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392 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/07/30(水) 23:03:45 ID:O4xrNF9j
第2話『霊感商法』

 古ぼけた狭いアパートの一室には部屋の持ち主ではない坊主の男たちが三人が目を閉じて集中していた。
上半身は裸であり、背中や胸には派手な刺青が彫られている。頭を剃っているのか、髪の毛はない。
微かに頭上は電球が必要のない明かりを灯していた。
 その坊主達は近所で雇った凄腕の坊さんらしいので、部屋にいる幽霊を除霊してと依頼をしたら、快く承知して来てくれた。
そして、坊主の男たちによる除霊作業が始まろうとしていた。
幽霊の彼女は……尋常じゃない邪気を撒き散らしながら俺を睨んでいたが、気にしないでおこう。

「らんらんるー!! らんらんるー!! 坊主は嬉しくなるとお兄ちゃんのためにしちゃうの 」
「はぁぁぁぁぁぁぁ。ちょっとゴリちゃうぞ」
「大胆不敵!!電光石火!! 除霊はワシらの金のためにある!!」
 と、坊主は意味わからん単語を天井に向かって叫び続けていた。それから、同じ事を繰り返して30分ぐらいで除霊作業は終了した。
「これでYOUを脅かす悪霊は完全にホロビマシタ。依頼料は期日までに口座へ振込んでクダサイ」
「振込まないと地獄に落ちるわよ!!」
「霊感商法に気を付けてな」
 坊主さん達は奇妙な事を言い残して去っていた。高い除霊料を払ったことだし、肝心な幽霊は成仏したはず……。
 振り返ると奴がいた。
「こ・う・い・ち・さ・ん」
「そ、その、あれだ。
 ごめんなさい」
 俺は宮野由姫にひたすら謝るしかなかった。


「光一さんは最低です。どうして、除霊なんてするんですか? 私のことを飽きてしまったの?」
「だって、部屋に幽霊がいるとさ。アニメやゲ-ムとかできないじゃん」
「生身の女の子がいるんですから、そんなものは必要ありませんよ!!」
「アンタは生身じゃなくて、幽霊だろっ!!」
 当たり前の話だが、24時間中幽霊がいるという異質な状況は俺のプライベ-トな生活に色んな支障を起こしていた。

朝から光一さん光一さんと叩き起こされてはテレビを付けてください、私とお話をしてくださいと頼み事をしてくる。
秘蔵のお宝のゲ-ムをプレイしようとしても、俺の背後から光一さんは生身の女の子に興味はないんですねと泣き言を言って来る始末だ。
 我慢の限界に来た俺は怪しげな坊主に除霊を頼んだわけだが。
 結果は見ての通りだ。
 宮野由姫は幽霊として存命している。憎いことに。

「ふふっ、私がいないとこの部屋の空間は暗くなりますよ」
「暗くなる云々の前に幽霊がいる時点で充分に先行きは暗いと思うんだが」
「大丈夫です。浪人しただけで光一さんは充分に将来は暗黒ですから♪」
 ああ。やっぱり、成仏させておくべきだったかもしれん。ボケェ幽霊。
「黙れ、実年齢35才。本来ならさっさと成仏して、転生先は畜生道一直線の
お前が人の人生をとやかく言われる筋合いはない」
「女の子に本当の年齢はタブーですよ。
20才のアイドルで売り出しても、実年齢は35才だったというオチもあるので、本気でタブーですからねぇ。
今度、言ったらタコ殴り刑ですから」
 幽霊にタコ殴りにされる浪人生の運命は想像するだけでとても情けないように思えるのは何故だろうか。
実年齢35才に殴られるぐらいなら、もっと若い女の子に殴られた方がマシかもしんない。
 ともあれ、同居している幽霊は日々が経つのにつれ自己主張が激しくなるのであった。



