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25 :上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/26(月) 00:50:30 ID:7vA5fpNJ
「まだかなぁ…」
 腕時計の時間を見て思わず呟いてしまった声は周りのざわめきにかき消される。
 いつものように数分の連絡事項だけで幕を閉じたHRの後は自習時間…という名目の自由時間になる。
 担任も終業時間になるまでは職員室に戻ってしまうから、喋り場と大して変わらない。
 当然勉強している奴なんかほぼ皆無で、皆周りの人間との会話に忙しそうだ。
 さっきの質問攻めで今日一日分喋ってしまったような気がして、そして何より考え事をしたくなかったので俺は腕枕を作り机に突っ伏した。
 疲れているが寝つけない、幾ら目を閉じても全然眠気は襲ってこない。
 こういう時だけ都合の良いものだと観念した俺は寝る事を諦め肘をついた。
 そして加奈の事を考える…加奈についての事はあり過ぎて頭が爆発しそうだ。
 その無駄に多過ぎる事柄に共通する一つのキーワード…”何故加奈がそこまでするのか?”ていう疑問にぶち当たりすぐにそれは壊れさる。
 奢りでも何でもなくその理由はただ一つ、”加奈が俺を好きだから”だ。
 そんな事は分かっている、加奈と俺が相思相愛な事も、加奈が俺を好き過ぎる故に”今日のような事”をしたのだって分かっている。
 分かっているから心配なのだ、加奈が確実に昔の純粋な面影をなくしていき、やがて更に純粋に”なり過ぎる”のが心配なんだ。
 今の加奈を見る限り、明らかに加奈は冷静でない、いや冷静過ぎる気がする。
 物事を深く考え過ぎて目の前の簡単な事を取り溢すのではないかと思う。
 もしそうなれば…具体的な想像は出来ないが、”ヤバイ事になる”のは間違いないと思う。
 そうなる前に加奈を正気にしないと………
 『キーン・コーン・カーン・コーン』
 そんな俺の決意を後押しするように終業のチャイムが鳴った。
 担任が適当に教室に戻ってきて適当に挨拶を済ませ適当に教室を出て行く。
 いつもの日常のリズムに微妙な満足感を覚えながら俺はトイレに行こうとして廊下を見た…そして驚いた。
「誠人くんっ、ヤッホー!」
 本来なら別に驚くべき場面じゃない。
 しかし普段学校内では極力会わないようにと言っているはずだから驚いてしまった、そこにいたのは加奈だ。
 廊下から手を振りながら教室にあたかもそこの住人のように当たり前に入って来た。
 突然の来訪者に俺だけでなく他のクラスメイトも加奈に注目する、その中にはニヤニヤしながら俺を見てくる奴もいた。
 その存在を気にしないで椅子から立ち上がり、歩いてくる加奈に歩み寄る。
「どうしたの、怖い顔して?」
 頭を45度傾ける加奈の眼前に立つ。
 少々険しい顔を作り、本当に心苦しいが結構キツ目に問い掛ける。
「どうしてここに来てんだよ?」
「え?”彼氏と彼女”が一緒にいるのは当然じゃない?」
 俺からの強めの口調での問いにあくまで淡々と答える加奈。
 いつもならすぐに謝ってくるのに、全く動揺した様子のない”静かな返答”が俺の背筋を冷たく貫いた。
「学校内では極力会わないって決めてたはずだろ?」
「誠人くん、そんなのおかしいと思う。過ごした時間だけ仲も深まっていくものでしょ?」
「それは…」
 何とか言い返したかったが、今の加奈には何を言っても勝てない気がする。
 加奈の言っている事は間違っていない、寧ろ俺がしている事の方が間違っているのではないか?
 誰がおかしいのか分からなくなり混乱する俺をよそに、周りは急に賑やかになっていくのを感じる。
 「沢崎、加奈ちゃんの言っている事は間違ってないぞ」、「お熱いねぇ!」、俺たちに野次が飛ぶ。
 こういう時だけは本当にお節介だなと言いかけたところを何とか堪える。
 他のクラスメイトが加奈を姫を扱うように丁寧に俺の席に座らせても、文句は言わなかった、言えなかった。
「加奈ちゃん、あたしたち応援してるからね!あんな”姑息な事”する奴なんかに負けないでね」
 女生徒の一人が試合前のボクシング選手に喝を入れるセコンドのように拳を力一杯握り締めている。
 それに笑顔で応える加奈。
 その女生徒が言った”姑息な事”とは今朝の”あの紙”の事を言っているのだろう…その事が分かった時俺は加奈の顔を反射的に見てしまった。
 周りからの冷やかしに困ったような笑顔を浮かべる加奈…この顔を見て限りなく確信に近い推測をした。
 加奈が”あの紙”の文面を他者がやったように見せたのには、周りからの同情や応援を受けるという付加目的もあったという推測を。
 果たして俺の目の前にいるのは、”本当に”加奈なのか…?
