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483 :上書き6話後編 Aルート「出口のない迷路」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/22(木) 22:55:16 ID:0JNoMNMo
Aルート「出口のない迷路」



 俺は加奈と一瞬目を合わせ、そして…今すぐ謝ろうと決心した。
 加奈に対して嘘をついてしまった事に今更ながら罪悪感を感じる。
 確かにあの状況で本当の事を言うのはかなり気まずいものだった。
 勿論その理由の大半は俺が加奈にそういう事をしていた事実を知られたくなかったからだ。
 その一方で、その事実を知る事で加奈が傷付くのを恐れていた部分もあった…しかし違ったんだ。
 加奈にとって最も悲しい事は俺に嘘をつかれる、”俺に裏切られる”事なんだ…自慢じゃなくそう思う。
 真っ直ぐ俺を好きでいてくれている加奈に対して嘘をついてしまった事に後悔の波が押し寄せる。
 だが後悔している暇なんてない、今しなければならない事の方が最優先だ。
 ”最高の誠意を尽くして加奈に謝る”、これは好きな女の子を傷付けてしまった俺の絶対の義務だ。
 許してくれるかは分からない…いや、俺の都合は関係ない。
 加奈に真実を伝える事が大切なんだ。
 今の加奈は不安定な心境だ、確信を持ちながらまだ”俺から”真実を伝えてくれる事を求めている。
 そんな加奈の期待を裏切るなんて許される事じゃない。
 俺は一歩後退りし、一瞬加奈の瞳を見つめた後、思い切り頭を下げる。
「ごめんっ!」
 言葉を勢いに任せ加奈に届ける。
 俺の精一杯の想い、償い、伝わったかは下を向いていて加奈の顔が見れない俺には分からない。
 しかし、とりあえず加奈に真実を伝える為の下準備は出来た、それで満足だ。
 後は”許す”か”許さない”か、俺が一時の気の迷いとはいえ加奈を裏切らった事に関しての審判を待つだけだ。
 胸の鼓動が早くなっていくのをはっきりと感じる。
 これからも加奈と共に過ごせるかの分岐点、緊張が汗という形で具現化し頬を擽る。
 待つ事十数秒、震えかけの足で何とか状態を維持していた俺に、沈黙を守り続けていた加奈が一言発した。
 その言葉は、俺の予想の範疇を二枚も三枚も凌駕していた。
「………聞きたくない…」
 …え?
 俺は自分の耳を疑った。
 加奈が言っている事の意味が全く理解出来ない。
 加奈は真実を求めていた、そんな加奈に俺は今までの嘘を謝罪した。
 確かに加奈に対して悪い事をしたが、少なくとも謝る事で加奈が傷付くとは思えない。
 もしかして、今更白々しいと思われてしまったのか…?
 あまりの衝撃に思わず頭を上げると………
「そんな事聞きたくないよ…」
 加奈の顔は涙で濡れていた。
 その涙を見て、俺は何も言えなくなった。
 俺の胸が縛り上げられるようにキツく、キツく締めあげられた。
 あまりの痛みに本当に胸に手を当ててしまう。
 加奈が泣いているという事実、加奈の表情、そして加奈の言葉…全てが悲しみに満ちていた。
 逃げではなく信じられなかった、”加奈を悲しませたのが俺”という事が。
 白々しく思ってくれたならまだ良かった、加奈が俺の事を吹っ切るだけで済むんだから。
 だが加奈が悲しんでいるというのなら話は別だ。
 加奈を悲しませる奴は誰であろうと許せない、無論自分でというなら尚更だ。
 本当なら自分を責めるだろう、でも今は出来ない。
 だって、”分からない”んだ…俺が謝る事で加奈が傷付く理由が…。
「加奈、何でお前…」
「聞きたくないっ!!!」
「あっ…か…」
 口が、体が、思考が、金縛りにあう。
 微動だにしてくれない。
 加奈の叫び声が俺の頭の中で何度も繰り返し再生される。
 何度も響き渡る…それでもまだ分からない。
「どうして!?どうしてなの!?あたしはそんな言葉聞きたくないないよっ!」
 ただ沈黙に徹するしか出来ない俺。
 答えられない自分が歯がゆい。
 俺は今まで問題文の意味が分からないなんて事は一度もなかった、だから突然降ってきた難問にただ立ち尽くすしかない。
「どうしてそんな事言うの!?答えてよっ!」
「俺はただ…」


