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904 :埋めネタ~ヤンデレ家族~ [sage] :2007/09/24(月) 23:07:02 ID:44vDg8Ym
 俺の家には5人が同時に暮らしている。そして俺以外の4人全員が何かしらおかしい。
 まず、父と母。実の両親である。
 俺にとっては両親であるが、実を言うとこの2人はただの夫婦じゃない。
 別に父親がヒーローだとか、母親が裏世界のドンだとかいう意味ではない。
 もうちょっとレベルの低い意味でただの夫婦ではない。
 別の言い方をするならばベクトルが違うとでも言うのだろうか。
 
 俺の父と母は、兄妹だ。

 嘘ではない。どうしようもなく、本当のことである。
 なにせ、両親の母――俺にとっては祖母である――から聞かされた話だ。
 祖母はまだ50代である。まだ呆けていない。会社にだって務めている。
 俺自身、祖母の言ったことを全く疑っていない。
 俺が、兄妹で子供を作ったというにわかには信じがたい話をなぜ疑わないかというと、
たった今、壁一枚隔てた向こう側から、それを証明する声が聞こえてくるからである。

「おにいちゃあん! いいよっ! イイよぉっ!」
 この声は母の声だ。実の息子である俺が言うのだから間違いない。
 ちなみに母の年齢は……怖くて未だに聞けていないが、父の年齢が36歳ということから考えて、
30代前半だと考えられる。
 俺は現在17歳。となると、母は少なくとも18の頃には俺を産んでいたと言うことになる。
 なんということであろうか。
 兄妹で子供を作ったというだけでもトンデモ話だというのに、このうえ10代で出産していたとは。
 その事実を知ったときにはさすがに自分の耳、もしくは脳が損傷していないかを疑った。

「――っく、イクぅっ! あ、ああああああっ! いっぱい出てるうぅぅっ!!」
 ……ふむ。
 改めて考えてみると子供が起きているというのに、隣室でまぐわっている夫婦の
片割れである母(父の妹)が嬌声をあげているというのも変な話である。
 そして、30代子持ちで『おにいちゃん』と言う母の精神年齢の低さも異常である。
 俺は母の嬌声なんぞ聞きたくもないし、聞いても全く嬉しくない。
 人間の耳に、聞きたくない音声をシャットダウンできる機能があればいいのに、と俺は切に願う。
 母にセックスするのをやめてくれ、もしくは回数を減らしてくれ、と頼むことはできない。
 以前さりげなくそう言ってみたら、「私とおに――お父さんのスキンシップを邪魔するの?」と言いつつ、
母が俺の首に手を伸ばしてきた。
 その場は父がおさめてくれたが、もし父が居なかったらと思うとぞっとする。
 本人に言っても無駄なら、それこそどうしようもない。
 俺は夜ごとにひたすら頭のおかしい母と、父のまぐわう声を聞き続けなければいけないのだ。
 これからもずっと。

 父と母の話はこれぐらいにしよう。この家に住んでいるもう2人の話をする。 
 その2人というのは、俺の弟と妹だ。弟は1つ下、妹は2つ下。
 弟は俺のことを慕ってくれる。あまり学校の成績がよくない弟はテストの度に俺を頼ってくる。
 そこそこ勉強ができる俺は同じ高校に通う弟の勉強をよく見ている。
 その際、弟の勉強を見ている俺を、妹が後ろから見つめてくる。
 これが2つ離れた俺の尊敬の眼差しであれば嬉しいのであるが、そうではない。
 妹は俺を睨んでいるのだ。それも血走って濁った目で見てくるのだ。
 その瞳に何が篭っているのかなど、考えるまでもない。
 俺に対する、憎悪である。
 妹は、弟を独占する俺を射殺さんばかりに憎んでいる。
 とは言っても、それは勉強を見ているときだけのことである。
 勉強が終わってしまえば妹は弟にすぐさま飛びついて甘える。見ていて微笑ましくなるほど、激しく甘える。
 妹のデフォルトは、弟にくっついている状態なのである。
 長男としては少しばかり悲しくもある。だが妹の興味が弟に全ていくならそれでもいい、とも思う。



