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675 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00:49:44 ID:Kgb2rgNQ
***

 風邪をこじらせてから、朝と夜はお兄ちゃんの世話になっている。
 と言っても、寝汗を拭いてもらうだけ。
 まだ体温が高いからお風呂には入れないので、汗だけでも拭いてもらっているのだ。
 でも、そんなのは建前。
 目的はお兄ちゃんの理性を崩すこと。
 無防備な姿を見せて、お兄ちゃんの方から襲いかかってもらう。
 実行前は、こんな作戦は上手くいくはずがないと思っていた。
 だけど、塵も積もれば山となる。
 だんだん、私を見るお兄ちゃんの眼が変わってきている。
 タチの悪い風邪だったらしく、今晩でもう三日目。
 その間ずっと、妹とはいえ女の体を見続けてきたのだから、お兄ちゃんの反応は男として正解だ。
 仲の悪い兄妹ならありえないけど、私は努力して『理想の妹』を作り込んできたから別。
 明るい性格で、恥じらいを持ち、容姿を磨いて、男に頼る弱さを見せる、普通の女の子。
 加えて、お兄ちゃんに近づく女は居ない。姉以外の全ての女は、皆遠ざけてきた。
 女が一人だったら、その子を選ぶしかない。
 その子が良い子だったらなら、何の問題もないはず。
 だ、か、ら。ね、お兄ちゃん?
 安心して、私を選んじゃっていいんだよ。

「ちょっとだけ待ってて。今から、下着、替える」
 夜に汗を拭いてもらう前は、必ずパジャマと下着を替える。
 もし汗の匂いがしたら、お兄ちゃんが幻滅してしまう。
 女としても、男の人に触れてもらう時は綺麗な姿の方がいい。
 ちなみに、お兄ちゃんを部屋に待たせたまま着替えるのも作戦。
 もしかしたら、男の人は女の着替えを覗くのが好きなんじゃないかと思って。
 効果はばっちり。後ろでお兄ちゃんがそわそわしてるのが、物音で聞こえてくる。
 お願いしてるから、お兄ちゃんは部屋から出て行くこともできない。
 ――もうそろそろいいかな。決着つけちゃっても。



677 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00:51:35 ID:Kgb2rgNQ
「いいよ、こっち向いても。下からお願い、ね?」
 どうせパジャマを脱ぐのにあえて着直すのは、じらすため。
 この作戦では、私のひとつひとつの行動が明暗をわけてしまう。
 一挙一動、全てにおいてお兄ちゃんを興奮させなければならない。
 太腿をさらけ出す時は膝までしかパジャマを下ろさない。
 ふくらはぎとすねを拭き終わったら、パジャマの下は脱ぎ捨てる。
 もうこの時点で――あははっ、可愛いお兄ちゃんったら、顔を真っ赤にして、私の足をじっと見てる。
 放っておいても、今夜電気を消した時に襲いかかってくれそうだけど、念には念を押す。

 ベッドに寝転んで、パジャマのボタンを、下からひとつずつ外していく。
 いつもなら寝転ばず、自分で脱いでいる。
 けど、今日はそうしなかった。
 そうできない理由があった。
 きっと今頃お兄ちゃんの頭を駆け巡っている、ひとつの事実。
 私が今、ブラをつけていない――いわゆる、ノーブラだから。
 パジャマの隙間から見えるのは私の肌だけ。
 下に穿いているのはショーツだけ。
 どこだったかな――そうそう、お兄ちゃんが隠し持っていたえっちい本の売女がしてる格好。
 どう料理してくれても構いませんよ、っていう感じ。
 実際に私がそんな気分になってる。
 上からでも下からでも、お好きなところからどうぞ、お兄ちゃん。

 身じろぎせず、お兄ちゃんをじっと見続ける。
 迷いが見て取れた。
 私を、妹として見るか、女として見るか。欲望と理性のぶつかりあい。
 ここは黙ったままでいようと思ってたけど――あえて作戦を変更した。
「お兄ちゃん、恥ずかしがらなくてもいいんだよ。
 私たち兄妹だから、何も問題ない」
 これは賭だ。
 お兄ちゃんの心がどこに流れていくかわからない。
 もしかしたら冷静になってしまうかもしれない。その逆かもしれない。
 私とお兄ちゃんの関係を決める、丁半博打。
「妹の体に触ってもだーれも、咎めたりなんかしないんだよ?」

