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127 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/03/02(金) 00:54:24 ID:JAN0JkXr

目の前の展開に付いて行けない。

「ちょっと、お茶淹れてくるよ」
「あたし、やりますよ!」
「お客さんにそんな事させられないよ。座ってて」
「じゃあ、お手伝いします!」
「いや、でも…」
「陽太さん、キッチンどこですかぁ?」

兄さんと好乃が、笑顔で話している。

いいえ、兄さんは来客用の笑顔、本気で笑ってない。満面の笑顔なのは好乃だけ。
兄さんが困ってる。
あ、兄さんの腕に、好乃が自分の腕を絡めた! 大きな胸を押し付けてる!
…よかった、兄さん迷惑そうだ。

言いたい事が一杯あるのに、咽喉がひりついて声が出ない。

ぼんやりしていると、好乃が兄さんの腕を引っ張って部屋を出ていってしまった。
しばらくしてお茶の用意をして戻ってきて、訳も解らぬまま三人でお茶を飲んでる。

何だろう、これは? わたしは夢でも、悪夢でも見ているのかな?

兄さんの隣に強引に座った好乃は、じりじり距離を詰めて兄さんにくっつくほど
近付いて、兄さんだけを見て兄さんにだけ話しかけている。

「ええと、伊藤さんが来てくれてるから、ちょっと買い物に行って来ようかな!」
好乃の話しを半ば強引に遮って、兄さんがそう言って立ち上がった。
正直、好乃と二人きりになりたくなかったけど、兄さんの困っている顔を見ていると、
嫌だと言えない。
好乃は兄さんに付いて行くと言うだろうけど、兄さんのためには好乃を引き止めないと。
しかし、

「夏月の事、あたしがちゃーんと見てますから、陽太さんはお買い物行って下さい」

予想外の言葉だった。
笑顔でそう言った好乃の顔を、わたしはぽかんと凝視してしまった。

「伊藤さん、お願いします。じゃあ夏月、ちょっと行ってくるから」
「…う、うん」
「すぐ戻るから」
「陽太さーん、早く戻ってきて下さいね~」
「あ、うん…」
心配げな顔で出て行く兄さんに、何とかぎこちない笑顔を返す事が出来たが、
とても心細くて本当は行って欲しくなかった。

ばたんと玄関のドアが閉まった音が、やけにはっきりと耳に届いて微かに身体が震えた。
眼の端で、好乃が紅茶を飲んでいるのが見える。
カップをソーサーに戻した音が響く。

「ねぇ夏月、協力してくれないかなぁ。
 あたしとぉ、陽太さんがぁ、上手くいくように~♪」



128 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/03/02(金) 00:55:08 ID:JAN0JkXr

「……っ!」

嫌、嫌、嫌、嫌! 絶対に、嫌っ!
兄さんが誰かと付き合う手助けなんて、わたしには出来ない。絶対無理。

…でも、そんな事、言えない。
協力するって言わなきゃ、協力出来ない理由を聞かれるだろうし、理由なんて
それこそ絶対に言えない。

「ねぇぇ、夏月ぃ?」
にたり、と好乃が笑い掛けてくる。
どうしよう… どうしたら…

「勿論、協力してくれるよねぇ? あたし達、ト・モ・ダ・チ、だもんねぇ?」
友達… 友達だったら、協力しないと、変、だよね?
でも、でも…

「それともぉ… 夏月にぃ、認められた人じゃないとぉ、だめって事ぉ?」
「違う!」
違う、そうじゃない。認めるとか、認めないとか、そんなんじゃない。
わたしは、わたしは、

わたしは、誰が、兄さんと、付き合うのも、嫌…

「じゃあ、協力ぅ、してくれるよねぇぇ」
にたああ、と好乃が笑う。でも、
「ごめん、好乃… やっぱり無理…」
出来ない。それだけは。

「どぉしてぇ? 何で協力してくれないのぉ? 何で無理なのぉ?」
笑顔のまま、好乃はわたしに詰め寄る。
「えぇと… わたし、そういう事に向いてないって言うか…」
「嘘」
「え?」

「嘘、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘うそうそうそぉ!」
笑顔で吐き捨てる好乃。

「夏月ったら~♪ 嘘ばっかり~♪」

「本当の事~♪ 言ったら~?」

「アンタがぁ、陽太さんの事ぉ、好き、だってぇぇ!」

笑顔のまま、吐き捨てた好乃の言葉に、わたしは凍りついた。



129 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/03/02(金) 00:56:00 ID:JAN0JkXr