393 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/07/30(水) 23:05:57 ID:O4xrNF9j
 そんな俺の唯一の癒しの空間は現在通っている予備校にしかなかった。
毎日意味不明な授業内容を聞きながら、安らかな寝息を立てる。周囲は必死に授業内容を聞いているのに
俺だけが寝ているのはなんと言うか、予備校教師をも畏れぬ所業じゃないだろうか。

家に帰ると幽霊が朝から晩まで懐いてくるし、寝られる時間はほとんどないに等しい。
高い授業料を支払っているんだし、予備校は俺に安眠場所ぐらい提供してもよさそうだ。
まあ、予備校教師はさっきからこっちを睨んでいるように思えるが、気にしないでおこう。

 休憩時間になると俺は欠伸しながら、周囲を見渡すとすでに本日の予備校の営業は終了したそうだ。
居残っている生徒達がこっちを奇妙な動物のような視線で見つめてやがる。
そんなもんは無視するのに限る。

「あっ。起きたんだ。松山くん」
「藤寺さん?」
「もう、松山くんがずっと寝ていたでしょ」
「ちょっと、睡眠不足で」
「睡眠不足って夜遅くまで起きているからじゃないの」
「それだったらどれだけ良かったか」

 藤寺 音梨沙 (ふじてら ねりさ)
 同じ予備校に通っている予備校生。この予備校に通ってからの知り合いで、大学入試でカンニングして見事にばれたらしい。
そして、女の子ながらも不憫な浪人生として予備校に通っているわけだが。

彼女も居眠りの常習犯であった。

予備校教師が注意しても、あまりにも幸せな寝顔に教師はおろか、ここに通っている予備校生ですら起こすことができない。
ここまで自分と似た人間がいることに驚きだったので軽く口を聞いたら、何だか意気投合してメルアドを交換などしたが。
予備校で会話することは滅多にない。
 だって、寝てるもん。

「松山君はちゃんと起きて勉強した方がいいよ。じゃないとまた試験に落ちて、辛くて厳しい浪人生活を送ることになるよ」
「あんたも寝てるだろ」
「私の場合は睡眠学習だよ。寝れば寝る程、私の頭は賢くなるんだよ。
そう、無駄な雑学は覚えても、わけわからん方程式とか単語は脳内じゃあ処理しきれないけど」
「藤寺さんももう一度浪人生活を送りそうだな」
「いえいえ、松山君の方が結構危ないです。日本人全員がそう思ってますよぉ」
 やっ。睡眠学習するような頭のおかしい人に言われる必要はないと思う。てか、日本人全員が俺は2浪すると思っているのかよ。
「同じバカ同士。親交を深めるために松山君の家で一緒にお勉強しましょ」
「何でそうなるんだ」
「私の本能がそう告げているのよ」
 どんな本能だよ。
「というわけで松山家に行きましょーー!!」
 俺の意見などお構いなしに藤寺は俺の腕に自分の腕を組んで、予備校は飛び出した。



394 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/07/30(水) 23:09:02 ID:O4xrNF9j
 友達の仲である藤寺音梨沙という女の子を自分の部屋に連れ込むのは男の子としては嬉しい出来事である。
 勉強会は建前上のことであり、本来は彼女が言った通りに親交を深めるためにやって来たのであろう。
 彼女は初めて出会った時から自分と同じ匂いがしたのだ。

 一般社会には溶け込めない独特な価値観に、周囲の人間とは必ず違う道を突き進む突進力。
大事な大学入試の時にカーニングをして、浪人生活に転落しても弱音を吐かない図太い精神など。
 いろいろと波長が合う女の子だと思う。
 ともあれ、何の準備なしに一人暮らし男の部屋に女の子を誘うのは俺の部屋は散らかり過ぎていた。

 お宝のヤンデレゲーなど女の子が余裕で引いてしまう物々を見られると俺自身がちょっと発狂してしまう。
 更に藤寺が予備校の皆にこの事を喋らないと限らないので
 部屋を掃除するから家の前で待ってくれと待機させている。
 家に帰るまで俺は奴の存在を忘れていた。
 