 賭は――――私の勝ち。
 お兄ちゃんは私の体に覆い被さり、乱暴に胸を弄りだした。
 右手で乳房に触れ、左手でパジャマを脱がせていく。
 お兄ちゃんと目を合わせる。そのまま、近づける。
 一瞬の躊躇の後で、お兄ちゃんは私の唇を奪った。
 舌を入れて、思うままに私の口内を貪る。
 お兄ちゃんの手はショーツの上から私の秘所を愛撫する。
 背中に手を回し抱きしめると、荒々しい吐息が聞こえた。
 その事実に、笑わずにはいられなかった。

 あっは。
 うふふ。あはははは! ははははは、ははははは!
 見た? 馬鹿姉。
 もうお兄ちゃんの唇は私のもの。私はお兄ちゃんに唇を奪われた。
 あんたがいくらお兄ちゃんにアピールしようと、もう遅いの。
 これからお兄ちゃんは私を抱く。私の体に溺れていく。
 最高だわ。体が火照って、しょうがない。
 お兄ちゃんが愛しくてたまらない。
 可愛い可愛いお兄ちゃん。これから一生、私がお世話してあげるからね――――――




678 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00:52:19 ID:Kgb2rgNQ
***

 かつて、俺は伯母の冴子を包丁で刺したことがある。
 自らの意志で包丁を手に取り、確固たる目的を持ってそれを振るった。
 それが十年ほど前の話。
 伯母に包丁を向けようと思ったのは、実はその時が初めてではない。
 それよりも何日も、何ヶ月も前からだ。
 実行に踏み切ったきっかけ、それは――弟と妹を虐待の日々から救えるのは俺しかいないと気づいたから。
 いつか誰かがなんとかしてくれると思っていた。
 虐待の現場を見つけた父が救ってくれる。
 母が俺たち兄妹を助けてくれる。
 伯母がいつか飽きて家に来なくなる。
 大人頼みだったけど、それでもいつかは誰かがなんとかしてくれると、信じていた。

 でもそんなことは無かった。
 だから俺は、自分で解決しようとした。
 まだ小さい頃の俺が弟と妹を助けるには、ああする以外に方法がなかった。
 伯母にあんなことをしなければよかったなどと後悔しない。
 しかし、もしもあの時をやり直せるなら。
 俺はそれまで親しかった憎んでもいない相手を――仲の良い幼なじみを傷つけるようなことはしない。
 少し考えればわかることだったのだ。
 花火が俺を裏切るはずないと、信じてやれば良かった。
 そうしていれば、花火の心と顔に、傷が付くことなどなかったのに。



679 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00:53:28 ID:Kgb2rgNQ
 妹がコーラの入ったグラスをストローでかき混ぜる。
 カラン、と氷とグラスのぶつかる音がした。
「昨日、伯母さんのところに行ったよ」
 ああ、昨日祖母と両親と一緒に来ていたのは、それが目的だったのか。
「……まるで別人だった」
「そりゃ、お前が覚えている伯母とは違うだろうよ。
 俺も会ったけど、一目見ても誰だかわからなかったからな」
「私が言ってるのは外見じゃなくて中身。
 どんな顔だったかなんて、私は覚えてない。
 まだずっと私やお兄ちゃんのことを嫌っているのかと思ったら、全然ハズレで、覚えてさえいなかった。
 正直、一発ぐらい仕返しするつもりでいたのに」
「そ、そっか。
 ……でもなんでまた、伯母に会おうなんてしたんだ?」
「昔のこと思い出したけど、いまいちはっきりしなかったから。
 お兄ちゃんとお兄さん、頭の中でごちゃごちゃしてた。
 ……っていうか、認めたくなかったのかも。
 今まで、お兄ちゃんがかばってくれてたと思ってたのに、実はそれ、お兄さんだったんだもの」
 ……ふーん。
 そんなに俺にかばわれてたのが嫌か。
 ま、無理もない。
 妹にとっては、俺より弟が活躍している、有り体に言えば、格好いい方が嬉しいだろうし。
「お前は、かばってくれていた人間が弟だったから、好きになったのか?」
「きっかけは、そう。
 単純って思った? でもね、私にとっては十分なきっかけだった。それなりに大事な、ね。
 ……それが勘違いだって知ったときは、ショックだった」
「そうか。まあなんというか…………残念だったな」
「先に行っておくけど、勘違いしてたからって今更お兄さんのこと好きになったりなんて、しないから」
「そいつぁ残念だ。あっはっはっはっは」
 わざとらしく笑ってみせる。
 別に妹の台詞が期待はずれだったからじゃない。
 そもそも、弟みたいに愛されるのなんて御免だ。
 妹のことは大事だし、好かれている方が嬉しいが……愛されるのはちょっと、勘弁だ。
 むしろ期待通りで嬉しいぐらいだ。
 妹がそんなに軽々しく人を好きになるわけではないとわかった。
 ――ん、待てよ?
 軽い気持ちで弟を好きになっていないということは、本気で弟が好きってことか?
 やべえ、ちっとも嬉しくない。
 これから先、どうしたもんかね。
 俺は弟と妹がそういう関係を結ぶの、反対してるからな。
 嗚呼、いつか妹と口、もしくは肉体言語でぶつかりあわなくちゃならんのか。
 妹、諦めてくれないかな。……諦めてくれないだろうなあ。



