈をそいつに譲るだろう。
加奈の幸せは俺の幸せ…。
加奈の幸せを、一時の過ちなんかで台無しにしたくない。
だから、絶対にこのキスマークは見られる訳にはいかない。

そんな俺の心中も知らず、島村は俺の手を引いていく。
 新しい玩具を買って貰った子供のように楽しそうだ。
お前が悩みの種なのに…なんて恨めしそうに背中を見つめながら、神経質に俺は首元を隠すように制服の襟を立てた。



266 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15:40:00 ID:/Q0pBnTr

「誰もいませんね~?」
 一回ドアをノックして反応がない事を確認すると、島村は堂々と保健室へと入って行った。
当然俺も引きずられるように。
島村の第二の命令が終わった事を確認すると、未だに手を繋いでいる事が妙に気恥ずかしくなり、大袈裟に島村の手を振り払う。
理由がなくなった以上、島村と手を繋ぐのはおかしい事だ。
しかし、ちょっと大袈裟にやり過ぎたらしい、島村が露骨にこちらを睨みつけてくる。
目をそらしてもピリピリと島村の視線を感じる。
 それでもやはり島村の考えは読めない。
「女の子と手を繋ぐのは初めてでしたか?」
突然上機嫌に俺を嘲るようにクスクス笑い出す。
発言の内容から察するに馬鹿にされている。
さっきからいくら弱味を握られてるかと言ってこいつにはやられっぱなしだ。
かと言って抵抗して高校生活を棒に降る気はない。
 せめてもの意地で、若干強めの口調になる。
「これでも俺は結構モテるんだ、小学生じゃあるまいし、手繋ぐくらい訳ない」
「成程、そんな自称モテる沢崎くんは当然童貞なんかじゃないですよね?」
…この女はどうしてこうまで人の奥を覗き込むんだ?
無言でうつ向いてしまった俺を見下すように笑いながら、それ以上言及する事はしなかった。
嬉しいような悲しいような…。
そんな俺をよそに、島村は慣れた感じで保健室を徘徊する。
勝手に持ち出していいのかわからないが、棚を開け中に収められている薬品等を凝視している。
見つめている物が薬品からなのかもしれないが、結構様になってるなと思った。
全体的に見れば肩にかからない程度のショートの黒髪だが、前髪が不釣り合いな程に長い。
ただでさえ縁なしで今時流行らなそうな大きいレンズの眼鏡をかけているのに、長い前髪が余計に表情を隠そうとしている。
しかし、何故かそれが俺視点からかもしれないが、物凄く似合う。
何と言うか、地味な意味ではなく”飾ってない”感じの顔にかなりそれがマッチしている。
 そういえばこいつ、良く見ると化粧もしていない、それが妙な清潔感を生んでいる。
 白衣でも着せたらきっとそのまま仕事出来るんじゃないか…?
「ありました!」
そう言って俺の方へ振り返りニコリと笑う島村。
こいつのこんな純粋そうな笑顔は今日の昼休み―つってもまだ昼休みだが―、俺の腕の傷が大した事ないってわかった時以来だな…。
同じ昼休み間なのに、その短い時間で随分と島村の本性を垣間見たからな。
そんな風に笑ってれば結構いける方だと思うんだけどな…ってそういえば腕の傷って…。
「それじゃ治療をしますか」