905 :埋めネタ~ヤンデレ家族~ [sage] :2007/09/24(月) 23:08:13 ID:44vDg8Ym
 その理由には、俺の趣味が関係している。
 俺の趣味はプラモデルを作ることだ。そのため、部屋に立ち入ってもらったら困るのである。
 せっかく上手く塗装できたプラモデルに指紋などつけられては大変なことになる。
 具体的には飯も食えなくなるほどに俺がへこむ。
 しかし、母は父の部屋にしか入らないし、妹は弟の部屋にしか入らない。
 俺の部屋に入る人間は、俺以外にいないのである。
 たまに父や弟が入ってくることもあるが、俺が部屋にいる時に限るのでいたずらされる心配がない。

 というわけで、今の俺は明日学校があるにも関わらず、小言を言われずにプラモデルに色など塗れるわけだ。
 ああ、なんという幸福な生活であろうか。
 同居人の誰にも邪魔されずに趣味に没頭できる。趣味に生きる人間にとってこれ以上の幸せがあるだろうか?
 いや――ない。
 たとえ寂しい人間と言われようと、今の俺は幸せだ。
 それは父と弟という人身御供のおかげであるのだが、とにかく俺は幸せだ。
 今は幸せなら、それでいい。たとえ、これからは幸せでいられないとしても。

* * * * *

 朝になった。
 俺は部屋の隅に畳んだまま置かれている布団に身を預けるようにして眠っていた。
 夏というのはありがたい。寝るときに布団を敷かなくても風邪を引かないからだ。
 立ち上がり、学生服に着替え、部屋を出て、洗面所へ向かう。
 顔を洗い、少しばかり寝癖のついていた髪を水のついた手で撫でる。
 それで寝癖が直るわけではないのだが、一応やっておく。

 洗面所の次に行くところはリビングだ。
 リビングの入り口の扉を開けると、朝食の匂いがした。
 リビングのテーブルにはこの家の同居人である四人がすでに食事を始めていた。
 母と、母にあーんをされている父。妹と、妹にあーんをされている弟。 
 二組はテーブルを挟んで向かい合って座っていた。
 ちなみにテーブルに備え付けてある椅子は四脚。全ての席は既に埋まっている。
 俺の席は当然無い。朝食も当然用意されていない。
 こめかみを押さえて目を閉じる。そして自分に向けて暗示をかける。
 ――これはいつも通りの光景だ。今日もいつも通りで安心した。
 ――いきなり俺の朝食が用意されていたら、どうリアクションをとればいいかわからない。
 ――だからこれでいいのだ。
 ……よし、暗示終了。

 キッチンに入り、冷蔵庫の中を開ける。
 買い置きのプリンがまだあった。これと、あとはトーストを焼いて食べるとしよう。
 キッチンに置いてある小型の椅子に座り、焼いたトーストにマーガリンを塗り、食す。
 冷蔵庫に背を預けてよりかかり、もくもくと咀嚼しながらテーブル席についている四人を観察する。
「あなた、どう? 今日のお味噌汁」
「ん……まあまあ、かな」
「え? まあ、まあ?」
「はっ! 違う違う。うん、サイコーだよ。やっぱりお前を嫁にもらって成功だったよ」
 父が歯の浮くような台詞を言いながら母の頭を撫でた。
 母はにこにこ笑いながら父に体をすり寄せる。
 見ている方が恥ずかしくなるバカップル、じゃなくおしどり夫婦、もとい仲のよい兄妹ぶりである。