484 :上書き6話後編 Aルート「出口のない迷路」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/22(木) 22:55:50 ID:0JNoMNMo
 俺の胸倉を掴み見上げてくる加奈、その目は睨まずとも俺に畏怖をはしらせるには十分足るものだった。
 しかし、いつも感じる、”上書き”してくる時の恐怖とは全く違う。
 正気のままで悲しんでいるが故の恐怖…加奈が自らの意思でこうしている事が分かるから怖いのだ。
 顔をより一層掴んだ胸倉を引き寄せる事で近付ける、こんなにも至近距離で加奈の顔をじっくりと見るのは初めてかもしれない。
 いつまでも変わらない可愛い童顔が今は涙で汚れている…いや彩られている。
 そんな加奈に見とれている内、俺は言うはずの事も忘れ口を開けていた。
 これが俺が加奈に伝えられる最後の言葉だなんて気付く訳もなく…。
「ッ!」
 突然加奈の視線が俺の目からそらされる。
 俺も後を追うようにその先を見て…全てが壊れてしまう未来を悟った。
 俺からは見えない、でも加奈には見えているはずだ。
 はだけた制服の隙間から覗く、俺の首元に蒼白く刻まれた”裏切りの証”が。
 それを数秒間完全に色を失った目で凝視する加奈、そんな加奈を美しく思いその姿を目に焼き付ける俺。
 この間、時間という概念は完全に蚊帳の外だったのかもしれない。
 時間を吹き飛ばす奇跡から間もなく、フラフラとうつ向きながら俺から離れる加奈。
「ハハ…は…はっあはははははははははは!!!!!」
 そして笑った。
 天を仰ぎ、そこまで響く程笑った。
 何者を引き付けない気迫、目に見えない俺を引き寄せる妖しい魅力の二つが混ざり合う。
 本当なら今すぐ逃げなければならない…しかしその妖艶な姿に、俺は目を離せないでいた。
「あはは!誠人くん、今すぐ”終らせる”から我慢してねっ!」
『バン!』
 加奈に体を押され、その衝撃で後ろの壁に思い切り背中を打ち付ける。
 一瞬止まりかけた呼吸の心配をする暇もなく、不気味に笑い続ける加奈の指が俺の首元…島村につけられたキスマークに添えられる。
「”まずは”この汚らしい”傷”を”上書き”してあげるからね!」
 皮膚をひっかく鈍い音が非情な宴の合図として鳴り響く。
 背中を強打し既に体の力を奪われていた俺は、抵抗の意思も示せないまま頸動脈から吹き出る鮮血によって赤く染まっていく。
 痛みは不思議と全く感じない。
 痛過ぎて感覚が麻痺しているのかもしれない、加奈がこれで満足するならという安心感が感覚を麻痺させただけかもしれない。
 どっちかは分からない、もしかしたらもっと別の理由があるのかもしれない。
 しかし、そんな事はどうでも良かった。
 俺の血が笑う加奈を残酷な堕天使に変える中、そんな加奈を見て俺は涙を流した。
 悔いが残る、何で加奈が俺の謝罪を受けあんな事を言ったのか、それを知る事が出来なかったから…。
 加奈の事を一番に理解しているはずだったのに…。
 行き所を失った自信は、俺の命と共に静かに風化していった…。
 最後に見た加奈の顔は、俺が最も恐れ、最も愛したものだった………。




485 :上書き6話後編 Aルート「出口のない迷路」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/22(木) 22:57:06 ID:0JNoMNMo

――――――――――――――――――――

「誠人くん、”もう一仕事”したら戻ってくるから待っててね?」
 力づくで近くの土手の影まで誠人くんを引っ張って、あたしはそこに誠人くんを寝かせる。
 ”上書き”し終え、達成感にしばらく浸っていたが悠長には構えていられない。
 誠人くん正気に戻す為に、しなければならない事がある。
 今はその使命遂行だけに頭を傾ける。
 ”死んだように”無言で目を閉じている誠人くんを可愛そうと思いながら、あたしは静かに誠人くんの下へと歩み寄る。
「すぐに、誠人くんを解放してあげるからね…」
 そう言い残し、あたしは血で濡れている首元に口付けをした。

 あたしは”こんな簡単な事”にどうして気付かなかったのだろうか?
 本当に不思議でならない。
 家から持ち出した金属バットを振り回しながらそう思う。
 最初誠人くんに謝られた時は目の前が真っ暗になった。
 だって謝るって事は、”あたしには言えない”って事と同義だからだ。
 あたしに誠人くんが作った初めての壁に絶望した。
 誠人くんの一言一言を聞くのが怖くなった。
 全ての事から耳を塞ぎたくなった。
 でも、神様はちゃんとあたしたちの関係を取り持ってくれた。
 あたしが誠人くんに真意を追及する努力を怠らなかったから、救いの手を差し述べてくれた。
 ”あの傷”だ。
 あたしが今まで見た誠人くんのどの傷よりも醜悪で腐敗臭漂う、蒼白い悪魔の口付けの跡だ。
 あの傷が気付かせてくれた、”誠人くんが外敵に狂わされていた”という事を。
 誠人くんに忍び寄った雌豚以下の魔性女が”傷”を付けたから、そこから誠人くんが腐りかけていたんだ。
 じっくりと、形では目立たず、内部から人格を侵食していく”カビ”。
 その侵食はあたしが”上書き”してあげたからもう大丈夫だ。
 だが、またいつ誠人くんがその悪魔の”種”を植え付けられるても限らない。
 だから、”根っこ”から刈り取ってやるんだ。
 二度と誠人くんに寄生しないように…あたしの世界でたった一人の愛しの人を守る為に…。