267 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15:41:01 ID:/Q0pBnTr

 そう言って島村は俺の右腕を掴んで自分がベッドに座る為にそこまで俺を引っ張った。
思い出した…首元に気を取られ過ぎてたけど、この腕の傷は純粋にかなりヤバいんだった。
思い出したら急に痛みを感じてきた。
島村の言った通り、早く治療しないといけない。
それにしても、さっきの白衣の妄想の続きだが、棚から取り出した消毒液を脱脂綿に染み込ませている姿を見ると、本当にナースのように見える。
まぁこいつは白衣を見に纏った悪魔なんだろうけど…。
「にしても、どうしてこんなに傷増えてるんですか?」
島村が俺の傷を不審そうに見ている。
しまった、言い訳を何も考えていなかった…。
こんなひっかき傷がどうしてつくのか…体育館裏で島村に言い訳を考えた時のように理由を探した。
しかし、今回はそれは無用だった。
「あっ!ごめんなさい。女子トイレで腕がこんなになる程何してたかなんて訊くのは失礼ですよね」
口さえなければ…と他人に本気で思ったのは初めてだ。
それで納得してもらえるならひとまず良かった…大事なものと引き替えにしてる気もするが。
「さ!これでよし」
脱脂綿に消毒液が十分に染み渡り、満足そうな島村。
まぁ今は素直に嬉しい、保健室の皺でクシャクシャの顔の婆さんにやってもらえるは断然いい。
そう思ったのも束の間、島村は何の前触れもなくいきなり脱脂綿を傷に当ててきやがった。
「痛ッ!」
液の染込む痛切な感覚に俺が腕を引っ込めると、その反応を島村は口に手を当て喜んでいた。
こいつドSだな…。
そんな俺の憶測―ほぼ正解だが―に拍車をかけるように、島村が何かを思いついたのか両手を叩いた。
目を細めこちらを見つめてくる…具体的な想像は出来なかったが、かなり嫌な予感がした。
「沢崎くん」
「な、何だよ?」
「第三の命令です」
 そう言うと島村は人差し指を立て、俺の口元に持ってくる。
「これから私が言いというまで、一切声を出さないで下さい」
「…」
 声を出さない…それに一体どんな意味があるというのか?
 それを訊かなかったのは今までのやり取りから、これからたとえ質問であろうと一言でも声を発すれば何を言ってくるかわからなかったからだ。
 小学生みたいな考え方だが、今のこいつに対しては非常に有効だ。
「声を出したら…分かってますね?」
 体育館裏で俺を問い質した時のあの試すような目線を送ってくる。
 目を合わるのが怖く、下を向く事で安全圏に入る。
 しかし、そんな俺の考えは甘かった。
「―――――ッ!」
 寸でのところで出そうになる悲鳴を抑え込んだ。
 後もう少し島村の力が強ければ情けない悲鳴をあげていただろう。
 島村は、消毒液たっぷりの脱脂綿をやっと血が固まってきた俺の傷口に思い切り当ててきたのだ。
 ガキじゃあるまいし消毒液くらいでなんかと思うかもしれないが、今の不意打ちは正直やばかった。
 もし島村に対しての俺の印象が少しでも緩いものだったらそこから油断が生まれて、間違いなく終わってた。
「うふふ…面白い!」
 含み笑いを続けながら俺の傷口に脱脂綿を当て続ける島村。
 いくらやられるとわかっていても、やっぱり傷口への消毒液はかなり沁みる。
 腕は当てられる度に震えてしまう、その反応が島村の加虐的な心を更に刺激して自らの首を絞める結果になってしまう。
 そう分かっていても、声を止める事だけでやっとである。
「声…出しちゃったら楽だと思いますけど?」
 甘い言葉を投げかけてくる…俺の自制心がみるみる内に崩れ去っていこうとする。
 心の隅ではまだ島村に対して幻想を抱いているのかもしれない…白衣の天使だと思っているのかもしれない…。
 数分前に受けた体育館裏でのあの屈辱的な出来事を思い出し、それを必死に物色する。
「我慢している時の誠人くんって可愛い…」
 男なんだから可愛いと言われても全く嬉しくない、女に逞しいですねぇって言うようなものだ。
 一瞬変な違和感を感じたが、繰り返し送られ続ける苦痛の電流を前に、そんな疑念はすぐ消え去る。
 声を出させようとする島村と、必死に堪える俺との攻防は3分にも及んだ…。