906 :埋めネタ~ヤンデレ家族~ [sage] :2007/09/24(月) 23:09:43 ID:44vDg8Ym
 さて、もう一組、こちらは弟と妹の組み合わせである。
「お兄ちゃん。あーん」
「……あーん」
 妹が差し出した卵焼きが弟の口の中に入った。弟はもぐもぐと顎を動かす。
「うん……ちょっとしょっぱいけどおいしい」
「ホント!? じゃあ、もっとしょっぱくしても大丈夫?」
「いや、気持ち塩を少なめにしてもらえるともっと美味しくなると思う」
「そう? お兄ちゃんはその方がいい?」
「うん」
「わかった。明日からはそうするね。もう一つどうぞ。あーーん」
 こちらも両親に負けず劣らずの仲の良さを見せつけてくれる。
 これが兄妹同士でなければ兄としては安心できるのであるが……今となってはどうしようもあるまい。
 言うだけ無駄だ。よって何も言わないことにする。

 四人を見ていて、いつも思うことがある。
 父と母。弟と妹。四人はまったくそっくりである。
 兄妹という構図もそっくりであるが、その容姿すらもそっくりなのだ。
 父と弟はほぼ同じ顔だ。母と妹だってそうだ。
 このままいけば、いずれ弟と妹は、両親と同じ道を辿るのではないだろうか。
 ありえない、と言えないところが恐ろしい。
 実際に妹の行動は、兄妹は仲良くしなければならない、で説明できる行動の範疇を超えている。
 高校一年生と中学三年生の兄妹といえば、とっくに兄妹離れしている年齢である。
 それだというのに妹は弟にくっついたまま離れようとしない。
 これはブラコンの一言で片付けていいものなのであろうか。
 俺の本能は否、と言っている。このままではいけない、と言っている。
 だが、同時に本能が告げるのだ。妹の邪魔をすべきではない、無理矢理に弟と妹を引き裂けば俺の身に危険が及ぶ、と。
 弟のテスト勉強を見ているわずかな時間でさえ俺に譲ろうとしない妹を見ていると、その警告にも納得ができる。
 弟と妹にまっとうな人生を歩んで欲しいと俺は願う。両親のように歪んだ夫婦にしてはいけない。
 そうは思うものの、我が身かわいさ故にどうしても2人を放っておくしかできない。
 だが、いつか弟と妹が両親のように道を踏み外そうとしたら、その時は止めようと思っている。
 それが兄としてできる精一杯のことである。

 朝食を食べ終えた後、食器を片付けていると電話機が電子音を発した。
 リビングに視線を向ける。ピンク色の空間に居る両親と弟と妹はベタベタくっついたままで、電話をとろうとはしない。
 もちろんそれはいつものことである。朝食の時間に電話がかかってきた際に応対するのは俺の役目なのである。
 いつからそうなったのかはわからない。
 もしかしたら自分から望んでそうするようになったのかもしれないが、とうに忘れてしまった。
 廊下に出て、受話器をとって耳にあてる。
「もしもし」
「あ、お兄ちゃんの方かな? 元気?」
 電話の相手は祖母であった。
 祖母と言うには若々しい声である。還暦を迎えていないので、おかしいとは思わない。
「うん。元気だよ。どうかしたの、こんな朝から」
「今日は誕生日だったでしょう。だから電話をしておこうと思ってね」
 壁に貼ってあるカレンダーを見る。確かに今日は俺の誕生日であった。すっかり忘れていた。
「ありがとう、お婆ちゃん」
「もしかしたら、まだお兄ちゃんにお祝いしてくれないんじゃないかと心配になったんだけど。
 どう? むす――じゃなくてお父さんとお母さんにおめでとうって言われた?」
「うん。それに、今日は朝から大好きなフレンチトーストを作ってもらったから」
「……そう、よかったね」
「うん」



907 :埋めネタ~ヤンデレ家族~ [sage] :2007/09/24(月) 23:14:10 ID:44vDg8Ym
 ちくり、と胸が痛んだ。俺は祖母を騙している。朝食は自分で作って食べていたのだから。
 けれど、ああ言わざるを得ないのである。
 祖母は実の息子と娘が肉体関係を結んでしまったことで、心に傷を負ってしまっているのである。
 盆や正月、親類の結婚式の時や法事の際に再会した祖母の顔は若々しくもあったが、同時に深い哀しみも湛えていた。
 そんな祖母に、心配させるようなことを言えるわけがない。
 もしかしたら祖母は俺の偽善――真実を伝えられないという思い――を見抜いているのかもしれない。
 それでも、俺にはこうするしかないのだ。なるべく心配をさせないよう、演技をしていくしか道はない。

