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563 :『首吊りラプソディア』Take4 [sage] :2007/02/24(土) 12:52:09 ID:r4HEJtLa
 心に多少の罪悪感を感じながらカオリを誤魔化し、手錠は趣味ではなかったと説明する
こと十数分、俺は漸く誤解を解くことが出来た。サキの妨害が無かったら数分で出来たの
だけれど、それでも不自然な部分はカバーして貰えたのでおあいこかもしれない。
「いや、違う」
 よく考えたら、事の発端はこいつだった。
「何ですか?」
「後で覚えてろ」
 同僚、しかも部下へのお仕置きなら余罪にはならない筈だ。その内に絶対後悔をさせて
やると決心しつつ、俺は上着に袖を通す。カオリの仕事は三時からだというので、どこか
遊びに行こうという約束だ。しかし、未成年は保護手当てを貰えるし、それで生活をする
ことも可能な筈なのに働いているなんて随分と真面目なものだ。裟場に出たときの心配が
一つ減って、何だか嬉しくなってくる。
「虎吉ちゃんは働かないの?」
 どうしようか。公務員は基本的には副業は禁止されているが、今の俺の立場は罪人だし
表向きはクビになっている。確かに給料は入ってくるものの、働いている様子が無ければ
金があるのが不自然だし、無職扱いをされるのも非常に困る。カオリにだけは情けない姿
を見られたくない、いつだって頼れるお兄さんでいたいと思う。
「カオリは何をやってるんだ?」
「プロムラミング学の講師だよ」
「じゃあ俺もそれで良いや」



564 :『首吊りラプソディア』Take4 [sage] :2007/02/24(土) 12:53:00 ID:r4HEJtLa
 そこでの手当てや労働時間について話ながら歩いていると絶叫が聞こえてきた、しかも
聞き覚えのある声でだ。何事かと目を向けると、髪をポニーテールにした女性がのけぞり
悶えている。お陰で豊かな胸が強調される状態になり、視覚的に楽しめた。
 だが彼女の場合、そこから先がヤバいのを俺は知っている。
「これ以上言うならば、斬る!!」
 そう言って腰から刀を引き抜くと、何やら不味いことを言ったらしい占い師に切っ先を
突き付けた。どうやら悪い癖は全く治っていないらしい、寧ろあのヤバい目付きは悪化を
しているような気がする。このままだと不味いと思い、俺は勢い良く彼女の髪を引いた。
「な、何するでござるか!?」
「その辺にしとけよ、フジノ。また給料減らされるぞ」
「おぉ、虎吉殿。久し振りでござるな!!」
 一瞬涙を浮かべたが、フジノはすぐに笑みを見せた。そして刀を鞘に納めると、気さく
に肩を叩いてくる。妙な言葉遣いが珍しいのか、それともフジノの格好がおかしいのか。
恐らく両方か、サキとカオリは不思議そうな目をしてフジノを眺めていた。無理もない、
俺だって最初に見たときは現代にこんな人間が存在したのかと思ったのだ。
 奉梨・フジノの格好は、簡単に言えば浪人だ。簡素な木綿の着流しの上に厚手の上着を
着て、腰には左右三本ずつ刀を差している。以前見たときには五本だったから、つまりは
刀集めをきちんと終わらせることが出来たのだろう。それに加え、何故か今回は右目周辺
にバンダナを巻いている。それすらも、フジノの雰囲気の前では自然に見えた。



565 :『首吊りラプソディア』Take4 [sage] :2007/02/24(土) 12:54:36 ID:r4HEJtLa
「おめでとう」
「うむ、かたじけない」
 これだけで通じるのが俺とフジノの仲だ。
「知り合いですか、先輩」
「あ、お前らは知らなかったか。紹介する、こいつはフジノ。第37監獄都市管理局探査部
所属の剣士で、俺の同期だ。腰の刀を集めていたんだが、今回で終了だな」
「うむ」
 柄を撫でながら、軽く頷く。
「こっちは後輩のサキと、幼馴染みのカオリ」
 フジノが刀の探査を開始したのとカオリがここに入った時期は丁度入れ違いだったが、
たまに話していたので覚えているらしい。フジノは目を細めるとカオリを見て何度か頷き、
続いて俺を見た。俺と年は変わらない癖に、こいつはこんな仕草がやけに様になる。
「虎吉殿が言ってた通り、可愛い娘でござるな」
「や、やだもう虎吉ちゃんたら」
 カオリはいきなり指輪を起動させようとするが、
「あれ?」
 それは上手くいかなかった。
 理由は単純なもので、フジノがカオリよりも先に刀を起動させていたからだ。フジノが
持つ六悪刀の内の一本目である『邪』、俺と仲良くなるきっかけになったものだ。六悪刀
はそれぞれ個性を持っているが、個人的にはこれが一番やっかいだと思っている。他の刀
は攻撃に特化しているが、これはその真逆を行っているのだ。効果は至ってシンプルで、
これの周囲にある確率システムを全て強制的に止めるというもの。だからカオリの制御が
どれ程に強力で早いものだったとしても、それ以前に刀を起動させれば無意味になる。