 教室内のざわめきに反し、俺は一人沈黙を守っていた。



26 :上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/26(月) 00:51:04 ID:7vA5fpNJ
「ふぅ…終わったか…」
 終業の鐘の音を聞き俺は溜め息をついた。
 結局あの後加奈は休み時間毎に俺の下へ訪れた。
 昼飯まで周りから冷やかしを受けながら一緒に食べた。
 生徒がどんどん俺と加奈をセットのように認識していく…俺にとっては悪い流れだ。
 このままではプライベートと学校生活が同化してしまう、最も避けたかった状況へと事態は進んでいっている。
 しかし、止める術は俺には見付けられない。
 加奈が笑顔だからそれでいいじゃないかと甘い考えにも逃げようとしたがそれは断じて認められない。
 今幸せなだけでは駄目なのだ、加奈には”ずっと”幸せでいて欲しい。
 だからこそここで俺が諦める訳にはいかない、決心だけは一人前の俺、その背中を誰かに叩かれる。
 振り向くとそこには島村がいた。
 相変わらずの大きな眼鏡の位置を慣れた手付きで直している。
「何だよ、島村?」
「不機嫌なのは分かりますが、私にやつ当たりというのは酷いと思いますよ」
 この女はやはり侮れない…。
 島村と昨日”あんな所”で会いさえしなければ…そんな筋違いな苛立ちをさりげなくぶつけたのを完璧に見抜かれてしまった。
 何も言えなくなる俺をよそに、島村は鞄を持ったまま腕を組み、俺の耳に向かって小声で話し掛けてくる。
「”昨日の場所”に一緒に来て下さい」
「”昨日”の場所?」
 俺が若干大きめの声で言うと、島村は顔を軽く赤くしながら口元に指を立てた、”昨日の命令”の時のように。
 しかしあの時と違って今の島村の指は震えている、実に女の子らしい反応だなと親父くさい事を考えてしまう。
 周りを心配そうに見渡す仕草から推測するに、どうやらクラスの他の奴には”本性”を見せたくないようだ。
 やけに可愛らしいところもあるじゃないかと思いながら重い腰を上げる。
 それを了承のサインと受け取ったのか、島村は踵を返し教室から出て行った、まぁ今は島村に服従している立場だから無理矢理にでも行かされていたんだろうけど。
 少々情けなく思いながら島村の後ろ姿を眺めていると、髪から僅かに覗く耳がまだ真っ赤になっていた。
 笑いそうになるのを堪えながら、俺は島村の後を追って行った。

 ”ここ”、体育館裏に女の子と来るのはこれで三度目だ。
 何も変わっていない、昨日島村の本性を垣間見た時と何も変わらない。
「ここは静かで落ち着きますね」
「そうだな」
 音はないが殺風景という訳ではないこの広々とした空間に浸っている島村。
 時折吹く風でなびく短髪を押さえる仕草はやはり”女の子らしい”。
 これで性格さえ治せばきっと彼氏の一人や二人幾らでも出来るんだろうな…って俺島村に彼氏がいるかなんて知らないな。
 興味はあるが聞く程の事じゃないし、万が一聞いて機嫌を損ねられたらまた面倒な事になるんで押し黙る。
「短刀直入に言います、”あの紙”の犯人は城井さんなんじゃないでしょうか?」
「なっ!?」
 しまった、そう思った。
 島村の不意打ちに反応してしまった自分が憎らしい。
 今笑ってとぼければ全てが丸く収まっただろうに、こんな露骨な反応をしてしまっては肯定しているようなものだ。
「そうなんですね?」
「あっ…その…」
「やっぱりそうでしたか、沢崎くんと違って城井さんが大して驚いていなかったんでもしやと思ったんですが…」
 どこで俺たちを見てたんだというどうでもいい疑問を頭の奥底に封じ込める。
 俺の様子を一瞬見た島村が納得したような表情を浮かべる。
 島村に…他人に、加奈が”やってしまった事”がバレてしまった。
 もしバラされたら…いつもならもっと考えて行動するのに、俺はひどく慌てていてすぐに島村の両肩を掴んだ。
「頼むっ!島村、この事は誰にも言わないでくれ!」
「え?」


27 :上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/26(月) 00:52:16 ID:7vA5fpNJ
 島村を何とか言いくるめなければ、そうしないと加奈が…。
 俺は必死に島村を説得した。
「加奈に悪気はなかったんだ、ちょっと俺との仲を自慢したかっただけなんだよ!ずっと奴隷でいいからこの事は誰にも…」
「”あの事”と引き替えに…と言ったら?」
「”あの事”って…!」
 島村が俺より低い位置から俺を見下ろす視線で問い掛けてきた。