「弟くんと妹ちゃんは元気?」
「元気がありあまって、こっちが参るくらいだよ」
「……仲が良すぎたりはしていない? たとえば妹ちゃんが弟くんと一緒にお風呂に入ろうとしたりとか」
「ううん。ちゃんと別々に入っているよ」
 これも嘘である。弟と妹は一緒の風呂に入っているし、さらに妹は弟に髪を拭いてもらっている。
 祖母がこんなことを聞いてくるのは、前例があるからである。
 祖母の息子と娘、つまり俺の両親のことであるが、2人が肉体関係を結んでいたことに、祖母は気づけていなかった。
 その苦い思いが、二度と同じ過ちは繰り返したくないという思いが、孫へと向けられているのだろう。
 だが安心して欲しい。弟と妹がもし過ちを犯しそうになったら、俺が止めるから。

「お兄ちゃんは、どう? 怪我とかしてない?」
「心配性だね。どこも怪我なんかしてないよ」
「無理はしないでね。……あの人も、昔……」
 俺は、祖母の声を遮るように声を出した。
「あ、ごめん。もうすぐ学校に行かなくちゃいけないから。また、帰ったら電話するから」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい……」
 祖母の言葉を聞き終えてから、受話器を置く。
 祖母が言っていたあの人。それは祖母の夫、俺にとっては祖父に当たる人のことだ。
 俺は祖父に会ったことが一度もない。俺が生まれたときには、すでに祖父は帰らぬ人になっていた。
 俺はそのことを、幼い頃は別におかしいことだと思っていなかった。祖父を早くに亡くしている人はこの世に大勢いる。
 祖父の死に疑念を抱き始めたのは、数年前のお盆のことだった。
 久しぶりに祖母の家に遊びに来た親戚が、俺に向けてこう言ったのである。
『あら、おじいちゃんにそっくりね』
 その場に居合わせた母は、俺の顔を掴みながら睨み付けるように目を剥いた。
 祖父の死に疑いを持ち始めたのは、それからである。
 もしかしたら、祖父は両親の関係を引き裂こうとして、母に殺されたのではないかと。
 母が恨みを込めた目で俺を見たのは、祖父が再び目の前に現れた、と考えたからではないだろうか。
 一度考えると、全てを疑わずには居られなかった。俺は祖母に内緒で、祖父の死について調べ始めた。
 祖父が死んだのが、俺の生まれる10ヶ月前であること。
 祖父の死因は、病死でも事故死でもないこと。――祖父は通り魔に遭い、殺されたということ。
 それらを知る頃には、俺はすっかり母への疑いを強くし、祖母を頼るようになった。
 そして、俺は母を避けはじめ、間もなくして母から避けられるようになった。
 プラモデルを趣味にし始めたのも、母がシンナー系の匂いを苦手にしていると祖母に聞いてからだ。
 この家で、俺と母は見えない戦いを繰り広げているのだ。
 
「兄さん、電話誰から?」
 リビングの扉を開けて、弟が廊下に現れた。左腕には妹がくっついている。
「お婆ちゃんからだ。元気にしてるか、って聞かれたから、元気だっていっておいた。お前達の分も」
「そうなんだ。ありがと」
「ありがと、お兄さん」
 妹は俺をお兄さんと呼び、弟をお兄ちゃんと呼ぶ。お兄さんと呼ぶときのニュアンスが暗いのは毎度のことである。
「さて、そろそろ行かないと遅刻するな。先に行っているぞ、弟よ」
「ああ、兄さん待って」
 玄関に置いたままの学生鞄を掴み、靴を履いて玄関から出る。

 ――うむ。今日も朝日が眩しい。快晴だ。