680 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00:56:03 ID:Kgb2rgNQ
「それで、どうしてお兄さんは私の誤解を解こうとしなかったの?
 勘違いしてる私を見て、心の中で笑って楽しみたかったの?」
「あいにくだが、そういう趣味はない」
「じゃあ、どうして?」
 ふうむ。正直に言って、果たして信じてもらえるものだろうか。
 でもさっき正直に答えると約束したし。言わざるを得ない、か。
「実は、お前と同じで今の今まで――入院して伯母に会うまで思い出せなかったんだよ。
 情けないことだけど、あれだけのことがあったのに、綺麗さっぱり忘れてた。
 だから、つまり……お前や弟が何を言ってるのかすらわからなかった」
 妹はじっと俺を見つめている。
 …………。
 ………………そして、少しも目を逸らさない。
 視線で責められている気分だ。
 妹なりに俺の目を見て言葉の真偽を見抜こうとしているのかもしれない。
「あの日のこと、全部、綺麗さっぱり?」
「おう」
「……お兄さん、いったいどこまで鈍いの?
 お兄ちゃんみたいな鈍さなら許せるけど、お兄さんみたいなのは、ただ腹が立つだけだよ。
 あの女、葉月を振ったってさっき言ったけど……去年から昨日まで返事できなかっただけなんて、酷すぎる。
 ……女が皆、あの女みたいに気長で優しいと思ったら、大間違いよ」
 妹の毒舌攻撃。効果は抜群だ。
 ええ。俺が馬鹿だったのです。
 友達同士というぬるい関係をいつまでも続けたいなんて思っていたから悪いのだ。
 自覚しているから、もう責めないでくれ、妹。
 認めてやる、俺はお前に弱いのだよ。
 通常の二割増しでダメージを受けてしまう。
 なんせ、呼べば応えるシスコンだからな!



681 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00:56:33 ID:Kgb2rgNQ
 妹がでかいため息を一発吐き出した。
 ため息でここまで俺にダメージを与える女など妹しか居ない。
 そして、妹のため息でこれだけのショックを受ける男など俺しか居ない。
「も、いい。そういうことだったらいいよ。
 私だって最近思い出したぐらいだから、人のこと言えないし。
 ……私、先に帰る」
「え? おい、まだ注文したのが届いてないんだが」
「いいよ。お兄さんはゆっくり食べてて。お勘定も私が済ませておく」
「お前も待ってりゃいいじゃないか」
「私がそんなこと、したいと思う?」
 ――思わねえだろうさ。
 ああ、ああ。わかってるよ。
 ファミレスに来て俺と同じテーブルで向かい合ったままでいるなんて御免なんだろう。
 この妹は昔のことがどうであろうと、俺への態度を改める気はないらしい。
 悪い方に変わらないだけマシだ、と思ったら負けかもしれん。
 ちくしょう。いつから俺は妹の犬に成り下がってしまったんだ。情けない。
「じゃあね、お兄さん。寄り道しないで帰ってよ。
 お兄ちゃんが何かあったかも、って心配するから」
「……あいよー」
「あ、そうだ。あと一つ言い忘れてることがあった」
「まだあるのか? 今度はなんだよ……」
 早く軽食が届いてくれないだろうか。そろそろ体力ゲージが尽きかけているのだが。
 仕方なくウーロン茶を飲んでいると、妹が言った。
「お兄さん、この間はかばってくれてありがとう」

 ……………………え、何?

