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165 :51 [sage] :2007/03/04(日) 01:23:36 ID:XnlPB2so
鬼葬譚 第二章 『篭女の社』

さいしょのおはなし
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長きにわたる戦国の世も終わり、太平の時代になって早数十年。
その、長きに渡る平和な時代は、人々に平穏をもたらすと同時に、
その心根の根底に、怠惰と拭えぬ悪意を植えつけていく事になる。




青い空、流れる雲、さらさらと心地よい初夏のそよ風。
「平和ねぇ…」
あたしは境内の掃除の手を止め、はふ、と小さくため息をつく。
そして、境内から伸びる階段の下に広がる城下町を見下ろしながら大きくのびをした。
今日も良い天気だ。
あたしは昼下がりの心地よさに小さく微笑むと、境内の掃除を再開する。
それは、当たり前の一日の日のこと。

あたしの名前は、紗代(さよ)。
とある地方藩の城下町の近郊に居を構える小さな神社の神主である父の
娘であると同時に、この神社で巫女をしている。
先日ようやっと17になったばかりだ。
この年頃の娘といえば、総じて色々と誘惑も多いところではあるが…
巫女という仕事柄もあり、年頃の娘らしい生活とは少々無縁な生活を送っている。

「さてと、これで掃除はおしまいかな」

あたしは箒を納戸に片付けると、授与所へと急ぐ。
今日は御守りの奉製をしなくてはならない。



166 :51 [sage] :2007/03/04(日) 01:24:25 ID:XnlPB2so
「…失礼いたします」

あたしが授与所へ入ると、そこには宮司様…あたしの父が、護符を書き上げているところだった。

「ああ、お掃除ご苦労様。こちらも丁度終わるところだよ」

宮司様は手にした筆を置くと、あたしに向かって微笑みかける。
あたしは、父の笑顔が好きだ。
幼い頃に母を亡くしたあたしにとって、父は唯一の肉親になる。
そのためか、父は母親に良く似ているというあたしを愛してくれたし、
あたしもまた宮司として、同時に父親として尊敬の念を抱いていた。

「すまないね。用意はもう出来ているから、後は仕上げをよろしく頼むよ」

そう言って立ち上がると、宮司様は本殿へと午後のご祈祷をあげに行かれる。
あたしはその後姿に一礼をすると、まずはぱしりと自分の頬を叩いて気合を入れなおした。
そして、宮司様の書かれた護符を丁寧に折りたたみ、一つ一つ丁寧に御守り袋へ詰めていく。
その一折に気を張り、念を篭めて袋に詰め、この御守りを持って行く人達の事を思った。
そうやって暫くした頃だろうか。
おおよそほとんどの御守りを仕上げ終わり、ほう、と一つため息をついていた時。

「「「おーねーちゃん、あーそびーましょー!」」」

外から聞こえてくる子供達の声。
あれ、もうそんな時間か。

「はーあーいー」

あたしは、手を止めて外の声に答える。
授与所の戸を開けると、外にはいつもの見慣れた3人の子の顔が並んでいた。


167 :51 [sage] :2007/03/04(日) 01:25:23 ID:XnlPB2so
この子達は大体いつもこの時間、私が暇になってくる頃合を見計らってこの神社にやってくる。

「紗代おねーちゃん、今日は何して遊ぶー?」
「俺、鬼ごっこがいい!」
「昨日も鬼ごっこだったじゃんー今日は違うのにしようよー」
「鬼ごっこがいいー!」
「やだー!」
「はいはい、ケンカしない! ケンカしてると遊んであげないよ?」

口々に勝手なことを喋っている子供達に苦笑すると、あたしは三人の頭を撫ぜながら嗜める。
これも、あたしの日課の一つのようなものである。
最初は、神社の境内で遊ぶ子供達が怪我をしたり、物を壊したりしないように監視するのが
目的だったのだが…今となっては、私もちょうどいい息抜きにさせてもらっている。
結局、この日は鬼ごっこを遊ぼうとしていた子が折れる形で、かごめかごめで遊ぶことになった。