268 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15:43:00 ID:/Q0pBnTr

『シュッ!』
 最後の最後で島村は十分消毒し終えた俺の傷口を守る純白の包帯を、これでもかというくらいキツく締めてきた。
 呻き声が漏れそうになるが、今までの苦労が水泡に帰してしまう事を考え、何とか堪えた。
 巻き終えて少々不満そうな顔をしている島村、こいつに対して初めて勝ち誇った喜びを噛み締める。
「あ~あ、つまらないですねぇ。もういいですよ」
 言葉の意味を3回くらい頭の中で確認し、本当に許しが貰えた事を理解し溜息をつく。
 これでも男、女に一方的にやられるだけやられる訳にはいかない。
 それでも主導権はあっちが握っている事を思うと、いささか良い気分にはなれない。
 何となく思ったんだが、島村が満足する時って、俺は一体何をすればいいんだ…?
「それにしても保健室の匂いが染み付いてしまいましたね。私この匂い嫌いなんですよね」
「俺に対して言われても、あくまでお前の命令で連れてこられた訳だから、自業自得だろ」
「あら、私が誰の為にここに来てあげたとお思いで?」
 一瞬俺の為かなんて思ったがそんな訳ないとすぐにその甘い考えを振り払う。
 あそこまで笑顔で俺を痛みつけてきた人間が、俺の事を思い遣っているなんて到底思えない。
「俺の痛がる瞬間が見たかったからだろ?」
 俺の言葉を聞くと、一瞬島村の顔の雲行きが怪しく見えた。
 睨む訳でもない、何だか物悲しそうに見えたのは気のせいだろうか?
「まぁそれもありますけどね…」
 やはりそうじゃないかと追い討ちをかけたかったが、これ以上言うと島村の逆鱗に触れそうな予感がしたのでやめておく。
 別に怒っている風には見えなかったのに、何で俺は”逆鱗に”なんて思ったんだろう…。
 数秒自問して答えが見つからなかったのでその問題を頭の中で吐き捨てる。
 パッと見て分からなかったら飛ばせという先生の指示を忠実に従う受験生のようだった。
「さて」
 沈んだように見えた島村はすぐにいつもの少々ニヤけたような表情に戻す、というか俺に昨日健気に謝ってきた島村はこんな表情していただろうか?
 今更そんな事を思う。
 目の前にはベッドの上で足を組み俺を頑張って見下ろそうとしている島村がいるというのに…。
「何だ?」
「この保健室はどうなっているんでしょうね。ピンセットも見当たらないなんて」
 それはお前は保健室の住人じゃないんだから当然だろと思ったが、口には出さない。
 むしろ消毒液や脱脂綿を見つけておいてピンセットは見つけられないなんて妙な話だ。
 そんな事を思いながら島村を見ていると、第三の命令を下した時のように人差し指を突き出した。
 今回も俺の口元に近づけたが、立てる事はなくまるで挿し込もうとしている…ってまさか…。
「という事で第四の命令、この指から消毒液の匂いが取れるまで綺麗に舐め取って下さい。脱脂綿に触れていたせいで大変な匂いですよ…」
 予感的中。
 この女なら言いかねないと思っていたが、良くもまぁ堂々とこんな事を命令出来たもんだ…。
 その図を客観視して、物凄いヤバイんじゃないかと思った。
「それはさすがに…。誰かに見られたらマズイだろ?」
「沢崎くんに拒否権はありませんよ?」
 俺の言葉を無視して、ほらほらと言わんばかりに頬を突付いてくる島村。
「でもよぉ…」
「別に構いませんよ?私は困りませんし」
 ”バラされてもいいなら好きにしなさい”、脳内で後に続く文を付けたし、観念する事にした。
「わかったよ…」
 その言葉を聞くと、島村は嬉しそうに指を動かす。
 それにしても、指をくわえるなんて俺は小さい頃にもやった事がない。
 ましてや他人、それも女のというのはかなり厭らしい気がする…。
 それでもしなければならない、そう言い聞かせて俺は島村の細い人差し指を掴んだ。
「ん………」
 この期に及んで、まだ抵抗感がある。
 加奈以外の女の子に触れるなんて小学生のフォークダンス以来だ、しかもそれが指の消毒液の匂いを舐め取る為だなんて…。
 自分の不幸を呪い、覚悟を決めた俺はとうとう島村の人差し指を口に咥える。



269 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15:44:00 ID:/Q0pBnTr
 俺にはもう人としての尊厳とかはないのかもしれない…少なくとも、島村視点からすればそうなんだと思う。
「素直でよろしいですよ」
 そう言って俺の髪を撫でてくる島村。
 屈辱感の中に妙な快楽があり、流されそうになっている自分に叱咤する。
 こんな事をするのは加奈へだけかと思っていたが、思わぬ伏兵がいたものだ…。
「…んっ………」
 俺はただ口に咥えたままの状態で舌を動かしただけなのに、島村は恍惚な表情を浮かべ呻いていた。
 俺そこまでの事してるか…なんて思いながらも、口に広がる消毒液独特の匂いが俺の思考を遮断する。
 早くやってしまおう…そう思って早めにアイスバーを舐めるようにすると、島村の腕が一瞬反応した。
「あっ…」
 馬鹿野郎、そんな色っぽい声出されたらどう対応したらいいのか分からないだろ?
 微かに耳元に響く島村の声が、俺の脳の奥の奥を刺激する。
 その甘ったるい声に恥ずかしい話だが、俺の”ナニ”まで反応してしまう。
 これは酷い拷問だ、そう思いながらも徐々に真剣になっていってしまう…。
 心の奥底で、”もっと”と思う気持ちが僅かでもあるという事に自己嫌悪を覚える。
 人間の性とは恐ろしいものだ…そんな風に自分に呆れながら、個人的に背徳的な行為に浸りかけた………。

『ガラァッ』
「誠人くんいるぅ~!?………っえ?」

 突如保健室のドアが開き、聞き覚えのある声が先程まで別の少女に魅了されていた耳を貫く。
 その音に驚き、俺は慌てて島村の指から口を離した。
「か、加奈ッ!」
 そこにいたのは加奈だった。
 弁当を持っているところを見ると、どうやら俺を探していたようだ。
 そういえば一緒に昼飯食うとか言ってたな、色々あって忘れてたっけ…でもそんな事はどうでもいい。
 問題は”見られている”か”見られていない”かの一点につきる。
 俺は頭の中で必死に「後者」を唱え続けた………島村の指と俺の口に、まるで”絆”のように繋がっている涎にも気付かず…。