「お、おま、お前何か今、言ったか?」
「さあ? 気のせいじゃないの。それじゃ、今度こそお先」
 妹はそう言って、すたすたと歩いていく。
 俺は妹が会計を済ませ出て行く姿を見送るしかできなかった。
 …………このウーロン茶、なんだか後味が塩に似てやがる。
 口直しに今度はメロンソーダをいれようと、俺は席を立った。

683 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00:58:59 ID:Kgb2rgNQ
 ファミレスの窓から外の歩道を見ると、遠足でもしているのだろうか、
リュックサックを背負った小学生の集団が歩いているのが見えた。
 先頭には元気の良さそうな男の子と女の子。
 続いて、数人のグループが追ってくる。
 一人だけ背の高い、引率らしき男の人がいる。
 彼の周りに子供達が固まり、後ろから遅れたグループがついてくる。
 小学生の頃の俺だったら先生より後ろに居て、マイペースで歩くんだろうな。

 ああ、そういえば。
 あの日も俺は、自分の家に帰りつくまで、あんな風に楽しげにしていたっけな。
 花火に誘われて、どこに行ったのか覚えられないほど遊び回って。
 帰りには弟と妹へのみやげにお菓子なんか買って。
 途中で両親の車が来て、それに乗って家まで帰った。
 楽しかった。
 我が家のリビングのドアを開ける、その時までは。



685 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01:00:41 ID:Kgb2rgNQ
 リビングでは、伯母による虐待が起こっていた。
 耳を覆いたくなるほど悲痛な声で泣いている妹と、黙って妹を抱きしめ伯母の暴力からかばう弟。
 父も母も立ちつくしたままで、ぼけっと突っ立ったままだった。
 どうして、この光景を見てもそうして居られるんだ?
 かばってくれないのか? 自分の子供が乱暴されてもなんとも思わないのかよ。
 両親が何を思っていたのかなんてどうでもいい。
 誰も弟と妹を助けてくれないという現実があった。
 このまま、俺ら兄妹は伯母に殴られ続けなければならないのか?
 心が壊し尽くされるまで、ずっとずっと?
 ――――嫌だ。
 兄妹三人が一人でも欠けるなんて、嫌だ。
 弟も妹も俺には必要だ。二人とも大事なんだ。
 弟の痛みに喘ぐ声なんて聞きたくない。間違ってる。
 こんな目に遭うほどひどいことをしていないのに。
 妹は伯母の前ではいつも泣いている。最後に妹が笑ったのはいつだった?
 俺は、妹が笑った顔をずっと見ていない。

 それからのことは全て覚えている。
 立ちつくす両親の間をすり抜けて、全力で伯母に椅子を投げつけた。
 床に散らばる割れたグラスの破片を素手でかき集め、伯母の足下へ。
 右手に刺さった破片が皮膚を貫いて、じわじわと掌を赤く染める。
 キッチンへ飛び込む。手に取ったのはありったけのコップと、まな板の上にあった包丁。
 リビングの床を蹴って進む。
 伯母が俺を見て糞餓鬼とかなんとか言っていた。
 ――うるさいよ。今からその餓鬼にあんたは消されるんだ。

 振りかぶり、コップを投げつける。
 一個が伯母の鼻にぶつかった。
 包丁を構え、大きく踏み込んだ。
 その途端、足の裏に激痛が走った。グラスの破片を踏んづけた。
 だけど止まらない。止まれない。
 倒れていく間に見えた伯母の膝へ、包丁を突き立てた。
 固いのは最初だけで、後はずぶずぶと入り込んでいった。面白いぐらいに。
 やかましい悲鳴をあげて、伯母が倒れる。足を押さえ、血を流しながら、もがき苦しんでいる。
 足りない。この程度では、とてもじゃないが、足りやしない。
 この女が俺たちに与えた苦痛と恐怖はずっと消えない。
 でも、それももうすぐ終わる。消えて無くなる。
 伯母は二度と俺たちの前に姿を現さない。
 この場で、俺が終わらせる。