「じゃ、まずおねえちゃんが鬼ね!」

子供達が、笑いながらあたしの回りをぐるりと取り囲む。

「うっふっふ、絶対負けないからねー?」

あたしはにやりと笑いながらその場にしゃがみこんで顔を伏せる。
それを確認すると同時に、子供達の歌声が境内に響き渡った。

-かごめ かごめ-
-かごのなかの とりは-
-よあけの ばんに つるとかめが すべった-
-うしろのしょうめん だーれ?-

歌声がやむ。
あたしの背後に立つ誰かの気配。周囲の、笑いを堪えるような、楽しげな気配。

「あたしの後ろにいるのは…」

この気配は…あたしは良く知っている。


168 :51 [sage] :2007/03/04(日) 01:26:32 ID:XnlPB2so
「儀介! あんたでしょ!」
「げ、何でわかるかな、気配殺してたのに」

聞こえてくる青年の声。
立ち上がり、顔をあげるあたしの目に映る皮肉げな笑みを浮かべた青年…
こいつは、儀介(ぎすけ)。
あたしの幼馴染で、元服したにもかかわらず、嫁を娶るわけでもなく、
城下町にある長屋でその日暮らしをしている。
あたしとは…まあ、腐れ縁という奴だ。

「紗代ねーちゃんすげー」
「よーくわかったねー! 黙ってたのに!」

口々に褒め称える子供達に、あたしは少し胸を張って見せた。

「いやー、しかしなんだ、ガキンチョどもの子守も大変だぁね。
 神社の仕事もこなしながら、てんだから、いやーホント頭が下がるね」

儀介はそういっていつもの皮肉げな笑みを浮かべて、子供の一人の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
あたしは、そんな儀介の姿に小さくため息をつく。

「むしろ、あたしはあんたのその気の抜けっぷりのほうを注意したいところ。
 大体その年になったんだからそろそろしっかりと足場、固めるべきじゃないの?」

私の苦言にあいたたたと苦笑しながら、儀介は髪をかき上げふっと伊達男を気取って見せた。

「いやいやいや、才気溢れる俺様の器は安っぽい人生に埋もれさせてはいけないと思うのだな。
 もっと俺様に見合う生き方っていうの? そういうのがあるわけだ、うん」

あたしは儀介の言葉を聞きながら、こめかみに指を押し当てる。

「で、あんたに見合う生き方てのはこの際置いておくとして。今日は一体何の用事?」

儀介は、私の言葉に待ってましたとばかりに擦り寄ってきた。


169 :51 [sage] :2007/03/04(日) 01:29:16 ID:XnlPB2so
「いやーその、なんだ。 ちょっと今懐が厳しくってさぁ…。
 悪ぃ、明後日には返すからちょっと金貸してくんない?」

両手を合わせ、拝むような仕草をとる儀介。
…この男は…。
あたしは、あんまりにもあんまりなこの男の発言に本気で頭痛を覚える。

「うん、わかったー…って言うと思ったかこンの甲斐性なしッ!」

ぱちこーんと小気味良い音を立てて私の張り手が儀介の頬を捉えた。
すっとぶ儀介。

「い、いきなりひっぱたくことないじゃないかよ!」

非難の声をあげる儀介。
そんな儀介にあたしは腰に手を当てながら叫ぶ。

「あたしが 『引っぱたく』と心の中でそう思ったなら!その時すでに行動は終わってるのよ!」
「まて、何だその遠い将来に義兄弟のアニキが言い出しそうな発言はッ!」
「問答無用ッ!みんな、儀介が鬼よ、みんなでやっつけちゃいなさーい!」
「「「はーーい!」」」
「待て、ガキんちょ使うのはお前そりゃ反則だろ! 痛ェ! 石投げるな!」

子供達に追いかけられ、逃げ惑う儀介。
その様を見て、あたしは堪えきれずに笑った。
子供達も笑っていた。儀介も笑っていた。


きっと、明日も、明後日も、明々後日も、この平和な日々が続くのだと。
あたしは、それを当たり前のように信じていた。
この時は、まだ。


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