 ”あの事”とは、俺が女子トイレから出てきた事を言っているんだと瞬時に理解する。
 いきなりの問いに戸惑う、だってもし”あの事”がバラされれば俺の高校生活が終わる。
 俺の青春に有終の美を飾れなくなる…。
「構わない、”あの事”をバラしていいから”この事”だけは言わないでくれ!」
 でも加奈の人生に比べれば自分の人生を捨てるなんて簡単だ。
 加奈が幸せじゃないなら俺はどんなに充実した日々を送れたとしても幸せにはなれない。
 加奈が幸せならそれでいいんだ、その一心を視線に乗せて島村に送る。
 視線が交錯する、お互いに相手の考えを読み取ろうとするように。
 しばらくして俺の顔を凝視していた島村が突然ニヤけた、無垢な少々のように。
「何真剣になっているんですか、私がそんな事するような人間に見えます?」
 思わず「見える」と言いそうになるのを何とか堪えた。
 そして考える、島村はどういうつもりなのかと。
「安心して下さい、どちらの事も始めから言う気なんてありませんよ」
 意外な言葉だった。
 まさか”あの”島村が…俺を縛っている”縄”の存在を切り捨てるような発言をするから。
 始めから言う気がないなんて言ってしまったら俺を”あの事”で縛る事はもう出来なくなるじゃないか…頭が混乱している俺に更に島村が追い討ちをかけてくる。
「いい機会ですし、もう”奴隷”から解放しますよ!」
「え、何でだよ!?」
「そちらこそ何ですか、まだ奴隷になっていたかったんですか?」
「そんな訳ないだろ!」
 思わずムキになってしまう俺を楽しそうに笑う島村。
 本当にこの女の考えは読めない、そのくせこちらの考えは全て見透かされている気がしてならない。
 島村の心中は分からないが、とりあえず半永久奴隷からの解放は素直に嬉しい。
 昨日は正直絶望したが、まさか一日で終わるとは。
 嬉しさついでに俺は何も考えずに素朴な質問をぶつける。
「なぁ、なんで加奈がやったって事を確認しようとしたんだ?言う気がないなら知ったところで意味がないだろ?」
「何言っているんですか、ライバルの性格を把握するのは略奪愛の基本ですよ」
 ………ん?
 今なんか明らかに変な事を言ったような気がした。
 気のせいかと思い聞き流そうとした俺、しかしそれを残酷に島村は拒んだ。
「まぁ”あんな事”して誠人くんを困らせているような女に負ける気なんてありませんがね」
「は?何を言ってんだお前は?」
 思った事がそのまま口から漏れた。
 だって本当に意味が分からない、突然俺の事名前で呼ぶし、”負ける気がしない”って誰に対して言っているんだ?
 次の瞬間、様々な俺の疑問を”一言で”島村は片付けてくれた。
「私あなたの事好きなんですよ?まさか気付いてなかったなんて事はないですよね?」


28 :上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/26(月) 00:52:47 ID:7vA5fpNJ
今島村は何と言った…”好き”?俺を?
 ”島村が俺の事を好き”?
 呆然とする俺に呆れ顔で島村は眼鏡の奥に隠した鋭い視線を向けてきた。
 俺を切り裂くように見つめてくる。
「本当に気付いていなかったんですか?好きな人でもないと相手を奴隷にしようだなんと思いませんよ」
 言われて何となく納得した。
 確かにその通りだ。
 指を舐めさせるなんて普通の人間にやらせる訳がない…。
 首元へのキスマークを含めて、今までの行動は全て俺への好意からだったのか?
 そう仮定した途端全てが噛み合った。
 まさかこんな意外なところに解答があったなんて…俺は愕然としながら改めて島村の顔を眺めた。
 その顔は言いたい事を吐き出せたからか、爽快感に満ち溢れていた。
「ま、という事で」
 そう言うと島村が俺に近付いてきた。
 俺は島村と真っ正面に向き合いながら硬直しているので距離差はどんどん縮まっていく。
 やがて靴一個分までに接近してきた島村、何の躊躇いもなく右手をするりと首元に回し、艶っぽい声で囁く。
「これから”よろしくね”、誠人くん?」
 あまりにも近過ぎる俺たちの顔、思わず紅潮させてしまうと島村が子供のようにクスクス笑った。
「本当に可愛いんだから…」
 そう言うと、島村の言葉の魔力に縛られた俺の口と島村の口が触れそうになる…”触れそうになった”。
「ハハ、誠人くん見ぃっつけた!あは」
 そして一気に魔法はとけ現実に引き戻された、目の色を失っている少女の小刻みに震えた声によって。
「か、加奈ッ!?」
 俺は一体どれだけ神に翻弄されればいいんだ…?
 目の前の最悪な状況を前にして、俺は運命を呪った。