566 :『首吊りラプソディア』Take4 [sage] :2007/02/24(土) 12:55:59 ID:r4HEJtLa
 フジノは刀を鞘に納めると、苦笑を浮かべた。
「これも、虎吉殿に聞いていた通りでござるな」
「まぁな。それよりも、そのバンダナはどうした? 接近戦なら距離感大事だろ」
「いや、こいつを回収するときにやられたのでござるよ」
 フジノは笑ってバンダナを外すが、そこには酷い火傷の跡があった。バンダナで隠れて
いた部分、顔の右半分の殆んどが焼け燗れている。気楽に笑う表情とは対照的なその姿に、
訊かなければ良かったと少し後悔した。こいつは女だし、しかも美人だ。バンダナで傷を
隠していたということは、やはり見られたくなかったからだと思う。
「気にすることはない、これは拙者の不手際。『炎』が手に入ったのだから、この傷跡は
寧ろ名誉の負傷でござるよ。だから、笑ってほしいでござる」
 肩を叩かれて、思わず苦笑を浮かべる。
 こいつは強い、どんなに体が傷付いても笑っていられるというのは凄いと思う。それを
誇りに思って前に進むなんて芸当は、普通の人間には出来やしない。格好がどうとかでは
なく、心が、魂が侍をしていると思う。
「格好良いですね、名誉の負傷ですか」
 カオリに輝いた目で見られ、照れ臭そうにフジノは笑う。サキもやはり無表情ながら、
その中には尊敬の念が見えた。俺も何本か刀を集めるのに協力したし、三本目である『聖』
を取ってきたのは俺なのに、フジノとの差はどこにあるのだろうか。



567 :『首吊りラプソディア』Take4 [sage] :2007/02/24(土) 12:57:04 ID:r4HEJtLa
「虎吉殿、気を落と……何でござるかコレは!?」
「何が?」
 フジノが凝視しているのは俺の首元、SSランク罪人の証である二つの黒い首輪だ。極秘
の調査なので他の部署には伝えておらず、それが例え仲の良いフジノであろうとも例外に
当てはまらない。カオリが居なければ少し誤解を解きたいところだが、何とももどかしい。
 フジノは一旦肩を落とすと、しかしすぐに刀を抜いて俺を見つめてきた。未練を減らす
為なのか俺に向けられた刃は二本目である『舞』、第四惑星華西地区の軍技術を取り入れ
作られた刀で、本人の中に無理矢理狂った人格を作って暴走させるという極悪なものだ。
「待て、これには深い訳があってだな」
「虎吉殿が罪人になるなんて。いっそ、こうなったらいっそのこと拙者の手で!!」
 何がだよ!!
 降り降ろされた刀を白刃取りして、必死に堪える。こいつの技術は恐ろしい、その気に
なればビルもサイコロステーキのようにしてしまうのだ。例え首輪が邪魔をしたしとても、
それごと簡単に真っ二つにしてしまうだろう。
「落ち着け、落ち着いて刀を離せ!! 二人も見てないで助けてくれ!!」
 不味い、顔まで後10cmもない。
 直後。
 脇腹に衝撃が来て、吹き飛ばされる。激痛に滲んだ視界の端に映ったのは、指輪を構え
ているカオリとサキの姿だ。どうやら二人とも衝撃波を出したらしいが、どうせだったら
刀かフジノを吹き飛ばしてほしかった。
「虎吉殿おぉォ―――ッ!?」
 フジノの声が、辺りに響く。