「あたしが気付いてないとでも思ったのぉ? あんな顔しておきながらぁ」
あんな顔? 何の事だろう?
「陽太さんに向けるアンタの顔ったらぁ、まるで発情中の雌猫そのものよぉ」
「なっ…!」
何言ってるの? わたしそんな顔してない…
「あらぁ~? アンタ自分で気付いてないワケぇ?
 あんな顔して陽太さんに擦り寄っていながらぁ、自覚ナシってコトぉ~?」

どんな顔だかわたしには解らないけど、好乃が気付いてしまったのなら、
きっと顔に出してしまっていたんだろう。
わたしが兄さんを好きだという事が。

黙るしかなかった。好乃の言った事は当っていたから。

「反論しないのぉ? じゃぁ、認めるってコトねぇ?」

「アンタがぁ、実の兄をぉ、好きだってコトぉぉ!」

黙るわたし。この場での沈黙は、肯定と同じ意味だとしても、黙るしかない。
わたしが兄さんを好きだという事は、事実なのだから。

「はぁぁぁ… 陽太さんもぉ、可哀相よねぇぇ」
「…可哀相?」
突然、芝居掛かった好乃の台詞に、首を傾げる。

「アンタみたいなぁ! 変態のぉ! 妹がいてぇぇぇ!!」

変態…? 可哀相…? 兄さんが…? わたしが…?

「血の繋がった実の妹が兄の事を好きだなんて、変態じゃなくて何だって言うのよ!?
 盛りのついた雌猫なんて例えたけど、猫に失礼よね?
 猫もアンタみたいな変態と、一緒にされちゃあねぇぇ!?」

「アハハハハハハハハハハハハッ!!
 変態変態変態変態変態! このぉ変態ぃぃ!!!」

狂ったように笑う好乃。
わたしを罵り嘲笑う好乃。

やめてやめてやめて…

耳を塞いでいたらしいわたしの手を、間近に迫っていた好乃が痛いくらい強く掴むと、
引き剥がして、また笑う。

「でもぉ、安心していいわよぉ。そんな事ぉ、どーでもいいからぁ♪」
「陽太さんはぁ、あたしとぉ、付き合うからぁ、
 アンタの事なんてぇ、眼中になくなるのよぉぉ♪」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ♪」
塞ぐ事も出来ない私の耳に、好乃の言葉が注がれる。



130 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/03/02(金) 00:56:48 ID:JAN0JkXr

「大丈夫ぅ。もしアンタが変態だって陽太さんにバレたりしてもぉ、
 あたしが陽太さんの事ぉ、慰めてあげるからぁ!」
「貧相なアンタの身体と違ってぇ、このあたしのぉ、カ・ラ・ダ、でぇぇぇ♪」

もう耳を塞ぐ気も起こらず、いつの間にかへたり込んでいたわたしの前で、
くるくると制服の裾を翻しながら回っている好乃。

「アンタさぁ、陽太さんの事思ってぇ、一人エッチしてるんでしょぉ。
 気持ち悪ぅ~い! 本当に変態よねぇぇぇ!」

ぴたりと好乃は回るのを止めると、笑うのも笑顔も止める。
そしてわたしの髪を掴んで、無理矢理顔を上げさせられた。

「ねぇ、アンタ、実の兄に欲情するなんて、汚いと思わない?」

…きた、ない? 汚い? わたし、汚い…

「陽太さんが、汚れるじゃない。穢らわしいッ!!」

汚れる? 兄さんが、汚れる? わたしが、わたしが…


がちゃん…

「あ! 陽太さんがぁ、戻ってきたぁ♪」
途端に笑顔になって立ち上がると、好乃は歌う様に叫びながら玄関に駆けていった。

「ただいま、夏月…… 夏月? どうしたの? 夏月!?」
兄さんの声が、する。近いような遠いような。
近い訳ないよね。だってわたしと兄さんは違うもの。

兄さんは、綺麗。わたしは、汚い。

「夏月!? 夏月!?」

だめだよ、兄さん。わたしに触ると、兄さんが汚れちゃう。

「陽太さぁん、夏月なんかほっといてぇ、あたしと…」
「五月蠅いな、お前、帰れ」

好乃の声と東尉君の声だ。東尉君いつ来たのかな?

「前園君には関係ないでしょ?」
「お前が一番関係ない。いいから帰れ!」
「…伊藤さん、帰ってくれない」

あ、好乃が部屋を出ていく…

兄さんと東尉君の声が、段々遠く遠くなっていく…

でも、笑い声が、好乃の嗤う声が、ずっと耳の奥で、響いてるよ…


-続-