 当然、幽霊の宮野由姫のことだ。

「へぇ、光一さんは可愛い女の子を自分の部屋に連れ込んで、いやらしいことをしようと企んでいるんですね」

 機嫌が悪いのか、少し冷笑を浮かべて嫌味をたっぷり含んだ口調で掃除中の俺に言い放ってくる。
 当然、俺は幽霊を軽くスルーして自分の部屋の掃除を続けていた。

「私という可愛い女の子がいるのに。どうして、他の女の子を連れて来るのかな?」
「同じ大学入試試験でカンニングした馬鹿同士。気が合った仲間が一緒に勉強するのは当然じゃないか」
「ダメです。世界破滅の大危機です。テレビで生電話の相談室の司会の人が言っていました。浮気する人間は背中から包丁で刺されると……」
「どんな番組だよ。しかも、ただの浮気だけで刺すのかよ。恐いって」

「心が壊れた女の子は正常な判断ができないんですよ。たまたま、
 そこに準備していた包丁で愛しい人を殺してもそれは仕方ないことです」
「ヤンデレ症候群感染者か。その女は?」
「いえいえ、愛しい人の愛に飢えている女の子の構って欲しくて胸を刺して、愛の一突きです」
「ど、どちらにしろ、その女は牢獄の中で閉じ込めておけ……」

「はい。そうですね。私はドラマのヒロインになったつもりで光一さんを……」
「刺すなーーー!!」
「だって、どこの馬の骨かわからない女の子に光一さんを取られるのは面白くないじゃないですか。ぷんぷん」
「もしかして、嫉妬しているの?」
「そ、そ、そ、そ、そういうわけじゃないですよ!! ええっ。光一さんにちょっと気があるなんて嘘ぱっちですからね」

 ツンデレ風味の幽霊が顔を真っ赤に染めていた。その仕草は幽霊らしからぬ甘い雰囲気を周囲に漂わせる。
 俺的には掃除の邪魔もとい、個人的なお宝コレクションを隠そうと狭い一室の中で必死に考えているというのに。
 由姫のヤキモチにいちいちと反応している時間はないのだが。



395 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/07/30(水) 23:09:30 ID:O4xrNF9j
「わかりやすくねぇ?」
 と、俺は小声で呟いてから苦笑してしまった。
 その時、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「松山くん、まだぁ?」
「後、もう少しだけ待ってくれない?」
「私の気のせいだと思うんだけど、松山君って独り言とか多いのかな? 
 それとも、誰かいるの? さっきから誰かと喋っている風に聞こえるんだけど。
 もしかして、松山くんの彼女?」
 藤寺さんが悲しげな声に俺は思わず意味がわからずに首を傾げた。
 鈍い頭をフル稼働させて彼女の言葉の意味を理解しようと考えて、
 何故か勝ち誇っているボケ幽霊の姿を見るとようやくわかった。
 宮野由姫は幽霊である。
 霊感のない一般人が彼女の姿を見ようと思ったら、この古ぼけたアパートの部屋を契約した者だけがすでに故人となり、
 幽霊になっている彼女の姿を見ることができる。
 つまり、先ほどの会話に関しては周囲から見ると頭おかしい学生が延々と独り言を喋っていたのに過ぎない。
 松山光一は病院に連れて行かれる寸前……アホ幽霊のせいで。
「( ̄ー ̄)ニヤリッ」
「顔文字で勝ち誇らないでください。友人に俺はちょっと頭のおかしい人と誤解されて、精神病院に連れて行かれる5秒前なんですよ」
「もう、光一さんの鈍感。女の子を待たせると豆腐の角で頭をぶつけて死んでもおかしくないですからね。
 早く彼女をこの部屋に入れて上げて下さい。ふっふっふ」
 思い切り、何かを企んでいる顔だった。犯罪者が犯行計画の段取りを考え、
 完全犯罪が成立することを完璧に確信したような表情を浮かべている。
 俺は嫌な予感がしつつも、藤寺さんを我が家に招き入れた。