 アノオンナヲケス

 あたしの中で渦巻く復讐の津波を必死に抑えながら、あたしは”あの女”が棲む魔城へと歩を進める。
「これで”終わる”からね…大丈夫だよ…」

 見つけた…案外早く見つかった。
 ジャージ姿でいるところを見ると、早朝ジョギングでもしているらしい。
 あの後”あの女”の家の物陰で夜通しで待っていた甲斐があった。
 今はまだ陽が登りかけで暗い所もある。
 計画の実行にはもってこいの時間だ…。
 あたしはジョギングでこちらへと向かってくる”あの女”を獲物のように睨みつける…実際”獲物”だが。
 近付いてくる”獲物”、機を伺い、あたしが隠れているところを通過した瞬間、力の限り体当たりした。
「きゃっ!」
 耳障りな悲鳴をあげ、無様に倒れる”獲物”を嘲る。
 全く、良い気味だ。
 体勢を立て直した”獲物”が眼鏡の位置を直しながら、そのドブ水のように濁った目線を向けてくる。
 一瞬あたしの事を凝視して、半分放心状態に近い虚ろな目で言う。
「あなたは…昨日誠人くんと一緒に帰った…加奈さんだっけ?」
「このっ!」
 思わず憤慨し思い切り汚らわしい顔面を平手打ちする。
 顔面を地面に擦りながら眼鏡を吹っ飛す。
 その眼鏡を粉々に踏みつける。
 それでも腹の虫は収まらない。
「あんたみたいな下賎なうじ虫が、今誠人くんの事を”名前で”呼んだのかぁあああーッ!!!」
 叫ぶと同時に持っていたバットを”獲物”の右手に力の限り降り下ろす。
 まずバットを持った腕に柔らかい感触が伝わり、その後潰してやったところから鈍い音が響く。
「ああああああああああ!!!!!!!!!!」
 そして最後に”獲物”の遠吠えが汚く響く。


486 :上書き6話後編 Aルート「出口のない迷路」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/22(木) 22:57:54 ID:0JNoMNMo
「ははははは!!!」
 苦痛に悶え、地面をのたうち回る、正にうじ虫にはぴったりの格好で”獲物”は悲鳴をあげる。
 この”獲物”は内部から外部まで何から何まで腐り切っている、誠人くんまでも巻き込もうとするまでに腐っている。
 しかし、誠人くんの繊細な口によって浄化された指だけは別だ。
 ”ここだけは”最初に潰してやろうと決めていた。
 誠人くんを汚した、百万回死んでも償い切れない誠人くんの想いへのせめともの救いだ。
 後は手辺り次第壊す。
 あの指以外はどこも同じ、汚れに汚れているだけだ。
 醜く逃げようとする”獲物”の息の根を止めるまであたしはバットを振り続けた。
「やめっ!あああああ!!!!!」
 ”獲物”の悲鳴はもうあたしの耳には届かない、全てを終らせる事だけがあたしを支配した。
「終われぇえー!!!」






「誠人くん!終わったよ!」
 意気揚々と誠人くんを寝かせた土手へと戻る。
 ”終らした”後はとにかく最高の気分だった。
 もう誠人くんがあたしに偽りをしてくる事はない。
 誠人くんは元に戻った。
 あたしに極上の笑みを投げ掛けてくれる”あたしだけの”誠人くんに戻ってくれた。
 帰ったらまず何を話そう…お腹も空いたしご飯が先かな。
 ちょっと汚れちゃったから一緒に風呂でも誘うかな。
 いっぱい期待した、戻ってくる幸せの日々を祝福する為に。
 なのに………
「誠人くん!もう起きて!早く帰らないとお母さんに怒られちゃうよ?」
 眠り続けたままの誠人くん。
 どんなに呼び掛けても固く閉じられた瞼が開く事はない。
 まるで”時が止まった”ように、一切動かない誠人くん。
「早くしないと冷えちゃうよ…早く!」
 誠人くんの氷のように冷たい手を握りながら、何度も耳元で囁く。
「誠人くん!どうしたら起きてくれるの!?誠人くん…」
 あたしには、誠人くんがどうして起きないのか、”分からない”…。

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 朝陽は既に登っていた。
 しかし、二人の主人公の下にその光は届かない。
 僅かなズレから生じた二人の谷間…それは深く深く入り込んでいき、二度と手の届かないところまで達してしまった…。
 二人の男女は、お互いの”分からない”答えを今尚探し求め続けている…。




Aルート「出口のない迷路」 BAD END