 包丁を逆手に持ち、振りかぶる。
 伯母を足で仰向けに転がし、包丁の柄を両手で掴み、最上段から振り下ろして――――



686 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01:04:20 ID:Kgb2rgNQ
 次の日から、伯母は姿を現さなくなった。
 俺たち兄妹は伯母の恐怖から解放された。
 結果はそういうことになる。
 だけど、大きな代償もあった。
 代償は、自分でも持っていることに気付けていなかった、とても、とても大切なもの。
 妹からの信頼と、仲の良かった幼馴染み。
 どちらも、他に代わりなど無い。
 今も、代わりになるぐらい大事なものは見つかっていない。


 あの時、伯母を刺す直前になって、花火は俺を止めた。
 花火の説得は、血の上った頭を鎮めるのに効果的だった。
 俺は自分のやっていることがいけないことだと気づき、刃物を下ろした。
 ここで終わっているはずだった。花火があと一言言わなければ。
 伯母さんに頼まれてアニキを遊びに連れ出した私にも責任はあるんだ――と。
 それを聞いて、小さい頃の俺はこう思った。
 花火が裏切った。伯母と繋がっていた。今日こうなることも知っていたんだ。
 花火も伯母と同じで、俺たちをいじめる人間なんだ。
 じゃあ、こいつも同じ目に遭わせてやる。

 花火の頬を殴りつけた。
 目を丸くしている花火に向けて、今度は包丁を振るった。
 一回、二回、三回、四回。でたらめに振り回した。
 唐突に花火が悲鳴をあげた。
 あまりの声量に顔を顰めた。花火の体を蹴り、離れた位置まで吹き飛ばす。
 これで、この場に俺を止める人間は居なくなった。
 伯母の居る方に目を向けると、父が必死に声をかけている姿が見えた。
 伯母は目を閉じたままで動かない。気絶している。
 ――いい気味だ、ざまあみろ、と、小さい頃の俺が呟いた。

 すると、小さな声が耳に入り込んできた。
 声のする方向、花火を蹴飛ばした方向へと目を向ける。
 横たわる花火は頬を押さえていた。
 血が両手を染めている。顔中に紅い血糊が付いていた
 手から、肘から垂れていく鮮血がフローリングの床を汚していく。
 花火の唇が動いた。けど、いまいち聞き取れない。
 むしろ泣き声の方が大きかった。
 涙を流しているのに、眼の鋭さは少しも衰えていない。
 憎悪の籠もった瞳を見ていると、何も言われなくても、花火がなんと言っていたのかがわかった。
 そして、答え合わせをするように、花火の唇が動き、声を発した。
 ――この人殺し。あんたなんか、大嫌いだ。そう、言っていた。

 理解できなかった。
 俺は伯母を倒して、弟と妹を守ったのに、どうして俺が人殺しなのか。
 それを言われるのは、伯母じゃないか。
 なあ? と、同意を求め妹の方を見やる。
 妹は弟にかばわれたまま、俺をずっと見ていた。俺が伯母と花火に何をしていたかを。
 きっと、俺が現れた時から。
 妹の目には恐怖が映っていた。
 まるで、伯母を見ているような瞳。
 その時になって、ようやく自分で気付くことができた。
 俺がやったことは、伯母のやったことと何一つ変わりないのだと。
 伯母を刺して、花火を深く傷つけて、妹を怖がらせた。



687 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01:06:22 ID:Kgb2rgNQ
 そんなつもりはなかったとしても、それとこれとは別。
 平穏を得た代わりに、大事なものを失った。
 ただ、家族が仲良く、平和に過ごせればよかった。
 俺は誰に対してもそうだ。争いもなく穏やかに過ごすことが好きだった。
 その結果がこれ。
 障害を排除したら、妹と幼馴染みの信頼を失った。
 俺を好きと言ってくれる人に長らく応えず、後になって傷つける。

 俺の選択や行動はいつも、なにかしら間違っている。
 小さい頃から、何年経っても、いくつになっても。